罪深き萌えもん世界   作:haruko

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はいはい、
毎度毎度お待たせしてすみませんでしたー(適当



……マジすみませんでした。


Episode of Green 2/2 つながる

 

 

 

グリーンは、突如マサラへやってきた男が嫌いだった。

 

その男がマサラに居座ることに表立って反対することはなかった。

なぜならその男をマサラに留めることを決定したのは他でもない、彼の祖父、オーキド博士だったからだ。

 

しかし、年の近い子供が来たことで遊び相手が増えたと喜ぶレッドや、最初こそ多少の文句を言っていたもののほどなくして彼の行動や振舞いに惚れ込み恋に落ちたブルーと違い、グリーンはその男のことを長らくよく思っていなかった。

 

 

理由は子どもらしく単純なものであり、

同時に、子供らしく納得のできるものだった。

 

 

 

突然研究所にやってきてきびきびとオーキドの助手をこなし、早々にオーキドからの信頼を勝ち取っていたミズキが、グリーンには面白くなかった。

 

 

 

祖父のことは尊敬していた。しかし、自分という人間に、祖父の名前が付いて回ることは良く思ってはいなかった。『オーキド博士』は大好きなおじいちゃんだが、『オーキド博士の孫』と呼ばれることは少し辛かった。

 

呼ばれること自体が嫌だったわけではない。『さすが、オーキド博士の孫だ』と褒められることは、自分と同時に自分がだいすきなおじいちゃんが褒められているという事がわかり、二重にうれしく感じたりもした。

 

 

しかし同時にグリーンは、子どもながらにその称号の重たさを肌で感じ取っていたのだ。

 

 

だからこそグリーンは、世間にも、そしてオーキドにも、自分の強さを認めてもらいたかった。

いつか自分は若かりし頃の祖父のように萌えもんを連れて、旅をして、萌えもんリーグに

挑戦して、『さすがオーキド博士の孫』と言われたときに、『そうだろう。俺はオーキド博士の孫だから』と自信を持って言えるようになるのが夢だった。

 

 

 

しかし、それを言ったとしても、まだ小さなグリーンをオーキドは子ども扱いするだけだった。

 

 

 

 

オーキドに教えを請おうとしても、『お前にはまだ早い』と制された。

オーキドに手伝いを提案しても、『気を使うな』と諭された。

 

オーキドに夢を語っても、『お前ならきっとできる』と頭をなでられるだけだった。

 

 

 

今思えば、当然のことだった。

 

 

オーキドはきっと自分のことを、大切に思ってくれていたのだ。

 

 

余計なことを覚えて、危険な行動を起こさせないように。

余計なことをして、怪我をさせないように。

 

余計なことを言って、自分を傷つけないために。

 

 

 

しかしグリーンには、その優しさがわからなかった。

 

 

 

優しさがわからなかったがゆえに、その男、ミズキに嫉妬した。

 

 

 

自分とは違い、オーキドから教えを得る事が出来るミズキが、

自分とは違い、オーキドと共に働く事が出来るミズキが、

 

自分とは違い、オーキドと対等な目線で会話ができるミズキが、

 

疎ましかったのだ。

 

 

 

 

何故だ。どうしてだ。

俺は一体、どうすればいいんだ。

 

 

 

グリーンは子どもなりの頭で必死に考えていた。

 

 

 

そして、結論を出した。

それは奇しくも、オーキドが必死に避けた、危険が伴う結論だった。

 

 

 

 

何でもいい。

彼に。ミズキに。

何か、一つ勝とう。

 

 

 

聞くところによると、すでにトレーナーの規定の年齢をクリアしているにもかかわらず、彼は萌えもんを捕まえたことがないらしい。

 

 

 

ならば、今自分が、萌えもんを捕獲できたならば。

トレーナーでもない自分が、萌えもんを捕まえられたのならば。

 

 

 

 

きっとオーキドも、認めてくれるに違いない。

 

