「あやしいひかりだ! 敵を足止めしろ」
「くそ、キャタピーが!」
「コクーン、固くなるだ!」
「……みずでっぽう」
「ビードル、どくばり攻撃だ!」
「わざは使わず最小の動きでよけるんだ! いいぞ、みずでっぽう」
「ああ、ビードル!!」
むしとりしょうねんたちとのしょうぶにかった。
けいけんちをえた。スーはレベルがあがった。
「そうだ、スー。最後の動きはかなり良かった。相手のどくばりに臆することなく攻撃に転じることができてたからな、あとはわざの威力、そして応用性を鍛えればもっとスムーズに戦えるはずだ」
「はい、マスター!」
トキワの森もかなり終盤に近づいたころ、スーはいくつかのトレーナー戦を経て、かなり陸上の戦闘を理解し、自分で動くことを覚えていた。
コンマ一秒単位ではあるがミズキの指示より先に行動を起こすこともあるし、何よりブルーとの戦闘ではほとんど見られなかった、3Dな動き方ができるようになった。
この成長はこれからの戦いでかなり大きくなるだろう。ミズキも昨日萌えもんセンターでフロッピーと一緒にパソコンから取りだしたステータスチェッカーと育成用メモに、先ほどまでのバトルのポイントを書き込みながらうれしそうに笑う。
「そういえばマスター、次はどんな街へ向かっているんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったか? 次に向かう町はニビシティ。昔ながらの文化、伝統にかなり重きを置いているタイプの町だ。一番有名な施設は『ニビ科学博物館』、そしてなんといっても『萌えもんジム』がある」
「萌えもんジム? どんなところなんですか?」
「一言でいうと、最強の萌えもんトレーナーを目指す子供たちに与えられる試練、ってところかな? 戦い強くなることを目的とした萌えもんトレーナーは、セキエイ高原ってところで行われる萌えもんリーグっていうカントー全域を巻き込んだ一大大会に出て、最強のトレーナーの称号、萌えもんマスターとなることが最大の目標となっているんだ」
「萌えもんリーグ。なんだかよくわからないけどかっこいいですね!」
「……まあそういう認識でいいや。というわけで俺たちみたいに旅に出ている萌えもんトレーナーはみんな萌えもんマスターになろうと頑張っている。ただこれが楽じゃあない。何せ萌えもんリーグに出場しているカントーのトレーナーすべてを倒し、その後で過去に萌えもんリーグに出場し覇者となった経験を持ち、その中でも萌えもんリーグの協会に実力を認められた四人の化け物、『四天王』と戦って勝たなければいけない。そこまでやってやっと萌えもんマスターとして認められ、リーグ殿堂入りを果たすこととなる」
「なるほど。じゃあマスターもそれを目指すんですか?」
「いや、俺はとりあえずR団をつぶす、っていう目的を果たすためだけに旅に出ているから、萌えもんリーグに出るために時間をかけている暇がない、っていうのが正直な話だ」
「え? 暇? リーグに出るための手続きって時間がかかるものなんですか?」
「ああ。ここで一番最初の、萌えもんジムっていうのが返ってくるんだ。萌えもんリーグに出場したいトレーナーなんて山ほどいるし、そいつら全員に出場チャンスを与えてたら何年たったってリーグは終わらない。だから地方各地には協会が定めたジムを受け持っているジムリーダーってやつがいて、そいつらと戦って認めてもらうとトレーナーズバッチっていうバッチをもらえる。それを八つ集めることができてようやく萌えもんリーグの出場資格が手に入るんだ」
「はー。で、やっぱり強いんですか? じむりーだーって」
「強い。正直この地方にも笑えないレベルの強さのやつも結構な数いるな。リーグに出るために特訓に特訓を重ねてきた挑戦者の萌えもんたちを最初の一匹ですべてしとめることができる。全員が萌えもんリーグ上位ランカークラスの実力と言っていい。まあ、細かいことを言うとバッチ一個のトレーナーに対してはこれぐらいの力で戦う、みたいな規定もあるらしいんだけどな。とりあえず、とる戦術は間違いなくトップの人間たちから八つのバッチを獲得するってのは一朝一夕の訓練でできることじゃないってことだ。ちなみにジムリーダーがバッチを渡す条件ってのは、バトルで負けたトレーナー、じゃなくて、自分がリーグに推薦するに値するトレーナー、っていうことになってるみたいだから実際は対戦して負けたトレーナーにもバッチをあげてしまうジムリーダーも他地方にはいるみたいだがな」
「へぇー。やっぱり面白いですね。人の世界って」
「確かにな。ま、みんな萌えもんも萌えもんバトルも大好きってことだ。お、ようやく見えてきたな。あそこがニビシティだ」
話している間にトキワの森を抜け、ついに噂のニビシティへと足を踏み込む。
相変わらずスーは慣れない人工物の景観に目をキラキラさせている。トキワシティに比べるとニビシティの建物は博物館をはじめとしてかなり質素で大人向けなものが多いため、ミズキのような研究員としての目線はともかく、あまり町としては子供が好むような場所ではないのだが、スーにとっては移る景色全てがアトラクションに見えるようだった。
