罪深き萌えもん世界   作:haruko

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かれこれ十数話分くらいタマムシを書いてる気がします


第12話 1 悪戯

「……おい、新入り! そんなところでさぼってんじゃねえぞ! 仕事しろ仕事!」

 

そこは先日一悶着起きた件のゲームセンターの片隅。機械の爆音に負けじと声を張り上げて怒鳴り散らす中年の男に対し、説教を受けた男は平謝りを返すも去った後に軽く舌打ちするだけで店の隅から離れようとはしない。ストレス発散のための機械がそこらじゅうにあるのにできないという状況が、彼の苛立ちに拍車をかけていた。

 

そう、男は決してサボるためにそこにいるわけではない。むしろ彼にとって重大な仕事の真っ最中だった。ただし、中年の男の指示する仕事とはまるで違う内容のものではあるが。

 

(見張りなんてくそつまんねえ仕事、さぼっちまえばよかった……)

 

とは言いつつも時間が決まった当番制であるため、問題が起こった場合すぐに自分の責任であることがばれてしまうのでそれは単なる願望に終わる。

 

再び説教を受けることになっても面倒だと考え、仮初の仕事をしているフリでもしておこうかと我に返ったその瞬間、正面から声をかけられる。

 

「……あの、すいません。おたずねしてもよろしいですか?」

 

「ああ、はい。いったいなんでしょうか?」

 

みてみると自分より少し年下、17、18くらいだろうか、のカジュアルな服装の青年が申し訳なさそうにこちらを見ている。そんな様子を見て、もっと別のやつに聞けよ、という言葉を無理やり飲み込み、いったん仕事を全うしようとスイッチを社交的なスイッチをオンにする。

 

 

 

「『またまた、タマタマ』」

 

 

 

しかし、すぐにそのスイッチは切れた。

 

 

 

「っ! 『カブトはとぶか』……新入りか?」

 

「はい、交代です」

 

お互いに作った表情を瞬時にけし、頭を近づけながら低く小さい声を交わす。

 

「……? 交代? まだ三十分しかたってねえけど?」

 

「はい。何でも別件で頼みたいことがあるので僕と交代して来てほしいと、幹部の方が」

 

「別件? まあいいや。じゃあ頼んだぞ」

 

そう言い男は、自分が見張っていた場所に張ってあったポスターを剥がし、いくつかボタンを押す。すると右手にある商品を並べるための陳列棚の後ろのスペースの床がひとりでに動きだし、その下から階段が現れる。割と大きな音が出ていたような印象を受けたが、なるほど、ゲームセンターでそんな大きな音が出たところで、クレームを言ったり怪しんだりする人間はそう多くはないだろう。と、見ていた青年は心の中で思う。

 

 

「んじゃ、俺は行くけど、少ししたらちゃんと元通りに戻しておいてくれよ」

 

 

「ええ、どうもありがとうございました。それでは、おやすみなさい(・・・・・・・)

 

 

「? 何を」

 

 

 

そう言いのこし、男は、

 

倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は? あんたは入れない?」

 

 

それは絶対戦闘と同日、数十分ほど時間を取り心の整理をつけたミズキが、『交渉権』を行使しタマムシに存在する研究所を貸してもらおうと“大会本部”の部屋にてエリカに交渉していた時のこと。

具体的な要求としては、『研究所に存在するメインコンピュータの使用権をよこせ』というものだったのだが、早速ミズキのプランは暗礁に乗り上げた。

 

「……どういう事だ。仮にもジムリーダーで組織のトップをはっているあんたが、その組織が利用している研究室に入れねえってのは?」

 

「ジムリーダーで、組織のトップだからこそですわ」

 

椅子に腰かけ、机を飾る生け花を作りながらエリカは言った。まじめにやれ、とミズキは言ったが、それがあなたの要求ですか? と返され、それからは何も言わなかった。

 

「あなたが戦った“おつきみやま”にいた者たちが最たる例ですが、本部で働いているものたちとそのジムリーダー直属の部下たち以外はわたしたち“ジムリーダー”がR団であるという情報は与えていないのです。いくらタマムシシティにいる構成員たちと言っても、わたくし研究に関しては畑違いですから直属の部下というわけでもございませんし、したっぱたちのせいでわたしたちの情報が筒抜けになってしまうのはいささか不本意ですので。と言っても、あなたはカスミに直接聞いてしまったので、あまり意味の無い工作となってしまいましたが」

