遅れて本当に申し訳ございませんでした。
あとがきにも書くつもりですが精神的な事情と私生活的な事情が重なり半年もの間放置してしまうという結果になってしまいました。
もしよろしければ、自分がプチ失踪する前に投稿した最後の話がおあつらえ向きにあらすじのような振り返りになっているためもう一度話を思い出したいという方々はそちらを見て少しでも思い出していただければ幸いです。
では、本編をどうぞ。
「返さないってのは、どういう事だ? あんたは俺にユンゲラーを返す為に、俺のところに来たんじゃないのか?」
場所は変わってゲームコーナーのとなり、“けいひんこうかんじょ”。
ミズキは背後のノブヒコの声に耳を傾けながら、手に入れたコインを手だけが見えている店員に渡し代わりに出てきた萌えもんボールを受け取る。ポケナビでデータを読み取り、中身が間違いないことを確信したのちに、ようやくノブヒコに向き直る。
「ついてこい」
そう一言だけ言ったミズキはすたすたとその場を後にする。どこに行こうとしているのか、何がしたいのかもわからないまま、ノブヒコは自分でタイヤをゆっくりとまわしながらミズキの後を追っていく。
何も言わずに歩き続けるミズキがようやく止まったのはタマムシシティの東の外れ、今日ミズキがエリカと会合した場所を少し奥に進んだ原の上だった。
ミズキはそこで振り返り、ノブヒコに向かってボールを構える。そのボールは、先刻、コインの景品交換によって手に入れていたものだった。
「来い」
ミズキは一言そういうと、ボールをほおる。中から出てきた萌えもんは、不機嫌そうな表情を浮かべ睨みながらその角ばった電子的な体をミズキにごつごつとぶつける。
ノーマルタイプのバーチャル萌えもん、ポリゴンだった。
「……で、『来い』って、いったい何のことだよ?」
困惑の表情を浮かべるノブヒコの質問に、ミズキは足元で暴れるポリゴンをたしなめながら答える。
「トレーナー同士なんだ。萌えもんバトルに決まってるだろう」
ミズキは言い切る。それを聞いたノブヒコは、さらに困惑の表情を強める。
「……まさか、そいつで戦うつもりか」
いまだ暴れるポリゴンを見ながら呟くように言う。
『景品』に限らず、人からもらった萌えもんがいう事を聞かないという事は多い。
所謂『なつきど』などと呼ばれているものであり、オーキド博士をはじめとした各地方の権威たちが確実にわざやしんか、バトルに影響を及ぼすものとして発表し、協会が公式に認定した萌えもん用語の一つである。
様々な現象に影響するため、一概になついていなければいけないというわけではないが、今回ノブヒコが言いたいことを簡単にまとめると、
基本的にはなつきどが低ければ低いほどバトルでは不利
という事である。
「ああ、そうだ。こいつでお前のトレーナーとしての実力を見てやるよ。そっちは何人でもいい。全力でかかってこい」
ここまでのミズキの様々な行動により、ノブヒコの感情はかき乱されていた。
最初はいらつき、次は驚き、そして感謝し、または困惑し、しまいにはもう一度いらついた。
自分を諭すような言動にいらつき、ユンゲラーに驚き、ユンゲラーを連れてきてくれたことに感謝し、なのに返さないと宣言され困惑し、そして最後に、
トレーナーとして侮辱されたことに、それまでの様々な感情の羅列を吹き飛ばしてしまいそうになるほどに激昂した。
奴は言った。自分のことをジョーイさんから聞いたと。
ならば知ったはずだ。自分が曲がりなりにも元ジムリーダーであるという事を。
聞けば分かったはずだ。自分がかくとうタイプの
ノーマルタイプの、なついていない、育ててすらいないポリゴンを使い、
苦手なかくとうタイプの使い手である、自分に勝とうとしているという事が、
ぼろぼろに崩れかけつつも、必死に壊れないように抱え続けていた、自分の中の最後の誇りを踏みにじられた。
「覚悟しろよ……俺が勝ったら、ユンゲラーは返してもらうからな!!」
ノブヒコが礼節すら捨てて投げた言葉と二つのボールが戦いの火ぶたを切り、
信じてやまない相棒が崩れ落ちるさまが、戦いの幕を下ろした。
「……ま、こんなもんか」
抑揚のない声で言い放ったミズキは、いまだ勝利に喜ぶポリゴンを見せつけるかのようにボールにしまう。しかし、ノブヒコの心中にはそんなミズキの振る舞いにいらだつ余裕すらも残されていなかった。
