罪深き萌えもん世界   作:haruko

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タイトルつけるのやめようかな……


何とか2017年にヘッドスライディング投稿です。そのせいでもないですが少し短めなので少し早目のお年玉投稿も狙っています。


それではみなさん、よいお年を。


第9話 4 計画

 

 

 

 

「マスター? 本当にあの人にシークちゃんを渡しちゃうんですか?」

 

スーは恐る恐ると言った声色で窓際のベッドに腰掛けながら月を見ているミズキに話しかける。これがノブヒコとの戦闘を終え、ホテルにチェックインして部屋に入ってから初めてのミズキとの会話だった。

 

「わかりきったことだ」

 

「そう……ですよね」

 

此方を向くこともなく、声色一つとして変えずに答えたミズキに対し、スーはそれ以上の言葉もなく軽くうつむく。

 

 

シークは口がきけない。

 

それでも、今のシークの様子、シークの振る舞いを見ていれば、そんなことは馬鹿でも分かる。

 

 

 

 

彼は、シークの野望なのだろう。

 

 

 

 

ならば自分たちに、口出しする権利など何もない。

 

契約2。

 

ここでシークを引き留めるという事は我々の最も大きなつながりである契約にそむくことを意味する。そんなことを、ミズキがよしとするはずがない。

 

 

そんなことは、最初からわかっていたことだ。

わかっていた、事なのだ。

 

 

 

 

 

 

「あんな状態のトレーナーに、シークを渡しはしねーよ」

 

 

 

 

 

 

わかっていた、はずだったのだ。

 

「……え?」

 

思わぬ答えにスーは思わず勢いよく振り向くが、そこには何度見ても表情一つ変えずに淡々と語る凛々しい姿の愛するマスターがいるだけだった。

 

 

「そうさ。あいつらをみてりゃわかる。今のあいつらが二人でくっついたところで、誰も幸せになれはしない。今のシークと奴は、俺たちの様な共依存なんて簡単な状態じゃない。互いに肩を貸し合っているわけじゃなく、互いに互いの全体重を支え合っている。奴はシークが必死に自分のことを探して、長い時間をかけて帰ってきたという結果だけに縋り付き、シークはそんなみっともなく頼りなく情けなくも望み続けていた主人の隣という場所に噛り付く」

 

 

 

 

 

お互いがお互いのことを引きずり続け、二人そろって夢幻の奈落へ堕ちていく。

それだけだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ……いったいどうするんですか?」

 

先ほどとは変わって、震えの中に力強さを込めた声色でスーが言った。

震えには先の答えを聞きたくないという思いが、力強さには答えを聞きたい思いがそれぞれ半半ずつ込められた結果だろうとミズキは判断した。

だからなのか、ミズキはその問いに答えることをせず、無言でスーの視線に答える。

 

「シークちゃんを、見捨てるんですか?」

 

ミズキの心象を知ってか知らずか、ミズキが口を開くよりも先にスーが追加の言葉をかける。

 

 

 

あんなに頑張っていたシークちゃんは……

あんなに一生懸命だったシークちゃんは……

才能の無いトレーナーにほれ込んでしまったシークちゃんは……

そんなトレーナーをぼろぼろになるまで探し回っていたシークちゃんは……

そんな主人に縋り付くことを野望に掲げてしまったシークちゃんは……

 

 

 

 

 

「もう、幸せになることはできないんですか?」

 

 

 

 

 

鼻をすすりながら振り絞るように言うスーの姿にミズキは思わず視線を外し、小さくため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

(だから執着するなって言ったんだ)

 

 

 

 

 

 

 

落ち着け。見えていた結果だろ。

こうなることを理解したうえで、タマムシの行動を選択したはずだ。

今更何を動揺している?

 

頭をガシガシと乱暴に掻き回しながら落ち着かせ、ほんの数秒だけぴたりと止まる。

 

 

 

 

黙想だ。落ち着け。思考の歯車を止めるな。

 

 

 

 

 

俺は何を躊躇している?

 

 

分かりきったこと。

 

 

 

 

失う事だ。

 

 

 

 

何を?

 

 

 

大切なものを取り返したくて始めた旅で、

 

過去の自分と向き合うために過ごした中で、

 

再び動き出した時間で、

 

 

 

 

運悪く(うんよく)手に入れた、大切なものを。

 

 

 

 

 

 

 

甘ったれるな。

 

 

 

 

 

自分でフレイドに言ったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、野望(もくてき)の為なら何でもする』

 

 

 

 

 

 

 

嘘偽りも誇張もありはしない。

 

 

 

 

 

 

 

自分の敵を間違うな。

自分の言葉を違えるな。

 

 

 

 

 

 

 

お前はオーキドに何を言った?

お前はグリーンに何を言った?

お前はブルーに何を言った?

お前はレッドに何を言った?

 

 

 

 

 

お前は今までいくつのものを切ってきた?

全てを金繰り捨ててここまで何をしに来たんだ?

 

これからどこへ行くんだ?

