罪深き萌えもん世界   作:haruko

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遅れて申し訳ございません。もう手遅れな報告ですが、ここから更新ペースが落ちます。



忘れたころに必ず連投が始まるので是非お気に入りから外さずに待っていて下さると幸いです。遅くても今度の長期休みには戻ってきて十話くらい投稿していくと思います。




話は変わりますが風邪で倒れるサトシと男装セレナがかわいかったです。


第6話 3 求めるもの

 

 

 

 

「バトルルームにお呼びしたのはミズキ様だけでございます。他の方々はぜひ、客席の方へお上りくださいませ」

 

 

乗船時の男と似たような、黒服がバトルルームへの通路で、当たり前のことを言っている、と言わんばかりの表情で立ちふさがる。そんな男を無言でにらみつけるミズキの後ろから、はじかれた者たちの怒号が飛び交う。

 

 

「ざけんじゃねえ! ブルーは俺たちの“おや”なんだぞ“! 俺たちが行くのは当然だろうが!」

 

「そうよ! だいたい、なんでブルーがこんな目に合わなくちゃあいけないのよ! あんたたち、いったい何が目的なのよ!?」

 

 

ヒステリックな叫びが鉄の通路に響き渡る。黒服の男はにやりとした笑みを浮かべ、その前のミズキは全く微動だにしない。

 

 

「あなたたちにお話しする必要はございません。こちらから出す条件は一つ。『ミズキ様とマチス様による一対一の非公式絶対戦闘の承諾』。万が一マチス様が敗北した場合、人質は解放しましょう。しかし、ミズキ様が敗北した場合、もう二度と、我々に害を及ぼすことの無いように……

 

 

 

 

R団の傘下に加わっていただきます

 

 

 

 

「! R団!?」

 

ゼニやおにぽんが一気に警戒の体制を強め、りゅうが後ろでただただおびえている最中、ミズキ、スー、シーク、フレイドの四人は、何でもないようなリアクションで聞き続ける。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! いろいろおかしいけど、そもそも非公式の絶対戦闘なんて、受ける意味はないわ! わざわざあなたたちの土俵に上がる必要なんてない! 今から私たち全員で殴り込めばいいんだから!」

 

「そ、そうだ! だいだい、『非公式』ってことは形だけの戦闘(ケンカ)ってことだろう!? それじゃあお前らが約束を守る保証もねえ! ミズキのだんな、こんなのやることねえぜ!」

 

「おや、残念ですね。ならばブルー様がどうなっても構わないということでよろしいですね?」

 

「て、てめぇ!」

 

掴みかかりそうになるおにぽんをゼニが後ろから引き止めるが、そのゼニも歯をくいしばって耐えているようだった。そんな二人に近づきながら、男は目の前でしゃがみ、子供と目線を合わせるようにして言う。

 

 

「何か勘違いしておられるかもしれませんが……我々はあなた方にお願いしているわけではありません。これは命令です。そもそもR団に逆らうあなた方に払う敬意などないのです。ミズキ様、あなたをとらえるだけなのであればあなたが船に乗った時点で我々の勝ちは決まっている。それでもただ襲撃を仕掛けるのではなく、こうしてわざわざ戦闘の場を設けて差し上げているのは、ひとえにマチス様が楽しみたいからにほかなりません。あなたたちはただ、マチス様の願望をかなえる、駒となっていればそれでいいのです」

 

 

下種な笑顔を隠そうともせずにおにぽん、そして振り返り様にミズキに安い兆発を放つ。

 

 

「てめえ! いい加減にしやがれ! だんな、今すぐこの男をぼこぼこに……」

 

 

 

 

 

 

「フレイド、準備しろ。スー、シーク、三人を連れて上にあがっとけ」

 

 

 

 

 

 

「「了解(です)」」

 

 

(ぺし)

 

 

シークが一発ミズキの足をうったのを最後に、ミズキとフレイドは前へと進み、スーとシークは後ろに戻っていく。

 

 

「! だ、だんな!? なんで!」

 

 

「お前ら、さっさとスーたちについていけ。これは俺が挑まれたバトルだ」

 

 

