罪深き萌えもん世界   作:haruko

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最長 13000文字になります。切りどころがなかったのとハナダ編より話数を多くするのはどうかと思ったというのが原因です。

毎度のことですが、読むときはお時間にお気を付け下さい。




7/27 追記 夏休みに入った後連投開始します。信じて下さい。 


第6話 6 キラキラ

 

 

「スー、ゼニ、右に曲げろ! フレイド、薙ぎ払え、“かえんほうしゃ”!」

 

 

クチバから数キロ離れているであろう沖合のど真ん中のだいばくはつを伴う戦闘はもうすぐ数分たとうかというところだった。

 

 

ようやく海の上に出ることのできたミズキたちだったが、雨のように甲板の敵から降り注ぐどく萌えもんの“ヘドロばくだん”に悪戦苦闘していた。

ミズキからすれば予想通りの結果ではあるがそれでも辛いことに変わりはない。

 

 

大型の船から一隻の小舟を打ち落とすことなどそう難しい事じゃない。上から全体攻撃を仕掛ければ耐久力の高くない船ならすぐに沈んでくれるだろう。

ましてや相手は“ヘドロこうげき”に“ようかいえき”を混ぜ込んで飛ばしてきている。自分たちは当然ながら、船がそれを一発うけても致命傷になりうる。

結果ミズキたちの行動はほぼ制限され、せっかく手にしたモーターボートも碌に進める事が出来ずにひたすら回避に徹していた。

しかしそれも時間の問題だということはミズキも重々承知している。

 

そもそもミズキはモーターボートの運転なんかうまくない。その進み方と言ったらそれっぽい方向に前進するだけであり、細かいハンドリングに関しては船のわきにいるゼニとスーに任せている状態だ。

どくこうげきの性質上直接攻撃主体のおにぽんに戦わせるわけにもいかないし、小舟の上という不安定な足元であることも災いしフレイドの戦闘能力も半減しているため、戦闘においても逃走においても水の中にいられるゼニとスーは生命線だった。

 

それだけに自分やミズキを運ぶことのできる“なみのり”を覚えていないことは悔やまれるが今はそんなことを言っている場合ではない。

 

 

「主、どうする!? このままではもうジリ貧だぞ!?」

 

「わかってるっつーの!」

 

必死にハンドルを切りながらミズキが答える。

 

「だんな! やっぱり俺があいつらを倒しに行ってくる!」

 

「やめとけ。近づいた瞬間お前に標的が移るだけだ」

 

「それなら、俺をおとりにだんなたちが逃げられる! 成功すれば俺もすぐに逃げるから!」

 

「そんなもの、作戦とは言えねえよ。ただの丁半博打、成功する見込みがない。失敗したら海に落下してデッドだ」

 

「……でもよお……」

 

 

 

「言ったろ。ぜってえお前らは俺が逃がす。お前らは絶対俺が守る」

 

 

 

 

とかっこつけてはいるものの、このままでは厳しいのはかえんほうしゃを見るより明らかだ。

ミズキは手元のガラス板の向こうにあるメーターの赤い針に目をやる。最左端すれすれのところをプルプルと震えていた。

 

「……くそ! 充電くらいこまめにやっとけっつーんだよ金持ちが!」

 

誰に言うわけでもない情けない悲鳴を上げながら白いボディを蹴り飛ばす。

 

 

そう、このままではまずい理由の一番はこれ。

 

 

運転席についてから気が付いたがこのボート、モーターバッテリーがほぼほぼ上がりかけていた。

これでは速度を上げられないしそもそも岸までバッテリーが持つかも疑わしい。

だからと言って今すぐ動こうにも毒の雨がこちらの事情を気にしてくれるわけがない。

 

 

しかしようやく運転にも慣れてきて、ゼニとスーが迎撃に回る事が出来始めてきた。

ある程度ならば、このまま逃げ切ることは可能だろうが……

 

 

 

「っ! まずっ!」

 

 

 

 

急激にハンドルを切ったことによりフレイドとおにぽんが体を揺らす。何事かと思った二人だったが直進するはずだった場所から大きな着弾音と水柱が上がったことですべてを察した。

なぜそんなぎりぎりの運転になってしまったのか。

 

 

 

 

「……限界か」

 

 

 

 

背後から聞こえてくるバスン、ブスン、という音がすべてを物語っていた。

 

 

 

 

 

ここでミズキは初めて顔を上げるが船の上にいる奴らのニヤケ面が目の前に見えるように感じた。

 

 

 

 

 

何とも言えぬ不快感を押し殺し逆転のためのプランを瞬時に練る。

 

 

 

 

 

 

 

考えろ。0.1秒でプランを練るんだ……集中力を練り上げろ。

 

 

 

 

 

 

……黙想……。

 

 

 

 

 

空のおにぽんやゼニやスーに頼んでどうにか海を運んでもらう?

 

 

……無理。一人でも厳しいのに気絶したままのブルーまで連れて陸まで運べるわけがない。

 

 

 

 

 

ここから敵を迎え撃つ?

