忙しい時に時間がないというよりは、忙しい時には心に余裕がなくて執筆している時間が取れない、みたいな。
というわけで、今心に余裕がないので更新ペースが落ちる気がします。
「……本当に、いいんだな?」
「断ってもいいのかしら? 別の方法で、わたしを強くしてくれるの?」
「……すまん」
「謝らないで。わたし、感謝してる。あなたが、わたしの強さの可能性をくれるっていったこと。わたしのために、頑張ってくれたこと。わたしの力を、奪い取ってくれること」
そう言ってマリムは、優しくミズキの手を両手で包み込む。
「……こんなことを言うのは間違っているが、今でも思う。もっと他に、確実な方法があったんじゃねえかってな」
「そんなことを言うのは間違っているわ。無いから、こんな選択をしたんでしょう。最善と判断したからこそ、こんな選択を」
重々しくいうミズキの声に対し、マリムはわざとらしく飄々とした声で返す。
ミズキは、マリムにすべてを話した。
今からマリムの体を
ここはR団のアジトであるということ。
マリムの力を、“しんか”のエネルギーに変換すること。
成功率は高くないということ。
失敗したら何が起こるか、わからないということ。
それをすべて話したうえで、マリムはすべてを承諾した。
「わたしは、あなたのものだから」
「……お前は、ものじゃない」
「いいのよ。わたし、あなたが手を差し伸べてくれた時に決めてたの。あなたにすべてを預ける、あなたにすべてをかけるってね。ここで壊れても悔いはないわ」
「っ! 下らねえこと言ってんじゃねえ!」
「……なら、壊さないでね」
「っ!」
虚ろげで儚げな瞳を浮かべてそう言い放ったマリムに、ミズキは思わず吸い込まれそうな感覚に陥った。
「ちょっとだけ、昔話の時間をくれる?」
昔話。
その言葉に少しだけドキッとしたが、マリムの弱弱しくもしっかりと此方を射抜くその瞳の力に本気の想いを見たミズキは、軽く頷いた後エリカに視線を送り、それにエリカはわざとらしくやれやれと言った表情を返して部屋の隅へと移動していく。
人払いをしてくれたことを理解したマリムはやんわりと笑い、口を開いた。
「……わたし、戦う事が嫌いだったの。相手を傷つけて、自分が生き残って、その先に何があるんだろうと、ずっと思ってた。だから戦場から逃げてきた」
「……なぜだ?」
マリムの一言目に、早速フレイドが口をはさむ。それはおそらく、かねてからの疑問だったのだろう。矢継ぎ早にマリムへと言葉を投げかける。
「お前の実力があれば、戦い抜くことなど容易だっただろう。“ゆめくい”を嫌っていることは知っている。だが……」
「そこまでだ、フレイド。踏み込み過ぎるな」
聞きたいことが一気に弾けるフレイドに対し、ミズキはそれをすぐなだめる。いくら話してくれていると言っても、言いたくないことはあるだろう。それに自分から踏み入っていくのは契約違反だ、という判断だった。
しかしれいせいにフレイドをなだめる一方で、フレイドと同様の疑問も抱えていた。
“ゆめくい”が罪の象徴と化したのは、シオンタウンの事件があったから。
今戦えなくなってしまったのは、罪につぶされてしまったから。
しかし、マリムは最初から戦うことを嫌っていた、と言った。
つまり、戦いを嫌う理由は、“ゆめくい”ではないという事だ。
「いいのよ。もともと、少し話す予定だったから」
そんなミズキの想いを知ってか、答えるようにマリムは言い、独白を続けた。
「……私が生まれた場所は、戦う事が全てだった。萌えもんは戦力、わざは武力、心は気力。戦い以外は死と同じ。そういう場所だったの。わからないかもしれないけどね……」
「……いや、わかる」
辛い日々を思い出しながら言葉を紡ぐマリムに、フレイドは力を振り縛り一言だけ返す。そんな二人の様子を、ミズキは慰めたい衝動を必死に抑え込みながら見守る。ここで自分が中途半端な言葉を投げかける事こそが、戦う二人に対する最大の侮辱であると理解していた。
「そんな仲間たちを見ているのが、嫌になった。力が全ての世界に、嫌気がさした。戦わないことを笑われる日々が、たまらなく辛かった。だから、逃げた。すべてをめちゃくちゃにして、そこから逃げた」
そこからは、逃げてばかりだった。
わたしの力におびえるもの。
わたしの力を利用するもの。
わたしの力に苦しむもの。
全てから逃げた。
「逃げて逃げて逃げて、そして、出会えた。わたしを、わたしの力を褒めてくれた人。わたしの存在を認めてくれた人」
「……それが、ガラガラ」
ミズキは、優しく温かい心を持った友達の名前を呟く。
「うれしかった。人を傷つけるだけのわたしの力が、素敵だと言ってくれた。臆病なだけのわたしの弱さを、優しさと呼んでくれた。わたしの友達でいてくれた」
いてくれた、のに。
一瞬声が上ずったことに、触れる者はいなかった。
悔しさと辛さをかみ殺して飲みこんだマリムは、さらに続ける。
「結局わたしは、自分の力も、自分の心も、自分自身も愛せなかった。唯一無二の最愛の友達が、好きだと言ってくれたわたし自身を、好きになる事が出来なかった」
好きになれずに、彼女を失ってしまったわたしは、また一人になった。
もう、ずっとひとりなんだと思った。
だから、親友の願いを間違えてしまい、生きなければという使命と、死にたいというねじまがった想いの檻にとらわれ、出られなくなってた。
そこに現れたのが、あなた。
わたしの間違いを、正してくれたのが、あなた。
「……マリム」
「こんな人、もういないと思ってた。わたしの力を必要とするんじゃなくて、こんなわたしを強くしてくれると言ってくれた。弱い私を認めて、強さをくれると言ってくれた」
弱さを否定してくれた、ガラガラとも違う。
弱さを認め、前に進むための勇気をくれた。
罪を、否定してくれた。
「……わたし、初めてよ。誰かのために……いや、誰かのためにじゃなくっても、自分から戦いたいと思ったことなんてなかった。戦うための力が欲しいだなんて、思ったことなかった。わたし、心の底から、あなたの役に立ちたいと思った。あなたがくれる優しさを受けて、あなたを、あなたが抱きしめてくれた自分を好きになりたいと思った」
だから、
わたしは、あなたを信じてる。
わたしは、あなたを信じられるの。
だから……お願いね?