 

「……ああ、なるほど。つまり、ジムリーダーとしてのあんたが、アジトに入ろうもんなら大惨事、ってわけか」

 

「ええ、ジムリーダーにかぎつけられた、などと騒がれては、あなたも作業することはできないでしょう?」

 

図星だった。

ミズキがタマムシで研究を行っていた頃は、アジトの場所も違ければ、設備も違い、もっと言えばかけられる時間も違った。いくら以前使ったデータを流用して使うと言っても、一度作るのに半年以上かけたデータをそんな一瞬で再構築できるわけがない。

たっぷり時間を取るには、アジト内での戦闘は極力避け、気づかれないうちにすべてを済ませるという事が絶対条件だ。奴らの仲間であることを知られていないエリカを連れて行き、見つかろうものなら混乱は必至。戦闘は免れないだろう。

 

しかしエリカを連れて行かないことにも問題はある。エリカを自由にしてしまう事だ

 

エリカは、戦力が尽きたからこちらに従っているわけではない。あくまで絶対戦闘に負けた、という体裁があって、それを守っているだけだ。

絶対戦闘はこの萌えもん世界に存在する絶対のルールであり、そのルールにそむいたものは厳しく罰せられる。しかしそんなもの、この人がどこまで本気で守るつもりかも疑わしい。

いま彼女を野放しにすれば、どういう動きをしようとするかなど想像も予想もすることはできない。現にミズキと会ってからの彼女は雲のようにつかみどころがなく、理解できない行動、言動の連発だった。

 

背を向ければ、いつ刺されるやもわからない。

せっかく握ったそんな人の手綱を簡単に手放すわけにはいかない。

 

 

「……わかった。だったら、あんたへの要求はこうする」

 

 

 

 

 

 

今日一日、俺の作戦に協力しろ。

 

 

 

 

 

 

「……わたくしに、R団襲撃のてだすけをしろと?」

 

「……ああそうだ。ただし、今日一日だけでいい。あんたを誘拐して、あんたの部下や協会のやつらに目をつけられても面倒だからな」

 

何でもないことのようにしゃべりながら、ミズキはエリカの正面においてある湯飲みを手に取り、口にする。

 

「……わたくしの情報が嘘である可能性や、わたくしが途中で裏切る可能性は?」

 

エリカのその発言にミズキは睨みだけを返し、湯飲みを一気に傾け全てのみ込んだ後テーブルにたたきつける。

 

 

 

 

 

「……来るのか? 来ねえのか?」

 

 

 

 

 

低い声で、そう呟く。

 

 

 

 

 

「……はい。お供させていただきますわ」

 

 

 

 

 

エリカは楽しそうに、そう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Worning! Worning! 侵入者! 侵入者! 見張りが何者かに襲撃され、侵入者を許した模様。見つけ次第、位置情報を報告せよ』

 

アジト内に響き渡る警報をバックに、黒ずくめの男が二人、動揺の服装の女が一人、愚痴交じりに廊下を駆けだす。

 

「侵入者だあ? 誰だよ、そんな馬鹿な事するやつは?」

 

「R団に刃向おうなんてな。命知らずか、ただのバカかのどっちかでしょ? くだらない。すぐに捕まって終了よ」

 

「んなこたあどうでもいいんだよ! なんで、休憩中の俺たちまで緊急出動しなきゃならねえんだ! ふざけやがって!」

 

「ならば、寝てればいいんじゃないですか?」

 

 

 

「「「……え?」」」

 

 

 

声に反応し後ろを向いた三人だったが、振り向いた瞬間に顔全体に毒々しい色の粉がふりかかり、視界がふさがれる。

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

「おい、これは、もしかして……」

 

「“ねむりごな”……ぐぅ」

 

気付いた時にはもう遅く、彼らの景色に最後に写ったのはせっせと自分たちに“ねむりごな”を振りまくモンジャラの姿だった。

 

眠りに落ちた三人を確認し、廊下の影から一組の男女が姿を現す。

 

「さて、これで服は手に入りましたわね。多少は潜入も楽にはなるでしょう」

 

