その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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正体不明の弾幕

 ナザリック地下大墳墓・第六階層『闘技場』。

 アンフィテアトルム。その名の通り円形劇場にして、ナザリックの処刑場でもある。

 観客席はゴーレムで埋まり、VIP席からはギルドメンバーが座し、哀れな犠牲者のあがきを楽しむ。そんなコンセプトではあったが、貧乏性なギルドメンバーは座して待つこともなく自ら戦うことがほとんどであった。

 防衛システムにはお金がかかるのである。

 

 そんなわけで、ぬえも幾度となくこの六階層で戦った。

 馬鹿正直に六階層まで突破したものは少なく、転移罠で分断された哀れな後衛メンバーなどが主な犠牲者だ。1500人の侵攻を受けた際、ぬえは大陰陽師のガチビルダー3名の前に封殺されている。リスポーン防止に封印されるという始末で結局第八階層の切札に頼り切りであった。

 

(懐かしいなぁ……封印されたときに『おのれ人間共ぉ~!!』とかRPしてたっけ)

 

 闘技場入り口前。刺激される思い出を前にぬえは現実逃避に入っていた。15分前の決意など雲散霧消している。理由は入口の先から感じる熱気と歓声だ。

 観客ゴーレムは雰囲気づくりの一環だったはずだ。

 明らかにゴーレム以外のナザリックモンスター達が観客席にいる。

「みっ皆さま、まもなく至高の41人であられる封獣ぬえ様の模擬戦がお、行われます!」なんてマーレの声が聞こえるがきっと気のせい。

 

「ぬえ様」

 

 思い出に現実逃避していると、背後より声をかけられた。

 ぬえの模擬戦の為に、忙しい中準備してくれた功労者アルベドだ。

 

「アルベド……模擬戦と言ったよね?」

「はい。至高の御方が実力の一端をシモベ達に見せつけ、威光を示す……素晴らしいご提案でした」

 

 なにそれ聞いてない。

 

 精神作用効果無効がないぬえは必死に動揺を抑えつける。

 単に鈍ったプレイヤースキルを取り戻し、スペルカードを振るう目的だったはずだ。

 アインズが提案を持ち込んだはずだが、どうしてそんな変質をしたのか。

 

「うん、うん。それで、対戦相手は?」

「ぬえ様と相対し、演武として映える相手を……しかし威光を示すには蹂躙の場も必要と考えました」

「うん……うん?」

「アインズ様にご確認を取った際、スキルによる召喚ならばナザリックの損害はないと仰られたので、ざっと500体ほど雑多なモンスターを前菜に配置しております」

 

 モモンガアアアアアアア!!!! 

 

 ぬえは心中の笑う骸骨に向かって叫びをあげた。

 何かの仕返しか。仕返しなのか。うん、されるぐらいの負担は与えている。

 おそらく、ぬえがユグドラシル時代に頻繁に行っていたストレス発散法『雑魚狩場を弾幕一掃』を覚えていたのだろう。500の雑魚などスペルカードの披露機会としての良い配慮と言ってもいい。

 シモベ達の見世物となっていなければだが。

 

「スキル負担による節約の都合、70以上の高位モンスターが3体しかいないこと謝罪いたします」

「ひゅい!?」

 

 雑魚オンリーではないことにRPを忘れて驚く。

 ユグドラシルではレベル補正は絶対だ。10レベル差を超えた段階で勝ち目が消えるほどに。

 それでもぬえの弾幕は魅せにこだわったせいで単純使用では80レベル以上にまともなダメージを与えるのは不可能なほど弱体化している。それは、上位者『至高の41人』として不味い。

 魅せ魔法ぶっぱして、平然としてる70レベルモンスターをみたら幻滅されないだろうか。

 

(落ち着け。弾幕ごっこではないが、ああすればいい。ぷにっと萌えさん考案の『魅せ技と思ったか? 初見殺しだよ!』作戦を実行するときだ)

「ぜ、前菜と言ったね? メインディッシュはなにかな?」

「ぬえ様が御創造されし命蓮寺の部隊が、お相手したいと」

 

 あ、死んだ。私の精神死んだ。ぬえは心の中で涙を流す。

 妖怪の心を打ち砕くとは、攻略法を実に心得てる。

 神がいるなら、助けてほしい。

 

「なお計画進行中の都合、闘技場に集まるシモベが最低限でありますこと、申し訳ありません」

「何言ってるの、むしろありがとう!」

 

 熱気はそれでも十分だが、これが最低限と聞かされれば少しは肩の荷も軽くなる。

 精神的にトドメを刺されていただけに、ぬえは歓喜を持ってアルベドに応えた。

 きっと神の慈悲だろう。ありがとう神様! 

