罪深き萌えもん世界   作:haruko

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お年玉投稿です。
カレンダーを見ていないのでわかりませんがお年玉投稿です。


第9話 5 計画通り

 

 

 

「俺には無理だった」

 

場所は昨日同様、タマムシの外れ。夜中にSOSコールにも似た内容の電話を受け、ノブヒコに呼び出されたミズキはスーを連れてここに来て、ノブヒコの話を聞いていた。

見りゃわかる、という本音を飲み込み、ボールを差し出すノブヒコとその両脇にいる二人の萌えもんに交互に目を移す。増えている傷もそうだが昨日よりも明らかに彼らの空気が落ちている。何が起こったかなど想像に難くない。

わきで負のオーラを放つスーを右手で軽く撫で、なだめる。それらに向けるスーの冷ややかな目からは、落胆と猜疑が見て取れた。ちょっとくらい感情をうちに閉じ込めておく訓練でもしてやろうかと他人事のように考えた後、頭を切り替えノブヒコの発言を待つ。

 

「俺はお前みたいに、こいつになついてもらう事も、こいつと話をすることもできなかった」

 

泣きそうな顔を見るに、どうやら昨日よりも心の進歩はあったとみていいらしい。

……もっとも、成長した結果現実に絶望し、心が折れていたら進歩してないのと大差はないが。

 

「……あと二日あるだろ。泣き言言ってる暇があったら家で研究でもしてみたらどうなんだ? 少しは何かわかるかもしれねえぜ」

 

「っ!」

 

突き放すような言動にノブヒコは何とも言えない表情を作り、唇をかみしめ、こちらを睨む。

その後、崩れ落ちるかのように膝をつき、そのまま手をつき、頭を下げる。

いわゆる土下座だった。

エビワラーとサワムラーは、そんな姿に思わず目をそらす。

 

「頼む! こんなわけ分からねえ嫌がらせみたいなことは止めて、ケーシィを返してくれ! あいつは俺の……俺たちの仲間なんだ!!」

 

 

 

「嫌がらせ?」

 

 

 

唐突な低い声に、ノブヒコがびくつく。

冷たい温度が自分を中心に蠢いているかのような錯覚に陥った。

 

 

 

 

スーは、分かりやすいほどに怒っていた。

 

 

 

 

思わず迎撃の体制を取ったエビワラーとサワムラーは後にその様子を、

 

『怒りの塊と対峙したようだった』

 

と形容した。

 

 

 

 

 

「あなたはっ! マスターがどんな思いでっ!」

 

 

 

 

そういってスーが一歩踏み出し、両脇の二人が思わず一歩後ずさった所で言葉が途切れる。

 

 

 

 

恐る恐るノブヒコが顔を上げると、そこにいるのはボールを握りしめるミズキだけだった。

 

 

 

 

「全く……どうしても自分で見定めたいっていうから、外に出しといてやったっつーのによぉ……」

 

ボールを見つめ、喜びと悲しみが綯交ぜになったかのような笑い方を見せたミズキは、表情を消した後再びノブヒコに向き直る。

 

「んじゃ、俺のために怒ってくれたスーに免じて、一つだけヒントをくれてやるよ」

 

そういうとミズキは、ノブヒコを指さす。

 

 

 

「お前にとって、仲間とはなんだ?」

 

 

 

「……仲間?」

 

言われたノブヒコは上半身をおこし、両脇を見る。そこには彼のラプラスにおびえながらも、自分を守ろうと、助けようと、戦おうとしてくれた、包帯だらけの仲間がいた。

 

自分のせいで傷ついたというのに、自分のせいでひどい目に遭ったというのに、自分を諦めずについてきてくれている仲間が来た。

 

そうだ、彼らは、仲間だ。ずっとずっと、仲間だった。

 

 

 

ならば、ケーシィは?

 

 

 

「お前は萌えもんを見る時、何を見ている?」

 

 

顔か?

 

身体か?

 

強さか?

 

時間か?

 

種族か?

 

個体か?

 

努力か?

 

なつきか?

