……すみません。これから頑張っていきたいと思います。許してください。何でもはしないけど。
第4話 4a 4話 4の前編です。
追記:タイトルからa消しました。詳しくは次話で
ぴーんぽーん。
「……マサキさーん。俺です、ミズキです。なんで出てくれないんですか? おーい」
かれこれ何十秒かノックとチャイムを交互にし続けているのだが全く変わりない現状にいらだち始めるミズキを見ながらフレイドが言う。
「……主、留守にしているという可能性はないのか?」
「ないね。あの引きこもりが。俺の知ってる限り太陽を浴びるのだって三ケ月に一回ぐらいだって言ってたし、自分の転送システムを使い潰して買い出しにだっていかない人だ。わざわざあんな状態の橋を通って外に行くわけがない」
がちゃがちゃとノブをいじくり倒したり中を覗き込んだりしながらミズキが絶対の自信を持って断言する。
「……ダメ人間なのか? マサキ殿は?」
「そんなことはないんだけどね。むしろ人間と萌えもんのための偉大な発明をした俺がオーキド博士以外で尊敬する数少ない研究者さ」
そういいながらノックをし続けていた右手をさすりながらドアから離れる。やれやれみたいな態度をとっているが下から覗き込むととても素敵な素敵な顔をしていた。
「フレイド。やれ」
「……いいのか?」
「許可する。マサキの分際で俺を無視するなど許される所業じゃない」
「……尊敬しているんじゃなかったのか?」
軽くため息をつきながらドアから距離をを取ろうとするフレイドだったが振り向いた途端何かに左腕をつかまれる。つかまれると言っても力が特別強いわけではなかったので振り払おうと思えば振り払えたのだが、ちょっと目線を下ろせば見える黄色い腕でだれに掴まれているのかは察しがついたのでそのまま停止し振り返る。
「どうしたシーク。危ないぞ?」
ミズキはそう言ってシークを抱えようとしたがシークは目の前にパーを作る。最初は軽くこんらんしてしまったがそれが静止を望んでいるポーズであるということに気付いた。
(ちょいちょい)
自分の思いが伝わったと判断したシークは次に二人の目の前に掌を上に向けてだし、親指以外の指で手招きをする。
「……ああなるほど、つかまれってことね」
その言葉にうなづきながら足で遠慮がちにミズキに軽く蹴りを入れる。喧嘩をうっているように見えないこともないがそれがYESの合図であることは直ぐにわかった。
「やっぱ便利だな、“テレポート”。別にドア吹き飛ばしても構わなかったんだが、気遣いありがとよ、シーク」
「……シークが気を使ったのはマサキ殿の方だと思うがな」
ぼそっとつぶやくが頭をなでられ幸せそうにうなだれているシークをみてもうどうでもよくなる。そんなことより……
「……ここがマサキ殿の家か」
「ああ。話に聞いてた通り、俺が留守にしてる時の博士の研究所並みに酷いな」
フレイドが呆れたような声をだし、ミズキがばかにしたような発言をするのも無理はなかった。
足の踏み場もない、とはこのことを言うのだろう。床一面に敷き詰められた、というより無造作にばらまかれた資料の数々に、本棚に入ることを拒否したかのようにそこらじゅうに平積みされていたであろうほんの山々。一枚その辺の紙をつかんでめくればむし萌えもんが住み着いていそうなほどである。
「見苦しいというほかないな。玄関でこれってどうなってんだよ、どれも簡単に手に入る資料じゃないのに。こりゃドア燃やさなくてよかったな。改めて俺からも礼を言おう、サンキューシーク」
ポンポンと頭を軽くたたきながら苦い顔をして言う。暴力的というか戦闘的な一面を多く見ていたフレイドとしてはやはりこの男も研究者なのだなと話に聞いていたことを再認識する。
「で、主。ここからどうする?」
「マサキを探す。聞きたいこともあるんだがまずはこの現状に説教が必要だ」
