久しぶりの日常、というわけでもないけど、まったり回です。
夕方までには次の町に行こうというプランの元、ハナダの町を出ようとしている四人の会話は何とも言えない表情で主を見上げるフレイドの言葉から始まった。
「……この数日間で何度言ったかわからないが、あえて重ねて言うぞ。貴様本当に人間か?」
「……昨日までつけてた包帯が、全部とれちゃいましたね……」
「俺が知るか。俺は普通の人間だ。文句は俺の体に言え」
(ぱちぱちぱちぱち)
二人がこちらの腕を見て渋い表情を浮かべるなか、シークだけが素直に主の身を案じ祝福してくれる。
「シークぅ。俺の味方はお前だけだよぉ」
言いながらシークを抱え上げ抱きしめながらもこの激動の二日間を振り返りながら二人の言い分ももっともであることを痛感する。
「わっちと二回本気で戦闘した傷が一日で癒えるのが普通の人間のできることか!? 見ろ! この二人の包帯の数を! 萌えもんですらこの様だというのに人間が先に完治するとはどういうことだ!?」
耳が痛い話だなあ、と思いつつも適当に流しつつもそのまま歩き出す。
「だから俺は知らねえって。うだうだ言ってると置いてくぞ」
「ぬっ! そうだ、主! 治ったのなら再戦だ! 次こそ貴様の顔を土につけて見せるぞ!」
「……ほう。懲りないのう。この駄犬は」
「『再戦を断るのは男が下がる』のだろう?」
「負けが嵩む前に撤退するのは立派な戦略だと思うけどね」
「ふっ。昨日までのわっちと思わないことだ。貴様を地獄に落とす戦略は昨晩練りに練りつくした」
「無駄な努力、って言い方は好きじゃないけどな。そういう状況のために『徒労』って言葉は存在するんだぜ?」
二人そろってピタッと歩を止め、一定距離を取り真剣な目で相対する。
「……焼き潰してやる」
「捻り殺してやる」
「人様のお庭で何をやりだすつもりですか! やめてくださーい!」
その日のハナダの昼時はとある豪邸のそばで修羅と焔の妖怪が暴れまわったという話でもちきりだったとかじゃなかったとか。
「げふっ、ま、また負けた……」
「十年早い。お前の売りは持ち前のすばやさと遠距離からのとくしゅこうげきだろ。だがここ三日間の連戦で俺はお前の動きに大分目を鳴らす事が出来たからな。だったら次はスピードを生かした近接わざより正確性を重要視したほのおこうげきに重点を置いた方が勝率は高い。“インファイト”を好みすぎてるんだよ。それで何回“しっぺがえし”くらってるんだ」
「ぐぬぬ。しかし、萌えもんとしてそんなわざだけで攻撃して人間の主に勝利するわけには……」
「プライドっつーのは上に立つ奴が持って初めて意味をなすものなんだよ。一丁前なこと言ってないでとっとと俺に勝ってみせろ」
椅子に座ってふてくされている傷だらけのフレイドにその傷をつけた張本人であるミズキが手当てをしているという現状を見て、スーから少し笑いが漏れる。
「全く、仲良しさんなんですから」
「お?」
「ん?」
(……)
スーの言葉に思わず三人は顔を見合わせる。
「へっ? 何かわたし、変なこと言いました?」
一人顔を見回しながらきょとんとした顔を浮かべるスーを見て、我慢できなくなったミズキとフレイドの二人はケラケラと笑い、声を上げないシークでさえも、にっこりとした笑顔をスーに向ける。
「ちょ、ちょっと! なんですかいきなり人の顔見て笑い出しちゃって! みなさん、とっても失礼ですからね!」
スーの場違いな声が笑い声にハミングする。
「あーあ。わらったわらった。悪かったな、スー。反省してる」
「いやー申し訳ないなスー。唐突に楽しくなってしまったんだ。反省している」
(ぽんっ)
スーの方にシークが一回手を置く。普段の「YES」の合図だから同調したいだけなのだろうが状況から言って憐れんでいる、所謂「肩ポン」の形に見えなくもない。
「……絶対反省してないですね!」
ぷんぷん、と言わんばかりに前をどたどたと進んでいくスーを見つめながら、後ろの三人はもう一回くすっと、今度は優しい笑いを向ける。
スーは気づいていない。
昨日同じように暴れまわったミズキとフレイドに対し、自分はただただ嫉妬するだけだったということを。
スーは気づいていない。
自分が成長したことを。