 

 

……もちろん無理。相手のこうげきを打ち落とすので精いっぱい。

わざを打ち下ろしている相手に対し、わざを打ち上げているこちらがかなうわけもない。

 

 

 

 

 

船に戻る?

 

 

ありえない。次に船に戻ったら本当に逃げる手段がなくなる。

 

 

 

 

どうする、どうする、どうする、どうする?

 

 

 

くそっ、ようやく運転には慣れ始めてきたってのに。

 

 

 

 

 

バッテリーさえ、バッテリーさえあれば……

 

 

 

 

 

 

 

「……主?」

 

 

運転席を離れ、後ろの自分たちの方に歩いてくるミズキに、フレイドは驚いた表情を浮かべる。ミズキの顔をのぞこうと顔を上げると、視界の奥に萌えもんに指示を出すR団の姿が見えていらっとしたが、その声すらも無視していた。

ミズキはその脇を何も言わずに通り過ぎ、船の後ろへ歩いていく。

 

 

 

 

 

「スー、ゼニ。10秒時間を稼いでくれ」

 

 

 

 

 

「! はい!」

 

「……任せなさい!」

 

 

その声を合図にするかのように、再び爆発音が響きだす。

 

……いや、R団がこちらの動きを待ってくれていたわけではないので実際はずっとスーとゼニが迎撃してくれていたのだが、集中状態を解除したミズキにはそれが唐突に再始動したように聞こえただけだったのだが。

 

 

ミズキは船の後ろに向かうと、モーターの手前のところで何やらごそごそと動き始める。

 

 

「確か……ここの下だったはずだ……」

 

 

そういうとミズキは仁王立ちの状態から思いっきり拳を振り上げ、たたきおろし、

 

 

 

 

ボートを砕く。

 

 

 

 

 

「な! だ、だんな! 何やってんだ!」

 

 

あまりの窮地に気をちがえたかと心配するおにぽんだったが、脇にいるフレイドはというとその後のミズキの行動を真剣なまなざしで見つめている。

落ち着いた二人に狂気を覚えたおにぽんを尻目に自分であけて船の穴から何かをごそごそと掻き出している。

 

 

 

 

「ほらよ、フレイド。秘密兵器の出番だぜ」

 

 

 

 

そう言ってフレイドに何かを渡すと、再びミズキは運転席に戻る。

 

 

「お、おいおい。そんなことしたって、もうバッテリーは……」

 

 

 

 

ないならあるもので戦えばいい。

 

それでも足りなきゃ補えばいい。

 

 

 

 

「スー、ゼニ。今から思いっきりこうげきをうて! フルパワーを使い切り、三秒たったらこっちに乗り込め! おまえらがこのどくの雨をどれだけはじききれるかが勝負だ!」

 

 

 

 

「「了解、マスター(ミズキ)」」

 

 

 

 

さあ、集中だ。

 

 

 

 

もうモーターは半壊した。

 

 

 

 

この船以外に俺が海を渡る手段はない。

 

 

 

 

正真正銘ラストチャンス。

 

 

 

 

脱出できなきゃ俺の負けだ。

 

 

 

 

がっちりハンドルを構えるミズキの、落ち着いた声でのカウントダウンに、全員の首から冷や汗が垂れる。

 

 

 

 

3。とつぶやくとスーは最大パワーの“みずでっぽう”を放つ。

 

 

 

2。とつぶやくとゼニは最大パワーの“みずでっぽう”を放つ。

 

 

 

 

1。とつぶやくと二人のパワーで毒の弾幕に隙間ができる。

 

 

 

 

0。の声はモーターの音とバチンという軽快な破裂音にかき消される。

 

 

 

 

 

「行くぜフレイド!」

 

 

 

「承知!」

 

 

 

 

 

 

 

『“ワイルドボルト”ぉ!』

 

 

 

 

 

 

 

みず萌え二人がフルパワーで作ったわずかな毒のカーテンの隙間。

 

 

そのわずかな時間を、先ほどとは比べ物にならない速度で動くモーターボートが狙い、盗む。

 

 

 

今日何度目かわからないR団の間抜け面を見ながら、射程の外へと抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思い、安心したのが間違いだったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

数十秒間海上を駆け抜けた後、

 

 

 

 

 

 

 

バスン、ブスン、という、悲しい音が再び響き、

 

 

 

 

 

 

 

船は、止まる。

 

 

 

 

 

 

「! フレイド!」

 

 

 

 

バッテリー、アクセル、ハンドル、自分の場所に問題がないことを確認した後、真後ろを振り向く。

 

 

 

 

スー、ゼニ、おにぽん、いつの間にやら起き上がっていたふらふらとしたシークの中心に、

 

 

 

 

青白い光を体からぱちぱちとほとばしらせ、

 

 

 

 

 

 

 

倒れるフレイドの姿があった。

 

 

 

 

 

「……てめえ……ふざけんじゃねえぞ」

 

 

フレイドのそばまで寄り添うミズキが振り絞るようにそうつぶやく。

 

 

「……いや、だんな。フレイドの兄さんはすげえ頑張ってよ……必死に頑張ってたんだぜ……そんなに……ってシークの兄さん?」

 