コキコキと体を慣らしながら、ミズキが振り向かずに答える。スーとシークは固まっているりゅうの手を引いて、客席への階段を上っていく。その場に残ったのは、ミズキとフレイド、そして、おにぽんとゼニだった。

 

 

「賢明な判断ですね」

 

 

黒服の男のそんな嫌味にも反応せずに、おにぽんとゼニは全くその場を動かない。

 

 

ゼニは何かを思うように黙り込んでいるが、おにぽんはというと、みてわかるほどに激昂している。

 

 

「なんだよ……なんなんだよ! なんであんたはR団に狙われてるのかとか、なんでブルーが人質に取られたのかとか、そういうのは一切説明しないくせに、俺たちは黙って自分に従えって!? 結局あんたも、あいつらと同じかよ! 自分さえよけりゃあそれでいいのか! あんたのせいで、ブルーはさらわれたんじゃねえのかよぉ!?」

 

 

「ちょっと! おにぽん、言い過ぎよ!」

 

 

再びおにぽんをゼニが抑える。しかし、今度は体を振られしっかり押さえる事が出来ないでいる。

 

 

「うるせえ! あんたはブルーはどうでもいいのか! あいつらを倒せりゃあそれでいいってのか! ブルーは、ブルーはあんたのことを、ずっとずっと想ってたんだぞ! ふざけんじゃね」

 

 

 

 

 

「いくつか言いたいことはあるが、一個だけてめえの勘違いを訂正させてもらおう」

 

 

 

 

 

黒服の先導に従い、歩き出したミズキは、ぼそりとつぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、ブチ切れてるよ。お前以上にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後に聞こえた耳をふさぎたくなるいやなおとで力が抜けたおにぽんは、それがミズキの歯ぎしりの音だったことに気づき、しりもちをついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の対戦フィールドで特筆すべきことは何かというと、特徴がない、という事だった。

 

ニビジム戦では地面は砂。潜れる深さもあり、いわタイプのわざで利用することもできると、まさにいわタイプのためのフィールドだった。

ハナダジム戦は言わずもがな。プールを基に作られた、水中戦という慣れない状況下でのみずタイプとの対戦を強いられるフィールドだった。

 

 

では今回のフィールドはどんな仕掛けがあるのか。

 

 

はっきり言って何もない。オーソドックスな、教科書通りのノーマルフィールド。

 

下を見ると、少し土っぽいがガチガチに固め敷き詰められた床があり、ある程度の破壊力のあるわざでなければ潜るどころか罅を入れることもままならないであろう薄茶色の地面を作っていて、その上に白線で行動範囲とセンターラインが引かれている。長旅をするサントアンヌ号の旅行者たちがずっとここで楽しめるように耐久性に重点を置いて作られたことが推測される。

 

周りを見ると数メートルほどの青っぽい壁があり、目線を少し上にあげるとスー、シーク、ゼニ、おにぽん、りゅうが顔をのぞかせていて、その周りには全員の同じ仲間であろう先ほどと同じ黒服の男数十名がフィールドを囲むように陣取っている。唯一先ほどと違うことは、スーツのようなぴっちりとした高級感のある黒服から、『R』の文字が際立つ自分が大嫌いな服装に代わっていたことだった。

 

 

 

「一対一とか言っといて、舌の根乾かぬうちにこれかよ。やってくれんじゃないの、マチスさん」

 

「Nоn Nоn。こいつらはバックアップさ。てめえが途中で逃げ出さねえようにするためにな。まあてめえが船に乗った時点でお前をとらえろっつーBossからの指令は半分クリアしたようなもんだからな」

 

コートに向き直り正面を向いたミズキは、けっ、と吐き捨てるように言いながら今回の敵を改めて認識する。

 

 

 

クチバジムジムリーダー、マチス。

 

 

 

軍人上がりのアメリカンな迷彩柄の服を肌に直接身に着け、その服の間からは仕上がった体が見え隠れしている。それなりに鍛えていると自負しているミズキであるが乱闘で勝ち目はないだろう。

そもそも乱闘であれば罠にはまった自分たちには勝ち目はない。ならば、なぜマチスはわざわざこんな舞台を設けたのか?

