神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜 作:S.Hitta.
荒れ果てた街中に場違いな大型車両が停まっている。僕と神楽はそこから降ろされ任務の遂行にあたらなければならない。半ば意味不明な説明をされ、兎に角、目の前の建物に巣食う鬼を退治しろとの事。この何日間か何度も、何度も、何度も、何度も思っているが全く意味がわからない。因みに装備は無い。銃もナイフも刀も。いや、身体の中に埋め込まれたという『天具』なる物が唯一の武器。らしい。こんな胡散臭過ぎる話を聞いて実際に敵地?に放り込まれる僕の身にもなって欲しいと切に思う。神楽の様子はというと何故かワクワクしているらしく、輝いた瞳で僕に、早く行こう〜♡と顔が言っている。目の前の建物は、地下があるかどうかはわからないが、見た感じ三階建のビルの様な形をしている。そんなに大きくはないが、この中にモンスーンのメンバー約78名が月に一度の奨励会の為集結しているという。扉の前には二人の見張りと思しき男が立っている。此処まで来たらやるしかない。
「とりあえず見張りが邪魔だね。」
•••••
「え。」
神楽が居ない。と思えば建物の扉の前の見張り2人を既に制圧していた。こいつの行動力には度々驚かされる。
「神楽、こうゆう場合は一応でもチームなんだ。何か一声掛けるなり策を講じるなりしてから進んで行こう。」
「じゃあさ〜、早く中に乗り込もうぜ〜♡」
「真正面から行くバカがいるか。とりあえず周りの入れそうな場所探して、手薄な所から侵入するよ。」
「やーだー、俺は正面から行く〜」
「なんでだよ。」
「楽しいから〜♡」
「おい!神楽!」
そう言って神楽は扉を開けて中に入る。まるで友達の家に遊びに来たように、ルンルンと入っていく。ため息しか出て来ないな。仕方なく一緒に付いて行くと。
「うっほ♡すっげーね。大ピーンチ♡」
「よりによって入ってすぐに集会場だとはね。」
目の前に広がる光景は、さながら学校の全体集会。構成員の末端がこちらに背を向け整列していて扉が開いたことにより此方を振り向く。そして奥の壇上には幹部であろう四人が偉そうに座り、マイクの前で演説していたのであろう男は立って此方を睨んでいる。
「•••قتل」
演説していたであろう男が何かを言うと、並んでいた奴等がいきなり此方に襲いかかって来た。
「うわ〜、キターーーー!!!!!!!」
「だから言ったんだよ。畜生。」
神楽の謎なハイテンションに腹が立ったが、僕達は一斉に逃げる。事はせずに、突っ込む。神楽は僕の前を走ってたかと思うと突然消えた。
(えっ!?)
すると更に先の方の敵さんのど真ん中で複数の悲鳴が聞こえる。神楽天願流••••素直にすごいな。敵陣に真正面から突っ込むだけのことはある。だが、僕も負けないよ。僕はそのまま敵に突っ込む。《柳揺り》、大群の人と人の間をギリギリの接触で躱していく。躱していく最中手刀で敵の急所を丁寧に叩いていく。
《柳揺り》読んで文字の如く柳の葉がヒラヒラと舞う様に膝から上の身体の力を抜き敵を躱す技。
僕の通った所に人が次々倒れていって道になって行く。恐らく憶測通り素人だな。鬼とやらでもなければ軍上がりでもなく普通の国民だ。だが、このタイミングを狙って良かった。流石に銃なんて持っていられたら此の身が幾つあっても足りない。月に一度の奨励会、この日は完全に非武装って読みに関してはあのブリーフィングの意味もあったってもんだ。
10分もすると全ての敵を制圧出来た。逃げた奴も中には居るだろうがざっと見積もっても9割はヤレただろう。まぁ、殺してはいないが。
「レント〜、鬼なんていないね〜」
「まぁ、元々胡散臭い話ではあったからな。恐らく幹部であろう奴等も全く問題ない老人だったからな。一応上も見てみるか。」
そうして壇上の両側から彎曲して上階に伸びる右側の階段に向かう。
「ん?」
「まだいたのか〜」
階段を昇る直前で上からの視線に気付いた。見上げるとローブを頭から羽織り顔の様子が見えない。が何か様子が可笑しい。
(なんだこいつは?)