 

悲しそうな顔でフレイドを擁護するおにぽんを、後ろからシークが二回たたく。

 

 

「……マスターは別にフレイドさんを責めたいわけじゃあないんですよ」

 

 

「黙ってろ。責めたいに決まってんだろ。俺はこの作戦にかけてモーターの配線壊しちまったんだぞ」

 

 

しゃがむミズキはフレイドを抱え、顔をなでる。ほほのあたりが少し紫色にこけているのがわかる。“どく”状態だった。

 

 

 

「……隠してやがったな。俺をかばった時か」

 

 

 

フレイドにシャッターにたたきつけられた時だろう。

 

 

時間も考えれば体力のほとんどは持って行かれていたはずだ。

 

 

その体ででんきのダメージが自分に返ってくる“ワイルドボルト”なんて使ったらこうなることは容易に想像できる。

 

 

「……わる…………かった。あ……るじ……」

 

 

「俺の作戦丸つぶれだよ馬鹿野郎が、余計なことしやがって」

 

 

そう言ってボールをフレイドにそっとあてる。赤い光に包まれる前に苦しい声と二つのちぎれたコードを残しボールに吸い込まれていく。

 

 

そのボールを腰のホルダーにつけ、顔を上げる。少し離れはしたが、まだまだ逃げ切ったとは言えない距離で、R団がどたばたと騒いでいるのが見える。あんなでかい船がそう簡単にUターンできるはずもないが、追っ手のことを考えるならばまだまだ安心できる距離ではない。

 

 

「そもそも船にちょっと穴もあけちまったからこのままじゃ陸までたどり着けないしなぁ……こりゃまいったまいった」

 

 

「ちょっとミズキ。まいったじゃないでしょ! 早く次の作戦をっ!」

 

 

 

 

 

と言いかけたところで、声は途切れる。

 

 

 

 

 

気づかれないようにホルダーから外しておいた二つのボールに、シークとゼニは問答無用で吸い込まれていった。

 

 

 

「……またそうやってあなたは……一人で戦う気なんですね」

 

 

あっけにとられるおにぽんをよそに、スーはおつきみやまで自分が同じようにボールに閉じ込められたことを思い出す。

 

 

「わたしたちには自分を利用させるくせに、自分はわたしたちのことばっかり心配して……ずるいですよ」

 

 

「これが一番効率的なんだよ。残って一人で戦えるのは俺だけだ。それにあいつらの目的は俺の捕獲。俺がおとなしく投了すりゃあ奴らがお前らを追うことはない。そうなればお前らが俺を助けに来れるだろ?」

 

 

「そんなの……そんなの!」

 

 

 

 

 

「うるせぇ」

 

 

 

 

ボールの光をスーに当てる。最後の歯がゆそうな顔が印象的だった。

 

 

……大方、自分が“なみのり”を使えればどうにかなったとか思ってるんだろうなあ。

 

 

苦笑した後、最後に残ったおにぽんへと体を向ける。

 

 

「さてと、マチス戦ではお前に仕事をやれなかったからな。喜べ、おにぽん。今日一の仕事が残ってるぜ」

 

 

唯一外に残された放心状態のおにぽんがハッと我に返ると真ん中の席からブルーを抱えたミズキがこちらに顔を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ブルーを助ける。これがお前の任務だ」

 

 

 

 

 

 

 

「……俺が……ブルーを?」

 

 

ミズキが自分の目の前にそっとブルーを下ろし、ブルーと自分のベルトを外す。そして自分の、ホルダーにボールが六つ付いたベルトをブルーにつけ、何もついていないベルトを自分に捲いた。本気で一人で残るつもりなのだと、今更ながらに思う。

 

 

「いや……俺は一人でブルーを運べる力なんて……」

 

 

「あるよ。その力を、さっきお前は手に入れた」

 

 

そう言いながらミズキはおにぽんの体をつかむ。体がこわばるおにぽんをよそに、ミズキは微笑む。

 

 

「やっぱりな。さっきの戦闘でレベルが上がってる。まあ“そらをとぶ”を覚えたわけじゃないから少し辛いかもしれないけど、ブルー一人運ぶくらいならいけるはずだ」

 

 

ミズキはそういって、再び船の方向を見る。すでにゴルバットが三人ほど、こちらめがけて向かってきている。

 

 

「さっさといけ。奴らの狙いはこの俺だ。お前らにこうげきすることはない」

 

 

「え……あ……う……」

 

 

声にならない声を漏らすおにぽん。その頭の中はいろいろな思いが駆け巡っている。

 

 

 

 

このままミズキを見捨ててもいいのか?

 

 

 

 

ブルー一人を助け出した方がいいのか?

 

 

 

 

一人だけでも戦うべきなのか?

 

 

 

 

いったい何が正解なのか?