 

 

 

ミズキはいら立ちを隠すことなくマチスに言う。

 

 

 

「……俺にはあんたの趣味に付き合ってるような暇はないんだけどな」

 

 

 

「……ヒュー、Cool。聞いた通りの頭脳だな」

 

 

 

マチスは楽しそうに首を鳴らす。

ニタニタとした卑しい笑いに思わずミズキは唇をかむ。

 

 

 

 

「そう、俺様は強いやつと戦いたいんだ。軍にいたときだってそうだった。はむかってくる奴は全員黒焦げにし、倒し、壊滅させ、立ち上がるやつをまた倒して、気が付きゃ後ろのカスどもにあがめたてられ、大佐なんてくそいらねえ称号ももらった。はっきり言って煩わしかったよ」

 

 

自慢するような口調ではなく、むしろ忌々しい過去を話すかのような口調で言う。

 

 

「だから俺様はその地位を利用してジムリーダーになった。だが結局やることは軍の時と一緒だ。カスみたいなトレーナーを次々潰していくだけの作業。刺激が足りねえ。戦っているっていう実感が足りねえんだよ! 勝つか負けるかの瀬戸際の勝負、俺様が求めてるのはそれ一つだけ! お前とならその実感が得られる! さあ、ヤろうぜ! 全力のバトルを! 気が狂っちまいそうなほどに滾るバトルをしようじゃねえかよぉ!」

 

 

涎を垂らさんばかりに長い舌を伸ばしながらの不気味な笑顔は場の空気をこおりつかせるには十分な力を持っていた。上から見ていたスーたちは言葉をなくしており、りゅうとシークにいたっては体を寄せ合いおびえている。

そしてその周りのしたっぱたちはニタニタとしたいやらしい笑いをミズキへと向けている。

 

 

 

 

任務の遂行を目的としているならば、このバトルは全く必要のないものだ。

 

先ほどの黒服が言っていたように、奇襲をかけるなり、睡眠薬を盛るなりすれば、自分はともかく、萌えもんたちは無力化できることだろう。

 

しかし、したっぱたちはこの作戦を容認している。

 

それはなぜか。

 

 

 

 

 

簡単だ。誰もマチスが負けるなどとは、露ほどにも思っていないのだろう。

 

 

 

それほどまでに彼は強いのだろう。

 

 

 

 

 

 

しかし、そんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

「……あんたのその汚ねえ欲望を満たすためだけに、ブルーに手を出したのか?」

 

 

 

「Aha~?」

 

 

 

笑顔を崩さずにマチスが反応する。

 

 

 

 

「……その反応を見る限り、俺の作戦は正解だったみてえだなぁ……」

 

 

 

 

そう言いながらマチスは右腕を高々を掲げ、パチンとはじく。

 

 

 

 

 

「俺は心配だったんだよ、俺たちの罠にはまっちまったことで、てめえのやる気がなくなっちまうことがよお。だからお前の女を先にとらえた……こうするためになあ!」

 

 

 

 

 

 

そう言ってマチスが右手を上げるのを合図に、本来の審判位置のやや後ろあたりの床が開き、

 

 

 

下から大きな大きな椅子がせりあがる。

 

 

 

 

 

そこには、手足を椅子につなぎとめられた眠ったままのブルーの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「ブルー! ブルーーーーーー!」

 

 

「動くな!」

 

 

 

 

 

叫び、飛び立つ寸前だったおにぽんを傍にいたしたっぱが地面にたたき伏せる。

 

 

 

 

「かはっ! て、てめぇ……離しやがれ!」

 

「それ以上暴れるならば、あの小娘はどうなっちまうかわかんねえぜぇ?」

 

地面に伏せさせられているおにぽんに、別のしたっぱがしゃがみこみながら、わざとらしい嫌な言い方でおにぽんに告げる。

 

 

 

 

 

 

「絶対戦闘の賭けの確認だ」

 

 

マチスは懐からすっと一本のカギを取り出す。

 

 

「俺様が負けたら『この小娘を開放するためのカギを渡す』。お前が負けたら『R団の傘下に下る』。もしも、途中でこの戦闘から逃げようものなら……」

 

 

 