 

 

 

そう結論付けたグリーンは、

行くな行くなと何度も注意されていた、

 

萌えもんが出る草むらへと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

気の立ったやせい萌えもんに襲われたのは、それからすぐのことで、

 

最も顔を見たくない、見られたくない人が助けに来てくれたのも、それからすぐのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャラドス。お前はここで待機しておけ」

 

「ええーー!!! ずるいずるい!! アタシだって一緒に遊びたいよー!」

 

「ここはでんき萌えもんの巣窟だ。お前の天敵だらけなんだ。一撃でもわざを受けたなら、お前は戦闘不能になる」

 

「えっ……? グリリン……そんなにもあたしのことを想って……」

 

「勝手に出てきて“ひんし”になられでもしたら帰れなくなっちまうからな」

 

「だっはー!? 冷たーい! でもそんなところも好きだー!」

 

興奮して悶えながら水の中に沈んでいくギャラドスを最後まで見ることもなく、グリーンはジュンジを連れて川岸から軽く整備されただけの道を奥へと歩いていく。その後ろをついていこうとするフシギソウとビリリダマだったが、ほんの数分進んだところで、ビリリダマがうめき声をあげた。

 

「……グリーン。すマンが限界ダ。俺ハ、戦えソウニなイ」

 

「……はつでんしょが近づくにつれて、磁場も強くなってきたのか。わかった、お前も戻って、ギャラドスと一緒に待機しておいてくれ」

 

「……スマないナ」

 

ボールを渡されたビリリダマは、ゆっくりと来た道を引き返していく。

 

「ビリリダマがあそこまで苦しむほどの磁場って……中にいるでんき萌えもんたちは大丈夫なんでしょうか?」

 

「多かれ少なかれ影響は出ているかもしれないな」

 

グリーンの言葉に、ジュンジはわかりやすく肩を落とす。

グリーンはそんなジュンジの頭を軽くたたき、正面に指をさす。指の先に目線を移すと、大きな薄い色の建物が見えてきた。

 

「へこんでいても仕方がない。行くぞ」

 

「っはい!」

 

二人はその建物、“むじんはつでんしょ”へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

中に入り真っ先にグリーンが思ったことは、うるさいだった。

 

中では様々な機材がフルに稼働しており、電気を作り送る装置や、機材の熱で上がった温度を冷やすためのクーラーが大きな音をたてている。軽く顔をしかめながらもその大量の機材で作られた道らしき道を進んでいくと、少しずつではあるが徐々に萌えもんが顔を覗かせてきた。

 

「あれは……」

 

グリーンがバックから萌えもん図鑑を取出し、それを物陰からこちらを覗いている萌えもんに向ける。

 

「ラッタ。この近所に生息していた奴が紛れ込んできたのか? レベルも高い。ここに住み着いているやせい萌えもんは全員これぐらいのレベルだと思った方がいいな」

 

「でも、でんきタイプの萌えもんは、あんまり姿を見せませんね」

 

「……そうだな。何か理由が」

 

 

言いかけたその時だった。

 

 

「う、うわああ!」

 

 

グリーンのすぐ後ろをついてきていたジュンジが、大きく叫んだ。

 

 

振り向き状況を理解したグリーンは、すぐさま正面にボールを投げる。

 

 

ジュンジのちょうど目の前でボールが弾け、ジュンジに向かっていたやせい萌えもんのこうげきは、ボールから出てきたその萌えもんが代わりに受ける。大きな爆発を伴ったそのこうげきを好機と見たのか、やせい萌えもんは煙が晴れる前に“こうそくいどう”を使い、一気にこちらとの距離を詰めにかかる。

 

「ちぃ、“じならし”!」

 

いまだ見えていないグリーンが指示を出したその瞬間に、萌えもんは身軽なその体で大きくジャンプし、顔面に“アイアンテール”を利用した“たたきつける”を決める。

 

