罪深き萌えもん世界   作:haruko

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この小説で一、二を争うほどの重要キャラ(になる予定)のキャラの登場です。


第8話 3 暗雲

 

 

 

「フレイド。歩くスピードが速い」

 

「……」

 

その声を無視してフレイドはどんどん前へと進む。

ちかつうろをでてからタマムシまでの道はほぼ一本であるため自分が先導する必要はないが、それでもまとまって動いた方がいいことに変わりはない。

……なんて言う提案をする資格が今の自分にないことなど分かっているため、ミズキもそれ以上は何も言わない。スーもそれをわかってか、何も言わずに自分のわきを歩いてくれる。

 

「ま、マスター。タマムシシティにはいったい何があるんですか?」

 

空気を変えようとしたのかスーがぎこちない表情で質問をする。別にミズキとしてはそこまで無理をしているわけでもないのだが気遣い自体はうれしかったので素直に答える。

 

「タマムシはカントー1、2を争う発展都市だ。ヤマブキは仕事場のあるビル街になっているという面が強いが、タマムシは仕事に行くための人が住む家や快適に暮らすための商業施設に恵まれている、所謂“ベッドタウン”と呼ばれるような町だ。当然買い物なんかを目的として通う人間もいるし、まあ……あんまり健全じゃないことをやるやつらもいるが、今回は別にどうでもいい」

 

そういいながらミズキはポケナビを起動しスーに渡す。そこにはタマムシデパートの情報が出ており、様々な商品やサービスがとんでもなく大きな建物の中にこれでもかというほど詰め込まれているのが分かった。

 

「まあ、わざマシンを買ってパワーアップを図るのも一つの手なんだが、今回の目玉は四階の特設コーナーだ」

 

言われてスーは四階の商品の項目を見ると、そこには人形やらメールやらのコーナーのわきに“しんかのいし”のコーナーがあった。

 

 

 

「よお、フレイド。お前、“しんか”する気はあるか?」

 

 

 

「ない」

 

 

 

一つとしてある気を乱すこともなく言い放つフレイドに少しだけ苦笑いする。

 

「……即答かよ。機嫌が悪いのは承知しているが、旅の障害を生むなら見過ごせねえぜ?」

 

「違う」

 

乏するような少し強い口調でも声色を変えずにぴしゃりと言う。

 

「わっちはこの姿で強くなる。昔から(・・・)決めていることだ」

 

「……そうか。悪かった」

 

「『悪気がなければ謝る必要はない』。貴様の言葉だ」

 

軽率な言葉に後悔するミズキと、いまだ微妙な表情のフレイドの間に再び訪れる嫌な空気にスーは息を詰まらせる。

 

 

本当に……このままでいいのだろうか?

 

わたしたちは、このままで、旅を続けられるのだろうか?

 

 

 

 

 

「ずいぶん難儀なせいかくの娘と旅をしていますのね。まあ、癖と気が強い娘が好みなことは、昔から変わってないようですけど」

 

 

 

 

 

三人が三様の想いを抱えながらタマムシシティの入口に差し掛かった時に、そんな声が耳に届く。

 

声の方向に目をやると、そこには花柄の和服にほんの少しの化粧をした、スーたちから見てもきれいな女性が案内板の前で凛と立っていた。

少し前を歩いていたフレイド、脇を歩いていたスーは即座に距離を取り、ミズキの両脇で体制を整える。

 

「あら。嫌われてしまいましたかしら?」

 

柔らかく笑うその女に対し、スーとフレイドは全神経を尖らせて不釣り合いなほどに警戒する。何も知らない者がみれば、何をしているわけでもない女性を、二人がいかくしているだけのように見えるが、彼女の放つ独特の雰囲気は、それが間違った行動ではないという事を証明している。

 

「では、改めまして。どうも、タマムシジムジムリーダー、エリカと申します」

 

その言葉を終えた瞬間、空気が変わる。

フレイドは四肢をつけ、スーは手を前にだし、わざの構えを取る。

初めてみたエリカですらわかる。戦闘態勢だ。

 

 

が、ミズキが広げた手により、制止する。

 

「っ! おい」

 

「マスター!?」

 

「ちょっと待ってろ」

 

そういってミズキは数歩前に出る。止めようとするスーとフレイドの声を無視して彼女に対面するミズキの表情は、二人が初めて見る顔だった。

 

 

 

「お久しぶりです。エリカさん」

 

「ええ、お久しぶりですわね。かれこれ何年ぶりになるかしら?」

 

