Fate/Boudica affection   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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Fate/Boudica affection

「――貴方が私のマスターかしら?」

 

 光が舞う。魔力の粒が世界に弾けて煌めき輝く。

 その中に立つのは赤い髪の女騎士。優しい微笑を湛えて腰を抜かして座り込む僕を見つめている。聖杯戦争――七騎の英霊をサーヴァントとして召喚し、使役し、殺し合わせ、万能の願望器『聖杯』を奪い合う戦い。そんな漫画みたいな話を知ったのは後のことになり、事の起こりは偶然だったけれど、きっと出会いは運命だ。

 呆ける僕に対して赤い髪の女性は控えめな笑みと共に首を傾げて言った。

 僕が最初に見た彼女の笑顔で、きっとこの瞬間、その時からこの人に魅入られていた。

 

「地味なサーヴァントだけどよろしくね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、マスター。お腹減ってない? 何か作ろうか? 好き嫌いはしちゃだめだよ?」

 

 闘う為に呼び出され、他のサーヴァントを殺す為にいる過去の英雄。それにしてはあまりにも彼女は優しかったし、僕のことを守ってくれた。家族はいなかった。幼い頃に死んで、意地悪い叔父と叔母に預けられて十年以上を過ごしていた。十八になって隠れてやっていたアルバイトで何とかお金を溜めて家を飛び出して――サーヴァントと遭遇して彼女を呼び出した。

 実は何代も前に魔術師の先祖がいたとか、正規の魔術師のマスターが集まっていなかったとか理由があったらしいがよく解らない。サーヴァント――黒衣を纏うランサーに殺されかけた僕を彼女、ライダーは守ってくれたことだけが最初の夜で理解していること。

 ライダーの助けでなんとか窮地を脱して、彼女は聖杯戦争をよく理解していない僕にその説明をすると共に――ご飯を作ってくれた。ブリタニア料理、つまりはイギリス料理と聞いて世界一不味い料理かと思ったけれどそんなことはなかった。全然美味しかったし、叔母の作るそれよりもずっと上手だったし――何より暖かった。

 暖かい食事だなんて――もう何年も食べていない。

 気づかないうちに涙を流していて、昨日会ったばかりの人にそんな姿を見せるのが恥ずかしくて止めようとして、けれどそれはできなくて、 

 

「――泣き虫なマスターだなぁ。もう、よしよし」

 

 そんな僕を彼女は胸に抱きしめながら頭を撫でてくれた。 

 母性、愛情、慈愛――そういうものは触れた肌と優しい手から心へと染み渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 何、その顔。気にしないでよ、これでも戦いは嫌いじゃないんだよ」

 

 数時間前僕を抱きしめて温もりを教えてくれた人が剣と盾を握る姿は、何故か見ていられなかった。そういう存在であると教えてもらったけれど昨日まで一般人だった僕に納得しろというのは無理だ。場違いな感傷であろうに、それでもライダーは苦笑しながら言葉を掛けてくれる。そう言われてしまえば僕に言えることはない。

 ただ夜の街へと肩で風を切りながら進む彼女の背を見るだけだった。

 遭遇したのは白髪のセイバーと黒衣のランサー。昨夜僕を襲ったサーヴァントが戦っていた。

 どちらに付くのか、どちらにもつかないのか。戦いに介入するのかしないのか。

 どうするべきか戦いの素人である僕には解らなかった。

 けれど、

 

「君は私のマスターだ。君の望むことを私はしよう。私にできることならなんでもするよ。ほら、言ってみて」

 

 先ほどと同じようにライダーは僕の頭を撫でてくれた。

 それは少しだけこそばゆく、けれど嬉しくて――自らの意思で戦いへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない……龍殺し以外取り柄がなくてすまない……」

 

「ははは、十分凄いって! 龍殺せれば大体もの殺せるでしょ!」

 

