ミズキたちには、『信頼』というつながりがある。
ミズキたち自身が、それがまぎれもない真実であるという事を確信している。
ミズキにつき従う彼らの振る舞いや、ミズキが彼らに与える戦法を見れば、他の誰が見たとしても、『信頼』という言葉を浮かべることだろう。
もっとも、それをミズキたちは契約という言葉で置き換えているが、それは今回どうでもいい話だ。
大切なことは、
互いを『信頼』してつながる、トレーナーと萌えもんは、強い
というこの事実。
指示に対する反応の速さ、指示を受けた時のわざの威力、相手のわざのかいひりつ。
その他、科学では解明しきれていない多くの力。
理屈で説明できるものは多くはないが、それは萌えもんバトル界でもはや常識とさえ言われている一つの事実だった。
ならば、ノブヒコ達はどうなのだろうか?
すれ違っていたノブヒコ達と、ミズキたちの違いはどこにあるのだろうか?
それは偏に、『信頼の種類』の違いだった。
人と人。
萌えもんと萌えもん。
そして、人と萌えもん。
生き物同士が接することで、どうしても発生する、心の溝。
心を通わせるため、
溝を超え二人で語り合うため、
そのためにかける心の橋、それが『信頼』。
ミズキはいつでも、誰かと心を通わせるために自分から相手に『信頼』の橋をかけていた。
スーには、想いを語ることで。
シークには、道を示すことで。
フレイドには、行動と誓いによって。
マリムには、拳と説得によって。
そしてそれに答えたスーたちは、自分たちの『信頼』の橋をミズキへかけなおす。
そうしてできた二本の架け橋が、ミズキと萌えもんたちの心をつなぐ絆であり、鎖でもあった。
それに対しノブヒコ達は、『相手の信頼を信頼』していた。
ノブヒコは萌えもんたちが自分につき従うことを『信頼』し、萌えもんたちはノブヒコが自分たちの想いに答えてくれることを『信頼』した。
己の居場所に相手が、橋をかけてくれることを信じた。
それは、歪で、半端だった。
互いに向かい合い、語り合い、ぶつけ合う事を怠った彼らはほどなくして歪み、別々の場所で半分だけ出来た橋は、儚く崩れ落ちた。
しかし、彼らは崩れなかった。
それを防いだのは、互いに互いを諦められない、ほんの少しの心の強さ。
向き合い、語り合い、ぶつけ合った彼らは、急速に橋を組み立てなおし、一本の頑丈な『信頼』をくみ上げた。
そして、
そのたった一本の橋は、
ミズキたちのそれよりも、太く、強くなっていた。
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そう、“みらいよち”だ。それで時間差攻撃を仕掛ける。
それまでの戦いはダメージを取ることに徹する。
エスパーわざ、接近戦、ぼうぎょわざ、その場に応じた戦法を駆使して、ダメージを取りつつ、“みらいよち”までの時間を稼ぐ。
……それで勝つ。
……? どうした、シーク? 何か言いたいことでもあるか?
