罪深き萌えもん世界   作:haruko

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三か月もあけてしまったのは久方ぶりですね。数少ない待って下さった皆さん、大変お待たせいたしました。

しかも結局長くなりすぎたため、話は二分割になりました。もう半分はなるべく早めに投稿します。


間が開きすぎて前回投稿の際はXYの佳境だったのに今やもうサンムーンが始まりました。時がたつのは早いものです。
いつかZ技もこの小説で使えたらいいかもとほんの少しだけ考えました。


第7話 5 初

 

 

 

ムウマは思う。

 

認めたくないと。

 

 

彼らの戦い方を。彼らの想い方を。彼らの信じ方を。

 

 

それを信じてしまっては、もう、いよいよ、自分は駄目になると思った。

 

 

だから、彼女は思った。

 

 

 

自分の生き方、そして死に方を否定した、この男にだけは、

 

 

 

殺されてはやらないと。

 

 

 

 

 

 

 

これまで、ミズキは幾度となく、『短期決戦』というものを強いられてきた。

 

 

 

ブルーとの初バトルに始まり、タケシ、フレイド、カスミ、マチスと、思えばこれまでの戦いという戦いはすべて特攻に次ぐ特攻で突破してきた。

まあ、それは対戦相手の萌えもんが毎度毎度相当な実力者であり、普通のトレーナーの旅と違い、萌えもんの育成に重きを置いていないミズキの萌えもんとでは経験が違うということもあって、戦力差が圧倒的であるというのが主な理由だった。

 

 

 

しかし、今回のミズキの『短期決戦』は、事情も違ければ状況も違う。

 

 

 

それは、すでに一度二度交錯しただけで、鈍りだしているミズキの動きを見れば一目瞭然だった。

 

 

「やっぱり無茶ですよ……あんなの、普通の人間が一分も動けるはずないじゃないですか……」

 

「そんなことを言って主が帰ってくるはずないだろう。あの男を止められなかったわっちらにできることは帰ってくるのを待つだけだ」

 

(ぽん)

 

へたり込んだ自分の腰を一回たたくシークの力が弱弱しい。スーは二人が、『自分達だって心配なのだ』と訴えているように聞こえた。

 

 

 

そりゃそうだ。あんなの、心配にならないはずがない。

 

 

 

両手の先にほのおとこおりの球をぶら下げ走り回る決死の形相のミズキが目に入れ、軽く下唇を噛む。

 

 

 

 

 

ゴーストタイプの萌えもんに、物理攻撃はこうかがない。

 

空中に浮いている萌えもんに対して、じめんタイプのわざが効かないように。

エネルギーをいなされてしまうじめんタイプに対して、でんきタイプのわざが聞かないように。

固く重く強い鋼鉄の身を宿した萌えもんにたいして、どくタイプのわざが聞かないように。

 

なぜ、などという意味はなく。

 

宙にあるものが下に落ちるように、

 

火をつけたら熱くなるように

 

呼吸を止めたら人が死ぬように、

 

当たり前のことのように。

 

 

ゴーストタイプの萌えもんに、殴りかかっても触れる事すらできはしない。

 

 

そう、普通はそこで諦める。

 

 

諦め、有効なタイプの萌えもんに戦闘を任せるか、わざを変えて搦め手で攻めるか、逃げることだって出来るだろう。

 

 

 

 

拳に火をつけ、拳をこおらせ、強引に属性を付加させて戦おうとするなど、する理由は一つもない

 

 

 

そしてそんな状況で持久戦を行おうなど、全身に油を塗りたくりながらギャロップの背に乗るくらい無茶なことだった。

 

 

 

しかし、この男をこの世に現存する物差しで測ること自体、大いなる間違いである、と、相手どるムウマもにわかに感じ始めていた。

 

 

「……」

 

 

ムウマが頭の中で数々の思考を回し続ける間も、ミズキは地を駆け、宙を舞い、拳をふるい続ける、が、それでもムウマには一発たりとも当たらない。服を破りバンテージを作ったがゆえに無防備になった上半身は、交錯の度にところどころ少しずつ赤く、そして青く、さらには黒く変色していく。時間とともに背中の毒々しい色の傷跡が艶やかになっていくのは極限の緊張状態によってにじみ出る脂汗のせいだろう。

やがてミズキはステップを乱し、着地にも失敗してふらつくことが多くなっていた。両手の火球、氷球を床や壁についてしまい、顔をゆがませたことは一度や二度ではない。

もしかしたらもうとっくに両手に感覚などないのではないか。そんな想像を、目の前をかすめる炎の拳が払拭する。

まだキレは残っている。が、上の空のムウマにすらも当らないほど、ミズキのスピードは時間に反比例して落ちている状態であるともいえる。

 

