神の逆鱗 〜逆らう人間の知恵と協力者〜   作:S.Hitta.

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玖 再会

「お兄ちゃんは大きくなったら何になりたい?美月はねぇ、お兄ちゃんと結婚するの!」

「ふふふ、それは嬉しいけど少し難しいかもね。僕は大きくなったら警察官になりたい。困ってる人を助けるんだ。そうすれば美月の事も守って上げられる。」

「えぇ〜、お兄ちゃんは美月と結婚するの嫌なのー?」

「嫌じゃないよ、これは決まりなんだ。美月も大きくなれば、僕なんかよりもきっと良い人が見つかるよ。」

「きっと見つからないよ〜。じゃあ見つからなかったら美月と結婚してねっ!」

「見つかるまでずっと美月を守るよ。」

 

 

「•••と!蓮刀!着いたわよ。いつまで寝てるのよ。」

 

•••夢か。懐かしい夢だった。もう十年位前になるか、僕の誕生日に家族皆でケーキを食べて、妹と二人で話していた時のビジョンが鮮明に蘇った。そんな妹も、父も母も、もう居ない。筈なのに起こしてくれた花音を見て少し面を食らった。

 

「ん、花音か、おはよう。」

 

昨日の任務が終わりホテルで一泊した今日、既に飛行機に乗って本部に帰還している。そして、今しがた着いたみたいだ。本部に帰るとまず、部屋に戻り荷物を置く。本部の離れに寮とは呼び難い綺麗なマンションがある。そこにJOG職員は殆どが暮らしている。4LDKの部屋に僕や神楽は一人で住んでいる。僕の場合は殆どがシャワーを浴びて寝るだけの部屋だ。贅沢な事をさせて貰っているが、更に給料も破格の値段だ。だが何に使う訳でもなく貯金が鰻上りに貯まっていくだけだ。それだけ危険な仕事、更には適正合格したこの身体だからこそだ。それでも多少は一般国民の税金で給料を貰っていると考えると、申し訳ない気持ちにもなる。

荷物を部屋に置いて、僕は別のスーツに着替えてから殲滅部隊会議室に向かう。着くとそこには、シュガーさんとソルトさんと花音が椅子に座っていた。

 

「神楽が来たらまた場所を移動するぞ。花音の夢幻魔鏡からフレイア解放して、尋問する。尋問は長官殿がするが、もしもの為に我々も長官の後ろに控える感じになったから。」

 

成る程、仮に暴れ出しても止める事ができるのは第一部隊の天具持ちだけだからか。しかし、花音の夢幻魔鏡、どんな能力なんだ。

 

「花音、君の能力とても優秀だな。物体の出し入れ以外でも他に出来る事はあるのか?」

「えぇ、収納出来るのは物体だけでは無い。それにあたしの天具は今の所phaseの数だけ能力が増えているわ。」

「すごそうだな。」

 

能力の内容は教える気は無い、と。

 

「あなた程すごくは無い筈よ。喚卵持ちさん。」

「いや、すごいよそんな便利な•••」

 

ブヴーーン!ブヴーーン!ブヴーーン!

【ケイホウ!ケイホウ!デンジャーレベル4デス、ヒセントウインはチカシエルターへヒナン。クリカエシマス。•••】

 

「侵入者か。ん、長官殿からだ。はいー。••••」

 

訓練以外で初めて聞いたな、この警報。デンジャーレベル4、侵入者を感知するとレベル4。更に複数名感知された場合は、レベル5に上がるらしい。だから現在確認されているのは一人の侵入者って事になる。

 

「•••了解です。はい。ふぅ...取り敢えず、なんか今下で二人暴れてる奴等が居るから、黙らして来いって。んで多分悪魔か神だ。」

「二体でJOGに殴り込みとは我々も舐められたものですね、隊長。急ぎましょう、被害を最小限に抑えるのです。」

「レベル4って侵入者一人じゃ無かったんですか?」

「あぁ、二人って言ったのは、内一人は神楽だ。」

「それで、二人が暴れてる。と。ふふっ、尚の事急ぎましょうか。」

「俺、便所行くから先行っといてくれ、花音は長官トコに今来いって。東雲は神楽の保護者なんだから早い所行って来い。ソルトは何かあれば俺に報告。解散。」

 

