ブラック・ブレットから絶望引いてみた(い)-凍結- 作:上やくそう
久野ボイスのロリとか最強でしょ。
燕尾服の変態 が しょうぶ を しかけてきた!
夕暮れ時、茜色に染まり始めた住宅街の一角に一際みすぼらしいボロボロのアパートが建っている。
今は一部屋しか使われておらず、住人はたったの二人だ。
その内の一人が今、錆び付き、いつ崩れてもおかしくはない階段を登っていた。
スクールバッグを肩に掛け、制服を着ている少年、里見蓮太郎は帰宅時の幸福感に、傍目には分からない程ごく僅かに口許を緩ませ、扉を開いt「れんたろーーーー!!」
「ぐっ….」
部屋の中から飛び出してきたオレンジ色の突進が鳩尾に突き刺さり小さく苦悶の声を上げた。
「おかえりなさいなのだ!あのな、わらわはな、学校終わってからもちゃんといい子にして宿題して待ってたぞ!!」
「ん…そうか、偉いな延珠。よしよし」
「みゅふふ〜」
一瞬浮かんだ苦い顔を更に速く消して、蓮太郎は腰に抱き着く少女の頭を撫でた。
蓮太郎からのご褒美に心底幸せそうに、にへら、と笑顔を浮かべて延珠は更に頭を蓮太郎に押し付けた。
「でも友達と遊びに行ってても良かったんだぞ」
「んーん、『りょうさい』は旦那さんをちゃんと待つのだ」
「そうか」
「…むー」
自分の夫婦発言を微笑ましい物を見るような目で返されて若干ふてくされる延珠。ぷくー、と頬を膨らませるその姿はどこかハムスターを連想させた。そんな延珠を見て、蓮太郎はもう一度延珠の頭を撫でた。
「えへへ〜」
途端に破顔しにやける延珠。実にちょろい。
撫でる手を止める。
「ぁ……」
撫でる。
「…ぇへへ〜」
止める。
「うぅ…」
撫でる。
「…ふふ〜」
このまま延珠と遊んでても良いのだが、蓮太郎は自分の腰に頬ずりしている延珠に声をかけた。
「それはそうと延珠、木更さんから連絡があった。依頼だ」
「おお、そうなのか!よし、わらわに任せろ!」
「ああいや、延珠には別に頼みたい事がある」
「お、おぉ。な、なんでも言うが良い!」
そう言って蓮太郎は割と鬼気迫る表情で延珠の肩を掴み、重々しく要件を話し始めた。
◆
「あぁん?お前が応援に来た民警だぁ?」
厳つい顔つきの男、多田島がドスの効いた声で蓮太郎を睨みつけた。
男は視線を寄越しただけで大の大人でさえ縮み上がりそうな目つきの悪さと鋭さを有しており、横に駐車されたパトカーがなければヤクザと思われても何ら不思議は無かった。
「馬鹿も休み休みに言え。まだガキじゃねえか」
蓮太郎の身なりを見て鼻で笑うようにそう言った。それに眉を顰めすらせず蓮太郎、
「
「…チッ、まあいい。ライセンス出せ」
本人は単純に相手を気遣っただけなのだが、それが多田島の気に障ったようだった。蓮太郎が差し出したそこそこ年季の入っているであろうライセンスを乱暴にひったくる。
「その服、お前学生か?」
「ああ」
「天童民間警備会社…どっかで聞いた様な聞いてない様な…」
「それ程売れてはないがな。それより仕事の話だ、状況は?」
話も程々に蓮太郎が切り込む。それに多田島は僅かにハッとしてライセンスを蓮太郎に返した。
「っと、そうだな。その前にお前、イニシエーターはどうした?民警ってのは二人一組なんだろ」
「別件だ。ウチは兎に角人手が足りないんだ」
「はぁ、そうかい。…で依頼の話だが───」
古びたマンションの二階、その一室の前に戦闘用の装備を整えた大量の警官が待機していた。
「何か変化は?」
多田島が状況を聞くと、警官の一人が震える声で言った。
「た、たった今ポイントマンが上階より懸垂下降にて突入………連絡が途絶えました」
その言葉に多田島は絶句し、血相を変えて警官に詰め寄った。
「馬鹿野郎!どうして民警の到着を待たなかった!」
「我が物顔で現場を荒らすあいつらに手柄を取られたくなかったんですよ!主任だって気持ち分かるでしょう!?」
警官の方も半ばヤケクソのように叫ぶ。と──────
「喧しいぞ」
然程大きくもない、寧ろ静かな少年の声、その威圧感に周囲は静まり返った。
「下らん言い争いなら余所でやってくれ、もしこの奥にいるかもしれないガストレアを刺激させたらどうする」
「…そうだったな、すまねえ」