 

「……帰れ。すぐにさっきの暴言を詫びて、帰れ」

 

 

ミズキを見下しながら言ったムウマの顔は、まったくの無。ミズキたちを見て苦しんでいた時でも、自分を殺せと激昂していた時でもない、何も思っていないだけの無表情。しかしながら、刺すような鋭さを持った、怒気を感じる声。

 

先刻まで町を飲みこむほどの大暴れをしていただけに、今の何気なく落ち着いた表情の口調はかえって不気味で、不安を煽る。

 

 

しかし、そんなムウマを見て、ミズキはくすくすと声を漏らす。

 

 

 

 

「ようやくちょっとはしゃべるようになったな。図星突かれて余裕がなくなったのか?」

 

 

 

 

言うや否や、ムウマが睨み、ミズキは一瞬で顔をゆがませ劈く様な悲鳴を響かせる。

 

 

「がああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

ミズキはその場で両膝をつき、前に倒れこむように両肘を床につけて四つん這いの体制になる。何とか件の燃え、凍る両手を床につけることは阻止したものの、苦悶の表情はある程度遠くにいるスーたちからも見て取れた。

 

 

「マスター!!?」

 

 

スーは反射的に駆け出そうとする。が、うつむきながらも腕の隙間から睨みつけるミズキの瞳が、来るな、と、強く制していた。

その後ゆっくり立ち上がったミズキは、再度、振り向かずに燃える右手を上に掲げ、ゆらゆらと揺らして自分の無事をアピールする。

しかしそれを信じて安心するほど、ミズキの契約者たちは薄情で間抜けではない。

 

 

「あのバカ主……。“やけど”と“こおり”が裏目に出てるじゃないか!」

 

 

直接一撃もらったミズキを除けば、一番早く状況を理解したフレイドはそうつぶやく。

 

 

 

「かはっ……っぺっぺっ」

 

口の中の傷をなめまわした後、一通りの血だまりをつばに乗せて吐き捨てながら腕先に目を落とすと、ほつれて落ちた布の隙間からレッドの腹に見たものと同じ青あざがほんの少しだけ見えた。明らかに他の、胸や腹や背中のしめつけられたような跡とは違う、とくしゅわざによるダメージ痕であると判断したミズキは、おそらくこの布の下の手のひらはやけどやら凍傷やらダメージによる鬱血やらでとんでもないことになっていることだろうと想像し、少しだけ顔をしぶくする。

 

「……やっぱりレッドをこうげきしたのもその“たたりめ”か……とことん状態異常の相手に特化した戦い方……これだからゴーストタイプは……」

 

「……」

 

無言でにらみを利かせ、容赦なく二打目を打ち込もうとするムウマを見て、まだ動く足に全力で力を籠め、瞳から広がる念波を躱しながら懐に潜り込んでいく。

しかし、数階層下のレッドにまで炸裂したムウマのわざを近距離にいるミズキが透かしきれるはずはなく、一度目の衝撃とまではいかずとも、再び両腕に見えない負荷がかかり、痛みが頭を支配する。

 

だが、それでも足の力だけは緩めずに突っ込んで来たミズキが放つ弧を描く様な“ほのおのパンチ”がムウマに襲い掛かる。

 

これまでの動きの落ち方、ふら付き方からまさかわざを受けながら突っ込んでくるなど想像もしていなかったムウマは、一瞬回避に時間をかけた。

 

 

その結果、ほんの数センチ、ローブの先を右手が掠め、小さな火が上がる。

 

 

「!!」

 

 

反射的にそれを消そうと動こうとした。

 

 

 

その瞬間を、歪んだ笑みを浮かべたこの悪魔が、見逃すはずはない

 

 

 

次の瞬間には、目の前にともった種火は消え、一瞬だけ聞こえた火が消える音の後、冷たく鋭い鈍痛を伴う衝撃が体全体に響き渡る。

 

 

小さな体は後ろにはじけ飛び、壁にたたきつけられる寸前でブレーキがかかったようにスピードを落とし、空中に留まる。ゼロになったわけではないが、追加の衝撃が減った分ダメージは半減だっただろう。

 

 

むしろ一撃をいれたミズキの方が崩れ落ちているのだから、この戦いの分の悪さたるや底知らずである。

 

 

 

