─ナザリック地下大墳墓第九階層『玉座の間』─
今、この場所には守護者を筆頭に選ばれしシモベ達が大勢整列して跪いている。その光景は、魔王が配下を集めたと言った方が適切なものであり、ドラゴンのような巨大なものからアインズが自ら作り上げたアンデッドやぬえが使役する妖怪の姿まである。
「面を上げよ」
跪く全ての者を支配下に治めているナザリック地下大墳墓最高支配者、アインズが覇気を伴う声で告げる。玉座に堂の入った姿で座る彼の隣には、少々着飾ったぬえが新たに用意された椅子にちょこんと座っていた。玉座程豪華ではないが、対になるよう銀と竜牙で作られた椅子は座るものの地位を示すには十分なものがある。
(……椅子とかいらないって言ったのになぁ)
ぬえは内心でぼやく。今の格好も、セバスが「大事な席ですから、より相応しい恰好をお勧めいたします」と衣装を幾つか見繕ったものから、メイド達が着せたものだ。特に羞恥心もないし『可愛い封獣ぬえ』が見れるならと快諾したが、こだわる必要はあったのかは疑問だ。大事な席と言っても、ゲヘナ計画に関わる社長発表の功労賞の場みたいなものであり、デミウルゴスとアルベドに上手い事今後の方針を語らせて次の計画を練っていく。その程度の話なのだが。
ちなみにアインズは玉座の隣にぬえ用の座を用意すると言ったデミウルゴスの提案を歓迎していた。おのれ、巻き込めると喜びやがって。仲間を立ちっぱなしにしたくないという気持ちも伝わるが、上位者RP一緒にやろうという本音も透けて見えていた。
(でも、これ実際1人じゃ耐えられないかも)
何故か目の前にはぬえが帰還した時以上に考えられた整列、配下となっている。集めるだけ集めた雑多な感じとは全く違い、これから戦争を仕掛けると宣言しそうな、そんな集まりだ。アインズの負担が、少しでも減るなら自分もこの状態に不満はない。もとより娘達の為に、少しは上位者として頑張ると誓ったのだから。
アインズによって、功績を挙げた者達に次々と労いと褒賞が授与される。ナザリックには給与制度がないので、どうしようという相談は事前に受けた。望むものを与えようとする形式でも十分だが、そこにぬえが考案した『頑張ったで賞メダル』の授与が付け加えられている。子供のころ、これを貰えるのが嬉しくて無遅刻無欠席など目指したものである。
無論、名称にはそこそこ気を使って持前の中二病から『ナザリック軍事貢献勲章』『ナザリック内政貢献勲章』『上位功労勲章』『アインズ・ウール・ゴウン至高勲章』等色々作り上げた。やはり、功績は明確な形となっている事が好ましい。アインズ・ウール・ゴウンの名が入る勲章は文字通り最高の勲章であり、これを与えられる者は至高の41人から他の追随を許さない程の功績と信頼を築き上げた証拠、ということにしてある。今回至高勲章を得る者はいないが、近い将来デミウルゴスが取ることになるだろう。
(本当はグランドクロスとか用意したかったんだけど……ここ悪のギルドだし)
メダルを受け取ったセバス等が歓喜に震えている。栄誉の証明というものはやはり効果があるようだ。しかもメダルはアインズとぬえ謹製で、2人の魔力が込められているとはっきりわかる代物となっている。偽物防止を兼ねたものだが、シモベにとっては『アインズ様とぬえ様が手頭から作り、授与する勲章』になるわけだ。
授与式が一段落し、アインズとぬえの本命であるアルベドとデミウルゴスによるこれからの方針解説が始まった。シモベ達全員に聞かせるようにと言いつつ、実は自分たちがその知恵の恩恵に与ろうという手段だ。ぬえからすれば素直に頼ってもいいのにと思うが、デミウルゴスがアインズを自分よりも知恵者だと思い込んでるから仕方がない。子供の夢を壊さないようにするのは親の務めであった。
「今回の計画で、王国裏社会を事実上征服できた。既に八本指は完全に掌握しており、後はゆっくりと手を伸ばすだけで王国全土の裏社会は我らの手に収まるだろう」
「うん、素晴らしい」
デミウルゴスの話に満足げに頷く。何故かアインズは疑問符を浮かべているが、ちゃんと話したはずである。裏社会を支配することで得られる財産、情報、人という資源はたまらなく魅力的だ。経済とて立派な力だ。ナザリック本来の財を消費するより、別の所から採れるならそっちが好ましい。そんなぬえの笑顔も、デミウルゴスが放った次の言葉で固まることになる。
「王国裏社会を制圧し、情報網だけでなく、征服の為の足がかりとなる幾つもの手段を手に入れる。これにより、アインズ様の最終目的である世界征服がより一段階進むこととなったわけだ。ここまで聞いてわからなかった愚か者はいないな?」
はい、ここにいます。
などと言えるわけもない。そんな話アインズから聞いたことは一度もない。アインズの願いは、ぬえのようにこの世界に来てるかもしれない仲間を探すというものだったはずだ。最終目的、という表現は確かにデミウルゴスから何度か聞いている。聞いているが世界征服だなんて想定は全くしていない。
≪ちょっとモモンガさん!? なんですか世界征服って!? え、なに? ウルベルトさんやるし★ふぁーさんとかが言ってたネタをこっちで本気にしたの!?≫
≪知りません! 知りませんよ!! 本当どうしてこうなってるんだ!!?≫
皆に悟られぬよう、いつもの秘匿通話〈