「……四年(・・)です」

 

「あらあら、もうそんなに……いやですわね、年を取るのは」

 

「安心してください。変わらずきれいなままですよ。気味が悪いくらいにね」

 

「華道は自分も商品ですから。それにアロマは専門分野ですし」

 

 

この会話を聞いてこの女性、エリカが味方である、と楽観視するほど愚かではない。

……が、そんなエリカと平然と会話をしているミズキの意図を読むことがかなわなかったフレイドは、スーに目線を送り、構えを崩さずに待つことしかできなかった。

 

そんなフレイドの想いを知ってか知らずか、刺すような空気の中で平然と話は続く。

 

 

「なんでエリカさんがこんなところに? 今はまだ昼前だし、ジムの受付時間内ではないんですか?」

 

「……ふぅ。わざと言っていますの? てっきりわたくしを間接的に呼び出したものだと思って喜んでいましたのに……」

 

そういいながらエリカはそっとミズキの後ろに指をさす。

そこは先刻、ミズキたちが一悶着の後に抜けてきた“ちかつうろ”だった。

 

「……ああ、なるほど。こっち側のつうろの管理人は……」

 

「そういう事ですわ。全く、『“ちかつうろ”で暴れている者がいる』なんて通報を聞いて確認しに来たら、昔の知り合いに出会うだなんて茶飲み話にもなりませんわ」

 

「申し訳ないですね。修理費はしっかり負担させていただきます」

 

「構いませんわ。どうせ実際に関わるのはわたくしではなく協会の方ですから」

 

「……そうですか。もっと壊しとけばよかったですかね」

 

「あらあら」

 

袖を口元に当て、上品に笑うエリカにつられるようにミズキも笑う。酷く聞き心地の悪い楽しげな声が、ぴりつく二人の表情を曇らせる。

何か言おうと言葉を思いついては、これではないと却下するという事を頭の中で続けるうちに、話が進む。

 

 

 

「それで、いったい何の御用なのかしら?」

 

「……一応一回とぼけておきましょうか、何のことですか?」

 

「ふふふ、本当に変わりませんわね、安心しましたわ」

 

言いながらエリカは少しずつ近づく。一歩近づくごとに二人も体を強張らせるが、あまりに無警戒なミズキが二人の行動を否定するように立っていた。

 

「もうお気づきでしょうけど、あなたの動きはこちらにも伝わっていますわ。とはいえ、最低限のものではありますけれど。もちろん、ボスの耳にも届いていますわ」

 

その瞬間、ほんの少しだけ口を渋く閉じるが、スーたちに気付かれていないことに内心ホッとしつつ表情を戻す。

 

「その状態でわたくしの町、タマムシまで足を運んだのです。何かないなんてくだらない嘘が通用しないことくらい、わたくしより頭のいいあなたが気付かないはずがありませんわ」

 

「……普通に自分の萌えもんを強化しに来た可能性だってあるでしょう」

 

「あら、ならば早急にわたくしの前から逃げることをお勧めしますわ。“テレポート”あたりで大至急デパートまで飛んでしまえば、わたくしが探し出す前に好きな“どうぐ”を見繕う事も可能でしょう」

 

「……まったく、顔なじみで、しかも戦力が透けてるってのはめんどくさいことこの上ないですね」

 

自嘲気味に笑うミズキと、それを見て笑うエリカ。

 

歪な二人の笑顔で形成されていた上っ面の仲良しトークに、とうとう亀裂が入る。

 

 

 

「エリカさん。お願いがあります」

 

 

「……わたくしがそのお願いを、聞く必要はありますの?」

 

 

「ありませんね。でも、聞いてください」

 

 

先ほどまでふざけ半分に会話をしていたミズキには不似合いなほどにまっすぐな瞳でエリカを見つめる。

 

 

「もう。意地が悪いですわ」

 

 

 

そう言い、抑えているエリカの指の隙間からうかがえる表情は、

 

恍惚に満ちていた。

 

 

 

「わたくし、その瞳に弱いんですのよ」

 

 

 

艶やかな声で言ったエリカの顔を、表情一つ変えないミズキが、そのまま続ける。

 

 

 

 

 

 

「タマムシシティにある、研究所を貸してください」

 

 

 

 

 

 

「……マサラタウンに戻ればいいではないですか。カントートップクラスのシステムが用意されていることも調べはついておりますのよ?」

 

 

「……意地が悪いのは、どっちですか……」

 

 