……そうか。ならいい。
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“ばくれつパンチ”に対する“カウンター”。
そしてその直後の“みらいよち”。
多少の想定外にも対応しきり、完璧に決めた。
しかし、砂煙が止んだフィールドに現れたのは、
それでも立ち上がるエビの姿だった。
『……たっ、立っている……? 立っているううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!! なんという事でしょう! ノブヒコ選手のエビワラー! あの猛攻を受け、あの怒涛の連撃を受けてなお、たちあがりましたーーーー!!!!!』
自分の作戦が、戦術が、
彼らに、完全に打ち破られたのだという事を察した。
ミズキにも、シークにも、落ち度はなかった。
必殺の作戦は、必勝の策は、成功していた。
決めきれなかった原因。それは、
『エビ! がんばれぇ!』
“みらいよち”に飲まれたエビへの、ノブヒコからの渾身の叫び。
ただし、立っている、というよりも、立つことに全力を注いでいる、という方が正しいと言える状態だった。
拳のグローブは破れかかり、だらりと下がる左腕からはぽたぽたと方から流れ出てきた血がそのまま垂直にしたたり落ちている。視線をそのまま足に降ろせば足は踏ん張りを失っており、軽く震えさえも見えた。
押せば倒れる。まさしくその言葉がふさわしい風体だった。
押せば。
本来ならば簡単であることを例えるためのその言葉が、果てしなく遠く、とてつもなく重くのしかかる。
エビから手前に視線を落とすと、温存に温存を重ねてとっておいた体力をすべて使い果たし、肩で息をしているシークの姿があった。
……当然だ。
“カウンター”は相手が殴りかかってくる勢いを利用して受けたダメージを倍返しにするわざだ。ダメージを無効化するわざじゃない。
いくら“ドレインパンチ”を使い、注目をノブヒコに押し付け、体力を温存しながら戦ってきたと言っても、トーナメントの全六戦、全てを戦ってきたシークが“ばくれつパンチ”の直撃を受けたのだ。これまで必死に誤魔化し続けてきた疲労は、受けたダメージとともに爆発的に身体全体に広がっていた。
(……もう、わざをうつ力が……ない……)
体力、疲労、ダメージ、
れいせいに状況を判断できるミズキの頭脳が、シークの状態を鑑みて、はじき出した結論は、無情だった。
「エビ! がんばれ! 相手もボロボロだぞ!」
「っ! うおおおおおお!」
そんなミズキの思考を知ってか知らずか……いや、十中八九知らずに、エビに必死に声をかけているだけだろうが、ミズキにとって最悪の行動をとる。
ノブヒコの声に反応したエビは思い切り歯を食いしばり、大声を上げながら一歩、また一歩とシークの場所へと近づいてくる。
立っているのもやっと。そのミズキの判断をぶち壊したその力は、ノブヒコへの『信頼』とそれにこたえるための『気力』に他ならなかった。
『……すっ、すごい! なんという執念! 何が彼をそうさせるのか! 彼は何を想うのか! ぼろぼろの体に鞭をうち、一歩、また一歩と、勝利をつかむために歩を進めていきます! こんな素晴らしい萌えもんバトルを、わたしは生涯見たことがありません!』
熱を持った実況にあれだけの熱で返していた観客たちが、無気味なほどに静まり返っていた。
実況の言う、素晴らしいバトルの結末を静かに見届けようと集中してみていたトレーナーたちが数十人。エビの振る舞いに恐怖を覚え目を背けていた子供がほんの少し。
残りの人々は、二人の全身全霊のバトルに、涙していた。
しかし、そんな会場の静かな盛り上がりとは裏腹に、エビが一歩ずつ、踏みしめながらシークに近づいてくる姿を見て、ミズキは静かに察してしまった。
シークに、近付いてくるエビを、迎え撃つ力はない。
エビはわざを一つ打てば、いや、わざを使わずとも、拳でそのままシークに一発をお見舞いするだけで、勝利を手にする事が出来る。
当然、エビが一歩ずつ近づいてくる最中も、ミズキの頭は思考の回転を止めることはない。
しかし、わざを四つまで使い切り、こうげきする力が底を尽きたシークに勝利をもたらすなんて言う都合のいい作戦を思いつくことはなかった。
無理だ。
終わろう。
サレンダー。
ミズキの口が、それを発そうとしたその瞬間、
それをかき消した大音量。
それは、大量の拍手と、爆音の実況。
『な、なんとなんとなんとぉーーーーーー! エビワラーに歩みに答えるように、ユンゲラーも一歩ずつ近づいていくーーーーーー! 今大会を締めくくる最後の一撃は、今大会を大いに盛り上げた二人の真っ向勝負の接近戦で締めくくられるのかーーーーー!?』
「な……!?」
審判の方に向きかけた顔を正面に戻すと、実況の目が間違っていた、などという、あり得ない可能性が頭から消えていく。
息を必死に整え、顔に流れる血を小さな手で拭い、自分はまだ戦えると言わんばかりの表装で歩を進めるシークの姿がそこにはあった。
何を。
