どうにかこうにか三が日を使い作り上げました。ポケモンタワー完結編です。
……ヒサシブリダナ?
……ある意味お前とは初めましてだけどな。
随分ト冷静ナコトダナ。ヒトノコカラスレバコレハ異常体験トイエルモノダロウ?
俺が人の子? はっ。お前が言うのかよ。俺に力を貸し与えている、お前が。
……愚問ダッタカナ。
おいおい。反省してんじゃねえよ、らしくもねえ。お前の罪はそうじゃねえだろう?
真ニ『ゴウマン』ナノハ我ガ半身ニシテ我ノ本体。我ノ人格データハ共ニ過ゴシタ貴様ノデータニ近イモノニ日々進化、イヤ、変化シテイル。
なるほどね。だから俺が知っているあいつよりも、言葉もうまいわけだ。片言は抜けてねえけどな。
ソウイウコトダ。
じゃあ、あえてこう言おうか?
『似合わねえ真似するんじゃねえ』。
俺はあいつが好きだ。厚顔無恥で、傲岸不遜で、高慢ちきなあいつのことが大好きだ。あいつの姿で、似合わねえことを言うんじゃねえよ。
……ソレデイイノカ、ジョーカー?
……良いも悪いもねえんだよ。これが俺だ。
ジョウでもジョーカーでもない一人の男。
萌えもんトレーナー、ミズキなんだ。
……アア、理解シタ。モウナニモイウマイ。
ありがとよ。
……デ? 死ンデシマッテココハアノ世ナワケカ?
……さあな、次に目を覚ました時のお楽しみさ。まあ、現世じゃないなら地獄だろうけど。
何ヲ今更。極楽浄土ヲ期待シテイタワケデモアルマイ。
当然。罪深き人の世を生きた者が、閻魔の御膳以外のどこに行くよ。上じゃあ天使に唾吐かれちまう。
清算ハ、マダ遠イノカ?
……遠いなんて次元じゃねえさ。もともとあるかもわからないゴールだ。俺が走りをやめちまったら、その時点で先はなくなる。だが進みたくても進めない。夢のような話だな。
ヒニクダナ。
ああ、本当に……その通りだな。
マアシカシ……マダ逝クノニハハヤソウダナ。
……わかるのか?
アア。ココハ我ノ空間。貴様ハ己ガ扱ウ催眠空間ニイチジテキニ墜チテイルダケニスギナイ。
……そうか。だったらここが……
ソウ。『常闇ノ間』ダ。
……暗く、冷たいな。奴らが帰ってこれないのもわかる。
オイ、自責スルナヨ。罪トハイツデモ人ノ中。物ヤ能力ニ罪ハナイ。
馬鹿にすんなよ。さっきも言ったろ。俺は俺の意志でこの力を使ってる。無闇に使ってるつもりもないし、使ったことを後悔したことなんざ一度もない。
俺はただ、正直に、当たり前に、強欲に、最良を求めて動くだけだ。
……ソウダナ。
てか、だったら最初からわかってたんじゃねえか。何が地獄だ。性格わりぃことしやがって。
イッタハズダ。我ノデータハ貴様ノデータヲ取込ミ変化サセタモノデアルト。
……なるほどな。それは道理だ。という事はこれは一種の臨死体験か?
ソウデハナイ。
今回ノコノ一件ハ貴様ガコノミソウナ、モット論理的ナ結論ニ帰結スル。
随分小難しい言葉をつかえるようになったな。さすがは俺の経験をインストールしているだけのことはある。
んで? 何が原因だって言いたいわけ?
貴様ハ、クジケタ。
貴様ハ、自分ノ中ノ夢ノエネルギーヲコントロール仕切レナクナッタ。
ダカラ、飲マレタ。タダ、ソレダケノコト。
……俺が、死を覚悟したから……って言いたいのか?
不服カ?
いいや、至極納得した。
化け物みたいな力を使いこなすのは、化け物じみた精神だけってことか。
……嫌味ナ言葉ヲ選ブノハ自分ヘノ戒メカ?
