~千年狐と江戸の花~   作:樹霜師走

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妖狐と乙女、魅せられる『畏の幻想』

 

 八神はやての暮らしている邸宅は、芝生の豊かな庭のある、美しい一戸建ての家であった。

 だが、ひとりの車椅子の少女が暮らすには、それは広すぎる、立派すぎるような印象を受けた。ひとりに与えられた広大な部屋は、時に、そこで暮らす者に大きな虚空感を与える。大きな家もまた、この少女にとっては、時に広すぎてしまうだろう。まして、かつては家族と共に暮らしていた家でもある。暖かな家族との思い出が枷になり、悲しみを掘り起こすこともあるだろう。

 はやてが馳走してくれた手料理は、実に美味たるものであった。切られた食材の小ささや、その柔らかさを感じる度に、この料理を作ったのが少女である事を思い返させてくれる。料理の腕には定評のあった乙女も、口に入れれば舌を巻くほどの腕前であった。

 何気ない談笑をし、時間はいつの間にか、六時の刻限を指していた。春はまだまだ日が長く、夕陽が沈もうとしているばかりの時間帯である。

 この間に、羽衣狐が目を覚ました。

 ──今の羽衣狐なら、人間の少女との会話も成立するのではないでしょうか?

 乙女はそう考え、目を醒ました羽衣狐に、はやてとの会話するようを促して見た。しかし、返って来た返答は淡白なもので。

 

『この容姿をした女子は(こと)に嫌いじゃ』

 

 その一言で蹴られてしまった。

 ──京都弁で、髪の短い女の子に、何か嫌な思い入れでもあったのでしょうか?

 人間を怨むことを辞め、慈しむ心を持った羽衣狐も、やはり、最初から何もかも上手く行くわけではない。

 だが、羽衣狐が其処で憑依を断ったことにより、ひとつの提案が浮かび上がった。

 

『では……お互いに肉体が必要な際は、この身体を交代で利用すれば良いのではないでしょうか?』

 

 それは、乙女の提案であった。

 つまり、互いに身体が必要な時間は、それぞれが憑依する番を明け渡し、今まで羽衣狐が独占していた乙女の肉体を、これからはふたりで平等に使おう、ということだ。

 ──元々は、そなたの身体であろうに。

 羽衣狐も、乙女のお人好し加減には参った様子だった。本来であれば、羽衣狐が身体に憑依する権限などないにも関わらず、乙女は特別、構わないと言い張ったのだ。羽衣狐は、その提案に乗った。いくぶん、乙女には引け目もあるのだろう。いつものように肉体を独占しているのでは羽衣狐も寝覚めが悪かったし、乙女の身体は、やはり乙女のものなのだから。

 

「──山吹さん、そろそろ行ってまうん?」

 

 夕日が窓から差し込んだ八神家で、はやては乙女を見据えながら、寂しそうな貌を浮かべた。

 乙女は小さく微笑み、言葉を返す。

 

「ええ。もうすぐ……迎えが来るの」

 

 羽衣狐が目を醒ましたことによって、今ここで、京妖怪を呼び寄せることが可能になった。──乙女の云う「迎え」とは、羽衣狐に下に就く京妖怪達のことだ。

 現実問題、ここまでで乙女は、ここ「海鳴市」の所在を掴むことは出来なかった。日本の中にある街であることは間違いないのだが、関西にあるのか、関東にあるのかもまだ判明していない。

 まずは羽衣狐の復活を知らせるため──京都へと向かう必要がある。

 そこで、京妖怪をこの海鳴市へと呼び寄せる必要があったのだ。

 

「──でも、また会えますよ」

 

 乙女は、優しく微笑んだ。

 ──これから、世界がどうなってゆくのかは分からない……。

 だが、一度と言わず何度でも、身辺が落ち着いたら、私はこの子の許を訪れよう。

 そう決意し、乙女は玄関へ向かった。

 黒い靴を履き、お別れの挨拶に、はやての方を振り返る。

 

「それじゃあ、はやてちゃん。またね」

「うん、ありがとうございました」

 

