エリカ戦の構想はまとまってるから次もすぐ出します。
追記 3/29
タイトル変えました……大失態
「はい、ジョーイさん。シークを、よろしくお願いします」
そう言ってポケナビの通話電源をオフにした後、控室の隅にあったてんそうシステムにボールを一つ乗せる。
「……シーク。よく頑張ったな。ゆっくり休んでくれ」
ボールが贈られるのを見送った後、振り返って、スーと向き合う。
「さてと……ここまで来たぜ。スー」
「……はい」
安堵や、高揚の想いは一切ない。重々しい空気に拍車をかける、ほとんど聞いたことがないミズキの低い声が部屋を支配する。
「もう何度も言った話だが、エリカさんはこれまでのトレーナーとは格が違う。俺が知っているあの人のトレーナーとしてのスキルは、今の俺と比較しても比べ物にならないような腕の持ち主だ。四年前の段階でな」
壁に寄りかかりそういうミズキの額には、じんわりと汗がにじんでいた。呼吸はいつもよりも早く、顔色は急速に白く薄く落ちていく。
ミズキの精神は、すでに極限状態まですり減ってしまっていた。
しかし、体の状態とは逆に、話を進める中でミズキの言葉はより強く、より確信めいた口調へと変わっていく。
「……だが、俺たちは負けるわけにはいかない。俺たちは今、シークの想いで生かされているんだ。壊れて止まることがあっても、引き返すことがあってはならない。俺たちは、前に進むしかないんだ」
「……はい!」
想いを確認し終わった後、気が抜けたのか、ミズキは崩れ落ちるようにその場にへたりこむ。
「ま、マスター!?」
「……はあ、大丈夫だ。少し……疲れただけだ……」
少し笑った後、スーを自分の下へ抱き留める。体温が低いみずタイプの萌えもんであるスーでさえ、ミズキの体が冷たく感じた。
「作戦は……はぁ、伝えた通りだ。確認は……このメモで……。俺は……寝る……」
そう言い残したミズキは、スーを抱きしめたまま、スイッチが切れるかのように眠りに落ちた。
「……マスター……」
スーは片手を自分の腰を掴むミズキの手を握り締め、開いた手でミズキの額の汗をぬぐうが、完全に眠りに落ちても一向に引かない汗を見て、スーはそれが、疲労によるものだけではないという事を理解した。
時折見せる、魘されるような表情が、スーの心をしめつけた。
スーは、ミズキの最初の契約者だった。
スーは、それを誇りに思い、時折それが、良くも悪くもスーに影響を及ぼすこともあった。
ミズキと出会ってからのスーは、『ラプラス』ではなく『スー』となり、スーの中には常にミズキがいた。
だからこそスーは、旅の中で、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも、ミズキが感じたすべてを感じ、ミズキのことを理解したうえで、ともに旅を続けてきたつもりだった。
一時の感情に狂ったこともあった。
しかし、ミズキと別の方向を向くことなど、スーは考える事が出来なかった。
しかし、
そんなスーには、
タマムシに入った時から、いや、タマムシを目指すと決めた時から、
だんだんとミズキのことが、わからなくなっていった。
そしてそれは、フレイドにも、シークにも言えたことだった。
フレイドの行動にも、シークの行動にも、スーは幾度となく違和感を覚えた。
今まで納得していたはずのミズキの言葉が理解できない。
今になってミズキのことを知り挫けるフレイドが理解できない。
辛かろうと思いやる自分をはねのけるシークが理解できない。
タマムシに来てからのスーは、なぜ? の連続だった。
理解できたのは、
シークと、ミズキの、決意を見た時。
その時スーが感じたのは、
不甲斐なさ。
情けなさ。
圧倒的な、自責の念。
スーは、ようやく分かった。
自分と、彼らとの、大きな違い。
フレイドは、ミズキの過去を知り、挫けていた。
しかしそれは、ミズキの過去が認められないからではなかった。
シークは、ノブヒコと戦うことにおびえていた。
しかしそれは、元“おや”と戦うことが嫌だからではなかった。
ミズキは、エリカと戦うことを恐れていた。
しかしそれは、エリカに勝つ事が出来ないからではなかった。
フレイドも、シークも、ミズキも、そして、マリムも。
自分の過去と、戦っていたんだ。
自分の罪に、苦悩していたんだ。
自分には、それがなかった。
戦う、心の強さがなかった。
立ち向かう、勇気がなかった。
『いつか選ばなければならなくなるわ』
いつか、ゼニに言われたことだった。
自分の
向き合うことに、背けた。
だからこそ、このありさまだった。
だからこそ、ミズキとシークが、
ノブヒコに勝利したあの瞬間に、
違う涙が流れた。
スーは涙をぬぐい、控室に返ってきた二人を迎えた。
何かを言おうとしたのだったが、自分が欠ける正しい言葉が見つからなくて、俯き、黙りこくってしまった。
すると、自分の目の前に、気配が現れた。
顔を上げるとそこには、ボールに戻され、転送される寸前の応急処置を終えたシークがいた。
「……シークちゃん?」
何を、と尋ねようとしたその瞬間。
頬を、張られた。
「……シー、ク、ちゃん?」
もともと大した筋力がない上に、体力も残っていないシークの張り手など、強く打てるはずもなかった。
しかし、スーが受けたその張り手は、スーの体に響き渡った。
スーは、また、涙をこぼした。
自分は、おかしいのかもしれない。
スーは思った。
だって、聞こえたのだから。
『頑張れ』
『負けるな』
スーは確信していた。
今のは、シークから、自分への、
『怠惰』だった自分への、メッセージであると。
『本日、幾度となく試合を重ね、もはや見慣れたはずのこのフィールドから、今はただならぬ緊張感を感じます。あの二人の激闘の興奮冷めやらぬ中ではありますが、刻一刻と新たな戦いの幕開けが近づいてきています。この瞬間、この状況で実況を行えるというこの事実に私は感謝してもしきれません。それでは、本大会、ラストバトル。見事トーナメントを勝ち上がり、挑戦権を獲得した男、“マサラタウン”のミズキ選手 VS タマムシジムジムリーダーエリカ様によるジム戦、
『いやあ、好きですねー』
実況の声を軽く耳に入れながら入場口で構えるミズキの頭の中は、大会出場を決めてから幾度となく行ってきたバトルシミュレーションで頭がいっぱいだった。
作戦はもう決まっている。
自分が思いついた中でも、最も勝率が高いものであることも間違いない。
しかし、その作戦をもってしても、ミズキの頭に勝利のイメージは全くわかなかった。
(……俺が、エリカさんに……勝つ?)
