罪深き萌えもん世界   作:haruko

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本当に久しぶりの連投です。

前半チョイギャグ 後半真面目


第8話 2 亀裂

 

 

「それで? 『当て』とはいったい何のことだ?」

 

クチバに行く道中と同様の“ちかつうろ”の中をマリムを除く皆で歩いていた時にフレイドがふと口にする。その言葉にはほんの少しだけ棘のようなものを感じる。

おおかた初の“契約凍結”にまだ納得が言ってないのだろう。ニビシティですでに経験済みのスーと今日も腕の中でまったりと過ごすシークに比べて今日のフレイドはかなり不機嫌なオーラを全身に纏っていた。

 

「そんなに嫌な顔すんなって。確かに俺たちの旅は野望に向けた契約の旅だ。最短距離を進むに越したことはないさ。だが別に空白の時間をゼロにしなければいけないわけじゃない。無駄じゃなければ寄り道も必要だろう」

 

そういって頭をガシガシと撫でるがまだフレイドは険しい表情を崩さない。

 

「もう……フレイドさんってば、いったい何がそんなに不満なんですか? マリムちゃんのことを考えててマスターがかまってくれないからですか?」

 

「違う。主がいなければ何もできないお前と一緒にするな」

 

 

その言葉を境に、二人の間でぴしっ、と音が鳴る。

 

 

「……シーク、みるなみるな」

 

「……?」

 

 

ミズキは抱えているシークの目線を手のひらで覆う。シークは掌を必死に外そうと小さい力で抵抗するが、ミズキは負けじとがっちりと抑えながら、火花散る二人から距離を置く。

 

 

「……言い過ぎたって謝るのなら今のうちですよ」

 

「何か問題でもあるのか? 最近の戦果とわっちらの実力を照らし合わせれば、わっちの発言は妥当性があると思うが?」

 

「へぇ~~。最近マスターの作戦で失敗続きのフレイドさんからそんなセリフが聞けるなんて思いませんでしたぁ」

 

「あ゛あ゛!!」

 

おお、スーがフレイドを“ちょうはつ”している。

スーのあんな一面がみられるなんて……あいつらも仲良くなったもんだなあ。

腕の中でシークが小刻みに震えているけど気のせいだろう、うん、気のせい気のせい。

 

 

「……わっちに実力が劣っているからハナダでグダグダいじけてた間抜けはどこのどいつだこの小娘!」

 

「はー!? 毎度毎度自分のマスターにケンカ売っては負けてる犬さんがそんなこと言っちゃうんですかぁ!」

 

あーあ。二人ともスイッチ入ってるよ。どうしたもんかねえ……。

 

「シーク。止める?」

 

目隠ししたままのシークが両手でばしばしとミズキの両腕をたたきまくる。うん、何回たたいたかはわからないけどたぶん答えはNOなのだろう。

 

 

「いいですかフレイドさん? この際だからはっきり言わせていただきます! マスターの相棒にして最強の矛となり得るのは、初代パートナーのこの私です!」

 

「……出会うのが早ければ最強の矛か。ずいぶんと安い称号をぶら下げてるんだな」

 

 

ああ、これ、ダメだ。

 

 

最後の言葉を皮切りに二人は振り向き、大股で三歩距離を取る。

これはミズキとフレイドが道中、いつもの喧嘩をする際に最初にやる儀式みたいなものだった。

 

 

 

「さーてと、どっちが勝つかなー」

 

そんなこと言ってる場合じゃないと言わんばかりに腕の中のシークが大暴れをする。

 

……そんなこと言ってなきゃやってられない状況なんだもん。

 

 

 

 

 

「ぶっ飛べ負け犬ぅ!」

 

「沈めクソアマぁ!」

 

 

 

 

 

“ちかつうろ”は勝手に通っていいって言ってくれた管理人のフジろうじんの笑顔を思いだし、これまでのフレイドとの戦闘を少しだけ反省するミズキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気が済んだか馬鹿ども」

 

「「すみませんでした」」

 

