許してください
「さて、そうして俺たちの旅は始まったわけだが、基本的には俺の目的の最短ルートを通って行くっていう旅の形になるけど、大丈夫か」
「はい、もちろんです。マスターとともに歩き、強くなり、誰もがわたしを一人前のラプラスと認めるまで旅を続ける。それがわたしの目標ですから」
1ばんどうろの草むらをかき分け歩きながら、二人は今後の計画を話し合っていた。
萌えもんトレーナーは基本的にはボールの中に萌えもんを入れて、野生萌えもんが現れた時に自分の萌えもんを出して戦う。それは、萌えもんをしまってさえいれば、よほど気性の荒い個体でないかぎり、出会いがしらで野生萌えもんがトレーナーに攻撃してくるということはそうそうにないからだ。そうすることによって、戦う必要のない萌えもんを選別することができる。
そして、一番の理由は、萌えもんボールというものが存在する中でわざわざ萌えもんを隣に連れて歩くのが異端である、という、所謂世間体というやつだ。
連れているトレーナーが後ろ指を指される、とは言わないが、かなりトレーナーとして目立つ存在になるだろう。そうなると強いトレーナーとして有名になれば、恐れられて相手をされない、弱いトレーナーとして有名になれば、甘く見られて相手にされない、というような不都合が発生する可能性がある。
そもそもそういうデメリットを抜きにしても、日本人の特徴として、あまり周りから外れるような行動をとらないというものがあるのだ。
にもかかわらず自分はラプラス、愛称スー、を外に出したまま一緒に歩いている。
その理由としては、スーにいち早く大地に慣れて欲しいというものがある。
これからスーには間違いなく陸上で戦闘をしてもらう事が多くなる。スーは見た限りでは陸上の先頭が苦になるような体ではない、むしろ昨日までは気づいていなかったが甲羅のサイズやスカートの短さに加えて、足回りの筋肉もみず萌えもんのそれとは比べ物にならないほどしっかりしている。やはりラプラスに陸上系萌えもんの血が混じった固有種なのだろう。
まあそんなことはどうでもいい。
契約1
我々は互いの過去に関せず
俺には俺の過去があり、
スーにはスーの過去がある。
それでいいのだ。
さて、話を戻すと、それならば外に出して少しずつ地上という文化に慣らしていけば、そん所そこらの下手な萌えもんよりも陸上戦闘が得意になってくれるのではないか。そういう風に思ったのだ。
地面が固ければ着地の時に足が痛む。
地面がぬかるんでいれば移動の時に足を取られる。
そういう当たり前のことを、少しずつけいけんちとして覚えていってもらう。これは絶対にのちにプラスになってくれる。
まあ、そういう理屈的な考えももちろんあるのだが、
一緒に旅した方が楽しいでしょう?
「マスター! マスター! 見てください! あんな萌えもん見たことないです!」
「ああ、あれか。あれはねずみ萌えもん、コラッタだ。いちばんどうろで一番ポピュラーな萌えもんだな」
「すごいですマスター! こんな世界見たことありません! 萌えもんが土の上を走っています! 萌えもんが植物の中に隠れています! 人の住まう地上というものはこんなに広くて不思議なところなんですね。わたし感激しました! マスターについてきてよかったです!」
少しだけ先にとがって先端は丸い特徴的な手をパタパタとはためかせながらスーはあたりを走り回っている。そこまで喜んでくれるのであればトレーナー冥利に尽きるというものだ。そして予想通り、初めて自分の足で歩く萌えもんとしてはどう見ても動きが機敏だ。
この動きにもともとのラプラスの能力。もしかしたらこちらとしても、最高の相棒を連れてこれたのかもしれない。
「お前が喜んでくれて何よりだよ。これはお前の経験を積むための旅でもあるんだからな。ま、ゆっくり進もうぜ」
「はい、あ、でもマスター……」
「ん?」
「マスターの野望は、そうゆっくりしていることはできないんじゃ……」
思い出したかのようにはしゃいでいたことを申し訳なさそうにこちらへと振り返る
R団をつぶす。
それが俺にとってどういうことを意味しているのか。
それをしっかりとスーは理解してくれているようだった。
そしておそらく、それを野望として打ち立てている意味も……