そう言いかけたその瞬間に、
ミズキに背を向け進むシークの姿が、
とある日常の一コマをフラッシュバックさせた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……『AUTO』ですか?」
「ああ、そうだ。と言っても、『CROSS』とは違って作戦とか技術というほど大層なものでもない。どちらかと言えば心構えに近いものだな」
「心構え……ですか?」
ああ、と一言はさみ、ミズキは少し険しい表情を作る。
それはシークに戦闘を覚えさせるのは早いと考えていたミズキが、シークには技の習得を命じ、スーには実践的な戦闘をたたきこんでいる最中のこと。
事の発端はスーの発言。ニビジムで『CROSS』を成功させたことで、さらに他の作戦を覚えておきたいと言い出したことからだった。
最初こそミズキはただの興味本位だと判断し、駄目だ必要ない、の一点張りだったのだが、もっと、マスターのために強くなりたいと言われてしまっては無下にすることもできず、スーのやる気に押され、一つだけ教えてやるという事で決着した。
「いいか、スー。俺たちはこの先、強大な敵や、辛い相手と戦わなければいけない時がきっと来る。そしてその時には、俺の力が、作戦が、通用しなくなっちまうってことも起こり得る」
「そ、そんな!?」
「仮定の話だ。当然俺はそんなことがないように、全力で作戦を練るし、一回や二回作戦がつぶれたから崩れるなんてことは絶対にないように戦い続ける。が、それでも、俺の力が相手に及ばなかった時があったならば、その時、この『AUTO』は発動する」
ミズキはいいか、と前置きに、しっかりとスーの目を見て言う。
「俺が必死に作戦練り上げて戦って、どうしても勝てなかったならば。俺がお前たちを勝たせる事が出来なかったならば。今度はお前たちが俺を勝たせるんだ」
「……わたしたちが……」
「そう。『AUTO』は俺の指示から『独立する』指示だ。俺の作戦がつぶれた時に、お前らは俺の指示から離れ、自分が想う最善の動きをし、戦う」
「で、でも! マスターの作戦で勝てない相手に、わたしたちが適当に動いて勝てるわけが! それに、適当に動いたらそれこそマスターの作戦がおかしくなっちゃうんじゃ……」
「そんなことは気にしなくていい。作戦が失敗して負けるのは、トレーナーの責任であって萌えもんの責任じゃない。それに、お前たちが自由に動いてくれた時のメリットもちゃんとある」
最大のメリット、それは、お前たちが自分で動いてくれれば、俺にはその数秒、思考する時間が発生する事。
「お前たちが俺の指示なしに動けば、俺はお前たちの動きを見ながら、次の指示を考える時間が得られる。『AUTO』中はお前らに送る指示を考えなくていいわけだからな、当然頭に余裕ができる……が、お前が言った通り、次の作戦が思いつく前にやられてしまったら結局この作戦は水泡に帰す。だからこそ、これは作戦じゃない。最初に言った通り、心構えみたいなもんだ。大切なのは……」
戦いの中で、諦めないことだ。
動かなければ何も変わらない。だが、
諦めなければ、何かが起こる。
「……はい!」
「ま、CROSSの時にも言ったが、こんなことやらないに越したことはない。日々の特訓で、そういうことを意識しながらやれってことだ。そら、戦闘訓練に戻るぞ」
そう言ってミズキは振り返ろうとすると、
そこには、こちらを見上げるシークがいた。
「……どうした? シーク?」
聞くが、シークは何も言わず、木の傍まで走っていき、“めざめるパワー”の特訓に戻っていった。
その背中は、いつものかわいらしい仕草とは違った、ほんのすこしのたくましさが垣間見えた。
「……シークちゃん……」
「……あいつも、あいつなりに進もうとしているんだろうな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そう。
あの時の、あの背中だ。
あの背中に、そっくりだった。
違ったことは、一つ。
その背中が、大きく見えたことだけ。
聞いていたんだ。あいつは。
シークは『AUTO』という作戦を、すべて理解しているわけではない。
『AUTO』はいうなれば時間稼ぎの戦術。萌えもんたちがミズキから独立しその間にミズキの思考時間を稼ぐという作戦。
とすればあえて自分からエビに合わせて前に出ていこうとしているシークの行動は、それとは真逆。ミズキの思考時間を、余計に削っていると言われても仕方のないものだった。
途中からしか聞いていなかったのかもしれない。
聞いていたがそもそもよく分からなかったのかもしれない。
しかし、ミズキは、
そんなちぐはぐなシークの行動から、
口をきけぬシークの、雄弁に語る背中から、
一つの事実を感じ取っていた。
シークは、まだ、諦めていない。
(……だっせえ、俺)
おくびょうで、かわいらしくて、よわっちくて、なさけなくて、
ぼろぼろで、立っているのもやっとで、わざも打てなくて、
そんなシークが、まっすぐに勝利に手を伸ばしているというのに、
自分は、なんだ?
