神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜 作:S.Hitta.
「鎖骨と右肩の骨折に右腕8針。こんなもんかね。まぁ、喚卵持ちの方はすぐ治っちゃうから、大丈夫じゃろ。君も元気そうだしの。」
「ふざけんなよ〜、箸も碌に持てねーじゃんか〜。」
ネビロスとの一件後の神楽の状態は、そんなに悪く無い。医者は余計な事に右肩の骨折は僕の所為だと言い切ったもんだから、神楽の怒りは僕に向いている。不慮の事故なのに。
「しょうがないだろう。神楽があんな所で大暴れするから。」
「なに、その論争またやんの〜?」
「一応は謝っただろ。勘弁してくれよ。」
「その内、絶対やり返してやるからな〜」
「ほっほっほ!仲が良いのう〜主ら。本当の兄弟の様じゃな。」
所内医の田倉大五郎先生が、僕らを見てそう言う。最近僕も自分で思うのだが良くも悪くも変わった気がする。僕は部隊の中にいても居心地が悪くないと感じ始めている。と言うのも、今迄組織で活動するのがとても苦手だった。徳成會にいた頃、単独の行動ばかりして親父に直接怒られたりもしたが、僕は結果を必ず出していた。だから、面倒くさいから、という理由で異例の年齢で若頭となった。それなのにも関わらず今は自然と仲間と話し、仲間と共に行動している。決して口には出さ無いが新しい家族が出来た様な感覚に陥る。神楽も実際の所は分からないが、少なくとも近い感覚を持っていると思う。何故ならば、恐らく前迄の神楽ならば、天具を扱える様になった時点でバックれるはずだ。現に僕がphase2までシンクロした任務終了後、「レントには目的があんのかも知んねーけど、俺にはねーから状況みて抜けるからね〜」と言っていた。それも、もう半年も前の話になる。僕等は少しずつ変わっていっているのだろう。いや、昔に無くした『何か』を取り戻しているのかもしれない。
治療が終わり、田倉先生の話を聞き終えた僕達は殲滅部隊会議室に戻って来た。するとそこには、郷原さんとシュガーさんとネビロスが居た。ネビロスも治療を受けたものの、傷は浅く無い様子だった。
「ご苦労さん。調子はどうだ?」
「見てわかんないの〜?レントの所為でガタガタだよ〜」
「はははっ!長官殿にそんな口聞けんのは神楽お前くらいだろうな。」
「おっ、ありがと〜♡」
「褒めてないと思うけどね。それでネビロスとの話は纏まったんですね。」
「あぁ。《キトリス》か、神もえげつねー事考えるよな。」
佐藤さんが皮肉を込めて吐き捨てるように呟いた。
キトリス
神は人を見限り地球自体を神の星に変えようとしている。その名もキトリス。人、悪魔、精霊、心を持ち言語を扱う種族をこの星から追放して、神と天使だけの世界を作るつもりだと言う。神楽との戦闘の後、そうネビロスは僕に教えてくれた。
「お言葉ですが、それはあなた方人間達の行いが卑劣極まるものと主神が判断したからに違いありません。」
「まぁな。でも少なくは無ぇだろーが、そんな悪りぃ事してる奴なんて一部だろう。それに•••」
「シュガー、よせ。ネビロスが言う事も分かる。悪魔の君が必死に神に媚びを売ろうとモンスーンを焚き付けて、神交運動をしていた矢先の出来事なのだろう。我々人間の所為で悪魔達や他の種族達まで消されてはたまらん。そこをアザゼルとロキの顔を立ててくれたんだ。察しなさい。」
「•••••」
「ご理解頂き、誠感謝します。長官殿。ですから、こうなってしまったものは最早どうしようもありません。主神と話ができる場を設ける為にしなくてならない事を共に考えましょう。」
「やはり、主神を討つしか手段はないのだよ。」
「ソルトさんにしては随分早計ですね。多分その方法が難しいという判断で郷原さんは話し合いの席を無理やり作ろうとしてるんじゃないんですか。」
「その通りだ。それともソルト、勝てる保証があると?」
「•••いえ、保証というものはありません。が東雲君と神楽君の戦闘を見ていると悔しながらそう思わされてしまいます。」
「無理ですね。まだこの二人ではロキ様とアザゼル様の力を10%も使えていません。仮に100%出せてもこの二人には神は討てないでしょう。」
「何故そう言い切る事が出来るのです?」
「ソルトそれは簡単な事だ、それ以上に神は強い。いや、我々の物差しで神を図る事はできんという事だ。」
何処か哀愁すら感じる言い方で、郷原さんはため息をついた。
「まさにその通りです。長官殿、一つ気になったのですが、あなたは主神とお会いした事があるんですか?」
「いや、会った事はない。•••結論だ、神を倒す事は出来ん。やはり当初の予定通り行くしかない。そこで、女神の尋問で解ったんだが、一月後ロシアで会合が行われるらしい。そこに
ネビロスの質問を避けたな。郷原さんはきっと何か知っている。話を変えた時に声が強くなり、次第に抑揚されて普段通りになった。ネビロスの質問に対して心理的ストレスを隠してるサインだ。
「殺してもいーの〜?」
「あなたでは尊最十神には勝てませんよ。殺すつもりでいかなければ、対面して一秒と呼吸していられないでしょうね。」
神楽の安易な発言に苛立ったのか、ネビロスが辛辣な一言を当てる。
「へ〜、お前はどうなのよ〜?」
「私も同じです。私はあなたより力も無い、悔しながら分かっています。だからこそ、神に与しようと目論みモンスーンを唆したのです。だが、あなたと東雲殿には可能性がある。喚卵と言いましたか、アザゼル様とロキ様の力を十二分に発揮できれば主神にこそ及ばずとも、他の神々には対抗出来る力を手に出来るでしょう。」
「ふーん。今の所、俺とレントは負け無しだよ。フレイヤって奴も大した事なかったしね。」
「フレイヤは元々戦いをする為の神ではありません。豊穣神ですからね。試しに十神の一人と戦ってみますか?」
「居場所が分かるのか!?」
郷原さんが身を乗り出して反応した。
「はい。しかもこの日本に居ます。その神は基本的に寝床から動かないと聞きました。」
「何処だ?」
「島根県という所です。」
「そんな所に。•••よし。神楽の怪我が治り次第、シュガー、ソルト、東雲君、神楽君でネビロス先導の元、調査に出ろ。」
「怪我であれば、フレイヤに頼めば一瞬で治癒出来る筈ですよ。」
「そんな事まで出来るのか。」
郷原さんは驚いた様に目を剥いた。確かに、これはとてもでかい。このままフレイヤを捕虜にし続ければ戦闘員の死亡率がグッと下がる。
「やったね〜、じゃあ治ったら今から行こうぜ〜、俺がそいつ沈めてやるよ〜♡」
「そうですね。身の程を知る事ができるでしょう。」
ネビロスがそう平静に言う。
「シュガー、ソルト、東雲君、頼んだぞ。神楽君、付いて来い。」
そうして決まった十神調査。正直、不謹慎かもしれ無いが興味がある。今まで相手にして来た神や悪魔も弱いとまでは思わなくても、決して苦戦をする様な輩は居なかった。何処までその差が有るのか、そして今の僕が何処まで通用するのか試したい。素直にそう思った。