また初めての二次創作&書き物なので細かい粗はご容赦ください。
運命の十日
「うぅ…」
四月十日、その日の寝起きは最悪だった。
妹が自分のお腹の上に馬乗りになりながらリズムを付けて体重を掛けてくるのだ、そりゃあ寝起きが悪くなるというものだ、しかも妹は手をわきわきと動かしながら徐々に胸の方へと手を伸ばしてくる。
「おねーちゃん、早く起きないと…」
「琴里―、起きた、起きたからー」
寝起き眼を擦り、寝起き特有の低い声でそう言うと、わきわきと動かしていた手を止めキラキラとした双眼を胸から顔へと向ける。
「おはよー、おねーちゃん!」
「ん…おはよう、琴里」
その後無事にお腹の上から琴里に退いてもらい先にリビングへと向かう様に伝えればお姉ちゃんと呼ばれていた少女『五河士織』はベッドから抜け出し身支度を整え始める。数分後リビングへと向かえばソファーに腰かけテレビを見ていた。しかし扉の開く音で気づいたのか視線をテレビから士織へと変え手をブンブンと振る。
「おねーちゃん、朝ご飯ー」
「うん、今から作るからもう少し待っててね琴里」
士織はそう言うとリビングに併設されているキッチンへと脚を進める。簡単な物で良いかなー等と考えながらキッチンに着き冷蔵庫を開け、一通りの材料を取り出し調理台へと置く、そして調理に掛かろうとする士織の手が琴里が見ている朝のニュース番組の音声で止まる。
『今日未明、天宮市近郊の…』
「ん…?」
聞きなれた地名にカウンターテーブルから身を乗り出す様にしながらテレビの方を見るそこには中継映像だろうか、無残にも倒壊した商業ビルや陥没した道路などが鮮明に映っていた。
「空間震か…」
整った顔を少し曇らせながら士織は止めていた調理を再開する。
空間震、読んで字の如く空間の地震と称される広域振動現象の事である。
発生原因不明、発生時期、地域も不定期、被害は今日の様な街一つが被害を受ける様な物から、三十年前に発生した当時のソ連、カザフスタン、モンゴル、中国の国境地帯で発生し死者行方不明者一億五千万を数える事になってしまったユーラシア大空災などがある。士織達が住むこの地域も例外ではなくユーラシア大空災から六か月後に発生した南関東大空災で被害に逢っている地域なのだ。
「一時期は全然起こらなくなってたって話なのに、なんでまた増え始めたんだろう?」
「どうしてだろねー」
調理を続ける士織がそう口にするとテレビを見ている琴里がそう言いながら首を傾げる、そう五年程前、ここ天宮市で空間震が確認された頃を境に再び空間震が観測され始めたのである。勿論この二十五年の間に技術は進歩し空間震対応の地下シェルターや空間震の兆候を探知するシステムの開発など様々な対応策が出来つつあった、また自衛隊内にも災害復興担当の部隊が創設されたりもした。
「けどこの街の近くとかも空間震多いよね?去年の夏頃くらいから」
「……んー、そーだねー。…ちょっと予定より早いかなー」
「?早いって何が?」
「んー、あんでもあーい」
士織は調理の手を止め首を傾げた。会話の内容よりもその発せられた少しくぐもった声にだ、クロスで手を拭けば無言でカウンターを回り琴里の傍へと歩いてゆく、琴里も流石に気づくのか士織から顔を隠す様に首を回す。
「こーとーりー、ちょっとこっち向いて」
「………」
琴里は士織の言葉に無言を突き通す。腰に手を当てふんすっと息を吐き出せば腕を伸ばし琴里の頭に手を乗せる。
「えい」
「ぐぎゅっ」
そのまま琴里の頭を方向転換させれば琴里の喉から変な声が出る。そして琴里の口元から伸びる白い棒を見れば士織は「もう、やっぱり」と嘆息しながら呟く。琴里は朝ご飯前だというのに大好物のチュッパチャプスをくわえていたのだ。
「もう、ご飯の前にお菓子食べちゃダメって言ってるじゃない」
「…ごめんなさい」
琴里は口からチュッパチャプスを取り出せばシュンとしながら謝る。
その様子を見た士織は少し困った顔を見せるがすぐに笑顔になれば妹の頭に手を乗せくしゃくしゃと頭を撫でる
「もう、ちゃんと朝ご飯食べるんだよ」
「おー! 大好きだぞおねーちゃん!」
士織はクスッと笑えば再びキッチンへと戻り調理を終わらせる。
「そういえば今日って中学校も始業式だよね?」