「……楽しんでんじゃねーだろうな?」

 

「自分の組織に牙をむける。こんな愉快なシチュエーション、楽しまなければ嘘ですわ」

 

せっせと女性団員から団服を脱がすエリカから視線をそらし、敵がいないかを確認しながらミズキは会話を続ける。

 

「で、再度確認するが、あんたがこのアジトについて知っていることは本当になにもないんだな」

 

「ええ。入ったことも初めてですわ。あなたに伝えた『合言葉』と、『昔ジョーカーがつかっていたタマムシアジトの設備はすべてここに移転されている』という事以外、わたくしが知っていることは何もありません」

 

はっきり言ってそれも眉唾物だったのだが、一番嘘くさかった『合言葉』が本当だった以上、いったんは信じるしかないだろうとミズキはあきらめたかのようにため息をつく。

 

「ああ、あと、逃げることを警戒して無理にしゃべりかけようとしなくても大丈夫ですわよ」

 

「大丈夫か大丈夫じゃないかは俺が決めることだ」

 

「だったら直接目で見張っていればよろしいのに。わたくしは別にかまいませんわよ?」

 

「さっさと着替えろ」

 

「はいはい……んっ、着替え終わりましたわよ。ちょっときつめですが、まあ許容範囲ですわ」

 

 

その発言を受けて振り向いたミズキは、飛び込んできた映像に思わず目をそらす。

 

エリカがいなかった……わけではない。『R』のロゴが目につく黒ずくめのシャツにスカート、そして同じく正面に『R』の帽子。普段見慣れない服装で少しの新鮮味は覚えたものの、想定通りの服装のエリカがちゃんとそこに立っていた。とある一部分のサイズが合わなくて服がパンパンになり、やたらと強調されてしまっているがそれもこの際どうでもいい。

 

 

 

「……なんで下着までひん剥いてやがる」

 

 

 

問題なのはそのエリカの足元に転がっている、全裸で爆睡中の女団員だった。

 

「わたくし、着物の時には下着はつけていませんので」

 

拝借しましたわ、と言って自分の着物を手元に抱える。なるほど、その脱衣した後には確かにエリカの下着はない、とそこまで思考したところでれいせいに考えている自分が逆に気持ち悪くなり、無言でリアライザーを起動し着物を転送する。

 

「便利なものですわね。生け花の作品を持ち帰る時にほしいものですわ」

 

「下らねえこと言ってる場合じゃねえんだよ。行くぞ」

 

さっさと着替えを終えたミズキが、廊下の遠くから走ってくる団員たちを親指で指差し言う。彼らに合流し、紛れるつもりらしい。

 

「はいはい。では、いきましょうか」

 

そう言うエリカは、やはり楽しげだった。

 

 

 

 

 

「いたか?」

 

「いません」

 

「そっちは?」

 

「全く見つかりませんわね」

 

「……こちらも同じく、見つかりません」

 

やたらと仕切り、全体を見渡す男の指示に従うふりをしながら動いていたミズキは、しばらくしてから頭を悩ませる。

 

 

 

(……どういうことだ?)

 

 

ポスター裏にあった隠しスイッチ、我々の存在を知らせる警報機、勝手に動く床の防犯。

 

R団員のしたっぱどもと一緒になって走っている間、明らかに大きなシステムによって作動しているものがいくつも確認できた。4年前自分がつかっていた設備かどうかは定かではないが、少なくとも大型のコンピュータが備え付けられているというエリカの話は嘘ではないはず。

なのに……そのコンピュータを扱っている階にどうしても行けない。

今のところ捜索している階は、B1、B2、B3、B4の四階層。しかし、その四階のどこにもそれらしい設備は見当たらない。

考えられる可能性は……

 

「何かわかりましたか?」

 

そうやって思考を回していると、エリカがミズキの方に顔を乗せ小声で囁く。振り払うのは簡単なのだが今は少しでも知恵が欲しいため致し方なしと推理を話す。

 

「……どこかに特殊な手順でしか入れない部屋がある可能性がある。そしておそらく、コンピュータ室もその部類だ」

 

「まあ、そうですわね。ですが、どこにあるのでしょう? それらしき場所や、それにつながりそうな通路は、今のところ見つかりませんでしたけど」

 

