罪深き萌えもん世界   作:haruko

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第0話 3 過去と未来

「おはようミズキ! 俺たちの萌えもんはどこにいるんだ!?」

 

「ばか! すみませんミズキさん。いつもいつも」

 

「気にすんなグリーン。レッドはそうでなくちゃな」

 

「まあまあ、浮かれるのも仕方ないって話よ。今日から私たちは萌えもんトレーナーなんだから。ミズキ、さっそく私たちの萌えもんを見せてちょーだい!」

 

「わかったわかった。ちょっと待ってろブルー」

 

 

マサラタウン史上でもかなりの大事件が起きた夜が明け、予定通りレッド、グリーン、ブルーの三人が萌えもんを受け取りにやってきた。

 

マサラという町に存在する家は、両手で数えれば事足りるぐらいの数しか存在しない正真正銘のど田舎だ。だから今、この町の子供はというとミズキを含めた四人しか存在しない。

だから四人は一緒に遊び、三人はミズキによくなつき、いつしか周りは四人を本当の兄弟のように扱い始めた。

 

もちろんミズキも三人のことが大好きだ。

 

鼻に絆創膏を付けてるような絵にかいたようなわんぱく坊主のレッド。

博士の孫であり、仏頂面だけど、実は熱く優しい心の持ち主のグリーン。

ボーイッシュな服でいつも元気なおてんば娘のブルー。

 

俺なんかを本気で慕ってくれているこいつらが大好きで大好きで仕方がない。

 

だからこそ、ミズキは大切に育てた萌えもんを、こいつらになら任せられる、と心の底から思っている。

 

 

 

「ミズキ! 俺は元気な熱いやつがいいぜ!」

 

「俺は……ようやくこいつらと離れられるんだから、物静かで落ち着いたやつがいいですかね」

 

「ちょっと! どういう意味よ! 私はそうね……私をなめるな! って感じの気の強い娘が好みかしら」

 

「わかったって。ったくせわしないやつらだ」

 

 

こりゃ決まったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、俺の相棒はお前だ! ヒトカゲ!」

 

「おうよ! よろしくな! あかいの!」

 

「よろしく。フシギダネ。一緒に頑張ろう」

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。グリーン様」

 

「ゼニガメ。絶対みんなより強くなるわよ!」

 

「いいこと言うじゃない。よろしくね、ブルー」

 

 

一通り萌えもんに関する説明を終え、それぞれの相棒となりうる最初の萌えもんは

レッドがヒトカゲ。

グリーンがフシギダネ。

ブルーがゼニガメを持っていくことになった。

想定通りというか予定通りという感じだ。

まあうれしい反面もちろん切なさも感じる。

だがもともとあの三匹は俺がこの三人にわたすために育てていた萌えもんだ。

こうなるのは卵をもらった時からわかっていたことだし、もう餓鬼でもないのでごねたりしない。

 

ただ、昨日のことをちょっと思い出して、

こいつらの目をしっかり見ることができないっていうだけの話なのだ。

 

 

 

「うむ。レッド、グリーン、ブルー。いよいよこれからきみたちの物語が始まる。夢と冒険と萌えっこもんすたぁの世界へ、レッツゴー!」

 

「「「おー!!!」」」

 

いや、それなんなんですか。

 

 

 

 

 

 

「お前たち、これからどうするつもりなんだ?」

 

「俺は今日中にニビシティに着くつもりさ。前進あるのみだぜ! なっ、カゲ」

 

「おっ! いいじゃん! さすがだぜレッド!」

 

「脳筋め……俺はお爺ちゃんにお使いを頼まれているので一回マサラに戻ってきて、ついでにフシギダネを育成していこうと思います」

 

「よろしくお願いします。グリーン様」

 

「私はそうだなぁ、ゼニちゃんのほかに新しい萌えもんを捕まえようかしら。やっぱり早いうちにパーティはそろえたいしね」

 

「私一人で十分なんだけどね。まああなたがそうしたいならいいんじゃないかしら?」

 

研究所の外で、三人がそれぞれの三者三様な今後の予定をを話してくれた。

それを聞いて、思わずミズキのほほが綻ぶ。

 

それでいい。

ここから先のお前らの道は、誰の後ろでもない、お前らの道だ。思うように進めばいい。

萌えもんマスターになる道は、自分で探して作る道だ。

 

「そうか。頑張れよ。おっとそうだ、これは俺からの餞別だ。持って行け」

 

「うわあ、捕獲用のもえもんボールだ! ありがとうミズキ!」

 

「い、いいんですかミズキさん、こんなにもらっちゃって?」

 

いいのいいの。厳密には俺からの餞別ではないし。

 

「あら、気が利くわね。ありがと、ミズキ」

 

「おうよ。おまえら、しっかりやれよ。目指せ萌えもんマスターだからな?」

 