包帯だらけの体で謝罪する二人を見おろしながら、首を動かし周りに目をやる。十万単位の弁償で収まったらいい方だろうかというほどにぼろぼろになった『つうろだったもの』の残骸が広がっていた。

下がったままの二人の頭をぺしぺしとたたくシークがこの空間唯一の癒しだ。

 

「……まあ、お前らが想っていることを吐き出せるようになったことが分かったっていうのは、ある意味チームとしては僥倖だしな。今回だけは許してやるよ」

 

「「はい」」

 

ちなみに結果としては勝負は引き分けだ。ダメージが深刻になる寸前で涙目のシークと自分が仲裁に入った。

ん? 最初から止めろって? 不完全燃焼の爆弾二つ抱えたまま旅なんかできるかい。

 

 

 

 

 

「で、犬の方の馬鹿。お前は何がそんなに不満だったんだ?」

 

「……わざわざ契約を曲げてまでムウマの野望を優先してやる理由があったのか、という事だ」

 

腕の包帯を煩わしそうにしながら結果不機嫌なままのフレイドが言う。

 

「わっちから見ても、あのムウマのレベルはこの中の誰よりも高い。単純な能力ではもちろんだが、ゴーストタイプという恵まれたタイプも手伝って、奴の戦闘汎用性はこのパーティ……いや、全萌えもんの中でもトップクラスだ。わざわざ旅の時間を割いて奴の強化をする理由はあるのか?」

 

べた褒めしているように聞こえるが、フレイドの言っていることに誇張や測り違いはない。

ぶつりこうげきを無効化できるタイプ相性やあのこうげきりょく、ぼうぎょりょく、わざのレパートリーを考えれば今前線に出したとしても即戦力として扱えることは間違いない。

むしろ我々が束になってかかっても止められないような力を持った者が味方に付いてくれたのだ。これ以上の強化が必要かどうかというのは至極真っ当な疑問だろう。

 

「なるほどな、それでマリムの野望を優先するのが納得いかなくて拗ねてたのか」

 

「拗ねてないと言ってるだろう!」

 

きっ、と睨むフレイドを堂々と適当に流しながらも、ミズキの目はそっと真剣な目に変わる。

 

 

 

「でもな、俺は今のままのマリムじゃあ、とてもじゃないが戦力にはならないと思っている」

 

 

 

その言葉に三人はピタッと止まり、ミズキの顔をじっと見つめる。

 

「……理由を聞こうか」

 

ミズキの少し前を歩いていたフレイドはそっとちかつうろの壁に寄りかかる。自分が納得する説明をするには長い話になるとでも思ったのだろう。

 

「そんな小難しい理由はないさ。いや、むしろシンプルで明快な理由だ」

 

 

 

今のやつには自信がないのさ。

 

 

 

「……そこがわっちの一番理解できない点だ」

 

 

 

フレイドは自分の手で鬣をくしゃくしゃとまわしながら少し声を荒らげ言う。

 

「悔しいが、わっちらは奴に完敗した。ほのお、かくとうで近接戦闘型のわっち、エスパーで遠距離攻撃補佐のシーク、みず、こおりで中距離攻撃兼中距離攪乱型のスーが、主の作戦を遂行した結果、惨敗した」

 

言うのも嫌だ、と言わんばかりの口調で一つ一つ呟く。言葉が進んでいくごとに、三人の空気は次第に重くなっていく。

 

「そんな奴が、『弱い』だと! ちょっとわざ(ゆめくい)がうまく使えないからって『自分は弱くて弱くて仕方がない』だと! そんなこと言われて納得が出来るわけがないだろう!」

 

“とおぼえ”の様な叫びを聞き、ミズキは今のフレイドの心情の大方を理解する。

 

 

 

(こいつ……やっぱり拗ねてるんじゃないか)

 

少し笑いかけたところを無理やり心の中に抑え込む。

 

 

 

 

フレイドは『嫉妬』している。

 

 

 

 

これが全てだ。

 

 

 

自分より強いマリムが、自分よりさらに上を目指している。

それを、俺が優先しようとしている。

 

それに、嫉妬している。それだけだ。

 

