神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜 作:S.Hitta.
凄惨な惨状。部屋はめちゃくちゃに荒らされ、二つの骸と化した母親と父親は力なく倒れていた。
(やめろぉ。やめてくれ。頼む。美月だけはぁ••••なんで。なんで。)
青い目をしたソレは躊躇なく撃鉄を引いた。
ッパァン!
(うっ、ぅうゎぁぁあああ!!!!殺す。殺してやる。)
(Если нет власти, я ни за чем не могу следовать)
冷たく、限りなく冷めた声でソレは囁いた。
(あぁ、あ、っあ、ぐずっ、美月ぃ。)
(Кровь Shinonome вымирает в этом)
ッパァン!
「うわぁあ!!!.....はぁはぁはぁ」
••••夢
またあの日の夢だ。拭いきれない血に塗れた僕の暗黒歴史。僕は14歳の時に全てを失った。母さん。父さん。妹。家族を守れなかった己の非力さを憎みに憎んだ。それを糧に僕は力を付けた。単純な武力、知力、支配力、でもまだまだ足りない。全てが《碧眼の男》に及ばない。日毎に力を付け、己の無力さを呪い、またそれを原動力に次の日も力を欲した。毎日毎日毎日毎日飽きもせずに碧眼の男への復讐の為だけに生きた。
「おはよう。随分と、うなされてたみたいね。嫌な夢でも見たのかしら?」
「あなたは?」
「初めまして。私は保苅 可愛。郷原中将の部下よ。あなたは東雲君ね?」
「郷原....あっ!11番!あ、、っと、神楽は?!」
「大丈夫。まだ寝ていると思うけれど別の部屋に居るわ。」
「そうですか」
周りには申し訳程度に洒落たアンティーク調度の家具が並んでいた。その中央にタブルサイズはあるだろうか、大きめなベットに僕が横になって、隣の椅子にスーツを着込み、茶髪がかった長めの髪にパッチリ二重の綺麗な女性、保苅さんが座っている。なんというかデキル女っていう印象を持った。
「此処は何処ですか?」
「東アフリカのソマリアと言う所よ。分かるかしら?」
「ふっ、驚くのもそろそろ疲れましたね。」
と、言いながら余裕を見せる為に微笑を浮かべるも内心驚く。
ソマリア
無政府状態が続き情勢が不安定になっている、ものすごく危険な国だ。犯罪、テロ、クーデター、宗教団体運動、疫病。挙げればキリが無いほどの危険因子が燻る。そんな所に連れて来られても嫌な予感しかしないのが実情だ。
「あら、知ってるみたいね。」
「それで、僕等をこんな治安の悪い所に連れて来て軍の方はどうするおつもりなんですか?」
「そうねぇ....実験を兼ねた宗教団体の鎮圧及び殲滅って所かしら。」
「実験?」
「そう。後の話は神楽君が起きてから合流して一緒に説明するわ。」
「なんの話を•••」
分からない。何がこれから起こるんだ。大概の事ならもう驚く事は無いと思っている。軍の狙いは大方、死刑ないし終身刑クラスの悪人を危険区域で使い捨てようって腹かと思っていたが、何か違う。匂うな、日本と東アフリカの繋がりに関しても全く見えない。東アフリカの、それもソマリアなんて日本は疎かアメリカでさえもそっぽ向くような面倒事の塊みたいなものだ。そんなものに日本が首を突っ込むなんて、何か僕も知らないような日本の軍事、若しくは政界で途轍もなくでかい事が起きようとしているのか。これが只の考え過ぎかどうかは行ってみない事には分からないらしい。断った所で結果は見えているので余計な事はしない様にしておこう。
「まぁ、兎に角一度外に出てみたら?外の空気を吸うのは久しぶりでしょう?」
「そうですね。そうさてもらいましょう。それと、神楽の方が気になるんですが。」
「そうね。一度、神楽君の方に顔を出してみましょうか。」
「ありがとうございます。」
そうして、ベットから出て部屋を出る。
僕の格好ではあまりにも場違いな場所である。恐らく此処は日本大使館と思われる。そんな所に上下ジャージでスーツの女性に連れられ道の真ん中を歩く。
「此処よ。」
案内された部屋の扉を開ける。
ガチャ