イライラした顔を隠そうともせずに適当な部屋へと入ろうとするが床の資料がつっかえドアが開かなかったことでさらに不機嫌が増していたがそれでも床の資料を除けるときの扱いはとても丁寧だったのが少し面白かった。
「……さてと、わっちも探すか。シーク、一緒に来るか?」
ミズキに降ろされ立ち尽くしていたシークに対して手を差し伸べる。
少し悩んでいたようだがどたばたとすさまじい音がこぼれてくるドアを数秒じっと見つめてからよたよたとフレイドの元まで近づき手を取る。
「手を離すなよ。危ないぞ」
言われるがままについていくシークとフレイドはまるでおせっかいな兄と引っ込み思案な弟だった。まあ見ようによってはエスコートにも見えなくもないのだが。
なるべく紙を踏みつけないように慎重に歩くシークは自分の左手を握ってくれているフレイドの右手を、ぽんぽんぽん、と三回たたく。
「……三回? シーク、それはどういう合図だ?」
部屋の中をガサゴソと軽く片づけながらフレイドはつぶやくように聞く。
それに対しシークは、ちょいちょい、とフレイドの体をつつき、頭を下げる。うなづいているわけではなく、ぴちっとした気を付けの形から深々と体ごと下げているような形。
「……三回はありがとう、という解釈でいいのか?」
ぽん。
「どういたしまして」
二人はくすっと笑う。
「う、う~ん。ねむ~。……って誰やあんさんら! またあの黒づくめの男たちの仲間かいな! あいにくやけどマサキは留守やさかい出直してきてや!」
うさん臭いしゃべりを扱う謎の生命体を見つけることになったのはそれから五分ほど家の中を探し回った後のことだった。
「……コガネ弁を話すピッピ? なんだか妙に人間味があって気味が悪いな」
「……本来なら萌えもん差別、と言いたいところだが粗方同意しよう。なんとなく見ていて不快だ」
どうやらシークも同意見のようでミズキの足元でこれまでにないような震え方をしている。見てはいけないものを見ているような、そんなリアクションだ。
「ああこんちわ、ぼく萌えもん……てちゃうわい!」
「うわ、しかも超寒いノリツッコミしだした……もういいや、帰ろうお前ら」
「一刻も早くここを出よう」
最後に力強く足を一回たたく音が響く。満場一致。
「「おじゃましました~」」
「ってちょいちょいちょいちょい!! まってーな! あんさんたちあの黒服男たちとは関係ないん?」
必死の声で呼び止めるピッピもどきの質問に、これでもかというほどけだるそうな声で形だけの応答をする。
「あー、そうですねー。おそらくかんけーないとおもいますよー。それじゃあおげんきでー」
「だからまってって!後生の頼みやさかい、ちょっとわいに協力してーな」
「いやだ」
「そんなつめたいこといわんといてぇ。よっ! だいとうりょう! にくいねー!」
おだて文句の定型文のような返しにどんどん疲れが蓄積していくかのような思いだった。
「……俺たちはただマサキさんに会いに来ただけなんだけど……はぁ、転送システムのプログラミング手伝ってた時は会うのを楽しみにしてたってのに、何が悲しくてこんな謎ピッピの相手をしなくちゃならねえんだ……」
「は? プログラミングの手伝い? ぼっちゃんまさか、ミズキって研究者の遣いでここまで来たんかいな?」
「いや遣いっていうか……」
「だったらちょうどええわ。ワイがマサキや。ミズキはんに伝えてここに来てもらってーな」
「……は?」
……山積みの本が一冊落ちた。
「……行くぜマサキさん。暴れて分離に失敗したら死ぬからな」
「おいこらー! 何不吉なこと言っ」
「スイッチオーン」
二つ並んだカプセルがすさまじい音を立てて振動し始める。やがてある程度の時間がたつと赤いランプが緑に変わりふしゅーと軽く煙を出す。
「おいこらミズキ。お前さんなんちゅーこと言うねん!」
「助けたお礼は?」
「……ありがとうございました」
「よろしい」
ご満悦な表情でミズキは尊敬する年は一回り上の先輩の下がった頭を上から眺める。