皆、一斉に席を立つ。でもシュガーさんの便所って。花音は分かる。恐らく侵入者は悪魔と言ったが何らかの繋がりが女神に有って、救出を目論んでいる可能性が高い。よって侵入者から花音を遠ざける事に関しては頷ける。だが、花音もソルトさんも何故シュガーさんに対して何も突っ込ま無いのだろうか。更に僕は神楽の保護者になったつもりは無い。それでも、納得は出来てしまうのが悲しい所だ。

 

エレベーターを降りて正面玄関に到着。

 

「うわぁ、派手にやってるなぁ。」

「東雲君。私が此処に着いた時には、もう既にこの状況だった事を隊長に言葉添えお願いしたいのだが宜しいかな。」

「ふふっ、了解です。...ん、あいつ(. . .)は確か。生きてたのか。」

 

エレベーターの中での音と揺れで察してはいたが、この荒れ方はお互い気を使わなかった結果でしか無いと思わせるような状況だった。窓ガラスは全て割れ、観賞植物は薙ぎ倒された挙句燃えかすになり、広場に設置されたソファやテーブルもめちゃくちゃになって、極め付けは天井や壁に大小問わず穴が幾つも空いている。全体的に残り火が寂しく揺れている。その中央上空で、このカオスを作り出した当人達、つまり神楽とネビロス(. . . .)が殺り合っている。

 

「取り敢えず、もうここまで酷いんですから、静観しますか?」

「いやダメですね。もし、神楽君が面倒になった、又はイラついたりでもしたら、本部自体が倒壊する恐れがあります。出来れば喧嘩は外でやって欲しいですね。」

「分かりましたから、そんな目で見ないで下さい。僕は悪くないでしょう。」

 

ものすごいジト目で此方を見てくる。ソルトさんも悪気はないのだろうが、後の事を考えるとそうなってしまうのだろう。

 

「アゼル、phase4だ。力を貸して。」

(いいだろう。)

 

やはりこの姿、悪魔より悪魔な気がする。でも、存外僕は気に入っている。姿形が禍々しくなればなる程、力が増す。それは気持ちの問題でもなんでも無く事実。強さ、それはフィジカルだけの問題では無い、身体が強ければ心も強くなる。そして頭には詰め込めるだけの必要な情報を入れている。僕の頭のスペックで足りなければ、アゼルと言う優秀な協力者がいる。僕の持てる力全てを持って必ず碧眼の男を殺す。この目的はアゼルも同意してくれている。その為ならアゼルから課された条件なんて安すぎるんだ。だからアゼルにも感謝してもしきれ無い。

phase4になった僕は、両の掌にも眼が開く。今迄を通して見ていると、phaseの数だけ眼が増えていく。アゼルの眼には一つ一つ強力な力が宿っている。その一つが

 

暴威風塊(ぼういふうこん)

 

僕の右手の眼には簡単に言えば風を巻き起こす力がある。この技は手の中で生み出した風を回転させて圧力を発生させる。今のは軽く500hpa程の圧力を掛けたけど、その辺の台風なんかの圧力よりもずっと強い。それを神楽とネビロスに向かって放つ。いきなりの衝撃で二人共モロに直撃して建物の外に吹っ飛ぶ。が、もともと割れてたガラスは良いものの枠組みも全てぶち壊してしまった。

 

「お...おい。東雲君。」

「まぁ、これは必要被害と言うことで。」

「君達と居ると私は頭痛が治ら無いのですよ。せめて東雲君だけは、と思っていたのですが。」

「ネビロスの第一発見者が神楽だった時点で運の尽きです。」

 

そう言って僕は責任を棚上げした。ソルトさんも黙ってしまったので、ほっといて先に追いかけることにした。この姿で便利な事の一つは飛べる事。人の夢とも言える、人体飛翔は考えてるよりも、とても難しかった。訓練室でphase1の身体になった時、真っ先に試したのだが、とても見苦しい感じになっていただろう。だが、自転車と同じで練習して一度浮けるようになれば、そこからは簡単で、出来無くなる事も無かった。今は恐らく鳥よりも自由に飛べる自負がある。phase4の状態なら大気圏の外まで飛ぶことが出来る。そんな鳥はこの世に存在しないだろうからね。速度も飛行機を置き去りにする事位は容易い。