どうとでもとるがいいさ。
ソウサセテモラオウ。
……ずいぶん長話しちまったな。じゃあ、俺はそろそろ行くぜ。見せたくない姿を見せちまった奴らが、俺の目覚めを待ってるからな。
……大シタ自信ダ、トハイワナイデオコウ。ソレガ貴様ラノ繋ガリ方ダトイウノナラナ。
モウ二度トココニハ来ルナ。ココハ貴様ガ来ルニハ少々クラスギル。
ああ、もう、来ねえよ。
俺は、もう二度と、折れない。
お前たちを、助けるまではな。
アア、ソレデイイ。
まず帰ってきたのは、味覚。鉄の味が頭に広がり、自分のいる場所が現実であることを確信する。
その後に、嗅覚。肉を無理に焦がした、不快感で支配するような臭いが頭を揺らす。
さらに、触角、そして聴覚。少しだけ体を動かすと、鈍い音がしたかと思えば全身が鈍痛に攻め立てられ、くぐもった声を思わず漏らすと同時に、自分がほんの数センチ落下したことを理解した。
そして最後に視覚を戻し、地面に突っ伏した自分の状態を把握した後、激痛による悲鳴を噛み殺しながら腕を使って自分の上半身だけを起こし、すぐ近くの壁に体を横たえ、真下に目を落とす。
目に移るほとんどの箇所は変色を起こし、自分の接する床面が歩けば音が響き渡りそうなほどの血だまりを作っていることまでは予想通りだったが、皮膚の一部が焼けただれていることは想定外だった。
立ち上がろうと軽く力を入れると右足から頭に警告が昇ってくるような感覚を覚える。どうやら足もかなり限界がきているらしい
最後に顔を上げ全体を見渡せば、何が起きたのかは一目瞭然だった。
真正面に見えるのは、もがく一つの影と、それを“メタルクロー”で組み伏せる一人の萌えもん。そしてその下には、床を抉るように円形に広がる爆発根。いわゆるクレーターのようなものに見える。
顔を動かすと痛みが走るため目線だけで右に動かす。
右には、安堵の表情で崩れ落ち、へたり込んでいるシーク、そしてその隣に、上を向いて、必死に涙を隠すフレイドの姿。
左には、四つんばいで打ちひしがれているスー、そして……
不器用に包帯を巻きつける、レッドの姿。
「……よお。ちっとは覚悟を決めてきたのか?」
「! 気が付いたのか!」
レッドの声に、皆が思わず反応し、取り囲むように集まってきて泣き顔を無理やりな笑顔に変える。
ああ、なるほど。
自分は、こいつに救われたのだ。
ミズキが生を投げだしたあの瞬間、
本来、全てが終わり、焼け焦げた跡だけが結末として残るはずだったあの瞬間、
それを崩した、崩す事が出来た唯一の存在。
状況を知る誰もが、驚き、慄き、固まったあの瞬間に、
動くことのできた、何も知らない、無知の遅刻者。
当事者の誰よりも素早く動ける部外者。
当たり前だ、何も考えなくていいんだから。
知り合いが危険だから助ける。約束なんか知ったことではない。
そうやって思考をショートカットできた、唯一の存在。
「カゲ! “かえんほうしゃ”!」
“サイケこうせん”とミズキの間に割り込む形でとんできた火炎弾は、ぶつかり合い、エネルギーを拡散させ、爆発を起こした。
その副産物で受けたのが、この火傷を含めた負傷というわけだ。
「……今回ばかりは礼を言う。助かったよ、レッド……いつっ!」
「馬鹿者! 動けるわけがないだろうが!」
フレイドが無理やりに起き上がろうとするミズキを諌める。しかし、フレイドが何かをするまでもなく、ミズキは力なくその場に崩れ落ちた。
糸が切れた操り人形の様なその風体はとても安心できるものではなかったが、それでもまっすぐに前を見据えている瞳は、四人の不安をさらに煽るものだった。
「どけえ! そいつは! そいつだけは! 私が殺してやるんだぁ!」
「黙ってろ!」
同じ目線で伏しているムウマが暴れるのを、馬乗りの状態のカゲがもう一度“メタルクロー”で組み倒す。もともと能力は高くても腕力が強いわけではない上に、ミズキとの戦いで消耗しきっているムウマの抵抗など意に反さず、力強く抑え込んでいた。
「……兄さんはもう動かなくていいよ……」
そんなカゲの行動を遠巻きに見ながら、ミズキをゆっくりと床に降ろし、爪が食い込むほど強く拳を握りこみながら言う。
「兄さんを傷つけたあいつを、俺は許せない! あいつは、俺がやる!」
嗚呼……
前を見据えるその瞳。
大きく暖かく感じるその背中。
心の中に秘めた、熱く滾る思い。
