神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜   作:S.Hitta.

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拾弐 零氷

疾風を身体に纏い出来るだけ、やれるだけのスピードを出して翻弄する。その間、観察。

人体とさして変わら無い形、五メートルを超える体長、体重は想像もつか無い。皮膚は硬く、僕の最速最強の攻撃を止める程の瞬発力。今の情報ではこんな所か。先ずはベターに足元から崩す。

右手の眼から発生させる風を右手に纏い、鋭く、細く、中指の先に集中。

 

「《風刃•小乱摩(こらんま)》」

 

僕が天具を持つ前からよく使っていた手刀に、風を纏わせ、その名の通り刀の切れ味を持たせる。僕の持つ古武術のスキルとアゼルの右眼の能力を合わせた技で僕が最も好んで使う技だ。

スピードで翻弄し、海神の視界から消える瞬間、背後から突進。狙うは大臀筋。尻の下から太もも辺りまで伸びるその筋肉は腰から脚までの筋肉を使う補助の役目を果たしている。よってその大臀筋を掻っ捌いてしまえば立つことは疎か座ることすら許さ無い激痛を与える。

いけるっ!

水飛沫が舞う。恐らくこれは海神の血液。少しだけ、海神の重心が動いた。ここだ、この機を逃したらいけない。大臀筋から更に下の筋肉を絶つ•••

 

「痛いでしょうが、この馬鹿者が。」

「なっ!?」

 

重心がズレたのではない、単純に此奴が振り向いただけだった?!あの一太刀を浴びて振り向く事なんて出来るはず無いという先入観が僕を図に乗らせた。

此方に振り向きそのまま左腕を僕の頭頂部に叩きつける。衝撃で地面が割れ、顔から地面に刺さる形で沈む。

気を強く持て、諦めるな。自分を奮い立たせて、なんとか気を失うことだけは避ける。

 

「東雲ー!!」

 

シュガーさんの声だ。ダメだ、まだ手を出さ無いでくれ。まだやれる。気合いとアゼルの右眼の風を使い重たい海神の左腕ごと自身の身体を持ち上げる。

 

「ん?」

「ん、じゃないでしょう。重たい一撃を貰いましたね。シュガーさん!まだ手を出すのは早いですからね!」

 

身体がこの一分間くらい言う事を聞かないな。力が全く入らない。風の力で暫く浮遊するしか無いが、此れだとスピードが出せずに、捕まるリスクがあるのと、攻撃の手段が拙い。兎に角、全力で凌ぐ。

 

「いやはや、丈夫な生物だな。潰すつもりで手を振ったのだがの。ならばこんなのはどうじゃ?」

「?」

 

海神の皮膚から汗?が分泌されている。

ちがう!

水だ。大量の水が身体から分泌のレベルを超えて吹き出している。この匂い、しかも海水か。流石は海神と言った所だろうか。しかしこの海水をどうすると言うのだろう。

 

「海と言うのは波を起こすじゃろう?」

「!?」

「波は美しい。じゃが脅威にも成り得るんじゃ。」

 

海神から吹き出た海水が波を作り、うねり出す。すると何かの形を構成されていく。

 

「腕?」

「如何にも。ただの腕では無いぞ。荒波で作られた腕一本は国すら飲み込む。まぁ、これは小規模じゃが、一撃でも食らえば堪らないじゃろうのう。それが五本じゃ。どうする?」

 

今の茶番で身体は回復した。だが、その間に用意された状況はカオスだ。

シュガーさん達はネビロスの栄光の掌椀から発生する樹木で天井付近で隠れている。なので、そちらの心配をする必要は無い。神楽はジッと僕達の戦闘を見ている。大丈夫だ、まだ目は死んじゃいない。闘いの天才が考えている。それに、神楽の口元は三日月の様に弧を描いている。状況を楽しんでいる証拠だ。

 

