その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

6 / 39
正体不明の苦痛

 ぬえが帰還して3日が経った。

 

 アインズは封獣ぬえは現時点をもって、ナザリック最高支配者である自分の補佐に就く。ナザリックの正式なNo.2として、アインズ不在時の全権代理者とすると発表した。

 至高の41人に明確な序列が出来た形になるがNPCらに不満は生じない。そもそも今アインズ・ウール・ゴウンを名乗っている主は最初から至高の41人の総括に位置していたのだから。

 

 ただ、ひとつ問題が生じた。

 アルベドである。

 

 当初はぬえがアインズの隣に立ち、頻繁に相談しあうという形式を想定していた。だが今までアインズの傍にいたアルベドが明らかに嫉妬したのだ。

 それに気づいたのはぬえであり、彼女から「自分の愛する場所を奪わないでほしい」という懇願にも似た視線を受けたのである。自分がそのことに気付いたことにも驚いたが、他NPCとは明確に違う反応にも驚いた。

 

 どういうことかとアインズを詰問すると、アルベドの設定に手を加えた懺悔を聞くこととなった。ビッチ分が全部モモンガ愛に上乗せされた状態らしい。

 え、至高の41人への忠誠以上にモモンガさん好きなの!? と、ぬえは驚愕。このままでは不和を招いて危険だとは判断する。

 アインズは考えすぎだとも感じたが、ぬえはまだナザリックに帰還したばかりであり、逆の立場なら慎重かつ警戒するのも当然だとぬえの判断を尊重した。

 

「アインズ様の隣はアルベドが一番じゃないかな」

 

 その結果、ぬえはアルベド応援してるよ! という姿勢で、別行動をとることとなった。情報共有は〈伝言(メッセージ)〉または定例会議を設けてその場でという方針だ。

 

 そもそもアインズにとってぬえは見た目が少女だろうが紛れもない男性であり、ぬえも自意識では女性だという自覚があるとはいえ元男だという認識ぐらいは残っている。アインズも生前のぬえも純然たる異性愛者なので、いくらぬえがNPC視点女性扱いだからといって誤解されるのはまっぴらごめんだった。

 

 

 

 ─ぬえの私室─

 

 

 

「それで、デミウルゴスですか」

 

 アインズは定位置となったちゃぶ台の前で胡坐をかいている。

 その服装でよくそんな風に座れるなとぬえは思うが、そこは魔法の服。しわひとつできないのだから、色々と便利な機能もついているのだろう。

 

「ナザリックで最も働いているのがデミウルゴスでしょ? ならこのぬえ様が傍にいることで、モモンガさんが上位者RPしやすいよう情報の逐次提供を行ったり、バランスを図るってわけさ」

「ぬえRPしやすい位置に行きたいからですね? 命蓮寺は……」

「やめろ、あそこはもはやトラウマの地だ」

 

 思い出したくもないといわんばかりにぬえが頭を横に振る。

 自分の作ったNPC達だ、思い入れは深い。命を注ぎ込むように苦労して作り上げた彼女らを可愛く思うのも事実だ。

 

 だが、彼女らは『東方project命蓮寺のメンバー』なのである。

 多々良小傘(たたらこがさ)、ナズーリン、雲居一輪(くもいいちりん)村紗水蜜(むらさみなみつ)寅丸(とらまる)(しょう)(ひじり)白蓮(響子とマミゾウは容量&資金源の都合泣く泣く諦めた経緯がある)。外装データだけでなく、能力すらも可能な限り再現してある。設定欄には原作設定だけでなく、「自分の中の彼女たち」を書き記した。ナズーリンが命蓮寺に住んでいる点などがいい例だ。

 

「忠誠の儀ってなんじゃああああ! あそこは聖がトップでしょうがあああああ!!」

「ぬえさんどうどう。仕方ないでしょう、原作のキャラそのものではなく、貴方が再現したキャラなんですから」

「あんなのってないよ……ぐすっ」

 

 思い出すだけで枕が濡れる。すっかり泣き癖がついてしまい、ぬえとしてどうなんだとも思うが、涙腺は今日も活動的だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─1日前・ナザリック地下大墳墓・第六階層【大森林】─

 

 

「大丈夫、大丈夫のはずだ……」

 

 樹海を一人歩きながらぬえはぶつぶつと自己暗示のように呟いた。

 第6階層に飛んだ直後は、仲間達の凝り性による偉功を再び目の当たりにして感動もしていた。だが、朽ちた村を過ぎ、目的地に近づくたびにその足取りは重くなる。指輪の転移は階層間だけでなく各領域に自在転移が可能だ。それをしないのは、ぬえの躊躇を雄弁に物語っていた。

 

 命蓮寺(みょうれんじ)

 設定は原作のものとほぼ変わっていないが、ここはナザリック。それもギルドダンジョンだ。なのでぬえも、しっかりギミックは作り上げてある。

 樹海の奥に隠されたこの寺は侵入者用のセーフティスポットにしてある。ここに逃げ込むなら、一時の安全を手にできるのだ。だがここにワープゾーンは設置されていない。しかも逃げ込んだ情報は第六階層全域に通達されるのだ。

 

『中に入れば安全だが、脱出時には、此方も殺す準備を終えている』

 

 ナザリックの侵入者が生きて帰るという選択肢など最初から与えられていないのである。偽りの希望を与えて絶望に叩き落すというぬえの案はウルベルトには好評であった。残念ながら活用される機会はなかったが、引っかかった者の怨嗟や恐怖の声は是非聞きたかったと思わず笑みが浮かぶ。