「いいのさ」
「え?」
「いいんだ。どうせ急いだって短縮できる時間は限られてるし、焦りは余計な結果を生むことだってある。だったら情報収集しながらじっくり確実に詰めていくのが筋ってもんさ。
それに 契約4 楽しい旅であれ だろ?」
「っ! はい!」
そういうとスーは嬉しそうに町の方向へと走っていく。
ありがとな。スー。お前と一緒なら、この旅をやり遂げられる気がする。
そんな気がしてきた。
とはいえ、焦らないようにとはいっても、のんびりしてていいわけでもない。
まずは情報収集、トキワシティだ。
「さあ、スー。ここがトキワシティだ」
「うわぁ!」
感嘆。
その感情が分かりやすく伝わってくる。
マサラタウンから来たカントーのトレーナーは間違いなくこのトキワシティに来ることになる。そしてマサラ以外の町を知らない子供たちは自分たちの世界の狭さに愕然とするのだ。今のスーのように。
「マ、マスター! 博士の研究所みたいな建物がいっぱいあります!」
「ああ、そうだな。あとで適当に説明してやるよ。しかしまずはちょっとやりたいことがある。付き合ってくれるか?」
「は、はい……」
明らかに落胆するスーに対してちょっとした罪悪感を覚える。
許せ。
場所は変わって22ばんどうろ。スーは町の方向に体を向け、未練ある故郷を離れるかのような目を向けている。
「わかったわかった。俺の用事がすんだら美味しいものたくさん食べさせてやるから」
「!!!」
あ、こっち向いた。こいつ、くいしんぼうだったのか。
「わ、わかりました。それで手を打ちましょう」
「よだれよだれ」
「で、マスター。この草むらで何をしようとしているんですか?」
「萌えもんバトルさ。ちょっとお前の戦闘力を図らせてもらうぜ」
「ああ、なるほど。わかりました。で、どのように戦えばいいのですか?」
「まあ戦い方に関してはバトル中に俺が判断するからお前は言うとおりに、なるべく作戦に先入観を持たずに臨機応変に動いてくれればそれでいいさ」
「作戦に先入観を持たず? どういう意味ですか?」
「まあ戦っていけばそのうちにわかるさ。よし、じゃあまずお前のつかえるわざを教えてくれないか?」
「っ」
瞬間、スーの表情が少し歪む。 なんだ?
「どうした? 何か癇に障ることがあったか?」
「い、いえ。何でもないです。えーと、私のつかえるわざは、うたう、なきごえ、みずでっぽう、しろいきり、あやしいひかり、それぐらいですね」
「なるほど……」
正直言って想定以下だった。グレン島近くに生息していたラプラスということだったので、かなり成長している、明確に言うと攻撃手段としてのしかかり、欲を言えばサポートとしてあまごいあたりまで覚えていてくれると助かる、ぐらいに考えていた。わざから逆算するに、おそらく生後1年たったかたってないかぐらいなのだろう。
まあいい。こいつはいま磨けば光る原石なんだ。
トレーナーとしての腕の見せどころじゃないか。
「わかった。とりあえず俺たちの初陣をするにあたってふさわしい相手を探しに行くとしよう。俺たちに今足りていないのは、ほかの何よりも『実戦経験』だ」
「はい、マスター。質問です」
「はい、スー君。質問を許可します」
「野生萌えもんと戦闘してけいけんちを積むという方法を取らないのはなぜなのでしょう?」
「うむ、至極あたりまえな疑問だな。それに関しては俺がこの場で教えてやってもいいんだが、これも体で体感した方が早いだろう。とりあえずトレーナーを探して一戦交えてみようぜ」
さてと、じゃあ誰と戦おうか。
当然戦う相手はだれでもいいというわけではない。
もちろん強い相手弱い相手なんて選ばずに戦うことができればそれが一番だが、明らかに勝てない相手に挑んでスーを落ち込ませるような結果にしてしまうのは最悪だ。
だが、戦い方のなっていない相手を選んで戦ったところで、これからのスーにプラスにならない。
初陣の相手はそう、理想を言うのであれば、
スーがいくら一人で頑張っても勝つことができない相手に俺が勝たせてやる
これが一番だ。
しかしそのための相手を探すというのはどうにもこうのも……
「ミズキ! ミズキじゃない!」
そのとき、どこからか声が聞こえてくる。
ん? どこだ?