リビングの椅子に座り朝食のトーストにマーマレードを塗りながら士織は思い出したように口を開いた
「そうだよー」
「それじゃあお昼には二人とも帰ってこれるね…琴里はお昼何か食べたいものある?」
琴里はトーストを口に咥えたまま思案する様に頭を揺らす、しばらくすればトーストを口から離す
「デラックスキッズプレート!!」
その答えを聞けば士織はやや困り顔を浮かべる
「流石にそれは作れないかなー」
「えぇー」
琴里はあからさまに不満げな顔を士織に対して向ける、対して士織は嘆息しながら、けど微笑みを浮かべながら琴里に言葉をかける。
「それじゃ、お昼は外で食べよっか」
「本当かー!」
「うん、学校が終わったらいつものファミリーレストランに集合ね」
士織がそう言えば琴里は興奮しながらトーストを持つ手をブンブンと振る
「絶対だぞ! 絶対約束だぞ! 地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」
「流石に占拠されてたらご飯たべられないよ」
「絶対だぞー!」
「うんうん、絶対約束ね」
はしゃぐ琴里の様子を笑顔で見ながらそう答える、始業式だし、少しは贅沢しても良いよね。
まぁ千円にも満たないお子様ランチが贅沢かどうかはわからないけど。
「それじゃ早くご飯食べて学校いこうか」
「おー!」
士織が高校へと到着したのは午前八時十五分頃だった。
正面玄関前に張り出されたクラス表を確認し、一年間お世話になる教室へと向かう。
「二年…四組だよね」
士織が通う都立来禅高校は天宮市の再開発に伴い数年前に創設された学校の為、充実した設備と空間震が起こる事を想定して作られた最新の地下シェルターも完備している。その為か入試倍率はやや高かったが普段から勉強をしていた士織にとっては余り変わりは無かったのだが。
「んー…」
教室に入れば士織は小さくうなり、教室を見回す。
ホームルームまではまだ時間があったが教室の席の殆どは既に埋まっている状況であった。一年生の頃と一緒だったことを喜ぶ者や席に着き一人でいる者など反応は様々であったが士織の見知った顔は見受けられなかった。士織は視線を座席表が貼ってあるであろう黒板に向けると。
「――五河士織」
背後から不意に、抑揚のない静かな声がかけられた。
「え…?」
士織は聞き覚えのない声に振り向く。
そこには白いショートカットの髪と人形の様な顔をした細身の少女が立っていた。
人形の様な顔、そうその表現にピタリと当てはまる程端正な顔立ちと同時に彼女の顔には一切の表情が窺えないのだ。
士織は一度きょろきょろと周囲を見渡し彼女の指すイツカシオリさんが他に居ないことを確認すれば自らを指さす。
「…私?」
「そう」
目の前の少女はまっすぐ士織の顔を見ながら小さく頷く
「えっと…なんで私の名前を知ってるのかな…?」
「覚えていないの?」
「えっと…ごめんなさい」
「そう」
士織が申しわけなさそうに言うと、少女は抑揚のない声で一言そう言うと窓際の席へと歩いていった。
「やっ、士織ちゃん今日も一段と綺麗だね」
「お、おはよう…殿町君」
後ろから再び名前を呼ばれたが今回の声には聞き覚えがあった為振り返りながら挨拶をする、振り返り相手の姿を確認すればやはり想定通りの人物が居た。ワックスで逆立てられた髪と筋肉質の体がトレードマークの士織の一年生の頃のクラスメイト殿町宏人だ、彼とは一年生の頃に一騒動あった事が切っ掛けで知り合ったのだが事あるごとにアプローチを掛けてくるので士織としてはやや苦手な人であった。
「けど意外だったなー、士織ちゃんが鳶一と知り合いだったなんて」
「鳶一さん?…えっと誰かな?」
「ほらさっきまで楽しそうにおしゃべりしてたじゃん」
そう言うと殿町君はあごをしゃくり窓際の席を示す。
そこには先ほど士織に声を掛けてきた少女が席に着き本を読んでいた、しかしこちらの視線に気づいたのか書面から目を外しこちらへと視線を向ける。
「……っ」
士織は気まずそうに目を背けるが、反面軟派な殿町君は馴れ馴れしく笑顔で手を振るが少女は一切の反応を返すことなく再び本へと視線を戻す。
「ねっ、あんな感じなんだよ」
「えっと、前のクラスに居たのかな?」