 

 

 

 

 

 

自分が進み道を、見失うな。

 

 

 

 

 

 

例えその道が悪路でも、

例えその道が悪道でも、

 

 

 

その道を、一人で歩むことになったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター? マスター!?」

 

ふと我に返ると、スーがベッドに腰掛ける自分の足元で怒りを表していた。何事かわからなかったミズキは、足元にしがみ付くスーが何だかかわいくなり、思わずスーの頭をなでるがスーはそれにより怒りをさらに深めてしまう。

 

「ちょっとマスター! 私は真剣に話をしているんですよ!」

 

「ああ、わかったわかった。悪かったよ。俺も真剣に考えごとをしてたんだ。許してくれ」

 

その言葉自体に嘘はないが、降参と言わんばかりに両手を掲げ、悪い悪いと謝る姿はひかえめに言っても馬鹿にしているようにしか見えない。

 

「……もういいです! 知りません!」

 

吐き捨てるように言ったスーは脇の布団に飛び込み、枕に顔を押し付けながら静かになる。涙をぬぐっているのはわかったがそれを指摘する理由はない。

それにはぐらかせるのならばはぐらかそうと考えたのは確かだが、もとよりミズキにはスーを困らせるような理由もない。フレイドがへそを曲げている今、スーはパーティ最高戦力だ。ここでモチベーションを下げられるのは今のプランに支障が出る。

 

 

 

仕方ない。

先に困るか後に困るかの違いだ。

 

 

 

事が終わってからなら何を思われても問題ない、なんて言ってる場合じゃない。

 

 

 

今回の計画は綱渡りだ。

後ろにいる奴らが綱を揺らすようじゃあ、渡り切れる道理はない。

 

 

ならどうするか。

 

進ませればいい。

 

 

綱が安定する、最も進みやすい速度を、最も安定する形を、

俺が作るんだ。

 

 

 

 

 

「シークのわざを覚えているか?」

 

 

 

 

 

「……シークちゃんのわざ?」

 

枕から顔を外したスーが、こちらを向いて訝しげに呟く。ミズキが何の話を持ち出そうとしているのか理解できずに、再び誤魔化しをかけようとしているのかと警戒するような目をしていた。

 

「そう。奇しくもほんの少し前に“ちかつうろ”で話題に挙げたことだ。萌えもんにはその萌えもん特有の使うことが出来るわざ、使うことが出来ないわざがある。それには、種族的な壁による『おぼえるわざ』、の違いだったり、バトルによる『けいけんち』の量の違いだったりするわけだが、今のシークが使えるわざには、はたしてどんなものがあっただろうか?」

 

そう言いながらスーを見るミズキは、少しおどけながらも仲間のことを真剣に思っている、いつものミズキの調子だったため、スー自身も、真剣に答えるべき質問なのだと察する。

 

「ええと、確か……」

 

そう言いながらスーは自分の記憶のアルバムを一枚ずつめくり、シークと一緒にいた場面、シークがわざを使っていた姿を片端から思い出す。

 

“テレポート”

“めざめるパワー”

“でんじは”

“こらえる”

“ねんりき”

“サイケこうせん”

“じこさいせい”

“リフレクター”

“トリック”

“サイドチェンジ”

 

「こんな感じだったと思いますけど……」

 

「よく覚えてたな。まあ、使ってないだけで覚えてるわざもまだあるんだが、今お前が知ってるはずのわざはそれで全部だ。たいしたもんだよ」

 

褒められたスーだったがそれを喜びはしない。スー自身、シークやフレイドやマリムのつかえるわざを把握することは当たり前だと思っていた、いや、教えられたからだった。

 

そう、それは、他でもないミズキに教えられたことだった。

 

最初に疑問に思ったのはまだフレイドすら加入していない頃、仲間になったばかりのシークに戦うためのわざを教えようと道中で特訓をしていた時のこと。

シークがわざマシンでわざを覚える特訓をしている最中、スーはボールの外に出され、その特訓を見ているよう指示を受けた。

一時『はい』と頷いたスーだったものの、それをしている理由がわからず、時間が進むにつれ特訓を見ているだけで動いていない自分がもどかしくなり、自分の周りだけで軽く運動をしておこうとしたとき、ミズキがこちらを向き大声で叫んだのだ。

 

「しっかり見てろ、余計な事するな!」

 

味方に見せることはほとんどなかった怒号に思わずスーは体をすくめた。

 

 

しばらくはわからないままだったが、それの意味を理解したのはサントアンヌ号の乱戦の時だった。

あのとき、スーたちは初めてミズキと離れ、ミズキの指示なしに戦うことを余儀なくされた。当然自分の判断でわざをだし、自分の判断で行動を決定する必要があった。

 

そこで必要とされたのは、シークやゼニたち、他の萌えもんたちとの連携。いや、連携が必要かどうかの判断だった。

 

自分の敵を迎撃しながらも、スーは周りの状況を確認し、自分が助けに行かなければいけない状況なのかを確認した。しかし、圧倒的な量の敵を前に悪戦苦闘しているのは誰もかれも同じで、誰が優勢である、劣勢であるという事も出来ず、結局助けに行く、敵を任せる、という判断をすることもできないままであった。