(かわいいやつだなあ……)

 

しかし、それでチームに亀裂が入るのはいただけない。

今こそ契約は凍結しているが、旅の基本は『楽しい旅であれ』だ。

 

一つ咳をはらい、気持ちを切り替えてフレイドに向き直る。

 

 

 

「お前ら、『ムウマ』っていう種族がどんなわざを覚える事が出来るか知ってるか?」

 

 

 

「へっ?」

 

その質問に間の抜けた声を上げたのはスーだった。いや、声を上げてはいないだけで、シークも同じような気持ちだろう。ちょっと下に視線をずらすと手元で丸まっている黄色いそいつがきょとんとした顔でこっちを見上げている。

 

「マスター、いきなり何の話を……」

 

スーのその純粋な質問は、一転して呻くような声に変わったフレイドの言葉が遮る。

 

 

 

 

「ま……まさか……」

 

 

 

 

「おお、気づいたか。さすがだな。馬鹿わんこから(かしこ)わんこに昇格させてやろう」

 

そんなおどけたミズキの答えに反応する事さえせずに、フレイドは自分の頭を片手で抑え少しうつむく。

フレイドがムウマの覚える技をすべて知っているとは思えない。つまり、ミズキに言われた言葉の端々から、自分で結論にたどり着いたのだろう。ハナダのころの直線的な考え方しかできなかった彼に比べれば日進月歩の成長を褒めてやりたいところだが本人がそんな状態じゃないので今回は少し自重する。

 

「ちょっと! 納得してないで説明をくださいよマスター! いったいどういう意味ですか!?」

 

そしてまだわかっていないスーが場違いに声を荒らげる。

……お前ももうちょっと考えられるようになろうな。

なんて馬鹿なことを言っている時間じゃない。そろそろ真剣に話し始めないとな。

 

 

 

 

 

 

「いいだろう、結論だけ言ってやる。

 

『ムウマという種族にとっての“ゆめくい”っていうわざは、何の役にも立たない』

 

いわゆる死に技だ」

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

体温がもともと低いスーの体に、もっと違う、冷たい電流の様なものが駆け巡り、もともと青いスーの表情をさらに青くする。

 

 

「ムウマっていう種族はな……あいてをねむらせる状態異常わざを……一切覚えないんだよ」

 

 

スー、そして、腕の中にいるシークの体が一瞬跳ねる。今ミズキが口にしたことが、何を意味するのかを理解したのだろう。

そしてフレイドは変わらぬ体制のまま、気まずそうな顔で口を歪める。散々言いたいことを言ってしまったことを後悔しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

萌えもんには、覚えられるわざ、覚えられないわざがある。

 

 

まあ、ちょっとした例外は数種類いるが基本的には、

 

1.その萌えもんが成長することによって覚えられるわざ

2.わざマシンを使ったちょっとした裏技のような形で覚えられるわざ

3.親からのいでん(・・・)で覚えているわざ

4.ちょっと特殊な技能を持つ人が教えてくれるわざ

 

この四通りに限られる。

 

 

 

うちのユンゲラー(シーク)で言うのであれば、

1. “テレポート”、“ねんりき”など

2. “めざめるパワー”、“でんじは”など

3. “サイドチェンジ”など

4. “こらえる”など

 

 

 

というように分けられる。

こんな感じで、本来やせい萌えもんとして萌えもんバトルをしている状態では絶対に覚える事が出来ないわざを覚えさせることはできるはできる。

 

 

 

しかし、シークにフレイドの“フレアドライブ”を覚えさせることは絶対にできない。

 

 

 

これは萌えもん、ユンゲラーとしての能力の限界、体の限界であり、教える人の技能の問題ではない。

ユンゲラーの体内には

体からほのおを噴き出し、身にまとい、相手に突っ込む

というわざを使うための器官がない。

 

 

 

だからわざを使えない。という事だ。

 

 

 

 

 

それと同じで、ムウマは“さいみんじゅつ”も、“あくび”も使う事が出来ない。

 

 

 

という事は、眠っている相手を対象とするマリムの最強わざ、“ゆめくい”を使う機会はない。

 

