罪深き萌えもん世界   作:haruko

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どれだけの人が待っているのか、いや、どれだけの方々にこの小説を待っていただけているのか。甚だ疑問ですがお待たせしました。4-6話です。

昨日アニポケを見ました。かわいいオンバット君がかっこいいオンバーン君に進化しました。
しかしうちのシーク君は進化しても挙動が変わりません。なぜ? そんなことをおもいながら作りました。どうぞ。





第4話 6 最良を求めて

 

深夜の三時を回った所だろうか。

 

 

借りた宿のベッドの上でパッと目を覚ますと、寝る前に見た天井から九十度横に首を向けた体制だった。そのまま目に映る青の景色を頭の中で反芻すると、それは仲間の体であることを理解した。

 

 

のりもの萌えもん、ラプラスのスー。

 

 

体のあらゆる場所に包帯を捲いたその娘は、寝返りを打ち顔をこちらにむける。そうやって見せた寝顔はだらしなく涎を垂らした、何とも情けない、憑物が取れたような表情だった。よく見ると目元に涙の跡が残っていて、またいっそうに笑いをあおる

 

笑いに声を載せることを無理やりこらえ、体を起こしながら正面のベッドに目線を移す。

そこには口がきけないハンデがありながら一回り大きくたくましくなった強く純粋な心を持った二人目の仲間の黄色い、これまた包帯だらけの体が眠りについた時と寸分たがわず同じ体制で健やかな眠りを過ごしている。

 

 

ねんりき萌えもん、ユンゲラーのシーク。

 

 

初勝利を飾り、進化した後も変わることのないおどおどとした態度を寝顔から思い出し、また一つ苦笑する。

 

 

そうしながら最後に左前の自分の対角線上にあるベッドに目線を移し、

 

 

 

そのベッドがもぬけの殻であることに気付く。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、はっ、やぁ! ぜあぁ!」

 

旅館の外に出て軽くあたりを探してみると桟橋の近くの草っぱら、ちょうど昼間にブルーたちとお茶をしたあたりから、空のベッドの主であり、今の自分の主でもある少年声が聞こえてくる。

 

あまり音をたてないように近づいていくと、そこには月明かりに照らされながら前後左右に様々な動きをしながら飛び回っているミズキがいた。

 

 

「……空手に合気道、カポエラと……太極拳か?」

 

「ん? ああ、フレイドか。そんな大層なもんじゃない。これは単なる運動だよ。どこの拳法でもない。独学だ」

 

動きを止めたミズキがこちらを見て反応する。迷惑はかけまいと軽く身を隠してたが見つかっては仕方がないと手招きする主のもとへと駆け寄っていく。

 

 

 

「こんな時間に何をしている? 今日一日の成果を考えれば、昼まで寝ててもおつりがくるぞ」

 

「確かにな。まあちょっと眠れなくてな。体を動かしたくなったんだよ」

 

首からたらした真っ白のタオルで汗をぬぐいながらスクイズボトルに口をつける。タンクトップにしみ込む汗の量から数分の間に出てきたわけではないということは容易に推測できる。

 

「お前も飲む? プロテイン」

 

「遠慮する」

 

そういいながら差し出されたボトルを手のひらでぐっと押し返す。

 

「残念。うまいのに」

 

ニタニタとした顔でちゅーちゅーと吸いながらベンチにかける。

 

 

 

 

「で、お前はなんで俺を探してたわけ? 着替えを届けるために来てくれた忠犬には見えねえけどな」

 

「当たり前だ。主がこんな時間にトレーニングすることなど予想できるか」

 

馬鹿にされたような気分になったフレイドがそっぽを向いたので頭をなでて落ち着かせてやる。軽く照れながら手をはらい、こちらに向き直る。

 

 

 

 

 

「レポートの再提出をしに来ただけだ」

 

 

 

 

 

「……ほう」

 

ボトルの空気を出し入れしながら、ミズキは激動の刻を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ものの見事にボロボロだな。勝てたのが奇跡だったんじゃないか?」

 

ハナダジム第一戦後。新たな姿、ユンゲラーとなったシークと手をつなぎながら控室へと戻ったミズキは笑顔なフレイドの冷たい一言で歓迎された。文句の一つも言ってやろうと思いフレイドの方へ手を伸ばしたが手を放した途端にシークがふらつきフレイドに体を預けるような形になり、支えるフレイドにじっと見つめられながら微妙な顔でミズキが言い訳を並べ始める。