「……いやーそれにしてもまさかミズキはんがこんな子供だったとはパソコンでやり取りして時には気づきもせーへんかったわ」
「俺だってマサキさんがピッピもどきだったなんて思いもしませんでしたよ」
「だからそれは実験のミスやって言うてるやろが!」
「……しかし間抜けな話だな。自分の作った機械の点検中に誤作動に巻き込まれてピッピと合体してしまい、戻るには自分が機会に入った状態でボタンを押してくれる人が必要と……主のこの男に対する態度の理由が粗方見えたな」
「そういう事。研究者としては一級品だけど人間的にはただのアホなのさ」
「こらっ! 知り合いとはいえ初対面のくせになんちゅう言い方するんや!」
そんな会話をしながら四人は片っ端から部屋を掃除する。マサキは最後までいらないとごねたが最終的にはミズキの一声によって開始が宣言された。いわく、『これだけの宝の山が床で雑魚寝をしているなど我慢できない』との事。
「いやー、しかしこの部屋ってこんなに広かったんやな。まともに床見たのいつぶりやろ?」
「言っとくけどあんたのためじゃないぞ。研究資料とこれを作った世界の科学者たちのためだ。次来た時に少しでも部屋が汚れてようものならここの家俺が買い取ってホームレスにしてやるからな」
「……冗談やんな?」
「あ?」
「……気を付けます」
二十代中盤の男が齢十四の少年に説教されているその状況を見て、フレイドは今度は一流の研究者である、という情報を疑い始めるのだった。
「んで? ミズキはんらはいったい何しにここまで来たん?」
ようやくテーブルと床がある程度見えてきたところで、マサキは思い出したかのように言う。
「……当初の目的では挨拶しに来るだけだったんですけどね。ちょっと聞きたいことがあって来ました」
「聞きたいこと?」
「あなた、ここ二、三日、R団に狙われてたんじゃないですか? おそらく『技術者としての力を借りたいからR団のけんきゅういんとして働いてくれ』みたいなこと言われて」
「!? なんでしってんねん!?」
驚くマサキを尻目に、ミズキとフレイドは少し顔をゆがませながらも目を合わせうなづく。
「やっぱりあの泥棒事件はマサキさんをハナダシティから逃がさないためのバリケードだったのか」
「……どうやら主の言っていた『最悪の予想』とやらがみるみる現実味を帯びてきたな」
「……こりゃジム戦は免れねえな。くそったれ……」
苦悶の表情を浮かべる。初めて見るそんな表情にフレイドもシークも思わず少し目を背ける。
「ちょっと待ちいや! 勝手に納得するんやない! ちゃんと一から説明せえや!」
マサキは大げさなハンドシグナルとともに叫ぶ。
無理もない。だが、あえてミズキは無視して思考する。
「……主?」
「……ミズキはん? どないしたんや?」
「……マサキさん。あなたに一つ、お願い事があります」
「……お願い?」
「少なくとも俺は、あなたのことを友達だと思ってます。友達を俺たちの都合に巻き込むことは心苦しい。
涙交じりの声で叫びながら、ミズキは床に頭を付けた。
「どうも、あなたが今日の私の対戦相手のミズキ君ね。私はハナダジムジムリーダーのカスミ。みずタイプの萌えもんのエキスパートよ。よろしくね」
目の前の水着姿のジムリーダーは優しい笑顔を作りながらこちらに手を差し出す。
ミズキはその手を無視してフィールド内へずかずかと入り込み、中を見回す。タケシの時の無機質で冷たい長方形の枠があるだけのフィールドではなかった。
フワッと香る塩素の匂いに一面の青。ところどころにカラフルなラインや番号の振られた台座。それらはすべて自分たちの知っているプールの特徴だった。
想像しろと言われてできるプールと目の前のものの大きな違いは二つ。
まず一つ目は大きさ。