 

 

スーの“うたう”と合わせて使うという事もできなくはないが、少なくともシングルバトル、特に一対一で戦う絶対的戦闘なんかでは絶望的だ。

 

 

 

 

 

 

 

彼女が持つ自慢のその刀には、鞘も柄もない。

傷つけずにしまっておくこともできず、うまく掴むことさえもままならない。

 

 

 

 

それがマリムの苦悩だ。

 

 

 

 

「だが、今のマリムの問題の本質は、そこじゃない」

 

 

 

 

勿論、これから先の戦いの話をするのであれば今のマリムは自分たちにとって十分すぎるほどの武器になる。

 

“サイコウェーブ”をあそこまでコントロールできる技術。

“サイケこうせん”の連射、速度、威力。

“ふういん”、“うらみ”をあそこまでうまく使う判断能力。

 

“ゆめくい”なんてわざを無理矢理に活用しなくてもマリムは立派な戦力であるし、たとえ何もできなかったとしても野望を携え進む限りはマリムは我々と同じ契約者だ。

 

 

 

しかし、夢喰いはマリムの罪の象徴だった。

 

 

 

「“ゆめくい”なんて使わなくてもいい。そんなもの無視しておけばいい。過去の罪である“ゆめくい”の力はひとまず忘れて念の力の劣化版である“サイケこうせん”“サイコウェーブ”で戦ってくれ。これがどれだけ酷なことか、お前らならばわかるだろう」

 

三人はすぐに頷く。ミズキも当然だ、と言わんばかりの表情をつくる。いや、言わんばかりではないだろう。それが理解できることは、彼らにとっては『当然』なのだ。

 

 

 

「……奴の野望を優先させる理由は納得した……だが、それならばなおさら最初の疑問が気になる……主の言う『当て』とは何のことだ?」

 

フレイドのつぶやきにスーとシークも思い出したかのように反応する。

 

「主の推測が全て当たっているとして……いや、当たっているのだろう。ならば、マリムの『強くなる』なんていう野望が一朝一夕で叶うとは思えない。少なくとも、わっちら全員の野望より優先して片付ける事が出来るとは思えない」

 

 

 

 

 

「出来る」

 

 

 

 

 

フレイドの問いに返したミズキの答えは、苦悶の表情と驚愕の答えだった。

 

 

 

「ま、マスター?」

 

 

ミズキの正面にいたスーは、その歪む表情と虚ろげな瞳を思い出していた。

 

 

 

それは、そう。

 

フレイドが人質に取られたとき。

 

そだてやを救ったとき。

 

マチスを倒したとき。

 

萌えもんタワーで戦ったとき。

 

 

 

その時と、同じ顔、同じ瞳だった。

 

 

 

 

 

「マリムの体を、弄る」

 

「マリムの“ゆめくい”のエネルギーを、別のエネルギーとして作り変える」

 

 

 

「マリムを……“しんか”させる」

 

 

 

 

瞬間、衝撃があったかと思えば、体が壁にたたきつけられ、その勢いのまま受け身も取らずに倒れこみ、そのまま起き上がれなくなる。床に伏せたまま前を見ると思わず落としてしまったシークが腰を抑えながらおびえていた。

 

一瞬でこんなことを出来るすばやさ、そして組み伏せられている両腕がどんどん熱くなっていることから、犯人は直ぐにわかった。

 

「いってえなあ、フレイド」

 

「貴様! 今自分で何を言ったかわかっているのか!」

 

ふーっ、ふーっ、と息を荒らげる口からは微量の熱が漏れ、ミズキの肌に触れやけどを負わせる。それでもミズキはペースを崩さず、フレイドはそんなミズキの姿にいら立ちを煽られる。

 

「言うに事欠いて『人体実験』をするだと!! 仲間の体を弄るだと!? 正気で言っているのか貴様!!」

 

明らかに危険な状態だとわかるほどフレイドが感情的になっているのは見ていたスーもわかった。しかし、止めに入ることはない。

 