「日本人か。貴様らJOGの者共だな?」
「「?!」」
突然話しかけられたのと、日本語での問いかけに驚く。更にこいつはJOGと言った。それの意味と言えば。
「そーだよ〜。お前は鬼なの〜?」
「鬼?何を言っている。ふざけるなよ。」
「••••違うのか。」
「レント〜もう、つまんないから帰ろ〜」
「貴様ら、まさか此のまま帰れると思ってるのか?」
「いや、帰らないよ。とりあえず任務を終わらせないと、此の後厄介だから。」
「ほう。貴様の方は肝が座っておるな。」
「いやいや、俺もビビってないし〜。お前むかつくな〜•••殺すよ?」
神楽の雰囲気が変わった。ヤル気だ。
「神楽。こいつは殺したらダメだ。一般の人間は制圧。それが任務だろう。」
[いいえ!今すぐ逃げて!]
耳に付けられた受信機から保苅さんが言った。僕達には行動を監視されるマイクとカメラが胸元に装備されている。小型なので邪魔になることは無いが煩わしさを感じていた。
「何か、勘違いをしている様だな。俺は鬼の様に、人何ぞには殺せない。《悪魔》だ。」
「へ〜、じゃあおたく強いんだ〜。」
「強い?立場を弁えろよ、人間。いい加減不愉快だ。出処はJOGだろ?何にせよ生かして返すつもりはない。あの方の贄にしてやろう。」
[やっぱりそいつはネビロス。逃げなさい!、、それが無理なら、あいつの両手に気をつけなさい!]
焦った様子で保苅さんが叫ぶ。文字通り耳が痛い。そんな大声で騒がなくてもしっかり聞こえている。ただ、あの焦り方。気を付けるに越したことは無いな。
「ネビロスか〜、悪魔っぽいね〜♡」
「ん?何故私の名を知る?まぁいい。殺してやろう。」
「神楽、あいつの両手には気をつけなきゃダメだよ。それに此奴一匹とは限らない。」
「ほう。私の魔技も知り得るか。知った処でなんにもならん、がなっ!」
そう言って先に仕掛けてきたのはネビロスとか言う奴だ。階段の手摺から飛び降り....いや、一直線に階段の前にいる此方に突っ込んで来た。飛んでる?よな。僕は咄嗟に身を躱す。神楽は、、立ち止まって迎撃態勢万全だ。ネビロスは神楽の喉元を狙って右手を伸ばす。神楽は後ろに倒れこみ右手を躱すと、そのまま右足を振りネビロスの左脇腹を抉り、蹴りの反動を利用して距離を取る。何という柔軟な思考力、そして空飛ぶ相手への対応力。感嘆の一言だ。だが、ネビロスは多少怯んだものの宙に浮いたままでダメージを受けてる様子も無い。
「レント!あいつ飛んだよー!」
「見れば分かる。でも効いてないみたいだよ。」
[あなた達!なんで天具を使わないの?!相手は悪魔よ!?]
「「......」」
僕と神楽は顔を見合わせ。
「「どう使うんだ(の〜)?」」
[飽きれた。だから•••]
「面白い動きをする。だが、私に生身の攻撃を放っても痛くも痒くも無いぞ?少し面白いものを見せてやろう。今の一撃の褒美だ。」
そう言うと、徐に右手を前に出し掌の前の空間が歪む。そして。
「人数も合わせよう•••モンスーンの加護を受けし御霊よ、今こそ屈強なる聖霊の力を与えん」
ネビロスがそう呟くと、掌から黒い光が照射し、僕たちが先ほど峯打った構成員2人に直撃した。
「レント見て!ビームでたー!」
「見てるでしょ。」
「それ等が貴様等の言う所の、鬼だ。私が作り出した西洋の鬼で、名をトロールと言う。倒してみろ鬼狩りだろう?貴様等は。くくくっ。」
「不細工な巨人だね〜。角も生えてないし。」
「悠長な事言ってる場合じゃないと思うけどね。」
外見は神楽の言ったそのまんまだが、ネビロスとか言う奴に会ってから5分そこそこで、空飛ぶ悪魔やら、手から光線やら、人が化け物に変身やら、もう頭が付いていかない。少しの間考えるのを辞めることにする。
[あなた達、早く天具を解放しなさい!死ぬわよ!?]