その通りだ。しかしだからと言って人に尋ねるという事はできない。こんな時に「VIPルームにはどのようにいけばいいんですか?」などと聞くのは「自分、不審者なので捕まえてください」と申告しているようなものだ。侵入者がいると全員が躍起になって探している最中にわざわざそんな場所に行きたがる馬鹿はいない。

 

どうしたものかと考えていると、その思考を寸断する怒号が鳴り響いた。

 

「おい、お前ら! さぼってんじゃねえ! より広いB2とB3をもう一回探しに行くぞ!」

 

「……はい、了解しましたわ」

 

 

仕方ない、今は従おう。

 

そう考え、エリカに倣って移動しようとした瞬間に、ミズキは違和感を覚える。

 

 

「……より広いB2とB3?」

 

 

 

そう呟き、ほんの一瞬立ち止まる。

 

 

 

 

「……ジョーカー、行きますわよ」

 

 

 

 

「……ああ、わかった」

 

 

少し笑みをこぼしたミズキは小走りで前にでて、人差し指で「ついてこい」と合図をした。

 

 

 

 

 

B2に入り動く床を利用して他団員たちの視界から離れたミズキとエリカは、部屋の片隅で捜索の振りをして体を寄せ合い、小声で話す。

 

「……それで、何かわかりましたの?」

 

「わからねえのか。これだよ。これが隠し通路だ」

 

ミズキはそういって、右手の裏拳で二回、鉄製の扉をたたく。垂れ下がっている点検中の札が乾いた音を鳴らした。

 

「……エレベーター?」

 

「ああ、そうだ。間違いない」

 

「根拠は?」

 

「広さと場所だ」

 

そう言ってミズキはポケナビを取出し、地図の機能を開く。するとそこには自分たちを表す赤い点と、階層ごとの部屋の配置図が表示されていた。

 

「……マッピングしていたんですのね。まめなこと」

 

「見ろ。B1とB4、明らかにおかしい」

 

無視されたことに少々頬を膨らませるエリカだったが、四画面同時に展開された地図を見比べるとすぐに目つきを鋭くし、なるほど、と小さく言った。

 

「こうして俯瞰で見ないと案外わからないものですわね」

 

「仕方がない。あの動く床のせいで、平面感覚を奪われてしまっていたからな。まさかこんなに広さに差が出ているとは思わなんだ」

 

二人の言うとおり四つの地図を見るとB1とB4にはB2、B3に比べてかなり狭く、先ほどまでの捜索では全く見つける事すらもできなかったデッドスペースが存在していた。

 

「そして、こうだ」

 

さらにミズキは三つの地図をスライドさせ、現在いるB2の地図に重ねると、ちょうどB1、B4のデッドスペースとなっていた箇所が、地図上の赤く点滅する点と重なっていた。

 

「捜索中に気になっていたんだ。このエレベーター、点検中で今は使われてないはずなのに、表面には目立った汚れがない。それに、B2のここにはエレベーターの扉があるのに、他の階層にはそれがみられなかったからな」

 

「……このスペースに、エレベーターでしか入れない場所があるってわけですわね」

 

そう言ってエリカはエレベーターのボタンに触れるが、ボタンは点灯しない。それを見たミズキはエリカのわきにしゃがみこみ、ボタンの下を見つめる。

 

「……鍵穴か」

 

「“エレベーターのかぎ”……まあ、ここの責任者が持っていると考えるのが妥当でしょうか?」

 

ミズキも同意する。

特別な部屋へ行けるエレベーターの鍵を任されている者なのだから、R団員の中でも長らくここで勤務することを想定されている人間であり、そのような鍵を任せても心配ないと判断された人間だろう。という風に考えていけば、おのずと答えは見えてくる。

 

「……だいたい検討はつきましたわね」

 

「ああ。後は作戦だ」

 

「あら? もう思いつきましたの?」

 

「時間は待っちゃくれねえからな。協力してもらうぞ?」

 

「……『協力しろ』って言っていただけた方がわたくしとしては興奮するのですけれど?」

 

「黙ってやれ」

 

「ああん、いけず」

 

やり取りのくだらなさに思わず笑みをこぼしてしまったミズキは、にやつくエリカの視線に気付き、すぐに落ち着く。

 