「鳶一だよ、士織ちゃん、鳶一折紙。うちの学校一の秀才、秀才どころか超天才って言っても過言じゃない奴だよ、聞いたことない?」
「えっと…ごめん聞いたことないや」
私が首を振りながらそう言うと殿町君は信じられないという風に両の手を広げ驚いた顔をする、そんな反応をされると流石に傷つく。
士織が少し涙目になっていると殿町君は少しわたふたとしながら一度仕切りなおす為か咳払いをする。
「鳶一の成績は常に学年主席、この前の全国模試では全国トップの成績だったんだよ」
「…そんな凄く頭が良いのになんで公立校に通ってるんだろ?」
「うーん、家の都合とかじゃないかな」
殿町君は大仰に肩をすくめながら話を続ける。
「しかも体育の成績もダントツ、インターハイにも行けるレベルだ。それに去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも第三位だったんだ」
「へー、てゆうかそんなランキングあったんだ…」
純粋に鳶一さんの成績は凄いと思う、特に自分の体育の成績はお世辞にもいい方ではないので一層そう思う。
「因みに…一位がだれかわかる?」
「へっ?」
「士織ちゃん、君だよ」
唐突な言葉にキョトンとする、そんな私を見ながら殿町君は続ける。
「理由としては女子力の高さとか保護欲をくすぐる立ち振る舞いだとかが主な理由かな、ちなみに『恋人にしたい男子ランキング』はベスト357まで発表されている。」
「女子は少ないのに男子は凄く多いんだね」
「主催者の女子が13位だったんだ…」
それを聞くと士織はなんだか申し訳ない気持ちになった。
「因みに殿町君は何位だったの?」
「357位だよ」
「……えっと…」
どうしよう掛ける言葉が見つからない、途方に暮れそうになっていると聞きなれた予鈴が鳴った、これ幸いとその場を離れまだ確認していなかった自分の席を確認しに向かう。
黒板に書かれた席順を確認すれば士織は窓側から数えて二列目の席に鞄を置く。
そこでやっと気づいた。
「…あ」
なにか縁でもあるのであろうか私の席の隣は鳶一さんの席だった。
鳶一さんは予鈴が鳴り終わる前に読んでいた本を閉じ、机にしまう。
そして視線を前へと真っ直ぐ向け、美しい姿勢を作る。
「…」
私もそれに倣う様に視線を前に向ける、ちょうどそれに合わせる様に教室の前扉が開く、そして縁の細い眼鏡をかけた小柄の女性が現れ、教卓に着く。
それと同時に教室中から小さなざわめきが聞こえてくる。
「タマちゃんだ……」
「あぁ、タマちゃんだ」
「マジで、やっりぃ」
聞こえてくるのは好意的かつまるで友達の事を話すような雰囲気でさえあった。
「はい、皆さんおはよぉございます。これから一年間、皆さんの担任を務めさせていただきます、岡峰珠恵です」
社会科担当の岡峰珠恵教諭・通称タマちゃんが間延びした声でそう言いながら頭をさげた。
その際にずれた眼鏡を慌てて両手で押さえる。生徒と同年代にしか見えない童顔と体躯、そしてのんびりした性格から絶大な人気を誇る先生である。そんな姿を苦笑しながら見ていたがふと視線を感じる、視線の方向を見れば左隣の席の鳶一さんが、じーっと、士織の方へと視線を送ってきていたからだ。
「……っ」
一瞬目が合うと私は慌てて視線を逸らす。
(な、なんなんだろう…私なにかしたかな…)
そんな風に考えながら、送られてくる視線に落ち着く事も出来ず、うなじにうっすらと汗をかく。
それから約三時間後。
「士織ちゃん、よかったらランチをご一緒しないかい?」
始業式終了後のざわめく教室で殿町君が大仰なポーズで頭を下げながらそう言ってきた。
「ごめんね、今日は琴里とお昼ご飯たべる約束してるの」
「そうか…」
殿町君は返事を聞けば再び大仰なポーズをとりながら思案顔を浮かべる。
しかしふと顔を上げると意味深げな顔で切り出す。
「琴里ちゃんって中二だったよね?彼氏とか居るの?」
「えっと…そんな話は聞かないかな」
殿町君はその返事を聞くと一層の笑顔を浮かべる。
「琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうかな?」
「…琴里は渡さないよ」