 

 

「お前にとって、エビワラーと、サワムラーと、シークと、ポリゴンの違いはどこにある?」

 

 

 

 

 

それがわからない以上、泣こうが喚こうが暴れようが、お前にシークは渡さねえよ。

 

 

 

 

 

 

「……俺にとっての……仲間」

 

ベッドでうつぶせになりながら、一人で呟いたその言葉は、答えが出ないまま空気に融けていく。

ミズキに言われた言葉を頭で幾度となく反芻し実際に口に出してみるものの、全く答えに近づくことはなかった。やはり何の意味も持たない、自分達にケーシィを渡さないための方便なのではと思考がそれることも少なからずあったが、その度にあのラプラスの怒りが否定する。

 

 

あれだけ萌えもんに愛されているトレーナーが、そんなくだらないことをするはずはない。

そんなことはわかっている。

 

 

ならば、あの男と自分の違いはなんだ?

 

 

ポリゴンは言った。

 

 

 

『帰セェ! 僕ヲ、僕ヲアノ人ノ所へ帰セェ!』

 

 

 

彼はいつの間に、そこまで愛されていた?

 

 

 

彼は間違いなく自分の目の前で、ポリゴンを手に入れた。

それから戦闘を行うまで、一度たりとて言葉を交わすことすらなかったはずだ。

 

 

 

彼の言葉を借りるのならば、ポリゴンにとって彼は、間違いなく『仲間』なのだろう。

 

 

 

ならばなぜだ?

 

いつ彼はポリゴンに見初められた?

 

なぜ俺はポリゴンに嫌われた?

 

 

 

「一体……何が違うってんだよ……」

 

 

 

 

 

 

「俺たちには……なんとなくわかるよ。あいつが言ってること」

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

ベッドから飛び起きるように体を起こしたノブヒコは、思わず体に走る激痛さえも無視して声がしたドアの方向に目を向ける。

そこには、自分が『仲間』であると信じるサワとエビが、何とも言えない表情をして立っていた。

 

「ど、どういうことだ!? お前ら!?」

 

「言葉の通りだよ。俺たちは、あのミズキってやつが言っていたこと、わかる気がするんだ。たぶん、俺たちも、少し前から思ってたことだから」

 

そんな馬鹿な、とでも言いたげな表情のノブヒコと、静かな佇まいを崩さない二人の温度差が空間に妙な空気を漂わせる。

 

「な、なんだよ? ならなんでそんなこと黙ってたんだ!?」

 

ノブヒコの言葉に二人は思わず視線をそらすも、覚悟を決めたのか、絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……ノブ。俺たちは、お前のことが好きだ。仲間だと思っている」

 

 

 

「わ、わかってるよそんなの……それが何

 

 

 

 

「ノブ。お前は本当に、俺とサワのこと、仲間だと思ってるか?」

 

 

 

 

あまりに予想外なその言葉に思わず絶句し、時間が止まる。感情の整理が追い付かず、怒ればいいのか、悲しめばいいのか、それさえも判別できずにいた。

 

「そんなのっ」

 

数秒し、ようやく声が出る。しかし、当たり前じゃないか、と続ける前に、サワが追撃の言葉を放つ。

 

「お前は、俺たちを強くしてくれた。いろんな技を教えてくれたし、いろんな経験も積ませてくれた。一緒にジムを守ってたときだって毎日楽しかったし、ジムリーダーじゃなくなった今だって、お前はお前だ。感謝してるし、ずっとついていくつもりだよ」

 

「でも、お前といる時、たまに思うんだ。俺とサワはお前の目に、どんなふうに映ってるんだろう、ってな」

 

「……どんなふうにって……」

 

言っている意味が分からない。

仲間、以外にどう映っているというのだろうか。

 

 

「ノブ。お前は、自分は『人間』で、俺たちは『萌えもん』だと思ってるよな?」

 

 

「……? そりゃそうだろ。現にお前らは萌えもんで、俺は人間だ」

 

エビのその言葉に碌に考えもせずに本音を返す。しかし、それを聞いた二人の表情は明らかに濁った。

 

 

 

「そうじゃないんだ……そうじゃないんだよ、ノブ。あのミズキたちを見たらわかるだろ!? あいつらに、そんな小さい壁はないんだ! あいつらは、『仲間』なんだよ!」

 

 

 

サワは叫ぶ。その目には、うっすらと涙がたまっていた。

 

「な、なんだよ、サワ……お前、いったい何を言って……」

 

「まだわからねえのかよノブ!? サワが言っていることが! 俺たちの言いたいことが!?」

 