 

「……“こらえる”で作るワンチャンスを狙うっつー作戦の都合上こうなることはわかってたんだけどな。お前の言うとおり、勝てたのは運がよかったのと、こいつが俺の予想以上に頑張ったからさ。ご苦労さん、シーク」

 

空気をごまかすようにぽんぽん、と少しだけ体の大きくなったシークの頭を軽くなでると、足元でシークがぺしぺしぺし、とスプーンを使って三回たたく。

 

 

「……主、『ありがとう』、だそうだ」

 

 

「……どういたしまして」

 

 

少し顔を逸らしながら言うミズキの姿を見ながらシークとフレイドが顔を見合わせ笑う。

 

「シーク、よく覚えておけ。あれが俗に人間社会で言う、『ツンデレ』というやつだ」

 

「……?」

 

「だからお前の半端な人間知識はいったいどこから拾ってきたものなんだよ」

 

呆れた表情をした後、ミズキとフレイドが空気が漏れるような声でぷっと笑い、再び控室が笑い声に包まれる。

 

 

 

 

しかしいつまでも笑ってられない。まだ一勝。勝利まではあと一勝だ。

 

 

 

 

「フレイド。スーは?」

 

 

いったん疲れ切ったシークをボールにしまって回復装置のレバーを引き、振り返りながらフレイドに聞く。それに対し、フレイドは自分から見て左方向、ちょうどモニターの真ん前辺りを左手の親指で指し示す。その先にはサイズを小さくする前の萌えもんボールが青いベンチに転がっている。スーが入ったボールであることは容易に想像できる。

 

「さっきの試合みてなかったのか?」

 

「いや、基本的には見てたさ。多少トラブルもあってラストアタック前の攻防辺りは見てなかったがな」

 

「トラブル……ねぇ……」

 

訝しむような目を部屋の隅で壁に寄りかかり吹けもしない口笛を吹きながらわざとらしくよそ見をしているフレイドに向ける。

 

「……正直すまん。あまりに見ていられなかった」

 

「まあどうでもいいんだけどな。俺のプランに支障はねえよ」

 

そういいながらベンチを仲介してフィールドにつながる扉へと向かうミズキは右手に持つ萌えもんボールを頭の横に掲げながらぷらぷらと横に振る。

 

「……結局のところ、主の言った通りなのだと思う。ラプラスは、ただただ嫉妬でいじけているだけだ。契約のこと、わっちら仲間のこと、主の思想、そのすべてが奴の中で小さくなってしまっているのだろう。そこにとどめとしてジムリーダーの賭けの提案が入った」

 

「カスミだってばかじゃない。それを理解してスーを賭けに出せって言ってきたのさ。戦えるかどうかも怪しいシークにタイプ相性の悪いフレイドをみて、懸念事項はスーだけだと思ったんだろう。じゃなきゃあみずのエキスパートであるカスミがいくらレアなみず萌えもんとはいえ陸上個体であるスーを欲しがるわけがない。いやらしい精神攻撃だよ」

 

「じゃあなぜそれをラプラスに言ってやらない? どのみちラプラスには負けてもらう予定だからか?」

 

 

別にフレイドはミズキを責めたいわけじゃなかった。むしろ自分にはそんな資格すらないことも自覚している。しかし、先ほどのやり取りから感じてしまうスーへの罪悪感のようなものから、ついつい余計なことを言ってしまう。

 

 

そんなフレイドに対しミズキは、一つ、思い切り息を吐く。

 

 

「言ったからどうなる? 別にカスミはお前が欲しいわけじゃないとでも言った方がよかったのか? いらないけどお前に精神攻撃するためにわざわざ賭けを申し出てきたんだから気にするな、って言えばよかったのか?」

 

 

平坦な口調のミズキの言い分は圧倒的に正しい。フレイドはただただ口ごもるだけだった。

 

 

「……なら、それを知っていてなぜ主はあの賭けを受けた? 確かにラプラスに勝ち目がないのであればあの賭けはそもそも主の計画には関係しないだろう。しかしそれでも賭けを受ける理由にはならない。現実、ラプラスの落胆の上塗りをするだけの結果になってしまった。貴様は何を思ってカスミの要求に応じたんだ?」