 

「せめて、全てのシモベがわずかでも威光を感じ取れるように録画準備は整えております」

「……さっ、さすがアルベド! 全ての配慮が完璧だ!」

「至高の御方よりの御言葉、感謝の極みにございます」

 

 神は死んだ。ぬえの心に絶望が去来する。

 だが、アルベドは守護者統括としての仕事を完璧に果たしていると言える。

 責めるべきはアインズだ。帰ってきたら1発殴る。

 

「では、私は業務がありますゆえ、無念でありますが失礼いたします」

「うん、ありがとうアルベド。お前の貢献は私の口からもアインズ様に伝えるよ」

「ありがとうございます!」

 

 歓喜に打ち震えるように黒い翼を震わせながらアルベドが転移する。

 覚悟を決める時がきた。

 このまま重圧を意識してると、緊張でひどい失敗をする気がする。

 平社員だった生前の残滓が悲鳴をあげているのをひしひしと感じながら、ぬえは目を閉じる。

 落ち着け、あの圧迫面接に勝る重圧はない。落ち着け、あの死に勝る恐怖はない。

 豆腐メンタルな自分が社会を生き抜く為に習得したリアルスキル『自己暗示』の出番だ。

 

「『私の封獣ぬえ』をRPしきる余裕はないか……元々PL『封獣ぬえ』としての模擬戦なんだ。大妖怪ぬえ様として、魅せてやるのも悪くはない」

 

 自己暗示をかける。

 アルベドの言う通り、至高の41人封獣ぬえが威光を示す場なのだと。

 思い出せ、初見殺しの正体不明を。取り戻せ、ナザリックの大妖怪を。

 ぬえとして、自己顕示欲を存分に満たせるこの場は最適だ。

 望むままに、望まれるままに、威光を示せ。

 

 可愛いだけがぬえではない。

 

 目を開ければ、切り替えは完了していた。

 装備を確認する。特殊技術(スキル)などの不可視化性能を引きあげる伝説級防具『虚ろなる武者鎧(ホロウ・ウォリアーアーマー)虚ろなる武者鎧』。

 3つの神器級武装『鵺の尾蛇』『オーエンの腕輪』『神槍・完幻』。

 これ以上はいらない。これ以上は無意味。ぬえの完全武装だ。

 ちなみに命名は全てぬえである。防具に関しては「無意味な武者鎧じゃね? www」「インビジブルアーマーでいいだろwww」などと馬鹿にされまくったので黒歴史だったりする。

 

「いくか。鵺の恐怖を教えてやるさ」

 

 元より八つ当たりも決めていた。開き直りだ、派手にやってやる。

 スキル『鵺の黒煙』を発動させる。黒煙が身体を包むと同時に、ぬえは一気に駆け抜けた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 至高の41人、封獣ぬえが模擬戦を行うと知って、その栄誉ある相手、叶わずとも観戦をと望んだ者は多い。タイミングが良ければ希望者が跳ね上がっただろう。

 しかし、ぬえの実力を記憶として保有している者は少なく、アルベドはまず知らぬ者らを模擬戦候補より外した。結果、命蓮寺のメンバーやマーレだけが残り、熱望していた命蓮寺のメンバーが担うこととなる。

 

 しかし、いくらぬえを知っているとはいえ彼女らは聖を除けばレベルとして適切とは言いにくいものがあった。

 そこで前座として、総勢500の召喚モンスターを配置。全滅後に命蓮寺全員で応対する。模擬戦の流れはそんな具合だ。

 ちなみにこの数は、アインズが「ぬえさんは狩場荒らしの常習犯でな、張り付いて1000体殺しを達成した事もあるのだよ」などと上機嫌に語っていたせいである。

 

 闘技場には所狭しと蠢くモンスターの群れ。

 観客席には候補よりあぶれたシモベ達──持ち場を離れることが許された者のみ──が今か今かと待ち望んでいた。

 やがて、貴賓席があるテラスの方より、マーレが拡声魔法を発動する姿が目に入る。

 それだけでシモベらから歓声があがり、ゴーレムは足を踏み鳴らした。

 

「みっ皆さま、まもなく至高の41人であられる封獣ぬえ様の模擬戦がお、行われますっ!」

 

