罪深き萌えもん世界   作:haruko

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 絶対戦闘
 勝者 ??
決まり手 ??





エリカ戦はこういう決着にすると決めてました。


第11話 4 計画完了

ミズキは力尽きねむりにつくスーを抱きしめながら、何も言わずにその宣告を受け、エリカはミラをボールに戻しながら一言、あら、と言ってその宣告を受けた。

 

 

静かなフィールドと打って変わって、審判のその言葉に大きな動揺を見せたのは、観客たちだった。誰一人として大きな声を出したわけではないのに、全員のざわつき声が塊となってうなりを起こしていることが、その動揺が大きなものであるという事を証明していた。

 

「……えっ、反則負け……?」

 

「嘘……なんかルールを破ることしたか?」

 

「あれかしら……」

 

「いや……でも……」

 

 

『静粛に、静粛に願います』

 

 

そんな会場を収めたのは、マイクを持ち、フィールドの中心に座っているミズキのわきに立った審判の声だった。

 

 

『ミズキ選手は今の絶対戦闘において、二つのルール違反を犯しました。一つ目は、『萌えもんが、相手の萌えもんトレーナーに対して、妨害行為に及んだ』こと。そしてもう一つは、『萌えもんバトルにおける、わざの使用制限を破った』こと。この二つであります』

 

 

きわめて義務的、そして説明的に、仕事であると言わんばかりに、審判は淡々と報告を行ったが、その言葉に観客は鎮まるどころかさらにざわめきを増した。

 

「でも、ラプラスのこうげきはわざとじゃなかっただろ」

 

「そうよ。ミズキ君はちゃんとやめさせたじゃない」

 

「それに、わざの使用制限って、あのラプラスのスピードが増した奴のことだろ?」

 

「でも、あれってそもそもわざだったの? なんてわざ?」

 

会場全体の空気を総合してみると、ミズキの負け、という判定に、懐疑的な意見が多いように感じられる。しかし、それは偏に、彼らがミズキたちの戦いぶりを目の当たりにし、感動したが故に味方をしていたい、こんな終わり方をしてほしくないという思いからきているものであり、ルールを正しく理解している者たちが判定に異議を唱えているというわけではなかった。観客席にいる、『同情で審判が結果を覆すことはない』と理解しているトレーナーたちは、他の客と同じ思いでありながらも何も言えず顔をゆがめていた。

 

そして、審判の判定に困惑してしまっているのは、客席だけではなかった。

 

 

『……こんな終わり方でいいのでしょうか。こんな終わり方になってしまっていいのでしょうか!? 解説のスキゾーさん! ミズキ選手は本当に、反則負けになってしまうのでしょうか!?』

 

決勝戦、そして今の絶対戦闘を見て、最も心を動かされていた実況が、本来してはいけないトレーナーへの想いの肩入れを隠すことすらも忘れてスキゾーに尋ねる。

 

『……反則が確定したというわけではありません』

 

それを受け、スキゾーも普段の温和な雰囲気を落とし、真剣な表情で解説を始める。

 

『一つ目の反則、『トレーナーへのこうげき』。これに関してはどちらとも言えます。何せ意識を飛ばしたラプラスがロズレイドを狙いこうげきした時の流れ弾がエリカさんに向いてしまったという事ですので、乱暴な言い方になりますが、ロズレイドの責任ともいえるわけですから。おそらく今回問題となるのは、二つ目の反則でしょう』

 

『わざの使用制限、ですね?』

 

『はい。ラプラスが使用したわざで、確定しているわざは、“あられ”、“しろいきり”、“れいとうビーム”、“こおりのいぶき”です。萌えもん協会によって定められた公式ルールによると、萌えもんバトルに使う事が出来るわざは最大四つまで、と決まっているため、五つ目のわざを使ったとすると、ラプラスは反則負けという事になってしまいますが……』

 

そこまで言ったところで、スキゾーはいったん押し黙る。沈黙に耐えかねた実況は、恐る恐る口を開いた。

 

『で、では、あの蒼いオーラを纏うわざが、五つ目のわざに……』

 

『おそらく、今回の論点はそこでしょう』

 

スキゾーがびっ、と目を開き、実況へ顔を向ける。

 

『あのわざは、ミズキ選手がラプラスに指示をしたことで発動したものではありませんでした。かといって、ラプラスが自分の判断で、発動を行っていたのかと言えばそれも違う。あのわざは、エリカさんのロズレイドがミズキ選手に対し、投げかけた言葉にラプラスが反応し、発動したわざであるというように見えました』

