最後にバレンタイン的なおまけもつけてみましたのでどうぞご覧下さい
ハナダの岬を目指すため、ミズキは荷物とシークを抱えながら岬へと向かう桟橋の手前まで足を運んでいた……のだが、
「さあミズキ! 勝負よ勝負よ! 今度こそ負けないんだから!」
「……間の悪い女」
「な、なんですってぇ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる幼馴染の額を腕で抑えつけながらミズキはあからさまな落胆の声を上げる。むきーとオコリザルのように叫びこちらに向かってこようとする幼馴染をたしなめている周りの萌えもんたちに悪いのでからかうのはここまでにしておく。
「……こんなところで何やってんだよ、ブルー」
「もちろん。あんたを待ってたのよ! さあミズキ、つべこべ言わずに勝負なさーい!」
「断る、いくぞフレイド」
「勝負は公式戦の三対さ……ってこらーーーーー! 無視すんなーーーーー!」
ああやべ、またからかっちった。反応がいいからついつい遊んでしまう。
「主、お前のこれか?」
横のフレイドが中指を立てる。こらこらそれは間違ってるぞ。
「っていうかお前結構そういう話題好きな」
「だ、だ、誰がミズキの彼女なんか、い、いい加減にしなさいよ!」
ブルーが顔を真っ赤にして答える。久しぶりにかわいい人間を見た気がする。
「ちょっとブルー。せっかくまってたっていうのに話が進まないじゃないのよ」
「ブルー……短気」
「ケッ。前にぼこぼこに負けてからというもの再戦するってここ何週間かずっと騒いでたからな」
「うるさいうるさいうるさーーーーい!」
こっちのセリフだ。めちゃうるさい。
しかし全体的に行動はギャグっぽいものの周りの萌えもんたちに目を通すとなかなかいい面構えのパーティに仕上がっていた。
ミズキが最初に目を止めたのは見覚えのある水色の体躯により高度の上がったであろう甲羅を背負う元友達、
「よお、ビジュアル面もさることながら、体もなかなか大きくなっていい肉のつき方してるじゃねえか。レベルにしたら18、19ってところか? 成長したな、ゼニガメ」
「さすがになかなかいい目してるわね、でももうゼニガメじゃないわ。カメールよ。そういうミズキこそ、相変わらず突拍子もないことしてるみたいじゃない」
ゼニガメから進化したかめ萌えもん、カメールは顔に青あざを作るミズキとその隣のこれまた傷だらけなフレイドを見比べてくすくすとした笑いをもらす。
「あなたたちでしょう? 朝っぱらから大暴れした人間と萌えもんのペアっていうのは。今ハナダの噂を独占してるわよ。あなたたち二人」
「げっ、マジか」
「……そりゃああれだけ暴れればそうなるのも無理ないと思うがな」
「あんたも暴れた張本人じゃないのかよ」
そういいながら脇にいたブルーの萌えもんの二匹目、最初に対戦した時にもいた、オニスズメが会話に割り込んでくる。
「よう、オニスズメ。お前も久しぶりだな。どうだ、ブルーを運べるようになったか?」
「……定期的にやらされるんだけどな、“そらをとぶ”を覚えてなきゃできるものもできねえさ」
「苦労してるねえ、お前さんも」
まるで人生を達観した居酒屋のオヤジどものような会話に周りにいる萌えもんたちがおもわず笑う。そんな周りの目線を無視してミズキは最後の一人に話しかける。
「お前は前回のバトルでお目にかかることはなかったな。俺はミズキ、こいつがシーク、そんでもってこっちにいるのがフレイドだ、よろしく」
ひょい、ひょい、ひょいと人差し指を動かしながら自分の周りにいる仲間たちを紹介していく。最後に指を刺されたフレイドは自分に向けられた指をペッとはらって軽く体裁を整える。
「お初にお目にかかるブルー殿にそのお連れ。わっちは主に命を授かり任せるもの、種はガーディ、名をフレイドと申し上げる。以後よろしく」
半足を引き、右腕を胸の下につけ、左腕を背中にしまう、というどこぞの貴族に遣える執事のようなポージングを取りながら挨拶、と思わしき言動をとる。
今朝からずっと思っていたことだがこいつちょこちょこ人間の一般常識を勘違いして覚えてないか?
