お久しぶりでございます。
8か月振りの投稿となりますが、生暖かい目で見て頂けると幸いでございます。
「な――」
四糸乃の力を封印した日から、三日経った土曜日の朝。
あれから私と十香は丸々二日<フラクシナス>で検査を受け、昨日の夜にようやく家に帰って来て、その日はそのまま眠りについた。
そして今日、朝起きて窓から外を見れば、空き地であった筈の場所にマンションが聳え立っていたのだ。
私はパタパタと寝間着のまま外へと出る。
そしてマンションを見上げ、目を白黒させていると、後ろから声を掛けられる。
「言ってなかったかしら?精霊用の特設住居を建てるって」
振り向けば琴里が、そう言いながら玄関から出てくるところだった。
「琴里、これがそうなの?」
「ええ。見た目はごく普通のマンションだけれど、耐衝撃、耐霊力性もバッチリの特別製よ」
「それにしても…」
流石に一晩で作ってしまうとは思わなかった。
いや、以前琴里が言っていたみたいに
「と、言う訳で。今日の夜には十香は家を出て此処に住んでもらうわ。十香には言ってあるから、今頃荷造りしてるんじゃないかしら?」
「そっか…」
琴里の言葉を聞いて、少し寂しい気持ちになる。
とは言えすぐ隣なのだから変わらないのかもしれない。
「それともう一人」
そう言いながら琴里は視線を変える。
私も琴里が向いた方に視線を向ける、そこには紫陽花色のワンピースを纏い、ベージュのキャスケット帽を被った少女が飛び跳ねる様にやって来る。
「四糸乃!」
そう身に纏っているのは霊装ではなかったけれど、間違いない。
ふわふわとした水色の髪と蒼玉の瞳、そして左手に着けたウサギのパペットを間違える訳が無かった。
四糸乃は私達の前で止まると、パペット、『よしのん』がズイっと前に出て甲高い声を響かせる。
『やっと会えたねえー。助けてもらったお礼言えなくてごめんねー、士織ちゃん』
「あ、うん…それはいいんだけど。検査は終わったの?」
私の記憶が確かなら四糸乃はまだ暫く<フラクシナス>で検査の筈だったけど。
『んー、最初の検査だけはね。まだまだ検査はあるらしいけど、士織ちゃんにお礼が言いたくてさ。特別に外に出してもらったんだー』
そう言うとまるで<フラクシナス>を見上げる様に空を見る。
『そゆわけで、検査が終わったらまたデートしよーねー』
「え、あ。うん、わかった」
『うんじゃ、まーたね』
そう言いながらよしのんは小さな手を振る。
と思えば、顔を伏せていた四糸乃が躊躇いがちに顔を上げ、私の方を向く。
「?どうかしたの?」
「…あ、の…」
「!、四糸乃―」
聞こえてきた声に私は驚きの声を上げる。
聞こえてきたのは『よしのん』の声ではなく、四糸乃の声だったから。
「また…おうちに、遊びに、行っても…いいで、すか…?」
そう言うと、四糸乃は恐る恐ると言った様子で私に視線を向ける。
「うん、いつでも来てね」
私がそう答えると、四糸乃は顔をパァっと明るくする。
そして頭を下げると、来た方向へと走っていく。
四糸乃の背中が見えなくなるまで見送ると、一つ背伸びをしてから、家に戻る。
自分の部屋に戻る時十香の部屋からゴソゴソという荷造りしているであろう物音が聞こえてきた。
部屋に戻り、普段着に着替えながら独り言ちる。
「そっか、十香引っ越しちゃうのか・・・」
十香が家にやって来てから一か月弱、すっかり居ることが当たり前になっていただけに、少し寂しく思う。
けど引っ越しとは言えすぐ隣である。
会おうと思えば何時でも会えるし、今までの様に食事だって一緒に取れる。
「……よし、ウジウジしててもしょうがない」
そもそも十香が家に来た時に琴里からはしばらくの間と聞いていたのだから。
そうこうするうちに着替え終われば何か手伝える事はないかと思い、十香の部屋へと向かう。
扉をノックし、声を掛ける。
「十香」
「ぬ…シオリか入ってくれ」
返事があったのでそのまま扉を開け、部屋へと足を踏み入れる。
十香はちょうど段ボールに蓋をし、布テープで封をするところだった。
封をし終えると、立ち上がり私の方へと向き直る。
「荷造り中にごめんね、ついさっき琴里から今日隣に引っ越すって聞いたから。様子を見に来たんだけど」
「おお、そうだったか」
「けど荷造り終わったみたいだね」
十香の後ろに視線を向ければ、段ボール箱が4箱ほどあるだけだった。
「うむ、元より荷物は少なかったからな」
「そっか…」
少し、私は考える。
今日から十香は所謂一人暮らしになる訳だから何かと必要な物も出てくるかもしれない。