 

『た、確かに。ミズキ選手とラプラスが、自発的に発動したようには見えませんでした』

 

『そうですね。ミズキ選手にもあれは想定外の状況だった、という風に考えられます。そして、それを引き出したのは、ロズレイドの、ミズキ選手による“ちょうはつ”行為。反則とされる『トレーナーへのこうげき』に、直接的に、という記述は有りません。つまり、ロズレイドの行動がミズキ選手への妨害行為であると判定されるならば、先に反則をし、場を乱したのはエリカさん。ということになります……が』

 

そこまで言って、スキゾーは今度は残念そうな表情を作る。

 

『あのわざが、『ミズキ選手たちが、事前に発動を計画したものではない』という証明が必要になります。そしてその証明は、ほぼ不可能であると言えるでしょう』

 

スキゾーの言いたいことを理解した実況は、スキゾーに合わせて深いため息をつき、残念そうな顔で俯く。

 

 

やったことを証明する。これは、出来ない事じゃない。

 

誰かに証言してもらう。

物的証拠を見せる。

状況証拠を集める。

 

そうやって証明することは、多少難しいこともあるが、可能だ。

 

 

それに対し、

やってないことを証明する。これは、とても難しい。

 

誰かに証言。

見えないところでやっていると言われる。

 

物的証拠。

あるはずがない。やってないんだから。

 

状況証拠。

やっている状況証拠ですら信用ならないのに、やってない状況証拠なんか意味がない。

 

 

 

反則などするはずがない。たとえこの会場の全員がそう唱えたとしても、

審判は、『ミズキがやってない証明』が出来ない以上、一番安定した選択を取るしかない。

 

 

 

そして、二人の嫌な予想通りに、試合は終幕に向かっていた。

 

 

 

やがて観客は一体となり、抗議の意味を込めた会場全体のミズキコールが始まるが、無表情の審判はそれさえも意に返さず、粛々と決着を言い渡す。

 

 

 

 

 

『よって真に残念ではありますが、萌えもん協会制定のバトル規則と、伝統的絶対戦闘における規則に従い、『トレーナーへこうげき』し、『わざを五つ使った』ミズキ選手は失』

 

 

 

 

 

 

『黙りなさい』

 

 

 

 

 

 

いつの間にか後ろから出てきていたモンジャラから受け取ったマイクを手に持ったエリカの発言に、会場全体が静まり返る。

 

観客たちは自分たちに対する発言だったかと息をのむが、エリカの視線が自分を貫いていると気付いた審判だけは、先の発言は自分への物言いなのだと理解し、冷や汗を垂らす。

 

「え、エリカ様? 何を……?」

 

「何を、ではありません。わたくしは、『黙りなさい』と言ったのです」

 

次の言葉を言う前にエリカにそう言われた審判は、言葉を返せず思わず黙り込む。

そんな審判から少し目線を下げると、目が点になったミズキが、見上げるようにこちらの顔を覗きこんでいた。その状況に少し微笑んだエリカは、続けて、今度はマイクを使い、言う。

 

『トレーナーへのこうげき? わたくしはあんなもの、反則などとは思いません。むしろ、挑戦者がラプラスに停止を命じたことを利用し、ラプラスが動き出す前にと、とどめの“ヘドロばくだん”を撃つように指示しました。それは、わたくしがそれを反則とはとらえなかったことの、証明ではなくて?』

 

「そ、それは……」

 

「そうだそうだー!」

 

「いいぞー! さすがは我らがエリカ様だー!」

 

考える隙間もなく援護射撃の様な観客からの歓声をあび、審判はいい訳を口にすることすらもできなかった。

 

『さらには、わざが五つ? ちゃんちゃらおかしいですわね。ならあなたに聞きますが、あれはいったいなんというわざなのでしょうか?』

 

『……げ、“げきりん”! そう、“げきりん”です! ラプラスが使う、“ドラゴン”タイプのわざ、あれなら説明が』

 

『つきませんわね』

 

ばっさりと、エリカは切り捨てた。

 

『“げきりん”はたしかにすさまじい威力のわざですわ。それこそ、先ほど相手方のラプラスが見せたような、すさまじい攻撃を生み出す可能性も、無いことはないと言えるでしょう』

 

少しだけ笑顔を取り戻した審判が、反撃と言わんばかりに理屈を考えるが、少し考えたところでエリカから先に、追撃と言わんばかりの理屈が飛んでくる。

 

