罪深き萌えもん世界   作:haruko

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第0話 2 最悪の出会い

マサラ唯一の海岸沿い。

ここから萌えもんを使って海へ出れば、グレン島という活火山のある島へ行ける。

しかしマサラから船が出ることはない。

だから基本的にトレーナーはグレン島を目指すとき、カントーの南側にあるセキチクシティから出るフェリーに乗ってふたご島を経由していくのが今の主流である。

まあつまり、この海岸はいつ来ても静かな、ミズキの安らぎスポットなのだ。

 

「ふう……」

 

仕事に行き詰ったり、悩み事があったりするときにはここにきて夜空の星を眺める。ありきたりだがそれがミズキの息抜き法だ。

 

 

そしてそれはマサラに来てから毎日続いている。

 

 

この世界であまり焦点があてられることはないが、ミズキはかなり頭がいい。

機械の扱い、データの管理もさることながら、大方十代の子供が目にすることなど無いような単語が連なっている書類の整理など、研究員としてはかなり信頼がなければ任されないような仕事をしているし、事実それをすべてこなしている。

それに加えて、ミズキは萌えもんに関する知識もかなりのものがある。

今カントー地方で確認されている萌えもんは全部で百五十匹と言われているが、ミズキはそれのすべての萌えもんのタイプ、使える技、基本ステータス、特性などを網羅しているし、それを戦闘、育成に生かすための知識も蓄えている。さらに他地方の萌えもんでも研究所にあるデータの限りはたいていのことは頭に入っているといった具合だ。

 

 

そんな男が仕事で行き詰ることが早々あるはずもなく、

要するにここへ来るときはいつも悩み事の方が原因なのだ。

 

 

さざ波の音が暗い景色に溶け込んでいく。

相変わらずここは一人でいるには最高のスポットだった。

 

田舎の星空ということもあって、かなりきれいなものなのだろう。

もっともここ以外の星空など知らないが。

 

冷たい砂浜に仰向けに転がり、手を空にかざし指の間から星を見る。

ゆっくりこぶしを閉じ、また開き、つかめないという感触を繰り返し、

 

そうして、一分、十分、一時間。

時折見える流れ星が、視界の隅へと逃げていく。

何も起こらず、何もせず、ただただ時間を流している

それだけがミズキを支配し、ミズキを世界から逃がしてくれる。

 

 

 

 

『そろそろ自分を許してやってもいいころじゃろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘弁してくださいよ、博士。

俺は希望を持ってはいけない人間なんです。

 

 

 

 

 

 

一生贖罪し続けなければならないんですよ。

 

 

 

 

 

 

俺があいつらを育てたのも、

博士のところにずっといるのも、

萌えもんを持つことすらしないことも、

 

 

 

 

 

 

世界に懺悔をしたいだけなんですから。

 

 

 

 

 

 

 

腕に付けた時計に目を向ける。

十時を回ったところで三本の針は動くのをやめていた。

 

「やべ、今何時だ?」

 

 

 

博士のところに戻らねば。

そう思い我に返ったその時だった。

 

 

 

 

 

突如感じた謎の違和感がミズキを襲う。

これまで一度も感じたことのない、暗闇の中に放り込まれた異物のようなものを感じた。

 

 

 

 

 

 

気配を感じる。

波の音がおかしい。

この町の夜がこんな騒がしく感じたことは初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

波打ち際に誰かがいる?

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いて息をのみ、音を出さないように深呼吸をする。

 

 

 

 

かなりの星が出ているとはいえ、街灯もないど田舎の夜だ。何かを探すにはあまりに視界が悪い。

しかし、萌えもんを狙った悪党がこの町に来たということもあるかもしれない。

基本的に何もないマサラではあるが、すぐ近くにオーキド博士の研究所があり、そこにはあいつらも眠っている。夜中この町に忍び込み、萌えもんを誘拐してやろうという考えの持ち主がいないとも限らない。

もしそんなことがあったら。

あいつらが悪に奪われたら。

 

 

 

それがもし、

R(ロケット)団のような奴らだったとしたら。

 

 

 

絶対にさせない。

 

 

 

足元に水を感じる場所まで移動した後、何者かの気配をたどってなるべく音を立てずに歩く。

自分は萌えもんを持っていない。だがそんなことはどうでもいい。

やるしかないんだ。

いら立ちと焦りが心を支配するが、抜き足と警戒を解かない。

 

 

 

 

 

そこまで思考して異変に気付く。

 

 

 

 

 

 

動いていない?