完全に決まったとにやりと笑うが、自慢のしっぽを握られる感覚が来た瞬間に顔は一気に歪んだ。

 

 

 

「捕まえたぜ。ニドクイン! そのまま“のしかかり”で押さえつけろ!」

 

 

 

掴んだしっぽをそのまま振り回し、地面に打ち付けた後全体重をかけて押さえつけることにより、事態は収束した。

 

 

 

 

 

 

「……ずいぶん荒れてるな。このピカチュウ」

 

ボールの中でガタガタと震えるピカチュウを見つめながら、グリーンが呟く。

 

「やはり、この施設がおかしくなっているのでしょうか?」

 

「戦った本人に聞いてみよう。ニドクイン、どう思った?」

 

「ひかえめに言っても異常ね」

 

そう言ってニドクインは、右手を挙げて左手で右の二の腕を指さす。そこには、明らかなやけどの跡があった。

 

「……じめんタイプのニドクインを、“やけど”じょうたいにするほどの“でんきショック”だったってことか?」

 

「ええ、あきらかにピカチュウのちいさなほお袋に蓄えられるようなでんげきの量じゃなかったわ。恐ろしい威力だったもの」

 

 

ありがとう、と礼を言い、“チーゴのみ”を持たせてボールにしまってから、グリーンは再度考える。

 

「……やっぱり、このはつでんしょがおかしいんですよね?」

 

「そうだろうな。ビリリダマがおかしくなるほどの磁場は、はつでんしょの機械がおかしくなってしまったせいでできたものなんだろう。中にいるでんき萌えもんたちは外の萌えもんたちよりもここで受ける影響も大きい。おそらく、でんき萌えもんたちはこんな場所にいるせいで、でんきをため込み過ぎてしまっているんだ」

 

「だからピカチュウは、あんなにつよいでんげきが打てたんですね」

 

「ああ。それにピカチュウの気が立っているのもそのせいだろうな。速くしないと、もっと問題が大きくなっていくぞ」

 

グリーンたちが気を取り直して進もうとしたその時、後ろでどさりと音を立て、ジュンジが尻餅をついていた。

ピカチュウに思いきり“わざ”を向けられたことが怖かったのだろう。

トレーナーにとってはわざが近くに飛んでくることなんてざらにあるし、バトルの最中流れ弾が飛んでくることだって少なくないが、十歳にも満たない、萌えもんバトルに慣れないジュンジにはまだまだ刺激が強かった。

 

 

 

「帰るか?」

 

 

 

しかし、グリーンは優しい言葉を投げかけるようなことはしない。

ここで彼を甘やかしても何にもならないということを、グリーンは感覚で理解していた。

 

 

「……帰らない!」

 

 

そしてジュンジはそんなグリーンの冷たい言葉に、

弱弱しい態度で、強い口調で返した。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……迷路の終わりになるんでしょうか?」

 

「なんだ……この荒れ方は?」

 

「ひどい……」

 

長い迷路がようやく終わりを迎えた時に、三人が思わず口から洩らしたのはそんな呆けた言葉だった。

あきらかに先ほどまでの空間とは一線を画す、大きな戦闘の後であろうすすけた床と、その中心に火花を散らしながら大きくへこみ廃棄寸前の大型機械が鎮座している空間に、三人は思わず顔をしかめる。でんき萌えもんのこうげきによるものであろう焼け焦げたにおいと、何とも言えないにおいが混ざり合い、戦闘の後を強く感じさせた。

 

グリーンは床を人差し指で軽くこすり、あたりを見回しながら言う。

 

「これが、例の萌えもんセンターに送電する、要の機械だと思って間違いないだろう。床はまだほんのり温かい。萌えもんセンターの停電が発生したのは数十分前。誰かがついさっきここで戦闘して、この機械を壊したんだ。たぶん、磁場が狂いだしているのも、壊れたこいつが、無理やり稼働しようとしているせいだと思う」

 

「でも……誰もいませんね?」

 