扉を開くと僕が寝ていた部屋によく似た部屋だった。だが、そのベッドには神楽が居ない。
代わりにベットの脇で寝ている、もとい倒れているスーツの男がいる。
「東雲君じゃ〜ん、なーにやってんの〜?」
相変わらず腹の立つニヤけついた神楽が、開けた扉の陰から顔を出す。
「それは何?」
そう言って僕はベットの脇で倒れている男を指差した。
「なんか見張られて俺が起きるまで待ってるっぽかったから、寝たふりしてたんだけど痺れ切らして逆に寝てもらったの〜♡」
そう、おどけて頭の後ろに手を回し誇らしげに微笑む。なんとなく猫っぽい顔に少し僕の気が緩む。
「長谷っ!」
驚いた様に僕の後ろにいた保苅さんが倒れている男に駆け寄る。
「この人だーれ?」
「保苅さんだ。ところでそいつは死んで無いよな?」
「そんな簡単に人は殺しませ〜ん」
「そうか。」
「もう、余計な面倒は起こさないで。別にあなた達に危害を加えるつもりは全くないの。そろそろ分かって貰えないかしら。」
そう言って長谷と呼ばれる男をベットに移動させる、傍から見ればなんともシュールな光景だ。
「そんな事言っても、此処に僕達を連れてきた経緯を考えて貰えれば彼が起こした行動も致し方無い事だと思いますけどね。」
「そーゆー事〜」
「あなた達が先に暴れなければそんな事にならなかった筈よ。」
「そうですね。その問答は堂々巡りになりそうなので無かった事にしましょう。」
「むかつくね〜」
「東雲君が大人で助かったわ。」
終わりの見えない押し問答が始まりかけたので面倒くさいから話を止めた。が、こんな状況を作ったのは確実に『政府』側だ。こいつらの勝手で罪人を蹂躙していい謂れも倫理も無い。と言っても捕まらなければ、そのような事にもなって無いのだが。やはり堂々巡りだ。
「保苅さん外に出てもいいかな?」
「いいわ。暫く誰かの所為で長谷も目を覚まさなそうなので、このまま寝かせておくとしましょう。」
軽い嫌味をサラッと吐いたが当の本人はそれに全く堪えてる様子もない。
「さっ、行きましょうか。」
保苅さんの先導で部屋から出て廊下を歩き、外に出る。その間に幾つか扉はあったものの、他の人間とはすれ違う事はなかった。やはり、こんな辺鄙な所にくる日本人は政府側も一般国民側もそうはいないのだろう。
「うっ」
「うわぁ、すごいね〜」
外に出るとそこは完全に廃れ切った街並み。この敷地内も一応は穴の空いた柵で覆われているが、とても荒れ狂っている。俗に言うスラムとでも言うのであろうか。鼻に纏わり付く色々混ざった嫌な匂い。辺りにはそこら中から煙が上がっている。時折聞こえるのは銃声や悲鳴。想像通りというかそれを上回った光景だ。正直気分が悪い。外の空気を吸いに来たものの、これならまだ中にいた方が良かった迄ある。
「これがこの国の現状よ。」
保苅さんはそう言って腕を組んで辺りを見回す。
「くっせーな〜。此処はどこなの〜?」
「とりあえず暫く此処に居て。後で呼びに来るわ。」
そう言って保苅さんはすぐに振り返り、扉に向かっていった。先程の事を根に持っているのだろうか、完全に神楽の疑問はスルーしている。神楽は神楽でやはり堪えていない。
「あっ、それと此処から逃げても色んな意味で無駄だから。あなた達の体の中にGPSを埋め込ませてもらってるし、此処からの国外逃亡は120%無理ね。だから大人しく此処に居なさい。」
GPSって。マジですかー。なんかいよいよ胡散臭くなって来てるな。まぁ、確かに保苅さんが言った様に、この国から出るのは簡単ではない。その前に蜂の巣にされるか、良くてもまた『政府』に捕らえられるか、どちらかになるだろう。
「なんか、俺嫌われてんのかな〜?」
一応は神楽も気にしているみたいだな。
「多分ね。」
「そーいえばさー、俺達まだ自己紹介してないよね〜」
「する暇もなければする意味もないと思ってたからな。それに僕は君をまだ信用していない。」
「なんか俺嫌われまくってんな〜」
「一つ聞かせろ。留置所での騒動の時、タイミング良くお前は看守とトラブった。僕はそれが何かしらの関係が有るとしか思えないんだが。」
