最高傑作、だと自分では思っています!
その後、一色の家で少し寛いでから帰った。俺には一色は勿体無い。だから、思いにも答えられなかった。
死ぬ気はもう湧いてこなかった。ただ、一色や葉山に説得されたことより、死ぬことさえ許されないのか、という思いが強かった。
その後、俺はどうしたのだろう。
時の流れに、運命だ何だと喚きながら流され、ごく平凡に就職し、ごく平凡な妻をもらい、ごく平凡に生きた。そしてごく平凡に死んでゆくのだ。今、こうしているように。
自らの身体は最早疲れ切っていた。長い道を走ってきたような気がする。良いことも、勿論あった。悪いことも、同じくらいに。不思議と後悔は、いや、ある。何の役にも立たない後悔が、胸の中を、こんな時にも支配し続けている。
予感を信じていた。
きっと誰しもが幸福になれると。だが実際どうだろう。誰も、誰も幸福とはなり得なかった。そうして全てが消えていくのだ。
ああ、眠い。
「お爺ちゃん!」
孫がきたようだ。自分とは似ても似つかない、よくできた孫だ。
「瑞稀…か?」
掠れた声しか今となっては出ない。
「そうだよ」
それっきりお互い何も話せなくなる。この孫に自分はどれだけのことをしてやれただろうか。息子にもそうだ。自分がしてやれたことはほとんどなかったような気がする。
「それは違うよ」
孫が、唐突にそう言う。
「多分、違うよ。」
「そうか…」
この孫には、全て伝わっているのだろう。きっと。
伝わっていなくても構わない。こんなことは。
「夢を、みた」
言葉が口をついていた。
「昔の、、あの日の…」
言葉は事実に対し余りにも軽薄だ。その事実を汚すかのように。
しかし、思い出は汚されない。それが辛いものであっても、輝かしいものとなっても。
「空が、澄んでいるな…」
「うん」
「お父さんに…棚を…」
陽乃の娘ならわかるだろう。あの人の娘なら…。
全て。
思い出すのはあの教室であった。
風に吹かれたカーテンと、静かに座っている彼女、そして携帯を弄っている彼女。
彼女が微笑んだ。
眠い。ふとそう思った。
「…うん」
お爺ちゃんが何を夢見たのかわからない。
ただ、多分、自分の知らない人たちのことだろうと思う。お婆ちゃんが昔言っていた。自分もあの人の過去は知らない、と。
不思議な人だった。どこかひねくれていて、でも素直で。
小町大叔母にきけばわかるかもしれない。
でも、あの人は言わないような気もする。
棚のなかに入っていた手紙は二通。普通の手紙だった。
ただ、この手紙を見た時、お爺ちゃんが何をしたかったのか、わかったような気がする。
ご愛読、誠に、ありがとうございました。
引き続き、比企谷瑞稀が主人公の「やはり彼の青春ラブコメは…」をお楽しみいただけると幸いです。