神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜 作:S.Hitta.
「捕り抑えろーっ!!」
「親父ーっ!どうしてっ!?何故こんなことをっ•••••なんとか言ってくれよー•••••親父ぃ•••ぐっ」
「2時50分、東雲蓮刀逮捕っ!」
本当の親の様に最も信頼していた人間に売られ、力なく頭を垂れて、国の犬共に大人しく連行される。冷たい雨が激しくアスファルトを打ち付け、濡れた僕の黒髪から雫が落ち、同時に頬から別の雫も落ちる。涙を流したのは実に7年振りだった。
「起床っ!!」
冷たいコンクリート壁と鉄格子に囲まれている六畳の部屋にトイレがあるだけの殺風景な空間。
そこには僕と《8番》と呼ばれる中年の男。
布団を三つ折りに畳み枕を乗せて部屋の隅に寄せる。そして格子の方に身体を向けて胡座を描く。
「点呼ー!!」
朝からよく響く看守の大声。鬱陶しいこと極まりない。偉そうにジャラジャラ腰につけた鍵を鳴らしながら歩く中年太りの男。
六つの檻に入れられたソレ達は順々にそれぞれ振られた番号を述べていく。
点呼が終わると朝食の時間になる。今日の朝のメニューは味噌汁、カチカチご飯、ぼそぼその魚と漬物。量も少なく、魚は何の魚かも、もはや分からない。
その後、通称運動の時間。昔は留置の運動時間だけはタバコが吸えたらしいのだが今は吸えず、髭剃りと爪切りをして、15分外に出るだけだった。何の運動なのか良く分からない。運動から帰ると本を3冊まで借りられる。その本を読みながらお昼を待つ。
昼のご飯は食パン三枚にジャムと紙パックジュース。今時、保育園でもこんなもん出されない、等と思いつつ黙ってパンを齧る。そうしてまた夕食まで本を読みながら時間を潰す。
10日程前からこのサイクルは僕の日常になっていた。あと一月もすれば裁判も終わり刑期が決まり、新しい寝床....もといムショへ移動する。何もない、何も起きない、何も変わらない、そんな毎日......のはずだった。
その日の就寝時間
「点呼ーっ!!」
朝と同様喧しい大声で看守が喚く。未決者の俺たちは順々に番号を呼ばれ吐き捨てるように返事をする。
「10番!」
「はい」
「11番!」
「•••••」
「おい!11番!返事をしろっ!」
「••••••」
「貴様何をやっている!独房に移されたいかっ!?」
何やら看守と揉めている。
《11番》
前に地検移送の時一度だけ見たことがある。金色短髪で背の低い色白の若者。常に目と口元は弧を描いた様な生意気そうな顔で僕と同年代くらいの奴だ。
「11番!これが最後のチャンスだ。返事をしろ。」
「ふふっチャンスなんていらね〜よ」
「きさっ、うぉあっ」
パン!パン!
聞き慣れた、しかし此処では聞くはずのない渇いた音がコンクリートで囲われた房内に響いた。なんだ?
パパパパパパン!
パパパパパパン!
格子の向こうで黒ずくめの武装した奴が視界に入った。まずいな。
僕は咄嗟にトイレの前にあるアスファルトで出来た仕切りの向こうへ飛び込んだ。
「おっ、おいっ!」
パパパパン!
「ぐほっ、」
《8番》は撃たれたな。
ガチャガチャ、、パン!パン!
黒ずくめが檻の鍵を壊して中に入ってくる様だ。恐らく僕を殺りに。そのやり取りの間にも渇いた音は止まなかった。
(なんだっ!何が起きている?意味が分からない!落ち着け.....なんでこんな事になってんだ!!!)
ガラにもなくテンパりすぎてゴールのない一人問答を繰り返す。とにかくっ、考えてても仕方ない。だが、こんな処で僕はまだ死ねない。僕の生きている理由を、ある目的を果たさなければ成らないのと、親父の真意を知るまでは。
トイレ掃除をするブラシを手に取り、それを放り投げる。
パパパパパパン!
投げた瞬間に逆の方から飛び出し黒ずくめの銃を左手で叩き身体を回転、そのまま右の肘が綺麗に顎に入る。怯んで後ずさる相手を前蹴りで倒し、マウントを取って顔面に3発右の拳を叩き落とす。もう完全に黒ずくめは動かない。だがまだ終わってない。
そのまま黒ずくめの銃を取り上げ、顔を上げた瞬間、格子の向こうに居る、もう一人の黒ずくめがこちらに銃口を向けようとしている。瞬間、後ろに飛び、海老反りの体勢のまま銃を放つ。
パパパン!