サワの言葉を受け、エビも叫ぶ。悲痛なまでに騒ぐ二人の態度に、ただただ困惑するだけのノブヒコとは明らかな壁が出来ている。

 

 

「俺たちはな、うらやましかったんだよ! あいつとあいつの萌えもんが!」

 

 

壁に拳をたたきつけるエビの姿に、サワが思わず目をつむり、顔を背けた。その表情に残るのは、後悔の想いだった。

 

 

 

「ポリゴンはな、あのトレーナーと一緒にバトルしていた時、本当に生き生きと戦っていた。ただ後ろから『ああしろ、こうしろ』と喚き散らすだけの指示じゃない。ポリゴンが一番動きやすく、ポリゴンが一番うちたいわざを理想のタイミングで指示し、ポリゴンが失敗した時は気にしないように失敗を取り返すような指示をする。あいつらは、あの一瞬で心を通わせたんだ。ポリゴンとあのトレーナーは、あの時、一緒に戦っていたんだよ(・・・・・・・・・・・)!」

 

 

 

エビに言われ、ノブヒコは昨日のバトルを思い返す。

 

 

 

『ポリゴン。いきなりで悪いが、バトルだ。一緒に戦ってくれ』

 

『……ははっ。俺は気に食わないけど、負けたくはないってか。相当な“まけずぎらい”だな』

 

『ポリゴン。落ち着いて距離を取れ。“サイケこうせん”!』

 

『ダメージは大きいか? よし、“じこさいせい”だ!』

 

『いいぞ! かわせ!』

 

 

 

『ありがとう、ポリゴン』

 

 

 

 

「あいつは、ポリゴンと一緒に戦い、心を通わせたんだ。お前は、どうだ? 俺たちの気持ちになって、俺たちのことを考えたことがあるのか?俺たちがお前のために戦うことが当たり前だと思っていて、お前の指示を聞いて戦うことを当たり前だと思っていたんじゃないのか?」

 

「あ……う……」

 

言い返す事が出来ずに、言葉にならない音を漏らす。

完全に図星だった。

 

その表情を見たサワとエビは、昨日のノブヒコの発言を思い出す。

 

 

 

『うるせえ! 俺に指図してんじゃねえ! 俺の何が気に食わねえってんだ!? だまっていう事聞きゃいいんだよ!』

 

 

 

とっさに出てきたあの発言こそ、ノブ本人さえも気づいていなかった、ノブの本音だったのだろう。

そう理解したサワは一層深い悲しみに飲まれ、エビはさらに怒り狂う。

 

「ふざけんなよ……ふざけんなよ! お前がそんなんでどうするんだ!? お前がそんなじゃあ、今までお前についてきた俺たちは一体どうなるんだ!? ただの馬鹿か!? 愚かで間抜けか!? お前は本当に、ケーシィにふさわしくないトレーナーなのか!?」

 

サワとエビが、こんな思いを抱えているなんて、知らなかった。

こんな思いを隠していたなんて、まったく気づかなかった。

 

 

 

「俺たちはなんだ!? お前の言う事を聞くために育てられたのか!? 俺たちはお前のもちものなのか!? 俺たちはお前の言う事を聞くだけの人形なのか!?」

 

 

 

「なあ、ノブヒコ…………答えてくれ」

 

 

 

 

「「お前は本当に、俺たちと一緒にいたいと思っているのか!?」」

 

 

 

 

 

ノブは思いだしていた。

 

自分が、ジムリーダーとして様々な挑戦者を迎え撃ち、天狗になっていた時のことを。

 

そんな天狗になっていた時に、やってきた女にジムを奪われたことを。

 

その後、エビやサワにごめんの一言を言うこともなく、新しく捕まえたケーシィとともに無茶な特訓を始めたことを。

 

そんな特訓をしている最中に、怪我の原因となる事件が起きたことを。

 

特訓の疲れが原因で、自分たちは逃げ遅れたということを。

 

ケーシィが逃げたとわかった時、心配の気持ちよりも先に、怒りを覚えたことを。

 

 

 

 

 

そしてそんな振る舞いをしてきた自分に、今まで何も思っていなかったということを。

 

 

 

 

 

「……俺は、ケーシィに戻ってきてほしいんじゃなかったんだ」

 

涙を流しながらポツリポツリと話し始める。

 

「ノブ……」

 