「うるさいな〜、えーっと•••••••••」
「時間掛かりそうだね。その間は僕が時間を稼ごう。」
保苅さん曰く天具を発現させるには身体に入れられた天具の核と会話をし解放の仕方を聞くらしい。本来なら突入前に済ませるはずだったみたいだが、勝手に突っ込んでしまった為こんな状況になってしまった。そして今、神楽が恐らくソレと会話をしているみたいなので、僕がトロールと呼ばれる化け物、もとい鬼と対峙する。そこで僕は、神楽と距離を取る為に鬼に突っ込む。鬼だろうがなんだろうが形は人。人との戦闘に関しては負けるつもりはないが少々でかい。大きさは、3メートル位だろうか。だが、弱点は人と同じ筈。全速で走り、勢いを付けフェイクも入れず単純に
鳩尾に肘...ではサイズ的にアレなのでそのまま、ドロップキックを見舞う。トロールは避ける事も防ぐ事もせずにクリーンヒット。だが。
「え、岩かなんかかな?」
「驚いたな。貴様も、武器は何も持っていないのか?」
「•••」
これは、、ヤバイな。かなりの手応えはあった。なのにトロールはピクリとも動かない。弱点とか云々の話ではないな。単純に身体が硬い。それだけで、こうも強くなるのか。
「私を、無視するか。気に障った。ヤレ。」
「「ゔごぉぉぉおお!!」」
「気持ち悪いなぁ。•••?!」
疾い!こいつ等この体躯でなんて早さだ!こんなの話にもならないっ!
トロールは二体でそのまま突っ込んでくる。そして、ドロップキック!?僕の真似してやってるんだろうが、なんて面積だよ!柳揺りで躱せるレベルじゃない。これは、詰んだ。咄嗟に避けようと横に飛んだが間に合わず吹き飛ばされる。まるで大型トラックにハネられた様な衝撃。
「ガフッ!」
吹き飛ばされながら口、鼻、から血が飛び散った。肋と左腕はイッたな。そんな事を考えながら地面に着地。では無く受身も取れず落下する。
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
これはヤバイね。この音を足音と認識してしまう僕はもう。。。じゃなくて、トロールは間髪入れず突進して来る。しばらく動けそうにないのに。
恐らくまたドロップキック。バカの一つ覚えでも強力すぎる。この体勢で食らえば骨も残らないだろう。でも、死ねないよ。家族を殺したあいつを、殺すまでは。
「.......いだ。」
「まだ、立つのか。人間にしてはタフじゃないか。」
親父が好きだった言葉だが僕は嫌いだった。だが今を切り抜ける唯一の術はそれしかない。
「気合いだ。馬鹿野郎。」
身体に鞭打って立ち上がる。もう目の前まで化け物は来ている。ここでどうするかとか、そんな事も考えていない。この僕がだ。どうにか、なんとかしなくては。死なない為に。あいつを殺す為に。
(とべ)
!?
頭の中で誰かがそう言った。保苅さんでもない。頭の中に直接誰かが。だが、今はそんな事を考えてる場合ではない。藁にも縋る思いで脚に今持てる全てを集中した気がした。トロールはもう汚い脚の裏を四つ並べてそこまで肉薄している。僕は跳んだ。跳躍する事、、約5メートル。跳びながら自分で驚く。だが飛んだはいいが体がガタガタで着地は出来そうにない。地面が眼前まで迫るその瞬間、何かに掴まれた。
「うぉっ!これウケるね〜!見て見てレントー!てか、死にそうじゃね?」
神楽、、か。