神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜   作:S.Hitta.

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拾陸 愛情

「すいませんでした。」

 

花音の長い濃密な説教を聴き終えて、俯きながら僕らに謝罪の言葉を吐いた。長いと言っても三十分程のものだが、黙って聞いてる分にはとても長く感じられるだろう。その間に僕と神楽もphaseを戻し、通常状態で汗を拭いて早めのクールダウンに入っていた。

 

「素直でよろしい。ついでに自己紹介もしてしまいなさい。」

「•••佐藤 努です。11歳です。」

 

花音の、命令に限りなく近い提案に渋々そう言った。

 

「努くんね。僕は東雲、こいつは神楽。さっきは子供扱いして僕も悪かったね。よろしく。」

「うん。」

「はい。これで仲直りね。レントこれからこの子の面倒を見てもらう事になったから。」

「え?」

 

花音の棒読みに近い説明は恐らく、僕の修行中の不祥事がまだ尾を引いてる事が容易に伝わった。そんな事よりも今なんて言った?

 

「花音姉、やっぱりやですよー。花音姉の家がいいです。」

「ダメよ。あたしは女だから男の子とは一緒に住めない。それに長官からの直々の指名だから抗う事は許されないの。」

「•••••」

「•••ウケる〜♡ニシシ」

 

長官からの指名?

なんだそれ。

この子は何?

喚卵(かんらん)》持ちの子供?

なんで俺なんだ?

聞きたい事が沢山ありすぎて頭の中が纏まらない。ダメだ。落ち着かないと。こういう時こそ冷静に。

 

「じゃあ、あたし仕事残ってるから。あと、よろしく。」

「花音。聞きたい事が

「うるさい。あなたに拒否権はないと思うけど。」

 

僕が言い終わる前にそう言ってSP(シミュレーションプラクティス)ルームの自動ドアの向こうに消えて行ってしまった。

拒否権は無い。

この言い方だとこの前の一件をこれで水に流すという事か?それとも、長官の指名だからか?なんにしても、もうどうしようもない。

 

「ウケる〜。ニシシ」

「笑えないよ。努くん、色々聞いてもいいかな?」

「なんです?」

 

言うだけあってかなり大人びてるな。

 

「君は《喚卵》持ちみたいだけど、どういった趣旨でそんな状況になったの?」

「知りません。」

「•••それなら、親は?」

「•••居ません。親がいないと何か都合悪いんですか?迷惑なら僕は一人でも生きていけます。無理言ってすいませんでした。失礼します。」

「待って。」

「!?••••」

 

僕は努くんの腕を引いて膝を曲げ、背丈を合わせて抱きしめた。咄嗟に出てしまった行動だったにしても、僕らしくない事をしたのが神楽のキョトン顔で分かる。ただ、似ていた。いつかの僕に。

 

「迷惑なんかじゃないよ。そう思わせてしまったのなら謝るよ。ごめんね?取り敢えずうちに行こう。君の新居だね。」

「•••••」

「レント、まじかよ。」

「神楽。後でまた連絡する。今日は帰ろう。」

 

恐らく僕は、この子に酷い事を言ってしまったんだと、何故だか思った。

急に知らない若造の家に住む事。

この年齢で特殊な力を持つ経緯。

親の居ない状況。

そんな、自分でも整理できない状況の中、この子にとって、とてもデリケートな部分を僕は悪気無く突ついてしまった。不快だっただろう。不安にもなっただろう。この子の年不相応な大人びた対応の片鱗が分かった気がする。この子は僕と同種だ。

孤独

僕なんかよりもずっと早くに両親からの"愛"を打ち切られて、誰も信用出来ずに自分一人で生きていかなくてはならなかったのだろう。どんな経緯でJOGに来たのかは分からないが、この子にはもう僕から何も聞かない。この子が話してくれる様になるまで、この子の理解者になろう。仮にこの子が望んでいなかったとしても、いずれ必要になる筈だ。僕がそうだった様に、この子もきっと。

 

「ようこそ、我が家へ。まぁ、何も無い家だけど必要な物はこれから少しずつ揃えてくから、欲しい物あったら遠慮無く言ってね。」

「••••」

 

家に帰って来て、リビングの中まで入ると努くんは立ったまま喋らず動かなかった。お茶を出しても、お菓子を出しても、何か食べる?と聞いても、なんのアクションも起こさなかった。僕は取り敢えずシャワーを浴びに風呂場へ行く。この時少し、逃げ出すんじゃ無いかと不安に思ったが、逃げたところで、どうにもなら無い事が分かってるから、ためらい無くシャワーを浴びた。一応風呂入る?とも聞いてみたが、やっぱり無反応だった。僕がシャワーから出ると未だにリビングのソファの前で立っていた。何処を見る訳でも、キョロキョロする訳でもなく、俯いていた。自分のグラスにお茶を入れて、ソファの前のテーブルに置く。僕がソファに座る時に努くんの脇を抱えて一緒にソファに座らせた。

 

「立ったままだと疲れるでしょ?」

「•••」

「喋りたくないか。でも、ずっと黙ってると、したく無いけど子供扱いせざるを得無くなるよ?」

「•••」

 

プライドをくすぐってもダメか。

 

「じゃあ、いいや。僕の話を聞いてくれれば良いよ。喋らなくても耳を塞がなければ、聞かざるを得無いでしょ?」

「•••」

 

動かない。子供特有の天邪鬼って訳でも無いのね。

 

「僕もね。家族いないんだ。子供の時に目の前で両親と妹を殺されてね。どうしたら良いか分からなくなったんだ。暫く、無気力が続いて目的を見つけた。なんだと思う?」

「!•••」

 