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺は……俺は……どうすれば」

 

 

 

 

 

 

 

「おにぽん」

 

 

 

 

 

 

 

たのむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! うわああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルーの首元をつかんだおにぽんが泣きながら飛んでいく。

 

 

 

かなりふらふらしているが、まあもう何キロも離れていないだろうし大丈夫だろう。

 

 

 

 

さてと、と一息つく間もなく、かわいらしくも恐ろしい八重歯をこちらに向けて降りてくる三体の萌えもんに相対する。

 

 

 

 

 

 

ゴルバット×3……

 

 

 

 

 

 

 

さすがに勝てないな。

 

 

 

 

 

 

 

でも……おにぽんが逃げるための時間稼ぎくらい……

 

 

 

 

 

 

 

「来いよ。伊達に毎回フレイドと戦ってるわけじゃねえってところを見せてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けほっ……まあこうなるよなあ」

 

 

かすむ視界で体を無理やり制御しながら、浸水だらけでずたぼろのボートのふちに手をかけ寄りかかる。正面には歯を赤く染めた二人のゴルバットが自分の方を見て、ようやくかという表情をする。

 

 

(まあ一体撃退しただけでも上出来か)

 

 

そう考えながら自分と同じように運転席で倒れこんでいるゴルバットに目をやる。軽く血を吐きながらこちらをにらんでいる。

 

 

(あの力を何回も使うわけにもいかないしなあ)

 

 

自分の右手を開きながら見る。

 

 

 

 

今まで使った力は小指と親指。

 

 

 

 

それにこれの標的は本当に嫌いな奴って決めてるからなあ……

 

 

 

「さすがにR団に使われてるだけの萌えもんたちに使うことはできないな」

 

 

 

そして咳き込みながら血を吐き出す。もう内部までずたぼろのようだった。

 

 

 

さてと……あとは殺されないことを祈るだけだ……

 

 

 

両手を上に掲げるが、まだゴルバットはちがづいてこない。まだこちらの手を警戒しているようだった。

 

 

ああ、そういえばさっき降参するふりをして“だましうち”を決めたんだっけか。

 

 

しかしこちらが本当に弱っていることを確認すると、翼の先端を向けて近づいてくる。最後に気絶でもさせる気なのだろうか。うっかり死なないようにしてくれりゃいいんだが。

 

 

 

 

 

 

……あーあ。みんなに悪いことしたな。今回はかなり失敗だった。

 

 

 

 

 

 

スーは怒ってるだろうし、シークはおびえてるだろうし、フレイドは結構落ち込んでるだろうし、ゼニは悲しんでるだろうし、りゅうは理解できてないだろうし、

 

 

 

 

 

 

 

 

なんといっても、おにぽんに悪いことをした。

 

 

ブルーをひどい目に合わせ、最後にはつらい選択をさせた。

 

 

 

 

 

 

ゴルバットから目をそむけ、上を見る。腹が立つほど天気のいい、青空だった。

 

 

 

 

 

 

「悪かったな……おにぽん……生きて帰ったら、謝るからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“きゅうけつ”を受けた体のせいで、視界が歪み、太陽も少し曲がって見えてきた。ゴルバットに気絶させられる以前の問題かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

空に見たくないものを見たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな小さな叫び声に、ゴルバット二人はきょろきょろと辺りを見渡す。しかし声の正体は見当たらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そりゃそうだろう、だって声の主は、今のミズキから見える位置、つまり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空から突っ込んできているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおりいいぃぃぃやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

垂直落下してきたそいつは、思いっきりゴルバット一人に渾身の“でんこうせっか”をたたきこみ、

 

 

 

 

 

 

 

船を真っ二つにかちわった。

 

 

 

 

 

 

「! うそだろ!」

 

 

 

 

 

 

船が割れてしまったこともそうだが、ミズキが驚いたのはもうひとつ。

 

 

 

 

今おにぽんは一人でゴルバットに突撃を決めた。そう、一人(・・)で。

 

 

 

 

 

 

おにぽんの大切な、大切なパートナーの姿がない。

 

 

 

 

 

ならばいったいどこに?

 

 

 

 

 

その答えは引き続き真上を向いているミズキの視線の先に有った。

 

 

 

 

 

「だんなぁ! たのんだぁ!」

 

 

 

 

「っ! うそだろぉ!」

 

 

 

 

不安定極まりない足場で、ふらつく体を無理やり起こし、負荷に備えて体を構える。

 

 

 

 

 

ドシーンという効果音が付きそうな勢いで、ブルーが上から降ってきた。

 

 

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

声にならない激痛が全身を支配する。特に“きゅうけつ”を受けた右腕からの出血量たるや見ていられないほどだった。

 

 

 

 

「だ、大丈夫か? だんな?」

 

 

 

「ば、ばかやろう……」

 

 

ブルーを抱えたまま悶絶しているミズキが歯を食いしばりながらおにぽんに吐き捨てる。

 

 

「わ、わりぃ……そんなぼろぼろになってるなんて思わなくてよ……」

 

 

「そっちじゃねえ」

 

 

 

 

「なんで戻ってきた!」

 

 

 

 

おにぽんをにらみつけるミズキはそのままブルーを任せ、すぐそこでとんでいる最後のゴルバットに向かう。

 

 

 

 

「さっさと逃げろ」

 

 

 

 