 そうして乙女は、はやてに別れを告げた。

 

 

 

 

 

 第四話。

 妖狐と乙女、魅せられる『畏の幻想』

 

 

 

 

 

 眠る気など、毛頭なかった。

 まるで転生を果たしたように、見慣れぬ街に産み落とされた。そして、山吹乙女と意識を共有していた。──このような奇妙な事態に陥り、かつての魑魅魍魎の主(わらわ)もまた、今回ばかりは困惑してしまった。すこし、気を沈めようと休息を取るつもりだったのだが、いつの間に、眠りについていてしまったようだ。かつての大妖怪が動揺するなど、情けない話である。

 目を覚ますと、なんとも寝覚めの悪い。

 ──破軍使い(、、、、)が、妾の目の前で、山吹乙女と会話をしていたのだ。

 そやつは、車椅子に乗っていた。転んで脚でも挫いたか、間抜けが。

 

「人違いです!」

 

 乙女に指摘され、羽衣狐は呆気に駆られた。

 少女の名を問えば──「八神はやて」と云うらしい。

 それから時が過ぎ、はやてと別れを終えた乙女は、家の前に出た。

 

(まずは、京へ向かうのでしたよね?)

(……ああ)

 

 羽衣狐は地獄へ堕ち、今ここに蘇った。しかし、この世に戻っても、何をすればよいのかも分からない状態だった。

 ──どこに向かうか、行く宛も定まらぬ……。

 そう思った時、羽衣狐の脳裏に、ひとりの少女の存在が浮かんだ。

 ──まずは、あの娘に会いに行こう。

 そのために、京都へと向かう必要があったのだ。

 

京での(わらわ)の用が済めば、次はそなたに身体を渡す。そなたは……何がしたい?)

(……私は) 

 

 乙女は、返す言葉を失った。

 ──私は、何をすれば良いのだろう……。

 かつて身を寄せていた組に戻ることは、許されない。かつて乙女は、其処から逃げ出したことがあるからだ。

 ──考えても、始まりませんか……。

 

(曖昧な答えではありますが……時の流れがなすままに、身を委ねようと思います)

(……そうか)

 

 次の瞬間、羽衣狐が、意識を集中させた。

 羽衣狐が、乙女に肉体の所有権を求める。対して乙女は、その要求を認め、肉体を明け渡す。

 目を瞑っていた乙女が瞼を開くと、優艶な眼差しは消え、代わりに幽艶な眼差しが浮かんだ。──山吹乙女から、羽衣狐に入れ替わったのだ。

 

(……入れ替わりましたね?)

 

 羽衣狐が、小さくと頷いた。

 

「さあて、今、世はどうなっておるのやら。清明は、世を支配したのであろうか……」

 

 羽衣狐が、自身の周囲に膨大な〝妖気〟を発生させた。空気に〝畏〟を混在させると、辺りは突如、言い知れぬ冷気に呑み込まれた。体感温度が急速に低下し、あたりの通行人達は足を止め、その場に狼狽し始める。特別、気温が下がったわけではない。怪談ではよくある噺、妖怪が〝畏〟を発するから、人間はひんやりとした体感温度に見舞われるのだ。

 〝畏〟を発した目的は、羽衣狐の居場所を、京都の同胞達へと知らせるためだ。この場所から畏を発し、これに気づいた京妖怪から〝畏〟が返って来るはずだ。

 彼女の妖気を探知した京妖怪が、一目散に、この場所へと駆けつけて来る──

 

 はずだった。

 

(どうしました、羽衣狐?)

(……なんじゃ、これは。何事じゃ)

 

 京妖怪たちの居場所が、まったく、特定出来ない。

 そればかりか、いくら畏を放っても、誰ひとり、迎えに来ない。

 京都の場所すら、判らない。

 海鳴市というのは、いったい、どの地方にある、どの県なのか。

 

(判らぬ……? しもべ達の居場所が……匂わぬのだ、京妖怪の〝畏〟が………!)