「……俺の、エビワラーが……俺の、サワムラ―が……」
かつて、ともにジムを守ってきた自分の相棒。
これまで、支え続けてくれた自分の仲間。
その二人が完膚なきまでに叩きのめされたという現実を受け入れられなかったノブヒコは、思わず車椅子から転げ落ち、それでも這うようにしてうつぶせに倒れる二人を抱え込む。
その状態から顔を上げると、ミズキはゲームセンターで見せたものかそれ以上に冷たい瞳でこちらを見ている。
明らかに、失望の眼差しだった。
「その程度の腕しかないから、ジムはとられて、自分の萌えもんに逃げられるんだよ」
唇を千切りそうなほどに歯を食いしばり、二人を抱えていない方の拳を手のひらに爪が食い込み血が滲むほどに握り締める。
病室にこもり続けていた間、久しく感じることの無かった感情に心を支配された。
が、その握った拳を振りかぶることはなかった。
かっとなった頭とは裏腹に、状況は冷酷なまでに今の真実を伝えてくる。
自分は、負けたのだ。
勝ったらユンゲラーを返せ。
絶対戦闘で正式に決定したわけではないが、そう自分で宣言した以上この戦闘には、ノブヒコ自身の実力をミズキに知らしめてやろうという意図が少なからずあった。
自分の実力を見せつければ、
自分の強さをわからせれば、
真にユンゲラーの親にふさわしいのは、どちらか、
力で見せつけてしまえばいい、という思いがあった。
そして、その結果がこれだ。この情けない姿だ。
もはや自分の吐く言葉に、重みも、威厳も、力もない。
それを理解してしまったノブヒコは、頭が冷えると同時に胸元まで上げた拳をだらりとおとす。
「言い返すだけならタダだぜ?」
「うるせえ。引き際ぐらいわかっている」
ジムリーダーだからな、という言葉は無理やり飲み込んだ。
これ以上過去の栄光に縋り付く行為は惨めを上塗りするだけだ。
それを見たミズキは崩れ落ちているノブヒコを抱え上げ、車いすに戻してやり、ボールを二つ目の前に差し出す。ふとしてそれは自分が車椅子から転げ落ちた際に落としたエビワラー、サワムラーのボールであることが分かった。ひんしの二人をボールに戻せという事だろう。
ボールのスイッチを押して二人を戻しながらミズキの顔を見る。
ミズキもノブヒコをじっと見つめるだけで、何を言う事もない。
一体次に自分は何を言われるのだろうか?
見た目こそミズキのことをにらみつけ、敵対の体裁をまもったままでいるノブヒコだが、心中はそんなことを考えるので精いっぱいだった。
ユンゲラーは俺の萌えもんだ。
お前のような弱いやつには渡さない。
もう二度と俺たちに近寄るな。
何を言われても涙を流してしまいそうな気さえする。しかし、もう自分にはそれを否定する材料さえない。
ジムリーダーの座は奪われ、
怪我をしたかと思えばそのまま腐り続け、
挙句二対一の萌えもんバトルで完膚なきまでに打ちのめされる。
思い返せば思い返すほど、自分はユンゲラーに見捨てられて当然の人間だったような気がしてきた。
そんなことを考えていると、ついにミズキが動いた。
現実から目を背けるように、ノブヒコは思わず顔をそらし、目をつむる。
数秒間、空白の時間が生まれる。
恐る恐るノブヒコは目を開き、正面を向きなおすと、
一つ、ボールを差し出される。
「三日やる。こいつをお前なりに育ててみな。結果次第じゃあお前のことを、少しぐらいは見直してやるよ」
「おいっ!? こら、暴れるんじゃねえ!」
「イヤダア! イヤダア!」
タマムシの西側、マンションなどの大きな建物が目立つ住宅街の末端に立つ小さな一軒家の中で、生活音ではありえない、ガシャンガチャンという不快音とともにコンピューターが調律したかのような電子的な悲鳴が響き渡る。
一軒家の持ち主はノブヒコであり、電子的悲鳴の主はノブヒコの腕の中にいる先ほどまで対戦相手として敵対していたポリゴンであり、不快音の正体は車椅子が暴れるポリゴンとぶつかり合う音である。
ポリゴンを差し出したミズキは、あの後、「なんでこんなことをするんだ?」というノブヒコの質問に答えることもなく無言で紙を一枚差出し、そのままタマムシへ去って行った。
紙を見るとそこには電話番号と泊まるホテルの名前が記されていた。何かあったら連絡してこいという事なのだろうが、おそらく電話でこの行動の意図を聞いたところで答えてくれることはないのだろうと察した。