これが、あのシークのトレーナーか?
タクミに、ノブヒコに、説教をした男の姿か?
これがみっともなくなくてなんだ?
自分の愚かしさにほんの一瞬だけ後悔し自嘲するが、今、そんな時間はない。
今は、
シークのこの勇気を、
己のすべてをかけてサポートする。
この試合に、勝つ。
ミズキの中にあるのは、
それだけだった。
シークの行動は、ミズキに前を向かせた。
シークの行動に、会場は沸いた。
しかし、シークの行動で最も心を動かされたものは、別にいた。
エビ、ではない。
そもそもエビは歩くのすら決死の想いだ。シークの行動を考える思考回路はもう残っていなかった。
では、誰が?
その答えは……
圧倒的優位な状況下でありながら、苦しそうにするノブヒコのしかめっ面が物語っていた。
(なんで……こっちに向かってくる?)
ノブヒコは、考えた。
なぜ、向かってくる? 近づけば、エビが優位になることは、前半戦で完全な答えが出ている。
もはや“カウンター”が使えない以上、エビに近づくことは悪手以外の何物でもないはずだ。
ならばなんだ?
エビに近づくことで、成立する作戦とはいったいなんなんだ?
考えても、答えは出ない。
当然だ。
答えは、ない。
無駄な、無意味な、奇怪な行動をとった。
それが正解。
しかし、ノブヒコがそこにたどり着くことはない。
いや、もしかしたら、試合が始まる前のノブヒコだったならば、その結論を出せたかもしれない。だが、今の彼には不可能だった。
その結論を出すためには、ノブヒコは、ミズキの策に飲まれ過ぎた。
エビは、ミズキの作戦によって今、ぼろぼろにされてしまっている。
それは、ミズキの作戦に対し、その場で対応してみせる、という策で対抗したノブヒコの失態だった、と、
だからこそ、ノブヒコは思えない。
その作戦は、あと少しで成功だったという事を。
ミズキの策は、ノブヒコとエビによって、すでに破られているという事を。
ミズキとシークは、今、追い詰められているという事を。
ノブヒコは気づけない。
シークが踏みしめた、『渾身の三歩』は
死んだ作戦に、再び息吹を吹き込んだ。
エビの歩み。
頼もしかったその歩みが、自分を苦しめるカウントダウンに感じる。
エビと、シークの足が止まる。お互いの、射程距離だ。
周りがやたら静かで、心臓の音がやたらうるさく感じる。
自分の仕事はわかっている。
決断だ。
エビに何をさせるかを考えることだ。
ふとミズキを見る。何も指示を出していない。完全に止まっていた。
自分に先手を取らせる気だ。
そう考えた瞬間に、それまでの様々な思考をすべて吹き飛ばした。
ミズキはこちらに先に動かせるつもり。
あと一発攻撃を当てればこちらの勝ち。
ならば、指示は一つ。
出来うる全力のこうげき指示で、
かたをつける。
そして、ノブヒコは、叫んだ。
「“ばくれつパンチ”!」
必要のない、大技。
残りの力、全てを振り絞った、ひっさつわざ。
シークの想いに答えるべく、れいせいになったミズキだからこそ、
人の弱さに敏感な、『弱さの塊』であるミズキだからこそ、気付けた。
その指示が、今までとは違う
シークに心を揺らされた男の、
『魂』の無い指示であるという事を。
(……見えた!)
シークが、あがき、もがき、はいずり、掴んだ。
勝利への、ワンチャンス!
「シークぅぅ!!!!