 

 何故だ。

 妖気が、なにひとつ顕現しない。どの畏も、反応しない。

 まるで、あやかしなど、最初からこの世界には存在しないかのように。

 

(京妖怪どころの話ではない。四国の狸も、瀬戸の悪鬼も、九州の蜘蛛も、奥州の河童も! どの者の〝おそれ〟も感じ取れなんだ! 海鳴市(ここ)はいったい、どの地方なのじゃ……!?)

 

 海鳴市とは、北海道か、沖縄に存在する街なのだろうか。いや、本土から離れたその地方とて、蝦夷や琉球の時代から生きた妖がいるはずだ。

 逢魔時(おうまがどき)を越していないとは云え、妖怪世界は、全国に展開されているのだ、妖気を何一つ感じないというのは、まず有り得ない!

 

(〝おそれ〟が読めないなんて、そんなことが……?)

 

 羽衣狐が、どうにかしてしまったわけではないのだろう。

 彼女ではなく──「世界自体」が、どうにかしてしまっているのではないだろうか。

 

(……もしかすると、此処は『私達がいた世界』とは、少しだけ違っている(、、、、、)のかも知れませんね……)

 

 乙女がこぼし、羽衣狐は懐疑した。

 ──違う、とは?

 

別世界に来た(、、、、、、)と。──そう申すのか)

 

 乙女は、小さく肯いた。

 ──しかし、冗談は夢幻の中だけにしておくれ。

 現実にこれが夢の中ならば、納得するしかないが。

 

(ほら、別世界に(いざな)う妖も存在するじゃないですか。例えば、そう……ま、枕返しとか!)

 

 「枕返し」とは──怪談には色々な説があり、眠る者の枕を返し、まったく別の、夢の世界へ連れて行くとされる夢魔妖怪のことである。

 羽衣狐は冷ややかな眼を浮かべた。

 

(……妾がいつ、枕を敷いて寝た)

(た、例えばの……話です)

 

 その説は一瞬で却下された。

 

(妖の中にも、己が畏の世界へ敵を引き込む種がいるでしょう? もしかしたら、私達は初めから『呑まれ』ているだけで、私達を当惑させ、動揺した所の〝恐〟を喰らう妖が、この近くにいるのかも……)

 

 つまり、自分達が今、非常に危険な状態にあると言うことである。

 畏の世界へ誘う妖というのは、いわゆる「領域型妖怪」のことだろう。何らかの手法により相手に〝おそれ〟を抱かせ、己が筋書きの過程に相手を「乗せ」、圧倒的有利な状況を作り出すという限定的な戦闘法を執る妖のことである

 山吹乙女は、今の状況を領域型妖によって妾達が今、畏の世界に閉じ込められていると考えた。自分達を錯乱させ、そこを喰らおうとしている妖がいるのだと。

 しかし、だ。

 

(妾が畏に飲まれる。──そんな話が、あると思うのか?)

 

 言うと、乙女は拍子抜けしたように、あ、と言葉を漏らした。

 羽衣狐は千年を生きる、上位の九尾妖怪である。

 そんじょそこらの凡百の妖ごときに、呑まれるような存在ではないのだ。

 ──しかし、乙女を責めたところで、現実は変わらない。

 可能性という可能性を消去法で減らしてゆくのなら、残った答えは、唯一だ。

 

(別世界に飛ばされた、か…)

 

 飛ばした本人など、考えるまでもない。言わずとも、地獄に現れた〝あの〟山吹乙女だ。

 ──この世界は、その妖が魅せる畏の世界で、妾は「生きている」のではなく「夢を見ている」……いや、「〝おそれ〟に魅せられている」だけなのか?

 ここで見聞きしたものはすべて幻想で、妾が人間を認めようと改心した事も事実としては残らず、この世界が終われば、妾の全てはなかった事になるのか?

 山吹乙女と分かち合えた事実も、妾の存在も、山吹乙女の存在も、八神はやての存在も…そう、この世の全てが、〝畏が魅せる幻想〟でしかないのか――?

 健全な今の妾がこの畏、断ち切れば、この世界から出られるやもしれぬ。

 だが、断ち切って、どうする?