笑う膝を無理やり抑え、体を構える。しかし、右腕は完全に上がってくれなくなっていた。

 

 

「だんな……」

 

 

「とっととにげろ……ここは俺がどうにかする」

 

 

 

 

 

 

 

「……いやだ」

 

 

 

 

 

 

「……何?」

 

 

振り向くと真っ二つになった船の先端の浸水の心配のない場所にブルーを置き、こちらへ向かうおにぽんがいた。

 

 

 

「……おい」

 

 

 

 

 

「俺……考えたんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

このままミズキを見捨ててもいいのか。

 

 

 

 

ブルー一人を助け出した方がいいのか。

 

 

 

 

一人だけでも戦うべきなのか。

 

 

 

 

いったい何が正解なのか。

 

 

 

 

 

「必死に考えた、何をすればいいのか、自分が何をしたいのか、何を信じるべきなのか」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「わからなかった」

 

 

 

 

 

 

 

結局正解は、求まらなかった。

 

 

 

 

だから、

 

 

 

 

 

 

もう考えない。

 

 

 

 

 

 

「もう、俺は何も選ばない」

 

 

 

 

 

 

全てを守る。

 

 

 

 

 

 

ブルーも。

 

 

 

 

ミズキのだんなも。

 

 

 

 

ゼニも、りゅうも、スーねえさんもフレイド兄さんもシーク兄さんも。

 

 

 

 

何も捨てない。全部守る。

 

 

 

 

 

 

俺はもうブルーを、

 

 

 

ブルーが愛するあんたという人を、

 

 

 

 

裏切らない。

 

 

 

 

 

 

それが、あんたに酷いことを言った俺に、

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にできる……けじめだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぶしいねえ」

 

 

「……茶化すなよだんな。言ってて恥ずかしいんだぜ?」

 

 

茶化しちゃいねえよ、本当にまぶしいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

お前の体からあふれ出る、輝かしい希望の光が。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!! これは!!!!」

 

 

 

そう、ゴルバットがお前の決意表明をわざわざ待ってくれる道理はない。

 

 

 

おびえていたんだ。おにぽんに。

 

 

 

 

 

 

おにぽんの体からほとばしる……進化のエネルギーに!

 

 

 

 

 

 

ほどなくして変化は始まった。

体全体が一回り大きくなる。顕著だったのは翼と嘴だ。翼は力強くはばたけるような筋力と衝撃を受け止めるための柔らかい羽毛が発達している。それに対し嘴はひたすらがんじょうに、それでいて細く、鋭く、とらえた敵を薙ぎ、穿つように研ぎ澄まされた武器となった。

 

 

 

 

 

 

「やったな。それがお前の成長の象徴、進化した姿、『オニドリル』だ」

 

 

「オニ……ドリル……」

 

 

声がふるえているが、おびえていると勘違いするほどミズキの頭は悪くない。

 

歓喜に震えているのだ。

 

自分の想いが形になり、夢をつかんだという現実に。

 

 

 

「だんな! 乗れ!」

 

 

 

翼を広げ、軽く屈んで構える。

 

 

「……サンキュー!」

 

 

多少体を引きずりながら、背中に飛び乗る。進化した姿からは、人一人も二人も苦としない、屈強な力が感じ取れた。

 

 

ブルーを足でつかみ、二人を連れたおにぽんは、オニスズメの時とは比べ物にならない速度でかっとんでいく。そのまま乗っているだけでは振り落とされかねなかったので、おにぽんの背中をがっちりとつかむ。

 

 

 

「うお! っくぅ! さすが進化系! 早いぜおにぽん!」

 

 

海上というフィールドから、一気に空中へと躍り出たオニドリルの速度に、ミズキは思わず素直にはしゃぐ。体の痛みはすでに吹っ飛んでいた。

 

少し下を見ると、手持ち萌えもんを出し切ったR団たちがギャーギャーと此方を見て叫んでいる。けっ、ざまあだ。

 

 

「よっしゃあ! このまま一気に……っ!」

 

 

 

おにぽんがクチバを目指そうと方向を切り替えたその瞬間、

 

 

 

 

そうはさせないといわんばかりに立ちふさがる青い影。

 

 

 

 

「さすがにいつまでもビビッててはくれないか」

 

 

 

当然、最後のゴルバットだ!

 

 

 

 

「きしゃあああああああ!」

 

 

 

「があ!!! こ、これは……」

 

 

「ぐうっ! き、気をつけろ……ゴルバットの“いやなおと”だ!」

 

 

一戦交えたからこそ分かる。このゴルバットは、明らかに野戦慣れしている。

ジム戦のようなルールにのっとった試合ではなく、戦闘(ケンカ)用にそだてられた萌えもんだ。

 

それがどういう事かというと、レギュレーションにとらわれない汚い戦法が得意だという事。

 

 

「っ! 来るぞ! “つばさでうつ”だ!」

 

 

おにぽんは羽をほんの少し傾け、右回りに旋回することでかわそうとする、が、“いやなおと”で狂った三半規管がそれを許さない。おにぽんは望む軌道から少しずれた、不安定な飛行で旋回する。その結果、