その瞬間、シークは、その場で、
糸が切れたかのように倒れ、転がる。
体格が小さいシークの、さらに下。
めいちゅうりつが低い、“ばくれつパンチ”は、
本来シークがいた位置を通過し、
シークを仕留めるはずのその勢いは、
そのままエビへはじき返る。
ふらつく、エビ。
そして足元には、倒れているシーク。
エビは、
シークに、
つまづき、
おおきく体を地面に打ち付け、倒れこんだ。
「エビっ!?」
「シーク!」
最後の交錯で、倒れこんだ二人。
ピクリとも動かない二人を、会場全体が、静かに息をのみ、見守る。
「両者、ともにせんとうふのう! よってこの勝「待て」!?」
「俺の仲間の決死の努力、踏みにじってんじゃねえよ」
審判の宣言を遮ったのは、ミズキの声。そして、
必死に上半身をおこし、拳を天に突き上げる
シークの姿。
「っ! エビワラー、せんとうふのう! よって勝者、“マサラタウン”のミズキ!」
『きっ、決まったーーーーーーーーー! やはり既にエビワラーは限界が来ていたーーーーーーーーー! 萌えもんバトル史に残る大接戦に競り勝ち、見事トーナメント優勝を飾ったのは、ミズキ選手! エリカ様への挑戦権を獲得したのは、ユンゲラー一匹でトーナメントを勝ち上がってきた超新星、ミズキ選手だーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』
『いやあ、大好きですねー!』
実況の声を合図に、会場全体の大喝采が始まり、
激動のトーナメントは幕を閉じた。
「……なるほど」
トーナメント実況席のさらに奥の部屋、大会本部と銘打たれたその場所で、エリカはモニター越しに大会を観察していた。
「どっちも一度倒れたら、二度と立ち上がれないほどのダメージ量。ならば相手に倒される前に、自分で倒れて回避しようと……相手が転ぶことまで計算済みでしょうか?」
言いながらラフレシアが運ぶお茶でのどを潤す。
「まあ、ずいぶんと悪戦苦闘していたようですけれども……あなたはどう思いますか?」
そう言ってエリカは、湯飲みを机に置き、腰掛けていたイスから立ち上がり、ドアへ問いを投げかける。
ほどなくしてドアはガチャリと開き、スーツの男が一人入ってくる。
「……知っていたのか?」
「もちろん。会場で見ていたのでしょう? それで……」
どうでしたか、ボス。
ご子息の戦いぶりは。
「……どうというほどのこともないな」
「あら、手厳しいですわね。一応、作戦にはめて勝利したのでしょう?」
「あの程度、作戦というレベルではない」
言ってボス、サカキはエリカが空けた席へ座る。
「“みらいよち”の使い方が不自然だ」
「あら? そうでしたか? うまく“カウンター”と合わせて決まっていたように見えましたが?」
「……ユンゲラーの得意わざ、“テレポート”を頑なに使わなかったことを考えれば、何か切り札を隠していることは容易に想像できる。公式戦ではわざは四つに制限されているからな」
「ああ……なるほど」
序盤に“みらいよち”を発動し、“ドレインパンチ”でけん制し、“サイコキネシス”と“カウンター”を使う予定だったのであれば、早々にわざは四つ埋まってしまっている。ミズキは“テレポート”を使いたくても使えなかったのだ。
「相手に恵まれたな。考えなしの直球男を悩ませれば、勝利はたやすい。なんてことはない。見ての通りの結果だ」
モニター見ながら呟く。モニターには、立った状態で悔しそうに拳を握りこむノブヒコと、へたり込んだ状態でぼろぼろのシークを抱き留める、ミズキの姿。
「……腑抜けたな」
男、サカキは残念そうに言った。
「鋭さがない」
「……いいことなんじゃないですか? 『ミズキ君』にとっては……」
エリカのセリフを聞いた途端、サカキは椅子から立ち上がり、ドアへと向かう。
「あら? 私たちのバトル、見ていきませんの? 一時間もすれば始まりますけど?」
「準備がある」
そう言って部屋を出ようとしたサカキは、最後に振り向き、言う。
「エリカ。命令だ。『ミズキ』を壊せ」
「仰せのままに」
とうとうエリカ戦