 自虐的な龍殺しの剣士は謝りながら剣を振るっていた。

 彼は自らの正義を信じ闘う正義の味方となることを願い剣を取る。

 竜殺しの大英雄と肩を並べる彼女は快活な笑みを浮かべ、戦いが嫌いではないということは嘘ではないということを証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

「君の好きなものはなに? ……ない? マジで? うわ……まじかー……え、私? 私は空と大地と人の繋がり、あとは美味しいご飯があればサイコー!」

 

 好きなものを問われて応えれなかった時、彼女は何故か怪訝そうな顔をした。何故か苛立って聞き返した答えはなんて素敵なものだったのだろう。空なんて見上げた記憶がない。大地を踏みしめた記憶もない。人との繋がりなんて痛みと苦しみでしかなかった。

 だからだろう、そういうことを胸を張って好きといえるライダーは堪らなく眩しかった。

 最後の一つは、昨日味わったばかりだったから同感だったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「女神の恩寵、どちらがより己の女神愛されているか試してみようか?」

 

「どちらが愛されてるかなんてそんな恥ずかしい理由で競い合えるほど子供じゃないよ」

 

 純潔の狩人は自らが見に受けた女神の祝福を誇りながら弓を引いていた。

 子を愛する彼女はこの世全ての子供に祝福されるような世界を望み矢を引く。

 処女神の狩人に矢を切り落とす彼女は少しだけ恥ずかしそうで、少しだけ嫌そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌いなもの……君は沢山ありそう……そうでもない? それは……そっか。私はそこまでないけど……ははは、ローマは好きになれないかな」

 

 好きなものの話の後は嫌いな話になった。といっても僕は好きなものなければ嫌いなものもなかった。叔父と叔母の扱いは疎ましかったが好き嫌いという感覚はどうにも理解しにくかったし。ローマ――妙に漠然とした範囲を苦笑しながら応えるライダーを見て、彼女にも嫌いだったり苦手なものがあるんだと知って妙な気持ちになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはー、なんだなんだ? 光源氏の真似事か? そんな赤子みたいなマスターを連れて情操教育でもしているのか? 反逆の女王はショタコンの気配があったらしい――えんがちょ、寄るな寄るな」

 

「潰す」

 

 悲劇の童話作家は僕とライダーを見据え闘う気配はなく、けれど饒舌に言葉を紡いでいた。

 彼は己の願いを語ることなく、煙に巻きながらしかし批評を述べていた。

 皮肉気な物書きに対して、ライダーはまるで悪戯好きな子供を叱るように――といっていいのか僕には解らないのだけれど――額に青筋を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お腹空いた? ようし、何か作ろうか!」

 

 少し小腹が空いてそんなことを呟いた。そうしたら彼女は妙に張り切ってご飯を作りだしてしまう。好きなものの話をした時に美味しいご飯なんて言っていたから食べるのも作るのも好きなのだろう。僕もライダーの作るご飯を好きになっていた。だって、彼女が作るものは彼女の手は暖かいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしたちとおかあさん(マスター)の邪魔をしないで」

 

「悪いけれど、貴女のことを放っておくことはできないんだよね。君がやったことも、私的にはちょーっと許せないし」

 

 殺人鬼の少女はただ機械的に、けれどどこかに怨念を込めて僕とライダーを殺そうとした。

 彼女はただ死にたくないと願うだけの純粋な赤子に過ぎなかった。

 霧の悪霊に命を狙われたライダーは憐れみと少しの怒りを秘めて剣を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなに、私の恰好気になる?」

 

 気にならないと言えば嘘になる。なにせライダーの戦闘装束は大きすぎる胸が半分くらい露出している。剣帯を取ってしまえばほとんど水着みたいで戦闘時以外わりかし無防備なので眼に毒だ。大きな胸は言うに及ばずコルセットを外しても腰のくびれは眩しくて身長高く絵にかいたようなモデル体型。おまけに優しくもあるお姉さんがが結構頻繁に僕を抱きしめたり頭を撫でたりするのだから青少年的にはけしからんことになっている。