アインズの反応から、部下たちが独自解釈かつ独断専行していることは間違いない。だが、これを止められる自信がこれっぽっちもない。眼前のシモベ達皆が「そりゃそうだ」といった顔してるのに、反対なんてできるはずもなかった。止められるとすればアインズだけだが、「覚えていたのか」「もちろんでございます」「あの時のだな?」「そのとおりでございます」などと馬鹿な会話をしている。終わった、世界の皆ごめんなさい。
「ぬえ様、どうかされましたか?」
「あ、ああ、アインズ様ははっきり伝えていたんだなと意外に思ってね……」
「アインズ様の真意を悟り、その為に行動できてこそ最も優秀なシモベですから。私達はそのように動いただけでございますよ」
アルベドは本当美しいなー、サマになってるなー。そっかー、モモンガさんの真意なんて私知らなかったよー、ギルドメンバー失格だー。
現実逃避していても始まらない。アルベドの言葉に頷くように誇らしげなデミウルゴス。褒めて褒めて! と尻尾を振ってる幻覚すら見えた。覚悟を決めて彼に告げる。
「デミウルゴス。アインズ様の真意を悟り、ここまで計画を進めてきたこと、私からも感謝しよう」
「勿体ないお言葉、ありがとうございます」
あ、すごく嬉しそう。デミウルゴスの喜色満面な笑顔にわずかに救われるが、これでぬえもアインズと同罪だ。ユグドラシル時代では冗談で口にしていた世界征服という妄言を、ゲームなどではない一つの現実としてあるこの世界で実行に移すなど正気の沙汰ではない。本気で世界を想うならば、命を賭けても止めるべきだろう。だが、ぬえにとっては世界よりはナザリックだ。これを止められるのは無理だった。
≪どうすんですかこれ≫
≪いやもう覚悟決めて進めるしかないでしょ。仲間に怒られたら素直に2人で土下座しよう? 止められませんでしたって≫
≪……ですね。なんか原因俺みたいですし≫
≪それに、世界征服すれば。転移直後の仲間を即救出とか、想定を広げられるメリットはあるよ。ほら、引退するとき装備とかアイテム全部モモンガさんにあげちゃってるから≫
≪あ! そうか、仲間が見知らぬところに転移してたら危険かもしれないですね。他のユグドラシルプレイヤーなどに仲間が見つかったら不味い≫
とっさに思いついたメリットだったが、アインズは深く納得したようだった。いるかもしれない仲間を探す為、元より手段は選ばない覚悟は決めていた。世界を征服し、完全なる情報網を作成すれば、仲間を無事に保護する確率が高まるのは間違いないのだから。
「デミウルゴス……世界を我が手に納める為の方針だが、お前ならばどうする?」
「はい、今回集まった情報を分析した結果。近隣諸国に所属するという方策は愚策であると確信しました」
ぬえと同じく覚悟を決めたアインズが訊ねると、デミウルゴスはかつて提案した案の撤回を宣言する。話の流れからすると、各国を裏から支配していくのかとぬえは思っていたが、その予想は外れる。
「私は、建国を。ナザリック地下大墳墓という国を作り上げることを進言いたします」
(もっと直接的でした────!?)
デミウルゴスの計画は、かなり大掛かりなものだった。建国を後押しさせるために帝国を利用する腹積もりではあるが、それはこれからまた練り上げていく部分だという。なんでも、フールーダという帝国に属するマジックキャスターの存在が使えるのではないかということだ。一番手っ取り早いのは、皇帝にここまで足を運ばせ建国を認めさせる事だとも話していた。
話が一段落した時にはアインズもぬえも一杯一杯だったのだが、ふと、アインズが疑問を抱く。つい、口に出してしまった事を、後に激しく後悔する事になる。
「デミウルゴス。ナザリックを国として興す事は良い。だが気がかりが1つある」
「どのような気がかりでございましょうか、アインズ様」
「まだ草案でしかないわけだが……国の形式はどうするつもりだ? 現在ナザリックは私が最高支配者として君臨しているが、お前たちの主人は至高の41人全員だぞ?」
「至高の御方々全員がこの場に居られるのでしたら、私はアインズ様が最高君主に座していただき、他至高の40人の御方々には至高議会の名を冠する円卓に就いていただく形式をご提案したことでしょう。しかし、現状はアインズ様の他にはぬえ様のみ」
デミウルゴスがじっとぬえを見つめる。ぬえはなにやら嫌な予感がしてきた。この悪魔を黙らせないと大変な事になると。
その懸念は、当たる事となる。
「まずアインズ様に至高の王として君臨していただき、更にその隣に立つべき王妃として、最もふさわしい存在であるぬえ様がその地位に就かれる事を心より進言いたします」
タグつけてないのでわかってるとは思いますがBLモノじゃないですよ?アインズとぬえの間にフラグは立たないんで。もしフラグが立つとしたら『アインズ視点でのみ精神的BLになる』という稀有な形になりますかね。オーバーロードという世界の「精神変質」ですごく都合がいいことにぬえは完全に女性という自覚と認識があるので、ぬえに性転換特有の苦悩(童貞卒業不可能という自虐は除く)や、羞恥問題というものが全くなく、TS転生ネタが飾り同然なんですよね。それでもこれにした理由は最終回のあとがきにでも説明します。
次回予告 駄目だぬえさん!この提案だけは断固として反対しなければ俺達は詰むぞ!大体アンデッドである俺が子孫なんか作れるわけないだろ!そもそもユグドラシルではキャラビルド制作し直しの転生ぐらいしかなかったじゃないか!どんなに善意の塊だとしても、既に式場が用意されてるとしても!俺達ならそれを跳ね除けられる、さぁ言うぞ「No」だと言うぞ~!次回『正体不明の王手(詰み)』デュエルスタンバイ!