罪深き萌えもん世界   作:haruko

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VSノブヒコとVSエリカってわけた方がいいかな?
って思ったのでノブヒコ戦を10話、エリカ戦を11話に変えました。
つまりこれは12話 2になります。
……タイトル気にしてるの俺だけ説。





第12話 2 歯車崩壊

 

 

 

「……下から順番に回る予定だったが、いきなりあたりか」

 

「! お前たち、何をしている! ここは関係者以外立ち入り」

 

「はいはい、邪魔ですわ。モンちゃん、“ねむりごな”」

 

「なっ!? Zzz……」

 

エレベーターが動いたことを不審に思ったのか、ドアの目の前で待機していたその男をエリカが軽くいなすのを横目にミズキは“ちか4かい”に足を踏み入れる。

 

まず耳に聞こえてきたのは機械が起動していることを示す轟音であり、エレベーターの電気が停止していたにもかかわらず動いているという事、そして侵入者がいるという警報が鳴り響いていたにもかかわらずこの男はここに居続けたという点が、ここがアジトにとって重要な部屋であるという事を証明していた。そして辺りを見回すと複数個起動しているにもかかわらず画面がすなあらし状態で停止している小型モニターがあり、正面を向くと様々なシステムが実行中であることを映し出した大型のモニターが置かれている。それを見てミズキはふぅと息を吐き、ほんの少し安心した表情を作る。

 

「……監視カメラはくぐれていたみたいだな。注意を払った甲斐はあった」

 

「モンちゃん、大活躍ですわね。今回の件でR団をクビになったら一緒に泥棒でも始めましょうか?」

 

「まっとうに生きろ馬鹿者」

 

「えへへ……ぶい」

 

フレイドの発言に冗談のように言うモンちゃんことモンジャラだが、実際今回の一件においてエリカを引き入れたことによる一番の誤算はモンジャラの大活躍だった。

 

“ねむりごな”による敵の無力化。

“みがわり”による陽動作戦。

“つるのムチ”による監視カメラの破壊。

 

エリカを引き入れる際のメリットとして考えてはいたものの、まさか隠密行動という分野においてモンジャラがここまで有能とは思っていなかった。

その活躍には素直に感謝するがしかし、ミズキは気を緩めずに一番手近のキーボードをたたき、機能停止していた画面を一つ自分の手でコントロールする。

ほんの少しの間そのまま黙りこくっていたミズキだったが、一つ、ふぅと呼吸をいれた後、三人の方を振り返り言った。

 

「……間違いない。俺がつかっていたコンピュータシステムがここにそのまま流用されている。おそらく、昔のデータも……」

 

「ほら、言った通りでしょう」

 

「ああ……はっきり言って、あんたの発言が全て本当のことだったというのは、いまだに信じられねえがな」

 

「ふふっ」

 

そんな会話をはさみながらミズキはそのまま片手でキーボードをたたき、現在のメインのシステム、防犯システムから独立させてソフト内のデータを探る。

 

「……とりあえず、防火シャッターでも作動させてある程度追っ手の動きを封じておくか」

 

「いいんですの? あなたがここにいることがばれてしまいますけれど?」

 

「エレベーターを使ったことはいずればれる。モンジャラの“みがわり”ももうばれてるだろうしな。だったら大したデメリットにもならない」

 

そう言いながらミズキは会話中も絶えず動かしていた手をいったん止め、最後にエンターキーを押すと同時にまだ生きている監視カメラに逃げ惑うしたっぱたちの映像が映し出される。

 

「これだけこんらんを招けたんなら、とりあえず時間稼ぎとしては上々だろう。さて……」

 

ミズキは監視カメラの映像を画面端に追いやり、画面に新しいウィンドウを開く。そこには夥しい量のデータが保存されたファイルが数十個にわたって映し出されていた。その中からいくつかのファイルをクリックし中身を捜索するミズキだったが、ファイルの中身を一つ、また一つ確認していくにつれて無表情が次第に歪んでいった。

 

 

「……消されてるな。まあ、妥当と言えば妥当だが」

 

 

「あらら、残念。発表すれば幾分かのお金になる結構な研究でしたのに」

 

幾分かのお金、というエリカの発言でフレイドは何時ぞやにミズキが超高額のじてんしゃを簡単に購入していたことを思い出し眉間にしわを寄せる。

 

「……で? そのデータは、簡単に作り直せるものなのか?」

 