やはりこれが、レッドの本質なんだ。
轟轟と燃え盛る火柱ではない、もっと芯に響くもの。
“秘めた情熱”
「……やっぱり、お前はそういうやつだよなあ……」
そういうとミズキは歯を食いしばりながらも立ち上がり、前にいたレッドの肩に腕をまわしながら抱きつくような体制でもたれかかる。
「……? 兄さん? 何を」
「……ごめんな、レッド。俺は、お前のそんな想いを踏み躙る、悪い兄貴だよ」
どういう事? と、レッドが声を出す前に、レッドの体は一気に力を失っていく。
足で踏みしめようとするも、脳がぽーっとして足まで指令が届いていないような、寝ぼけているような感覚。
「……これは俺からのお詫びを込めたプレゼントだ。やっぱりお前にはこの石を用意して正解だった」
フラフラのミズキの腕の中に収まったレッドは、そのセリフと、ミズキがポケットから出した、赤く、紅く、燃ゆる火焔のような色を放つ宝石が中心にはめ込まれたブローチを見たのを最後に、ゆっくりと訪れる脱力感に抵抗することをやめ意識を落とす。
左腕だけでレッドを抱え込んだミズキは、レッドが来ている赤い上着の白い襟元に、そっとブローチをつけておく。元気なレッドにピッタリな印象を受ける上着の赤に対して、黒々とした奥ゆかしささえ覚えるブローチの紅はまた違った意味で印象的だった。
「だからこそ、あいつをお前に任せるわけにはいかない」
レッドの体制を横にして、自分が寝ていた跡が残っている壁際に今度はレッドを寝かせ、戸惑いの表情を消しきれていない自分の萌えもんに指だけで指示を出す。
手前に四本動かして、寄ってこい。
真下に一本動かして、ここにいろ。
それだけ。
「お前は、俺が傷ついたことが許せないだろう。お前は、あいつのことを許さぬままに戦うだろう。お前の熱い情熱を、あいつにたたきこむだろう」
でも、それじゃあだめなんだ。
「あいつと分かり合うためには、俺が行かなきゃいけないんだ。あいつとこれから歩み始めるには、本当の意味であいつと、
それは、お前がやってはいけないことだ。
お前はまだ、罪を知らないから。
罪の、冷たさを知らないから。
そして、お前には罪の冷たさを、知ってほしくなんかないから。
「待ってろよ。レッド。俺は、あいつと、『契約者』になってくる」
「……どういうことだ、ミズキ!? お前、レッドに何をした!?」
「……大丈夫だ、眠ってるだけだよ……レッドのそばにいてやってくれ」
「……お前」
暴れるムウマを今もなお組み伏せてくれているカゲに、壁際のレッドを快方してくれという指示が何を意味するのか。考えるのが苦手なカゲでもさすがに察する。
これから何をする気なのか。何がしたいのか。
「……死ぬ気じゃないだろうな?」
「……バーカ。そんなわけねえだろ。安心しろ、少し寝たから体力は回復した。さっきみたいなポカはありえねえよ」
いぶかしげにミズキを覗き込むが、まじめそのものな瞳を返すミズキに、状況を理解していない自分が言い返せることなど何もないと考え、ムウマから手をそっとはなし、馬乗りの状態を解除する。もちろん、その瞬間からムウマは自由になり、ミズキに再度“サイケこうせん”を撃ちこむことは可能だったが、敵意こそ消えていないため警戒は緩めないがミズキを睨みつけ相対していることから少なくとも即座にこうげきをする気はないと判断し、おとなしくその場を外れてレッドのもとへ向かう。
「……後で、きっちり説明しろよ」
「……いつかな」
そういってミズキのわきを通り過ぎるカゲは、レッドのことに頭が切り替わっており、
ミズキの体の流血は、すでに止まっているということに気付かなかった。
「よお、ただいま」
「……化け物め」
「おいおい、めったなこと言うなよ。俺は人間さ。ちょっと人の道から外れているのは自覚しているが、化け物なんて大それたもんじゃない。お前も俺も、結局はただの人間と萌えもんなのさ」
ついさっき殺されかけた相手に対して飄々と答えを返すミズキは手のひらを水平に横に出しながらオーバーなコントのようなアクションをつけるが、それで笑いが起こるはずもなく、ムウマの苛立ちはさらに上がる。
「あんたのそのわかったような口ぶりがわたしは大嫌いなんだよ! 何が『お前のすべてを俺によこせ』だ! 何が『望みをかなえてやる』だ! たった数回言葉を交わしただけで、たった数回なぐり合っただけで、わたしのことが分かったつもりか! そうやって、わたしの心に、土足で入ってくるんじゃなぁい!!!」