「マスター、この町では何をするんですか?」
「そうだな、個人的にはやっぱりニビ科学博物館に興味があるな。古代の萌えもんの生活とか、人間との共存法とかはかなり興味があるが、基本的には宿で休憩してすぐにおつきみやまの方面へ行く事になるかな。今回の旅じゃあせっかくのジムにも用はないし、適当に旅の準備をして明日には出発しようと思ってる」
「わかりました。じゃあ今からそこに行きますか」
「そうだな、もう宿は取ってあるから他にすることもないし」
町の入口の掲示板で建物の位置を確認していると、
「わかったよ! 俺は必要ねーってことなんだろ!」
「違う!」
何やら背後の草むらから穏やかでない声が響き渡る。
まあ、無視してやってもよかったのだがあまりに聞き覚えのある声にさすがに知らんぷりするのも薄情なので首を突っ込んでやることにした。これまでに幾度となくはいてきた諦めという種類の溜息をつき、振り返って近くの草むらへと足を運ぶ。
「違わねーよ! 俺と挑んだって勝てねーって言いたいんだろうがよ!」
「だからそうじゃなくて!」
「うるせーレッド、ヒトカゲ。お前らいったい何してんだ?」
そこにいたのは涙目な人間一人と涙目で包帯まみれな萌えもん一匹だけだった。
「ほれ、オレンジ。お前好きだったよな」
「さんきゅ。あれ、ミズキもオレンジ? コーヒー好きなんじゃなかったっけ?」
「缶コーヒーまずくて嫌い」
「ああ、そうなの……」
二人の喧嘩を仲裁した後、成り行きで四人そろってニビ科学博物館へと足を運ぶことになり、今は自己紹介を済ませスーとレッドは化石コーナーを一緒に周っていたので自分とヒトカゲは部屋の隅の方のベンチに腰掛けながら話してまっていることにした。
「で、結局旅に出てるわけ?」
「ちょいと事情が変わっちまってよ。悪かったな、ヒトカゲ」
「もうヒトカゲじゃなくてカゲだ、レッドにそう名付けられたからな」
「そっか、悪かったな、カゲ。いっしょにつれてってやれなくて」
「いいよ、どうせ俺はもうレッドと一緒に最強の萌えもんになるって決めたんだ」
「ほう……」
ニビシティまで来てぼろぼろな体でもめていたのだから何か問題でも起こったのかと思ったが話を聞いている限りでは仲はかなり良好のようだ。ヒトカゲをレッドの相棒にするために育成した身としては少なからず安堵する。
「そこまで言えるんならなんでさっきはけんかなんかしてたんだ? お前もそうだがレッドはああ見えてあんまり怒ったりしない奴なんだぜ?」
「そんなこと俺だってもうわかってる」
「じゃあなんでだ? というかその体、お前ら一体何があったんだ」
そこまで聞くとカゲは悔しそうに下唇をかみ、膝の上に握り拳を作る。それに応じるように生命線のしっぽの炎がいきなり激しく燃え上がる。ジャケットの裾が少し焦げてしまい、焦ってばれないようにそこを握りつぶす。
「あいつが! あいつが悪いんだ! あのジムリーダーが、レッドをバカにしやがったんだ!」
自分の手をジュースで冷やしながら、激昂するヒトカゲを軽くなだめて話を聞く。
先ほど軽く触れたがカゲはもともとそんなに喧嘩っ早くも怒りっぽくもないため、これほどまでしっぽの炎があらぶっているカゲは初めて見た。
「落ち着け。冷静になってゆっくりと事情を話してくれ」
「あいつは、あいつは!!」
…………
それは今日の午前中、俺たちがニビジムへ挑戦した時のことだったんだ。
『ショウシャ、ニビジムリーダー、タケシ』
「カゲ! 大丈夫か! カゲ!」
「な、なんとかな。大丈夫、休めば元気になるさ」
「ごめんな、カゲ。ごめんな……」
そんでレッドは俺を抱えたまま萌えもんセンターへ行こうとしたんだ。そしたら……
「弱すぎる。貴様、レッドとか言ったか。お前のようなものはもう二度とこのジムの敷居をまたぐんじゃない。時間の無駄だ」
「な、なんだとこの野郎!!」
「か、カゲ! もういいよ、いこう」
「よくねえよ! やい、ジムリーダー! 確かに俺たちはお前に負けたさ。だがな、どうして一回負けたぐらいでそこまで言われなきゃあいけないんだ!」
「愚かな。わからないなら直接言ってやろう。ただでさえ良好とは言い難い相性の対戦においてただただ突っ込んでくるだけの初心者丸出しの馬鹿に対して使っている時間は俺にはない。挑戦者ならば何者でも迎え撃つのがジムのルールだがあいにくと俺は記念受験感覚の餓鬼に時間を割いてやるほどやさしくない。以上だ、帰れ」
「なんだとぉ……」
「いいよカゲ! 俺が弱かったのは紛れもない事実だよ」
「レッド……」
「すみませんでした、タケシさん。俺たち、頑張って強くなるので。もっと戦略とか勉強して、強くなってからくるので、もう一回だけチャンスを頂くことはできないでしょうか? お願いします。この通りです」
「レッド! お前何してんだよ! やめろ!