殿町君の言葉に私は机の上に置いていた鞄を掴むと下段に構える、その様子をみるなり殿町君は大慌てで手を振りながら冗談だから冗談っと言って手を振る。
私もその言葉に構えた鞄を元の位置に戻す、瞬間
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――――――
突如として甲高いサイレンが校内中、いや街中に鳴り響く
殿町君が窓際に歩いてゆき窓を開け外を見る。教室に残っていたクラスメイトも突如として鳴ったサイレンに目を丸くしている。
サイレンが鳴り止む、次いで聞き取りやすくするためか一泊ずつ区切るようにして音声が響く。
「――――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します―――」
―――空間震警報。
その言葉が出た瞬間クラスメイトが一斉に息を呑む音が教室に響いた。
「おいおい…マジかよ…」
殿町君が額に朝を滲ませ、乾いた声を出す。
しかし幼い頃からの訓練の賜物かクラスメイト達は緊張と不安をそれぞれ顔に浮かべているものの比較的落ち着いていた。
「シェルターはすぐそこだし、落ち着いて避難すれば平気、だよ。」
「そ、そうだね士織ちゃんの言うとおりだね」
私たちは既に教室から出始めているクラスメイトに続き走らない程度に急いで教室からでる。
廊下に出ると既にシェルターに向かう生徒達で長蛇の列が出来ていた、私と殿町君は列に並ぼうとする、そんな中一人列と逆方向へと走っている女生徒が居た。
「鳶一さん…?」
その疑問の声は鳶一さんに届くことはなく彼女はそのまま走り去っていってしまった。
鳶一さんは忘れ物でも取りに行ったのだろうか、などと考えているとタマちゃん先生の声が聞こえてくる
「お、落ちついてくださぁーい! だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ、おーかーしー!おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」
「…自分より焦っている人を見るとなんか落ち着くな」
「そういう事いっちゃダメだよ…」
実際その通りでタマちゃん先生の声で幾分か緊張がほぐれている事も事実で生徒達も不安の色が薄れている事がわかった。
「琴里ちゃんと避難してるかな…」
私はそう呟くとスカートのポケットから携帯電話をとりだす、そしてアドレス帳の中から『五河琴里』の名前を選び電話をかける。
――が回線が混んでいるのか一向に繋がらない、何度か繰り返すが結果はかわらない。
「繋がらない…琴里避難してるよね…」
私は言いようのない不安に駆られていた、思い出されるのは今朝の「――空間震が起きても――」という琴里の言葉だった。
「け、けど流石に避難してるよね…あ、そういえば…」
私は再び携帯を操作しアプリの一覧からGPS利用の位置確認アプリを起動する、しばらくすると登録している琴里の携帯の位置情報が地図上に表示される。
「……嘘っ」
その表示を見て私は愕然とした琴里の位置を示すマーカーは約束のファミレスの位置にあるのだ。
「琴里っ…!」
私は携帯をポケットにしまい込むと列から抜け出し昇降口へと走る。
「士織ちゃん!?」
後ろから殿町君の声が聞こえたがそれを無視し走る、昇降口に着くと速やかにローファーに履き替え大急ぎで学校を飛び出す。
「琴里っ…琴里!!」
私はお世辞にも早いとは言えない脚を一生懸命に動かし走る、私の視界に広がるのは路上に遺棄された自動車や人気のない街並み、まるで人だけが一瞬で消えてしまったのではないかと錯覚する街並みであった。
「はぁっ…はぁっ…」
私は走りながら再び携帯を取り出し画面を確認する、もしかしたらもう避難しているかも、等と淡い期待をしてみるもののやはりマーカーの位置は学校で確認した時と同じ位置のままだ、肺が痛い、わき腹も痛む、けど走る事はやめない。一刻も早く琴里の下に向かわないと…、その一心だけで私は走る。
「っ…」
ふと空から聞こえてきた風切り音に走りながら私は空を見上げる。
「なに…あれ…」
士織は眉をひそめた。
数は四つか五つか。空に人影のようなものが浮いている。
けど何かを考える事は直ぐに出来なくなった。