言いながら構え、溜め、再びミズキめがけて放たれる“サイケこうせん”。
わざをうつ、と決意してから3m半の位置にいる自分に着弾するまで2,50秒といったところだろうか。さらに細かく時間分けするならば、脳から体へのインパルスに0,12、溜め時間になんと1,11、発射から着弾まで1,27。そりゃあ、さっきまでのぼろぼろな自分じゃ避けられないはずだ。
なんていう適当なことを考えながら、片足を軸に体全体を270°回転させる、所謂ピボットターンのような動作で、何でもない事のように回避する。
数発乱打するが結果は同じ。軽いジャンプや首を傾けたりといった動きが増えただけで、一発たりともかすりもしない。完全にミズキの体のキレはムウマと戦う前のもの……いや、タワーに入る前の万全な状態のそれまで回復していた。
「く、くっそぉ……」
次第に肩が上下する動きが増えてきたムウマ。当然だろう。ムウマは先の戦闘から一つたりとも回復をしていない。いくらダメージが少なくても、撃ち疲れや重圧によって奪われる体力が消えるわけではない。
やがて前に掲げていた掌が、骨が抜かれたかのようにだらんと下に垂れ下がる。先ほどの乱打も考えると、撃ててあと一発だろう。
心底悔しそうにしながらもにらむ瞳だけはそらさずミズキをしっかりとらえ続けている。
「……お前は、お前は! 私が絶対に殺してやるんだぁ!」
「やってみろよ」
「……えっ?」
完全に思わぬ返しに、ムウマも、後ろで眠るレッドの周りに集まっていた四人も同じような反応をするが、ミズキは気づかないふりをしてずんずんと前に進み出る。
「殺したいんだろう? やってみろよ。一発、お前のわざを、ここにぶち込めば俺は死ぬんだぜ?」
間を詰め、ムウマの右手を自分の左手で取り、引っ張って自分の左胸に当てる。ムウマのかわいらしい顔が目の前で難しい表情を作る。
「ば、馬鹿じゃないの……さっきあんた、わたしの一撃で死にかけたじゃない……まだ私を仲間にしようなんて、説得しようなんて考えてんの……? この期に及んでまだ、私があんたを殺さないとでも……」
「一発目。俺の腹部に直撃。しかし距離があった為軽傷」
言いながらミズキは右手を掲げながら、親指から一本ずつ指を曲げていく。
「二発目。フレイドに直撃。しかし致命傷には至らず」
「三発目。乱打の皮切りとなった一発。しかし命中せず」
「四発目から何発かは正真正銘めちゃくちゃな攻撃。完全に自分でコントロールできていない状況で打った数発」
一つずつ、一つずつ。指を曲げながらカウントするミズキを、誰も止めようとはしない。ゆったりと一発ずつ何かをカウントしていくミズキの指は、とうとう往復し二週目に入った。
「十三発目。俺の足元に
「!!!!!!!!!!」
全員、そこで、気づく。ミズキが、何を言いたいのか。
「いや、いや、いやぁ……」
「十四発目。俺が回避した後、七発目と九発目で作った壁の大穴を通るように発射。当然俺には当たらず」
「十五発目。俺が回避した後、四発目と八発目で作った大穴を通るように発射。当然俺には当たらず」
「やめて、やめて、やめてぇ……」
「十六発目から十九発目まで。同じく、人が死なないように、塔が崩れないように、細心の注意を払いつつ、こうげき」
「いやあああああああああ!!!!!!!」
「二十発目。最後の”サイケこうせん”……は、撃つ事が出来ない」
なぜならお前は、
人を殺したくなんてないから。
争いたくなんてないから。
泣きじゃくるムウマと、そのまま動かないミズキ。そして、それを見ながら呆然とする四人。
考えてみればおかしな話だった。
ここはバトルフィールドじゃない。洞窟でも、草むらでもない。バトルする環境としては、まったく整ってないといっていい。
こんなところで、ムウマは暴走状態を起こし、数多の“サイケこうせん”をがむしゃらに何発も発射した……ように見えた。
そんなことをすれば、建物はたちまち崩れ落ちてしまうに決まっている。
「彼女が……そんな、細心の注意を払いながらこうげきをしていただなんて……」
スーがぼそりとそうつぶやく。全員同じことを言いかけていたがスーの言葉に頷くことはしない。理解はできるが想像がつかない。その想いまで一致していた。