フシギソウの呟きにグリーンは無言で同意する。

管理しているはずの萌えもんはおろか、破壊した原因となるような人も、萌えもんもいない、ぼろぼろになった機械だけが残されたその空間は、彼らにより一層の不気味さを与えた。

 

「ひとまず、ここの管理萌えもんと、コイルの居場所を探しに行こう。まだこの近くにいるとは限らないが、いないと断定もできない。気を引き締めて」

 

「ぐ、グリーン兄ちゃん……」

 

そう呟くグリーンの裾を軽く引くジュンジは、顔をひきつらせながら正面を指さしていた。

 

「……? どうした。ジュンジ?」

 

「あ……あれって……」

 

 

 

 

ジュンジが指差したその方向に目線を移すとそこには、

 

 

光り輝く電球の様な丸い物体が先についた、長い棒状のものが機械の影からのぞかせていた。

一瞬のこんらんを経て、それが萌えもんのしっぽであるという事を理解した。

 

 

 

 

 

 

「っ!!!!! まさかあれが、管理萌えもんか!?」

 

 

 

 

 

 

駆け寄ったグリーンは萌えもんの体をそっと起こし、ほんの少し揺らした後で意識の確認をする。起きる気配はなかったものの命に支障のある容体でなかったことにひとまず安心するが、こけた頬に嫌な汗がたっぷり出た額が満身創痍であるという事を証明していた。

 

「……萌えもん図鑑には載っていない。でも、ミズキさんの手伝いをしていた時にデータとしてはみたことがある。こいつは、デンリュウ。ジョウト地方のでんき萌えもんだ」

 

「……ジョウト?」

 

「カントー地方とは別の場所の萌えもん、つまり人の手で、余所から連れてこられた萌えもんだとわかればいい。間違いない、こいつが例の管理萌えもんだ」

 

 

“きずぐすり”を使って手当てを施し、何があったのかを聞こうとしたその瞬間、さらに事態が動き出す。

 

 

 

 

 

グリーンの次の行動を遮ったのは、

 

どがぁん!

 

という爆発音だった。

 

 

 

 

 

 

「っ! どこだ!? 今の音は、どこで!?」

 

「グリーン兄ちゃん!」

 

ジュンジが指を刺したその方向を向くと、機械でできた通路の奥から異臭を伴う煙が流れてくる。そこは先ほどフシギソウが指差していた、出口につながる最後のつうろだった。

 

「うっ……く、くっさ!!! なにこれぇ!?」

 

穴をつまみながら涙目で叫ぶジュンジに対し、グリーンは口を覆いながら冷静に分析する。

 

「……この臭いは、この空間に残っていた臭いと同じ……おい、フシギソウ。これはまさか……」

 

 

 

 

「間違いありません。どく(・・)タイプ萌えもん特有の激臭です!」

 

 

 

 

「っ! ど、どくタイプ!?」

 

 

 

 

まさかの回答にジュンジは一人狼狽える。それを見たグリーンは、苦い顔のままでしかし、静かな声でジュンジへ行った。

 

 

「……喜べよ、ジュンジ。お前の願望は、大当たりかもしれないぜ?」

 

 

それが手放しで喜ぶことができない状況であるという事は、流石のジュンジでも理解していた。

腕の震えを隠すかのように両の二の腕を思い切り握りこむ拳を、グリーンがそっと引きはがし、自分の手で優しく包み込んだ。

 

 

「行くぞ、ジュンジ! フシギソウ!」

 

「はい!」

 

「っ! うん!」

 

 

 

 

 

 

 

角を曲がった瞬間に飛び込んできたその景色に、グリーンは言葉を奪われた。

 

 

 

こうげきの跡が残り毒にまみれたその空間の惨状に、ではない。

 

確かに数分前の状況を上回るほどの、足を踏み入れることにさえ躊躇するひどい有様ではあったものの、ここに来るまでの様々な異常と先ほどの爆発音を考えればこのような状況になっているという事は想像に難くなかった。