 

 

ぼそぼそというような声を出しながらミズキに問う。

 

 

 

 

フレイドは、『勝つのだからどうでもよかった』、という答えを予想していた。

 

 

 

 

常に視界に自分の道をとらえ、覇道を歩いているようなイメージがそぐう自分の主は、そんな傲慢な答えをするのだと勝手に身構えていた。

 

 

 

 

 

しかし、フレイドもまだまだ分かっていなかった。

 

 

 

自分の主は、傲り、驕慢する人間なんかではなく、

 

 

 

 

 

ただただ自分と仲間の利を求める、

強く、欲深い人間であることを。

 

 

 

 

 

 

「0点だ。お前のレポートは根本から間違えてる。それじゃあ答えは教えてあーげない」

 

 

 

 

 

 

悪戯な笑みを浮かべながら、ミズキはプールサイドへと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は言った。わっちは根本的に間違えている。主の思考を取り違えていると」

 

「……ああ、言ったな」

 

正確に言えばそこまで言っていないが今指摘するべき場所はそこではない。言いたいことは間違ってなかったのでミズキは素直にそれに頷く。

 

「それで? わかったのか? 俺の考えていたこと。俺の望んだこと。俺の想いが」

 

「それを当てる前に、まずは聞きたいことがある」

 

「ん?」

 

 

 

 

「今日のお前はどこまで本当で、どこまで嘘だったんだ?」

 

 

 

 

ミズキは、何もせず、ただただいつものようにくすっと笑う。

 

 

冷たい夜風が大量の汗をなでるように冷やしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、第二戦目すべてを小説に起こすような機会があれば、とてもつまらない文章になったことだろう。

 

 

 

それほどまでにひどい試合だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんなのよあなたたち……なんなのよぉ!」

 

沈黙を破ったのはジムリーダーカスミ。

 

ヒトデマンを出して挑んだ一戦目。カスミは安牌だと思っていたケーシィに敗北し、黒星を一つつけられた。その事実だけでも心に来るが、二敗したら絶対戦闘に敗北する。もう負けることはできない状況まで自分は追い込まれている。

一瞬たりとも気を抜けない。そんな気概を持って挑んだ第二戦目は、

 

 

 

 

 

「あなた、なんでそんな落ち着いてられるのよ。自分の、自分の萌えもんが、こんなにいいようになぶられてるのに!」

 

 

 

 

勝るドククラゲ、圧倒されるスー。

 

 

 

 

 

一方的だった。

 

 

なんということはない。スーはドククラゲの見かけによらないすばやさに翻弄され、見かけどおり有能な触手に自由を奪われ、予想通りにどくこうげきを受けて、予想通りにしめつけられている。

 

特筆して書くこともできやしない。完全なるスーのみず萌えもんとしてのスペック負けだった。

 

 

以前ニビジムでカブトプスと戦ったときに同じような窮地に陥ったことがある。スーに仕事が似ている相手との戦闘。今回、その時よりも幾分かましな点はいくつかある。

 

 

その最たるものとして、ドククラゲには引導火力がない。つまりスーを倒す確実な攻め手を持っていないということがある。

 

カブトプスの際には鋭く研ぎ澄まされた鎌によるいちげき、すいとる系統のライフゲインなど、警戒しなければいけないわざが山ほどあったし、どれをまともに受けても致命傷だった。ドククラゲにはそれがない。

 

 

 

しかし、今のドククラゲ、ひいてはカスミには、それを補って余りある莫大なプラスポイントがある。

 

 

 

それは、みず萌えもんとして、スーに相対していることだ。

 

 

 

繰り返し話していることだが、スーはラプラスの陸上個体である。海で暮らしていた時間は長いが肉体は彼女が地上生物であると判定している。その判定には逆らえない。

 

 

遊泳をすれば相手より遅く、水中にいれば地上よりも疲れ、みずでっぽうをうてば相手より弱い。

 

 

ある意味スーは、フレイドよりずっとこのハナダジムの挑戦に向いていない萌えもんだった。

 

 

 

 

 

「あなた、本気でラプラスに何もしないつもり?」

 