 

 

 

 

 

くどいようだが場所は海岸、波打ち際だ。近くに身を隠す場所なんてない。

悪事を働こうとしているものがそんな場所でいつまでも堂々と立っているはずがない。

そもそもこの町の萌えもんを奪うことが目的であるR団ほどの組織の仕業であるならば、大量に人員を投入し、押し切るのが一番早い。

一見単純に感じるが、この町の規模を考えれば泥棒として忍び込むより、武力制圧してしまう方がよっぽど足が付きにくいという利点がある。

それすらも気づかないというのはどうにも考えにくい。

 

 

そして心が落ち着き、手や足の感覚が戻ってきたとき、ようやく一番の異変に気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

気配を感じるのもそうだった。

波の音がおかしいのもそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも一番変だったのは、

塩と同時に風で運ばれてくる嗅ぎ覚えのある鉄の匂いだった。

 

 

 

 

 

 

 

数分間警戒し続けていたのは、血まみれの萌えもんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野生のラプラスじゃな」

 

あの後、ミズキは血みどろになったラプラスをかかえ、研究所へと戻ってきた。

今は研究所内の萌えもん専用のカプセル型ベッドの中で体を休めている。

 

「かなり血を流してひどく衰弱しておる。お前が運んでこれたということはこの娘はまだ子供じゃ。海の萌えもんとはいえこの体で泳ぎ続けたせいで体力が持たなかったのじゃろう」

 

「治せるんですか? 博士?」

 

「血こそかなりの量じゃったが致命傷と判断できるような傷はなかった。不幸中の幸いとはいえひとまずは大丈夫。今はよく眠っておるよ。お前さんのおかげじゃ」

 

緊張の糸が切れ、近くの椅子に崩れ落ちる。オーキドはやれやれといった表情で優しくこちらを見つめている。

 

「しかし、ラプラスとはまた珍しい萌えもんですね。確かカントーではまだ学会でもラプラスの生息地は発表されてないんですよね?」

 

「うむ。かなり人になれた性格であると同時に他の萌えもんに対して警戒心が強い種でもある。よって他の萌えもんが生息している地帯に顔を出さないというのが現状な有力な説じゃな。他地方ではほかの萌えもんも寄り付かない洞窟の最深部のほとりでの発見例もあるそうじゃ」

 

「そんな萌えもんがどうしてこんなところに……しかもおおけがをして」

 

「うむ。それにミズキよ。気になることはもう少しある」

 

「え? 他にも何かありましたか?」

 

「うむ、むしろこちらが本題じゃ」

 

そういうとオーキドは席を立ち、キッチンの方へと向かおうとするがそれをミズキが無理やり制し、少し軽い声色で言う。

 

「いいですよ。俺がやります」

 

そういいながらキッチンへと向かい専用のコップにミルミキサーを用意する。

 

さて、今日はどれを淹れようか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、美味い」

 

「どうも」

 

ドリップがちょっとうまくいかなかった。

しかしやっぱりマダツボミ農園の豆は香りが抜群だな。

 

「それで。何が気になることなんですか? 博士」

 

「ああ」

 

オーキドは元いた場所に腰掛け書類をどかしコップを置き、話し始める。

 

「これはあのラプラスをカプセルに寝かせる前に軽く手当をしたときに気付いた事じゃが、あのけがは人為的なものではない。他の萌えもんの技によって付けられた傷じゃった」

 

「? 人じゃなくて萌えもんに付けられた傷だったなら、特に気にするものではないんじゃないですか? さすがにあそこまでぼろぼろにするのはかわいそうだとは思いますが、萌えもん界にも、自然の摂理、ってものがあるでしょうし」

 

「まあきけ。確かに自然の成り行きに対してわしらが口をはさむのは無粋であり、文明を進化させてきたトレーナーたちのタブーであるというのはわかる。しかし今回のラプラスは不可抗力の淘汰を受けたとするには状況があまりに不自然じゃ」

 

「……どういうことですか?」

 

「いいか、まずラプラスの首筋には焼け焦げたような跡があった。海面を移動して生活をしているラプラスにじゃ」

 

「海の上でかえんほうしゃを受けたってことですか? いやでも、海上にそんな鳥萌えもんがいるなんて考えにくいし、そもそも海面でほのおタイプの攻撃を受けたのであれば水中に潜ってやり過ごすことだってできるはず……」

 

「その通り。ほのお・みずというタイプの萌えもんがこのカントーにいない以上、おそらくこのけがはでんきタイプの攻撃によるものだと思われる」

 

「でんきタイプ? ああなるほど、強力な電撃攻撃によるマヒによって擬似的なやけど状態を併発してるってことですか」

 

「おそらくな。さらに腕の方を見てみると、しめつける攻撃を受けたかのような、強い圧迫をされた跡があった」

 

「しめつける系の攻撃……メノクラゲやドククラゲ、シェルダーとかでしょうか? いや、でもシェルダーはでんきタイプの技を覚えないですし、メノクラゲ、ドククラゲの場合はあれだけやられているラプラスがどく状態に侵されていないというのはかなり不自然だ」

 

「そうじゃな、まあこれは今答えを出すにはちと情報が足りん。いったん保留して最後の問題へ行くとしよう」

 

「お願いします」

 

博士がふぅ、と一息つき、残りのコーヒーを流し込む。

ちなみに俺は話を聞きながら温かいうちに飲みきった。飲み忘れて冷めたコーヒーを後から流し込むという行為が俺はすさまじく嫌いだからだ。

 