マチスは腰から一つボールを外し、審判位置、つまりブルーの目の前にほおる。そのボールがはじけると同時にまばゆい閃光がフィールドを包み、思わずミズキたちは目をつむる。

 

 

 

 

 

そして再度目を開き、唇をかむ。

 

 

 

 

 

「俺様のライチュウが、この小娘を二度と動けなくしてやる」

 

 

 

 

 

ボールを投げた手をそのまま自分ののどへと持っていき、親指だけを下に下げて手を横にずらす。古いヤンキーのちょうはつのような動作だった。

 

 

 

「こ、この野郎! なんでそいつなんだ! 俺と、俺と勝負しやがれえ!」

 

 

 

上で騒ぎ、抑えられているおにぽんを一瞥しながら、ライチュウに目を向ける。

 

 

 

普段はかわいらしくその姿を彩る丸い耳が思いっきり鋭く天を衝いている。体内でんきが最大まで“じゅうでん”されている証拠だ。そして椅子に座りながら動かないブルーの首元までまっすぐ伸ばされているするどいしっぽは、進化前のピカチュウにはない汎用性を持ったものであり、今回はその性能の一つである、でんげきの発射砲台を担っている。

 

 

なるほど、発射されれば黒焦げだろう。二度と動けなくする、というのが脅しでないことは十分にわかる。

 

 

分かるからこそ、いらだちは募る。

 

 

 

 

 

 

「さてと……じゃあそろそろスタートだぜ。まずは俺様の萌えもんからお披露目と行こう」

 

 

そして二つ目をボールを取り、高らかに上に放り投げる。

 

 

 

 

「Come on 、エレブー!」

 

 

 

 

 

バリバリバリ、という気持ち良くすら聞こえる轟音と共に、フィールドを雷(いかずち)が駆け巡る。

それが地面に吸い込まれた後、腕を振り回す姿を目視できるようになり、動く体の端々からパチンパチンと“せいでんき”がはじけている。

 

 

「でんげき萌えもん、エレブー。でんきを食べてそのまま体内に電気をため込む性質からでんきタイプのミラーマッチにめっぽう強い……か」

 

 

秘密兵器はまた次回だな……

今回は純粋なほのおの力で戦うしかない。

 

 

 

「GO、フレイド」

 

 

 

フィールドに入る前に戻しておいたフレイドのボールのボタンを押す。再び場に出てきたフレイドも少し苦い顔を作る。

 

「……強いな」

 

「ああ。これまでのお前の相手と比べても最高クラスだ。気を引き締めろ、油断したら一瞬で逝くぜ」

 

 

ミズキが腕を組みながら答える。

 

 

その姿を見たフレイドはふっ、と一つ笑いエレブーに向き直る。

 

 

 

 

「……そのふてぶてしい態度、物怖じしない姿勢、俺様の目に狂いはなかったな」

 

 

 

 

マチスの言葉を眉一つ動かさず体勢を崩さずそのまま聞く。

 

 

 

 

 

「てめえは俺様と同じ臭いがする。目的のために何でもできる、孤高の強者の臭いがな」

 

 

 

 

 

「ほざいてろ。俺はブルーを取り戻す。そのためだったら何でもする」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――戦闘開始―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「先手必勝! エレブー、“かみなりパンチ”だ!」

 

腕を振り回しバチバチと火花を散らしながらどこどこと一直線に近づいてくる。

 

 

 

腕を組んだままフレイドに出す指示を考えるために攻撃を受けるまでの数秒間で思いっきり思考を回す。

 

 

 

エレブーは速い。

 

 

フレイドはスピードにかなり自信がある種の萌えもんだ。これまでの自分との戦闘で見せた“こうそくいどう”を筆頭に、わざを繰りだすまでの瞬発力も、直線的な動きはもちろん曲線的な動きでさえ、スーやフレイドとは別の次元ともいえる動きを展開できる。

 

だが前にもふれたことだが、萌えもんの成長レベルにはガーディという種族の限界値がある。

 

 

そしてエレブーのすばやさともなると、その限界値を悠々と超える事が出来る。

 

 

少なくともたんじゅんにかけっこをしあって、フレイドの勝てる相手ではない。

 

 

 

「フレイド、迎え撃て! “ニトロチャージ”!」

 