 RPではなく、素でそう考えていることにふと気付くが、ぬえらしさが出るならそれもいい。ぬえは悪戯好きだが、無害な木端妖怪ではない。大妖怪なのだから。

 

「ああ、着いちゃったか。うん、覚悟を決めよう」

 

 古木で組み上げられた、簡素ながらもしっかりした門と地蔵ゴーレムが視界に入る。門をくぐれば、灯篭ゴーレムに石畳の参道、そして緑灰色瓦の本堂が出迎えていた。

 

 再現には苦労したが、鐘撞き堂など仲間たちが手伝ってくれたおかげで立派な寺院となっている。侵入者が本堂に駆け込めば、鐘が鳴り、ゴーレム達が休眠から戦闘待機状態に移行する。彼らが本堂で歓迎を受け、門をくぐって帰ろうかというタイミングで、集った獣と合わせて総攻撃が入る仕組みだ。

 

「ぬえだよー! ただいまー!!」

 

 本堂に向かって大声を張り上げる。努めて明るく、元気のいい声だが内心は覚悟と懸念と恐怖と僅かな希望が占めている。

 ぬえとしては、ここで「おかえりなさいぬえ」と聖が笑顔で出迎えてくれる。

 そういう光景を望んでいたのだが。

 

 

「「「「「「お帰りなさいませ、ぬえ様!!」」」」」」

 

 

 本堂から飛び出してきた白蓮、続けて星、ナズーリン、小傘、一輪、村紗。

 ぬえが作り上げたNPC全員が石畳の前で跪いた。

 覚悟など一瞬で吹き飛ぶ違和感の暴力である。

 

「ぬえ様のご帰還、私は信じておりました……命蓮寺管理官、聖白蓮。恐懼感激にございます」

「!?」

「ぬえ様、管理補佐寅丸星も同じ想いにございます。いえ、皆同じ気持ちで幸せを噛み締めております」

「!? !?」

「ぬえ様、この小傘、門番の務めを放棄していた事をお許しください。我らの忠義、同時にぬえ様にお伝えしたかったが故に、こうして本堂にて待機しておりました」

「……! ……!? (パクパク」

「ぬえ様、管理補佐ナズーリン。漸く務めが叶うものと感謝の極みにございます。貴方様が望まれる、すべての物はこの私が探し出し、手に入れてまいります」

(モモンガさん、助けて、助けてくださあああい!!)

「ぬえ様!!」

「ぬえ様~~!!!」

 

 どう受け答えしたか、ぬえはよく覚えていない。

 ただ、思わずこぼれた涙を再会の感涙だと誤解され、益々喜ばれたあげく、「我らぬえ様の直属部隊。いかようにも使いつぶしてください」と白蓮が笑顔で言った時点でもう真っ白だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─時戻り、ぬえの私室─

 

「100年前、東方を愛した方々にどう詫びればいいんだ……」

「気持ちはわかりますよ、私もタブラさんに会ったら間違いなく土下座しますから」

 

 皆には悪いが、次に会うのは傷心が癒えてからにしたい。精神作用無効がないのが悔やまれる。幸い、彼女らは造物主であるぬえに他のNPCよりも強い忠誠を向けている。ぬえRPをキープしても、全く問題はないだろう。彼女らがぬえの前では原作再現しないだけで。

 アインズも同情するが、さすがにこのままでは話が進まない。切り替えるように話題を戻すことにした。わざと咳き込むと、ぬえも理解したのか切り替えたように頭をあげる。

 

「それで、デミウルゴスを手伝うんですか?」

「形式上はデミウルゴスが私の補佐だね。私の性格把握してるようだから、楽だと思う」

「デミウルゴスは頭良すぎますから、上位者として気を付けてくださいね」

「アルベドを傍に置いといてよく言うね~、大丈夫さ。寧ろ相談したい事が多いぐらいなんだから」

 

 調子に乗った雰囲気で笑みを浮かべるぬえに、アインズは一抹の不安を抱いたが、それは振り払う。ぬえがRPに徹してる時は、要するに余裕があるということだ。

 自分のように行き当たりばったりで取り繕うのに必死ということはないだろう。

 

「それでなんだっけ? 今のナザリックの進行プロジェクト」

「リザードマンの村を襲撃する、というものですよ。ちょっとテストも兼ねています」

 

 




命蓮寺NPC達の出番はあんまない予定です。主軸に据えるシナリオはありません、ご安心?ください。

時系列は書籍版4巻、リザードマン編に突入します。
デミウルゴスとの親睦メインになりそうですが。

追記
割と命蓮寺NPC達の出番増えました。申し訳ありません。

・ナザリック第六階層【大森林】
全階層でもナザリック最大の敷地面積である樹海。
空があり、昼夜の概念がある。夜空設計はギルドメンバーのブループラネットが手掛けた。
最大敷地面積なだけあって、様々な領域があるが、主に使われるのは闘技場。
第6階層守護者であるアウラとマーレの住処はこの階層にある巨大樹をくり抜いた家。

・命蓮寺
独自設定。
何のトラップも仕掛けられていない花畑と違って、しっかりトラップが用意されている。
第六階層はとにかく広いので、闘技場以外にも1か所に集められるような領域が必要だろうという建前の下で封獣ぬえが制作した。

・命蓮寺NPCたち
封獣ぬえが手掛けたNPC達。書き込まれた原作再現設定よりも忠誠心が先にある為ぬえは泣いた。
ここまで侵入してくる存在は基本レベル100である為、主戦力は聖ぐらいなものである。他のレベルが低めなのは、油断を誘う為でもあり、命蓮寺敷地内に押しとどめる遅延戦術を主眼に置いている為でもある。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。