「無理だね」

 

フレイドの質問に、ミズキは即答を返す。

 

「あれは俺が半年以上かけて作った、研究データの結晶だ。時間、という点でもそうだが、研究っていうのはその時、その瞬間のひらめきに偶然が重なってようやく成立するものなんだ。日付、室温、気圧……すべてが少しずつずれるだけで、結果はすべて変わってくる。今からデータを作り直すことなんざ、不可能だ」

 

 

「でも、手段はあるんでしょう?」

 

フレイドは次の言葉を発する前に、エリカが言う。

その言葉に、ミズキは笑う。

 

「簡単だ。再構築がダメなら、復旧すればいい」

 

そう言ってミズキはリアライザーから一枚のディスクを取り出す。それはフレイド達もよく目にしていた、わざマシンの形状に近いものだった。

 

「それは?」

 

「お手製のプログラムさ。まあ、内容を簡単に言うのであれば……」

 

言いながらディスクをモニター脇のディスクパックに差し込み、二、三秒待つと、画面に新しい窓が現れ、膨大な量の数字の羅列が現れる。

 

 

 

「内部データを搾り取るプログラムだ」

 

 

 

そしてそのまま待っていると画面が切り替わり、一枚の画像と数十万文字にわたるデータのまとめが現れる。それを見たエリカはほんの少し目を見開き、へぇ、とつぶやく。ガラスの様な塊の中に目を背けてしまいそうなほどに輝かしい力が詰め込まれ、中心がほんのりと発光しきらめいていることが画像からでも見て取れた。

 

「……間違いないですわね。わたくしのミラがロズレイドになった時のしんかのいし、“ひかりのいし”ですわ」

 

エリカのつぶやきに答えるように、ミズキはディスクを取出し掲げた。

 

「パソコンにおける削除っていうのは、データをこの世から消し去るっていう事じゃない。あくまでパソコンの中の容量を開けるために一回見えない場所へデータを追いやってしまっているだけだ。だがコンピュータっていうのは優秀なものでな。自分で削除したデータは『一回削除したデータ』として、ちゃんと覚えているものなんだよ」

 

「……ああ、なるほど。そのディスクは」

 

「そ。『削除したデータ』をコンピュータから搾りだし、復元するソフトっていうわけだ」

 

そしてミズキはコードを引きずりだし、新しく取り出した機材とパソコンをつなぎ始める。コードはマジックテープで装着する頭や手首に巻くバンドに伸びていて、フレイドはみていてあまりいい印象を感じることはなかった。

 

「フレイド、別室に患者搬送車……動くベッドがあるはずだ。持ってきてくれ」

 

そしてそんなミズキの指示から、フレイドが感じたその印象が正しいものであったことを察する。

 

「……何をするつもりだ」

 

「今更なに馬鹿なこといってんだ。最初から言ってただろうが」

 

そう、最初から言っていた。当然、フレイドもわかっていた。

 

分かったうえで、いつの間にか言葉が漏れていた。

 

 

「今からマリムの闇のエネルギーを“しんか”の力に変換する」

 

 

「……一応聞きますけど、それ、どれぐらいの確証があって言ってるんですの?」

 

今度はミズキの計画の全貌を今初めて知ったエリカが、フレイドに代わって質問を投げかける。

 

「……さあ。体内に存在する力を無理やり別のエネルギーに変換、なんて、さすがにやったことないからな」

 

右手でパソコンと機材をつなぎ、片手でキーボードをたたきながら真剣な表情で言う。その姿に改めてフレイドは、主の本気を肌で感じた。

 

 

 

「ただ、推定でものを言うのであれば、成功率は10%もないかもしれないな」

 

 

 

だからこそ、その発言は許せなかった。

 

シークの。

スーの。

マリムの。

皆の必死の想いを背負って、なぜそんな言葉が吐けるのだ。

 

拳を握り、叫びながら一歩を踏み出そうとした瞬間、フレイドの体は空中で回り、冷たい床にたたきつけられた。

体の痛みに悶えながらも違和感に気付いたフレイドは自分の足先を見ると、青みがかった蔓が自分の足に伸びておりその蔓の先にはむくれた顔で自分を制するモンジャラの姿があった。

 

「っ! 貴様!」

 

「……ジョーカー、まだある」

 

