罪深き萌えもん世界   作:haruko

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2月5日追記 タイトル変えました


第2話 2 戦う意味

 

旅館のカーテンの隙間から漏れる光での朝の目覚めはすこぶる快適なものとなっただろう。

予定の正午までの時間は約五時間。それまで一秒たりとも無駄にすることはできない。

今日の相手はジムリーダーだ。いくら対策したってしすぎだということにはならない。

 

「出てこい、スー」

 

萌えもんボール唯一のスイッチを押すと、軽いフラッシュとともに青い相棒が姿を現す。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。さて、早速で悪いが聞かせてくれ。スー、今日の戦闘は契約とは一切関係ない、俺の私戦だ。お前に付き合う義務はない。いや、むしろ一昨日の対ブルー戦とは比べ物にならないぐらいの厳しい戦闘になると考えてまず間違いない。下手すりゃ今後の旅に支障をきたすけがをするかもしれない。それをわかっていながら、俺はお前を利用しようとしてる。それでも、俺と一緒に戦ってくれるのか?」

 

「はい」

 

想定通りの即答だった。

 

「水臭いですよマスター。わたしはあなたに従います。わたしはあなたの望みを叶え、自分の理想に近づくために、強くなると誓いました。わたしのことは気遣わずマスターはわたしを使ってください。頼りないかもしれませんが、わたしはあなたの剣となり、あなたの心に答えて見せます」

 

いい志だ。ならば俺も、それ相応にこたえよう。

 

「命令だ。一緒にタケシを倒してくれ」

 

「勝ちましょう。まだまだ若輩者ですが、マスターと一緒なら負けはありません」

 

先日の戦闘は、スーの心を揺らした代わりにスーの心に柱を刺した。

ブルーには今度全力で料理をふるまってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ジムリーダーっていうのはいうなれば、萌えもんのタイプのエキスパートの集まりだ。ニビジムのタケシはいわタイプの使い手。注目すべきは何と言ってもその恵まれた体躯によって作り出される圧倒的なぼうぎょりょくだ。並みのこうげきならかわすことなく受け止めてそのままカウンターで攻撃することもできる。接近戦はかなり不利になると思う。こういうのはあれだがヒトカゲが真っ向勝負で突っ込んだとしてもまず勝てないだろうな」

 

先日と同じようにミズキは愛用のメモを取出し、イシツブテ、イワーク、サイホーンなどなど、出てくる可能性のあるいわ萌えもんの名前を片っ端から羅列していく。

 

「あれ? でもいわタイプってことはたしかみずタイプの攻撃に弱いんですよね? みずでっぽうとかなら遠距離から攻撃することもできますし、私たちがかなり有利になるんですよね」

 

スーが思いついたかのように発言するが、もちろんそれだけではこの作戦会議を終われない。

タイプ相性が良ければ勝つ。

そんな理屈がまかり通るのであればそもそも萌えもんバトルは最初に出した萌えもんの相性で決まってしまうことになる。それで勝ち負けが決まるのならば誰も最強なんて称号を目指しはしない。

思考することで、下馬評のすべてがひっくり返る。逆に言えば、タイプ相性が良くても一つの奇策で壊滅する。だから萌えもんは面白いのだ。

 

「その通り。だがそれだけでは勝てない。いわタイプはみずタイプに強い、いわタイプは遠距離攻撃に弱い、そんなことはタケシが一番よくわかっているはずだ。それでもいわタイプでジムリーダーとして君臨している以上何かしらの対策を持っていると考えるのが妥当だろう。それにスーはみず・こおりタイプの萌えもんだいわタイプの強力なわざを受けたら見過ごせないダメージを受けるのもまた事実」

 

メモの一枚目はかなりペケ印で染まってしまったため、ゴミ箱に放り込み二枚目に書き直し始める。

スーにはよくわからない作戦がすさまじい勢いで書きなぐられていくが、それと同時にすさまじい勢いで没の作戦が増えていく。

不意にミズキはペンを止め、正面の相棒へと向き直る。

 

「正直に言おう。今回のバトル、かなり高めに見積もって、勝率は約三十パーってところだ」

 

二人はかなり渋い顔で見つめあう。

 

「低いですね」

 

「そもそもかなりの確率で勝つことが不可能になる、所謂『詰み』の状態が発生する。すばやさが高すぎるいわ萌えもんがいたら詰み、空飛ぶいわ萌えもんがいたら詰み、リーグの規定はよくわからないけどレベルが離れすぎてたら詰み、俺の作戦を一瞬でも悟られたら詰み。自惚れ抜きに俺以外のトレーナーがこの戦力差をひっくり返すのは至難のわざだろうな」

 

ボールペンのお尻を口元におき、苦しそうな表情を浮かべる。

 

 

 

「でも、勝つ手段はあるんですよね?」

 

 

 

……一日二日でずいぶん俺の株は上がったもんだ。

なら全力で答えなきゃな。

 

 

 

「賭けに出る。ニビジムは最大三対三の公式ルールらしい。これからの俺の予想ががあたっているのなら勝率は七割まで引き上げられる」

 

 

 

絶対勝つ。もはやこれは、レッドたちのためだけのバトルじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「……そこの後ろの餓鬼には二度とジムの敷居をまたぐなと言っておいたんだが。餓鬼だから伝わらなかったのか?」

 

「てめっ」

 

「落ち着けカゲ。今日は俺たちのジム戦だ」

 

右側のレッドのそばについているカゲを右手だけで制した後、タケシへと向き直る。

 

「どうもこんにちは。昨日電話で対戦予約をさせていただきました、マサラタウンオーキド研究所出身駆け出しトレーナーミズキと申します。今日はあの有名な『固い男』の二つ名で知られるタケシさんと戦えるということで胸を借りる思いで挑ませていただきたく思います」