多田島がこの場を収めた蓮太郎と詰め寄った警官に対し謝罪した。今は民警への八つ当たりに近い感情も捨てねばならないのだ。もしこの室内にガストレアがいて、そいつがこんな喧嘩で暴れ出したら目も当てられない。多田島とてその分別は弁えている。
「俺が突入する」
蓮太郎は腰のホルスターからスプリングフィールドXDを抜き、サプレッサを取り付ける。銃口をドアノブに押し当て、引き金を二回引いた。
プシュッという音がするとともに蓮太郎はドアを蹴破り部屋に飛び込んだ。
室内、そのリビングの異様な光景がまず蓮太郎の目に入った。
クレーターのように円形に陥没した壁、そこには二人の警官が血塗れで
そして一際目を惹きつけるのは、この凄惨な部屋に蓮太郎に背を向け悠然と佇む燕尾服の男だった。
その男はゆっくりと振り返り、
「やあ、民警君、随分と遅かっ───」
───眼前に迫る掌底を避けられたのは奇跡に近かった。
男はこの一撃を
ボッ、と風を逆巻かせる掌打が顔の横で唸り声を上げる。
伸びきった右腕を絡め取ろうとする間もなく残像を残しその腕は引き戻され、蓮太郎の姿が男の視界から消えた。
──どこに。
そう思うのも束の間、背筋を奔る悪寒に従い跳躍。瞬間、直撃すれば膝をへし折られていたであろう超低姿勢から放たれた回し蹴りが爪先を掠めた。
男の表情が仮面の奥で歓喜に染まる。
攻撃が避けられているにも関わらず、蓮太郎は淡々と呟く。
「───獲った」
(!しまっ───)
男が着地するより遥か先んじて、回し蹴りの勢いをそのままに身体を捻り再度放たれる蓮太郎の上段後ろ回し蹴り。
「天童式戦闘術二の型十六番、
『
空中に囚われ、避けるどころか身動きすらままならない男は「どうみても犯人だからシバく。というか変態だからシバく。犯人じゃなくてもシバいてから事情聴取する」という蓮太郎の割と危ない思考から放たれた一撃が腹部に直撃し、家具を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
蓮太郎、『水天一碧の構え』を取り残心。後には荒らし尽くされた室内が残る。
「───フフフ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
「……!」
突如響き渡る哄笑。先の絶戦を見て放心していた警官が
──無駄死にするつもりか?
ごく短いとはいえあんな戦いを繰り広げた蓮太郎にそう睨まれれば警官は歩を止めるしかなかった。
部屋の奥から男が歩いてくる。奇妙な仮面を着けた燕尾服の男は何が嬉しいのか、肩を歓喜に震わせくつくつと嗤いながら蓮太郎を眺めていた。
「楽しいッ!私はなんて運がいいんだッ!たいして期待していなかったが、こんな『大当たり』と出逢えるなんて!」
──大当たりとか何のこっちゃ
蓮太郎は内心この人頭大丈夫かな俺が蹴って壊れちゃったのかな、とか思いながらも尋ねた。
「で、お前は何者だ」
「おや、済まないね。何しろ録に話せずぶッ飛ばされたものだからね」
「…不審者だからな」
「ハハハ、お察しの通りだよ。自己紹介といこうか。私は蛭子影胤、
「…里見蓮太郎」
「サトミ、里見君ね…」
prrrrrrrr、と。
影胤が蓮太郎の名前を呟いていると、室内に携帯電話の着信音が鳴り響いた。
影胤はポケットから折りたたみ式の携帯電話を取り出し耳に当てる。
「ああ、小比奈か。ちょっと今立て込んでいてね。後にしてくれるかい……あぁ、では」
相手と話しながら影胤はベランダの欄干に足を掛け、勢いよく蓮太郎を振り返り、言った。
「では里見君、また会おう。
──────私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止める事はできない」
影胤がふわりと空に足を踏み出し落下する。
「……」
蓮太郎が欄干に乗り出し、下を確認してみても、もう影胤はいなかった。
◆
さて、変態である。
いや、いきなり何言ってんのって感じなんだけど変態なんですもの。仕方ないじゃんか(錯乱
何なの?腹蹴られて喜ぶってさ。もうアレ喜び超えてたよ、悦んでたよ。
っべーよやべーよ…。俺当たりとか言って目ぇ付けられたよ...!