「あったりまえだ。絶対最強のトレーナーになるんだ。じゃあな、みんな!」

 

意気揚々とレッドが草むらの中へと消えていった。

 

「じゃ、私もそろそろ行こうかな。じゃあね、ミズキ、グリーン。次会うときはバトルだからね!」

 

ブルーも楽しそうにゼニガメと手をつなぎ歩いて行った。

 

 

 

「さてと、グリーン。お前はいかないのか? 博士のお使いって確かトキワシティなんだろ?」

 

横にいるグリーンに目線をやると、グリーンは真剣な表情でこちらを見ていた。

 

ちょっと嫌な予感がしてしまったのは、目が昨日の博士とすごく似ていたからだろうか?

 

今更ながらよくよく思い返せば、グリーンは今朝来た時からちょっと様子がおかしかった。

気遣い屋で表情があまり変わらないのはいつものことだが、今日はかなり俺のことを気遣っている感じがする。いつも博士に気遣われている俺だからこそ気づけるくらいの些細なものではあるのだが。

 

そして、

 

「ミズキさん、お話があります」

 

嫌な予感というのはなかなかに的中するものなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおミズキ? 見送りは終わったのか? すまんがちょっと探し物を手伝ってくれんか。あたらしく頼んでおいたもえもんボールのケースがどこかに消えてしまってのう。む、グリーン、お前もまだいたのか。ちょうどいい、お前も少し手伝ってくれ」

 

 

どたどたと自分の研究資料で埋もれた机の上をごった返しにしている博士を尻目にすっかりぐちゃぐちゃになってしまった研究所の奥の扉を開ける。

後ろの方で顔が引きつっているグリーンに、左手の人差し指で唇を抑えるポーズをとりながら右手で手招きをする。

 

「博士すみません。ちょっとグリーンと奥の部屋で話してるので探し物終わったら呼んでください。あ、片付けは自分でやってくださいね」

 

 

 

 

 

「よ、よかったんですか?」

 

「研究所の中に落ちてたのを拾ってお前らにわたしただけだ。ちゃんと棚にしまっておかなかった博士が悪い」

 

ゴリゴリという心地いい音を聞きながら背中越しに席に会話をする。

砕けた豆の心地いい香りが部屋いっぱいに広がり、紙の擦れたにおいがした部屋を俺の至福の空間へと変える。

 

「今日はジョウトのポポッコ印の豆、『風雲』だ。砂糖とミルクは?」

 

「砂糖はいいです。ミルクを一つ」

 

「いいねぇ」

 

博士の孫であるグリーンは、ほかの二人とは違い、いつも遊んでいた十四歳の俺とはまた別に研究員としての俺の顔も知っている。グリーンは子供ながらに礼儀も知っていたし、研究員の立場からしても追い払うわけにもいかなかったので、軽く書類の整理や片づけを頼んだところ、博士の孫とは思えないほどきれいに書類をまとめてくれたのでそれ以降は俺の助手の役割を担ってもらう事にした。

その時に俺が出してやったコーヒーをうまそうにのんでいたことから、俺の飲み仲間のようなものでもある。

 

「おいしいです」

 

「当たり前だ」

 

食器がぶつかる音だけが部屋の中に響き渡る。俺からすればかなり滑稽なのだがグリーンはいまだ真剣そのものだ。

 

「で? 話ってなんだ?」

 

ガチガチなままのグリーンのためにもこちらから話を進めてやる。まあ正直内容はわかってると思うんだが……

 

 

 

 

「ミズキさん、俺たちと一緒に旅に出ましょう」

 

 

 

ほらな。

 

「断る」

 

即答する俺に対してグリーンは眉間にしわを寄せる。

 

「どうしてですか!? ミズキさんほどの人であれば旅に出て、修行をして、萌えもんを捕まえて強くなればジムリーダーにだって勝てる、いやジムリーダーになれるかもしれない! それだけじゃない、萌えもんマスターになることだって、ミズキさんなら夢じゃない!」

 

「なんだよ、お前さっき萌えもんマスターを目指すって言ったのは夢だったのかよ。俺は悲しいぜ」

 

「揚げ足を取らないでください!」

 

机をたたくなよ。コーヒーがこぼれるだろ。

 

「ミズキさん。俺はあなたのことをお爺ちゃんの次に尊敬しています。あなたは俺のことを、『オーキド博士の孫』ではなく『グリーン』として接し、俺やレッドやブルーに萌えもんのことをたくさん教えてくれました。今日、俺たち三人がトレーナーとしてマサラを発つことができたのはあなたのおかげです」

 

「大げさだよ。お前らはなるべくしてトレーナーになったんだ。俺は年長者としての責務を果たしたに過ぎないのさ。お前らが気にする事じゃない」

 

「俺たちだけじゃない。フシギダネ達だって、俺たちとの隔たりができないように俺たちに合った萌えもんに成長するように育成してくれたんでしょう。萌えもんの自我を損なわず萌えもんの性格を調教しながら、萌えもんに好まれているトレーナーなんて、俺は見たことも聞いたこともない」

 

 

 

こいつ……

俺の近くにいただけで、それを感じ取っていたってのか?