「そんな奴が、そう簡単に『自分を殺せ』だなんていうはずがない。俺たちよりも強く、俺たちを疎ましく思いながらも俺たちの命を奪わずにいてくれた優しいお前が、『死にたがりの甘ったれのクソ餓鬼』なわけがない」
そう言い切るとミズキは、親指だけ飛び出た右拳をおろし、握っていた左手に右手を重ねる。
「俺と一緒に来てくれないか?」
お前は、言った。
知ったような口をきくなと。
自分の心に、土足で踏み入ってくるんじゃないと。
俺は別に、知ったような口をきいてお前のことをすべて理解したつもりになりたいわけじゃない。
過去に踏み入って欲しくないという想いは、俺たちは誰よりもわかっている。
俺は別に、お前の心に土足で踏み入り、荒らしまわりたいわけじゃない。
土足で自分の心の部屋に閉じこもってしまっているお前と、一緒に外に出たいんだ。
「俺は、お前と一緒に行きたいんだよ」
重なる手が、温かい。
さっきまで火がついて、氷がついて、
自分に殴りかかってきていた拳が、今はこんなにやわらかい。
さっきまで憎くて仕方がなかった男の鼓動が、今はこんなに心地いい。
何なのだろうか。この人は。
分からない。
認めたくないような暗い影と、信じたくなるような優しい陽の、中間のような存在。
この人になら、少しだけ…………
ほんの少しだけ…………
ミズキが握るムウマの右手の力がそっと抜ける。
「……わたしは、強くも、優しくもない。あなたより小さくて、あなたより醜くて、あなたよりも汚い」
「そんなことはないさ」
「ある。だって、私は……」
この弱さのせいで、友達を殺した。
「……」
「わたしは、もともと弱かった。弱くて弱くて仕方がなくて戦いたいだなんて思ったこともなかった。唯一めざめたこの“
わたしは、満たされる夜が大嫌いだった。
わたしが夜に満たされることは、名も知らぬ誰かからわたしが奪い取ってしまうことだから。
でも、それでも、あなた以外にも、わたしを認めてくれる人はいた。
たった、一人だけ。
『あなたは人より劣ってなんてないわ。ちょっと人より多くのものを抱えてるから、少し遅れてるように見えるだけなの。私はあなたのその力、すごく素敵だと思うわよ。だから、一緒にがんばりましょう』
彼女は、わたしを認めてくれた。
自分の力も満足に扱えず、一人蹲っているわたしと、友達になってくれた。
わたしは彼女が、大好きだった。
彼女と一緒にいるときだけは、心が安らぎ、体が休まり、少しだけ力も抑えることが出来ていた。
でも、わたしとずっとともにいた彼女は、少しずつ、少しずつ、体が弱ってしまっていた。
彼女と一緒にいたかった。でも、彼女に隣にいて欲しくなかった。
何処かへ行くといっても聞いてくれない。優しい彼女は自分をほおっておけないという。
残酷な優しさだった。
わたしにできることは、早くこの力を自分のものにする事だけだった。
そして徐々に弱る彼女と一緒に過ごす日々が続いていると……奴らが来た。
彼女は……逃げ遅れた。
足を、縺れさせて。
「そんな彼女はわたしに言った。『生きて』って。『頑張って』って」
「……それが、お前の中の、『大切な何か』か」
「わたしは必死に生きようとした。彼女の分まで、彼女がわたしに託してくれた分まで、必死に生きて恩返ししようとした。力をコントロールして、彼女が笑ってくれるように努力しようと頑張った」
でも、できない。そもそも、それを達成したとしても、その時に、笑ってくれる彼女はいない。
「……死にたかった! 消えてしまいたかった! わたしがここにいる理由なんて、生きているための理由なんて、一つだって残ってなかった! でも、彼女は『生きて』って言った。何もない私に、『頑張って』って言ってくれた! 今のまま死んであの世に行っても、わたしは彼女に合わせる顔がないの!!!」
「……だから、『わたしを殺しなさいよ』か……」
つまるところ、こういうことだ。
彼女は、
友達との、やくそくを、守るために。
「……違う」
違うだろ。そうじゃないだろ。
そんな揚げ足取りみたいな死に方をさせるために、そんなことを言ったんじゃないだろう。
お前の親友は、今のお前のことを見て、『助けてくれ』って言ったんだよ。
救ってくれって、泣き叫んでいたんだよ!