 歓声が一際大きくなった。ゴーレムも、どんどん、と足を踏み鳴らすペースを高める。

 主賓の姿見えずとも闘技場は熱をあげていき……

 

 入口より噴出した黒煙にその熱はかき消された。

 

「「「「「!?」」」」」

 

 突如という言葉がふさわしく、勢いよく噴出された黒煙。

 それは飛散することなく粘性を帯びているように宙空に停滞していく。

 黒煙ではなく黒雲というにふさわしいほどに大きくなったそれは、闘技場中央に留まった。

 

 シモベ達は、これがぬえの能力によるものだと確信する。

 確信するが、歓声をあげることすらできず、場に生まれたのは静寂だった。

 声を上げることを忘れるほどに、それは見るものを釘付けにする。

 美醜でも、敬意でも、ましてや威光でもない。釘付けにしている感情は不安だ。

 

 精神耐性を有するシモベですら、心中に生まれる不安。目を離せば何が起こるかわからない。

 正体不明の何か。見れば見るほど不安が燻る黒雲に誰もが目を離せなくなった時。

 

 

『ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 

 不気味極まる叫び声によって、闘技場全体が恐慌状態に陥った。

 

 

 特殊技術(スキル)〈鵺の黒煙〉。

 上位種族『鵺』を習得したものだけが使える、特殊効果スキルだ。

 まず、使用者を黒煙が包みこみ、『回避率を一定時間底上げ』する。

 続いて、『目視した対象全ての精神作用効果耐性を大きく低下させる』。

 精神作用効果無効レベルを3割以上耐性を下げる範囲効果で、凶悪なスキルとして嫌われている。

 もっとも、全状態異常無効が当たり前となっている廃人プレイヤー間では、相手装備無効・破壊を始め、耐性低下スキル、および対策は当たり前のように保有しているのだが。

 

 ぬえの場合、自身の特殊技術(スキル)効果を50%ブーストする壊れ神器『鵺の尾蛇』がある。

 結果、強化された効果により仮に無効レベルまで強化された耐性であろうと最大5割にまで低下するので、単なる精神系の耐性なぞぬえにとっては事実上無意味であった。対策は完全耐性に更なる耐性バフを追加するか、黒煙そのものの効果をレジストする事である。なお、陰陽師系職業相手では基本レジストされる。

 

 今、闘技場を阿鼻叫喚に陥れているものは特殊技術(スキル)〈鵺の咆哮〉。

 黒煙と合わせてのコンボで用いるものだ。効果は『状態異常:恐慌を効果範囲にいる対象者に植え付ける』という単純なもの。

 だが、〈鵺の黒煙〉で耐性低下した者がこれを防ぐのは極めて困難である。「ヒョーヒョー」と聞こえる恐慌の根源は、レベル差補正の激しい観客席のシモベ達にこれを防ぐ手立てなどなかった。

 現状、完全レジストに成功したのはマーレのみ。ぬえの基本コンボを知る命蓮寺のメンバーは最初から効果範囲外……通路奥にいることで回避している。造物主の雄姿を拝む意味を理解しているからこそ、であった。

 

「あはははは!」

 

 観客席をも巻き込んだ、凄惨な闘技場。

 その元凶の黒雲より少女の笑い声が響き渡った。

 満足気なそれは、悪戯が大成功したような、嗜虐性を含んでいる。

 笑い声が響くと共に、ゆっくりと黒煙が薄れていく。正常であれば、中央の人影、3対の翼を広げたぬえの姿を目視できただろう。それを正気で視認できたのは残念ながらマーレだけだったが。

 腹を抱えるように笑っていたぬえは、笑いによるものだろう涙をふき取り、今度は嘲笑う。

 

「お前たち、弱すぎだろ。アインズ・ウール・ゴウンの仲間達に効いた奴なんていないぞ?」

 

 アインズがいれば、間違いなく突っ込んだであろう。ユグドラシルではフレンドリィファイアが無いからだと。

 だが、今の闘技場で反論できるものはいなかった。

 至高の存在からの失望するような声は新たな恐怖を生み、全身の震えを抑えようと身体に爪を突き立てるシモベすらいる。宙に浮かぶ小柄な少女が、どうしようもなく恐ろしかった。

 

「まぁ、いい。じゃあ選別を開始しようか。本番発動前に息絶えてくれるなよ?」

 