「周りを気にする必要は無いぞ。其方から向かって来ない限り、儂からどうすることは無い。其処の薄気味悪い顔をした小僧は来る様じゃがな。」

「海神エギル。僕はスタンスを間違えていた事にやっと気づいたよ。今からは胸を借りるつもりでふぢのめします。」

「ほっほっほっほ!馬鹿者は嫌いじゃ無いぞ。何時だって海の男は大馬鹿ものじゃ!夢を見て死ぬのも乙なもんじゃぞ、小僧。」

 

海神は大笑いした後、真顔に戻り腕を振るった。その動作に反応した、五本の腕達は僕を目掛けてうねり狂う。僕はネクタイを取りシャツを破り半裸の状態になる。そして僕自身の双眼と、額にある眼、両の掌にある眼をひん剥き、更にphase5に成り開眼した鳩尾に大きく開く眼を出す。合計六つの眼で全ての腕の見切りを計る。

《柳揺り》

体力の消耗を極限に抑える為と、更に反撃の機会を伺い、次に突く場所を探す。これなら行ける。これだけの数ある眼の情報を頭で理解しきれるかが難点だったものの、これなら考える余裕もある。何処だ何処を狙えばいい。弱点は、タイミングは、隙を作るにはどうしたらいい。海神は動いていない。何故?余裕だからか、波の腕に集中してるからか、第三者の介入を恐れてか。試す必要がある。

 

暴威風塊(ぼういふうこん)

 

右手が自由になった所で、小さな風塊を当てる。当たった。

 

「なんじゃ、五本では不服か?なら増やしてやろうぞ」

 

いやいやそんなの求めてないから。これは詰んだな。腕は倍の十本に増えた。これはいよいよ。どうしようもないか。

 

(レント。俯くな、前を見ろ。思考を止めるな、頭を回せ。休む暇は無い、常に動け。死にたくなけりゃ、全てを無に帰せ。)

「わかってるよ!」

 

無に帰すことなんか簡単にできないからあぐねてるんだ。

(出来る。お前がしていないだけだ。)

なっ、

(お前、何故、俺の右眼しか使わないんだ?)

•••使えないんだよ。

(だろうな。俺の左眼は呼び起こさ無いと使えない。)

は?

(力をイメージしてこう唱えろ•••)

 

「|我嵐司る者嵐の序章零氷を産まん《われあらしつかさどるものあらしのじょしょうれいひょうをうまん》」

 

左手から生まれる新しい力。それは氷結。熱を奪い、水分が含まれるモノの動きを止める、絶対零度。

波の腕の一本に向かい左手をかざす

 

「《極凍世界(きょくとうせかい)》」

 

一瞬で波の腕は動きが止まった。美しい氷塊へ形を変えて。それでも氷結の勢いは留まらず波の腕を作り出した本体、つまり海神にまで届く。

 

「おっ、なんじゃお主は、やはりアゼルか。」

「神楽っ!!」

「悪心之鞭撻•••羅焔•••降誕!!」

 

海神が固まりきった瞬間に、神楽の羅焔が落ちる。ガラスが割れたような音が大きく響き渡り、海神エギルと呼ばれていた個体は砕け散った。その様はとても美しく。氷の結晶が舞い踊り、神楽の炎の熱で溶け出した氷が霧と成り一面に散布され虹を作り出して、まるで氷の結晶と虹が祝勝を上げてくれているかの様だった。

 

「ふぅ。」

「レント〜悪かった。初撃食らわせた時、頭真っ白になって意識戻った時には、此奴等すげ〜とか思ってレントの戦いに魅入ってた。」

「驚いたな。神楽も人に謝れるのか。ふふっ」

「うるせ〜。もう二度と無ぇかんな。」

 

神楽が謝るなんて、かなり衝撃的だったが、それ以上に自分が十神に勝てた事が嬉しすぎた。何度も死ぬかと思った。その死闘の中で僕は更に進化

出来た。アゼルは後で説教だ。こんな土壇場じゃなければもっと早くに対応出来ていたかもしれない。

 

(説教なんて聞く気もねーし、エギルも死んじゃいない。)