「……お前の心の中にいるお前の友達は、今のお前を見て、笑ってるのか?」
「……え?」
涙を見せまいと顔をそむけていたムウマが、思わずこちらを向く。
「よくやったなって、頑張ってるなって、その調子だって言ってるのか?」
「わ、わたし、わたしは……」
流れる涙をふき取る事さえせずに、左手で頭を抑えながらうめき声をあげる。
「お前の心の中の親友は、土足で心の部屋に一緒にいるお前に、何も言ってくれないのか?」
「あ……あ……」
ほほを伝う涙を止めようとすらせずに、嗚咽を漏らしながら目を見開く。戦う前の虚無に捨てられたかのような無の眼からは想像もできないような、活きた瞳だった。
「お前の友達がお前の肩に乗っけたのは、ただ重いだけの苦しみだったのか? 違うだろ。お前が前に進めるために、お前が抱えている荷物を下ろして新たな道を進むために、自分の『願い』を、『生きて』って願いを託したんだろうが」
「う、あ、う」
彼女は、戸惑う。
彼女の近くには、なかった。
泣きたいときに泣ける、
人の胸の中という場所は。
「……来い」
「う、うわああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!」
泣き、喚く。
無垢な、声を上げて。
彼女に託された力は、重すぎたのだ。
与えられるものが少なかった彼女は、愛着の無い、自分の荷物だけを抱え込むことしかできなかったのだ。
そして、今まで抱え込んできたものが、今ぼろぼろと崩れ落ちる。
器の中の、哀しみ、苦しみ、憎しみが、今、滝のように外にあふれ出る。
その器には、今、別のものをいれたから。
「ムウマ……お前の『
「……強くなりたい」
自分を。
約束を。
大切なものを。
今度こそ守るために。
「ああ、任せろ」
俺がお前に見せてやる。
お前が託された命の、美しさ、素晴らしさ、尊さを。
俺がお前に与えてやる。
お前の、強さの可能性を。
「……フジろうじん。そろそろお身体も心配になるころでしょう。さっさと教えてくださいませんか。あなたの研究データを手に入れるための、パスコードを」
「……何度も言ったはずです。この子の母親に手を出したあなたたちに、渡すものなど何もありません」
「ですからそれは不可抗力ですよ。その子の母親が先にこちらに手を出してきたんですから。正当防衛ですよ、正当防衛。ねえ、ぼく?」
ろうじんのひざ元にいるその娘が、顔をそむけ、がたがたと震えるのを見て白衣の男はいやらしく笑う。ろうじんはその男を一度睨んだ後、優しくその娘の頭をなでる。
「わたしを殺したければ殺しなさい。その時には、永遠にあなた方はデータを奪う手段を失いますがね」
「こ……このじじい!」
拳を振り上げたその瞬間、響き渡った爆発音が白衣の男、はぐれけんきゅういんの動きを止める。
「な、何事だ!」
叫ぶと同時に、服の下の通信機が電子音を鳴らしふるえる。
「おい、どうした! いったい何があった!」
『こ、こちら六階から七階への階段を警備中のA班……何者かに突破されました!』
「な、なんだとぉ!」
『こちら七階入り口のB班です! 混戦状態! 四番隊まで瞬く間に戦闘不能!』
『こちら七階防御班のC……うわああ!』
どんどん近づいてくる地鳴りのような爆発音と、悲惨な現状を知らせる無線機のタイミングがあっていることから、この音がその侵入者が出しているものだと察し、冷や汗を垂らす。
このままではまずい。
「おいじじい! 立ちやがれ!」
無理やりフジろうじんを引き上げたけんきゅういんはボールを一つ投げ、ゴルバットを出し、片手で無線機を持ち指示する。
「おい、いいかお前ら! 俺はじじいをつれてゴルバットでここを脱出する! お前らは俺が逃げるための時間を」
といったところまでで、全隊員からの通信は切れ、
傍のゴルバットも、こおりづけになり、倒れる。
「……は?」
「……ぬるいんだよ。それに遅すぎる」
「……たっぷり休んでいましたから。いくらでも動けますよ」
「……それに鬱憤もたまっている。わっちは奴らを許さない」
「……」
当然シークにそんな意図はないが、スプーンで一発ぺしっと出した音が、けんきゅういんにはたまらなく恐怖を煽ってくるように感じた。
「なあ、そこのお前。聞きたいことがあるんだが……」
ガラガラを殺した“はぐれけんきゅういんのフジオ”ってのは……お前か?