 

 妾も山吹乙女も、死んだはずの身。この世界から出ても、妾達の居場所は無い。

 畏を断ち切れば、きっと妾たちは消えるのだろう。あっちの世界では二人とも既に死したのだから、この世界でしか存在し得ない妾たちに、断ち切る事は許されない。

 この世界が崩壊を始めれば、事実が事実でなくなってしまうだろう。

 

 妾達はどうして此処にいて、どうして、八神はやてと出逢ったのだ。

 

 たかが畏の世界で、体の不自由なあんな少女と出会う必要があったのか?

 『新たな始まり生きる覚悟』を、あの山吹乙女は妾に訪ねた。

 覚悟は、確かにあった。

 だがそれは、幻想の中で生きる覚悟などではない。

 これが全て〈幻想〉であるのなら、ふざけた話だ。妾を、侮辱している。

 

「妾は、幻想に縋ってまで、生きとうない…………ッ!!」

 

 怒りが怒声となって爆発する。無知である事が怒りとなり込み上げ、カッと血の気がよだつ。

 想像が創造する世界なら、生きる事に何の意味がある。人間と共に生きようと改心した事が無くなってしまうなら、今再び黒く染まり、この世界を壊しにかかるというのも悪くない。

 そう、運命を…この世界を「呪う」というのも、悪くは……。

 

(──いけません、羽衣狐っ!)

 

 それは、山吹乙女の怒鳴り声だった。

 

(怒りと憎しみに、身を委ねてはなりません! 過程はどうあれ、あなたはいったい、何のために此処に存在しているのか……目的を思い出して下さい!)

 

 新たな始まりを生きるため、そして、もう一度人間を愛するため……そうだ、それが妾の、この世界へ来た目的。

 

(あなたはもう戻ってはいけないのです、昔のあなたに!)

 

 矛先の見えない復讐心…。

 そうか、妾は牙を向ける相手を昔から間違えてばかりいたのか。宿願はかくあれと、周りを見ずに生きてきた。

 今再び畦道(あぜみち)に道を踏み外さんとしていたのを、山吹乙女に救われたようだ。

 壊す事は易しくとも、創る事は難しい。

 暗黒はどんな万色も容易く塗り替えてしまうけれど、穢れなき純白が純白で在り続ける事は、至極難しい。

 山吹乙女は今も尚、白を選ぶ。だが、妾は意図も簡単に、今のように黒くなろうとしてしまう。

 

(妾は、弱いのう……)

 

 そんなことはありませんよ……と乙女からささやかれる。

 

(……すまぬ、一人にさせてくれ)

 

 羽衣狐はそこで、交代を頼んだ。

 そうしてふたりは、そこで今一度、入れ替わった。

 

 

 

 

 

 

 八神家の中で、はやては逡巡していた。

 

 ──「山吹乙女」さん。なんて、素敵な女性(ひと)だったのだろう。

 なんと表現すれば良いのかは分からない。しかしその雰囲気は、とても見た目通りの女子高生には思えないほど、知的に落ち着いていた。誠実で、御淑やかな人。あのような人物は、もう滅多に見ることないと思える。

 初対面であったに関わらず、乙女には、はやても自分でも驚くほど本音で語り合えた。作り笑いなんてしなかった、久しく、充実した時間を過ごせたような気分だ。

 でも、夕陽が沈むと訪れるお別れの時間がやって来た。その時間は、すごく寂しいものだって。

 サヨナラを云わなきゃいけない時間だから。──でも、乙女が放ったお別れの言葉は「さようなら」ではなく、「またね」だった。

 また、会おうとしてくれている。──はやてにはその言葉が、とても嬉しかった。

 

「お母さん、お父さん。うち、友達って呼べる人──できたよ」

 

 父と母の遺影が、家の中にある訳ではなかった。

 はやては天に向かって、ひとでに呟いていた。

 

「ちょっと年上のお姉さん。同年代ってわけやないんやけどな?」

 

 家族写真があったなら、それに向かって話したい。

 

「優しかったよ………まるで、お母さんみたいに」

 