 

 

正面で仁王立ちしながらこちらに嫌らしい笑みを浮かべるベトベトンに、でもない。

 

“むじんはつでんしょ”で出て来る可能性のある萌えもんで、なおかつ、あのような“あくしゅう”を飛ばしてくる萌えもんは誰かと考えればベトベトンがいるのではないかという事は想像に難くなかった。

 

 

 

驚かされたのは、その正面。

 

 

 

 

ベトベトンに相対し、ぼろぼろの体で立ち向かう、レアコイルの姿だった。

 

 

 

 

グリーンがフリーズから立ち直る前に、事態は新たに動き出した。

 

三匹のコイルが軽く分離し、それぞれが“じしゃく”をベトベトンに向けて“ラスターカノン”を放つ。しかし、それを見るや否やベトベトンは、“ヘドロばくだん”を発射し、わざを合わせて爆発を起こす。

“ヘドロばくだん”による爆風に思わず目を閉じると、再び前を見た時にはベトベトンの姿は消えてしまっていた。

どこへ、という言葉を吐く前に、レアコイルの真下の床から飛び出した拳が、大きく燃え盛りながら伸びあがり、レアコイルへと直撃する。

 

「っ! “とける”に、“ほのおのパンチ”!」

 

「なんて……戦い慣れたベトベトン……」

 

グリーンとフシギソウがそんな感心交じりの感想を述べている中で、ジュンジはわなわなの肩を震わせながら、その状況を見続けていた。

 

「……ジュンジ?」

 

 

そのグリーンの声とほぼ同時に、さらに鈍い音が響く。

 

 

目線を戻すと、さらに一発、レアコイルが“ほのおのパンチ”を食らい、地面にゆらゆらと倒れこんでしまっていた。

 

 

 

「っ!!!! コイル!!!!?」

 

 

 

それを見たジュンジはグリーンが反応するよりも早く、渦中の場所へ駆けだしていた。

 

 

 

しかし、近付いてくるジュンジを見てにやりと笑ったベトベトンが、今度はジュンジに腕を向ける。

 

 

 

「!? ジュンジ、危ない!」

 

 

「っ!!!?」

 

 

 

レアコイルに向けたものと同様、流動的な体を利用した、伸びる拳。

 

それが自分に向いているという事実。

 

 

 

 

 

 

「う、うわああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ジュンジは、体が固まってしまう。

しかし、いつまでたっても痛みは襲ってこない。

 

 

 

 

 

音がしない理由は、恐る恐る目を開けてからようやく気付いた。

 

 

 

 

皆が声を出さなかったのは、その光景に絶句していたからだった。

 

 

 

 

レアコイルが、ジュンジの盾になり、

“ほのおのパンチ”を受けたという、その光景に。

 

 

 

 

「お前……やっぱり……」

 

 

 

「っ! フシギソウ! “はっぱカッター”!!」

 

「っはあ!!」

 

突然の横からの“はっぱカッター”に大きくのけぞって躱したベトベトンはずるずると後ずさりして、フシギソウと相対する。そのままフシギソウに向けた拳が“パンチ”わざの準備を終えているところから、そのまま再びジュンジとレアコイルにこうげきするつもりだったことが分かった。

 

「再会の邪魔なんかするんじゃねえよ。フシギソウ、“つるのムチ”!」

 

ベトベトンに牽制のこうげきをいれ、ベトベトンをさらに遠ざける。横目でジュンジの場所を確認しながら、ジュンジを守るようにフシギソウを相対させる。

 

 

 

ジュンジは、倒れ落ちるレアコイルを腕で抱え込み、涙ながらに叫ぶ。

 

 

「コイル! お前は、コイルだよな!? お前は、僕の……」

 

 

 

 

 

「ビビ…………トモダチ……」

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

何かが崩壊したかのように、ジュンジは涙を流した。

 

「コイルっ! コイルっ! コイルっ!」

 

泣きわめきながら、何度も何度も名前を呼んだ。

 

 

なぜ、コイルはここにいるのか?

