筆者は思う。
現実ほど残酷なものはあるまい、と。
それは人を苦しめ、悲しませる。
彼の魂は何処にあるや。誰が彼を救うことができようか。
答えは誰も知り得るまい。
筆者は筆を置いた。
彼は笑った。さも愉快そうに。そして独り言ちた。
「私も知らないのだからね」
さて、彼は最愛の人にさえ裏切られた。何人こそ彼の信用を得られるであろうか。
最も冷たく、残酷な仕打ちに、誰が耐えられるだろうか。
友よ。
人は孤独である。
その時彼女は言った。
「私たち、もう無理だよね。」
俺は声を絞り出す。
「あ、あゝ。」
声は弱々しく、掠れてさえいた。
「好きだったよ。」
咄嗟に言い返す。
「俺も、だ。好きだ。」
彼女の顔が醜く歪んでいく。
「もう、遅いよ。」
続けて言う。
「遅いんだよっ!いっつも、いっつもさあ!」
彼女の怒声が轟く。
彼女は泣きだした。
「貴方は、比企谷くんは…一度も、一度も愛してるって言ってくれなかったじゃない…」
俺は、やっとの事で言った。
「ごめんな…」
「それに、私が初めて貴方の家に行った時以外、名前を呼んでさえくれなかったじゃない。」
彼女は小さな、震える声でそう言って、駆け出していった。
足が崩れた。
目に涙が浮かんだ。
其処には天地を揺るがす程の慟哭が響いた。
彼は玄関のドアを開けた。
彼は疲弊しきり、足にもう力はなかった。
暗い。待ち人はそこに居らず。
彼はふらつく足で、暗がりの中を歩いた。
何かにぶち当たる。
彼女のお気に入りのソファー。いつか彼女は言った。
「このソファーは貴方より愛しいわ」
彼はソファーに倒れこみ、この清潔な、思い出のあるソファーを抱きしめた。
彼は静かに涙を流した。
部屋の明かりをつける。
彼女の残していった手鏡。
俺はそれを床に力一杯投げつけた。手鏡は四散した。
ガラスの砕ける音。心の砕ける音。
彼は死にたかった。
ナイフを台所から取り出し、ソファーに斬りつけた、羽毛が舞う。
彼は絶叫した。
彼女に買った真珠の指環。
彼は叫び声をあげた。 狂っていた。彼の目からは正気の光が消え失せている。
ハンマーを取り出し、何度も、何度も、何度も殴りつけた。
そして頭を壁に何度も、何度も打ち付ける。
「アァァァ」
頭からは血が流れ出、涙と、血と、醜く混ざり合うのだ。
彼の膝は崩れ落ちた。それでも頭を打ち付け、そして拳を床に叩きつける。
死のう、死のう、死ななければならぬ。今、すぐにでも!
「ああああああああ」
彼は叫び続けた。
涙を流した。
ふと正気に帰ると、それは曲がり、欠け、ぐちゃぐちゃになっていた。
彼は酒を煽った。
ビールを飲み、ワインを浴びた。
酒は頭に沁み、さらなる痛みを彼に与えた。
身体は酒に包まれた。
彼は途端に吐き気をおぼえた。
吐瀉物を床にぶちまける。
彼は吐瀉物に顔を埋める。
彼はラジオを付けた。テレビなど見ようとは思えなかった。
ある曲が流れる。
「忘れてしまいたいことや…
彼は酒を飲み続けた。全てを忘れるために。何を忘れたいか、それさえも忘れるために。
筆者は思う。
人は醜い。醜く、虚無的な存在。
生になんの喜びがあろうか。