生活用品や衣料品などなど。
今日は休日だし買い物するにもちょうどいいし。
「十香、買い物に行こうか」
「シオリと一緒にか?」
「うん」
私がそう言うと十香は顔をパァっと明るくすれば元気よく返事をする。
「うむ!」
「それじゃあ、私はリビングで待ってるから支度が終わったら来てね」
「うむ、すぐに支度する!」
そう言えば私は部屋を出て、リビングへと向かう。
――――――――――――――――
数十分後、私と十香は天宮市駅前の商店街を歩いていた。
目的は十香の為の買い物。
まず最初にあまり数がない十香の私服などを購入する事にしていた、
一応私の服を何着か譲ってはいたが、如何せん数もあまりなかったからだ。
商店街の中程にある、ティーン向けの衣料品を扱うショップが集まる一角に到着すれば、そのうちの一店に入る。
「十香はどんな服が好き?」
十香と肩を並べながらハンガーに掛けられた色取り取りの服を眺める。
「うーむ…」
十香は私の質問に考える様に声を上げる。
そして店内をグルリと見まわしてから口を開く。
「…シオリが見繕ってはくれないか?」
「私が?」
「うむ!」
十香の言葉に問い返せば十香は元気よくそう答えた。
私は頬に手を当てながら店内を見渡す。
「そうだなぁ……これとかどうかな?」
そして近くにあった服を手に取る。
淡いピンク色の半袖のブラウスだった。
手に取ったそれを十香にあてがうようにしてみる。
「おお、シオリこれはいいな!」
「じゃあ一着はこれで決まりだね」
「うむ!次もよろしく頼む!」
「お任せあれ、ってね」
そんな調子で私と十香は店内を一緒に見て回った。
私が十香に似合いそうな服を身繕い、時折試着をして着心地やサイズを確かめてもらう。
そして数十分後、衣料品店を出た私の手にはトップスやボトムスが詰まった紙袋が握られていた。
「ありがとうなのだ、シオリ」
「いいの、いいの。さて今日はまだ買わないといけないのが、いっぱいあるからね」
十香が僅かにはにかみながらそう言えば、私はふるふると首を振ってから答える。
そして足を踏み出した所で『くうぅぅぅ』という音が耳に届いた。
ちらっと十香の方を見れば少し恥ずかし気に十香がお腹に手を当てているところだった。
時計を見ればもうすぐお昼だった。
「お昼にしよっか、十香」
私が言えば十香は何度か首を大きく前に倒す。
「じゃあ、十香は何か食べたいものある?」
「ん…シオリは何が食べたいのだ?」
十香に問い返されてしまったので、考える。
そしてふと、視界の端に見えたものがあった。
「パスタ…とかどうかな?十香」
そう言って視線を向ける。
視線の先にはオープンしたてだろうか、真新しい佇まいの店舗とA型黒板に書かれたランチメニューが見えた。
看板にはパスタ専門店と書かれている。
「もちろんいいぞ、シオリ!」
「よし、じゃあ行こっか」
そう言って十香と共にパスタ専門店へと向かう。
「いらっしゃいませー!」
入店するとドアベルの子気味好い音と店員さんの声が私たちを迎え入れる。
店員さんに人数を伝えれば、窓際の席へと案内される。
そしてお水とおしぼり、メニューが二冊テーブルに置かれる。
一冊メニューを手に取り開けば、十香の方へと向ける。
「ううむ…種類が多くて迷ってしまう」
「ホントだね」
このお店はパスタの種類とソースを自分で選んで組み合わせる事が出来る様で、メニューの前半には色々な形のパスタの写真と説明があり、後半にはソースが記載されている様であった。
他にも一般的な組み合わせであったり、日替わりパスタなど様々であった。
「ううむ……」
十香はメニューとにらめっこしながら、悩むように声を上げる。
そして暫くすると、よしと言って私に視線を向ける。
「決まったぞ、シオリ」
「じゃあ注文しよっか」
そしてちょうど近くに居た店員さんを呼び、注文を伝える。
「私はファルファーレの海老のトマトクリームソースをお願いします。」
「私はこれと、これ、それにこれを大盛りで頼む!」
十香はメニューに掲載されているナポリタン、ボロネーゼそれにタラコソーススパゲッティを指さす。
「全部を大盛りで…ですか?」
「うむ!」
十香の注文に店員さんが驚いた様に確認する。
十香はといえばもちろんとばかりに笑顔で答えた。
「かしこまりました、それでは少々お待ちください」
店員さんは驚いた顔をしていたが、すぐに顔を戻せばそう言って厨房へと下がっていった。
