その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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正体不明の帰還

 

 ─ナザリック地下大墳墓・第十階層【玉座の間】─

 

 

 アインズの指示で集められた守護者一同、並び持ち場を離れることを許されたナザリックNPC達。彼らは緊張喜悦はち切れぬとばかりの心境で跪いていた。

 

 ナザリック最高支配者による緊急招集。

 それはナザリックが大きく動くような事態である事はこの場にいる末端の者でも理解できた。なにより、数時間前に一つの情報がナザリック全域を駆け巡っていたのだ。

 

 

 至高の41人が1人、封獣ぬえの帰還。

 

 

 これに喜ばないものがナザリックにもしいるならば、永劫の苦しみを以て処刑する。

 誰も口にすることはないが、誰もがそう認識していた。至高の41人とは、彼らにとって造物主であり、絶対の主であり、存在意義なのだから。それでも、歓喜を言葉にして叫ばないのは、至高の存在の御前だからに他ならない。許しがあるまでシモベ達は平伏す事が当たり前だった。

 

「面を上げよ」

 

 重厚な響きが玉座の間全体に伝わる。

 ナザリック地下大墳墓絶対の支配者であるアインズ・ウール・ゴウンに視線が集中する。ある者はこれだけで更なる忠誠を心に抱く。大勢のシモベから忠誠を一身に受けているのに、毅然にして泰然。王の風格がそこにあった。

 

「まずは、よく集まってくれた。無論、この場にいない者も職務をもって忠義を示している事も私は知っている」

 

 アインズの口から最初に出たのは労い。

 ここに集えなかった他のナザリックのシモベらにも意識を向ける慈愛に、全員が感動に打ち震える。慈悲深き王は全員をはっきりと見渡し、言葉を続けた。

 

「さて。耳にした者もいるであろう、我が友が、41人が1人が、封獣ぬえさんが帰還した」

 

 声をあげたものはいない。だが、一同狂喜の感情は歓声の如く、玉座の間を振動させた。伝聞として受け取った情報は、今、絶対の主によって真実となったのだ。

 

「私は、歓喜を持って帰還を祝いたい。お前たちもそうだと私は確信している。だが、ぬえさんは、自分にはナザリックに帰還する資格がないと嘆いている」

 

 狂喜を打ち消すほどの動揺が走った。

 至高の41人によって作り上げられたナザリックとNPC達。彼らこそ絶対であり、永遠の忠誠を奉げて尚足りぬ至高の御方々。なのに、何故そのような悲しい事を仰られるのかと。

 

 耐えられず、具申しようと立ち上がりかけた者もいたが、アインズはそれを手で制した。理由も併せてこれから語られると悟り、その者は辛い表情を隠さずに姿勢を正す。だが、その者を愚かと叱咤する者もまたいなかった。ぬえによって創造された者だと知っているからだ。その心情は、自分と自らの造物主に置き換えれば痛いほどわかる。

 

「ナザリックこそ至高。一念変わらずとも、結果としてナザリックから離れることになったのだ。その事情は、やむを得ない……否、再び帰還できた事が奇跡であったにも拘らずだ。ナザリックを愛するが故に、今ぬえさんは自身を許せないのであろう」

 

 アインズの言葉に、一部の僕達が涙を流した。

 見捨てられたわけではなかったのだと。離れたくなかったのだと。

 

「では……このままではぬえ様は再び御隠れに……」

 

 だが、アルベドが漏らした言葉に皆が恐怖した。1度得た希望が失われるなど、耐え難い苦痛であった。アインズはその様子を見て、安心させるように再び手で制す。

 

「私はお前たちの忠義を知っている。その忠義を帰還したばかりのぬえさんは実感していないだけだろう。階層守護者各員が代表して、ぬえさんに対する認識を此処で述べよ。それを聞けば必ず改めるはずだ」

 

 忠義を以て繋ぎ留めよ。

 

 これほど、重大で有難い命令があるだろうか。

 しくじるならば、この場で命を絶とう。

 守護者達はこれまでにない覚悟を持って気を引き締める。今こそ、自分たちの忠義が試されているのだと。

 

「シャルティア」

「ぬえ様は、全てを惑わす妖魔の頂点、その美貌も随一でありんす」

 

「コキュートス」

「至高ノ41人ニシテ、戦場ノ支配ニ極メテ優レタ御方。百鬼ノ主ニ相応シキ方カト」

 

「アウラ、マーレ」

「敵に正体を掴ませず、魅力に溢れた御方です」

「す、すごく頭が良くて、かっこいい御方、です」

 