さてそんな挨拶をうけた張本人たちはというと、
ブルーはほほをひきつらせ、
カメールはきょとんとした顔で、
オニスズメは目を見開いていた。
まあそうなるだろうなぁ。今の自分もブルーたちから見れば大して変わらない表情をしていることだろう。
「……しゅはミニリュウ。おなまえはりゅーちゃん。おんなのこです。どぞよろしく」
ただ一人、初めて見るふわふわとした雰囲気の全体的に青い体躯に青いスカート、ポニーテールの女の子、ミニリュウだけがまったりとその挨拶に反応した。
どうやらフレイドに倣って自己紹介のお返しをしようとしたらしいのだがどうにもその笑顔から出るほのぼの感が言葉と合わない上に、手や足の動きが行動にうまく合わず……その、なんというか……『シェー』みたいなポーズになってる……。
「……違うぞりゅう殿。逆手はこう、そして利き腕は動きに合わせてだな……」
「……むぅ。なかなか難しきこと……」
なんか講義が始まっちゃった。まあいいか、楽しそうだし。
「……とりあえずしばらく放っておくか。お前ら、ケーキ食べる? 昼間の残りだけど」
「ミズキが作った料理なんて久しぶりね。頂くわ、コーヒーもお願いね」
「はいはい、デンリュウ印の電撃コーヒーな」
「わかってるう」
そう言いながらカメールは肘で脇腹をつつく。懐かしい雰囲気に顔をほころばせる。
「食う食う! もう俺疲れたんだよ」
「あいよ。じゃあテーブル立てるからお前も手伝え。オニスズメ」
「ほいほーい」
そういいながら道のわきでティータイムの準備を始める一同。
……そういえばなんか今日食ってばっかりのような……
……気のせいか。
「てか私を無視すんなっつてんだろーがーーーーーー!!」
……すっかり気分はお気楽モードの他の面々の心にブルーの叫びが届くことはなかった。
「んー。おいし。そういえばミズキ、スーちゃんはどうしたのよ? 逃がしちゃったの?」
「いいや、ちゃんといるさ。今は体調が悪いみたいだけどな」
テーブルにスー入りのボールを置く。それとミズキの顔を交互に見ながらコーヒーをすする。
「……喧嘩でもしたの?」
「キレあうだけの喧嘩で収まってくれりゃあこの上なく楽な案件なんだけどねぇ……なあ、フレイド?」
「同意見だな。まったく女というものは度し難い」
冗談交じりに二人は言う。カメールのゼニちゃんとその隣に座るふてくされた顔のブルーは何を言っているのかわからないという表情で軽く笑っている二人を見る。
「……ねぇねぇししょー。どういう意味?」
「……りゅう殿も修行して強くなればいずれ言っていることがわかってくるさ」
「……わかった。強くなる」
小さな手でしゅっ、しゅっ、しゅっとシャドウボクシングの真似事をしながらフレイドの膝の上にいるミニリュウのりゅうちゃんが答える。
「ずいぶんなつかれたな」
「わっちはこんなつもりじゃなかったのだが……」
「あんた、ブルーよりりゅうになつかれてるかもな。ブルーは捕まえるときに必要以上にぼろぼろにしてからというものずっとりゅうにビビられたまんまなんだ」
テーブルの上に乗っかりながら一心不乱にケーキを食べながらオニスズメのおにぽん君がばかにしたようにつぶやく。
「……ふんっ!」
「ああ! 俺の分のケーキ! ブルー、お前何しやがる!」
「じぶんの“おや”を敬わないからそういうことになるのよ! ミズキの萌えもんを見習いなさい!」
「なにい! そんなこと言うならミズキのだんなみてえに敬われるようなマスターになってみやがれ!」
「なんですってぇ!!!」
二人そろって立ち上がりテーブルのわきでどたばたとけんかを始める。手元のシークが埃が付かないように自分のおやつをすっと遠ざけたのがちょっと面白かった。
「楽しい旅をしてるみたいだな」
「……おにぽんもあれはあれでブルーのことを信頼してるんだけどね。ちゃんと指示には従うし」
「わかるさ。お前らはいいパーティだ」
ほほを引っ張り合っている二人を見ながらミズキは自分のコーヒーをすする。
しびれるほどまろやかな味が鼻を突きぬけた。
「で? お前らなんでこんなところで立ち往生してたんだよ? まさか本当に俺たちを待ってたわけじゃねえだろ」