「なっ!」

「小僧、質問に答えんか。お主の中にアゼルが居るのか?」

 

何処だ。確かに海神の本体は破壊した。何故だ、どうやって。

 

「聞こえんのかな、小僧。年寄りを無視するとは親の躾がなっておらんのう。まぁ、良いわい。十中八九、アゼルとロキじゃろ。フレイヤが連れて行かれたのも納得出来る。」

「何処にいる?話をしよう。」

「ほっほっほ!神を相手にここまで無茶苦茶やっといて終いにゃ、話をしようと来たもんだ。若いとは良いのぉ。何の話がしたいんじゃ?」

「質問に答えてもらえますか?」

「おぉ、えぇぞ。儂が答えられる事なら答えよう。」

「僕等が主神と話をする事は出来ますか?」

「ほぅ。驚いたな。まさか主神を討つつもりじゃあるまいな。いや、いい。詮索はやめよう。答えはお主次第じゃな。」

「答えになっていません。」

「ほっほっほ!そうか、すまんの。それなら言い方を変えよう。お主等が取る手段。それに対する力量と覚悟があれば話す事はできるじゃろう。」

「具体的には教えてくださらないようですね。それではそろそろ姿を見せて頂いてもよろしいですか?」

「それまた、何故じゃ。」

「面倒だ。神楽、此処に原焔絨毯を敷いて。」

「りょ〜かい♡」

 

神楽の鞭が無数に分かれて岩の地面に散り散りに刺さる。すると炎のカーペットの出来上がり。炎に溶かされた氷が海水に戻る。

 

「気付くのが早いの。頭はキレるようじゃ。じゃがな、儂は海の神。元は海じゃ。十神の中でも一番年を食っておる。更に最も大きい。この意味がわかるか?小僧。」

「えぇ。あなたは海自身。その気になれば、この星にある陸よりも大きな個体に成れる。」

「如何にも。その儂をどうするつもりじゃ?」

「「倒す。」」

 

神楽とシンクロしてしまった。

 

「••••ほっほっほ!賢いのか馬鹿なのか分からんのぉ。」

「あなたは海。ですが主神が力を与え、海が神になった。という事はあなたの何処かに神としての核の様な、人で言う心臓が何処かにある。違いますか?」

「ほう。面白い推測じゃ。じゃが、まだ推測の域を出ておらんの。じゃから儂に確認しとるんじゃろう。」

「違います。あなたを計っただけです。僕は既に核の場所も分かっています。」

 

そう。海神は僕の攻撃を一度故意に防いだ。あれがずっと引っかかってたがこの推論なら筋が通る。半分カマかけだがそうでもなければ正直勝て無い。

 

「人間が神を計るか、そこまでいくと最早、笑えんぞ。気に入ったからこのまま返してやろうかと思ったが、どうやら死にたいらしいの。」

「ビビってねーで出て来いよ〜。面倒くせーな〜。」

「神楽に同感です。僕等もこのまま帰る訳には行かないんですよ。」

「どうしても儂を倒したいんじゃな。」

「いえ、捕らえたいんです。」

「吐かせ小僧!!」

 

辺りの海水が凄まじい勢いで水位を上げていく。既に入って来た穴は海水で埋まってしまっている。面倒だ。

 

《極凍世界》

 

「なっ、」

 

氷の上から更に海水が溢れ出てくる。これは堪んないね。

 

「コレ全部蒸発させればいいの〜?」

「そんなことしたら、まず炎の勢いで此処の酸素が無くなる。仮にいけたとしても蒸し風呂地獄で僕等はともかく人間なら死んじゃう。」

 

となると、脱出の一途だな。アゼルの右眼から風を起こす。

 

「僕が洞窟の天井を壊す。神楽は悪心之鞭撻でシュガーさんたちを包んで天井が壊れた瞬間、上に向かって飛べっ!」

「りょーかーい♡」

「行くよ!《爆威嵐塊》!!」

 

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