超嬉しそうに「また会おう」とか俺の寒気が凄い事になっとる。
「おい、民警!」
「…何だ」
「気持ちは分かるが今はガストレアだ!」
あ、仕事中でしたね、すみますん。あんな変態とエンカウントするなんて思ってなかったから忘れてた。
「ここは部下に任せる、俺たちはガストレアの捜索だ。パンデミックにでもなったら目も当てられん」
「…ああ、行こう」
◆
閑散とした住宅地。人通りのない道路を
(…あれ、俺は何で……)
職を失い、家族関係もうまくいかず離婚して早数年。先日やっとの思いで再就職先を見つけ、ここからまたやり直すつもりだった。
(そうだ、家に帰らないと)
それが今はどうしたことか、見覚えのない住宅地をふらふらと歩いている。
どうしてこんな所にいるのか記憶にないが、取り敢えずは人にここがどこなのかを聞こうと、純明は
「いた───…!」
ふと背後から声が聞こえて純明は足を止めた。後ろを振り向くと、ちょうどコートを着た中年の男性と学生服の少年がこちらに走り寄ってくる所だった。
「あの、すみません。ここは」
「おい!あんた、岡島純明だな!?」
ちょうどいいと、ここが何処かを聞こうとした時、男性に勢いよく詰め寄られ言葉に詰まる。
その剣幕に戸惑いながらも純明は応えた。
「え、ええ。そうですが…あの、いきなりすみませんが此処はどこですか?」
「───お前、自分がどうなってるのか分かってないのか…?」
何を言っているのだろうか、この男性は。
純明は、どこか話が噛み合っていないような印象を受けた。
「…わかった、じゃあお前さん、ゆっくり自分の体を見てみろ。パニックにならないようにゆっくりとだ」
「あ、ああ…」
純明は男に言われたとおりにゆっくり自分の体を見下ろした。
「──────え?」
途端、純明の視界に広がっていたのは、血で赤一色に染まったワイシャツと大きく抉られた肩、そして今もどくどくと血を垂れ流す自らの肉体だった。
(……そうか、俺は)
純明はガストレアに襲われた。
今思い出した。
マンションのベランダで再就職が決まった事を離婚した妻と娘に伝えようと携帯を手にした時だった。
柵にもたれ後ろを振り向くと、マンションの壁に巨大な赤眼の蜘蛛が張り付いていた。
後は気が付いたらここを歩いていて今に至る。
「あなた達は、民警ですか?」
「俺は警察だが、こいつがそうだ」
男性が学生服の少年を指差す。少年は特に否定するでもなく純明を見つめていた。
「そうですか。それで民警さん、俺は…」
「…ああ、おそらく体内侵食率が50%を超えている。間もなく形象崩壊が起こるだろう。…何か、言い遺したい事はあるか」
少年は済まなそうにする事も、見え透いた嘘をつくことも無かった。
ただ淡々と真実を告げた。
それが純明には有難かった。安い同情をされるのは嫌だったからだ。
それを少年は分かっているのだろう。純明の眼を真っ直ぐ見つめ、遺言を問うて来た。
純明の脳裏をこれまでの人生が駆け巡る。走馬灯とは少し違う。
純明は意図して最期に記憶を掘り起こし、眺めていた。
声が、喉が震えている。目尻からはとめどなく涙が溢れ、目の前の少年の顔すら霞がかっていた。
「…そうか。じゃあ、一つだけ、妻と娘に言っておいてくれないか──────今まで、ゴメンって」
返答を聞くことは無かった。それが純明の見た世界の最期だった。
ただ、心配はしていなかった。
確信等何もない。
だが、自分の気持ちを正しく汲み取り、真摯に接してくれた彼ならば。
きっと異形と化した自分を解放して、言伝も届けてくれるだろうという、不思議な安心を胸に抱きながら、岡島純明の意識は遠い世界へと旅立った。
◆
「───ああ、任せろ」
隣に立つ少年が呟く。