 

なぜ、ベトベトンと戦っているのか?

 

 

 

 

なぜ、自分を守ってくれたのか?

 

 

 

 

それらはすべて、ジュンジの頭の中には存在しなかった。

 

 

 

あるのは、

 

 

ケンカしたこと。

 

逃げたこと。

 

謝らなかった事。

 

 

 

 

グリーンに言われて、後悔したこと。

 

 

 

 

 

「…………ごめんよ、コイル!」

 

 

 

 

 

謝りたい。

その想い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……貴様、邪魔だ。なぜレアコイルをかばう?」

 

「……何?」

 

「俺はあのレアコイルが、俺の仕事の邪魔をしたからつぶしただけ。お前らは別にどうでもいい。さっさとどけ、そして消えろ。そうすれば俺は何もしない」

 

「……」

 

ベトベトンの言葉に、グリーンはほんの少し黙り込む。

それを見たベトベトンは続ける。

 

「立ちふさがる理由がないなら失せろ。貴様のようなガキと、萌えもん一匹、何の障害にもなりはしない。邪魔立てするなら、容赦はしない」

 

拳を構えるベトベトン。最終警告、という名の威嚇だった。

 

 

 

 

その言葉に、グリーンはふわりとした笑いをこぼす。

 

 

 

 

 

「……立ちふさがる、理由ね。俺にはないよ。でも、俺以外に、理由がありそうなやつはいるね」

 

「……何?」

 

 

 

 

「試してみるか? 俺たちみたいなガキ二人と、萌えもん二匹が、何の障害にもならないかを」

 

 

 

 

「コイルを傷つけたお前を……僕は許さない!」

 

 

 

 

怒りの表情を向ける、ジュンジと“レアコイル”。

何かを決め撃ったような強い目を向ける、グリーン。

 

 

 

 

ベトベトンは、嫌な気配を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュンジ、突っ込め」

 

 

グリーンがジュンジに呟いた。

 

 

レアコイルにやみくもに指示を送り、必死に戦っていたジュンジの顔は、一気に青ざめる。

 

 

 

 

「つ、突っ込めって?」

 

「そのまんまだ。レアコイルに、正面突破する指示をかけろ」

 

「っそ、そんな!? レアコイルはもうぼろぼろで……それに、グリーン兄ちゃんとフシギソウが戦った方が……」

 

 

 

 

「なら、お前が『許さない』と言ったあれは嘘か? お前は挑むだけ挑んで、あとは俺に任せるだけか? さっきの言葉は、俺に任せるだけのつもりで言った言葉だったのか?」

 

 

 

 

「っ!!!! そ、それは……」

 

 

 

「違うはずだ。お前はさっきの言葉を、本気で言ったはずだ。レアコイルのために、絶対に倒すと心の底から叫んだはずだ」

 

 

言葉が切れたその瞬間、“ヘドロばくだん”がそばに着弾し、爆発を生む。

 

爆風に煽られ体勢を崩したジュンジは、その痛みに思わず腕を抑えた。

 

 

しかし、ジュンジはその痛みに怯むことはなく、むしろ目線はより強く前を向いていた。

 

彼の目の先には、彼の前で必死に戦う、ぼろぼろのともだちの姿があった。

 

 

 

(……レアコイル。お前、こんなわざを何回も受けて……それでも、俺を守ってくれてたのか……)

 

 

 

 

「はっきり言ってあのベトベトンは強い。俺や俺の萌えもんよりも、圧倒的に実力(レベル)が高い。このままずっと粘られたら、いつかこっちが押し負ける」

 

「で……でも……」

 

「大丈夫だ、策はある」

 

そう言ってグリーンは腰から一つボールを取り、ジュンジに見せる。

 

