という事は、ここ一年で四話しか進んでないってことですね……
しかも本話も少し短いです。申し訳ありません。
とはいえ、少しずつではありますが余裕が出てきたこともあるので、ここからはちょっとずつちょっとずつでも進めていきたいと思います。
これからもなにとぞよろしくお願いします。
「マスター。お聞きしたいことがあります」
“じてんしゃ”の後ろに乗るスーの、体にしがみ付く力が少し強くなる。
「……はあ。何だ?」
ため息交じりのミズキの反応は、何を聞こうとしているのか、すでに理解しているようなものだった。
少し顔をゆがめるミズキに気遣う事もなく、スーが続ける。
「……私はいつも、マスターを信頼しています」
「……ああ」
「マスターのすることは、全て正しいと、信じています」
「そんなことはない。俺だって、間違いを犯せば、失敗だってする」
「……はい、今回、それを痛感しました」
「スー。あんた、そんな言い方」
「マリム。いい」
上から“ふゆう”しながらついてきていたマリムが口をはさむが、それを本人に制され黙り込む。
「俺のことは気にするな。スー、続けろ」
「……マスターを責めたいわけじゃないんです。もしマスターがいなければ、私たちは何もできなかった。私たちの力が足りなかったせいで、辛い結果を生んでしまった。それは、わかっています」
「……そうだ。俺たちは、力不足だった」
「だからこそ、お聞きしたいんです。これまでマスターを信じすぎたせいで、聞いたこともなかったこと、聞く気もなかったこと、自分が聞いてもどうしようもないと……諦めていたことを」
本当は、聞きたくもないことを。
と、付け足したいのを必死に抑え込んだことが分かった。
「……言ってみろ」
「今回、マスターが失敗したことは、何だったんですか?」
「……」
「R団に勝てなかった事や、フレイドさんがいなくなってしまったことも、マスターの予定通りだったんですか?」
「……違う」
「なら、なんで……何が……どうして」
ミズキを抱きしめるスーの力が、痛みを生じさせるほどに強くなる。
涙をこらえている。聞きたくもないことを聞いていること、ミズキが答えたくもないことを聞いていることを理解している証拠だ。
だからこそ、ミズキも、マリムも、それに気づかないふりをした。
スーは、頑張った。
泣かない。
強くなる。
新たな誓いを、守るため。
目を背けたくなるような想いに向き合い、
恐れながらも前へと足を踏み出した。
薄っぺらい、きれいな仮面に隠され、見えないように覆っていた関係。
それを、引き裂くために。
もう二度と、あんな辛いことが起こらなくなるように。
そんなスーの心を、二人は痛いほどに理解していた。
だからミズキも、震える唇を抑え込み、漏らすように答えた。
「……俺は、弱い」
「っ! マスター! わたしは、そんなことを!」
「聞け、スー」
静かに制したミズキは続ける。
「俺は、己をよく、『弱さの塊』と称している」
「……」
その言葉を聞いたスーは以前、ゼニから同じ言葉を聞いたことを思い出した。
「はっきり言って、俺の力や頭脳、とっさの判断力や行動力とそれを可能にしている俺の神経は、普通の人間とは一線を画すものだ。それに加えて、『ねむればどんな怪我でも治る体』に、『相手を問答無用で無力化できる闇のわざ』。どれか一つでももってりゃあ、使い方次第じゃ薔薇色の人生歩めるだろう優れものだ」
右手を挙げ、笑いを誘うように話したミズキ。しかし、話の流れを読めてしまった二人には、顔をゆがめる事しかできなかった。
理由は簡単だ。
それらは決して、これまでの旅で、触れられることの無かったこと。すなわち……
「……本来は、どいつもこいつも、罪の象徴でしかないんだけどな」
その言葉に、スーとマリムは同時に息を飲んだ。
罪の象徴。
つまりそれは、ミズキの過去。
「……マスター」
思わず謝ろうとしたスーの言葉を遮るように、ミズキは続ける。
「だが、俺はそんな力をもってしても、己のことを、脆弱な、『弱さの塊』だという」
それは謙遜でも、自嘲でもない。
淡々と告げられるそれは、彼の優れた頭脳と揺らがぬ判断によって導き出された純然たる事実だ。
「だが俺は、それを弱点だと思ったことなどなかった……いや、むしろ、それまでにあげたいくつもの
弱いものには、弱さが見える。
弱さを、強さに変えられる。
弱い自分に抗うように、
強い自分を作り出す。
自分が思う弱い選択。それを避ける強い選択。