その後ジョーイさんに自宅休養の許可をもらい、家に帰ってからまずサワムラーとエビワラーの手当てを終え、放っておくわけにもいくまいと恐る恐るポリゴンを外に出したところで前述した場面に戻る。
「何が『嫌だ』だ! こっち来ておとなしくしやがれ! 傷の手当てをしなきゃならねえんだよ!」
「イヤダァ! 触ルナア!」
「このっ!」
思わず声を荒らげようとする。
確かにこの傷をつけたのは自分達なのだからその当人に手当をされるのが気に食わないという気持ちは理解できるが、そんなものこっちだって同じだ。
そもそも、悔しいがダメージの大きさで言えばエビワラーたちが受けたダメージの方が与えたダメージよりも大きい。それなのに手当をしてやっているのだから感謝こそされど文句を言われる筋合いなどない。
その旨を乗せた罵声を口にしようとした瞬間、視界が一気に横に傾いた。
「なっ!」
エビワラーたちに助けを求めることもできずに床に体を打ち付けたノブヒコは、何が起きたかも理解できずに打ち付けてしまった治療中の腕と足を抑える。
「の、ノブ!」
「だいじょうぶか!?」
治療を終えた後、今日一日はもうおとなしくしていろという指示を受け、部屋の隅にいたエビワラーとサワムラーが心配そうな声を上げて近寄ってくるが、そんなことよりもノブヒコの心は痛みによる苦しさ半分、あとの半分は怒りで満ち溢れていた。
視線をエビワラーとサワムラーのさらに奥に移すと、車いすをひっくり返した張本人であるポリゴンがふてぶてしい態度でふんと鼻を鳴らす。
結果論でもそれがいい事であるとは言い難いが、その瞬間にノブヒコの体から痛みが吹き飛び、全身を怒りが支配した。
「……ああ、そうかよ! 勝手にしやがれ! どうせ俺にはお前の面倒を見てやる、技量も義理もねえよ!」
先刻までの騒がしさから一転。家の中を静寂が支配し、病人用のスプーンとフォークが皿とぶつかり合う音だけが部屋の中に響き渡る。
一人暮らしゆえに家具を気にする機会もないため、以前適当にほりだしものいちで買ってきたずっしりつくえに、同じくほりだしものいちで買ってきたちいさなイスを合わせた少しアンバランスなダイニングテーブルで食事をとる。食事も買い置きの惣菜を並べただけの簡素な夕飯ではあるものの、怪我で料理が出来なくなってから長らく続くこの食卓に異を唱える者はもはやいない。
現に今、ノブヒコから見て右側の縦長の席に手前からエビワラー、サワムラーが座っており、ノブヒコと同様のメニューを食べているが、文句の一つを告げることもなく黙々と自分たちの料理を食べている。
が、こと今日に限っては、何かを気にして目線を動かしているようで、あまり味わって食べているようには見えない。
いや、二人が何を気にしているのかは、彼らの目線を追わずともわかる。
「……」
真正面に空いている席の、さらに奥。
そこには、簡易的に作った木箱のテーブルに並べた料理に見向きもせずに、蹲るポリゴンの姿があった。
食事に文句を言うことはないが、なぜ口をつけないのかを言う事もなく、じっとノブヒコの方を見つめにらみつづけているその姿と空気感に堪え切れず、思わずエビワラーが口を開く。
「おい、ノブ……やっぱり口に合わないんじゃないか?」
「一口も食ってねえだろ。関係ねえよ」
一蹴するノブヒコに今度はサワムラーが口をはさむ。
「にしたってダメージも受けているんだ。一口も食わないままじゃあまずいだろ?」
「治療も食事もあいつが拒否したんだ。放っておけ」
さらに冷たく言い放つ。昼間のごたごたも相まって不機嫌が最高潮に達していることを察したエビワラーはそのまま黙ることにしたが、ポリゴンを心配したサワムラーはめげずに言う。
「しかしあの仕打ちはいくらなんでも……せめてこっちのつくえで一緒に食おうぜ。確かどっかにケーシィがいたときにつかってた椅子が……」
「やめろ!」
思いきり机をたたいた拍子にスープが入った皿が床に落ちるが、それも気に留めず、ノブヒコは火が付いたかのように思いを口走る。
「あれは……あれはあいつのためのものだ。ケーシィのためのものだ! あんな奴に使わせるためのものじゃ」
そこまで言ったところで、ノブヒコの顔の横を何かが勢いよく通り過ぎる。
背後から聞こえてきた、がしゃん、というおおきな音から、それが皿であったという事を把握した。
しかし、それを把握するより早く、ノブヒコはお返しと言わんばかりに自分が握っていたフォークを投げつけていた。