 

 

「があ!」

 

「だんな!?」

 

ミズキが左の肩を抑える。完全に狙われているな、と確信する。下にいるブルーが狙われているわけではないのが不幸中の幸いか……

 

「き、気にすんな……それより、集中しろ。来るぞ!」

 

自分たちの背後から迫りくるゴルバットは、いったん追うのをやめ自分の目の前で翼を閉じる。この構えは……きついな。

 

「“スピードスター”だ!」

 

「っ! くっそお!」

 

必死に躱そうと“こうそくいどう”で加速するおにぽんだったがそれを超える速度、そして量を持った星形の弾丸が二人を射抜く。

 

「かはっ!」

 

「だ、だんなぁ!?」

 

そのままミズキが前に、つまりおにぽんの背中に体を預けるように倒れこむ。

 

 

 

 

 

「や、やりやがったなこの野郎!」

 

 

 

 

 

怒りに任せ、逃走を忘れ、振り向こうとする。

 

 

 

 

 

 

「……待…………て………」

 

 

「! だ、だん」

 

 

「そのままだ…………悟られず……逃げながら……俺の声を聴け……」

 

 

 

背中のミズキの絶え絶えの声が頭を支配する。

 

 

 

なんという酷なことを言うのだろうか?

 

自分は今すぐ振り向いて奴に一撃与えてやりたいのに。

 

あのけたけた笑う憎き蝙蝠に一撃をいれたくてたまらないのに。

 

 

 

 

 

しかし、おにぽんは疑わない。

 

 

 

 

 

「……わかった!」

 

 

 

前へ、“こうそくいどう”を続ける。

 

 

 

その後を、コルバットが必死についてくる。

 

 

 

 

しかし、差は広がらない。それどころか、ミズキとブルーを運んでいる分、おにぽんはスピードに乗りきれない。その結果、距離は少しずつ縮まっていく。

 

 

 

 

「それで……いい……あとは…………俺の合図で……」

 

 

 

呟くミズキに、おにぽんは疑念を持たない。

 

 

もう疑わないと、決めた。

 

 

 

「あんたに従う! 俺はもう、あんたの契約(やくそく)を疑わない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦っていた時に思っていた。

 

 

“きゅうけつ”とは、なんて強力な攻撃なのだろうか、と。

 

 

そんな弱いわざがなんになる? と感じる人たちもいるだろうが、少なくとも自分はそうは思えなかった。

 

 

 

人も、萌えもんも、血がなくなれば動けない。

 

 

 

そんな当たり前の現実を、久方ぶりに痛感した。

 

さらに、血が足りなくなれば考えが廻らない。

 

正確に言うと考えを巡らせるための脳が正確に機能してくれなくなる。

 

 

 

 

体を封じ、頭脳を封じる。

 

 

 

 

生きるか死ぬかの戦場において、こんなに強いわざがあるだろうか?

 

 

 

 

 

ゴルバットたちと戦い、痛感した。

 

 

 

彼らは紛れもなく、戦場を生き残るために育成された、マチスの部隊の萌えもんであると。

 

 

 

トレーナー狩りを主とした、“きゅうけつ”を切り札とした萌えもんであると。

 

 

 

 

文字通り、身をもって痛感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、

 

 

 

 

今多量の出血でずたぼろの自分は、

 

 

 

 

 

“きゅうけつ”をもって倒すことのできる最高の的なのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、慣れたトレーナーがそばにいれば、今の自分など恐れるに足らぬことぐらい見ればわかる。

 

 

 

 

 

 

が、ゴルバットに指示を飛ばせるトレーナーは、今頃豪華な船の上。

 

 

 

 

 

ならばゴルバットは今、トレーナーに出された指示を忠実に守っているに過ぎない。

 

 

 

 

 

ミズキを捕らえろ、と。

 

 

 

 

 

 

 

ならば間違いなく、自分を狙って“きゅうけつ”を決める!

 

接近戦を仕掛けてくる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのタイミングを!

 

 

 

その一瞬を!

 

 

 

わざを受け、ずたぼろにされたこの体で!

 

 

 

敵を学んだ、この体をもって見極める!

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

ミズキの声とほぼ同時に、体を思いっきり回転させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

大口を開けたゴルバットは、隙だらけだった。

 

 

 

 

 

 

「“ドリルくちばし”いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

「うおおおおおおおぉぉおおおおおおぉおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………てな具合で見事俺は何事もなくクチバに生還したってわけなんだあだだだだだだだだだだだだ!!!!!!!」

 

萌えもんセンターの病院の一室で哀れな一人の男の叫び声が響き渡る……いや、八割自業自得なのだが。

 

「……あの……スーさん? できれば“きゅうけつ”でずたぼろの右手をひねるのはやめていただきたく思うのでございますけれども……」

 

「……マスターなんて大っ嫌いです……」

 

(ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん)

 

「いたたたたたたたたたた! シークストップ! ストップ! “スピードスター”のダメージがあああああああああ!!!!!!」

 