反応有り。一瞬目を見開いた。すぐに平静を取り戻したところも子供らしからぬ対処の早さだった。

 

「分かんないか。答えはね、復讐。家族を殺した奴を殺す事を生きる目標にしたんだ。」

「•••」

「そう決めた時から、僕は力を求めた。ふふっ、今の言い方だと厨二病みたいだね。兎に角、武力、財力、支配力、知力、力と名のつく物全てを手にしようと死ぬほど努力したんだ。学校にも行かず、ひたすら本を読む事から始めた。同い年の連中が、遊びだ、恋だの言ってる最中、僕はひたすら勉強してトレーニングをしたんだぁ。」

「•••」

 

口調は優しく。絵本を子供に読み聞かす様なイメージ。

 

「毎日毎日ずーっとそれを続けてきたんだけど、今考えると、きっと寂しさを紛らわす為に、何かに没頭しなきゃ、やってられなかったんだと思う。一人の時間がすごく怖かったんだ。もちろん親戚の家に世話になってたんだけど、その人達を僕は一切信用出来なかったんだ。いや、しようともして無かったのかもしれない。そんなこんなで、気付けば中学を卒業していたらしいんだ。」

「•••」

 

一瞬、僕を見た。少し口が開いていて子供っぽいあどけない顔を見せてくれた。それでもやはり、すぐさま俯き体勢に落ち着く。

 

「暫くしてからのある日、僕はある人と出会ったんだ。トレーニングジムからの帰り、路地を歩いてるところでガラの悪い三人組とぶつかってしまって、絡まれたんだ。僕は、ふふっ、今の君みたいにだんまりを決め込んで俯いてたんだ。そしたらいきなり殴りかかってきて、それを返り討ちにしてやったんだ。正直、僕も初めての喧嘩で無我夢中でその時の事はあんまり覚えてないんだけど、そいつらが僕を見上げて"クソガキィ、徳成會に喧嘩売ってタダで済むと思うなよ。"って言ってきたんだ。十六歳の僕にだよ?僕はそれもだんまりで聞き終えて帰ろうとした時に、目の前の黒塗りの車からある人が出てきて、こう言ったんだ。"クズを駆除した礼をしたい"って。後々知ったんだけど、その人はヤクザの親分だったんだ。その後、行ったこともない高級寿司屋に連れてってもらったんだ。」

「•••」

「ふふっ、そろそろ僕の話飽きた?」

「••••••飽きてない。」

 

おっ、食いついた。

 

「そっかぁ、じゃあ続けるよ。僕はその人に全てを話したんだ。家族の事。目的の事。力を欲してる事。不思議でしょ?なんで知らないそんな人にこんな話が出来たのか。なんかねぇ、その人の眼がとても特別だったんだ。僕を子供扱いする事なく、全てを受け入れて、聞いてくれた。そしたら、"俺の下に来い、お前が求めるものを、お前次第で俺が全て与えてやる。"って言ってくれたんだ。僕はその人の言葉に頷いた。家族が殺されてから、初めて人の提案に対して頷いたんだ。僕はそれからヤクザになった。その人に武術、支配術、話術、僕の知らなかった知識を教わって、気付けば僕は、その人の事を愛を持って親父と呼んだ。本当の父親のつもりで僕はその人に接してたんだ。」

「•••」

 

グラスに入れたお茶を口に付けて、話をまた始める。

 

「親父がいて、幹部がいて、構成員がいて、僕をその人達は家族と呼んだ。その時に僕は思ったんだ。本当に僕が欲しかったのは力なんかじゃなく、愛だったのかもしれない。ってね。それでも、僕の目的は変わらなかった。親父はその目的に対して咎める事もしなかった。それよりも力を与えてくれた。僕一人では到底持てなかった力が、その時の僕には既にあった。全てが親父のお陰だった。今こうして努くんと、こんな話が出来るのも親父のお陰なんだ。」

「•••」

 

我ながらなんて話をしてるんだと思うね。まぁ、取り敢えず今日はこんなところかな。

 

「ありがとう。少し自分で話していて整理できたよ。今日は早くに寝よう。努くんのベッドが来るまで僕のベッドで寝てね。臭くはないと思うから。ふふっ。」

「•••」

「よしっ。」

 

僕は努くんをお姫様抱っこの形で抱え上げて、寝室に連れて行った。その時、トイレの場所と洗面所の場所を教えた。

 

「まぁ、大きいから着替えなくてもいいけど、気持ち悪かったらこのジャージに着替えてね。なんかあったら僕はリビングにいるから。これが電気のリモコンとテレビのリモコン。何か質問はありますか?」

「•••」

「それでは、おやすみなさい。」

「•••」

 

寝室から出て、ソファに座ってお茶を一口含む。iPhoneを手に取り、LINEを開いて神楽にLINEを打つ。

 

明日の修行は行けないから、明後日からまた始められる様にしておく。僕から言い出したのに悪い。

 

iPhoneを閉じてテーブルに置く。ソファに深く腰をかけると自然と息が漏れた。

 

「ふぅ。」

 

しかし、なんて話をしてしまったんだろうか。子供相手にこんな話をしても良かったのかな。僕の勝手な思い込みで、あの子を逆に苦しめたりしていないだろうか。なんにせよ、あの子が今辛い状態なのには変わりは無い。きっと側に誰か居てあげないといけない。出来れば話も聞いてあげたい。子を思う親って言うのはこんな感じなのだろうか。分からないけど兎に角もう決めた。あの子は僕が守る。

それにしても引っかかるのは《喚卵》。あの子がなんで、そんな状況になってしまったのだろう。そこに関しては明日にでも長官にでも問いただそう。

あの話もまだだしな。

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