『ですが、忘れてはいませんね? ラプラスは“ベノムトラップ”を受けていました。“こうげき”は勿論ですが“すばやさ”も落ちていたのです。“げきりん”というわざは飽くまで、怒り狂い、その怒りのままにこうげきを繰り出すことで本来出しえない力で相手にダメージを与える技。彼女のあれ(・・)は確かに常識を超えた力を有してはいましたが、わざの威力が変化することはあっても、わざの効力が変化することはありえません』

 

 

 

 

つまり、あれは“げきりん”ではなかったという事です。

 

 

 

 

エリカからの厳しい追及に引き腰になってしまった審判は、

強くマイクを握りこみ、立場も忘れた口調で叫ぶ。

 

 

 

 

 

『じゃ、じゃあ! あれは一体なんだったんですか!? ラプラスの、あの力は!?』

 

 

 

 

 

その言葉に、

エリカは、笑う。

 

 

 

その笑顔を見た審判は、気づけば尻餅をついていた。

 

話していた彼と、ずっと目を離さなかったミズキだけは、見えた。

 

 

 

 

今までの優雅なものとは違う。

エリカの、邪悪な笑みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あれが、なんだったのか。それがわからないあなたに、それを理由に反則負けを言い渡す権限はありませんわ』

 

 

 

審判は自分の失言に気付く、が、もう遅い

 

審判が訂正するよりも先にエリカのその発言を理解した会場は、一斉に大きな歓声をあげた。

 

しかし、そのバケツをひっくり返したかのような大騒ぎとは裏腹に、フィールドの空気はさすような冷たさを増していた。

 

『あなたにわからない以上は仕方ありません。未発見のとくせい。未発見の萌えもん(ラプラス)自身が持つ力。可能性を考えるだけなら、いくらでもあり得るのですから。では、改めて結果をお願いしますわね』

 

今度は優しい表情をこちらに向けるエリカに対し、はっとした審判は首を大きく振り、立ち上がって宣言する。

 

『わ、わたしは、萌えもん協会直属の、公式審判です! 審判として、自分の思った判定を、そう簡単に覆すことは』

 

 

 

『わたくしはタマムシ萌えもんジムリーダーのエリカです。そしてこれは、トーナメントの特典であり、絶対戦闘であると同時に、ジム戦でもあるのです』

 

 

 

エリカは、笑顔のまま、目だけ細め、言った。

 

 

 

 

「わたくしには、負けを認めたトレーナーにはジム戦勝利の証を与えるという、大切な義務があるのです。それは、あなたの立場とか、プライドとか、そんなくだらないゴミなんかよりも、とても尊くて重いものなんですのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度だけ言いますわ。

 

 

改めて、判定、

 

 

 

お願いしますわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういう事だ」

 

「……なにがですか?」

 

絶対戦闘が正式に決着し、バトルフィールドから立ち去ってすぐにミズキは走りだし、反対側の通路へと向かった。角を曲がったその先の通路の真ん中には、質問を茶化しながらも明らかにミズキが来るのを待っていたエリカが、植物でできた“ふわふわのイス”に腰掛けながらお茶を啜っていた。

 

「なぜ、あんな茶番までして、俺を勝たせたんだ?」

 

今にも殴り掛からんとする勢いのミズキに対し、手前のラフレシアとモンジャラがそれを警戒し、わざを打ち込む体制を作る。

 

「下がってなさい。構いませんわ」

 

そのエリカの一言で、二人の萌えもんはエリカの足元まで下がる。それでもなお、エリカを守ろうと気を張る二人の様子が、エリカの無警戒をさらに際立たせた。

 

「茶番だなんて人聞きの悪い。先ほど申し上げた通りですわ。わたくしは確かにR団。ですが同時に、ジムリーダーでもあるのです。誤審を見逃して、わたくしの勝利と判定させるわけにはいかないから、わたくしの思うことを言っただけ」

 

 

「……ああ、そうだな。あんたは、間違ったことも、嘘も言ってない」

 

 

そのミズキの発言に、エリカの湯飲みを運ぶ手が止まる。

 

 

 

 

 

「だが、嘘以外にも、言ってないことがあるはずだ」

 

 

 

 

 

「……何のことやら」

 

「気づいてないとは言わせねえぞ」

 

エリカの退路を断つような意図の発言ではあるが、それを聞くエリカはさらに楽しそうに口を歪曲させる。

その反応に、ミズキは自分の90%の疑惑が、100%に達したことを察する。

 

 

 

「わざと、審判に誤審させやがったな」

 

 

 

「さっき言ったでしょう。わたしは、自分の思ったことを言っただけ」

 