ベッドのわきのスーと寝ている自分の腹のあたりで涙を浮かべるシークが自分の体をひねったりたたいたりつねったり殴ったりと大暴れだった。

ちなみにフレイドはというと土壇場で力尽きてしまった自分に責任を感じているらしく報告の途中から部屋の端っこで体育座りでうずくまっていた。

……いや、責任感じていじけてるくらいなら助けてほしいんですけれど……

 

「いや、だからよ……別に俺は自分のことを犠牲にしたわけでも何でもなくて、損得勘定を考えた結果俺だけつかまって後でお前らに助けてもらうのが一番確実だなと思ったまでであってだな……」

 

「マスターなんて大、大、大っ嫌いです!!!」

 

(ぷいっ)

 

……ちょっとだけ泣きそうである。

 

 

 

 

 

 

あの後、サントアンヌ号は何事もなかったかのようにクチバ沖をぐるりと一周してから港に帰還した。

 

下船した金持ちどもは口をそろえてもう一度乗りたい、ぜひ近いうちにツアーを計画してくれと絶賛だったそうだが、唯一乗客の一人から試乗会終了後にクチバの沖合に出て楽しむためのモーターボートがなくなっていたとかいうクレームが来て、試乗会チームの親会社であるシルフカンパニーが弁償することになったとかいう話も聞いたが心当たりが全くないので関係のない話なのだろう。

 

マチスが動けなくなったことが原因か、R団の行動は耳にしていない。少なくとも上司の指示なしに一般の萌えもんセンターに殴り込みに来るような根性と勇気のある奴らではないということは自分がよーく知っている。

 

かといって自分がこの町にいる限り、正確に言うとブルーのそばにいる限り、ブルーに被害が及んでしまう可能性は捨てきれない。むしろ可能性だけ論じるなら大いにあるといっていい。

 

ずたぼろの体を引きずり歩いた挙句にセンターの前でぶっ倒れていた自分を治療して病室に放り込んどいてくれたクチバのジョーイさんには本当に悪いが、退院を知らせずに出て行った方がいいかもしれない。早急にこの町を出ると決めた今、入念な検査とか言われてここに留められるのはデメリットでしかない。

 

 

 

「むなぁ……マスターの……ばーか……」

 

(……ぎゅっ)

 

そんなことを考えていた時にふと我に返ると、もういつの間にか部屋の消灯時間が過ぎていたようで、窓から照らす月明かりが自分にしがみ付きながら眠る二人の顔を照らしていた。

 

「……悪かったな」

 

二人を起こさないように上半身を上げ、比較的まだ動く左手で二人の頭を優しくなでる。二人の目には少し塩の跡があった。泣かせちゃったな。

 

「主」

 

思わず体がびくッと反応してしまったのが少し恥ずかしかったが平然とした表情を作り直して部屋の入口に立っていた声の主に顔を向ける。

 

「……お前、まだ起きてたのか? 明日一番でここを出るぞ。この町はもう長居したくない」

 

「……倒れてしまって、本当にすまなかった」

 

「黙れ。反省するなら次に生かせ。次に過去のこと以外を俺に隠したらお前はクビだ」

 

「……わかった」

 

頷きながらフレイドは振り向き、背伸びしながら引き戸を引く。

 

「客だ」

 

 

 

 

 

「よお、おにぽん。調子はどうだ?」

 

「……怪我して入院してんのはだんなだろ? それは俺が言うべきだろうが」

 

「お前のじゃねえよ。ブルーの調子だ」

 

入ってきたおにぽんの顔が少しだけ陰る。

 

「……感電による気絶だって」

 

「……まあそうだろうな」

 

二人がそろって唇をかむ。

 

「後遺症は?」

 

「残らないとは思う。でも、あと一日は寝たままかもしれないって」

 

「……お前らには本当に迷惑をかけたな」

 

「黙れ。とでもいえってか?」

 

「……立ち聞きなんて趣味わりいな」

 

「あんたらの話を待ってたんだよ」

 

くっくっく、と笑うミズキはいつもより少し辛そうだった。

 

「……ブルーの病室に案内してくれ」

 

「へっ? いやでもあんた……その体で立ち上がるのは」

 

おにぽんが制止しようと駆け寄る。が、その時にはすでにミズキは起き上がり、包帯を引っぺがし、輸血の注射針を無理やり引っこ抜いていた。その穴を剥がした包帯で無理やりふさぎ、巻き直す。

 

「もう治った。行くぞ」

 

傍に寝ている二人を起こさないように立ち上がった後、自分の毛布を二人にかけて、病院のスリッパをはき、部屋を出る。

 

そんなミズキにしっかり慣れたフレイドはその姿を見て苦笑し、ちょっとだけ慣れだしたおにぽんはその姿を見て呆れていた。

 

「あの人……本当に人間かよ」

 

「わっちはもうそのセリフは言い飽きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻に二人できたからか、ブルーの病室はすぐ隣にあった。

 

開けると奥には自分のように包帯まみれだったり輸血の管が伸びていたりはしないものの、一日起きることがないという情報を先に聞いているからか少し痛々しく見えるブルーの寝姿とその傍の椅子にちょこんと座るゼニとりゅうの姿があった。