油断は全くできない。急いで先程黒ずくめが抉じ開けた格子の扉に近づき一瞬顔を出し確認する。
?
黒ずくめ達はもう既に格子の向こうで倒れていた
油断はできない。銃を構えたまま静かに檻の外に出る。こうなればこの後は二択。このままバックれるか、危険なくデコ(警察官)に保護を求めるか。答えは決まっている。前者だ。静かに、そして迅速に、檻の外の廊下を階段に向かって移動する。隣の檻の中では、やはり二人の未決者が仏になっている。何でこんな事になったんだ。仮にも此処は警察署だぞ国家権力の巣だぞ。何がしたくてこいつら(黒ずくめ)はこんなことをした?いや、今は考えてても仕方がない。とにかく急いで此処を出よう。そう思いながらその隣の部屋に差し掛かった瞬間。
パパパパパパパパパパン!
檻の中からの銃撃を間一髪後ろに倒れこみながら避けた。今のは死んだかと思った。ふざけやがってこの野郎。体勢を立て直し銃を構えながらすり足で檻に近づく。すると
「おい、お前。コッチ側だろ〜?」
?
「撃たねーから、ゆっくり近づくよ〜」
檻の中からいきなり声をかけられた。銃をしっかり構えたまま様子を見る。
「やっぱりそうか〜」
「《11番》っ!」
ニヤニヤしながら現れる全身血まみれの金髪頭。
僕の他にも生き残れた奴が居たのか。
「まさか俺の他にも生きてた奴がいたとはね〜」
「同感」
「たしかおたく《7番》だっけ?」
「そう。よく覚えてたね。」
「一度会った時あるし、そん時仲良くなれそーだな〜って思ってたからさ。」
「そうか?そんな血まみれの奴と仲良くなれるとは思えないけどね。」
同じ境遇の《仲間》?と出会いホッとしながら談笑をする。それと同時に警戒。
何故、此奴はあの状況で生きていられる?運が良かった?それとも僕と同じ穴の狢か?なんにせよ只者じゃない。こいつは1人で四人殺っている。間違いなく殺すつもりで殺っている。防衛本能とか、咄嗟にとか、そうゆうレベルでは四人も殺れない。幾ら罪人だからと言って通常一般では人を撃つ時に、必ず恐怖や不安で一度躊躇う。こんな簡単に人を、それも四人も殺せないはずである。よってこいつは警戒に値する。
「それはお互い様っしょ!とりあえず〜、バックれとく?」
「だなっ」
とりあえず警戒しつつ、此奴と共に此処を出よう
油断せずに階段を降りる。黒ずくめの奴等が殆ど道を作ってくれていたから、留置所の扉も階段の前の扉も鍵が全て解放されていた。しかし腑に落ちないのは全く誰にもエンカウントしないこと
黒ずくめはともかくデコ(警察官)にも全く合わないのだ。疑問に思いながら、いつもならワッパ(手錠)をかけながら列になって進む護送車等が停まっている駐車場への扉に着く。
「ワクワクすんな〜行くよ?」
「油断はできないよ」
「お堅いねー《7番》君は〜」
「トラブッても助けないよ《11番》君」
軽口を叩き合いながら息を戻す
「行くよ〜」
ガチャンッ
扉が開く
すると辺りは夜の筈なのに眩しいくらいの光が差す。目の前を手で遮り目を細ばめる。うわぁー、詰んでるよ。
周りを完全に囲まれ早々に諦めて銃を捨て手を頭の後ろに回す。
「諦め早いね〜、これワンチャン行けないかなぁ?」
「バカかよ、この数相手にどうするって言うんだ。死ぬよりはいいだろ」
ニヤニヤを止めずに《11番》はそう言う。だがこの数だ。目視できるだけで30はいる。完全武装した相手数十人対銃を持った僕達2人。無策で行っても勝ち目はない。すると《11番》はチラッとこっちを見たかと思うとニィ〜と笑う。
と、僕を蹴飛ばして後ろの扉に入った。
パシュッ!パシュッ!パシュッ!
僕は目の前が暗転した。