「審判があんたに都合よく解釈するようにな」

 

 

 

 

 

……そう、あんたは嘘は言ってない。

 

あんたの言うとおりだ。スーがつかったわざは、五つ(・・)じゃない。

 

 

 

 

 

六つ(・・)だ」

 

 

 

 

 

“こおりのいぶき”を待つまでもない。

スーは、とっくに反則負けだった。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

無言で停止するエリカにかまわず、ミズキは続けた。

 

「すべてはあんたと、審判が言った通りだ。スーのあの挙動、あれが“げきりん”以外にはありえない。だが、あれが“げきりん”だとするなら、スーの劇的な加速と、パワーアップに説明がつかない」

 

 

 

 

当然だ。あれは“げきりん”であり、“げきりん”ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

あの時、スーが無意識に発動した力は、二つ。

 

 

 

こうげきわざ、“げきりん”。

 

そして、もう一つ。

 

 

 

 

龍のエネルギーで己を鼓舞し、“こうげき”と“すばやさ”を引き上げるとくしゅわざ。

 

 

 

 

「“りゅうのまい”」

 

 

 

「……へえ」

 

 

 

エリカはそうつぶやき、再び湯飲みを口につける。

まるでミズキの言葉が、何でもないことかのように振る舞うその姿に、ミズキの苛立ちは加速する。

 

 

 

「あんたは、気づいていたはずだ。他でもない、カスミ戦を先に聞いていたはずのあんたなら、スーの中にある“ドラゴンの血統”を先に知っていたあんたなら」

 

「……ふぅ。顔なじみに戦力が透けてるってのはめんどくさいことこの上ないですわね……って、これはあなたのセリフでしたか」

 

「……答えろ! エリカ!」

 

着物の片襟を掴み、ひねりあげる。

 

 

 

 

 

「あなたは……何が狙いなんだ!」

 

 

 

 

 

 

ここで、逃すわけにはいかない。

 

 

はっきりさせなければならないのだ。

 

 

 

 

 

この人は、敵か。

 

 

 

 

 

それとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わたしからも、聞きたいことがありますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

あなた、あれが、“げきりん”と“りゅうのまい”であるという事に、気づいていたんですの?

 

 

 

 

 

 

 

「……当たり前だ。スーは、俺の相棒だ!」

 

 

相棒のわざがわからないはずがない。

そんなもの、萌えもんトレーナーなら当然だ。

 

 

 

強く答えるミズキに対し、エリカは逆に冷めきったような顔でミズキを見つめる。

 

 

 

「ああ……じゃあ、こう言い換えましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

あなた、

あの時点で、

わざを五つ使っていたことに、気づいていたんですの?

 

 

 

 

 

 

 

「っ! わざを……五つ?」

 

思わず拳から力が抜け、エリカに脱出を図られるが、それすらも意識に内容な表情で、ミズキが呆然としていた。

 

エリカはせき込みながらも、心配する萌えもんたちをたしなめながら、言う。

 

 

 

 

「あなたの言い分ならば、あなたが『ミズキ』として勝利の可能性を追うことを徹底するのであれば、公式戦のルールを犯したあの瞬間、あなたは、降参すべきだったんじゃありませんの?」

 

 

 

 

 

降参、すべきだった?

 

 

 

 

 

そうだ、その通りだ。

 

 

 

俺は、あの時、

スーを止められなかったのだ。

 

 

 

あの瞬間、俺は、負けていたのだ。

 

 

 

 

 

ならば、なぜ。

俺は最後まで戦った?

 

 

 

 

 

エリカが、こんなことをする結末など、想定できるはずがなかったのに。

 

 

 

 

 

勝ち目が、勝つ手段が、なくなったはずなのに?

 

 

 

 

なぜ?

 

 

 

 

 

「なぜ、あなたは、勝ち目がなくなっても(・・・・・・・・・・)、あきらめなかったのでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

エリカは、

悪戯が成功した子供の様に、笑った。

 

 

 

 

 

「なぜ、あなたは、勝てたのでしょう?」

 

 

 

 

 

そう言うとエリカはミズキに近づき、手元にくしゃりと何かを握らせる。

 

 

 

 

 

それは、バッジ。

 

 

 

そして、『交渉権』と書かれた、一枚の紙。

 

 

 

 

 

 

 

「わたくしがやりたかったこと。わかってくれましたか?」

 

 

 

 

 

ねえ、ジョーカー?

 

 

 

 

 

 




ミズキ、絶望。


主人公チートのタグは外しましょうかね?
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