しかし、それでもミズキは笑う。腕を胸の前で上下にクロスさせ肩から上腕にかけた筋肉を伸ばし気持ち程度に腕の疲労を抜きながら、少し嫌味に、少し楽しげに、愉快で邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「……ようやく一撃か……まあ、仕方ねえな。おら、来いよ? まだ殴り足りねえぜ?」

 

「……その体でよくそんなセリフが吐けたものね。あなた、自分で思っている以上に、今、醜くて哀れよ」

 

 

辛さに潰れ、暴れていただけの数分前の状態に比べ、時間を重ね、頭が冴え始めているムウマには、ミズキの振る舞いが虚勢であることはわかっている。

 

長く見積もって後五分。五分もすれば彼の体はガタがきて、燃料が切れたかのように崩れ落ちるだろう。

 

だからムウマは、自分から前には出ない。

 

自分はここで、『死』を選択しない。

 

この男に殺されてやらないと決めた以上、ここで彼の“ちょうはつ”に乗り、こうげきに出る手は一つもない。

 

 

 

「……哀れなのはお前だろう?」

 

 

 

「は? 何よいきなり? 打つ手無くなっておかしくなったの?」

 

 

 

冷めた声を上げるムウマ。しかし、ミズキは何も動じず、嫌味のように冷めた声を返す。

 

 

 

 

 

 

 

「お前の心は、何をそんなに必死に守っている?」

 

 

 

 

 

「お前の心には、何が残っている?」

 

 

 

 

 

「ムウマ」

 

 

 

 

 

 

 

「お前が、信じていたものは、なんだ?」

 

 

 

 

 

その瞬間、明らかにムウマの様子が変わる。

 

文字に起こせないような叫び声をあげた後、今まで見せていた、あらゆるわざを乱射しだす、

 

 

が、まだそれはいい。

 

 

 

 

問題となるのは、その、わざの軌道。

 

 

 

 

しかし、それは“サイコウェーブ”をはじめとした今までの精密な扱いからなる洗練されたわざではなく、子供が駄々をこね、積み木を投げつけるような道理の無い、ただただ暴れるだけのこうげきだった。

 

 

「な……いきなり何がっ!?」

 

ミズキの後方で見守っていたスーたちは、流れ弾を必死に避けながらも今の状況に対するこんらんを拭い切れずにいる。

これまでの数分間ずっと戦闘を見守り続け一度も目をそらすことをしなかったスーたちだったが、今になって初めてあのムウマがいかに優秀であったかに気付いたと同時に、今のムウマがいかに異常かという事に気が付いたからだ。

 

「……今まで一発も無駄弾を撃っていなかったくせに……いきなりなんだこれは……主はいったい何をした……?」

 

 

いや、そんなことを言っている場合ではない。加勢に行くべきだ。

 

 

そう思っているのは決して一人ではなかったが、弾幕のように降り注ぐムウマのわざをかわし打ち落とし守りを固める三人は、ミズキに近づくことすらままならずにいた。

 

 

すまない、そう声をかけようと一瞬ミズキの方を見たフレイドは、声をなくす。

 

 

 

 

そこには、これを機とばかりに躱しながら前進し、開いた距離を詰めていくミズキがいた。

 

 

 

 

「来るなぁ……! 来るな来るな来るなぁ!」

 

叫ぶムウマ。

それを聞くこともなく、交代のねじが外れた歩兵のようにミズキはどんどん前へと進む。

当然その間もムウマのこうげきは止まず、むしろ量自体は激しさを増す一方だが、それをミズキは首を傾け、半歩だけ体をずらし、最小限の動きを以てすべてのこうげきをかわしていく。ミズキの眼力もさることながら、ムウマのこうげきが崩れ始めていることの裏付けでもあった。

 

 

「……どうした? 落ち着かないとあたらないぜ?」

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさぁい!」

 

 

その声を皮切りにミズキは思いっきり足に力を入れ大きく加速をかけ、ムウマはこうげきの量を増やす。

……が、まさしくムウマのこうげきは量が増えただけ。今の彼女にそれをコントロールしきる力などない。

自分の限界を理解しているかどうかが、この交錯の勝敗を分けた。

 

 

「くっ!」

 

 

「これで……二発目!」

 

 

全てをみきったように躱しきったミズキはムウマの懐まで入り込み、左手で体に重い一撃を入れる。軽く後ろに吹き飛び今度は壁にたたきつけられてしまったムウマは肺の空気を吐き出しきってしまい、そのまま動きを鈍らされゆらゆらと地面に落ち伏せる。

 

 

「かはっ! ……はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 

 

左手の擬似“れいとうパンチ”をうけたからか少ししびれてしまった体を、壁を支えに無理やり起こす。ちょうど正面方向に、自分で作った血だまりの上に堂々と仁王立ちするミズキがいた。