 

 

(……ばかか、俺は。何和んでやがる)

 

 

 

まるで遊んでいるような感覚さえ覚えてしまったという現実に、ミズキはイラつくばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

ミズキたちがそんな画策をする一方で、R団たちの捜索は激しさを増していた。

 

「B3捜索班。侵入者は?」

 

『はっ! まだ見つかっておりません!』

 

「引き続き探せ!」

 

『了解!』

 

「B2班は?」

 

「いえ、まだ……」

 

「探せ!」

 

「りょ、了解!」

 

苛立つ一人の男は壁に寄りかかり、指を何度も壁に打ち付け音を鳴らしながら指示を飛ばす。お前も探せ、という意見の一つも出そうなものだが、そんな彼の態度に文句を言う人間はいない。むしろこれ以上彼の機嫌を損ねないためにもさっさと見つけようと躍起になるものばかりだった。それは彼がこのアジトにおける最高責任者であり、やすやすと動くわけにはいかない理由があるからだ。

 

 

「……くそっ。これだけ探して、なぜ見つける事すらできない」

 

 

部下たちが三々五々散って行ったあとで、男は一人考える。

捕まえる事が出来ないのはわかる、だが、見つける事が出来ないのはおかしい。本当に侵入者などいるのかどうか、疑いたくすらなってしまう。

 

しかし、警報が鳴っている以上、侵入者は間違いなくいる。

ならば、一体なぜ……

 

 

 

そんな侵入者たちにとっては厄介な思考に陥りかけたその瞬間、事態は動いた。

 

 

 

「……少しいいか」

 

男はふと我に返り、足元に目を落とす。するとそこには、息を切らせた萌えもんが自分のズボンの裾を引いていた。

 

「……ガーディ? なんだ、誰かの萌えもんか?」

 

「我が主が……侵入者を発見した」

 

「何!? 本当か!?」

 

顔をほころばせた男はしゃがみこみガーディに顔を近づけるが、ガーディは浮かない顔をしたままだった。

 

「……どうした?」

 

「我が主たちは、侵入者たちに応戦され、やられてしまった」

 

「なんだと!?」

 

ガーディの発言に男は声を荒らげる。しかし、怒気を孕んだその振る舞いから、襲撃された者たちを心配しているわけではないことが分かった。

 

「クソ、間抜けどもめ!! この騒動が終わったらクビにしてやる……」

 

苛立つ男を、ガーディは冷めた目つきで見つめる。

 

「おいお前、ぐずぐずするな! そいつがいた場所へ案内しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! お前たち!?」

 

そう言いながら倒れる二人のもとに駆け付ける。男の方の体を無理やり起こし、顔をはたいて覚醒させることで情報を聞こうとする。

 

「……す、すみません。我々も応戦したのですが……」

 

「ち、力及ばず……やられてしまいましたわ」

 

そう言いながら倒れる二人と応戦したと思われる片膝をつく萌えもん、モンジャラを見て、男は相手がこうげきを仕掛けてきたということを察し、ボールに手をかけ臨戦態勢を取る。

 

「おい、お前! そいつはどこに消えたんだ!?」

 

怒鳴り声に反応した男は震える腕を無理やり持ち上げ、動く床の近くにおいてある荷物の影を指さした。

 

「あっちに……逃げました……まだ、いる……」

 

 

その声に反応したかのようにその影は動きだし、影から影へと逃げていく。

 

 

「クソっ! 逃がすか!」

 

男はその影を追いかけようと踏み出したその瞬間に、影の主は動く床を踏み、回転しながら視界から消えてゆく。

 

 

「ふっ、かかったな! その床はB2の入口に向かうようになってるんだ!」

 

 

ざまあみろ、と言わんばかりの表情で追いかける男は同じく動く床を踏み、移動している間に連絡を入れる。

 

「『B2より連絡! 侵入者はB2入口へ向かっている! 繰り返す、侵入者はB2入口へ向かっている! B1、B3捜索中の班は、B2へ向かい逃げられないように固めておけ! 繰り返す……」

 

そう言いながら、男は消えて行った。

 

 

 

 

 

 

「……行ったな。フレイド、首尾は?」

 

むくりと起き上がり体の埃を落としながら男、ミズキはフレイドに尋ねる。

 

