オー〇ーロード風艦これ、抜錨します!
※9月22日 大幅に話を変更しました
VR、体験可能な仮想空間の構築、五感に働きかけて得られる没入感などを利用して人工的に現実感を作り出す技術を使用したゲームが登場してから数年。その技術は年々進化を遂げていた。
ほんの少しの前まで大がかりな機械が必要だったが、今ではヘッドセットとソフトを読み込むための機械、そして一般的なネット回線があれば家庭でも気軽に遊べるようになっている。世間にはありとあらゆるジャンルのゲームが溢れ、ゲーム会社は他には無い趣向をこらした設定と世界観で売り上げを伸ばそうと必死だった。
そんな万を超えるゲームの中に、「艦隊これくしょん」、通称「艦これ」というVRゲームがある。
艦娘とよばれる軍艦などを擬人化したキャラクターを集め、それらを育てて敵である深海棲艦と戦って勝利するコレクション要素を加えた育成シミュレーションゲームだ。
が、このゲームは残念ながら人気が出なかった。というより、現在も風前の灯レベルでプレイヤーがいない。原因はシミュレーションゲームならではのシステム的な問題が絡んでくる。
そもそもシミュレーションゲームでは直接のアクション要素は必要とされない。無論、コマンド入力や数値入力は必要だが、剣を振り回すとか拳で殴るとか言った要素はないのである。つまり、端的に言ってしまえばわざわざVR技術を使って仮想現実でやる必要が無い。
世界観はシーレーンが深海棲艦によって破壊されてヤバいから、艦娘率いて救っちゃおうぜ的なゆるゆる設定できちんとしたメインストーリーもなく、レベル上げや収拾要素があるとはいえ与えられるのは日替わりか週替わりの任務だけ。
はっきり言ってすぐに飽きる。もうこれVRにする意味あるの?レベルであった。もしこれがブラウザゲームだったなら、本当にそう思わずにはいられない。きっと大人気過ぎてサーバーも抽選とか、メディアミックスでアニメ化とかいう未来もあったかもしれない。
加えていくら艦娘が運営が魂を込めて作成した見目麗しい美少女たちでも、あまりにもプレイヤー(提督)に与えられる自由が低すぎた。建造、開発、進軍等々許可する要素は多くても、動きまわれるのは執務室とその隣に設けられた私室のみ。部屋を自分好みに改装することは出来るが、そもそもそれは本来の楽しみたい要素ではない。さらに言えば、私室が移動できるようになったのも最近の事である。艦娘との触れ合いなんてもってのほか。倫理コードなどの関係もあって、一定の距離以上近づくことも禁止されている。
おまけに折角のオンラインゲームであるにもかかわらず、他のプレイヤーとの交流要素は「演習」とイベント時の特別クエストのみ。二度目になるが、本当にこれVRの意味あるの?レベルであった。
が、「艦隊これくしょん」の一番の目玉は見目麗しい少女たちが勇ましく戦う戦闘シーンである。勿論プレイヤーも期待していた。その結果は、現在のプレイヤー数が雄弁に物語っている。
VRなど知るかと言わんばかりの旧式の戦闘システムと決められたセリフ。シミュレーションゲームとしての最低限の体裁は整っているものの、それはVRゲームに慣れたプレイヤーにとっては味気なさ過ぎた。きっとビジュアルに力を入れすぎた結果、会話用のAIや高度なAIが予算的に積めなかったのだろうというのがプレイヤー達の考察である。
ただの判子押すマシーンの提督であるプレイヤーと機械的に出撃と報告を繰り返す艦娘(NPC)。これでは飽きるのも致し方なかった。無論運営もプレイヤーが離れていくのを黙って見ていただけではない。建造や開発で使う基本資材諸々と高速修復材などはゲーム内で手に入れることも出来るが、もともと課金対象だった。だが、資材に関しては容易に手入れられることもあり、殆ど課金している人はいない。メインの課金対象はやはり応急修理要員や母港拡張などのサポート的な要素だ。が、これも現在の状況で残っているようなプレイヤーはとっくに上限まで課金しているものが殆どである。
つまり運営が課金要素を増やそうと画策しても、増やせるところなど今更無かった。ゲームコンセプト的にもガチャなどは不可能。運営は課金に期待することを諦めた。
それならばと期間限定イベントや多数の艦娘の追加など、色々な手を打った。バレンタインデー限定イベントとか、一部のアニメとコラボイベントとか世間の目を惹こうと頑張った。だが、結果は惨澹たる有様である。
結論はやはりそもそものシミュレーションというジャンル自体が、VRゲームにそぐわなかったことに落ち着いた。ルーチンワークじみたクエストを無駄に現実に似た仮想世界で体験したことで、己が現実のブラックさを思い出して泣き崩れたプレイヤーもいたほどだ。
だが、いかに過疎っているゲームにもやり続けているプレイヤーは少数とはいえ存在する。最早心の友と言っても過言ではない同じく少数のプレイヤーたちと飽きもせずに今日も演習を繰り返し、勝利の二文字が浮かぶモニタを閉じるこの男もそんな希少なプレイヤーの一人であった。
◇◇◇
男の私室は洋風な執務室とは反対に和風にかつ質素にまとめられていた。
畳の上には黒塗りの座卓が置かれ、床の間には昇り竜の掛け軸と置物として日本刀が飾られている。床脇には同じく置物として小ぶりの冷蔵庫、金庫と畳まれた布団が鎮座していた。和室とは言っているものの入り口は横開きではなく、執務室と繋がっているため開き戸(鍵付)であったが。