「デミウルゴス」

「自由奔放であられながら、その行動の全てがナザリックの貢献へと繋がる。英雄欺人の体現者とはぬえ様の事かと。そして、ウルベルト様と刎頸の交わりを結ばれた方です」

 

「最後に、アルベド」

「至高の41人の中でも、行動力に極めて優れた御方、何卒、ナザリックへの帰還を」

 

 

 アルベドの言葉に続いて、全員が改めて頭を下げる。

 封獣ぬえの帰還を只管に願う為の姿勢でもあった。

 しばしの間があり、

 

「……ふ、ふはははははっ」

 

 玉座の間に笑い声が響く。発信源はアインズだ。

 思わず、顔を上げた守護者たち。

 視線の先には嬉しそうに笑うアインズがおり、宙に浮く3対の奇怪な翼。

 それは小刻みに震えており、耐え難きを耐えている。そんな印象を受けた。

 

「それは、ぬえ様の!?」

 

 声を上げたのはデミウルゴス。

 わざわざこの場で忠誠を示すよう促されたのだから、どこかで聞いておられるのだろうとは考えていた。だが、アインズの隣で、視認できるまで誰も感知できない状態にいたなど思いもよらなかったのだ。

 

「これで理解しただろう、ぬえさん。さぁ、泣いていないで部下の皆に姿を」

 

 アインズの言葉で、翼の震えがピタリと止み、彼らが瞬きもしない内にぬえが全身を露わにした。何のモーションも、エフェクトもない。ただ現れた。

 それだけで、守護者達はぬえの実力の一端を理解する。無駄がないとはこのことか、と。

 

 アインズの隣にいたぬえは一歩前に進み、改めてナザリック配下を見渡すように顔を上げた。神々しく映る真紅の瞳は潤んでおり、泣き腫らしたような跡も垣間見える。自分たちの忠義を受け止めてくださったのだと、疑いもなく思えるその姿に、思わず涙ぐむ者もいた。

 

「ナザリック地下大墳墓、ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”41席が末席、封獣ぬえ」

 

 透き通るように響いたその声は、男性と思えば男性、女性と思えば女性と聴こえる絶妙な音階。声だけでは、否、姿を見たとしても、その正体を看破することは不可能だろう。至高の41人の中でも『未知』を司る存在、それがシモベ達の共通認識だ。

 

「まずお前たちナザリックの僕達に、謝罪と感謝を。ナザリックを離れたことに、ナザリックと盟主を守ってくれたことに」

 

 頭を下げるぬえに対し、畏れ多いとばかりに場の配下は狼狽える。絶対の主を前に無様を晒すなと叱咤する者はいない。アルベドでさえも息を呑んだように、身を硬直させているのだから。

 

「これほどの忠義を受けて、資格がないなどと言うのはお前たちに対する侮辱だろう。 私は二度と、ナザリックを離れず、盟主アインズ・ウール・ゴウンさん……いや、アインズ様の傍に立つと告げよう」

 

 一瞬の間をおいて、ついに抑えられないとばかりに歓喜の奔流が玉座の間全体を叩いた。むせび泣き喜ぶ者、立場も忘れて立ち上がる者、皆狂喜の渦に身を委ねている。

 

「アインズ様万歳!」

「ぬえ様万歳!」

「至高の41人に永遠の栄光を!!」

 

 万雷の喝采と雄叫び。

 ぬえは、笑顔でその奔流を受け止めており、アインズは悠然と玉座に座っている。

 至高の御方としての姿がそこにはあったが……。

 

≪これは私の望むぬえのRPじゃないです! モモンガさん助けてください!≫

≪評価の通りです、気持ちは痛いほどわかりますが、応えてあげてください≫

≪私のぬえ像はこんなんじゃないんだ────!!≫

 

 〈伝言(メッセージ)〉を利用した秘匿通話ではひたすら悲鳴を上げるぬえの正体がそこにあった。

 




この主人公にとって、カリスマぬえは望むものではないらしい。

・忠誠の儀
いや、やらないと勿体ないでしょうという理屈。

・〈伝言〉の仕様
独自設定。この作品書いてた当時は念話と解釈していたのですが、どうにも通信側は発声しているようで個人間チャットとしては不適切なことが判明。
ただ、秘匿チャット前提の作品なので今更修正することが不可能なので、プレイヤー同士間では〈伝言〉を使用することで秘匿通話が可能という設定にしています。

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