直線的に正面へ向かっていたそれは、突然発された光によって弾き飛ばされ音を立てて床に落ちた。エビワラーとサワムラーはあまりに一瞬に起きた出来事に何が起きたかはわからなかったが、少なくとも何かが起こってしまったことは理解する。
恐る恐る二人が目線を右にずらすと、皿を投げ、フォークを“サイケこうせん”で迎撃した本人であるポリゴンが、木箱に手をかけノブヒコに負けず劣らずの敵意を向けていた。
「てめえ……なんだその目はあ!」
声を荒らげるノブヒコは、怒りのままに立ち上がろうとするが、それを悟ったエビワラーとサワムラーに抑えつけられる。
「落ち着けノブ! 今の言い方はお前も悪かっただろ!」
「エビの言うとおりだ! 頭を冷やせ!」
二人は落ち着かせようと丁寧に諭すが、完全にキレてしまったノブヒコは止まらない。
「うるせえ! 俺に指図してんじゃねえ! 俺の何が気に食わねえってんだ!? だまっていう事聞きゃいいんだよ! なんで俺がこんなことしなきゃならねえんだ!? なんで俺がこんな目に合わなきゃならねえんだ!? なんで俺だけ、こんな目に合わなきゃならねえんだよお!?」
体の痛みも無視して叫びまわるその姿は、とても年相応のそれとは言えず、漏れ出すように口から出てきた言葉は、ポリゴンに向けたものなのか、エビワラーに向けたものなのか、サワムラーに向けたものなのか、シークに向けたものなのか、はたまた、ミズキに向けたものなのか、それすらもまともに判別できないほどに、支離滅裂でめちゃくちゃだったが、誰が聞いても心地いいものではないことだけは確かだった。
「の、ノブ……」
その何とも言い難い主人の姿に、サワムラーは思わず呆気にとられる。
その一瞬が、この壊れかけた空間に対するとどめだった。
「っ! サワ!」
「えっ」
呼ばれてふと顔を向けようとそこには、
愛する主人の拳があった。
「かはっ!」
「サワ!?」
「あっ……」
ノブヒコの癇癪は止まった。
しかし、結末は、望まない方向へ向かったものだったが。
「い、いってえ……」
「サ、サワ!?」
エビワラーは壁に体をたたきつけられ包帯を巻いた箇所を抑えるサワムラーの傍へと駆け寄る。
「大丈夫か!? 傷が開いたのか!?」
「だ、大丈夫だ。大したことない」
それが強がりであるという事は彼の浮かべる苦悶の表情からすぐに読み取る事が出来た。エビワラーは直ぐに追加の手当てをしようときずぐすりを探す為に振り返ると、そこには放心状態のノブヒコと、その奥で騒ぎの結末に涙を流すポリゴンがいた。
「お、俺は……俺は……」
「ウウゥ……帰セェ! 僕ハ、僕ハアノ人ノ所へ帰ルンダア!」
泣き、喚き、呻き、戸惑う。
誰一人、何も得られることの無かった阿鼻叫喚の一日目は、哀しみの幕を下ろした。
えー、ここまで見てくださった方々、ありがとうございます。
そして、こんな自分の小説を待って下さった方々、
改めまして、本当に申し訳ございませんでした。
以下、言い訳になります故、見たくない、聞きたくない、という方は無視の方向でお願いします。
プチ失踪の主な理由といたしましては、
・成績悪化
・就活開始
・うまくかけないことによるモチベーション低下
というこの三つになります。
中でも一つ目、二つ目は即座に解消できるものではないため、これから先に投稿速度を上げるという事も難しいのが現実です。
しかし、なんとかかんとか時間を作り、コツコツ執筆は進めていきたいという思いはありますし、書きたい話は山ほどあります。
これからは出来る限りお待たせしないよう精いっぱい努力しますので、もしこんな自分でよろしければ、これからも応援の程をよろしくお願いいたします。
そして最後に、
こんな自分の小説をまだ応援してくれている皆さま。
ほったらかしの小説を信じてお気に入りしてくださっている皆様
感想で応援を下さった方
リアルで応援してくれている友人
全員に支えられて今回、半年ぶりの投稿までこぎつける事が出来ました。
みなさん、本当にありがとうございました。
これからもどうか、harukoをよろしくお願いいたします。
フレイド「月一更新は死んでも守れと言っただろうがあ!!!!!」
haruko「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!」