「きゃっ…ッ!!」
私は立ち止まり目を手で覆った。
突然進行方向にあった街並みが光に包み込まれていたのだ。
一瞬後大地を揺るがすような爆音と、衝撃波が襲い掛かってきた。
私は腕で顔を守る様にし疲れきった脚に力を入れたが衝撃波はそれを嘲笑うかの如くいとも容易く士織を転がす。
「っ…一体何が…」
痛む体とチカチカと眩む目を擦りながら身を起こす。
「えっ……?」
私は目の前に広がる光景に驚愕した、なぜなら先ほどまであった街並みがまるで消しゴムで文字を消すかの如く消えてなくなっていたのだ。
「な、なんで…どうして…っ」
非現実的な光景に私は茫然とし、そう呟くことしかできなかった。
けどそんな中、クレーターとなった街の中心に何か金属の塊のようなものが聳えていた。
「あれは…なに…?」
遠い事もあり細かい形まではわからないが、まるでそう、王様が座る玉座のようにも見える。
だがそれよりもその玉座の肘掛けに足をかけるようにして、奇妙なドレスを身に纏った少女が一人立っていた。
「なんであんなところに女の子が…」
顔はわからないが黒のロングヘア、そして不思議な輝きを放つスカートから女の子である事は間違いないと思う。
ふと少女が気怠そうに首を回し、私へとその顔を向けた。
「えっ…?」
私に気付いたのだろうか、遠すぎてわからない。
けど少女は動きを止めないゆっくりとした動作で玉座の背もたれから突き出た剣の柄のようなものを握るとゆっくりとそれを引き抜いた。
それは幅広い刃を持つ巨大な剣であった。
虹のような、はたまた夜空に輝く星のような幻想的な輝きを放つ剣。
少女が剣を振りかぶると、軌跡をぼんやりとした輝きが追う。
そして――
「……ッ!?」
私の方へと少女が剣を横薙ぎに振りぬいた。
とっさに頭をさげる。いや、正しく言うなら私の身体を支えていた腕から力が抜けた為に上体の位置が下がったのだ。
「―――あ」
今まで私の頭があった位置を刃の軌跡が通り抜ける。
剣が届くような距離ではないのに、だ。
私は首を後ろに振り驚愕した後ろにあった建物や街路樹、電灯などが全て同じ高さに切り揃えられていたのだ、そして一瞬後に響き渡る崩落の音。
「あ…あぁ…」
私も、もし身体が下がっていなかったなら自らもあの様に切られていた。
その事実は私を恐怖の底に落とすのには十分すぎるものだった。
「いや…いやっ!!」
私は恐怖のあまり抜けてしまった腰を引きずるように後ずさる、早く少しでも早く逃げないと…。
(琴里、琴里!!)
「――おまえも……か」
「……ッ!!?」
ひどく疲れたような声が頭上から響いてくる。
そこには先ほどまでクレーターの中心に居た少女が立っていたのである。
「あ――」
私の口から意図しない声が漏れた。
歳は私と同じか、少し下くらいだろうか。
膝まで届くであろう漆黒の髪に、凛々しさと愛らしさを混在させた顔。
その中心にはプリズムや水晶に多様な色の光を多方向から当てているような、不思議な輝きを放つ双眸があった。
装いは、また奇妙なものであった布か金属かわからない素材で構成されたドレス、繋ぎ目やスカート部分に至っては不思議な光の膜で構成されている。
そして手には自らの身の丈程はあろうかという巨大な剣が握られている。
しかしそれ以上に同性である私の思考が止まる程に…。
――――彼女は美しかった。
「あなた、は…」
私の発した言葉に彼女の視線が私の方を向く。
「…名、か」
少女は悲しそうな声で語る
「――そんなものは、ない」
「……えっ」
そして初めて私と少女の視線があった。
そして名が無いといった少女はひどく憂鬱そうで泣き出しそうな表情を作りながら、カチャリという音を鳴らし剣の柄を握りなおす。
「ま、待って、待って!」
その小さな音は私に必死で声を上げる。
その声に少女は不思議そうな目を向ける。
「……なんだ?」
「な、何をしようと…っ!」
「無論――早めに殺しておこうと」
「な、なんで…どうして!」
「なんで…? 当然ではないか」
少女は物憂げな表所を浮かべながら言葉をつづける。
「…だっておまえも、私を殺しに来たんだろう?」
「え――――――?」
私はそんな彼女の表情に昔の自分を見たような気がした…。
「そんなわけない…」