カスミは自分を落ち着かせ、静かに自分の相手に問う。それに対しその相手は眉一つ動かさずに、自分の前の浮島で、叫びも上げずにしめつけられ続けている自分の萌えもんを見つめている。

 

 

思えばこのバトルが始まった時からおかしかった。

 

この奇妙さを伝えようとしても難しいが、自分がいくらドククラゲにこうげきの指示をだし、相手の体力を削っても、勝利に近づいている気がしない。

 

どれだけどくにしてもひざを折らず、どれだけしめつけても声一つ上げず、審判のマサキが思わず目を背けるほどのサンドバック、いや、ゾンビのような状態。

 

ゲームで言うなら、何度攻撃しても黄色ゲージにならないバグの根源と戦っているような気分だった。

 

その想いはドククラゲにも伝わっていたのだろう。

“しめつける”こうげきと“どく”状態のダメージとで着実に相手を弱らせている自分の相棒は、どんどん腰が引けてきている。

 

 

 

(……いけない。これが彼の作戦かもしれない)

 

深く考えれば考えるほど、敵のどつぼにはまっていくように思える。

底なし沼に沈みたくなければ、沼の近くに行かないこと。

相手の土俵に入る前に、けりをつける。

 

 

 

 

「ドククラゲ! みずにその娘を引きずり込みなさい! 水中で相手にとどめを刺すのよ!」

 

 

 

 

言われるや否やドククラゲは自分の触手に相手をからませたまま、水深何メートルあるのかというプールへ見えなくなるまで沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

そのまま何が起こるわけでもなく、ただただプールの表面の波紋が作る景色を見続けるだけの時間が四分、五分と流れていく。

 

 

 

 

「……今度は何をたくらんでるかは知らないけど、もう終わりよ。あなたの声はもう届かない。水中であなたのラプラスは私のドククラゲにかなわない。早いうちにサレンダーするべきね、私としても賭けの対象であるあの娘がこれ以上使えなくなるのは不本意だから」

 

 

カスミは腕を組みながらなるべく落ち着き、無感情な声で、刑を宣告するかのようにミズキに諦めの言葉を促す。

 

 

結局ミズキは何のアクションも起こさなかった。スーがいくら殴られようがしめつけられようが苦しめられようが、その瞳に一切の動きはない。時折自分の手のひらの機械に目線を落とすが何をしようというわけでもない。そもそも不正を働くような機械ならばジム内に持ち込むこともできないだろうから、あれの役割はせいぜい萌えもんの体調確認ぐらいだろう。

 

 

「……手立てがないならあきらめるのもトレーナーの務めよ。いや……トレーナーの責任と言ってもいいわ。これ以上、自分の萌えもんを傷つけないで」

 

 

 

 

 

 

 

カスミの困ったような顔に、ようやく目線をこちらに向けながら、ミズキは穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなセリフも言えるんですね。R団じゃなかったならば、もっと仲良くなれたのに」

 

 

 

 

 

 

 

そういいながらまた機械に目線を落とす。訝しむような目を作りながらそれを睨むカスミに対し、ミズキはそれを高々と掲げる。

 

「これは別におかしなもんじゃないですよ。もうすぐ商品化される機械、ポケット萌えもんナビゲータ。通称ポケナビです。発売されたらどうぞよろしく」

 

客にするような笑顔で応対するミズキの態度に、少しカスミは寒気を覚える。先ほどまでの暗く冷たい何を見ているかわからないような目をした男と同じ人間とは思えなかった。

 

 

「ああ、機能はいろいろついてるんですけど、安心してください。今のこれは単なる時計ですから」

 

 

「……時計?」

 

 

それで先ほどまでの行動か、とカスミは理解する。しかし、行動の意味は理解できても思考な中身をまるで理解することはできない。

 

 

 

「……それで? まさかあなた、タイムアウトの引き分け狙いなの? 言っとくけど、私の萌えもんの体内時計はそこまで馬鹿じゃないわよ。このルールのジム戦なんて、わたしたちは何百とやってきてるんだから」

 

「もちろん、わかってますよ。俺もそこまで馬鹿じゃないんで」

 

 

 

そういいながらもミズキは時計から目を離さない。言い知れぬ圧迫感に襲われたカスミも思わず自分の腕に目を落とす。

 

 

 

タイムアウトまで、あと一分半といったところだろう。

 