 

 

こんな奴に、こんな奴に、こんな奴に。

 

 

「……どうだ……醜くて哀れな人間に、二発も殴られた気分はよ?」

 

 

心を見透かすような、悔しさの想いを器用に引っ張り上げるような声。

痛みが全身を駆け巡るのを必死に我慢しているのは明白なのだが、それをおくびにも出さずにただただあたかも勝者のような笑みを浮かべるミズキに、さらにムウマの苛立ちは増す。

 

 

カ行の音と気息音の中間のような音を上げながら再度突っ込んでくるムウマの体も、かなり限界が近づいていた。まっすぐ空中を突き進むその動きは軸がぶれ始め、余計な動きが多く混ざっている。

ジワリジワリとこうげきを重ね、圧をかけ続けるミズキの攻めは、着実にムウマの体力を奪っていたのだ。

 

 

ムウマの“たいあたり”

いや、わざですらない、ただの突進を何のけなしにひらりと躱すミズキ。

ムウマが器用に宙で向きを変え、何度も続けるがかすりもしない。わざの弾幕も軌道を読み、すべてをかわしたミズキにとっては、この程度のことは例えこんな状態の体でも造作もないことだった。

 

 

 

そして再度、今度は自分のやや前方の地面に、右手でムウマを殴りつける。

 

 

 

殴られ軽く転がったムウマは、それでももう一度体を起こし、ミズキを睨む。

 

 

 

「……大した精神力だな。まだ闘争心が消えないのか」

 

 

 

「ふーっ! ふーっ!」

 

 

 

整わない呼吸で無理やり体内に酸素を取り込むその行為をすでに瀕死であることの裏付けと取ることは難しくない。

服の隙間からほんの少しだけ見えるムウマの顔は、戦闘開始時よりも明らかに一回り大きくはれ上がり、痣と血と火傷が入り混じっている。

 

思いっきり起き上がり再び攻撃を仕掛けようとするが、その心意気に体はついてこず、思わずその場で顔をうち、じめんに突っ伏す。

明らかに自分の状態を見誤ったムウマの失態だが、人間相手にそんな醜態をさらしてしまっていること自体が萌えもん、ムウマにとっては屈辱的なことだった。

 

 

くそぉ、くそぉ、くそぉ!

 

 

 

 

 

 

「わたしは! わたしは負けない! あんたたちなんかに、負けるわけにはいかないのよ!?」

 

 

 

 

 

 

「負けたら、守りきっていた自分の信念が、壊れてしまうからか?」

 

 

 

 

 

ムウマの目を覚まさせるが如く、

冷ややかな声が響き渡り、

 

 

燃え上がった戦いを収めるが如く、

水をうったような静けさが支配する。

 

 

 

 

驚愕の顔を変えられずに大口を開けてミズキを睨み、息を吸うのすら忘れて数秒後に咳き込むその様子はのちに思えば笑い話になるが、その空間に笑いは生まれない。

 

 

「な……んで……」

 

 

「『なんでお前がそれを知っている?』……か? さあな」

 

 

言いながら両手をぐっと一つにくっつけ、ぼろぼろになった両腕の先を重ね合わせ、炎と氷を相殺させる。

 

 

この現状における、事実上の戦闘放棄。

 

 

の終焉を意味していた。

 

 

 

 

「なんとなく、わかっちまうんだ。『弱さ』ってやつが」

 

 

 

 

俺自身、とは、続かなかった。

 

 

 

 

「俺は、お前が嫌いだと思った」

 

 

身体を起こせず床に伏した状態のムウマを見おろすが、声は優しく、染み渡るようで、見下しているような思いは一切感じ取れなかった。

 

 

 

 

 

「最初にお前が殺せと叫んだ時、俺はお前を見誤っていたと思った」

 

 

 

 

何かから逃れる為、死を選ぶ、

 

おくびょうものであると。

 

 

 

何かに耐えきれず、死を選ぶ、

 

ひきょうものであると。

 

 

 

 

「過去から、罪から逃げて消えてしまうような奴は、絶対に許せないと。そう思った」

 

 

 

でも、お前は必死に戦っていた。

辛いながらも、前を向いていた。

 

 

 

お前は、逃げてなどいなかった。

 

 

 

 

 

その強さは、死に逃げるおくびょうものの持ち得るものでは到底なかった。

 

 

お前は、『死にたがりの甘ったれのクソ餓鬼』などではなかった。

 

 

 

ただ、自分の罪に押しつぶされて、自分の先に、一寸の光もない、常闇を見てしまっているんだ。

 