正面から思いきり突き出している拳に頭から突っ込むかのように、自分のわざをぶつけに行く。

 

 

 

雷と炎の力が場の中央で激突し、弾け、四散する。

 

 

 

「……悩んだ結果、すてみの特攻か? どこまでも俺様の予想通りの直球の男じゃねえか」

 

楽しそうな笑いがやたらとミズキの逆鱗を刺激する。

 

「勝手に評価するのは結構だがな、本気でこないと痛い目見るぜ? タケシとカスミはそうやって負けていった」

 

「安心しろ。俺様はいつだって本気だからよ。本気でやらなきゃあ、遊びは楽しくねえだろう! “かわらわり”だ!」

 

 

体だけを中央に残した二人は無理やり体制を立て直し、指示に従い行動を起こす。

一瞬早く動き出したエレブーの振り上げた腕は先ほどの“かみなりパンチ”を繰り出した右腕であり、ぱちぱちという音が軽く帯電していることはミズキの位置からでも判断できた。先の交錯で力をはじききれなかったのだろう。とくせい、“せいでんき”との兼ね合いもあるのだろうか、“かわらわり”にもしびれ作用が付与されているらしい。

ともかく、交代できない一対一のこの戦闘、“まひ”状態になったら実質負けみたいなもんだ。

 

 

「ほのおではじき返せ! “ニトロチャージ”!」

 

 

“かみなりパンチ”で浮いた体を無理やり地面につけたフレイドは再び自らの体にほのおを展開する。振り下ろした腕をほのおの鎧が無理やりはじいてフレイドへのダメージを小さく抑える。

しかしそれは言葉の通り鎧をまとうようなもの。衝撃は消せずフレイドは軽く後ろにのけぞる。

 

「大丈夫か、フレイド!? いったん退け!」

 

「逃がすなエレブー! “10まんボルト”!」

 

「“かえんほうしゃ”!」

 

距離を取った二人の間で、再び二つの力が交錯し、はじける。枝垂れ花火のように黄色い火花が二人の前にはらはらと落ちてくる

 

遠距離戦はほぼ互角。近距離戦は相手がちょっと上か。

 

組んだままの腕の力を少し強めながら冷静に分析する。

 

 

 

「エレブー、ガンガン行くぜ! “かみなりパンチ”!」

 

「“ニトロチャージ”!」

 

 

 

間髪入れずに攻撃の指示を出すマチス。それにつられるような形でミズキも先ほどと変わらぬ指示を出す。

当然結果も先と変わらず。エレブーとフレイドはぶつかり合い、中央に体だけを残す。

 

 

 

手ごたえを確かめるように拳を握り直し笑みを浮かべるエレブーを尻目に、マチスは少しだけ笑みを崩す。

 

 

 

 

 

(こいつ……勝つ気があるのか?)

 

 

 

 

エレブーに指示の声を飛ばし続けるマチスは、じっと正面で腕を組みながら仁王立ちしているミズキを見据えながら考える。

 

 

先ほどのファーストコンタクトは間違いなくこちらの攻め手の確認をするためのものだった。じゃなければ正面から対抗してくる意味はない。

 

そしてガーディとエレブーの単純な力の差は感じ取る事が出来たはず。

 

ならばなぜ二度にわたって正面からこうげきを迎え撃つという選択を取る?

 

 

 

 

(あの目……勝負を投げた男の目じゃない)

 

 

 

 

Crazy、という言葉を一瞬だけ浮かべたが即座に捨てる。

 

奴が勝利をあきらめていないなら、奴の行動には必ず理由がついてくるはずだ。

 

 

 

階級を上げようという想いを持つものが、敵の主力ばかりを落とそうとするように。

 

 

腹を空かせた歩兵たちが、戦闘兵よりも先に貨物輸送の人間を狙うように。

 

 

力なきものが、甘い蜜を吸うために上官に媚び諂うように。

 

 

 

人間の行動理念は大小の欲から始まる。それは軍でも戦闘でも例外ではない。

 

奴は何か得を得るためにわざわざエレブーと対面したはず。

 

 

 

考えられるとするならば……

 