明らかに人間が泳ぐために解放されるようなものの大きさよりも一回りも二回りも大きく、深く作られている。おそらく大型のみず萌えもんの水中戦闘に適応した方だろう。小さく見積もってもキングラー、大きく見積もるならギャラドスが目一杯暴れまわれるくらいの大きさがあると言っていい。本気で来るならそのあたりの萌えもんの対策もしておかなければ一瞬で負けるだろう。
そして二つ目に水面の浮島だ。
本来レーンを分けるためにつけられるコースロープは存在せず、その代わり、というわけでもないが円盤状の浮島がまばらにぷかぷかと浮いている。陸上系の萌えもんがみず萌えもんと対等に戦うために作られている処置なのだろうが当然固定されているわけでもないためそこに立って戦うことは困難であることが予想される。
「私のジムでの対戦はそのプールの中とプールサイド。そこがバトルリングよ。ちなみに、連続して水面に顔を出さずに潜っていい時間は八分まで。八分を超えたらその時点でその萌えもんは戦闘不能扱いになるから気をつけなさい」
フィールドの前で立ち尽くしているミズキに後ろからカスミが忠告しながら向かい側のプールサイドへ歩く。その説明を聞きながらミズキは誰に言うわけでもなくなるほどとつぶやく。
水面に潜っている時間が無限であるならば、みず萌えもんを持たないトレーナーはカスミの萌えもんに絶対に攻撃を当てることができないということになる。
さらに制限時間をつけることによって無理して戦う萌えもんの窒息事故も防ぐ事が出来るというわけだ。
なかなかどうして合理的である。
「で? あなた、なんでマサキさんと一緒にいるの?」
「おおきに、カスミはん。えろうすみませんなあ。こんな近くに住んでるのに初めましてになってしもうて」
気楽にいつもの調子でマサキがミズキの後ろから出てくる。
「……観客なら別の入口からフィールド外の観客席に行ってもらわなきゃ困るわよ?」
「もちろん、入り口でもそういわれました。でも俺が断ったんです。マサキさんは審判なんで」
完全に対面まで歩ききったカスミはきょとんとした顔を向けてくる。
「審判? なんでわざわざ? ジムには萌えもんジム審判用のコンピューターが配備されているわよ?」
「もちろん存じ上げてます。しかし、それでは駄目だから、マサキさんにお願いしたんです」
「駄目? いったい何の……」
「カスミさん。あなたに
「!!? なっ、なにを」
俺からの要求は
―――――――――――――R団としてのあなたの情報です―――――――――――――
「……いったい何のことかしら?」
「萌えもんであらゆる悪事を働く集団、R団は何かしらの理由でマサキさんの技術力を必要とする状況に陥った。早速あなた方はしたっぱを連れてマサキさんの家に押しかける。しかしそこには変なピッピが一人いるだけ。マサキさんを拉致するあなたたちの計画は一時暗礁に乗り上げた」
平然を装うカスミに対してミズキもまた淡々とした口調で言う。
「しかし、拉致して研究技術を貰い受けるという目的の都合上、町はずれに住んでいていなくなっても気が付く者はいない一流けんきゅういんのマサキさんほど条件に合った人はほかにいない。しかし待てども待てどもマサキさんは全く家に帰ってこない。そこでR団は考える。まさかマサキは何かを察知してどこかに隠れているのではないかと。そしてそこまで思考した末に、つい最近、強硬手段に出ることにした」
カスミの表情が少し歪み始める。そんなカスミの表情が見えているのかいないのか、ミズキは薄い笑みを浮かべていた。
「完全に無意味な大富豪の家でのわざマシンの窃盗。そして岬への一本橋での条件の厳しい勝ち抜きイベント。それによるハナダという町の実質的な封鎖をすることでマサキさんを町から逃がさないようにし、岬に向かう人間を橋のイベントでシャットアウト、そうすることで安全に岬の方の捜索を進める事が出来る。まさか万が一勝ち抜きバトルを成功させた人間はスカウトして取り込んでしまう、っていう保険をかけていたってところまではちょっと読めませんでしたけど、だったら最後の一人にしたっぱを配属すべきじゃなかったっすね。あなたが直々にそれを受け持ってりゃあ、さすがの俺でもお手上げだったのに」