スーとゆっくり話し合いをするために萌えもんのいる草むらを避け、かなり開けた道路にいるため、人が隠れるような場所はない。
「うえよ、うえ!」
言われてから上を見る。
いや、声を聞けばお前だっていうのはわかってたんだけど……
「パンツ見えてるぞ。ブルー」
「えっ!? きゃーーーーーー!!!」
「ちょっ! おまっ!」
どうやってかは知らないが空中浮遊をしていたブルーはいきなりスカートを抑えたことによって空中で両手がふさがり、そのままパンツが見える位置にいた、つまり真下にいた男のところへ落下した。
「だだだだだ、大丈夫ですか!? マスター!」
「だから言ったじゃねえか、重くてとっても無理だって」
翼を動かしながらバサバサと音を立てて降りてきたのはことり萌えもん、オニスズメだった。
なるほど、おおかたブルーが捕まえたオニスズメに対して「空を飛んでみたい」的な駄々をこねたのだろう。そりゃあオニスズメの体躯じゃあ人を持ち上げて長時間飛び続けることはそらをとぶを覚えていたとしてもかなり難しいだろうに。
「失礼ね! 全然重くないわよ!」
「いや、そういう問題じゃねえだろ。てか降りろ」
「えっ、きゃあ! ミズキのスケベ!」
「なんでだよ」
一発華麗な平手打ちをくらう結末となった。納得いかん。
「お前が上にいるときに声をかけるからそういうことになるんだろうが」
「だからってわざわざ言わなくてもいいじゃない! もう、男って最低!」
ぎゃあぎゃあといきなり騒がしくなってしまった。さすが年頃の女の子というべきか。
「ってそれはそうとミズキ! あんた旅に出ることにしたの!?」
「ああ、まあな」
ブルーは明らかに驚愕の眼差しを向ける
当たり前か。こいつを含めた三人はどれほどまで頑なに俺が旅に出なかったかを知ってる。
グリーンは顕著に俺のことを心配していたが、ブルーとレッドにだって少なからずそういう思いがあったのだろう。
「ふーん。マサラに引きこもり続けてたあんたがねえ……ようやく決心したんだぁ。で? その娘があんたの萌えもんってわけ?」
いぶかしげな眼でこちらに質問をしている。ああ、そういえば博士以外こいつのこと知らなかったな。
「おうよ、俺の相棒、ラプラスのスーだ」
「よ、よろしくお願いします。マスターにはお世話になっています」
まだほとんどお世話してないけどな、と突っ込むのは無粋だろう。
そんなくだらないことを考えている間、ブルーはスーの体をくまなく、それこそなめまわすように見ている。見られているスーは縮こまってしまい、気を付けのポーズをとったまま固まっている。
おいおい、可哀そうだろうが。
「ふーん、ミズキをやる気にさせた娘なんだからなんかすごい萌えもんなのかと思ったけど、なーんか普通っぽいわね。むしろちょっと弱いんじゃない?」
「あう」
あーあ、スーが落ち込んじまった。やってくれるぜ、ブルーのやつ。
ん、まてよ……
「まあいいわ、どうせ最強のトレーナーの称号を手に入れるのは私たちなんだから、そもそもミズキがいくら頑張ったって無駄なんだもん。じゃあね、ミズキ。萌えもんも捕まえたし、私はそろそろ次の町へ」
「まちな、ブルー」
言いながら右腕をいっぱいに広げて通り抜けようとするブルーをとうせんぼうする。
「……なによ」
「確かに俺はお兄さんだが、自分の萌えもん小馬鹿にされて黙って入れるほど大人じゃなくてな」
「あら、小ばかにしてるように聞こえた? 謝って欲しいなら謝るわよ?」
「いや、いらねえさ。ぶっちゃけそっちはおまけだからな」
「何の話よ?」
「いまや、俺とおまえはただの仲良し幼馴染じゃねえ、二人の旅するトレーナーだ」
目があったらバトルだろ?
「あんた正気? あんたのてもちってそのラプラス一匹だけなんでしょ?」
「おうよ。ついでにこれが初バトルだ」
はぁ、とあきらめたかのように深いため息をつく。
あまくみられてるなあ、俺もスーも。
「いいわ、やりましょう。萌えもんトレーナーの先輩としてデスクワーク大好きなミズキちゃんに戦い方を教えてあげようじゃない」
「おーおー。教えてくれやブルー先輩。ルールはどうする? 公式ルール制か、野試合用の無制限制か?」
「公式ルール。数はそっちに合わせてあげるわ。一対一の一本勝負。先にひんしになった方の負けよ。
「一対一? なめんじゃねえよ」
「は?」
「何体使ったっていいからかかってこいよ。年上のハンデだ。全員まとめてなぎ倒す」
「……なめてるのはどっちよ」
「どうだかな」
「いいわ。そのルールでやってあげる。一匹目で倒しちゃえば問題ないんだから!」
「いい気迫だな。三分後に開始だ。しっかり作戦たてときな」
「そっちこそ!」
背を向け離れていく二人の姿にスーはただただ驚くだけだった。