接近戦に持ち込みたい……いや、違う。接近戦は完全にエレブーが制している。接近戦は奴にとっては悪手以外の何物でもないはずだ。

 

ならば持久戦になる前に決着をつける気か……それもない。そうならば“ニトロチャージ”というわざの選択はどう考えても悠長だ。

 

 

 

ならば……ダメージを受けること自体が目的の時。

 

 

「“きしかいせい”か」

 

「……」

 

 

答えない。当たり前だと思う反面、図星を突かれたのだろうと少しだけ楽観視する。

 

 

「ダメージが欲しけりゃあくれてやるよお! “10まんボルト”!」

 

「“かえんほうしゃ”!」

 

 

再びこうげきが空中で重なり、はじけあう。

腕で火の粉が顔につくのを防ぎながら、軽く舌をうつ。

 

 

(徹底してクロスレンジでしか戦わないつもりか)

 

 

相手の“かえんほうしゃ”がこちらの遠距離わざをはじくためだけに選択されているわざであることに気づき、歯噛みする。

これでエレブーは残りのわざに遠距離わざを選ぶ意味はなくなった。どんなわざを放ったとしてもはじくことだけ集中すればさして問題ではない。そう言いたげな“かえんほうしゃ”だった。

 

 

 

いいだろう。乗ってやる。

 

 

 

「Go、エレブー! 連続で“かみなりパンチ”だ!」

 

今度は両腕に電気を流したエレブーがガーディの正面から襲い掛かる。

 

それに対しガーディは躱すことも逃げることもなく、ただただその場で構えている。

 

 

やはりある程度ダメージを受けてから、“きしかいせい”の一発逆転を狙うつもりか。

 

 

「怯むなエレブー! そのまま突っ込め!」

 

 

だが、ここでひいては話は進まない。

 

相手自らがダメージを受けてくれるというんだ。ここで引いたら勝てる物も勝てなくなる。

 

 

「タイミングを見ろ。一発は自力でかわすんだ!」

 

 

その指示を聞き、一気に気が集中したのが見て取れた。

この交錯は奴らの思い通りになりそうだ。

 

 

エレブーの左手の“かみなりパンチ”は屈んだガーディの頭の上を少しだけかすめて通過する。

しかしその返す刀で右手を思いっきり真下に向かって振り下ろす。明らかに躱すことのできない、直撃のタイミング。

 

 

「“ニトロチャージ”!」

 

 

またしてもそれをほのおを展開して無理やりはじき、接近戦の範囲から逃れる。

 

自分で望んだ接近戦にもかかわらず、少し敵をつついて逃げていくようなこの状況。

 

マチスの疑問は確信に変わる。

 

 

(奴の狙いは“きしかいせい”の一発KO。それならば連続した“ニトロチャージ”にも納得がいく!)

 

 

「……フレイド、準備はいいか?」

 

「問題ない。万全だ」

 

 

相手が次の戦術を決めたらしい。腕を組み思案しているミズキを見ながら、マチスはこみ上げる笑いを無理やり噛み殺していた。

 

 

“ニトロチャージ”でわざを受け止め続けていたのは、ダメージを受けるため。

そしてもう一つ、自分のすばやさを高めるためだ。

 

 

“ニトロチャージ”というわざには、こうげきする役割ももちろんあるが、使うたびに体を刺激し、高め、使い手の速度を上昇させるという役割がある、

 

それを利用してこちらのこうげきを流しつつ、自分のすばやさを高めていたというわけだ。

なるべくこちらに悟られないように。しかも先に目を慣らさせないように、準備段階では素早く動かず、目が追い付かないうちに速攻で決めようという算段なのだろう。

 

 

 

なんというしたたかな子どもだろう、と、マチスは少しだけ汗を垂らす。

 

 

 

 

「フレイド! “こうそくいどう”だ!」

 

 

 

 

瞬間、ガーディが視界から消える。

 

 

勝負をかけてきたな。

 

 

“ニトロチャージ”を重ねに重ね、とんでもないスピードを手に入れたガーディの“こうそくいどう”はまさに目にもとまらぬ速さ、といったところだった。

さらに末恐ろしいことは、このスピードを、あのガーディはダメージを受けた体で行っているという事だ。

普段それほどの傷を受けない人間がそれのすごさを認識しろというのも難しい話だとは思うが、事実、それはとんでもないことだ。

 