両手を水平に横に出しながら「やれやれ」と言わんばかりに顔を横に振る。審判の位置まで移動したマサキが引きつるほどの完璧なちょうはつだった。
「……だらだらと無駄な推理をご苦労様ね。推理小説でも書いてた方がいいんじゃないの? 現実はもっとシビアなものよ」
「残念なことに、ここまでこの町の警察の動きやイベント事にタッチできる個人権力を持ってる人となると、ジムリーダーしかありえません。認めてください、そしてあなたの知っていることを自分に話してくれませんか?」
「あら? 話し合いだけで解決できるなんて思わないから仕掛けたんでしょ。賭けバトルを」
今度はミズキが下唇を噛む。カスミの言うとおりだった。
早い話がこの世界の行政、萌えもん協会が認めた、公式戦の賭けバトル。
絶対戦闘成立の条件は三つ。
・両者の賭けバトルを行うことに対する同意
・一番近い役場でのバトルを行うことの先だった申請
・絶対戦闘を取り仕切るための専用の資格を持つ審判の用意
バトル形式は普通の公式戦と違い、奇数回数の一対一の萌えもんバトルの勝ち星数、つまり、お互いに五人の萌えもんをもってバトルするならば、一対一の萌えもんバトルを五回行い先に三勝した方の勝ちとなる、という遥か昔の一騎打ち式の決闘を模した対戦方法となっている。
そして一番重要な、このバトルに勝利した者の特典として、
・バトル前の互いのトレーナーの要求に確実に応じなければならない
という、その名もずばりな絶対的な公式戦である。
「……確かにそれは有効な手段ね。でもそのバトルを成立させるには越えなきゃいけない壁があるはずよ。『私から自主的に行った、絶対戦闘への同意』という、越えられない壁がね」
「拒否するってことは、俺の推理を認めるってことですか? 俺が求めるのは『R団としてのあなたの情報』です。本当に知らなければたとえあなたが負けても、『知らない』と答えればいい。俺に何を要求するにも、R団じゃないあなたにとってはメリットだらけの申し出だと思いますが?」
「無意味なことは誰でもしたくないものでしょう? わたしはあなたに求めるものなんか何もない。だから対戦は成立しない、という事よ。わかった? 少年」
「でももう申請しちゃいましたけどね、役場に」
「……は?」
やる気をなくしたと言わんばかりに帰ろうとするカスミに対して背中から衝撃の走る言葉をあっけらかんとしながら投げつける。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? もう申請した!? 私に話す前に!? わたしの署名とか私があなたに要求する条件とか私が書かなきゃいけない箇所がいっぱいあるでしょ!?」
「はい。もう全部俺が書き終えましたよ。安心してください。ちゃんと筆跡は変えました、ばれません」
少しの沈黙の後、顔に手を当ててカスミはそれはそれは深いため息をついた。
「……もういいわ、私が今から役場に言って取り消してもらえば済む話だしね。書類の偽造は犯罪よ。よく覚えておきなさい、坊や」
「……もしかして、自分の要求する条件を自分で決められなくて怒ってたりしてますか?」
「……そこ以外にもいろいろ言いたいことはあるけど、そこもそうよ。ある程度無茶な自分の要求が通ってしまうことがこの賭けバトルの真髄なのよ。それを自分で勝手に決めるなんて、どうかしてるわ」
「それなら安心してください。絶対にあなたが受けてくれるような報酬を提供できると思いますから」
「……もういいわ。君と話しても話が進まない。私は絶対その勝負を受けない」
明らかに頭に怒りのマークを浮かべ、踵を返してフィールドから出ていこうとするカスミに対し、ミズキはニヤッと笑い告げる。
「俺がもしこのバトルで負けたら、サカキへの復讐をあきらめます」