その自慢の六対の翼をはためかせ、バツが悪くなったのでソルトさんを置いて行く。僕が開けた穴を潜って外に出ると、かなりの勢いで吹き飛ばしてしまったみたいだ。本部棟から五百メートル程離れている、飛行場の滑走路の方まで飛んで行っていた。心の中でこの前の顔面パンチのお返しという事で整理した。

 

「レント〜〜、てめぇ殺す気かよ。」

「悪い、勢い余った。でも神楽が悪いよ、あんな所で大暴れしてるんだ。逆に反省しないとシュガーさんが、かわいそうだよ。」

「此奴に言えよ〜、俺は悪い事はしてねー。」

「どうだか。」

 

毒付いて来るものの、流石の神楽もネビロスとの戦いの最中で暴威風塊を直撃しては息も絶え絶えだ。だが、それはネビロスも同様みたいだな。

 

「久し振りだね。ネビロスとか言ったか、まだ生きてる?」

「ぐっ、•••金髪の小僧はロキ様の鞭を、貴様はアザゼル様の瞳を。貴様等一体どうやって。」

「そういえば前も、言ってたね。あの時は僕達も良く解って無かったけど、アゼルもロキも僕等に協力してくれているんだよ。」

「馬鹿なっ!アザゼル様もロキ様も主神の『人に仕えろ』と言う命に背き堕天したのだぞ。そんな訳あるまい!」

 

面倒くさいな。だが、この流れは悪くない。

 

「アゼル。」

 

一言呟き、目を閉じる。

 

『ネビロスの小童か。して、アスタの具合はどうだ。』

 

驚愕したのだろう。一瞬、赤い瞳孔を開き、鼻をヒクつかせ、カタカタと歯が震えるも直ぐに正し跪く。

 

「西魔六柱は二本柱のネビロス。慣れぬ日ノ本言語で失礼ながら申し上げまする。殿下を北魔、ナチスレーパの王族であられる、アザゼル様とお見受けしました。只今の問いに畏れ多くも答えさせて頂きますと、アスタロト様は亡くなられました。」

『その口調を直せ。面倒かつ、そこのガキが理解できておらん。儂はもともと王などではないしな。』

「滅相もございません!私などが....」

『三度は言わん。直せ。』

「•••分かりました。」

『アスタロトは何故消えた』

「神の粛清です。」

『ほう。してアスタロトを消す程の奴とは』

「トール神です。」

『トールか!ロキ、貴様トールと親しかったな。』

 

神楽が座り込んで、ふっと目を閉じる。

 

『•••ネビロス、久し振りだな。懐かしく感じる、もうあの件から六百年にもなるか。トール、会いたいものだな。だが今、会えば立場上、敵になるか。』

「•••」

『当時のしきたりなど忘れ話せ。もはや俺様も貴様と立場は同等だ。ネビー』

「大変失礼しました。再びお会い出来るとは歓喜の極みにございます。トール神はロキ様、アザゼル様も粛清なさるおつもりです。この度此方に襲撃をかけた訳なのですが、《キトリス》の作星を主神が考えておられるとの情報を聞き入れました。故にあなた方、二神(にしん)の存在真意を確かめる為に参りました。ロキ様、先程は大変に失礼致しました。」

『キトリス。よもや本当にそんな事を。』

『薄々分かっていた。それで?』

「はい。人間としても、我々悪魔としても、大変失礼な物言いになりますが、堕ちいってしまわれたあなた方二神も、キトリス計画は芳しい状況では無いと思われます。したがって、畏れながらこの私め、キトリス作星阻止の為、ロキ様には再び、アザゼル様にもお使いさせて頂けぬかと思い参じました。」

『ほう。』

『また貴様と共闘出来るのは楽しそうだな。だが、今、俺様の立場上で勝手に承諾することはできねー。だから、アゼルの宿主と相談しろ。俺様は歓迎だ。』

『ロキに同意しよう。レント。』

「勝手によく分からない話進めといて、これはひどいね。」

「今迄の非礼を詫びよう。レント殿。」

 

キトリス作星、なんなんだよ一体。兎に角、この事は郷原さんに報告、相談しなきゃだな。今の会話を聞いている限り裏切りは無いと思うが、それを果たして信用してくれるかどうかも分からない。面倒な事ばかりだが、きっとこれも碧眼が絡んでるに違い無い。僕の進む道は一つだ。

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