ミズキ。
ミズキが言い返す前にマリムは遠く離れたエリカにウインクをし、それを受けたエリカは軽く笑い、十分に近寄ってから右手を上げる。そして今度は同じく近寄ってきたモンジャラが受け取り、マリムに向かって“ねむりごな”と“しびれごな”の複合わざをかける。意識を無理やり奪う、簡易の麻酔薬だ。
「無駄な時間を喰ったんじゃありませんの?」
「……無駄じゃねえさ」
ベッドの上で眠りについたマリムを見守り、そうつぶやいたミズキは自分で自分の顔を強くはたき、人差し指で軽く自分の瞼をなで、表情を切り替える。
ベッドを引きずりながら大型モニターの目の前に移動したミズキは、まるで壊すかのような勢いでキーボードを素早くたたく。
「……主」
「フレイド。お前は敵が来たら迎撃してくれ」
振り向かず、手も止めず、当然のように命令をするミズキ。しかし、ほんの少し震えているように見えたその姿がフレイドはとてつもなく遠く感じ、ああ、と返すことしかできなかった。
フレイドは、強く拳を握り、エレベーターの戸を見つめた。
「「何としてでも……必ず……」」
二人の決意が、固まった。
「お前ら! 何としてでも必ず見つけ出せ!」
「し、しかし……これだけ探しても見つからないというのは……」
「それに、防火シャッターが作動していて、思うように動く事が出来ません。やはりこれは誤作動ではなく、敵がシステムコントロールルームで操っているのではないかと……」
「うるさい! クビにするぞ! さっさとやれ!」
「「はっ、はい!」」
ミズキたちが消えてから幾度となく行われてきたしたっぱたちとのやり取りに、責任者である例の男は毎度冷や汗を流していた。
(……“エレベーターのかぎ”を奪われたなんて、言えるはずがないっ!)
そう。男はすでに自分たちが捜索できる階層にミズキたちがいないという事は理解していた……が、自分の立場、そしてプライドが邪魔をし、それを口にできずにいた為かれこれすでに数十分無駄な捜索が続いていた。
(どうする……こんな失態が本部に知れたら……私の出世街道が……)
ぶつぶつと一人で呟く男を、さらに追い詰める報告が続々と届く。
『B3捜索班より報告! シャッターの誤作動により、B3からB2への階段がシャットアウト! B3に隔離されました!』
『B1捜索班より報告! 同じく、シャッターの起動により、階段がふさがれ移動困難!』
「くそっ!」
「隊長! やはりエレベーターを使いましょう! このままでは、このアジトは崩壊します!」
「う、うるさい! 私に指図するな!」
「仮にシャッターが作為的なものでなく誤作動だとしても、B4に行けばその原因もはっきりするはずです! 隊長、エレベーターを使いましょう!」
「くっ……」
明らかにしたっぱたちの言い分の方が正しい状況であるため権力を行使したところで彼の言い分にただただ従うものは次第に少なくなっていった。このままでは、自分に反抗して暴れる者がいてもおかしくないほどの状況だった。
(どうする!? どうする!? どうする!?)