「こいつを出せば一気に形勢を逆転できる。だが、それも相手に見切られている。さっきから怒涛のこうげきで、新しく萌えもんを出せる暇がない。だからお前が時間を稼いでくれ。そうすれば、俺とこいつが決めてみせる」

 

 

さらに一撃、はじき返された“はっぱカッター”が二人の傍に突き刺さる。

身をかわしたグリーンの呼吸は、すでにかなり乱れている。グリーンも精一杯であるという事が、ジュンジにもわかった。

 

 

「ちょっと気をそらすだけでいい。たのむ、ジュンジ」

 

 

 

 

 

 

「……でも、もし失敗したら……レアコイルが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

グリーン(ジュンジ)

 

 

 

 

 

『自分の力を、信じろ』

 

 

『ここまでお前が振り絞ってきた、勇気を信じるんだ』

 

 

 

 

 

「……僕の、勇気」

 

 

 

 

 

『お前が持っている心の力。それは他の誰でもない、お前だけの力だ』

 

 

 

 

 

「これが、僕の力……」

 

 

 

 

 

「ベトベトンを倒したいんだろう? コイルを、助けたくてここまで来たんだろう? それは、お前が自分の力で起こした行動なんだ」

 

 

 

 

 

『それは、お前が起こした力。それこそが、お前の勇気だ』

 

 

 

 

 

「……勇気」

 

 

 

『おそれるな』

 

 

 

 

『自分を信じろ』

 

 

 

 

『お前には、それを振り絞る力がある』

 

 

 

 

 

 

 

「っ! レアコイル! つっこめえ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にジュンジは両親にたっぷりと説教を受けた後で、

その時のことをまるで映画から帰ってきた少年のように、

滔々と、楽しげに語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は、叫んだ。

 

レアコイルは、飛び込んだ。

 

 

それを狙い澄ましたかのように、ベトベトンは笑い、こうげきを仕掛けた。

 

 

初撃は、必死に回避した。

二撃目は、必死に迎撃した。

 

 

しかし、それをあざ笑うかのように、ベトベトンはレアコイルに三撃目を向けた。

 

躱せない。

弾けもしない。

 

それはジュンジにもよく分かった。

 

 

 

 

 

 

自分は何もできないのか。

 

そんな思いからくる、悔しさも当然あった。

 

 

 

 

 

しかし、それ以上に怖かった。

 

自分のせいで、再びレアコイルが傷つくことが。

自分のせいで、このベトベトンに敗北することが。

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

ただそれだけを、強く思った。

 

 

 

 

 

それを、思った瞬間に、

 

 

頭の中を、言葉が駆け抜け、

 

 

 

 

口が、動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レアコイル!」

 

 

 

 

 

それ以上、何も言えなかった。

 

 

とっさのことで、戦術はおろか、励ましの言葉をかける事さえもままならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、レアコイルは、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

想いは、勇気で、

 

 

勇気は、力で、

 

 

その力が、萌えもんへと伝わっていく。

 

 

 

 

 

 

ジュンジは体で、心で理解する。

 

 

 

 

今、レアコイルが、まばゆい光に包まれているのは、

 

 

 

 

 

自分の想いに、レアコイルが、

 

 

 

 

 

答えてくれた、形なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

新しい姿で、敵の一撃を受け止めた“ともだち”は、渾身のでんげきをベトベトンへ叩き込み、

 

 

 

 

 

それと同時に、一組の男と萌えもんが駆け出した。

 

 

 

 

 

『ありがとう、グリーン(ジュンジ)

 

 

 

 

 

そう言ってとどめの一撃を放つ、グリーンとニドクインの姿が、

 

 

 

 

 

ジュンジは、とても誇らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺、ミズキさん(グリーン兄ちゃん)みたいなかっこいいトレーナーになる!』

 

 

別れ際にそんなことを言って帰って行った少年を思い出し、グリーンはふっと笑い、それを隠すように上を向く。

 