振り返りながらカスミはミズキににらみを利かせる。今までのどの表情とも違う、ただ単純に、相手をつぶすと言わんばかりのいかくだった。
「……あなた……なんでボスの名前を」
「ようやくR団の顔になったな。こんにちは、悪党」
それにつられてミズキも薄ら笑いの表情を崩した。
「なんならボスに連絡を取る時間を上げてもいいですよ。あなたが負けたら大切な自軍の情報をあなたの独断で行った行動で吐き出すことになってしまうんだ。しっかり考えて答えは出すべきかと」
隠すこともなく苛立ちが募る顔をみせる。握りこんでいる拳は、目の前に自分がいたならばとっくに飛んできていただろう。
「……タケシが言ってた生意気なガキっていうのはあんたのことだったのね」
「……やっぱタケシも仲間だったか。雰囲気からなんとなく予想はしてたが……」
「いいわ、どうせ私が勝つんだから、確認の時間なんて必要ない! 絶対戦闘、受けようじゃないの!!」
「……そう来なくっちゃ」
表情はぎらぎらと燃え滾っている後ろで、心の中は深い深呼吸で落ち着かせる。
落ち着け、まだ第一関門。チャンスが回ってきた段階なんだ。
負けられない。いつもどおり、負けることはできない。
「ほんじゃまあ、両者の同意も得られたっちゅうことで、このバトルの審判、および記録係をさせていただくマサキです、よろしゅう頼んます」
「お願いします」
「……お願いします」
もうとっくに終わっている自己紹介を形式上のために行う。対面している相手が軽い会釈をしたために不機嫌そうな顔を浮かべるカスミも頭を下げる。
「じゃあまずは、さっき決めたルールの確認や。勝負は一対一の試合を三回行う団体戦。先に二勝した方の勝ち。チャレンジャーミズキの敗者への要求は『カスミは今後一切R団に関することはミズキの命に従うこと』、ジムリーダーカスミの敗者への要求は『ミズキのサカキという男の命にそむくような行動、態度、それに準ずるすべての行為を禁止するという公約を結ぶこと』。間違いあらへんな?」
「はい、問題ないです」
「ええ、間違いないわ」
これは対戦が完全に決定する前に審判としてのマサキと最終確認した結果だ。
単純にみるだけならばこの二人の言いたいことというのは、お互いに『逆らうな』というこの一点だった。しかしミズキの要求にはちょっとしたわけがある。マサキの今後だ。
今マサキはピッピから人間の姿へと戻ってしまっている。そしてR団であるカスミの前に出ているということは、この対戦が終わればマサキは再び追われる日々に逆戻りということになる。それを防ぐための要求。要するにミズキの要求というのは、カスミから情報をもらう、というミズキの要求と、これから先ハナダで安全に暮らす、というマサキの要求を一緒くたにしたものということだ。
あなたの今後も自分の賭けに託してほしい。
それがミズキがマサキに審判を頼んだことの真意だった。
そんな対等なように見えてうまくミズキの思惑の紛れた要求に、ミズキもカスミも二つ返事でOKサインを出す。
正反対の要求をする二人だが頭の中身は全く同じ。鏡写しのようだった。
絶対に負けない。
そういう、自身でも、確信でもない。この世の心理、不変の事象のように、自分たちが負けることはありえない、と思っているのだと、にらみ合う二人を見ながらマサキは思う。
「じゃあ、絶対戦闘の特別ルールを適応するで。二人とも、てもちの萌えもんフルオープンや」
そう、これも絶対戦闘と普通の公式戦の異なること。
・対戦相手の萌えもんを事前にすべて知る事が出来る
先述したとおり、この対戦のルールというのは、遥か昔の誇りと位の高い貴族や王族の一騎打ちの決闘をモチーフとした対戦である。
誇りをかけた一対一の勝負において、フルオープン、手の内のすべてを見せて戦うことにより相手に敬意を払い、相手と対等な条件下で戦う。
それを再現するような、絶対戦闘の伝統ルール。
そして実際の対戦でこの制度の気を付けるべき点は、