そう。留置所が襲撃されたあの日、どう考えても神楽が看守といざこざを起こしたタイミングが良すぎるのだ。神楽が政府側と繋がっているとはその後の顛末から考え難いが、何かしらの関係、若しくは何処からかの情報の漏洩があったとしか考えられないのだ。
「関係無いよ〜。その日たまたま弁護士に無期懲は間違いないって言われたから、それは嫌だから出よーとして揉めただけだよ。そしたらまたまた、たまたま変な奴らが来ただけじゃんか〜」
「それを信用できると思うか?」
「知らないよ〜、めんどくせ〜」
まぁ、正味それもその内分かる事だ。それに仮に僕が考えている通りだったとしても僕には関係ない。神楽という男を知る為にわざとこんな言い方をしたのだ。これで分かった事は幾つかある。そして恐らくだが神楽は嘘を吐いていない。今は神楽が望む通り繋がりを強くして、じっくり此奴を知っていくとしよう。
「意地の悪い事を言って悪かった。僕の名前は東雲蓮刀。」
「ふーん。名前はもう知ってるからね〜、ちなみに俺は恭一、神楽恭一だよ〜」
「そう膨れるなよ。これからよろしくな。」
こうして改めてお互いの情報を交換した。僕は神楽に今の状況を話してやりながら、今後の事を考えていた。身体の中に埋め込まれたGPS。隔離された国。共に攫われてきた神楽。謎の検査の合格。実験の為の殲滅戦。兎にも角にも僕は『碧眼の男』を殺すまでは死ねない。生きてやる。どんな事があっても生にしがみ付いてやる。
「レントはなんでそんなにケンカ強いの〜?なんかやってた〜?」
留置所からの一連の流れを思い返したのだろう。突然神楽はそう聞いてきた。
「色々やったよ。古武術を片っ端からね。神楽はなんかやってたのか?」
「親父がさ〜、神楽天願流ってゆう総合武道術の師範なんだよね〜」
「シンラテンガンリュウ?聞いた事無いな。」
総合武道術。
一対一、一対多、ステゴロ、道具。全てを網羅している武術。僕も似たような事をしてきたが、師範は居らず全て独学で基礎を学び、BOSSもとい仲村の親父から手解きされ、全ての武術に磨きを掛けてもらった。
「だろーね〜。でも親父はめちゃくちゃ強いよ〜。」
「郷原よりもか?」
「っ!!」
いきなり郷原の名前を出したからか、驚いている神楽。無理もない。二人掛かりであのレベルの完敗を食らったのだ。正直僕も、うちの親父が郷原に勝てるのかと聞かれたら言葉に詰まってしまう。
「久し振りだなぁ、ハイエナ共ぉ」
「?!!」
「噂をすればなんちゃらってやつか〜?ニシシッ」
そうか、驚いたのはいきなり此奴が出てきたからか。なんというか、やはり此奴はデカイ。そしてヤバイ。改めて見るとオーラというか醸し出すそれが人では無い。こんな人間親父以外見た事がない。
「君達、身体の調子はどうだ?」
「おかげさまでよく寝かせて貰いましたからね。」
「••••」
そう毒づき相手の様子を見る。神楽はニヤけながらも同じく様子を見ているのだろう。
「そうゆう意味で言ったんじゃないんだけどな。まぁ、いい。早速出兵する。準備したまえ。」
「今から?準備?」
「そうだ。作戦は現地に向かいながら車中で話す。とにかく着替えるぞ。付いて来い。」
そう言って広すぎる背中を此方に向け歩き出す。気付かなかったが傍には保苅さんも居たみたいだ。とりあえず拒否権は無いらしく、付いて行くと、意外と神楽も黙って付いて来ていた。ニヤけ面はそのままだが、何かを決めた様な顔だ。まぁ、腹をくくるしか無いからな。今は、黙って従おう。そうするとある部屋に連れて行かれ、着替えが用意されていて、
「これに着替えろ。サイズは合う筈だ。」
と、言われ着替える。用意されていた着替えは、想像していた様な緑の迷彩柄などではなく。黒を基調としたあの日、黒づくめ達が装備していたのと恐らく同じモノだろう。s.w.a.tが装備している様なモノだと思う。言われた通りサイズピッタリの装備を身に付け準備を整えた。
「よし、行くぞ。」