「あら? なんかいい顔してるじゃないのさ」

 

しかし上から自分を覗き込む二ドクインが、そんな表情を察して声をかける。グリーンは少し苦い顔で、ニドクインへ返す。

 

「お前を捕まえた時のことを思い出してたんだよ」

 

それを聞くと今度はニドクインが苦い顔を作り、グリーンへ嫌味を返す。

 

「……あの時のことは謝らないよ。あんたがアタシのニドリーノ()をこうげきしなきゃ、アタシがあんたをこうげきすることはなかったんだからね」

 

「ああ、わかってるよ。むしろ、お前には感謝してる」

 

 

あの一件がなければ自分があの人をミズキさんと慕うことも、お爺ちゃんが自分をどれだけ大切に思ってくれているかを知ることも、自分を知るという事の大切さも、何もわからないままだったかもしれない。

 

 

「お前と出会ったおかげで、俺はミズキさんの助手にもなる事が出来た。そりゃあ大変な思いはしたが、お前に文句なんて一つもないさ」

 

 

「……フンッ。あんなイカレ野郎の良さなんか、アタシにゃわかんないけどね。苛立っている萌えもん(アタシ)に子供を突っ込ませるなんて神経してるやつ、どこ探したっていやしないよ。怪我でもしたらどうするってんだい!」

 

「どうどう」

 

 

二ドクインを宥めながら、グリーンは当時のことを思い出す。

 

 

 

 

 

ニドリーナに襲われている自分を、助けに来てくれたミズキ。

 

グリーンに、気を引いてくれ、と指示するミズキ。

 

その隙にボールを投げ、ニドリーナを捕獲したミズキ。

 

 

そのボールを自分に渡した後、

 

「よく頑張ったな」

 

と、笑顔で褒めてくれたミズキ。

 

 

 

 

 

奇しくも、今日の自分が、あの時のミズキと同じようなことをしていたという事が、恥ずかしくもあり、うれしくもあった。

 

「……しかし、それを俺に攻撃しようとしていたお前が言うかね?」

 

「……フンッ!」

 

 

恥ずかしくなったか今度は二ドクインが顔をそらしたのを見て、グリーンは笑う。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、あなたみたいに、出来たでしょうか?

 

あなたのくれた勇気を、あなたみたいに、つなぐ事が出来たでしょうか?

 

 

 

 

 

俺は、あなたみたいに、なれたでしょうか?

 

 

 

 

 

 

あの日に、

 

 

 

俺があなたについていこうと決めたあの日に、

 

 

 

あなたを信じるこの心を、永久不変の想いにすると決めたあの日に、

 

 

 

 

 

俺があこがれたあなたに、

 

 

 

 

 

 

 

なれたでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ああ、拙者だ。電力を奪うという事だったが、少し難航している。謎のやせい萌えもんの妨害を受けるや、謎のトレーナーにベトベトンがやられるはで散々でな。

 

……何? もういい? 貴様が行けと指示をしたのだろう?

 

セキチクへ? 拙者のジムで待機だと? 貴様、いったい何を……。

 

 

 

……おい、貴様。まさか、昔馴染みだからと言って、手を抜くわけではあるまいな?

 

仮にも貴様と拙者は、ともにバトルの腕を研鑽した仲なのだ。バトルに手を抜くことなど許さんぞ!

 

……まあ、いいだろう。拙者はセキチクにて、拙者の計画を練る。

 

 

 

 

だが、R団たる者、敵は全力で潰せ。

 

 

 

 

 

それが、我等がBOSSへの、礼儀だ。

 

 

 

 

そうだろう、エリカ。

 

 

 

 

 

 

 




キクコは出さないとは言ったけど、それ以外を出さないとは言ってない。



まあ難産ではあったけれども個人的には85点ぐらいの出来。
グリーンがどんなキャラか、を書くための番外編だったのでまあ目標達成かなと。


マリムはいったん置いといて本編行こうか本気で悩んでます
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