砂糖とミルクをたっぷりいれたコーヒーをスプーンでかき混ぜ小指で味を確認しながらゼニに質問をする。ちなみにこのコーヒー、というよりカフェオレ、はもちろん自分用ではない。シーク用だ。
「まあ半分くらいは本当にそうよ。実は昨日からちょっと事情会ってハナダはおつきみやまから入ってきた人が町を出る事が出来ない隔離の町になっちゃったみたいなの。それでやることもなくなっちゃったから情報収集してたらミズキたちと思わしき噂を聞いたからここで待ってたってわけ」
「隔離? おいおい、確かにハナダはアクセス方法がちょっと特殊な街だが出入りが出来ねえってことはねえだろうよ」
作ったカフェオレをシークにわたし、いったん別の席に座らせて戻ってきたミズキが聞く。
「主、アクセス方法が特殊というのはどういうことだ?」
ミズキと同じようにカフェオレを作り、りゅうにそれを渡して別の場所、というかシークの隣、に座らせて戻ってきたフレイドがテーブルの下からちょこんと顔をだしミズキに質問する。
いったんフレイドを持ち上げ元の席に戻そうと立ち上がったミズキの視界に自分たちがいるテーブルのわきの小さなベンチで二人並んで両手で紙コップを持ちながら熱々のカフェオレを恐る恐る飲むシークとりゅうの姿が映った。
「ヒマワリの種をかじるハムスターを見続ける飼い主の気分」
「? 何の話だ」
「いや、何でも」
フレイドを椅子に座らせなおしてからようやく再びゼニへと向き直る。
「……ひみつきち用のちいさなイスでも買ってきたら? 萌えもん用に」
「ほぼ同じことを考えてた。で、フレイド、なんだっけ?」
「アクセスが特殊な街とはどういう意味だといった」
「ああ、そうだったな」
そういいながらミズキは右肩越しに親指を自分の後方へと向ける。
「後ろの馬鹿でかい建物が見えるか?」
そうミズキが言うとフレイドは不安定ながら椅子の上に立ち右手を額あたりにあてて見通す。
「……ああ、見えるな。なんだあれは。萌えもんジムとかいうやつか?」
「残念ながら違う。ハナダのジムはもっと町の中心の方にあるさ。あれは家だ。ただの民家だよ」
「民家!? あれが民家だと!? いったい何人住むためにあんなでかさが必要なのだ!」
「……だよなぁ」
ため息交じりに軽く笑う。まったくえらい事するやつがいるものだとあの家が建ったことがニュースとなった当時のことを思い出す。
「おつきみやまからハナダシティに到着した俺たちみたいなトレーナーが次の町を目指すためには東側の広い道路を通ってクチバシティを目指すかイワヤマトンネルの登山を目指すかっていうのが王道のルートだったんだ。だが、少し昔にハナダ出身の大富豪が旅を終えてこの町に戻ってきて、川沿いの景色が美しいとか何とかであそこにでかい家を建てたいと町のお偉いさんにごねだしやがってな」
まさかそんな話が通るはずもないとだれもが思い一定期間その一家に対する否定批判の嵐だったのだが、あくる日の朝刊にそれまでのニュースがなかったかのように『斬新』だの、『個性的』だの記事が出ていて、ほとんど外の町を知らない子供のミズキですら目を丸くしたのを覚えている。そして金持ちは何でもできるのだと小さいながらに悟ったのだった。
「それで買収された町の役人たちがその馬鹿どもに出す事が出来た唯一の条件っつーのが『庭を一般の通行人に開放する事』ていうものだった。そうしてこの町は唯一無二の町外へのルートに家が建ってるっていう間抜けな街になったってわけだ」
「……人間社会も奥が深いのだな」
フレイドが呆けた顔で言う。そんな深い話じゃない。人はだいたいおろかしいってだけの話だ。
「で? まさかその馬鹿富豪たちがとうせんぼうしてるってことじゃねえだろうな?」
「違うわ。今回ばっかりは一応その馬鹿富豪たちも被害者よ」
「被害者? 何のことだ?」
「かわいそうに、あのいえ、どろぼうにはいられたんですって。はんにんもわかっているわ。R団のしわざよ」
「ふーん」
「……なるほど」
事情を知るものからすればわざとらしいほどれいせいに、二人は手元の紙コップを口につける。