・戦闘に出てくる萌えもんは知る事が出来るが、どの萌えもんが何番目の試合に出てくるかはわからない
という点だ。
「いくぜ、俺の
そういいながら三つのボールを真上にほおり投げると、着地と同時にもう見慣れた影が目の前に現れる。
「……なかなかすごいフィールドですね」
「わっちへの嫌がらせにしか見えないな」
(……)
ため息交じりに前回との違いを再確認するのは、唯一のジム戦経験者のスー。
言っていることはマイナスだが、滾るような表情をしているのは、タイプハンデなどもろともしないと言わんばかりのフレイド。
恐る恐る片手をみずの中に突っ込んでぴくっとしているのは、何でもないようないつもの風体で、自分の初勝利に闘志を燃やす熱い男の娘のシーク。
それぞれが目の前の景色に三者三様の感想、反応をする。
そのパーティを無言で見つめるジムリーダーカスミの表情は、ミズキの知る一番嫌いな奴らの表情になっていた。
「ふーん。ラプラスにケーシィにガーディねえ……そっかそっか」
すると朗らかな笑顔を作り直し、自分の番とばかりに三つのボールを上に投げる。自分の時と同様に着地した瞬間に出てくる三つの影。しかしミズキは先ほどのカスミと同じ反応でそれを見届けることはできなかった。
「……マジかよ」
「……まずいですね」
「さすがは一つの町の頂点だな」
(……)
まず目に入るのは、よく似た体をした、遠目に見ると色違いにも見えるような二人の萌えもん。一回り小さな左端の萌えもんは、茶色い体に首に一つ深い赤色のブローチを付けた恰好をしているのに対し、右端の一回り大きな萌えもんは紫色の体に今度は透き通るような赤色をしたネックレスを首から下げている。見るものがみればこの二人が同種であるという判断を下すのは難しくないだろう。
「ほしがた萌えもん、ヒトデマンとスターミー……」
そしてその二人よりもひときわ目を引くのは真ん中にいる萌えもんだった。
頭についている赤の水晶のような球体が時折こちらに光を送っている。その球体はその萌えもんの感情を表すためにはっこうしていることを知っているミズキはあれは臨戦態勢に入っている合図のようなものなのだろうと推測する。
そしてそれよりも目立つのはその下、一見すると超ロングの髪の毛のようにも見える灰色のそれは、海での天敵をなぶり殺しにするための恐ろしい武器であり、媒体であり、拘束具なのだ。
「そして、くらげ萌えもん、ドククラゲか」
どの萌えもんも水中戦でトップクラスのこうげきやぼうぎょができる萌えもんだ。
毎度のことながら圧倒的に不利な状況に、ミズキは思わず頭を抱える。
「あらあら、戦意喪失しちゃった?」
うれしそうに聞いてくる眼前の相手に対し思わず歯噛みする。
「大丈夫ですよ、さあ、さっさと行きましょうか」
「ちょっと待って」
最初に出す萌えもんを宣言しようとした瞬間にカスミはパーを前に突き出す。
「ねえ審判、まだ先鋒の萌えもんを決めてない状態だったなら、相手の萌えもんを見てからでも作戦会議のために対戦を遅らせることは可能よね」
「……ルール上は可能やな。宣言した萌えもんを今からチェンジすることはでけへんけど、両者の同意さえあれば一時間までなら伸ばすことは可能や」
「じゃあお願い。今から一時間延ばして頂戴」
「……何のつもりですか?」
「ちょっと追加したい条件が出来ちゃったのよ。両者の同意がありさえすれば、今から役場に行って書き換えてきても構わないはずよね?」
「ああ、チャレンジャーの同意さえあればやけどな」
「ふーん、じゃあさ……」
「私が勝ったら、その娘欲しいな」
「…………へっ? わ、わたし?」
まっすぐ向けられた指をたどると、自分の最初の相棒が、顔を青くして驚いていた。
はい。新しい独自設定です。
絶対戦闘。
食戟のソーマにおける食戟だと思ってください。
厨二くさいという文句は受け付けません。名前が他に浮かばなかったんです。