昨日、ずっとスーを思い続けていた三人には、
それがよくわかった。
「さてと、茶番もそこそこに。そろそろ本格的に次の町を目指すとしましょうかね」
「茶番!? わたしは茶番のためにひとしきり笑われたんですか!?」
「本格的に目指す? 移動手段でも手に入れたのか?」
「無視ですか!? 無視なんですか!? ちょっと!?」
「おお、察しがいいなフレイド。大当たりだよ」
「……シークちゃあん」
(なでなで)
進化したことでさしてスーとの身長の差がなくなったシークは少し背伸びをして涙目になるスーの頭を軽くなでる。
「……いじめがいのある娘だなあ」
「……悪い顔だな主」
「いやいや、フレイド様には構いませんて」
「……で? 移動手段とは何のことだ」
「お、強引に逸らしたな。まあいいや」
そういいながらミズキは先ほどの戦闘で軽く煤けた上着の裏ポケットから黄色く少し丸みを帯びた小さな端末を取出しそれの下側に、黒いコードと小さな四角形の正体不明の電子機器がつながったプラグを差し込む。
「それが主が開発したとか言ってたポケナビというやつか?」
「そ、この黄色いのがな。だがこっちの機器はまた別件だ」
四角形の機器を片手で少し上げ、もう片方の手でそれを起動させながらフレイドとの会話を続けていると、ナビから音が鳴り響く。
『イクーゼ ハゲシクモエルバトルー』
「のわ! な、なんだ」
「……お。グッドタイミング」
ぴっ、とポケナビの真ん中の青いボタンを押してミズキはそれを耳に当てる。どうやら電話の機能もついているらしい。
「もしもし。ああ、マサキさん。先ほどメールしたとおりです。今すぐ作動させてください。はい、はいはい。お願いします」
ぴっと再度ボタンを押して今度は四角形の物体を前に掲げる。
「……これはいったい何をしようとしているんですか?」
ようやくもどの状態の戻ったスーがフレイドを連れてこっちの方へ歩いてこようとしたのを、ミズキは声で制止する。なぜか、と問おうとした瞬間に、疑問は驚愕に変化し吹き飛んだ。
四角形の機器の画面が光ったかと思えば、その前にじてんしゃが姿を現した。
「……マサキさん。“リアライザー”、完成ですね」
「リアライザー? 主、それはいったいなんなんだ?」
初めてみるじてんしゃという物に目を輝かせるスーとシークを尻目に、フレイドはミズキの手の中にある四角形に興味を持ち続ける。
「うーん。簡単に言うと“持ち運べるどうぐあずかりシステム”かな。お前は知らないかもしれないけど俺はいつも町を出る前にいろいろバックの中身をパソコンの前で選別してるんだ」
「ああ、いつもパンパンのバッグを持ち歩きながら旅してたんですよね。今日は持ってないですけど」
自転車から興味をこちらに移したスーが言う。
「その通り。今までは何とかそれでこなしてきたがここから先もっと大所帯になった時にいずれ厳しくなってくるだろ? っつーのをマサキさんに相談したら『試作製品のモニター扱いになるけど使ってみるか』ってことでこれを俺に預けてくれたってわけだ」
小さな機械を見せつけるようにひらひらを手を上げて振る。
「なるほど。それで今まで嵩張る荷物になるということで利用できなかったじてんしゃを用意したというわけか」
「大正解。幸いハナダにはじてんしゃショップがあるからな。これを昨晩に受け取ってからすぐに買いに行ったよ」
くすくす笑いながら、いまだじてんしゃに興味津々のシークを持ち上げ前かごに載せ、脇にいたスーを持ち上げ後ろに乗せる。
「お前は一人で走れるだろ。それともボールに入っておくか?」
「馬鹿にするな。わっちのスピードは知ってるだろ。その程度のじてんしゃの速度に負けることはない」
「なにおう、と言いたいところだが、正直あまりいいもんではないからなあ。店で一番安いものを買ってきただけだったし」
がちゃこん、という安っぽい音を立てて跨りながら愚痴をこぼす。
「ほー。いったいいくらだったんだ?」
「100万」
「はっ?」
「1000000円」
「……」
場面は変わってヤマブキシティ北部。
「はあ? 通行止め? 四方の通路全てですか?」