静かに言ったモンジャラはその後ミズキの方を見て、でしょ、言わんばかりの表情でミズキの発言を促す。そのやり取りは、二人の、ひいてはミズキとエリカたちの関係性が見えたような気がして、フレイドは怒りなのか悲しみなのかわからない感情を抱えて黙り込んだ。

 

「……ムウマが“しんか”できると考えたこと。それは別に、無根拠じゃない」

 

モンジャラのそれにこたえるように、ミズキは話を始める。

 

「“ひかりのいし”を作るために、いろんな場所を回ってデータを集めたことがあったからな。その時にロズレイド同様にしんかできる可能性のある萌えもんをリストアップし、その萌えもんたちのデータを集めた。その中に、ムウマもいた。まあ、ロズレイドがメインだったから、それ以上深入りをすることはなかったけどな」

 

「ああ。そんなこともありましたわね」

 

声の方向を向くと、エリカがからからとベッドを押しながら、別の部屋から出てきた。何を言われようがやめる気などないという意思表示にすら見える二人の振る舞いが、フレイドの心を一層揺らす。

 

「……だから、可能性はあると言いたいのか」

 

「あくまで10%以下の可能性だけどな」

 

エリカが運んできたベッドに機材を置き、準備完了と言った状態。

それを見て動こうとした瞬間に、足にまかれた蔓が力を増す。

 

「……そんな実験じみたことに、マリムを巻き込む気か」

 

「実験じみた、ね……まあ、否定はしない。研究者がデータと推測に基づいてことを起こすのだから、紛れもなく実験だ」

 

表情を変えずにそんなことを言うことができるミズキに、フレイドはわかりやすく怒りを覚えた。

 

 

 

「……そんな言葉で、わっちに信用しろというのか!?」

 

 

「お前に信じろとはいっていない。これは、お前との契約じゃないんだからな」

 

 

 

フレイドが二の句を告げる前に、ミズキがベッドの上にほおったボールが弾けた。

 

「……よお、久しぶりだな。マリム」

 

「……ええ、久しぶりね……あなた、やつれた? なんか、変よ」

 

マリムのその言葉に、フレイドは思わず息をのみ、ミズキの方を向き直った。

……フレイドにはミズキの何が変わったのか、何もわからなかった。

 

そんなフレイドの驚いた眼を見た後、視線を上げてニヤつくエリカの顔を見て舌打ちをしたミズキは、マリムに向き直る。

 

「……別に。気のせいだろ」

 

「……馬鹿」

 

ミズキの目の前でそう吐き捨てたムウマはそのままゆっくりと降下し、ローブを翻してベッドに腰を下ろす。

 

「……私を外に出してくれたってことは、そう言う事なんでしょ? そのために、頑張ってくれたんでしょ?」

 

「当たり前だ。俺は」

 

契約(やくそく)は、守る男」

 

「そういう事だ」

 

マリムの笑顔に、ミズキは思わず顔をそらした。

 

 

 

 

 

そして、そんな二人のやり取りを見て、

フレイドは一瞬、呆然とする。

 

なぜ? そんな風に思える?

 

フレイドの心の中は、それでいっぱいだった。

 

 

それを見たエリカはため息をつき、モンジャラは静かに“つるのムチ”をしまう。

 

 

「『……自分と一緒になって、罵倒の言葉を浴びせて欲しかったのに』 そんなところでしょうか?」

 

エリカの言葉にフレイドは渾身のにらみを返すが、怒りの感情以上に困惑が自分を支配し、うまく言葉を作れずに押し黙る。

そんなことをしていると、今度はモンジャラが口を開いた。

 

 

 

 

「……あなた、何がしたかった? 結局、何に怒ってた?」

 

 

 

 

それを言われたフレイドは、今度は怒りを一つも覚える事すらできず、ただただその言葉に動揺する。

 

 

 

 

「……わっちが、何に怒っていたか……?」

 

「あの娘の為? でも、あの娘、うれしそうだよ」

 

大量の蔓に埋もれた指先は、泣きながらも確かに笑顔のマリムを指していた。

 

それを見て、フレイドは考える。

 

 

マリムのため? 

違う。怒っていたのは、ミズキの行動。ミズキの振る舞い。

マリムのことをやり玉に挙げてミズキを攻め立ててはいたものの、結局マリムの気持ちなど、考えてはいなかった。

 

 

 

スーの為? シークの為?