十数分後、テーブルの上には湯気を纏ったパスタがズラリと並んでいた。
主に十香の頼んだ物であったが、どれもとても食欲をそそる様な香りを漂わせていた。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきますだ!」
私がそう言って手を合わせれば、十香も元気よく手を合わせ注文したパスタを食べ始める。
少し遅れてから私も食べ始める。
「わぁ…美味しい」
もちもちのファルファーレにほんのりとしたトマトの酸味と海老の風味が溶け込んだクリームソースがマッチしていた。
食べ進めながら十香を見ればすごい勢いで食べ進めていた、既に三皿頼んでいたうちの一皿を平らげて、二皿目も半分を残す程になっていた。
「あ、十香。ちょっと…」
「ぬ?」
私がある事に気付いて声を掛けると十香のフォークを動かす手が止まり、私へと顔を向ける。
「ん…」
私は手を伸ばせば十香の頬に触れた、そしてついていたボロネーゼソースを指で掬いとる。
そしてつい掬ったソースをそのまま自分で舐めとってしまう。
そして直後にハッとなり十香の方を見れば、十香は恥ずかしそうに少し頬を赤く染めていた。
―――――――――――
「んーーー……」
昼食後、残った買い物を済ませた私たちは帰路についていた。
十香の為の生活必需品や、今夜の夕ご飯の材料などなどが詰まった袋を二人で分けて持っていた。
「今日はありがとうだ、シオリ」
「いいってばそんな、私がしたいからしているだけなんだから」
「それでもなのだ、シオリ」
「…どういたしまして、十香」
二人肩を並べて夕暮れの商店街を歩く。
すると、空いていた私と十香の手がふとぶつかる。
「と、すまないシオリ……」
「わ、私もごめんね…」
お互いにそう謝り合うと十香が少し逡巡の様なものを見せてから、十香が私の手を握って来た。
「十香…?」
「帰るまで繋いでいてはダメか?シオリ…」
「…ううん」
「ん…」
私の返答を聞けば十香は握る手に僅かに力を籠める。
そして再び歩き出す。
時折十香が握りなおす様に力を籠める。
そして商店街を抜ける所でふと私は足を止めた。
「…?。シオリどうしたのだ?」
十香が首を傾げながら尋ねてくる。
「十香、少し待ってて貰える?」
「う、うむ……」
十香にそう言って、繋いでいた手を一度離し目の前のショップへと入る。
そしてショーウィンドウ越しに見えた物を手に取り矢継ぎ早にお会計を済ませる。
ショップから出ると十香は入り口脇で所在なげに待っていた。
「十香、お待たせ」
「ぬ、シオリ早かったな……それはなんだ?」
十香は私の抱えていた茶色の紙袋に視線を向け問いかけてくる。
その言葉に答える様に私は紙袋から買ったばかりの物を取り出す。
「お引越し祝い…ていうのもおかしいけど。私からのプレゼント」
買ったもの、一風変わった品物である大きなきなこパンのぬいぐるみを十香に手渡す。
「これは……」
十香はぬいぐるみを受け取ればぬいぐるみと私を交互に見て、ぬいぐるみをギュッと抱きしめてから口を開く。
「大事にする、ありがとう…」
「それじゃあ帰ろっか」
そう言えば今度は私から十香の手を取る。
握った十香の手は心なしか先ほどよりも熱を持っている様だった。
「…うむ」
再び私と十香は帰路につく。
お互いに無言であったけれど、時折十香の方をちらと見れば同じように私を見ていた十香と視線が合い、気恥ずかしくなり視線を逸らすという様な事を幾度も繰り返していた。
けど決して居心地が悪いとか気まずいという雰囲気ではなかった。
繋いだ手から互いの体温を感じそれが心地よい感覚を生んでいた。
そしていつの間にか私たちは家の前へとたどり着いていた。
「と……着いたよ、十香」
「お、おお。すまない」
ぼうっとしていた十香に声を掛ければハっとした様に返事をする。
そして家に入り、靴を脱いだところで十香が口を開く。
「シオリ、この後私の部屋に来てはくれないか?」
「十香の部屋に?」
「うむ…シオリと話したい事があるのだ」
十香が真っ直ぐ私の目を見つめながらそう言う。
私は幾ばくかの間を開けて答える。
「わかった、それじゃあしまわないといけない物だけ片づけたら直ぐに行くね」
「うむ、待ってる」
十香はそう言えばぱたぱたと階段を上り自分の部屋へと向かう。
数分後、片づけを終えた私は十香の部屋の前に居た。
そしてコンコンと扉をノックする。
「十香、入るよ」
そう言って扉を開ける。
十香は窓際で夕焼けを眺める様に外を見ていた。