レッドは俺をごつごつとしたジムの床にゆっくり下ろした後、そのままの膝をついた体制で、上半身を前に倒した。所謂、土下座というやつだった。
「お願いします。もう一度だけ、もう一度だけ、挑戦させてください。お願いします」
「やめろ、レッド! やめてくれえ!」
正直俺は泣き叫んだ。
時間で見たらまだ二日と少ししかたっていないが、俺はレッドのことが大好きになっていたから。そんな姿絶対に見たくなかった。
俺が弱いせいで。
レッドにまで辛い思いをさせちゃって。
それで、
「惨めだな。トレーナー気取りのクズが」
そういわれた瞬間、めちゃくちゃキレちゃって、なんかよくわからなくなって、
気が付いたら萌えもんセンターでレッドが俺のこと見下ろしてて、
ああ、俺負けたんだなあ、って思ったんだ。
「俺が弱っちかったせいで、レッドがばかにされて、レッドが酷い目にあって、俺、悔しかったけどあいつのこと殴れもしないで。うっ……ううううぅ」
いつの間にだったかは気づかなかったが、カゲは激しい自責の念と一矢も報いることのできなかった力不足による悔しさでぼろぼろと涙を流していた。その後も喧嘩になった経緯を必死に説明してくれたようだったが、九割言葉にできていなかった。
かわいそうに、とは思わない。
同情は先に虚しさしか生まない。
弱ければ望むようにはならない。強くならなければ上がれない。
ある意味そのジムリーダー、タケシとやらは正しいのだ。
「ただいま戻りましたマスター……って何があったんですか!?」
「か、カゲ? どうしたんだカゲ、まだ傷が痛むのか!?」
「いや、ちがう。ちがうんだよぉ、レッドぉ……」
ああ、タケシとやらは正しい。
だが、そいつは同時に触れてはならないものに触れた。
「レッド、質問に答えてくれ」
「な、なんだよミズキ。今それどころじゃ」
「本当に、記念受験感覚の餓鬼、って言われたのか?」
「っ! カゲ、お前話して……」
「質問に答えてくれ、
本当に、戦う価値のないトレーナー気取りのクズ、って言われたのか?
「……うん、言われた。でもしょうがないんだ。ジムリーダーの萌えもんたった一匹にぼろぼろにされちゃったし、戦い方がへたくそなのもわかってたことだし。気を取り直して次頑張れば……」
「今のお前の心が折れてることなんか、カゲ以外でも見ればわかるぞ」
「っ」
レッドが明らかに驚愕の表情を見せる。自分で気づいていなかったのか。重症だな。
「カゲが落ち込んでるのは、相手を倒せなかったからじゃない。自分が負けたことでお前が立ち上がれなくなっちまうことを何よりも恐れているからだ。そして今、それは現実になろうとしている。レッド、お前は切り替えて前を向いているんじゃない。後ろを向きながら前に進もうとしているだけだ」
今度はレッドが唇をかむ。似た者同士な二人の表情が今は重く苦しく切ない。
「わかってるよ。このままじゃダメなことぐらい、わかってるんだ。でも、俺は馬鹿だから、グリーンとブルーとミズキと違って、攻撃することしかできないから。でも、それじゃあだめだから。それでカゲが酷い目に合っちゃったらって考えたら、もう俺どうしたらいいのかわかんなくて……」
「わかった。不器用なお前なバカ二人の、必死な気持ちは伝わった。じゃあ、最後にこれだけ答えてくれ」
お前らはタケシをどうしたい?
「「た、倒したい」」
どうして?
「「カゲ(レッド)をひどい目に合わせたから」」
涙声だけど、
上出来じゃねえか。
「お前ら、明日は俺を見てろ。戦術ってやつを教えてやる」
ついでにクズをぼこぼこにする。
俺の友達をクズ呼ばわりした。
俺のげきりんに触れた罪の重さを教えてやる
「スー、悪いが明日の予定は変更だ。ぶっ壊したい奴がいる」
「仰せのままに。やりましょう、マスター」
契約1、2、3、4 瞬間凍結
ニビ 瞬間契約 ジムリーダータケシを倒す