「最近はそいつらの活動も増えてきたらしくてね。けいさつもやつらのあくじにはほとほとこまってるんですって。その家をくまなく調べてるんだけど盗まれたもの以外はほとんどいつもと変わってないとかで、その犯人をハナダから出さないようにするためにそこの家の庭が今通行禁止になってるのよ。確か盗まれたのはその家の主人が作ったわざマシンとか言ってたかしら」
「……なるほどねえ」
「……迷惑な話だなぁ」
ほぼ同時に紙コップをテーブルに置いて二人がつぶやく。二人のコップに歯形がしっかり残っていたのはゼニは気のせいだと思うことにした。
「さあ、どうする主」
「泥棒さんをとっ捕まえて情報を吐かせるところまでできたら理想だな」
ブルーたちと別れた後、三人は当初の予定通りハナダの岬を目指すため、ゴールデンボールブリッジへと足を運んでいた。
「ゴールデンボールブリッジ……金た」
「いうな」
左手を振り下ろし軽くチョップを入れる。
……唯一の♀であるスーが出てなくて良かったかもしれない。
「いてっ……しかしなぜこっちへ来る? 町で起こった問題なのだからまずは町を探索するのが筋なのではないか?」
「確かにな。だがそれで見つかるならハナダの警察がもう見つけているはずだろう。当初の目的をこなすという意味でも、俺たちはまずは岬を目指す」
それに、と言葉をつなげ、
「ちょっと気になることがある」
「気になること? さっきの話でか」
「ああ、さっきカメールからもらった情報にだ」
フレイドは歩きながら腕を組んで考えるポーズをとる。それをまねしてシークも腕を組みながら小首をかしげている。
「……わざマシンを奪った、って件だ」
「わざマシン? ああ、言ってたな。お前も持ってるあの四角いのことだろう?」
「ああ、まあ丸いのもあるけどな。俺が持ってるのはだいたいフロッピー型だ。手元の端末で使うからな」
まあそんなことはどうでもいい。重要なのはわざマシンだけわざわざ泥棒が盗んでいったということだ。
「……そんなに不思議なことなのか? 別に泥棒が何を取ろうが泥棒の勝手だろう?」
フレイドが不思議そうな顔をする。まあ人間界の事情が分からなければ確かにそんなもんだろう。
「お前がもしどろぼうするために金持ちの家に忍び込んだとする」
「……わっちはそんなことしないぞ」
「例えばだっつーの、想像の話だ。もしどろぼうに入ったとしたら、どんなものを盗もうとする?」
「……価値のあるものじゃないか?」
「そうだな。じゃあ、部屋の真ん中に置いてある金の置物と、同等の価値の引出しに入ったお金、どっちを盗む?」
質問の意図も分からないままに、フレイドは直感で思うことを言う。
「置物の方だ。さっさと奪って逃走したいからな」
「不合格だ」
「なぜだ!?」
「泥棒だったとしたらっつったろ。今のお前の答えは泥棒の気持ちになれていない」
つまらなそうに言うミズキに対し、フレイドはふてくされたような態度をとり、例によってシークは何一つわかっていない。
「……“どろぼう”なんてしたことも覚えたこともないんだ。わかるはずないじゃないか」
「拗ねんな。いじけるだけじゃ話は進まねえだろ。それに人間も萌えもんも何がけいけんちになるかわからないんだぜ。そのうちお前も“どろぼう”を覚えるかもしれないんだ。考えることに無駄はない」
左手で頭を押さえながらわっしわっしと鬣をかき乱すように撫でる。
「……答えはなんだ? なぜ置物はダメなんだ?」
「なぜ置物がダメか、答えは簡単。目立つからだ。泥棒は自分がなるべく目立たないように行動したい。あわよくば盗まれた人間が気づかないようにどろぼうを終了したい。部屋の真ん中にこれ見よがしに置いてある金の置物なんかとったら『泥棒が入りました』って言ってるようなものだからな」
ドラマなんかでよくある、明らかに泥棒が入りましたみたいな部屋が散らかりまくった状態で放置されることなんか現実ではそうそうない。泥棒はあくまで自分がどろぼうしたことがばれないのが最重要事項。盗む側からすれば盗む金額なんて五十万くらいを超えたらあとは大差ないのだ。
まあ、ピッキングの跡がどうしても残ってしまうだとか、窓に穴をあけて入っただとか、そういうことがあったのならば話も変わるがカメールの話を聞くにそういう犯人につながりそうな痕跡はなかったらしい。