手を出していない、声を上げていないだけで、スーの想いはフレイドと一致していた。

だからこそ、ミズキの答えを待っていた。

 

「……お前らになんと言われようと、俺はやる」

 

「っ!」

 

フレイドはミズキを抑えつけていた手を放し、次は右手で頭をつかみ床にたたきつける。頭を持ち上げると額から血が伝い、床にぽたぽたと垂れる。

それに構いもせず、そのまま左手をミズキの首に当てる。

 

 

 

「おい主、いや……人間。わっちは貴様に言ったはずだ」

 

 

 

フレイドが何を言っているのか、すぐにわかった。

 

 

 

 

 

 

 

腑抜けたことしたらその首もらうぞ。主。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、覚えてるよ。俺は、契約は守る男だ」

 

そういったミズキは下半身を海老反りにし、足を背中にいるフレイドの股下に入れ、カタパルトの要領でフレイドを弾き飛ばす。

剥がされたフレイドは直ぐに着地し、四肢を床につけミズキを“いかく”する。

それに対しミズキはパタパタと新しい服についた埃をはらうだけであり、まったく戦闘の意志を見せない。

 

唸り声を上げるフレイド。すでに口からは“ひのこ”が漏れ出している。ミズキの答え次第では、どうなるか。想像に難くない。

 

それでも、スーも、シークも止めない。

 

ミズキは、自分を囲むように陣取っているフレイドとその両脇のシーク、スーに向き合うように立ちなおす。

 

 

 

 

 

「俺は、野望(もくてき)の為なら何でもする」

 

 

 

俺は、マリムに誓った。

 

 

強くする、と。

 

 

強さの可能性を、俺が与えてやる、と。

 

 

 

 

深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。

理から外れた願いを、常識的に叶えられるはずはない。

 

 

 

 

ムウマの一段階上の力。そんなこの世にあるかどうかもわからないような力。

それを達成するためには、俺はどこまでも堕ちてやる。

 

 

 

 

 

「……これが俺の覚悟。俺の在り方だ。当然、これはマリムだけじゃない。お前らの野望も同じくだ」

 

 

俺は、契約は、守る。

 

 

どんな手を使ってもだ。

 

 

 

 

 

一頻りの沈黙の後、敵意を消した無表情のフレイドが重々しく口を開く。

 

 

「……その考えの果てが……お前が潰す、R団ではないのか?」

 

 

 

「……かもな」

 

 

 

 

 

その言葉を最後に、フレイドは無言でちかつうろを抜けていく。

 

 

 

 

その後を軽く追いかけ、フレイドの後ろ姿と、こちらの顔をうかがいながら、真ん中でシークがおどおどとしている。

ほんの少しだけ笑った後、ボールを取り出す。

 

 

「……ちょっと難しかったよな。悪いな、シーク。戻っててくれ」

 

 

言ってシークを戻し、何を言うわけでもなく歩きはじめるミズキを、スーが追う。

 

 

 

 

「……私は、マスターと、堕ちますよ。どこまでも」

 

 

スーは、言う。

 

 

「……そうか」

 

 

ミズキが、答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい機会だから言っておくぞ、スー」

 

「……はい?」

 

 

 

 

俺たちは、契約という絆でつながった、仲間だ。

 

だから、絆意識を覚えることは重要だ。うまく連携を取れるかどうかにもつながるし、信頼関係は強さになる。

だから俺はお前とフレイドの仲が進展するように仕掛けたこともあったし、厳に仲良くなっていることも僥倖だと言った。

 

 

 

 

 

 

だが、決して、執着するな。

 

 

 

 

 

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

「……そのまんまの意味だよ」

 

 

 

使い潰した歯磨きのように。

 

自分の頭の形に変形した枕のように。

 

手の油で錆びつきだした鋏のように。

 

 

 

 

使い捨ての、どうぐのように。

 

 

 

 

 

 

 

「捨てるときは、何も思わず、捨てろ」

 

 

 

 

 

 

 

じゃないと…………思いすぎると、碌なことにならないぜ。

 

 

特に、俺たちみたいなやつらはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗いちかつうろの、出口が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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