 

部品の一部が欠けた戦闘機がマッハの速度を出したらどうなるか。

 

 

答えは割と簡単。空中分解する。

 

 

壊れた機体が無茶な駆動をしようとすれば当然故障はたちどころに影響を及ぼす。

 

 

萌えもんもそれと一緒だ。

傷を負った体で普段よりもっと速度を出すなど、正気の沙汰じゃない。

そして、そんなことをやらせるトレーナーも。

 

 

 

「やっぱお前も、俺様と同じなんだな。くぅ~、楽しくなっちまうぜ!」

 

 

「そうかい。だが、残念だな。楽しい時間もここまでだ」

 

 

 

楽しそうな声を上げるマチスをにらむミズキの顔は真剣そのもの。そろそろ仕掛けてくるのだろう。

 

 

 

(……来い。仕掛けてきた瞬間。貴様の終わりだ)

 

 

すさまじい速度で動き回り、こちらの攻撃をかわしつつ、勝負を決める算段なんだろうが……エレブーはその策をぶち壊すすべを持っている。

 

 

 

 

 

でんきタイプの必中わざ、“でんげきは”

 

 

 

 

 

接近してきた瞬間に、そいつをぶち込み、Game overだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「来るぜ、エレブー! 目を凝らせ。奴の動きに集中しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、

 

 

マチスの背中をあやしいかぜが吹き抜けた。

 

 

 

なんだ? なんだ、この悪寒は?

 

 

 

 

何をされるかわからないが、何かが起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなマチスを見ていたミズキは、驚いたような、感心するような顔でぼそっとつぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい勘してるぜ。さすが軍人。もう遅いけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてミズキは、バトル中ずっと組んでいた腕をようやくすっと崩し、右手人差し指を天井に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フレイド! 上を向け! “はじけるほのお”!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレブーが自分の場所からマチスの方に振り向くと、その直線状にいたフレイドは上に炎弾を飛ばす。

 

 

 

 

 

それを目で追うマチスとエレブーは、そのわざの特性を把握していなかった。

次に何が起こるのか気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほのおの塊は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼん! 

という大き目の音を立てながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光や火柱を飛ばしながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぐ、ぐわああああああああああああああああ!」」

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴を上げるマチスとエレブーは涙が勝手にあふれ出る目を抑え、その場に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

やられた。

 

 

 

 

 

 

“きしかいせい”は完全なフェイク。

 

すばやくなったガーディの姿をとらえるために、俺たちが目を凝らした瞬間(・・・・・・・・・・・・)を、

 

 

 

 

 

 

狙い打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずい……今のエレブーは完全に無防備だ。

 

 

 

 

 

 

 

かといって無理やり指示を出すことは下策。

 

 

 

 

 

 

 

このままでは……やられる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、視界を奪われたマチスに、さらに予想外の音が舞い込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわあぁ!」

 

 

「あっちぃ!」

 

 

「ま、マチス様ああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なにぃ!」

 

 

 

 

聞こえてくる団員たちの悲鳴に、思わず顔を上げ音の咆哮を見る。だが、当然ふさがったままの目には色の無い景色しか映らない。

 

 

 

 

 

「いったい何が起きている……てめえ! いったい何をしてやがるぅ!」

 

 

 

 

 

マチスの怒号に、部下たちの悲鳴だけが帰ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

ふざけやがって……

 

 

 

 

 

 

 

ようやく回復してきた目を、ほんの少しずつ、開いているか気づかない程度の薄眼を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、三度驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「What‘s happen!? いったいなんだこれは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴のような問いを投げるが、もちろん答える者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マチスの問いに答えるのは、目を開けた先に待っていた、真白い景色と泡のカーテンだけだった。

 

 

 

 

 

 




マチスはこの話で仕留める予定だったのですが予想外に長くなったので分割しました。
良かったねマチス。


この話を書いていたとき、謎の違和感に襲われました。
最初はなんだかよくわからなかったんですが、よくよく考えてみりゃあフレイドってミズキの指示で戦うの初めてなんですよね。それでした。
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