 

 

「……無駄よ。残りの時間でドククラゲがあなたの萌えもんにとどめを刺すことなんて難しくない。仮に無理でもわざわざ引き分けの時間まで粘る必要はないわ。ラプラスを置いて上がってくれば、それだけでわたしたちの勝ちは揺るがな」

 

 

 

 

 

 

「誰が引き分け狙いって言いました?」

 

 

 

 

 

ミズキはそういいながら、後ろを向いて数歩歩きだす。そしてある程度離れた場所で叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ないですよ、離れないと」

 

 

 

 

 

 

 

そう叫んだあとは、一瞬、

 

 

 

 

 

 

 

 

魚雷が爆発したかのような水柱が上がり、

 

 

 

 

幻想的な怒りの咆哮が轟き、

 

 

 

 

狂気の顔を浮かべ現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げ遅れたカスミはかなりの水をかぶることとなり、

 

 

歪んだ視界から、

蒼いオーラのような何かを纏う相手の姿に、

触れてはならぬものに触れられた怒れる竜の面影を見た。

 

 

 

 

 

 

 

ミズキは笑い、目を見開き、右手を前に出し、この試合初めてこうげき指示を出す。

 

 

 

 

 

 

「水面をみろ! “れいとうビーム”!」

 

 

 

 

 

 

狂笑の面を一瞬素顔に戻したスーは、声の主の咆哮を一目見る。

 

 

 

そして数秒もたたないうちに、宙で体を思いっきり逸らし空気を蓄え、体内の冷気を一気に吐き出す。

 

 

 

 

 

今日何度したかわからない呆けた表情をさらすカスミ。

 

 

 

 

 

 

 

爆発的な威力のビームは、プールをスケートリンクに替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も見えていないのか、

他に誰もいない氷の上で、怒りのままに体を振り回し続けるスー。

 

 

 

 

 

そんなスーの下の分厚い氷が数回音を鳴らした後、

 

 

 

 

無情なブザーがジム内に響く。

 

 

 

 

『8分ケイカ、8分ケイカ。ドククラゲ、セントウフノウ。ドククラゲ、セントウフノウ』

 

 

 

 

 

 

 

 

突然ドアが開く音が聞こえ、ペタペタと濡れたプールサイドを小走りする音が聞こえてくる。

 

 

「主!」

 

 

ミズキに控室のフレイドと歩けるまで回復したシークが走ってくるが、途中でその足を止める。

その目線の先には、まるで闘牛のように暴れまわるスー。

 

足元の氷で何度も滑り、体を打ち付け、もう一度立ち上がり暴れまわる。

 

それを何度も繰り返している。

 

 

 

 

数回繰り返す様を見て、体の固まる他の物を尻目に、コツコツコツとミズキは氷のフィールドに足を踏み入れる。

 

 

 

 

それに驚くフレイドは止めようと足を踏み出そうとするが、シークに腕を引かれとめられる。

 

 

 

 

「お疲れスー。もうバトルは終わったぜ。お前の勝ちだ」

 

 

 

 

そういってコートの中心まで歩いて言ったミズキの言葉にスーの体は反応する。しかし、目の焦点は定まっておらず光がない。声も獣のような唸るような声が出るだけだった。

 

 

 

 

瞬間スーが足元を蹴ってミズキに飛びつく。決して“じゃれつく”なんて生易しい威力の物でなく、腹部に思い一撃が入り、意識が飛びかけるのを無理やり抑え込む。

 

 

 

「ラプラス!やめろ!」

 

 

 

意識を再度目の前に向けると、吠えるスーを無理やりシークが“ねんりき”で押さえ込み、隙をついたフレイドが羽交い絞めにしていた。おそらく自分を助けるために“テレポート”で駆けつけてくれたのだろうと推測し少しうれしくなるが、スーは一向に収まらない。

 

このままでは倒れるまで暴れるかもしれない。

 

 

 

 

そう誰もが思った矢先、ミズキはスーに右手をかざす。

 

 

 

 

 

「落ち着け。スー」

 

 

 

 

 

背後にいたために何をしているのかは把握できなかったが、抑え込むのに全力を尽くしていたシークとフレイドは、抗う力が緩まっていくことを肌で感じていた。

 

 

 

 

 