「当然、上々だ。まさか本当にわっちが“どろぼう”することになるとは、思っていなかったがな」

 

そう言いながらガーディ、フレイドは起き上がったミズキに鍵の束をほおり投げる。その中には先ほど男がミズキに駆け寄った際に、フレイドが“どろぼう”を仕掛けたことによって手に入れた、“エレベーターのかぎ”もあった。

 

「サンキュ……エリカ、さっさと起きろ。時間はねえんだ」

 

「感謝の言葉は?」

 

「……陽動ありがとよ、モンジャラ」

 

「……いえいえ」

 

まあ良しとしましょうか、と言って立ち上がるエリカ。そして親しげに答えるモンジャラに、フレイドは何とも言えない表情で見つめていた。

 

「……“みがわり”、強力なものだな。自分の意志で、あそこまで動かせるものなのか」

 

「あれは植物系萌えもん……というよりエリカのモンジャラ特有の力だ。普通の萌えもんが扱う“みがわり”はHPの一部を利用して出す体力の塊みたいなものだから文字通り身代わり以上の役割はない。だが、エリカのモンジャラはそれに自分の体から伸ばした蔓を混ぜ込み、コントロールすることで一定距離ならコントロールできるようになっているんだ」

 

エレベーターを弄りながら後ろ手に答えるミズキにフレイドは半分感心し、半分はもやもやした感情を覚えていた。その表情をちらりと見たミズキは、まだ割り切れていないという事を察しこちらも申し訳ない気分になる。

せめて触れてやるまい。そう考えていたミズキを、相も変わらず予測のつかない女が予測のつかない行動で邪魔をする。

 

「……意外でしたわね」

 

「……何がだ」

 

「あなたですわ、フレイド君」

 

軽く唇をかむミズキだったが、制止の声を上げる前にエリカが次の言葉を放つ。

 

「てっきりあなたは、このタマムシにいる間は戦えないものだと思っていましたから」

 

「……ふん、貴様には関係の無い話だ。R団」

 

「あら、今わたくしは、ジョーカーに従って動いていますのよ? という事はあなたとわたくしは味方。味方の戦力が気になるのは、至極当然のことですわ」

 

「……」

 

「無駄話はそこまでだ。準備が終わった」

 

そう言いながらミズキは立ち上がりコードが飛び出した配電盤から離れ、下へ向かうボタンを押す……が、変わらず点灯することはない。

 

「本当に準備、終わってますの?」

 

「ああ……どうやら普通の建物の設備の逆で、非常時にはエレベーターの電源が切れるようになっているらしいな。ま、そんなもの、どうとでもなる。なあ、フレイド」

 

「ああ、いつぞやのリベンジと行こうか」

 

そう言って歩き出そうとしたフレイドは一度止まり、振り向かずにエリカへ一言告げる。

 

 

 

 

「わっちは、お前を信用などしていない。そして、主への不信感を、完全に拭い去る事が出来たわけでもない……」

 

 

 

だが、とはさみ、続ける。

 

 

 

「そんなわっちに主は頼んだ。『お前しかいない』と言った。という事はわっちがみていないところで、スーも、シークも、今、この状況を作り出す為に必死に頑張ったという事なのだろう?」

 

 

 

 

そんな奴らの魂のバトンを、わっちが私情でぶった切るわけにはいかない。

 

 

 

 

「それだけだ」

 

 

 

 

そう言い残してフレイドは配電盤の傍へ行き、飛び出していたコードを二本自分の手でつかみ、力を込める。

 

 

 

「フレイド、“ワイルドボルト”!」

 

「うおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

渾身の力を込めたフレイドの電力はエレベーターへと送り込まれ、とうとうボタンを転倒させる。

 

 

 

 

「……さすがはあなたについていける娘、と言ったところでしょうか?」

 

「……どうだかな」

 

 

 

 

エレベーターの扉は、開いた。

 




別にギャグにしたつもりはないのですがなんか書いてて楽しい回でした。

全国三人くらいのフレイドファンのみなさん、お待たせしました。
約一年ぶりのフレイドです。

どうでもいいことですがフレイドのわざを調べなおそうと思い、ヤフーで「フレイド」を検索しようとしてしまいました。
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