 

 

そう、シークを除いて。

 

 

シークは自分たちの位置からずっと離れた場所で戦っていた。エスパータイプという事で警戒されていたのか、左から右から上から下から、ありとあらゆる方法で攻め立てられ、一人仲間内から隔離されていた。

 

 

だが、しかし、スーはシークを、『助けない』という判断をした。

 

 

なぜならシークには“ねんりき”がある。囲まれたって相手を押さえつける力がある。

なぜならシークには“サイケこうせん”がある。包囲網を突破する力がある。

なぜならシークには“サイドチェンジ”がある。位置を入れ替える一発逆転の力がある。

 

 

そう、スーはシークを理解している。だからこそ、助けない。

 

 

仲間を知るという事は、それだけ仲間を信頼できるという事であり、仲間を心配できるという事だ。

それをミズキは、自分で考えさせてくれたのだ。

だからこそ、スーはシークを好きになれているし、フレイドも、マリムも、当然ミズキも、仲間だと思っているのだ。

 

 

だからこそ、その質問に、確認以上の意図がないことは察しが付くし、

だからこそ、ミズキがシークをどう思っているのか、そうしたいのかを知りたいのだ。

 

 

 

「そう、俺はシークに、これまであらゆるわざを覚えさせて、それを使ってシークと戦ってきた。もちろん、もともと覚えていたわざも含めて、いろんな相手と戦えるようにレベルアップを図った」

 

そういってミズキは荷物の中から一枚機械を取り出す。これまで幾度となく見てきた、使ってきたもの、わざマシンだった。

人差し指と中指でそれをはさみ、見せびらかすように動かしながら言う。

 

「戦闘手段として“めざめるパワー”を覚えさせたこともあったし、補助の手段として“でんじは”も覚えさせた。敵と戦い、けいけんちを積ませてどんどんシークは強くなっていった。だがな……」

 

 

 

 

そんなわざの中に、一個だけ例外のわざがある。

 

 

 

 

「なんだと思う?」

 

「……例外?」

 

そのミズキの言葉に、スーは首をかしげる。

わざに例外? そんな特殊なわざをシークは使っていただろうか?

 

 

少なくとも、スーがみていた中で、シークがそのわざを使ったことにより、おかしな挙動を取るようなことはなかったし、どのわざもかなり有効に使っていたことを覚えている。

 

……違う。そのわざがおかしい、なんていう話じゃない。そのわざが“例外”であるという話だ。

 

 

 

 

わざの違い? こんな話を、何処かで……

 

 

 

 

「あっ、“ちかつうろ”で……」

 

 

「そう。マリムの話をする時に、こんな話が出てきたよな。ならば、例外のわざってのが、どれかもわかるはずだ」

 

 

 

 

スーはひとつ深呼吸をし、ぐっと力を入れてから口を開く。

 

 

 

 

「“こらえる”」

 

「正解だ」

 

 

スーは体の力が抜き取られたかのような錯覚を覚えた。そして、その理由もはっきりしていた。

分かってきたのだ。ミズキの言いたいことが。

分かってきてしまったのだ。ミズキの言いたいことが、自分の望みとはずれた答えであるという事が。

 

 

 

 

 

「俺は“こらえる”なんて言うケーシィ(シーク)に合わない、近接ぼうぎょわざを覚えさせたことはない」

 

バッサリと言い捨てるミズキ。しかし、すぐに言葉を付け足す。

 

 

「だが、“こらえる”はケーシィ(シーク)にとって特殊なわざだ。“ねんりき”や“サイケこうせん”なんかとは違い、特殊な技能を持っているトレーナーが教えない限り、絶対に覚えることはできない」

 

 

ならば誰が?

問うまでもない。

 

 

いるじゃないか。覚えさせそうなトレーナーが。

 

 

 

 

からておう(あのひと)が……シークちゃんに……?」

 

「だろうな」

 

 

 

後ろからの声に驚き振り向くと、ミズキが自分で入れたコーヒーを口につけていた。ほろ苦くも優しい良い香りが部屋全体を包み込む。

 

 

 

「ま、俺なら覚えさせられても、絶対に教えないけどな。ケーシィが敵に懐を取られた時点でほとんど負けだし、そこから有効に働くわざもないんだから近接戦闘になった時のために“こらえる”を覚えさせるなんて愚の骨頂だ。馬鹿のする事、と言い換えてもいいね」

 

酷い言い方ですね。というスーの声を聴きながら、ミズキは笑ってコーヒーをすする。その顔に、人を侮蔑するような意図は見られなかった。

 

 

当たり前だ。ミズキは一度、そのわざに救われているのだから。

 

 

 

 

「……よく言ったものだよな」

 

 

 

 

馬鹿と天才は紙一重。

 

 

 

 

「これってさ、馬鹿みたいなことに大真面目に取り組んで、その馬鹿を通しきっちまう奴が一番すげえってことなんだよな。はてさて、あいつはどっちに転ぶのか」

 

 

 

 

 

その時、ポケナビが鳴り響いた。

 

 

 

 

 




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