「…………ま……す……た……ぁ?」

 

「ああ、俺だ。お前のマスター、ミズキだよ」

 

そういいながら近づいてきたミズキは、フレイドから奪いとるように自分の胸の中へスーを抱き寄せる。スーはまどろむ目を開きながら抜けていく力でミズキの胸をぎゅっと掴む。

 

 

「ご、めん……なさい」

 

 

「何を謝るんだ。ジム戦はお前の勝ちだよ。俺はお前を勝たせてない。お前一人でもぎ取った勝利だ」

 

 

「わ、たしひとりで?」

 

 

「ああ、よく頑張った」

 

 

涙をこらえるような表情で訴えかけるスーに対してミズキは優しい笑みを返す。

 

そして安心したスーははっとした後後ろを振り返る。

 

 

 

「フレイドさん、シークちゃん、ごめんなさい。わたし……今日は……」

 

(……)

 

シークは少し考え、とたとたと歩き近づいた後、スプーンで四発ぺしぺしとすーの足をたたく。

 

「……気にするな、という意味だろうな。同感だ。お前は勝った。今はそれだけでいいんじゃないか? ゆっくり休め、スー」

 

 

そのフレイドの言葉を皮切りに、先ほどこらえていた涙があふれ出てきたかのように泣きじゃくるスー。そしてそれを見守る三人は、顔を見合わせ、少し微笑む。

 

 

涙の声が寝息に変わるまで、誰もその空間を崩すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スーに竜族、すなわちドラゴンタイプの血が流れているのはだいぶ前から知ってたことだ。というよりは最初にあいつの体つきを見た時から推測はしていたから実際は出会って対面した時から予想はしてたことになるのかね。ただそれは隠したい過去の一部なんじゃないかと思っていたから今まで特に触れることはなかった」

 

場所は移って近くのベンチ。フレイドを膝の上に載せながら頭越しに会話をしている状態だった。

 

「しかしわっちのパーティ加入によって自分の実力に自信がなくなってしまっていたスーが自信を取り戻すためには圧倒的な勝利が最適な起爆剤だ。だからこそそれを利用したわけだ」

 

「スーにはいうなよ。あくまでスーは自分の力で勝利したんだ」

 

肌寒くなってきたためにフレイドを抱きしめながら会話をしていたミズキは少し顎を引き真下のフレイドにくぎを刺すように言う。

 

「言わないさ。言う意味がない。わっちはスーが嫌いなわけではないからな。むしろ今回の一件を超えてスーも、そしてシークも大好きになる事が出来た」

 

ふふっと笑いながら言うフレイドの鬣をなでながら、ミズキもつられて幸せそうに笑う。

 

 

 

 

「それで? どこまで想定通りだったんだ?」

 

 

 

 

冷たく、というわけではないが、少しだけ声のトーンを落としたフレイドが振り向かずに背後のミズキに問う。

ミズキは何も答えず、何も聞いていないように、フレイドをなでる手を止めない。

 

「わっちのレポートが0点であるならば、わっちの考えが根本から間違っていたならば、その根本とはどこにあったのか。わっちは控室でずっと考えていた。しかしいくら考えてもその答えは出ない。どうしてもそれはわからなかった、試合が終わるまでは」

 

 

 

そう、試合は終わり、

 

スーは勝った。

 

 

 

「最終的にスーは主に頼ることなく、自分の力で勝利をもぎ取った。そこまで来てようやく気が付いた。端から主はあの二人だけでジムを勝ち抜くつもりだったのではないかと」

 

そこでフレイドは振り向く。やはりミズキは何も変わらず、少し笑っている。

 

「……なんでそう思った」

 

「そう考えればすべてがうまくはまるからだ」

 

そういいながらフレイドは自分の小さい指をミズキに差し出しながら一本ずつ指折りをしていく。

 

 

スーは嫉妬の想いを糧にし、理解し、乗り越え、自身を取り戻した。

 

シークは自分が勝たなければという想いで発奮し、見事初勝利を挙げユンゲラーへ進化した。

 

フレイドは戦うことなくチームの皆に実力を認めてもらい、そのうえで苦手なみずタイプと戦わずしてジム戦を終えた。

 

マサキはミズキの賭けに乗ることで、無事自分の平穏を手に入れた。

 