声をかけると同時にノブヒコは体を二人に向け、頭を下げる。

 

 

「俺はお前らのことも、ケーシィのことも、ちゃんと見ていなかった」

 

 

それが、俺の罪だったんだ。

 

 

「強い萌えもんは俺のステータスになり、弱い萌えもんは俺の恥になる。勝負に勝ったら俺が強くて、勝負に負けたら俺の育て方が悪かったとしか思っていなかった」

 

 

 

 

ケーシィに帰ってきてほしかったのは、ケーシィと一緒にいたかったんじゃない。

『ケーシィに逃げられた情けないトレーナー』になりたくなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

「本当にすまない」

 

 

 

 

 

涙声でそういって、独白を締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、ノブ。お前はこれからどうするんだ」

 

 

 

 

 

エビは抑揚のない声で聴いた。

優しさも、怒りもない、単純な質問。

意図に気付いたサワも、何を言うこともなく、耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「俺は…………」

 

 

 

 

 

俺は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三日やるって言ったってのに一日ごとに呼び出すんじゃねえよ」

 

さらに翌日の昼、先日同様にミズキは外れに呼び出されていた。指定された時間にその場所に行くとそこにはすでに、ノブヒコ、エビワラー、サワムラー、さらには、ポリゴンが並んで立っていた。その景色に軽く笑みをこぼすミズキだったが、それを隠すように憎まれ口をたたく。

 

「あんたの言うとおりだった。俺には、ケーシィを連れていく資格はない」

 

ミズキの“ちょうはつ”にノブヒコが返す第一声はそれだった。言葉とは裏腹に声には自信がみなぎっており、少なくとも後ろ向きに出した言葉でないことはわかる。

 

「……それで……?」

 

「…………資格が欲しい」

 

まっすぐな瞳をミズキに向け、強い口調で言う。

 

 

 

「今の俺は、ケーシィを連れていく資格がない……だから……」

 

 

 

 

勝負をしてほしい。

 

 

 

 

「……ほう……」

 

「もう一度、俺がケーシィにふさわしいトレーナーであるかどうかを、見定めるテストをしてほしい」

 

たのむ、と言って、頭を下げる。それに倣って、エビワラー、サワムラーが頭を下げる。

 

「ポリゴン、お前はどうする?」

 

「……モウ少シ、コイツト一緒ニイル」

 

「そうか……」

 

そうつぶやくと、ミズキは一枚の紙を投げる。

それは頭を下げていたノブヒコの正面に落ちたので、ノブヒコはそのままそれを拾った。

 

 

 

「俺はそれに出る。俺に認めて欲しけりゃ、お前もそれに出て、俺と戦え」

 

 

 

そう言ってミズキは去って行った。

 

 

 

 

 

 

口元が吊り上っていたことに、気が付く者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、

 

 

ノブヒコ()をトーナメントに引きずり出す』

 

 

第一段階は成功。

 

 

 

 

 

 

…………これだけ時間を使って、これだけ策を練り上げて、これだけ人を利用して。

 

 

 

 

0%の勝率が、0.1%に増えるだけ。

 

 

 

 

 

『うっ……ひっく……えぐっ』

 

『あらあら。泣いては勝てる試合も勝てなくなりますわよ』

『……もういいよ。どうせ、俺なんかが、エリカさんに勝てるわけないんだ……』

 

『あきらめますの? 闇雲に出したわざがきゅうしょに当たるかもしれません。相手が転んで自滅するかもしれません。あきらめたら勝率は0%になってしまいますわ』

 

『無理だよ。そんな可能性、低すぎるもん』

 

『関係ありませんわ。可能性なんて、0か100でなければあとは大差ありません。手持ちのカードが弱ければ、カードの切り方で強くする。それが出来るから、萌えもんバトルは面白いんですのよ』

 

『……? カード?』

 

『ふふっ、ジョーカーにはまだ難しかったですかね。では、今日の特訓はここまでにしましょうか?』

 

『……ううん。最後まで頑張る』

 

『……それでこそ、ボスの一人息子ですわ』

 

 

 

 

 

……そうですよね。エリカさん。

あなたに教えてもらったんだ。

 

 

 

俺は俺流にカードを切り、

 

 

あんたを、倒す。

 

 

 

 

 

 




ミズキがあんまり出ないとすごい書きづらいという事が判明しました。
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