「……なるほど、確かに。それで、それが今回の件にどうつながる?」
「今回の犯人はやってることがそれとは全く逆だ。わざマシンなんか安けりゃデパートに行けば三千円以下で売ってることもあるし、ちょっとプログラミングをかじっていれば自分で作るのだってそう難しいわけじゃない。そして何より、旅の経験がある萌えもんトレーナーなのならばわざマシンはたいていの人間が常備してる」
確かに自分の家や別の場所にしまっておく人がいないわけではないがそいつらだってたいていのやつは『転送システム』ってやつを使っていつでもどこでも取り寄せる事が出来るっていうのがわざマシンというものの利点だ。というかそういうものとして俺がデザインしたんだけど。
「とまあ、そんなところだな。結論を簡潔に言うのであればわざマシンは、高価で、盗みがばれないもの、っていう条件に一番不適切なものだと言ってもいい」
そして案の定速攻で警察に通報され、まだこの町を出てないんじゃないかということでハナダシティは今隔離されている。これで何も裏がなければ相当な間抜けだと評価せざるを得ない。
「……主の考えすぎじゃあないのか? そいつにとってそのわざマシンがとんでもなく高価に見えたということかもしれないし、昨日みたいにR団の末端のしたっぱがあほをやってるだけかもしれないじゃないか」
「確かに。だが言ったろ、あの家は役所に無理を通せるほどの大富豪の家なんだ。そんな家から何十万か無くなった所でだれが気付ける? さっき言った泥棒の理想をこんな簡単に達成できる。もし金が奪えなくてもそれでわざマシンを一つ盗んでいくなんてあほなことをする必要はゼロだ。おとなしく撤退してまた次を狙えばいい」
話している間に橋の入口についてしまったため、入り口の片側に寄りかかりながら話を続ける。
「……主の言いたいことはわかった。じゃあなぜそんなことをしたんだ? 今回のR団の目的はいったいなんだ?」
「……その謎を解くカギはこの先にあるんじゃねえかと俺は睨んでる」
先ほどのように親指を使って今度は横を指す。指を向けた橋の先には何人かのトレーナーがまるで門番のようにこっちを向いて待ち受けている。
「……なんだ、これは?」
「そっちにある看板に書いてあるだろ。ゴールデンボールブリッジ勝ち抜きバトルだってよ。勝ち抜けた奴には景品も出るらしい。だが重要なのは開催期間だ」
フレイドは振り返り呼吸がしづらくなるほどめいっぱい首を上に向ける。看板の文字がかろうじて見えてくる。
「な、るほど。すっ、こし、妙だなっ」
「……持ち上げてやろうか?」
「うるさい! ちゃんと見えたぞ!」
おちゃらけた調子でフレイドをからかいつつもミズキは表情を元に戻す。
看板に書かれたそのイベントの開催期間は、昨日の昼から明日の昼まで。
「唐突に出てきたイベントとしてはタイミングが合いすぎてる上に期間が短い。まるでこの三日間に合わせるために作られたような行事だ」
「しかも条件も厳しめだな。てもち萌えもんも四体以下で回復なしの五連戦、と書いてあるぞ」
「初めから通過させる気のないイベント……まあ意地の悪い見方をすればどうとでもなるな」
「で、どうするんだ、主。ラプラスはひきこもり、シークは戦闘未経験。まともな戦力はわっち一人。五連戦を勝ち抜く算段はあるのか?」
看板を見ていたフレイドはにやつきながら振り向きそういうと、
そこには、予想通りにやついた顔の主が自信満々に立っていた。
「ばーか。俺がお前に聞こうと思ってたんだよ。その怪我で俺の指示をこなせんのか? ってな」
「ふっ。この程度。怪我と呼ぶのもおこがましいな」
楽しそうに笑う二人。
しかしミズキはまたすぐに素顔に戻る。
「フレイド。ここは絶対突破するぞ。ついでにシーク、お前にも戦闘させるから準備しろ」
そういいながらシークを下に降ろす。
一瞬戸惑いの表情を見せるシークだったが、自分の顔を軽く一発たたいた後、ミズキの足元をポンとたたく。心の準備は完了らしい。
しかしそんなシークとは裏腹に、フレイドはいまだ少しこんらんしていた。
「主。なぜここでシークの初戦闘をこなす? 負ける心配をしているわけではないがあまりにタイミングが読めない」