 報告を終え、はやてはふと、玄関の戸を開けた。

 そしてそこで、怒鳴っていたのは山吹乙女の姿を確認した。

 

「山吹さん……?」

 

 さっきまでの暖かな雰囲気とは異なり、そこで怒りを吐露していた彼女は、どこか冷たい印象を受けた。

 はやては肩を振るわせながら、山吹乙女に尋ねていた。

 きっと、何かいやな事があったに違いないと信じつつ、はやてはおそるおそる、彼女に訊ねた。

 

「お迎え──来ぃひんの?」

 

 黙々としていた山吹乙女だが、彼女はそこで、この幼い少女・八神はやてに、自分の境遇を話す事を決意しようとしていた。

 京妖怪は愚か、奴良組の消息も掴めず、言わば身寄りのない私達。

 八神はやては、ここへ来て初めて知り合った信頼出来る人物だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 家にあがり、山吹乙女は自分の境遇を打ち明けた。

 それを聞いたはやては、呆然としながら話した。

 

「──つまり、乙女ちゃんは、此処がどこかわからないし、知り合いもいない。帰る場所もないってこと……やんな?」

 

 地図を確認しても、浮世絵町はどこにもない。

 やはり此処は、自分達の知らない世界のようだった。

 山吹乙女は、自分の中に存在する羽衣狐については、はやてにはまだ何も話していない。

 今の彼女は、そっとしてあげたい。時が来たら、その時でいいから。

 しかし、はやてはそんな時、少しだけ大きな声で言い放った言葉があった。

 

「だったら、その……う、うちにいてええよ!」

「え……?」

「乙女ちゃんが打ち明けてくれたことやから……正直、びっくりしたけど、信じるよ。帰る場所がないんなら、此処にいてええっ! ……というより、うちは乙女ちゃんにいて欲しいんや!」

 

 夜半の道塗に飢凍するくらいなら、私と一緒にいて欲しい。

 それが、はやての願いだった。

 

「はやてちゃん……」

 

 そうして乙女は、はやての提案を受け入れた。

 ──この世界が、どんなモノかはわからない。

 ──だけど………。

 

(──羽衣狐、目を開けて下さい)

(……何か、わかったのかえ)

 

 乙女は、鷹揚と微笑んだ。

 

(それは、自分の目で、確かめて下さい)

(……?)

 

 羽衣狐は山吹に言われ、閉ざされた意識の奥深くから出てきた。

 羽衣狐が意識体として、山吹乙女の視覚を通じて見た景色。辺りは夜になり、映ったのは、自分に寄り添い、スヤスヤと眠るはやての寝顔だった。

 

(八神、はやて……?)

 

 羽衣狐は、互いの意識空間に立つ山吹乙女の方を向いた。

 そして、山吹乙女は頷いた。

 

(この世界が〈幻想〉なのかどうかは、私達にはまだ、わかりません。──でも、これはきっと、現実です)

 

 八神はやては寝息をたて、安らかに眠っている。

 

(私達は変わりました。たとえ、世界が嘘だったとしても。──私はこの子と、はやてちゃんと、一緒にいます)

 

 話す山吹乙女に、羽衣狐も返した。

 

(そうか……そうじゃな。 たとえ幻でも、共にいた時間は、消えないのであったな)

 

 誰かと一緒にいる時間──。

 山吹乙女は子供達と、そして、あの男と共にいて。

 羽衣狐は安部保名と、そして、愛した息子と共にいて。

 誰かと共にいた時間は、自分達の思い出になり、未来への糧になる。例え、それが〈幻想〉だったとしても。例え、夢が覚めるまでの淡く儚い〈泡沫夢幻〉の時間だったとしても……。

 新たな始まりとして。

 人間をもう一度、愛すると決めたのだから、今度の思い出とやらは、この少女と共に見るモノだったとしても、悪くはないだろう。

 

 山吹乙女と羽衣狐。

 二人は顔を見合わせながら、安らかに眠るはやての寝顔を、ただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 




 ここまでは駆け足のような感じが否めませんが……地話からは、ちゃんと落ち着いた展開になります。
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