「ああ。何でもヤマブキシティ全体で大々的な改装工事をやるらしいよ。かなり前から計画していたんだけど、最近シルフカンパニーが費用を全額負担したことでついに行動に踏み切ったとかって話を聞いたけど」
「はー。太っ腹な社長様がいらっしゃること。大富豪ってのはそこら辺にいるもんなんだねぇ」
「「(……)」」
「……なんだよお前ら」
周りの三人が何とも言えない表情を浮かべてまっすぐにこちらの目を見ている。なんだよ、言いたいことがあるなら何でも言えよ。
「別に」
「何も」
ぽんぽん。
「……俺は四年間研究員してた時の給料と賞金が丸々バンクしてあるんだよ。それこそ一生くいっぱぐれないくらいにな」
言い訳にもならない言い訳を並べる。が、当然それで、なるほど、と話が片付くはずもなく、
「普通の研究員が普通に働いてそんなことになるのか?」
という質問が飛んでくるのは自然な流れで。
「……」
「ならないんじゃないですか」
「ほう、一番俺のバンクの恩恵を授かっている奴が何を言うか。せっかくだれかさんのために野宿の時でもいつでも食料を転送できるリアライザーなるものを入手したというのに」
「マスターは神です。神が何をどう使おうと神の勝手なのです」
「お前もなかなかに簡単な奴だな」
シークが全員を傍観しながら、やれやれ、みたいな態度をとっていたのに気が付く者はいなかった。
「さてと、どうしたもんかね」
ヤマブキシティに門前払いを食らってしまったミズキ一行は5ばんどうろへ戻って立ち尽くしていた。
「そのヤマブキとかいうところしかハナダから隣接する町はないという事か?」
「あるにはある。だが隣接しているというにはかなり厳しい場所にあると言わざるを得ないな」
何せハナダの脇道から思いっきり最東端にそれたイワヤマトンネルという洞窟を通って通過しなければならないというルートだ。こう数日のうちに何度も何度も登山なんぞしたくないというのもあるが最大の理由はほかにある。
「そのトンネルは暗いんだ。おつきみやまと比べるととくにな。トンネルを掘ったはいいんだが位置が今言った通りなもんだから整備に行くやつがだれもいない。さらには野生のゴローンなんかが侵入者に対して“じばく”や“じしん”なんかしてくるからたちが悪い。誰かが入る度に地形変化が行われちまうから地図を作ることもできなくて掘った奴らもお手上げって状態だ」
いまやイワヤマトンネルまで行くやつは自信家の命知らずか自殺志願者しか行かないとまで言われる始末だ。まあもともとヤマブキシティがなくカントー地方が東西南北に四分割されていた時代に使われていた過去の遺産のようなものなのでそういわれるのも無理はないが。
「じゃあどうする主?」
「……どうせ進めないんだったらいったんハナダに戻ってマサキさんと対策立て直すか。カスミとは『絶対戦闘』での契約があるから今のところハナダにいれば安全だしな。せっかくだからスーとシークの回復期間に充てるっていうのもありか」
「……あまり気は進まないが妥当なところだな。おい、お前らとしてはどうなんだ、スー、シーク」
フレイドはそこで振り返る。しかしそこにはミズキと手をつなぎながら歩くシークの姿しか見当たらない。
「……スーはどこだ」
「さあ? あいつは好奇心と欲望の塊みたいな生き物だからな。俺たちと一緒に考えてるのは性に合わないんじゃないのか?」
何時ものことだと言わんばかりのミズキにフレイドはやれやれといったポーズをとる。
「安心しろ。どうせそのうち戻ってきて騒がしくなるさ」
「今の発言のどこをどうしたら安心できるん「ま、マスター! こっちに来てくださーい!」
言葉を遮られた上に嫌な予感的中で悲しそうな残念そうな表情をしているフレイドを見てミズキはくくくとこらえるように笑う。
「あそこ! あそこに変な家があります!」
スーが騒いで指差す先には通路に囲まれるように立っている一軒の家があった。ああ、なるほど、そういえばこんなところがあったな。確かにこれは変な家だ。
どのように変な家かと言えば、最大の特徴は立地条件だ。不動産屋にこんな家が紹介されていたら本当にこの家を売る気があるのかと思うような条項が並ぶことだろう。
「……この段差を登る事が出来ない限りは上から段差を飛び下りてこなければいけないわけか。なるほど、変な家だな」
