彼は呆然としていた。
自らの無力さを恥じた。
何も守れない自分を。
ビールをまた一缶空けた。瓶をラッパ飲みすることもあった。
全ては全てを忘れんとするためであった。
ピーンポーン
来訪を告げる音が虚ろな空間に響いた。
「ひっきがっやくーん!」
…
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
「おっらぁー、比企谷くん!出て来なさい!」
彼はのそりと起き上がって邪魔者に一言浴びせようとした。
ガチャリと玄関のドアを開けた。
ドサリ
尻が痛い…
押し倒されていた。彼女はポロポロと涙を落とした。
「比企谷くん…心配したんだよ…3日も…音信不通で…ひぐっ…」
抱きしめられた。
俺はこれほど暖かいメッセージを知らない。
「もう、、何処にも、行かないでね…」
「おい、常陸…さん…」
「紀香って…呼んで…」
「…紀香、さん…」
彼女は抱きしめる力を強くした。
女性の力は元来強くはない。しかし、この抱擁は、何よりも強いもののような気がした。
思えば大学に入ってから、この同級生はいつも誘ってきた。何度断られても、何度蹴られても。
何よりも愛しかった。
今は許されるのかもしれない。
彼女を、ギュッと抱きしめた。
「ほら、立てる?」
「自分で、できる」
「じゃあ、片づけよっか」
部屋には酒瓶や、空き缶が散らばっていた。
赤面した。
「顔赤くしちゃって、可愛い」
そう言って頬を突いてくる
「う…あざとい…」
唐突にある女性の顔が浮かんだ。
卒業式の日に、想いを告げようとした、あざとい後輩。
彼女は今どうしているだろう。彼は窓越しに空を眺めた。
「なにやってるのさ、ほら動くっ!」
今日も都会の夜空に星は見当たらない。
ビルの灯が煌々と輝いている。
無機質な世界。
無意味な現実。
無感情な真実。
生きる意味などあるのだろうか。
彼は思う。
彼女にかけてみよう。生きている限りを。
虚ろな世界に正気が戻った。
その夜夢を見た。
由比ヶ浜は笑っていた。俺に手を振っている。いつかみた笑顔で。
ただ、静かに手を振っていた。
駆け寄ろうとした。
彼女は踵を返して歩き始める。
慌てて追った。
彼女はゆっくりと歩いている。しかし、距離は広がるばかりであった。
声の限り叫んだ。
「待てよっ!」
目が覚めた。久々の大学である。
目の隈は取れていた。ボサボサになっていた頭髪を整える。
朝食はトーストとマックスコーヒー。
暫く振りにのんだマックスコーヒーは変わらない、昔と同じ甘さであった。
食べ終わった俺は玄関のドアを開ける。
彼女が待っている。
彼女は言った。
「おはよう」
ありがとうございますー!