 

「ミズキ……」

 

「! だいししょー!」

 

しー、と指を口に当てりゅうを制する。そして、同時にいまだ起きてブルーを待ち続けているこの三人に感服すると同時に危うさを覚える。

 

(……まあいいか。そこをどうにかするのはブルーの仕事だな)

 

二人が空けてくれたスペースに収まる形でブルーのベッドのわきにつけ、覗き込む。縁起でもない言い方だが、死んだように安らかな寝顔だった。

 

「悪かった……っていったらこいつも怒るんだろうな」

 

「今日気付いたけどブルーって結構だんなに似てるからな」

 

「あら、今更ね。そっくりよ。偏屈でいじっぱりなところとか」

 

「? だからふたりともつよいですか?」

 

「うるせえっつーの」

 

笑いながらブルーに向き直る。

気のせいか、少し笑ったように見えた。

 

 

 

ふと、手元の指先に目が留まる。

 

 

 

 

 

 

 

「……つけてくれてたんだな」

 

 

 

 

 

 

 

必死すぎて気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

左手の薬指。

 

 

 

 

 

その指輪に、軽く触れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(逃げないで。待ってるわ、ミズキ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……? ミズキ?」

 

不思議そうに顔を覗くゼニや、不審がっている皆をよそに、頭の中を駆け巡る言葉を反芻する。

 

 

 

 

 

 

待ってるわ。ミズキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

何が待ってるだ。

 

 

 

 

都合のいい幻聴聞いてんじゃねえぞ。

 

 

 

 

 

 

 

俺にそんな夢を見る資格なんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、なんで俺なんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よりにもよって、俺じゃなくてもいいじゃねえかよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前にそんなに期待されたら、俺は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えるしかなくなっちまうじゃねえかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルーの左手を右手でつかみ、左の胸へ運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんな、ブルー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部片付けたら…………必ず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がもっと強くなったら、必ず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部話すから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っててくれ、なんて、言える立場でもないんだけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っててくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう行くのよね?」

 

翌朝、こちらの病室にゼニたちが見送りに来てくれていた。ラッキーたちに気付かれる前にここを出ようとしていたので時間は相当早いのだが、全員で見送りに来れるということはこいつらは一睡もしなかったのだろう。

しかし、あえて触れずにそのまま話す。

 

「ああ、R団に感づかれても困るからな。誰にも迷惑かけないように、誰にも知られず一人で出る。“テレポート”でな」

 

皿に乗ったケーキを幸せそうにほおばるシークの頭をなでながらミズキが言う。

 

「……許してもらえたの?」

 

「もともとスー用に買ってたケーキだったけどな。助かったぜ」

 

冗談っぽく額の汗をぬぐうような仕草を見せる。しかし言っていることは本気っぽかった。

 

「わたしはまだ許したわけじゃないんですからね! マスター!」

 

その隣にいるのは、シークに渡した一切れを除いたホールケーキ一つを怒りながら頬張るスーだった。

悪かったって、といいながら必死にスーの機嫌を取ろうとするミズキは新鮮で三人はおかしそうに笑った。

 

 

 

「じゃあね。いろいろありはしたけれど、悪くない時間だったわよ」

 

「……あんたのおかげで、俺は一つ大きくなれた。ありがとな」

 

「だいししょー! ありがとうございましたー!」

 

「そういわれると救われる気持ちだよ。ありがとう」

 

そしてミズキたち三人はシークの肩につかまる。準備完了の合図だ。

 

 

 

 

「シークの兄さん……俺もこれから頑張るからよ……あんたもがんばれよ!」

 

「……」

 

(ぱしっ)

 

 

 

 

「りゅう殿。貴殿との時間、わっちにとっては大切なものになった。次に会うとき、わっちはりゅう殿よりも強くなっていられるよう、努力する」

 

「……はい! りゅーもししょーとのおやくそくまもるため、がんばります!」

 

 

 

 

「スーちゃん。私の言ったこと、忘れちゃだめよ」

 

「……はい。ありがとうございました! ゼニちゃんさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズキに言ったことが嘘だったわけではない……が、

自分たちだけの旅ではありえない、クチバでの激動の一日がようやく終わりを告げたのだと、少しだけ安堵する三人。

 

 

 

 

 

ちなみに、ミズキが病室を抜けだしたことで、関係者の三人にはジョーイさんからの尋問が待っているわけなのだがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでマスター? 次の目的地ってどこなんですか?」

 

「……」

 

「……マスター?」

 

 

 

 

 

 

 

『逃げないで』

 

『迷った時は初心に帰る。自分を見つめなおすことは後退ではない。覚えておきなさい』

 

「……そうだな。自分のことを思ってくれる女の子と、年の功の意見を参考にしよう」

 

 

 

 

 

 

 

次の目的地はシオンタウン。

 

 

 

 

 

 

 

萌えもんの終わりの町にして、俺のすべてが始まった町だ。

 

 

 

 




進化シーンのイメージはシトロンのうた、『キラキラ』をイメージしました。
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