「ひぃ!!!」
思わずしりもちをついた男の首からは、任務の際には常につけておくよう言われているネームプレートが垂れ下がっていた。
自分の胸元に目線が下がっていることに気が付いたフジオは必死にそれを隠す……
が、当然、遅い。
「……そうか……」
オマエカァ。
「ひぃ!!!! ち、ちがう。あれは、ちがうんだぁ!」
「……貴様には、救いすら与えない」
左手、人差し指を向けるミズキから、三人は一斉に目をそらす。
夢幻の穴がお前を堕とす。
注意……しても無駄だ。理不尽な力に揉まれて死ね。
お前がガラガラにやったようにな。
―――――――――――――――常闇の間、夢幻の落穴―――――――――――――――
「……ここは……どこだ?」
フジろうじんも、あのガキも、萌えもんたちも、いない。
「いったい……どこに?」
漆黒の中を動き回ろうと、一歩踏み出そうとしたその瞬間。
気付く。
自分の周り一歩分以外には、足場が、ない。
地面が見えるわけではない。下に何かが見えるわけでもない。
全て等しく、黒だ。
でも、何故だかわからないが、わかる。
一歩でも踏み出せば、堕ちる。
堕ちたら……
「死……」
そういいかけたところで、体が、浮く。
そう感じた、が、それは違った。
誰かに背中を押され、体が虚空に投げ出されたのだ。
「だ、れが」
そういって振り返り、最後に見た色は。
頭にかぶる、真白な骨と、
体を覆う、薄茶色の服と、
背景に溶け込みそうな、真っ黒な瞳。
「ガラ、ガ、ラ」
それに何かを言う前に、男は遠くへ堕ちて行った。
まずい、まずい、まずい!
もう何分経ったのだろう?
黒以外に景色はないから判別はできないが、今の速度はすさまじいものになっているはずだ。
この状況で床にたたきつけられようものなら、確実に死ぬ。
「くそお、くそお!」
ここまでか!
ここまでか。
そんなことを考えた自分は、この闇を甘く見ていたのだろう。
どれくらい、このまま過ごしたのだろうか。
一日? 一カ月? まさか、一年?
その感覚すらも奪われる。
死ねないことが、これほどまでに苦しいなんて、考えたこともなかった。
もう……いやだ……誰でもいい、何でもいい。
目に移る何かを見たい。自分以外の何かを感じたい。
「もう……もう落ちるのは……いやだぁああああああああああ!!!!!!!!!!」
夢幻の悪魔は、闇に溶け込み、じっと見つめている。
しかし、声をかけることはしない。
何をするわけでもない。今日の彼の残された仕事は……
何もしないことだけ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
契約者 5人
ミズキ、スー、シーク、フレイド、マリム←NEW
契約1
我々は互いの過去に関せず
契約2
我々は互いの野望のために尽力し、中断およびそれに準ずる行為のすべてを禁ずる
契約3
大なり小なりの野望を携え、既存の契約者と同等およびそれ以上の野心を持つ者のみ、新たな契約者としてパーティに加入することを許可する。
野望
ミズキ
R団を壊滅させる
スー
誇れるような自分となり、故郷に帰る
シーク
???
フレイド
ある人間を探す
マリム
強くなる
契約4
楽しい旅であれ
過去
ミズキ、スー、シーク、フレイド、マリム 不明
カントー図鑑ナンバー 圏外
後のミズキによる図鑑アップデート後のぜんこく版図鑑ナンバー 200 ムウマ
愛称 マリム
まじめなせいかく ちょっぴりみえっぱり
Lv32のとき、ポケモンタワーで出会った。
愛称に一番悩んだ子です。