 

ニコニコという擬音が似合いそうな顔で礼儀をわきまえただけの言葉をミズキがポケットに手を突っ込みながら言う。足元のスーの顔が引きつる。

 

「汚い作り笑顔だな。闘志が隠しきれていないぞ」

 

腕を組みながら鼻で笑うタケシに対して、ミズキはすっと自分の顔を真顔に戻す。ミズキの周りにいたレッド、カゲ、そしてスーでさえその瞬間の空気に凍える。

 

「すみませんねえ。なんせもともと来たくもなかったジムに来ざるを得ない事情ができてしまったもんで。どっかの頭悪い誰かさんに一般常識っつーものを教育してやらないといけないんですよ。未来の教育者である研究者としてはね」

 

「だったら貴様のお友達に己の力量を見図る技術を教えてやったらどうなんだ?」

 

「まあそうですね、それに関しては今日のジム戦を通して自分の実力やら戦略やらの勉強をしてもらうんで許して下さいな。さて、じゃあここからが本題です。ニビジムリーダータケシ、昨日のレッドに対しての発言を撤回し、謝罪する気はありますか?」

 

「謝る? ふざけるな。なぜ俺がクズに対して謝らなければならない? 俺にはそいつのような雑魚どもの相手をしている時間はない。俺にはいわ萌えもんとともに最強のトレーナーとしての覇道を作り上げるという野望がある。そのために俺は厳しい試験を受け、ジムリーダーとなり、強いトレーナーと戦う事だけを楽しみにしてきた。だが、ふたを開けてみればリーグ協会に俺が配置されたのはニビシティ。そこのクズレベルの餓鬼しか来ないカントー地方の末端ジムだ。もううんざりなんだよ、雑魚のお守りに時間を取られるのはな。ジムは強者の成長のためにある。弱者のたまり場などではない。文句はあるか」

 

自分のどこが間違っている? とでも問いたげな顔で萎縮したレッドに目をやる。

いらだつことは隠せないがここは我慢の時だ。

 

「ふざけんな! てめえがってな事情でレッドにぼろくそに言いやがって! 謝れよ! レッドに謝れぇ!!!」

 

「か、カゲさん! 落ち着いてください!」

 

スーが後ろからカゲの両腕に手をまわして体を固める形になる。

その姿を見ながらタケシはくすくすと馬鹿にした笑いを浮かべ、カゲに相対する。

 

「単細胞の馬鹿め。昨日言ったことをもう忘れたのか? 俺にはお前らにかまっている時間などない。なんならお前らを追い払うのに使った俺の時間を返してほしいぐらいだ」

 

「なんだとごらあ!」

 

今にも火が出てきそうな勢いで食って掛かる。おいおい……

 

「おい。キレるのは勝手だが俺の相棒に迷惑かけんなよ。これからそいつ使ってジム戦やるんだからな」

 

「うるせえミズキ! お前も黙ってないでなんか言えよ! レッドの敵討ちに来てくれるんじゃなかったのかよ!」

 

「誰がそんなこと言ったよ。俺がやるのはジム戦。ついでにお前らへの授業だ。仇討なんか自分でやれ」

 

「なにぃ!?」

 

カゲは絶望したような表情でこちらを見る。

 

「逆に聞くが、俺が勝ったらお前らの気が晴れるのか? 俺が勝ったらレッドの折れた心は回復するのか? そうじゃねえだろ。自分が勝たなきゃ、自分がもっと強くならなきゃ、レッドはもう一度立ち上がれない。そう思ってたからお前は泣いたんじゃなかったのか」

 

はっ、としたカゲを見た後、スーを自分のところへと呼びなおす。

 

「ふっ、貴様はそれなりにわかっているようだな」

 

「そうですね。人には目線というものがあります。俺たちから見たらあなたの振る舞いはクズそのものですが、あなたにはジムリーダーとしての苦労や苦悩があったうえでその言葉を言ったことでしょう。だから俺は、あなたに文句はありません」

 

ふっ、という声の後に、カゲの歯ぎしりが響き渡る。

 

「無礼ではあるがなかなか見えてる子供じゃないか。で? そこまで考えて、貴様はここで何をするんだ?」

 

「そうですね……わざわざ戦う理由をつけるなら、ここであんたをスー一匹でぼろぼろにすれば負け犬ジムリーダーとなってレッドをはじめとした新米トレーナーの挑戦を拒めなくなるとか、長いこと同じときを過ごしたカゲの敵討ちだとか、スーがどれだけあなたに立ち向かえるのか知りたいだとか、そういうことも言えるんですけど、まあもうちょっと単純な思考でいきましょうか」

 

「なに?」

 

もともと柔らかくはないタケシの顔がさらに険しくなる。

 

 

 

 

 

「実はあんた、さっき俺とスーに対して使っちゃいけないNGワードを使っちゃったんすよ」

 

「はぁ? NGワード?」

 

 

 

 

 

野望。

それは俺たちにとって、お互いをつないだ大切なもの。

軽々しくない、崇高なもの。

 

 

 

 

 

「自分の未来を免罪符にして、人を傷付けるあなたは俺たちとは違う」

 

 

 

 

あんたは嫌いだ、だから潰す。

 

 

 

 

 

「俺が使うのはこのラプラス。他は一匹も使わない。三匹全部こいつで抜ききる。文句を言いたきゃかかってこい」

 

 

 

 

 

「あまり調子に乗るなよ、ガキが」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――公式戦開始―――――――――――――――――

 

 

 

 




次回が長くなるのは明白なので今回は短め。
知略家であり激情家なミズキの本質が少し見える回かも。

次回ニビジム戦、まだ二匹目の萌えもんが決まってない! 
乞うご期待。


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