別に自分に戦闘を一任されなかったことに不満があるわけではない。ただ、負けてはいけないというこの状況でシークの初戦闘という試運転をこなしている余裕はないのも事実。また後日、適当な野戦で、もっと楽な環境で、シークをのびのびと育成する、という選択を取らない理論派のはずのミズキの行動がフレイドを混乱させていた。
「悪いな二人とも。今日一日、ちょっと負担をかけることになる。また今度、スーと一緒に謝るよ」
「どういうことだ。いったい何を考えている。ちゃんとわっちらに説明しろ」
ふぅー、と深いため息をつき、ミズキは、苦虫をかみつぶしたような表情を作る。
ちょっと事態は深刻だ。
「俺の、最悪の予想が全部あたってると仮定したならば、
これから先、とんでもなく厳しい旅になる」
ミズキは顔を右手で覆う。そして本当に申し訳なさそうな声で言う。
「今日この後、ハナダジムでジム戦をする。そんでもって、たぶんいまのスーは勝てない。お前ら二人に勝ってもらわなきゃいけない。この戦闘はその慣らしだ」
おまけ
「なあ、スー。これ何?」
「バレンタインチョコです! 手作りですよ!」
ドシーン。
「……ちなみに聞くけど……モチーフは何? この謎の銅像みたいなの」
「? マスターですよ?」
「……いや、うれしいよ。うれしいんだけどさ。まず……でかくねえ?」
「いつもマスターには美味しいものをいっぱい作ってもらっているので私もお返しにマスターにいっぱい食べてもらおうと思って作りました!」
「……何グラム分作ったの?」
「二キロぶんのチョコを溶かして作りました!」
「……それで今朝金よこせってせびってきたのね」
「さあマスター。どうぞ!」
「まて、スー。抜け駆けは許さん、全員のチョコを見せてから主に選んでもらうというルールにしただろう?」
「……むぅ、でもマスターはわたしのを選んでくれますよ! そして完食してくれますよ」
「完食前提なの?」
「ふっふっふ。自信満々でいられるのも今のうちだぞスー。主は今からわっちのチョコに感動しむせび泣くに決まっているからな」
「出てくる前から泣きそうだけど。てかフレイド、お前男じゃん。なんで俺にチョコわたすんだよ?」
「? 友チョコなどという文化もあるのだろう? ならば何ら問題ない」
「だからお前のその偏った知識はどこからのものなんだ?」
「そんなことより、見よ主。わっちのチョコを!」
デデーン。
「……赤いんですけど」
「ふっふっふ。体の芯から温まる、ハバネロチョコだ!」
「ああ、もうだめだこいつら……」
(ちょんちょん)
「ん? ああー。シーク。お前も作ったの?」
ぽん。
「……一応聞くけど、変なことしてない?」
ぽんぽん。
「よし、見せてくれ」
ぽん。
カタン。
「……板チョコ? シーク、お前は市販のものにしたのか?」
ぽんぽん。
「……ちゃんと溶かして作ったの?」
ぽん。
「……板チョコを?」
ぽんっ。
「……意味あったのか? それ? いや、めちゃくちゃすごいけどさ。寸分もたがわず板チョコだけど」
「主。そんなことを言うんじゃない。ちゃんとシークは主に食べさせるための自分のチョコを作るために一回溶かして作りなおしたんだぞ」
「……どういう事?」
「シークは自分の好みのチョコを作るために一回溶かして砂糖を入れてからもう一回板チョコを作り直したんだ」
「……チョコに……また砂糖いれたの?」
ぽん。
「……どれくらい? 一杯?」
ぽんぽん。
「……二杯?」
ぽんぽん。
「……三杯?」
ぽんぽん。
「……一袋」
ぽん。
「……シークは甘いもん好きだもんなあ……」
「さあマスター。三つのチョコが出そろいましたよ!」
「主。一つを選ぶんだ」
(じーーー)
「……ばーか。一個なんか選べねえよ。もらったチョコは全部食う。それが男の嗜みだ」
……後日タマムシ病院に一人の男が担ぎ込まれる。
ハナダってゲームのストーリー上
外に出るために穴の開いた家を通らなきゃいけない
っていう謎の町なんですよね
進み方はある程度ゲームのストーリーに準拠したいのでその問題をを自分なりに解消するための設定です。
なお、自分は泥棒ではないので泥棒の考えることなどわかりませんので疑問に思ったとしてもスルーしていただけると幸いです。