「天然のホームセキュリティだな。当然これにも理由はあるさ。ちょうどいい、この家を訪ねてみようか。スーとシークの医療に専念するっていう目的にも一致する施設だ」
そういうとミズキは振り返りシークと手をつなぐ。それだけで全員が次にやろうとしていることを理解しシークにつながっているミズキの体にしがみつく。
三人が一瞬目をつむり、次にあけるとそこは件の施設の前だった。
「やはり便利だな。テレポートは」
感心するように言うフレイドにほかの二人も同調する。
「カスミ戦の要わざでもあったしな。戦闘離脱用のわざだと思ってるやつが多いがコントロールできる奴が使えばこんなに有用なわざもない」
「わたしもすっかり甘く見てました。ごめんなさいシークちゃん」
そういうスーをシークは笑顔で四発ぺしぺしとたたく。
「さてと、しかし初めて見たな。これが“そだてや”か」
「そだてや? 主、それはいったいなんだ?」
「そだてやっていうのはその名の通り、萌えもんを育てるための施設だ。トレーナーの中には自分で萌えもんを育てるという技術がなかったり時間がなかったり気概がなかったりするやつがいる。そういうやつらに代わって萌えもんを立派に育て上げてやるっていうのがここの目的だ」
「……あまりいい気分はしないな。萌えもんを捕まえておきながらそういうことをする輩がはびこっているという事実は」
「フレイドさん……」
苦い顔をするフレイドにスーはこれまたつらそうな顔を向ける。
「余計なことを言ったな。忘れてくれ」
「……まあお前の気持ちはよくわかるさ。こういう施設で商売ができるっていう現状は俺もどうかと思うしな。だがこの施設の目的はほかにもあるんだ」
そういいながらミズキは家のわきの方に見える柵の中の牧場を指さす。
「あそこがこのそだてやのオープンスペースだ。あそこはいろんなトレーナーから預かったたくさんの萌えもんが遊んだり、走ったり、戦ったりして自分で成長してもらうためっていうのが基本の利用目的なんだが、優秀なそだてやは萌えもんの『タマゴ』を作ることを任されていることがある」
「タマゴ?」
「そう。ちょっと言い方は悪いが『萌えもん交配』だ。俺はスーを捕まえてから旅に出たが最初からてもちを持たずに萌えもんがゲットできることなんてそうそうありはしない。そういう初心者トレーナーのためにカントー地方ではヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネの三種を専門のそだてやがタマゴから返し、ある程度のレベルになるまで鍛えてから初心者トレーナーに任せるっていうシステムだがあるんだ」
「カゲ君やゼニちゃんがそれにあたる子たちですね」
スーが思い出したかのように言う。
「そういう事。そだてやを営んでる人たちっていうのは、そうやって幾千の萌えもんの育成に携わってきた萌えもんブリーダーのスペシャリスト達なのさ。そういう理由からそだてやの人たちはトレーナーを隠居した老夫婦とかが多いんだけどな。そんな人たちがいる場所だったらお前らの息抜きにもピッタリじゃないかって思ったわけだ」
スーとシークの頭をガシガシと撫でながら言う。二人が照れた笑顔を浮かべる中、フレイドはまだ怪訝そうな顔で牧場を見つめている。
「……まだ何か気に食わないことがあったか? フレイド」
少し悲しそうな優しい声で、ミズキは聞く。
「いや、そだてやという場所のシステムはわかった。すべて認めたと言えば嘘にはなるがある程度理にかなった施設であることも理解したつもりだ」
「……なら、どうしたんですか?」
「いや、なに。だったら今日は休業日なのではないか、と思っただけだ」
昼の只中にすっからかんな牧場を見つめ、つぶやくフレイドの言葉にミズキは眉間にしわを寄せる。
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……というのを後書きで言おうと思って話を書いていたらいつの間にか100を大きく上回っていました。嬉しい悲鳴です。
見てくださった皆さん、感想をくださった皆さん、お気に入りしてくださっているみなさん、評価してくださった皆さん、本当にありがとうございました!