 観客席には興味を無くしたように目を逸らし、眼下にいる500の雑魚を一瞥する。

 アンデッドも混ざっているにも拘らず、500全てが恐慌状態を解除できていない。

 

「始めるよ? 〈集団標的(マス・ターゲティング)〉」

 

「〈魔法三重化(トリプレットマジック)上位魔法蓄積(グレーター・マジックアキュリレイション)〉」

 

 ぬえの背中に3つの魔法陣が展開される。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)魔法の矢(マジックアロー)〉」

 

 1つの魔法陣に光が宿る。

 隙だらけだというのに、ぬえを止めるものは現れない。

 恐慌の宴はまだ続いている。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)魔法の矢(マジックアロー)〉」

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)魔法の矢(マジックアロー)〉」

 

 今からやるのは遊び。アインズも簡単に再現できる通常弾幕に過ぎない。

 この程度で死ぬ雑魚など意に介す必要すらない。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)・魔法の矢(マジックアロー)〉……〈解放(リリース)〉」

 

 魔法陣3つより放たれた光弾は計90。ぬえ本人が放った光弾は30。

 合計120の光弾が地上に向けて掃射される。だが、まだ終わらない。

 

「〈魔法三重化・複写魔法(トリプレットマジック・マジック・トレース)〉」

 

 遅れたように、90の光弾が飛び出した。

 210もの光の矢が煌きながら、闘技場に突き刺さっていく。

 無造作にばら撒かれたような光弾は、美しい幾何学模様を描いていることが真下からだとはっきりわかっただろう。残念ながら用意されたモンスターにそのような知性はなかったが。

 

 スケルトンは砕け散り、悪魔の猟犬は身体を分断され、インプは全身が打ち据えられる。

 それぞれが受けたのは1発に過ぎないにもかかわらず、100に近いモンスターが息絶えた。

 攻撃から生き延びてしまったモンスター達はようやく、次々と恐慌から目覚める。

 一斉にヘイトを買ってのけた上空の敵に対し、叩き落さんと魔法やスキルが放たれた。

 数にして400にのぼる攻撃は、文字通りの弾幕と化してぬえに飛んでくる。

 

 対するぬえは、嬉しそうに笑みを深めた。

 期待していた通りの展開だったからだ。

 

「あはっ、いいね。弾幕ごっこだもん。そっちも弾幕でこないと!」

 

 高密度の弾幕をぬえは避ける。避ける。

 笑い声をあげながらも回避する動きに無駄はなかった。

 ようやく正気に返ったシモベ達が、言葉を失うほど、舞踊を思わせる美しさでぬえは避ける。

 

「雑。雑だなぁ! そんなんで当たるわけないじゃん! 〈鵺の黒煙〉」

 

 再びぬえの身体が黒雲に包まれる。

 このスキルは重ね掛けすることはできない。

 削った耐性の持続時間がスキルのリキャストタイムより格段に長く続くため、連続使用は本来なら回避率向上以外に意味のない愚の選択だ。

 だがぬえにとってはこれを使わないと意味がない。これが『封獣ぬえの最初のスペルカード』なのだから。

 

「妖雲『平安のダーククラウド』」

 

 一瞬で十数の低級悪魔が消し飛んだ。

 黒雲から飛び出すレーザーのような魔法が直撃した結果だ。

 元々は数十の光の矢を乱れ撃つ第7位階魔法の無属性範囲魔法。

 黒雲の中に造った複数の光球がさらに複数のレーザーとなって弾け飛ぶ形式へと改造されている。

 

 黒雲はレーザーによって飛散し、ぬえの姿が露わになるが、発動中は常にぬえに纏わりつくため、すぐに元の黒雲に戻る。ぬえにとって再現率が高くお気に入りのスペルだ。

 

 黒雲が晴れる頃には更に100程姿を減らした雑魚の群れが眼下に映る。

 無論、手など休めない。一度乗った調子の波から誰が降りるものか。

 

「あははは! 次いくよー! 〈三つ首のキマイラ〉」

 

 キマイラの特殊技術(スキル)。自分以外の首が新たに2つ生え常時魔法詠唱をしてくれる補助スキルだが、ぬえの首が増えるなんて姿はごめんだった。なので此方は翼が首の代用としてエフェクトデータを課金改造している。

 

 鳥のような鎌のような奇怪な赤い翼から、矢印のような槍のような奇妙な蒼い翼から。

 〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)魔法の矢(マジックアロー)〉が繰り返し放たれる。事前設定の魔法しか使えない、魔法効果減少の欠点があるが、補って余りある便利なスキルだ。