違う。ここに来るまでに言った通り、スーたちの努力に報いるためにここに来たのならば、今の自分の行動は矛盾だらけだ。

 

 

 

 

ならば、何のため?

 

 

 

マリムの為でも、スーの為でも、シークの為でも、当然、ミズキの為でもない。

 

 

 

 

ならば、誰のためだ?

 

 

 

 

そこまで考えたところで、答えは出た。

 

気付いて、しまった。

 

 

 

簡単な消去法だ。もう、答えは一つしかない。

 

 

 

 

 

 

全ては、自分の為。

 

 

 

 

 

全ては、自分の気に入らないことを、拒絶していただけ。

 

 

 

 

スーは言った。

 

 

フレイドは、ちゃんと罪と向き合った、と。

 

 

 

 

 

それは、間違ってなどいない。フレイドは、スーと違い、罪から逃げなかった。

 

 

 

 

しかしフレイドは、向き合い方を間違えていたのだ。

 

 

 

 

本当にフレイドが、過去と向き合い、戦う覚悟を持っていたならば、

 

 

やるべきことは、ミズキと争う事ではなかったはずだ。

 

 

 

全てを理解したうえで、ミズキを、許すべきだったはずなのだ。

 

 

 

それは簡単ではなかったかもしれない。

しかし、フレイドはそれが出来るだけのものを、ミズキからもらっていたはずだった。

 

 

 

優しさ。

楽しさ。

喧しさ。

 

そして、強さ。

 

 

 

なのに、いつの間にかそれが見えなくなっていた。

自分にとって最高のトレーナーは、最高であることが当たり前になっていた。

 

 

 

 

ミズキとともにいることで、罪と、過去と、向き合えるようになるのだと、錯覚を起こした。

 

 

 

 

 

そしていざ、向き合うその時が来た瞬間に、挫けた。

 

 

 

 

 

自分の怖いもの、恐れる結果から、逃げた。

 

 

 

 

 

それが、決定的な間違いだった。

 

 

 

 

 

 

「……一人で勝手に空回りするのは、あなたたちの得意わざですか?」

 

 

「うるせえ」

 

 

二人のやり取りにフレイドが我に返ると、ミズキの瞳はまっすぐにこちらを射抜いていた。

一瞬だけ見えた悲しげな瞳は直ぐに影を落とし、鋭い目つきに切り替わる。

 

その瞬間にフレイドは、

ミズキが自分に、実は誰よりもミズキにすがっている自分に、

 

 

弱さを見せまいと頑張ってくれていたことに、ようやく気が付いた。

 

 

そしてそれに気づいた時、マリムの言っていたことが、とたんに見えてきた。

 

 

あれだけ強く見えたミズキが今は、ぼろぼろに見えた。

 

 

「フレイド。俺はお前に言いたいことがあるし、たぶんお前も、俺に言いたいことがあるんだろう?」

 

「……」

 

 

ミズキの問いに、フレイドは答えない。いや、答えられない。

 

言いたいことは、あるはずだ。

言わなければいけないことが、あるはずなのだ。

 

しかし、それが浮かばない。あるのに、言葉にならない。

 

 

 

 

「だから、あとでいい」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

「今は俺を信用しなくてもいい。俺がお前の野望達成の仲間としてそぐわないと思ったなら、その時は俺を殴ればいい。俺の下を去ればいい。俺の、首を奪えばいい」

 

 

 

 

フレイドは、わかった。

 

 

 

自分の一番欲しい言葉をくれる。

 

自分の一番を探し出すための時間をくれる。

 

 

 

 

「だが、今俺が信用できなくても。たとえ俺が、お前の死ぬほど嫌いなR団と同じだとしても。今、この瞬間だけは、契約のために尽力しろ」

 

 

自分は、この人に、

 

優しくも厳しく、美しくも汚い、

 

そんな矛盾だらけの、自分の中の『最高のトレーナー』、ミズキに。

 

 

 

 

 

「『マリムの“しんか”』。そのために、お前がやるべきことをやれ」

 

 

 

 

 

 

甘えていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずれた歯車が、無理やりに動きだす。

その瞬間はいい。ある程度は理想の動きをしてくれる。

 

しかしそれは、不安定で、

致命的な場所で、致命傷を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……サイドン、“つのドリル”だ。ちか4かいを目指せ」

 

 

 

 

 

 

 

崩壊は、近かった。

 

 





一番書きたくて、
一番書きたく無い回が、
近付いてくる……
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