そう言って郷原は外に向かう。それに続く僕たち。いよいよ、彼らの言う『実験』が始まろうとしているのだ。トラック型の特殊車両に先程の長谷さんが運転席に乗り込み、助手席に保苅さん、後部座席には向かい合う様に郷原が僕と神楽の正面に座る。そうして走り出して暫くすると、郷原が話を切り出してきた。その時薄く笑みを浮かべていた様な気がした。何か、好奇心をくすぐられてる様な、プレゼントを待つ子供の様な、そんな無邪気な微笑みを。
「では、あの時の約束通り話そうか。まずは、君達ようこそ、team 《JOG》へ。」
「《JOG》?」
「そうだ、正式名称を『日本鬼狩り連盟』」
「「?」」
「まぁ、そうなるよな。順を追って説明しよう。この世界にはまず、悪魔と呼ばれる生物が本当に存在している。神話やお伽話で出てくる様なアレだ。悪魔を日本では鬼と称する。それの対抗勢力が我々《JOG》だ。突飛な話で理解し難いのは分かっている。だから今は理解しなくていい。だが頭の隅に置いておけ。これがリアルだ。そして、もっと言うと君達は既に悪魔と会ったことがある筈だ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんの話だ?悪魔?鬼?僕が会った事があるだと?仮にそうだったとしても何故あんたはそんな事が分かる?いや、知っている?」
「あ〜、あいつか〜」
「?!」
「なまじ賢いとそう言った類の話は信じられんのも分かる。だがこれが現実だ。神楽君。君は悪魔と相対した事実を認識しているんだな?」
「そーだね〜。あいつの所為でおれはパクられたんだ。」
「?!、、あいつの、、所為?」
「そう。君達が逮捕、捕縛された理由はそれぞれ状況は違えど悪魔が絡んでいる。」
「....続けてください。」
「そうしよう。そしてもう一つ、君達は信じられないかもしれないが君達の身体の中にあるモノを移植した。それが所謂『検査』に合格した。という事になる。」
「GPSじゃないのか?」
「はははっ、GPSか。ふっ、確かにそうともなるな。君達の身体に埋め込ませてもらったのは、悪魔に唯一対抗できる武器。《天具》という。その天具には破魔の力が宿りその媒体となった者に大きな力を生む。そして天具は幾つか種類はあるものの、同じ物は存在しない。と言うよりも作れないのだ。君達は天具に選ばれた者という事だ。」
「また話が全く掴めなくなってきたな。」
「えー、なんか良く分かんないな〜」
「まぁ、そうだろう。だが聞け、理解できなくても覚えとけ。天具の破魔の力はJOGの本部で位置情報と解放状況を確認できるやうになっている。」
「それで、GPSか。」
「解放状況ってなに〜?」
「天具にはそれぞれ個性があり、それぞれに意思がある。それらとのシンクロ率が上がれば上がる程、天具は成長する。君達はまだその力を使っていないが今の状態をphase 1と言う。シンクロ率を上げていくとphase 2、phase 3と比例していくわけだ。」
「なんにせよ。俄かに信じられないな。」
「なんかすごそーなのは、分かるよ〜」
「そこで、その力を使って君達は過激派宗教団体モンスーンのボスを狩ってきてもらう。君達の最初のミッションだ、モンスーンの鎮圧及びボスを含む鬼の殲滅。これが最後のミッションにならない様に気を付け給えよ。」
「僕達二人だけでか?」
「ヨユーだよ〜、レントと俺なら〜」
「らしいぞ、東雲君。頼り甲斐のある相棒だな。」
こんなの死刑より残酷だな。堪ったもんじゃない。この後、軽いさらっとしたブリーフィングが行われた。宗教団体モンスーン。構成員は確認できているだけで78名。東アフリカの宗教は、殆どキリスト系の筈だが19世紀以前からある、アミズムと言う精霊信仰があったらしい。それの枝組織がモンスーンにあたる。精霊信仰...とても胡散臭いな。その構成員の少なくとも4名は鬼らしい。我ながら本当にバカバカしいよ。鬼退治って、勘弁してくれ。小学生じゃ無いんだ。そんな事でテンションの上がるタイプでも無い。
神楽はかなりテンションが上がってるみたいだ。口元が三日月の様な弧を描いている。
「現着」
保苅さんが前を向いたままそう呟いて、車が停まった。
「さぁ諸君、健闘を祈る。楽しんで来い。」
そう郷原が言い豪快に笑う。任務開始だ。