そんなことが……出来るのか?
作戦を考えて、練り上げて、イメージし、絶望する。
それをミズキは、何日も続けてきた。
しかし、ここにきて、それらのすべてを振り払い、強い表情で前を向く。
(落ち着け、ミズキ。お前は、決勝戦で何を見た?)
自慢の仲間から、
信じろ、
自分と、
仲間の強さを。
『それでは、入場して頂きましょう! まずは東口、もはや説明不要の強さ! 我々は認める必要があります。彼を“かけだしトレーナー”と呼んだ失敗を。ユンゲラー一人でトーナメントを勝ち抜いたその実力。決勝ではどんな戦術、戦略を見せてくれるのでしょうか!? “エリートトレーナー”ミズキの登場です!!』
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ミッズッキっ! ミッズッキっ! ミッズッキっ!」」」」」」」」」」
決勝でノブヒコの応援をしていた者たちも半数ほどミズキの応援へと移っていたため、決勝と入場の時よりもさらに大きな歓声が襲い掛かるが、それを気にすることもできないほどミズキの集中力はこれまでの旅の中でも最高潮に達していた。
「行くぞ……スー! GO!」
一対一のバトルゆえに先んじて登録した萌えもんを出すだけなので絶対戦闘特有の見せあいは今回発生しない。
よってミズキは早々にスーを出してしまい、場の空気に鳴らしてしまうという選択をした。
『こっ! ここにきてまさかの新しい萌えもん!? ミズキ選手、なんと繰り出したのはラプラスだぁ! これまでのユンゲラーの怒涛の戦いはこのジム戦のためにラプラスを温存するための、布石だったのかぁ!?』
実況の驚愕の声と会場のざわめきに、ミズキはほんの少しいらっとする。
(……スーに無駄な緊張を与えて欲しくないんだけどな)
無理だとわかっていてもそんなことを想わずにはいられず、歯噛みしていると前にいるスーが振り向きもせずに静かに言う。
「……マスター。勝ちましょう」
「っ……ああっ」
ぞわりと全身を駆け巡るその声色から、スーの計り知れる思いを感じたミズキは、問題はないと判断した。
もう、こちらの体制に憂いはない。
後は……
『さあ、それでは! 登場して頂きましょう! ジムリーダー、エリカ様の登場です!』
俺が、あの人を、
超えられるかどうかだ。
着物に袴を着て番傘を刺した独特のスタイルでゆったりと歩いてくるその姿に、会場は自分の時とは全く違うベクトルの盛り上がりを見せる。女性は歓声というよりも金切り声に近い音をだし、男性は応援というよりも口から漏れだすような声で喜んでいた。その状況にほんの少しだけくすっと来るが、エリカがトレーナーゾーンに到着し、こちらに目線を向けると同時に、深呼吸をして気合を入れなおした。
「……よくもまあ、たった二匹の萌えもんでここまで来ることが出来たものですわね。素直に感心しますわ」
「師匠の教えがよかったんじゃないですか?」
「あらあら。小生意気だったジョーカーが、こんなお世辞まで覚えてしまって……」
口元に手をやり、上品に笑う。
そんな様子を見て、ミズキは冷静に分析する。
(……フレイドのことも情報にあるはずなのに、スーを選出したことに驚いている様子はない……想定の範囲内ってわけか)
まあ、そこまで期待していたわけじゃない。あくまで作戦の副産物だ。
「さて、それでは……わたしのパートナーのお披露目と行きましょうか」
そう言ってエリカは、蒼い花びらのシールが張られたスーパーボールを手元に掲げる。
それを見たミズキは、顔をしかめた。
予想外だから、ではない。
予想通りだからだった。
『エリカに対する作戦はこれで行く……ああ、あと、エリカが出してくる萌えもんは見当がついてる。十中八九これだ』
『えっ? な、なんでエリカさんが出してくる萌えもんがわかるんですか?』
『……ああ、それはな』
あの人は、俺と同じくらい性格が悪いからだ。
「嫋やかに舞い、美しく狂う紅と蒼の花よ、乱れ咲け」
エリカのボールから現れたその姿に、思わずミズキは息をのむ。
分かっていたのだ、彼女が全力で来ることは。
分かっていたはずだ。
一対一の、絶対戦闘。
ここ一番で、俺に対して、選択する萌えもん。
『こ、この萌えもんはぁ!?』
さあ、始まる。
恐れていた、戦いが。
プチクイズ
エリカが出した萌えもんとはなんでしょうか?
結構多めにヒントが出てるので想像がつく人はもうついてるかもしれませんが……