 

 そして、『首』が仕事をしている間に次の準備を終える。

 原作のように、通常弾幕から次のスペルカードへ。

 

「正体不明『忿怒のレッドUFO襲来』」

 

 外装データを赤いUFOに改造された鳥妖怪を複数召喚。

 UFO達はぬえを中心に広がりながら、赤い光弾をばら撒いていく。

 これは完全な魅せ魔法だ。鳥妖怪基準の魔法攻撃だし、UFOなんて受け狙いにしかならない。

 百鬼夜行主の妖怪召喚スキルの無駄遣いと言ってもいい。

 

 だがそれは対プレイヤーに限定される。

 

 ユグドラシルという世界の常識で生きてきたモンスターやナザリックNPC。

 それらが赤い円盤状の何かが絨毯爆撃する様子を見て笑えるだろうか。

 彼らが目にしているのは完全な『未知』である。

 しかもこの鳥妖怪、召喚時間を代償にレベル帯にして70に達する。

 わずか10秒しか現れないUFOの爆撃は60未満のモンスターにとって地獄の宴そのものだった。

 

「あー……やりすぎちゃったかな? まだ2枚目なんだけど」

 

 UFOが役目を終えて消え、三つ首のキマイラも効果を失った頃。

 場に立っているのはアルベドが言っていた70レベル帯のモンスターのみ。

 図書館にいる5体のオーバーロードが共同召喚したアンデッド達だ。

 名前はなんだったか、今のぬえには思い出せない。

 

「ぷにっと萌えさんのスペル活用法は、また今度かな」

 

 まだまだこれからというのに観客のシモベにも申し訳ないことをしたと、ぬえは思わずため息をつく。それはまったくの勘違いであり、シモベ達は文字通り実力の一端に平伏しているのだが。

 空中戦も期待できないので、ぬえは残りのスペルは次の機会に回すことを決める。

 正直観客席への流れ弾が怖かったのだ。障壁魔法ぐらいあるだろうとマーレを信頼はしているが、負担はかけたくはない。

 

「さて……こうなった以上前菜に時間はかけたくないな」

 

 ゆっくりと地上に降り立つ。

 高ぶり続けたヘイト、生者への殺意をそのままに、高位アンデッド3体が躍りかかる。

 直撃すれば、補正の上でも多少のダメージは負うだろう。

 

「〈正体不明〉」

 

 力に任せた3重の一撃は、ぬえの身体をすり抜ける。

 けたたましい音と共に、闘技場の地面がひび割れ揺れた。

 

「私とまともに戦いたければ、第9位階相当の看破スキルを持ってこい」

 

 アンデッド1体の首が飛ぶ。続けて首のない身体が縦に両断され、地に沈む。

 攻撃していた高位アンデッドはもちろん、観客席のシモベ達も何が起きたのかわからない。

 ぬえはその場に一歩も動いてないようにしか見えていない。

 

 この場において、ぬえが何をしたのか理解できたのはマーレだけだ。目撃していれば、命蓮寺のメンバーも理解できただろう。

 スキルが全体に影響していることを知っているぬえは笑顔で一言。

 

「すぐ終わらせるから待っててね、皆」

 

 

 後に録画された映像を見たアインズは「最高に調子乗ってますね」と返し、ぬえに殴られたという。




すごくチートに見えるだろ?100レベルプレイヤーとしては中の下なんだぜ。ぬえの強みは妖怪系スキルと3つもある神器級装備。

・〈鵺の黒煙〉〈鵺の咆哮〉
独自設定。
強そうに見えますが、ネタアイテム扱いの『完全なる狂騒』なんてアンデッドの精神作用効果無効の無効化であって、文章的には耐性0ですからね。アインズ様滅茶苦茶挙動不振になる始末だし。ヘロヘロさんなんか、相手装備破壊しちゃうわけで、耐性を普通の装備で強化してるだけだとやばい事になります。
レベル70越えたら時間停止対策必須になる狂ったゲームなんでチートVSチートが当たり前の世界だと思います。

ちなみに作中言及されている大陰陽師は、大妖怪同様オリ職業。妖怪系スキルを無効化するスキルだの種族妖怪の耐性貫通パッシブだので異形種妖怪の不人気を決定付けたという設定です。
異形種の不人気不遇を考えるとたっち・みーやウルベルトが如何にチートだったか伺えますね。

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