「――何?」
私が言った言葉に少女は猜疑心と困惑、そして驚きが入り混じったような目を向ける。
それも束の間少女は眉をひそめ、空へと顔を向ける。
私もつられるように空へと目をやる。
「え、えっ!?」
空には奇妙な恰好をした人間が数名飛んでいて――そして手にしている武器らしきものから、士織と少女に対してミサイルを発射してきたのだ。
「っ、きゃあぁぁぁぁぁ!!」
私は思わず叫び声をあげ目を瞑り無駄だと分かっていても頭を腕で守る。
――だがいつまで経っても爆発や衝撃波襲ってこなかった、私は恐る恐る目を開ける。
「え……?」
そして茫然と声を漏らす。
何故なら放たれたミサイルは少女の数メートル上空で、まるで見えない手で掴まれているかのように静止していた。
そして少女は気怠げに息を吐く。
「…そんなものは通用せぬと、なぜ学習しない」
そう少女が呟けば剣を握っていない手を上方へやり、グッと握った。
すると静止していた何発ものミサイルがまるでペットボトルを潰すかのようにへしゃげ、その場で爆発を起こす。
それでも空を舞う人間達は攻撃の手を止める事はなく次々とミサイルを発射してくる。
「――ふん」
少女は泣き出しそうな顔をつくりながら、息を吐く。
私は…その顔が先ほど感じたもの…幼い頃両親に捨てられた頃の自分とひどく重なってみえた。
「…消えろ、消えろ。一切、合切……消えてしまえっ!!」
そう言いながら少女は手にした大剣を空に向け、一振りする。
瞬間空気を切り裂く音と衝撃波が襲い掛かり、振りぬいた太刀筋の先へと斬撃が舞う。
上空を飛行していた人間たちはそれを寸前で回避すれば、その場から離脱してゆく。
が次の瞬間別方向から凄まじい威力の光線が放たれる。
「……!」
思わず目を覆う、しかしまた光線も見えない壁に阻まれ霧散する。
そして続くように私の後ろに誰かが舞い降りた。
「な、なんなの、次から次に…ッ」
もう意味が分からなくなってきた、まるで出来の悪いB級映画か悪夢の中に放り込まれた心境だ、目には既に涙が溢れ顔はくしゃくしゃになってしまっている。
しかし後ろに降り立った人影を見て私は一層の驚愕を覚えた、全身を覆うボディスーツに背には大きなスラスター、手には巨大な武器を持っている、それだけでも驚愕を覚えるのには十分過ぎるものであったが、それ以上に身に着けている人物に私は驚きを隠せなかった。
「鳶一…さん…?」
そう後ろに立ち物騒な恰好をしている少女はクラスメイトの鳶一さんだった
「五河士織…?」
鳶一さんは表情を変えず、私の方を向く。
そして怪訝そうな色を声にのせそう私の名前を呼んだ。
しかしすぐに鳶一さんは私から目を外し、ドレスの少女に向き直り手にした剣のような武器を構える。
「――ふん」
少女が先ほどと同じく手にした大剣を鳶一さんに向け振りぬく。
鳶一さんは地面を蹴り一瞬背中のスラスターを駆動し剣の太刀筋上から身をかわし、そのままの勢いで少女に肉薄する。
そして手にした武器で少女に向け袈裟懸けに切りかかる。
「――ぬ」
少女は微かに眉を寄せ、手にした大剣でその一撃を軽々と受け止める。
瞬間。
攻撃が交わった点から凄まじい衝撃波が生じる。
「ま、きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
私は悲鳴を上げながら身を丸め衝撃をやりすごす。
鳶一さんは弾かれた衝撃を利用し一旦少女から距離を取り、武器を構え直す。
「……」
「……」
私を挟んで鎧の少女と鳶一さんが油断なく睨みあう。
一触即発…そんな状況であった、きっかけがあればすぐに戦闘は再開するであろう。
私は声を上げ戦いを止めてもらおうとした、がその瞬間ポケットの中にしまっていた携帯電話から着信音が鳴り響く。
それが再開のゴングとばかりに鎧の少女と鳶一さんが地を蹴り私の目の前で激突する。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その先ほどと比べ物にならない衝撃波に私は容赦なく吹き飛ばされ塀にぶつかる。
「や…やめて…」
そこで…私は意識を手放した。
長くてすみません。
投稿は不定期、長くても一週間位で投稿したいとは思います。