痺れなどあるはずがないのに、日頃の癖で足を少しばかり揉んでから立ち上がる。戸を開け執務室に入り、重厚なデスクに腰を下ろすために足を進めた。システム上で入ってくる姿を確認したのだろう、秘書艦に設定した加賀と大淀―元・任務娘―が立ち上がり頭を下げようとするのを、ひらりと手を振ってキャンセルする。
NPCである彼女たちが反応するなどということは、サービス当初では考えられなかった。「艦これ」も進化したなと思う一方、他のVRゲームではこの程度のことは当たり前らしい。
椅子に座り、目の前に開いたモニタにちらりともう一度目をやる。今日のデイリー任務もすでに終わってしまった。イベントの配布も新マップの追加も無くなってしまった今、資材は貯まるばかりだ。給料を注ぎ込み限界まで拡張した保管庫はどれも上限まで埋まっている。フレンドである他の提督から演習のお誘いもない。つまるところ、惰性のように私室から出てきたがすることが何もなかった。
深く椅子に腰かけ、目をつむる。ゲームを始めたきっかけはほぼ一目ぼれに近かった。
何気なくサーフィンしていたサイトでたまたま見たβ版のお知らせ。紹介動画をクリックすれば、軍艦の名残を残した少女たちが得体の知れない化け物と戦うシーンが映し出された。躍動感あるその戦闘シーンに引き込まれた。軍艦が美少女の姿をしていることに無限の面白さを、育てて戦わせることに加えてコレクション要素もあるので長い間きっと楽しむことが出来ると思った。
が、結果は動画であったような戦闘シーンではなくただのカットインと台詞のみ。「詐欺だ」と一時期掲示板が荒れ、運営には非難が殺到した。確かに自分も相当がっかりはしたが、それでも熱は冷めなかった。むしろかえってやる気が高まったといってもいい。そんながっかり度合でスタートした「艦これ」だが、最初はそれなりのプレイヤーがいた。
それも一月経ち、二月経ち半年が過ぎると今と変わらない程の悲惨なプレイヤー数になっていた。ジェットコースター並みの軌跡を描いて、経営状態は悪化していったのだ。今日で丁度三周年、はっきり言ってよくここまでもった方だと思う。古参プレイヤーばかりということでこれからの追加課金もあまり見込めない今となっては、おそらくもう一年過ぎるよりサービス終了の方が早い。
今日だってすっかり顔馴染みになったβ版からの付き合いであるプレイヤーたちと、三周年お祝いの演習をしてきた。ガチの演習ではなく自身のコレクションを自慢するような意味合いが近かったが。
きっと彼らがいなかったら一目ぼれして始めた自分ですら、とっくに止めていただろう。それともイベント等が更新されない今となっては、そろそろ止めろという運営からのぶぶ茶漬け的なメッセージなのだろうか。
再度口から溜め息がもれた。何となく執務室に来たものの、用事は特にこれといってない。ふと目を横に向ければ窓に自分の姿が映っていた。現実とは違いせめて仮想世界では青春時代の若い姿でいたいと思って作成したアバターは、驚くほど昔の自分に似ていた。日本人にならよくいる黒髪黒目、他の人と変わった点を挙げるとしたら背が低い事くらいしかない。如何に自分が凡庸なパーツで構成されているかをまざまざと見せつけられた気がして、また溜め息がもれる。
することも無くなった今、明日の仕事に備えてログアウトしようとメニュー画面を開き――
「えっ」
男は今まさにボタンを押そうとしていた指を止めた。あれかな、俺疲れすぎてあり得ないものを見たのかとそっとメニュー画面を閉じる。そして、深呼吸。
意を決してもう一度メニュー画面を開く。……変わっていない。
男は画面を食い入るように見つめた。
丁度ログアウトボタンに重なるようにエラー娘が立っている。別名「妖怪猫吊るし」と呼ばれている猫を抱えた少女。通信エラーの時に出てくるNPCキャラの一人だが、何でここにいるのか、男は落ち着こうとするものの未だかつてない事態に混乱を隠せない。そんな様子を嘲笑うようにエラー娘はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
怖々と指を伸ばして触ってみる。ぷにっとした柔らかい感触が指先から感じる、がログアウトボタンを押すことは出来ない。ディフェンスでもしているかのように、エラー娘が邪魔でログアウト出来なかった。
何度も泣かされてきたエラー娘のにやにやとした笑顔にいらっとした男は、一度メニュー画面を閉じることにした。ボタンが押せない今、運営に連絡を取ることも出来ない。まあ、偶にある通信トラブルかもしれないから時間が経てば解決すると、一抹の不安をかんじながら自分に言い聞かせる。
閉じようとした瞬間、今度は何もない空間から羅針盤娘がひょっこりと顔を出した。
艦これにおける二大裏ボスが勢揃いである。何度もこの羅針盤娘に泣かされたことだろうか。ボスマスにたどり着けず艦隊を帰投させたことも数知れず、プレイヤーの真の敵はこいつと言ってもいい。
「はっ?」
「羅針盤回すよー!」
「ちょ、待って……」
NPCである羅針盤娘が空間が出てくるという出来事に理解が追いついていない男をしり目に、羅針盤娘はやる気に満ちた声で針を回し始める。そもそも羅針盤は回すものじゃないという突っ込みを入れる間も無く、カラカラと針が勢いよく回っていき――
「行ってらっしゃい!」
そんな声と共に男の意識はぷつりと途切れた。
つまりエラー娘が全部悪いでファイナルアンサー