こいつが俺が萌えもんの世話をしているところを見る場面なんて、数える程度の回数しかなかったはずなのに……

トンデモねえ子供だ。助手にして直々に知識をくれてやったのは正解だったようだな。

 

 

 

「はっ。俺からすればお前の方が天性のものに恵まれてると思うけどな」

 

「俺の話はいいんです。ミズキさん、俺は自分が萌えもんマスターになることよりもミズキさんに萌えもんマスターになってもらいたいとすら思っています」

 

おいおい。

 

「お前が俺に対してどう思おうが勝手だ。だがな、今日からお前は萌えもんトレーナーなんだ。お前に強くなろうという野心がなくてどうするんだ? 後ろ向きなトレーナーなんかに、萌えもんはついて行かないぜ」

 

「わかってますよ。これでもあなたの助手ですから」

 

 

少しばかり涙を浮かべた顔を上げて、歯を食いしばりながらこちらを向く。

こんなに感情をあらわに、咆哮し、苦しむグリーンの姿は初めて見た。

 

 

「俺、今から、誰にも言ったことのない俺の夢、言いますから」

 

 

カップに残ったコーヒーをすべて飲み込み、一呼一吸をして心を落ち着かせている

 

 

 

「俺の夢、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最強の萌えもんトレーナー、ミズキに勝つことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……」

 

最後のコーヒーを飲みこむ。あまり味を感じなかったが、生まれて初めてまとわりつくこの香りにいらだった。

顔を上げると、そこにはほほを真っ赤に染めて今にも逃げ出しそうなグリーンの顔があった。

ちょっと吹き出してしまいそうになるが、無理やり抑え込む。

 

ここでグリーンの勇気に真剣に答えなければ、俺は一生後悔する。

 

 

 

ここのところの俺は謝ってばっかりだな。

 

 

 

 

グリーン、許してくれ。これが今の俺の精一杯なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「自首をすることができない殺人犯、ってのは、どういう気分だかわかるか?」

 

「……何の話ですか?」

 

グリーンが軽くぐずりながら問いに問いで返す。

 

 

 

 

心の優しい少年がいて、その少年には、ずっと信じていた人がいた。

世界中のだれよりも好きで、世界中のだれが悪く言おうがこの人に一生ついていくんだと決めていた人がいた。

 

 

そして少年はその人にあっさり裏切られた。

 

 

ある日、男は言う。

 

やってほしいことがある。

 

少年は二つ返事でうなずいた。彼のことを信じすぎていたのだ。

 

 

 

そして、終焉は唐突にやってくる。

 

 

 

 

 

男に騙され、少年は町に猛毒をばらまくためのスイッチを押してしまった。

 

 

 

 

 

少年は真っ青になり、自分が何をしたのかわからなくなり、一度その場から逃げだした。

 

しかしあとから我に返り、自分のした過ちを認め、自首し、ことのすべてを伝えよう。

 

何日も何日も一人で苦悩し、ようやく少年は答えを出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、本当の悪夢はここからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警察のところへ行くと、少年は哀れな子犬を見るような目で歓迎された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は自分のことを少年がばらしてしまわないように、事件の全貌を改竄したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年がいくら騒いでも、誰もが事件で壊れた少年に対する憐みの目を向けた。

少年がいくら泣いても、誰も自分を捕まえてはくれなかった。

 

 

 

 

 

少年がいくら吠えたとしても、罪を償うことはできず、

少年は被害者という刻印を体に張り付けて生きていくことになった。

 

 

 

 

 

死のうかとも考えた。

でも少年はそれが最低の選択肢であることに気が付いてしまった。

 

 

今自殺をする。

それは償いでも何でもない

ただの逃げ。

 

 

死ぬのなんて簡単だ。

だが、自分一人が死んでも自分が犯した罪の清算をできるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、

 

 

自分は生きよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は残る人生すべてを人のために捧げよう。

 

 

 

 

自分の心で牢屋を作り、

自分というものを可能な限りなくし、

懺悔の坂を限りなく歩こう。

 

 

 

 

 

 

「それが世間知らずの哀れな、ヒーローを気取ったクソガキの末路だ」

 

 

 

 

 

 




グリーンに力を入れすぎて、ラプラスを入れることができませんでした。
そして三話目にしてまだ主人公はマサラタウン……

次回ついに主人公がマサラを出る! かも……

乞うご期待!!
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