 

 

 

そういうやつの行動原理は、知っている。

 

 

 

 

誰かのため、だ。

 

 

 

 

 

「お前の中に、あるんだろう? 大切な誰かとの、大切な何かが」

 

 

 

 

 

 

 

ミズキは、右手先の大方が炭化した布を手から払い、黒々とした右手を差し出す。

手首から肩口にかけての露出していた肌は、傷と流血による痛々しさで見られたものではないからか、そんな手でさえも神聖で美しく成立したものに見える。

 

 

 

 

 

 

「来い。お前のすべてを俺によこせ。その代り、俺のすべてでお前の望みをかなえてやる」

 

 

 

 

 

 

「……ばっか見たい。人のこと殴り飛ばして、文句言って、それでわかりあったから、仲間になろう? 頭のネジ五、六本外れてるんじゃないの……」

 

 

 

 

 

「……かもな」

 

 

 

 

 

うつむきながらも、必死に身体に鞭をうち、のそりと起き上がったムウマは、頭のローブを脱ぐ。

 

 

 

 

 

露わになった表情は、何とも言えないものだった。

 

全てを諦めた表情とも、未来を見据えた表情とも、苦悩を飲み込み燃える表情ともとりがたい、それでいてこちらをにらむ目は鋭く、無表情とも遠い。

 

全く違う感情をないまぜにしてしまったかのような、そんな雰囲気。

 

そしてその表情を鮮やかに彩る、この世のものとは思えないほどの深く、黒く、赤いブローチがさらに彼女の怪異的な風体を際立たせているように思えた。

 

 

 

 

 

「……かわいいじゃねえの」

 

 

 

 

 

ミズキのとっさの軽口を無視し、その場で立ち上がり、

 

 

 

 

 

 

 

右手を前に差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

そうしてミズキは、五歩ほど空いた二人の間の距離を、右手を差し出したまま詰める。

 

 

 

 

 

 

ミズキの話を聞きながら、ずっと援護の体制を崩さず、待ち続けていたスーたちも、息を吐きながらその場にしりもちをついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

 

ミズキがやってしまったと、

 

 

気づくまでのコンマ一秒。

 

 

 

 

 

ミズキは完全な無防備となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知った風な口を聞くなああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

差し出していた掌の角度を、ほんの少し前に向け、

 

 

 

 

 

エネルギー波が放たれるまでの数秒。

 

 

 

 

 

 

先のコンマ秒単位の遅れからすれば、なんてことの無い時間。

 

 

ミズキの判断能力をもってすれば、“サイケこうせん”の動線を導き出し、回避行動を起こすには十分すぎるほどのチャージ時間。

 

 

 

 

 

しかし、再びミズキはコンマ一秒の失敗をする。

 

 

 

 

 

血液不足による思考能力の欠如。

 

 

先の交戦による体力の限界。

 

 

“サイケこうせん”の乱打による床面の悪化。

 

 

自らの流血による摺動性の上昇。

 

 

常識外れの無茶な運動後の、会話中にかかる体内への負担。

 

 

 

 

 

これだけ悪条件が重なった状態で、いつもの動きが出来るはずがない。

 

 

 

 

 

とっさに前に跳ぼうとしたミズキは、膝から床へ崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

涙をこらえきれず、喚き叫ぶムウマの虚ろな瞳は、完全に対象を捕らえていた。

 

 

 

 

 

 

何かを言いながら近寄ってくる、三人の契約者共の声もむなしく聞こえる。間に合わないことなど、考えるまでもない。

 

 

 

 

 

顔だけを前に向けた状態で、固まってしまったミズキには、景色のすべてがスローに見えた。

 

 

 

 

 

“サイケこうせん”が手から放たれ、

 

 

 

 

“サイケこうせん”が自分へと直進してくる。

 

 

 

 

 

 

 

旅が始まって以来、ミズキは初めて、自分の選択の失敗を思い、恥じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、目を閉じる。もはや、0%の可能性に賭けるような、味わった経験のない苦痛が一週回って焦りを忘れた脳を支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、マスターーーーーーーーーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲痛なスーの叫びを最後に、ミズキは五感をすべて投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一気に終わりまでいく予定だったけどさすがに二万文字をこえる可能性すら出てきたので分割しました。なので次は早めに投稿できると思います。←今度は嘘にならないように頑張ります。



あと個人的な意見ですけど、アニメサンムーン、思ってたより悪くないです。
XY&Zと完全に別物のカートゥーンとか見てる気分にはなりますが。
モクローかわゆす
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