「さあ、何のことやら。でも、言いたいことはしっかり伝えないと伝わらない者ですわよ。この状況で『言外を察せ』なんて、そんな卑怯はいかにR団でも許しませんわ」

 

 

ふふ、と悪戯な笑みを浮かべるエリカ。それに対し、ミズキはあきらめたような表情でつられて笑った。

 

 

 

 

 

「俺が昔、R団を抜ける前に、あなたに渡した萌えもんの“しんか”についての研究データ。あれを返していただきたい」

 

 

 

 

 

エリカが今までのものとは違う、ほんの少しだけ嫌らしげな笑顔を浮かべたのと同時に、

 

どさりと何かが落ちる音がした。

 

 

音の方に目を落とす。

 

 

フレイドが、いじけるように座り込む音だった。

 

 

 

「……フレイド」

 

「……」

 

 

 

ミズキはそっとボールに手をかけ、フレイドに向け、ボタンを押す。

 

何の抵抗も反応もなく、フレイドは光に当たり、ボールの中へと戻っていく。

 

 

 

「……マスター」

 

「……俺は悪くない」

 

「……はい」

 

ミズキのつぶやきに、スーはそう答えるしかなかった。

いや、現実として、冷静に状況を鑑みれば、ミズキは本当に悪くない。

 

 

ハナダのスーと同じようなことだ。

 

 

理想を抱いて、現実との差異を受け入れられず、そのまま沈み、墜ちていく。

 

 

言ってしまえば、ミズキのことなど、察すことが出来る機会はいくらでもあった。

 

いや。おそらく、フレイドも、スーも、シークだって、薄々は感じていたことだろう。

 

 

ただ、

きっと違うと、

自分の勘違いだと、

信じていた。

 

 

 

自分達の主が、そんな人間であるはずがないと。

 

 

 

ミズキは、理想のトレーナーであると。

 

 

 

根拠も、理屈もなしに信じていた。

 

 

 

それが、今回の結果を生んだ。

 

 

 

 

ミズキもまた、罪を抱えたものである以上、そうであるはずがないのに。

 

 

 

だから、ミズキは、謝らない。

 

 

 

 

「お待たせしました。すみません、エリカさん」

 

「いいえ、むしろいいものを見せてもらいました。久しぶりに『ジョーカー』を見た気分ですわ」

 

「……俺は、『ミズキ』です」

 

「ええ、あなたは『ミズキ』ですわ。でも、わたしが好きなのは、『ジョーカー』ですのよ」

 

 

 

エリカとの会話で初めて、ミズキがわかりやすく、苦しそうな顔を作る。

 

 

 

「それで? 俺の願いは、聞き入れてくれるんですか?」

 

無理やりエリカの言葉を切るように、元の話へ戻す。

 

 

 

「ふふっ。別にわたくし個人としては受け入れてしまっても構いませんわよ。あのデータはもう使用済みですし、そもそもあの研究室はもともとあなたがつかっていた場所ですから。なんら不都合はございませんわ。でも……」

 

 

 

そういいながらエリカはゆっくりと歩き、ミズキの後ろまで回り込むと、

 

そっとミズキを抱き寄せる。

 

 

「やっぱり、わたくしにもメリットがありませんと」

 

 

耳に息がかかるほど密着した状態で、楽しそうにゆっくりとつぶやく。

 

「あ、あなた! マスターに何を!」

 

「あら、スーちゃんさん。こうげきしますの?」

 

腕を前にだし、わざの構えを取ったスーに対して、ミズキを抱きしめたままくるりと回転し、スーに相対する。後ろから抱きしめているエリカがスーと相対しているのだから、当然その間にはなすがままのミズキがいる。

 

「スー、いい。何もするな」

 

「っ! でも!」

 

「それ以上やるなら、お前も戻すぞ」

 

右腕のひじから先だけを動かし、ボールに手をかけたミズキによって、スーは悔しそうにしながらもおとなしくなる。

 

「賢明ですわね。で? あなたはわたくしにいったい何をしてくれますの?」

 

 

 

 

 

「……俺が出来る事、何でもします」

 

 

 

 

 

「マスター!!!?」

 

 

「ふむ……魅力的なお誘いですわね」

 

再び声を荒らげるスーをよそに、一層艶やかな声を使ってエリカがつぶやく。

 

 

「『何でも』っていうのは……」

 

 

 

言うと、左手を使いミズキの顔を無理やり左に回転させ、

 

 

 

頬に唇を当てる。

 

 

 

「こういう事でも、構いませんの?」

 

 

 

「……それを、あなたが望むなら」

 