ミズキはR団に勝利し、欲しい情報を手に入れた。

 

 

 

「わっちらの勝利を前提とした場合、主の行動は主側の者すべてに最高の結果をもたらして終わる結果となった。これは単なる偶然とは思えない。いや、我が主がこれをすべて偶然で創りだしたとは思えない」

 

それに、と言いながらフレイドは続ける。

 

「スーの怒りの力を利用しドククラゲに勝ったことだって、本来だったらギャンブルだ。スーが怒りを爆発させる前にノックアウトされてしまうかもしれない。しかし、スーは“シェルアーマー”だ。どれだけ直撃のこうげきを受けても致命傷になることはない。必ず倒れる前にスーは我慢の限界が来る。そう思ったからあんな一見無茶苦茶に見える作戦をとった。もっと言えばカスミの提示した賭けを利用し、スーの心を煽っておいた。ドククラゲにやられ、なぶられるうちに確実にキレて爆発するように」

 

 

 

すたっ、とベンチから降りたフレイドは、真剣な顔でミズキを見る。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでがわっちの作り上げたレポートだ」

 

 

 

 

 

 

 

その眼を見返したミズキは立ち上がり答える。

 

 

 

 

 

 

「95点。優等生をもって幸せだよ、俺は」

 

そういって荷物を持って宿に戻る。その後ろ姿を追いかけるフレイドは喜ぶ口元を抑えきれずに少し音が上がった声を出してしまう。

 

 

 

 

「の、残りの5点はどこにある?」

 

 

 

 

ミズキは悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「教えない。俺は生徒に答えを渡さない主義なんだ。再提出はいつでも受け付けてやるよ。100点は自分で目指すものだぜ」

 

 

「……スパルタだな、主は」

 

 

「うるせえドM犬」

 

 

くすくす笑いながら並んで歩く二人の歩調は軽快だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

R団に勝利し、欲しい情報を手に入れた、か……

 

 

 

 

 

あれは本当に俺の求めた答えだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

少し考え、頭を振る。

 

 

 

 

 

……答えを先延ばしにしても仕方はない。

 

 

 

 

R団を壊滅させる。

 

 

 

 

自分はそのために生きているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの勝ちです。質問には答えてもらいますよ

 

 

……言っておくけど、私は大したことを知らないわ。内部情報なんてほとんど持っていないわよ。うちの組織は慎重派なの。拷問を受けても情報を吐かないように、本部の場所さえ知りはしないわ。私に来るのは指令だけ

 

 

……ええ、もちろん。知ってることだけ答えてもらって構いません。俺は別に組織思いなあなたのことは嫌いじゃないので、当然拷問なんかもしませんよ

 

 

……甘い男ね。で、何を聞くのよ?

 

 

 

 

 

 

あなたとサカキ以外の、ジムリーダーのR団は、誰ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿の部屋まで戻りベットに腰掛けるミズキは、ぐっすりと眠る仲間を一瞥した後、ベッドサイドランプのもとにあるパンフレットを取り、数ページめくる。

 

 

それはカントー地方に来た別地方のリーグ参加のトレーナーのための協会発布のものだった。

 

ミズキが開くページには、カントーのジムバッジを司る八人の顔写真が印刷されていて、その脇にはそれぞれのジムリーダーの一言コメント、そしてそのジムリーダーのいる町はどこか、といった情報がすべて書き込まれていた。

 

 

 

 

 

 

部屋備え付けのボールペンを机から抜き取り、二箇所にペケマークをつける。

 

 

 

 

 

あと、六人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで、なんであなたまで……」

 

 

 

演技の必要がないただ一人の空間に、悲痛な嗚咽が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――絶対戦闘結果――――――――――――――――――

                   一戦目

              ×ヒトデマン‐ケーシィ○

              決まり手 めざめるパワー

 

                   二戦目

              ×ドククラゲ‐ラプラス○

              決まり手 れいとうビーム

 

                  勝者 ミズキ

                  審判 マサキ

               




前にポケナビの話題に触れたときに名前を萌えナビに変え損ねたのは内緒のお話。


長かったハナダ編がついに完結!


次々に明らかになっていくスーの過去! ミズキのすごさ! シークの語録! フレイドの無駄な人間知識! 


一体彼らはどこへ向かうのでしょうか? 続く。
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