一瞬にして人間の原形を跡形もなく崩し、「岡島純明だったモノ」がヒトの皮を食い破るようにしてその姿を表した。
常人ならば誰もが逃げ出すであろうその光景を前に僅かも怯むそぶりを見せず、ただ噛みしめるようなその声が多田島にはやけに大きく聞こえた。
「ステージⅠ、モデルスパイダーを確認。これより戦闘に移行する。……ここから先は俺の仕事だ。警部さんは下がっていろ」
「………了解した、民警殿」
多田島も余計な口出しはしなかった。
餅は餅屋。専門家がいるのだから、素人の自分が下手な手出しをした所でかえって邪魔になるという事くらい、彼にも分かっていた。
それに、岡島純明は里見蓮太郎に託し、里見蓮太郎は任せろと言った。
それだけで十分だ。
「ッッギィイイアァアアアァア!!」
蓮太郎の背丈と同じほどの巨大な蜘蛛が粘液を撒き散らしながら威嚇する。
蓮太郎はそれに刹那すら怯まず瞬時に
多田島にはホルスターからXDを抜く所すら視認できなかったほどの早撃ちは蜘蛛の真紅の複眼二つを狙い過たず撃ち抜く。
弾丸の着弾を見届ける事すらなく蓮太郎が飛び出す。瞬間、蓮太郎のいた場所を蜘蛛の脚が突き刺した。
複眼を撃ち抜かれ暴れようとする蜘蛛に行動を許さず、下からすくい上げる一の型十五番───
「『
一閃。
素人目に見ても分かる程洗練され練り上げられた修練の果てに形づくられた拳打は、蜘蛛の脚をいとも簡単に吹き飛ばす。
「ギシィアアアァァアアァア!!!」
自らの脚を吹き飛ばされた怒りに震える蜘蛛。
眼前に潜り込んできた蓮太郎を擦り潰そうと開かれる大顎。
「遅い」
しかしてその攻撃はほぼ真下から放たれた蹴り上げによって、果たされる事はなかった。
凄まじい威力の超上段蹴りは生々しい音を振りまかせながら、蜘蛛の頭部をザクロをぶちまけるように粉砕し、蜘蛛がゆっくり倒れる。
その瞬間、勝者が決定した。
◆
目の前に行われた圧倒的で一方的な「駆除」。
それを成した張本人は怪物の骸の前に立ち、静かに黙祷を捧げていた。
多田島は蓮太郎に歩み寄る。
蓮太郎が目を開ける。その瞳は何を思っているのか、多田島には読み取る事が出来なかった。
「民警…」
これが民警という職では日常的に起こり得る事なのだろうか。
まだ高校生の少年がこんな役目を負わなければいけないのだろうか。
「警部」
蓮太郎の声に我に帰る。少年の目は、覇気と決意に満ちていた。
「十七時四十一分三十秒。任務を達成した」
「任務達成を確認した。ご苦労、民警殿」
多田島は敬礼して告げる。この少年は立派だ。
警察と民警の確執に構うことなど無く、ただ依頼の達成と周囲の安全確保に励み、怪物と化した岡島にも最後まで人間として接する、仁義に溢れた、紛れもない傑物だった。
「では、俺はこれで失礼する。…やる事があるからな」
伝言の事を言っているのは直ぐにわかった。
この少年を見ていると今の警察と民警の関係がバカバカしく思えてくる。皆で手を取り合おうという綺麗事を吐くつもりは無いが、もう少し協力し合う事も出来るのではないか、と。
立ち去る蓮太郎の背を見送りながら、そんな事を思った。
「あ、報酬渡すの忘れた」
◆
〜その頃の延珠〜
「これ下さいなのだ!」
「あら、お嬢ちゃん偉いねぇ。おつかい?」
「うむ!蓮太郎に頼まれた、とても大事な事だぞ!」
「まぁ可愛いこと。お菓子でもおまけしちゃおうかねぇ」
「ほんと!?やった!蓮太郎とはんぶんこする!」
藍原延珠は今日も元気いっぱい。
お久しぶりです。テストで忙しかったとです。受験も控えてるので、二月くらいまではこんな調子です。すみまそん。
こんな事言っといてなんですが、新作を投下致しました。ダンまちの二次になっております。暇だったら見てくだせえ。