仲間に見える弱さの欠片を、砕いて壊し、前を向かせる。
それが出来ることが、俺の強さ。
ずっとそう思ってきた。
「昨日までな」
キキッ、という快音と共にじてんしゃは制止し、同時にミズキの言葉も切れる。
ミズキは自分の両手を見つめ、黙り込む。軽く握りこむ拳は震えていた。
「……マスター?」
「俺の失敗は……信じられなかった事。お前らが俺を信じるように、俺がお前らを信じる事が出来なかった事」
お前らの、強さが見えなかった事。
「弱さは見える。弱さを、強さに変えられる。だが俺には、シークの、フレイドの、お前らの強さが見えていなかった。そして、強さが弱さに切り替わるその瞬間に、俺は、寄り添う事が出来なかった。それが、俺の失敗だ」
俯くミズキ。そして、そんなミズキに強く、強くしがみ付くスー。
それを横目にマリムは一人、思い出していた。
それは、ミズキが、ぼろぼろの体で向かってくる、フレイドに放った言葉。
『お前の思うように、想うがままに動け。すべてに答え、全てを受け止めてやる』
全てを、受け止めてやる。
あの言葉は、優しい言葉だった。
苦しみ、震えるフレイドを、優しく受け入れるような言葉だと思った。
しかしその一方で、今はこう思う。
あれは、強いフレイドに対する言葉だったのだ。
フレイドの弱さを超える、フレイドの強さへの言葉だったのだ。と。
(……立ち向かう強さはあった。でも、立ち向かい、戦った後に残る弱さまでは見えなかった。そういう事ね)
戦う強さ。そして、戦う事しかできない弱さ。
マリムには、どちらも心当たりがあった。
そんなことを考え、最後に思い出したのは、
フレイドの去り際の亡霊の様な空虚な顔だった。
じてんしゃは、風を切り駆け抜けていく。
カラカラと立てる音は、もの悲しかった。
頭が、冴える。
ぼろぼろの体を引きずりながら歩くフレイドは、そう感じた。
……いや、冴えているわけではない。痛みや辛さから逃げようという思いが脳に伝わり、現実逃避を成功させているだけだった。
回復を施していないゆえにわざの効果が持続し、真白になってしまった毛並みを染め上げる大量の血液がそれを証明している。
しかし、彼は止まらない。
倒れこんで終わりにしたいと叫ぶ体に鞭を討ち、一人、満足に舗装もされてないような草原の上を歩き回る。
目的地も、目標も、野望も見えなくなった今の彼にできる事。
とにかく、遠くへ。
一歩でも、遠くへ。
その虚ろな瞳、ふらつく足どりは、己の死に場所を捜し、さまよっているかのようだった。
冴えた頭で、一人思う。
なぜ、自分は一人なのだろうか?
いや、違う。そうじゃない。
自分は、なぜ、一人を選んだのだろうか?
辛かった。
強い仲間が、
優しい主が、
怖かった。
『これで……満足か。馬鹿犬が』
その言葉は、こう聞こえた。
『言い訳は、これで十分か?』
見透かされた。
敵の言葉に、怯えたことを。
主の選択を、恐れたことを。
自分は、主の強さを取り戻せなかった。
同じだ。
疑い、穢し、逃げた。
あのときと、
最低の罪を犯したあの時と、
なにも変わらない。
何も変わっていない。
(……謝らなければ。戻らなければ。わっちは……)
そう思い、顔を上げる。
しかし、視界はもう暗く落ち、闇に一人取り残されたかのような気持ちになった。
謝る? 誰に?
戻る? どこに?
「……もう、わっちには……何も……」
心の砕ける音とともに、
膝が砕け、そのまま目の前に倒れ伏す。
ごめんなさい。
そのつぶやきと、一筋の涙は、土に溶けて消えて行った。
「……こいつか? お前の言う、強力なガーディとやらは?」
「はい、ここを通るという情報どおりなら、間違いないかと」
(……だ……れ……だ?)
フレイドは思うが、声はでず、顔を上げる事すらもならない。
「……その割にはずいぶんとぼろぼろだが……まあいい。多少の戦力強化にはなるだろう、運べ」
その一声で、周りに集った大勢の影が、フレイドを持ち上げ、草木の影へと消えていく。
抵抗もできないフレイドは、そのまま運ばれ連れて行かれた。
その時フレイドは、その集団から香る独特の臭いや気配から、二つの感情を覚えた。
一つ目は、安心。
そして二つ目は、不安。
真逆の感情にざわつくフレイドの心は、新たな嵐の訪れを予感させた。
次回は続きか、エピソードフレイドになります。
一応セキチクシティ終了までのプロットはほぼ完ぺきに出来上がっているため、少しずつペースを上げて書き上げていきたいです。
頑張ります!