 

 

 

 

エリカが突然手を放したため、思わずミズキは前によろける。

 

スーに心配され、支えられながら後ろを振り返ると、また最初の柔らかい笑顔が待っていた。

 

「ならば、わたくしと戦ってくださいな。勝てば研究所くらい、使い放題ですわよ。お得意なのでしょう?」

 

何のことを言っているのかは、すぐにわかった。

 

 

絶対戦闘。

 

 

「やっぱり、意地が悪いのはあなただ……」

 

 

 

 

 

 

勝てるわけがないじゃないですか。俺が、あなたに。

 

 

 

 

 

 

ミズキの発言。そしてその発言すらも、言うと思っていたと言わんばかりに、表情を崩さないエリカ。

自分は決して、フレイドほど心が揺れていたわけではない。

そう思っていたスーだったが、ここにきて驚愕のあまり少し涙を流しそうになる。

 

ミズキが、

あのいつでも我々に勝利への道を照らしていたミズキが、

作戦が失敗に終わることはあっても、決してあきらめるという行動はとらなかったミズキが、

 

 

挑戦前に、さじを投げた。

 

 

それだけでスーは動転していたが、さらにここで“おいうち”がかかる。

 

 

「俺に、萌えもんバトルを教えてくれたのは、他でもないあなたなんだから」

 

 

そこで、ようやく理解した。

 

 

 

自分達の前にいる、この人は、

 

 

とんでもない人なのだと。

 

 

 

 

「正直ですわね。嘘でも強気な発言で鼓舞した方がよかったんじゃありませんの?」

 

「鼓舞で調子を上げてどうにかなる戦力差なら、いくらでもやりますけどね」

 

にこやかなエリカとは裏腹に、真剣そのものな顔に変わるミズキが、話に誇張がないことを証明していた。

 

「ふふっ。では、正直者には一つ、イトマルの糸を垂らしてあげましょうか」

 

そういうとエリカは懐から、一枚の紙を取出す。

 

「こちら、参加してみてはいかがですか?」

 

差し出されたそれを無言で受け取り見てみると、ミズキの顔がわかりやすく驚愕の表情に変わった。

 

 

「……エリカ、争奪戦トーナメント?」

 

くすくすと馬鹿にしたような苦笑を漏らしながら、エリカが言う。

 

「最近、普通のジム戦とはまた別の、邪な想いで絶対戦闘を挑んでくる殿方たちが後を絶ちませんの。もちろんわたくしが承諾さえしなければ賭けバトルは成立しませんが、負けるのが怖いおくびょうもの、と揶揄されるのも不愉快でして。かといって全員の挑戦を受けているほどわたくしは暇ではありません。というわけでタマムシという町を挙げて催したのがその大会ですわ」

 

「……住民も町も、頭の悪いやつらばっかりだという事はわかりました」

 

「あら、わたくしはかなり気に入っていますのよ? 特にチラシの写真撮影はヤマブキの方から人を集めて最高のものにこだわりましたの」

 

チラシを持っていた右手を少し下にずらすと、エリカとその周りを埋めるくさ萌えもんたちが満面の笑みで写っている写真があった。

しかし、ミズキの注目はそこにはなかった。

驚いたのは、その写真の下。戦闘における、ルール説明だった。

 

 

 

1. トーナメントを勝ち抜いた一人のみ、タマムシジムジムリーダーエリカに戦闘を申し込む権利を与えるものとする

2. エリカとの戦闘はレインボーバッチを賭けたジム戦、及び交渉権を賭けた絶対戦闘を合わせたものとする

3. 全戦闘は大会として公のものとする

4. トーナメント、及び、エリカとの絶対戦闘は1対1の萌えもんバトルによって決着されるものとする

 

 

 

 

1対1の、萌えもんバトル。

 

 

唯一、勝てる可能性のある、短期決戦中の短期決戦。

 

 

 

 

 

「あなたは……何が狙いなんですか?

 

 

 

 

 

「……さあ?」

 

 

 

 

 

 

悪戯な笑みを残し去っていく彼女の後ろ姿を見ながらチラシを握り締めるミズキ。

 

 

自分はマスター(ミズキ)を超えるあの人と戦うのだと絶望を心に残すスー。

 

 

現実に打ちひしがれるフレイド。

 

 

皆を支える力がないと嘆くシーク。

 

 

 

 

 

全員の心に共通して存在するもの。

 

 

 

 

 

 

 

暗雲。

 

 

 

 




マリムを出せない……
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