「ごちそうさま。さて、ミズキよ。ここからがこの話の重要なところじゃ」

 

はぁ、と返事をする。

正直、ここまでの話を聞いていても博士が何を言おうとしているのか全く見えてこない。

途中までは、実演形式でのプロファイリングを付ける練習でも教えているのかと思ったが、博士の表情を見るに、もっと深刻な問題であると推測される。第一博士は傷ついた萌えもんを研究に使うほど性格の悪い人じゃない。

博士は何かを伝えたいんだ。

自然の生業から少しずれてしまったと思われるあのラプラスの、何かを。

 

 

 

 

 

 

 

「あのラプラスのしっぽ、そこにはな、

軽く凍傷の跡があったんじゃ」

 

 

 

 

 

 

「凍傷の……跡?」

 

 

 

 

 

きょとんとした表情を浮かべるミズキに博士はなおも鋭い目を向ける。

 

「れいとうビームのような攻撃ってことですよね? でもそれだけなら該当する萌えもんなんてカントーだけでもかなりの数いるんじゃないですか? というかそもそもラプラスにれいとうビームって……」

 

そこまで言ったとき、ミズキは自分の発言にハッとする。

 

 

黙想……

 

ラプラスに対してれいとうビーム?

ラプラスはみず・こおりタイプ。れいとうビームはあまりにも効力が薄い。

もともとラプラスを仕留める気なんてなかった?

いや、それだとほかの攻撃の説明がつかない。

れいとうビームを打たなければならなかった。

なぜ?

付属効果のこおり状態に期待したから?

ばかな。

海上で敵の動きを止められるくらいのこおり状態にするなんて、そうそうできるものじゃない。

そもそもラプラスをこんなにボロボロにできるほど戦力で圧倒しているんだ。

今更こおり状態にしてなんになる?

 

 

 

 

落ち着け。

発想を変えよう。

ラプラスに効力の薄いれいとうビームを打ったんじゃない。

 

逃げ惑うラプラスに後ろから打つ技として選択するくらい

自分のれいとうビームに自信があったんだ。

 

 

 

 

 

れいとうビームをメインウェポンとして判断できるような萌えもん。

 

さらに海での戦闘においてラプラスの行動範囲を追ってこれるほどに優れた機動力。

 

 

 

 

 

つまり、

 

「犯人は、みず・こおりタイプの萌えもんか!」

 

「そういう事じゃ」

 

 

 

なるほど、ラプラスの体の手当てをしただけで、ここまでの情報を読み取ったのか……

さすが博士だ。

 

 

「ということは、犯人はやっぱりパルシェンでしょうか? でもパルシェンは確かでんきタイプの技を覚えないし……」

 

「ふむ。ではここでさっきの手の話に戻そう」

 

「手? ああ、しめつける攻撃を受けたかのような跡ですか?」

 

「そうじゃ。はたしてそのあとは本当にしめつける系の攻撃でつけられた跡なのか」

 

「いや、博士が言ったんじゃないですか、しめつける攻撃でできたような跡って」

 

 

 

「ふむ。では言い方を変えよう。あれは本当に物理攻撃でできた後なのだろうか」

 

 

 

物理攻撃じゃない? 圧迫された跡が?

 

落ち着け、もう一度考え直そう。

 

再黙想だ……

 

 

そもそもよく考えてみればおかしい。

でんきタイプ、こおりタイプで遠距離攻撃を仕掛けていた相手が、わざわざしめつける攻撃をするために接近戦を行うだろうか。

それほどまでにしめつけるに自信があったのだろうか?

いや、違う。さっきの思考で相手がみず・こおりタイプなのはほぼ間違いなくなった。

という事は、相手は遠距離から使えるしめつける攻撃を行った?

つるのむち? 違う。

 

さっきと同じだ。もっと発想を変えよう。

遠くから、触れずにラプラスに対してしめつけるのような圧迫のダメージを与えることができる技、それは……

 

 

「サイコキネシス!」

 

「その通りじゃ」

 

 

わかってしまえばなんてことはない。

相手は結局遠距離から自分の打てる技をラプラスに向かって放っていたにすぎなかったのだ。

少し不謹慎だとは思うが、なるほどなかなかに面白い。

自然の出来事ではあったが幾重にも積まれたミスディレクションが思考を思いっきり攪乱した。正直なかなかに考え込まされた。

だが、あとは答えにたどり着くだけだ。

 

「つまり、今回ラプラスを襲ってたのは、みず・こおりタイプで、10万ボルトやサイコキネシスやれいとうビームが使える……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういう……ことか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーキド博士はミズキが気づいたことを察し、窓際の席へと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜ……そこまでする必要があったんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「過去にはいろいろあるものじゃろう。人間も、萌えもんもな」

 

 

 

 

 

 

 

ミズキにはうなづくことしかできなかった。

 




イメージのなかのラプラスは

身長 主人公の腰ぐらいまで
体重 50キロぐらい

ってかんじです
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