苦い顔を作る男に対し、したっぱたちは声を潜め、次第に事情を察し始める。
「隊長? どうしたんですか?」
「何か、問題があったんですか!?」
「隊長……まさか……」
「う、うるさいうるさい! 貴様らしたっぱは、黙って俺に従っていれば」
その時、
したっぱたちの後方で大きな破砕音が響き渡る。
視線を移すとその音が、
崩れ落ちてきた天井が床にたたきつけられた音だとわかり、
その穴から降りてきて着地したサイドンと、
そのサイドンがかついでいる二人の男が、したっぱたちの頭に新たな疑問を産んだ。
「……き、貴様らが侵入者だな!? いったい、何の目的でこのアジトにやってきた!?」
「……」
いち早く硬直から復活した男は怒鳴り声を浴びせるが、男たちは何も答えない。
それを見て男は心の中で、好都合と考えた。
(この男たちが侵入者だったという事にすれば……)
ミズキたちと直接会話をしていたこの男には当然、目の前の彼らが件の侵入者でないという事はすでに分かっていた。が、ミズキたちを見つけたその瞬間に、鍵を盗まれた彼の失態はしたっぱたちに知れ渡る。
(ならばこの男たちを侵入者として捕獲すればしたっぱたちの信頼を取り戻し、奴らのことをなかったことにすれば、私の出世街道は守り通せるっ!)
実際には“エレベーターのかぎ”を紛失していたという事実は時間が経てば明るみに出てしまうのは防がれないことなのだが、追い詰められた男にはそのプランが名案にしか思えなかった。
そして、その段階で考えることをやめた男は、すぐに計画を行動に移す。
「いけっ、ゴルバット! 奴らを捕らえろ!」
そんな思いで放られたボールから出てきたゴルバットは、一直線にサイドンへと向かう。
やれやれ、と言った表情で黒のスーツに黒のハットをかぶった男が指示を出そうとしたところで、もう片方の男がそれを制す。
「……BOSS。ここの不始末はこのわたくしが」
BOSS、と読んだその男とは対称的に白のスーツを着た水色髪の短髪の男は、向かってくるゴルバットに合わせるようにボールを投げる。
「ドガース、“ヘドロこうげき”」
ボールから出てきたドガースはそのままの勢いでゴルバットに“ヘドロこうげき”を放つ。想定よりも早いそのこうげきにゴルバットは何とか直撃を避けようと身をそらすとヘドロはゴルバットの左の翼に当たり、
そのままゴルバットは、地面に落下した。
声を上げようとしたしたっぱたちは落ちたゴルバットをみて、息をのむ。
ゴルバットの翼には、穴が開いていた。
「……ど、どくタイプ萌えもんのゴルバットの翼を、どくわざの“ヘドロこうげき”で……」
「あ、あの人たちって!?」
したっぱの一人が気付き声を上げたのと同時に隊長と呼ばれていた男もそれに気づき、膝から崩れ落ちる。
「あ、あなたは……R団幹部……」
「「アポロ様!」」
本部所属の幹部がなぜここに?
アジト所属の全員がそんな思いに支配されていた最中に、
一人の発言で、さらにそれを上回る衝撃が走る。
「お、おい。今さっき、アポロ様があの人のことを……BOSSって」
誰がその言葉を吐いたか、などという確認を始めるよりも先に、腰を抜かした隊長を覗いた全したっぱが膝をつき、整列する。
「「「「「「ぼ、BOSS! 初めまして!!!」」」」」」
やれやれ、と言った表情でそれを一瞥したスーツの男は、そのまままっすぐへたり込んだままの隊長の正面へ歩いていく。
初対面とはいえ、組織のBOSSから見下ろされることとなったその男は、声にならない悲鳴を上げながら尻を引きずり後ずさることしかできなかった。
「……あ……え……」
「ふ。そうびくつくことはない。別に今のこうげきで君をどうこうしようなどとは思っていない。君たちは私のことを知らなかったのだから」
優しいとも、恐ろしいとも、無関心であるとも取れるような声で、スーツの男は言った。
「君たち。侵入者は、見つかったのか?」
「は、はっ! B1からB4までくまなく探しましたが、発見には至っておりません!」
「これより、エレベーターを使ってB1とB4の特別室に向かう予定です!」
「……なるほど」
怖気づいた男をまたいでしたっぱたちと会話をした後目線をエレベーターへと移し、最後に真下の男を見つめる。
「……責任者は君だな。私を、コンピュータ室へ連れて行ってくれ」
「……あ……う……」
その申し出に耐えきれず男は思わず目線をそらすと、それを見てスーツの男は尻餅をついた男へと右手を伸ばす。
「ひ、ひぃ!!!」
怯えて両手を前に構え目を瞑っていると、胸に一回、そして太ももに二回ほど、軽くたたかれたような印象を受けた。
「……なるほど。鍵は奪われているようだな」
その一言で、顔の血の気が一気に引いていくのを感じた。
「……アポロ。ここの始末はお前に一任する。片づけておいてくれ……私は当初の予定通り、サイドンで下に向かう」
「はっ!」
後ろを向き歩き出したスーツの男は、アポロに指示を出しながら再びサイドンの方に乗る。
「ああ。あと、ここの責任者には、別の者を立てておくように」
降格が決まった男の絶望の声は、“つのドリル”の音に溶けて行った。
そして、そのころ……
「なんだ……これは……?」
ミズキが、呟く。
進まんなあ……