 そんなことを言ったら一瞬硬直して、

 

「や、優しいお姉さん……優しいお姉さんか……どうすればいいんだろう。アタシそういう経験ないしなぁ……え? あ、えへへ、なんでもない! なんでもないよ! もう子供なんだから!」

 

 ぶつぶつ呟きだしてから、赤い顔のまま少しだけ無理をして僕を弄る彼女がなんだか可愛らしく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「護国の英雄――くく、共感を感じぬはいられぬな」

 

「そうね、きっと私と貴方は似た者同士。だから、負けられない」

 

 吸血鬼へと貶められた王は戦前の行いに共感するものがあったのか笑みを讃えながらライダーに槍を振るう。

 化物と穢された生前を守る為に彼は槍を取る。

 護国の英雄に、己も守る為にある故に負けられぬと胸を張りながらライダーは血槍に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯に懸ける願い? そうだね、ブリタニアが平穏でありますように……って現代は結構平和だったね。メシマズ国家っていうのは忸怩たる思いがあるけれど。ま、そうだね……とりあえず君が無事でいられますようにっていうのが今の私の願いかな?」

 

 そんなもの、願いなんて言わないだろう。

 結局のところ彼女は優しかった。優しすぎた。ただ僕が心がずっと子供だったから、その子供がそのまま命を落とすのを見ていられなくて助けてくれただけ。

 生前からライダー――ブーディカは大切な人を守る為に戦っていたのだ。

 王を殺され、娘を凌辱され、己の尊厳まで穢されて。それでも誰かを守る為に戦の女王となった。その戦い、在り方こそが後の騎士王へ続くものとなるほどにその生き様は苛烈で鮮烈だった。

 彼女は姉のように、母のように、誰かを包み守る英霊だった。

 

「別にそんな大したもんじゃないよ。君こそ、びっくりするくらいに良い奴だ。こんな厄介な戦いだけじゃなくて、私みたいな地味ーなサーヴァントに付き合ってくれるんだから」

 

 どこか地味なのだろう。

 これまで見てきた他のサーヴァントに比べれても、彼女は断トツで美しいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■ーーー!」

 

「……アンタのことは許せないと思っていた。絶対に好きになれないとも。だけど……だけど、それはないよ。そんな様になったアンタを私には憎めないしし、嫌いにもなれない。ただただ哀れだ。――おいで、これが最後の落陽だよ」

 

 狂った薔薇の暴君は誰が相手でも関係なく襲い掛かった。

 願いがあったはずなのだろう。薔薇に彩られ万雷の喝采と共に天へ謳われる愛があったはずなのに。

 許せなかったはずの相手は狂い切って、だからこそブーディカは哀れな狂戦士に幕を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君みたいな子、嫌いじゃない」

 

 嫌いじゃない。それは、なんだろう。嬉しいはずなのに、なぜかその言葉には納得できなかった。怪訝な顔はブーディカにも伝わったらしく眉を潜めて、

 

「……あー、違う違う。こういうことはちゃんと言っておかないと後で後悔するのよね」

 

 首を傾げながら控え目に笑って言った。

 

「――好きだよ。君のこと、マスターとしても、人間としても」

 

 ――僕もそうだ。

 サーヴァントとして戦う姿も僕に温もりを与えてくれる様も守る為に困難に立ち向かう生き様も。これまで見ていた何よりも輝く宝石で、貴いもの。地味だなんてとんでもない。誰よりも美しい人が自分の輝きに気付いていないなんてまるでギャグだ。

 勝利の女王はこの世全ての中で最も輝いている。

 そう、だから僕は彼女のことが、

 

「――大好き」

 

 ――これは、運命に出会う物語。

 空っぽの僕が約束されない勝利を誰よりも美しい女王と掴みとる為に軌跡だ。




ブーディカ人気出ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
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