部屋の中に入り十香の後ろへと歩を進め、その背中に声を掛ける。
「十香、それで話って?」
私が問いかければ十香がクルリと体の向きを変え
ちょうど私と向き合う形になる。
フワッと舞った十香の黒髪が夕焼けの赤を鈍く反射させキラキラと光っているようだった。
そして僅かに俯きながら十香が唇を開く。
「ん……そのだな。昨日琴里と令音にいろいろと、聞いた」
「いろいろって…」
「琴里や令音達が私たち…精霊を助けようとしている事…そしてシオリもそれに協力している事だ…」
十香はギュッと胸の前で手を握るようにしてから顔を上げる。
「話というのはその事についてだ…シオリ。頼む今後、私や四糸乃の様に精霊が現れたら、きっと…きっと救ってやって欲しい」
「十香…」
十香の言葉に私は目を見開いた。
「琴里によればまだ精霊は幾人か居るらしい。きっと、きっとその中には私や四糸乃の様に、望まぬ戦いに巻き込まれている者もいるはずなのだ…」
十香は一度言葉を切れば、両の手で私の右手を取り言葉を続ける。
「そんなのは、可哀想ではないか…だから頼む。シオリの力でそういった精霊たちを救ってくれ……あの時…私を、助けてくれた様に……」
そしてギュッと私の手に力を籠める。
私は空いていた左手でそっと十香の手を包むようにする。
私の心は十香そして四糸乃の時に決まっていた。
「――もちろん。そのつもりだよ」
「………」
十香は望んだ筈の私の言葉に複雑そうな顔をして笑った。
「…恩に着る。シオリ……あと一つ、いいだろうか?」
「なに?」
「……ㇲ…」
十香がモゴモゴと何かを言うように口を動かしたが何を言ったかは聞き取れなかった。
ふっと十香は顔を俯けてしまう。
まだ何か言っている様だけれど聞き取れない。
「……十香?」
十香の名を呼び、俯いた顔を覗き込もうとした瞬間。
「……!?」
バっと顔を上げた十香がそのままの勢いで私を近くにあったベッドに押し倒す。
ベッドのスプリングが軋みを上げる。
握っていた手はいつの間にか私の手首を抑える様に動いていた。
そして――。
「――――!?」
十香がおもむろに自分の唇を私の唇に合わせてきた。
突然の出来事に私は目を見開いた。
目の前にはギュッと目を閉じたままの十香の顔。
鼻腔をくすぐるのはシャンプーと十香の香りが混ざった甘い香り。
そして身体全体に感じるのは柔らかな十香の肢体と体温。
そして――唇に伝わるのはほんのり湿った十香の唇の感触と、唇の間から伝わる十香の唾液の味。
十香は私の唇に啄む様にキスを続ける。
「ん……」
「んぁ…十……んん……」
そして一分程経った時、十香が唇を離し顔を上げた。
「ぷは……と、十香…何を……」
私が声を発すると、十香は私を押し倒したまま答える。
「……今回は、これで手打ちにしてやる」
「え?」
私の間の抜けた声に十香は恥ずかしそうに目を逸らす。
「……なぜだろうな…ただ唇を触れ合わせるたったそれだけの事なのに…悪くないと感じる。そして不思議と…シオリ以外とはしたいとは思わないのだ」
そこまで言うと十香は押さえていた私の手首を離し、言葉を続ける。
「同じなのかどうかわからないが…シオリが…あの時…四糸乃とキスをしていた時は、なんというか、もやもやと嫌な感じがした…」
私がまだ目を白黒させていると、十香は恥ずかしそうに言葉を続ける。
「だから…その…私以外とはしないで欲しい…」
「……………っ…えっと―――」
その言葉で気付く、十香は琴里から精霊を力を封印する方法を聞いていない事を。
その事を伝えようとしたけれど。
「返事っ!!」
「う…うんっ」
十香の迫力に気圧されて私はそう答えてしまった。
どうも才華でございます。
長いこと時間を空けてしまいましたが、久しぶり更新でございます。
更新していない間に原作では物語がどんどん進んでいき、狂三主人公のスピンオフが刊行されたり。
はたまたPS4版凛緒リンカーネイションが発売されたり。
それどころかアニメ3期まで発表されました。
アニメ3期という事で恐らくは七罪、折紙編まで放送されそうであります。
という事は再び動く士織ちゃんが我々の前に現れて下さるという事であります。(血涙)
まあ雑談はおいておいて、お読みくださる皆様方におかれましては本作をなまあたたかーーーーーーーーーーい目で見てくださると大変嬉しく思います。
誤字脱字などありましたらご報告頂けると幸いです。
感想頂けたらひくーいモチベが上がります。
では皆様、ごきげんよう。