「――状況は?」
真紅の髪をひるがえしその髪の色に合わせたかのような真紅の軍服を肩掛けにした少女は艦橋に入るなりそう言った。
彼女の目の前、この艦の主が座るべき場所、艦長席の直ぐ隣に待機していた長身の男がまるでそうある事が当然であるかのように綺麗な敬礼をし、少女を迎える。
「司令」
そんな男の挨拶に少女は男の脛を爪先、それも固いブーツで鋭く蹴りつける。
「あうっ!」
「挨拶はいいから、現在の状況を説明なさい」
少女はそう言いながらそのまま艦長席へと腰かけ足を組む。
男はさぞ痛がっているのかと思われたが、むしろ恍惚っといった表情を浮かべていたが、少女にそう言われればすぐさま姿勢を正し、きりりとした表情で艦長席の横へ立つ。
「はっ。精霊出現と同時に攻撃が開始されました」
「AST?」
「そのようです」
AST…対精霊部隊。
精霊を狩り、捕え、殺す為に機械で出来た鎧を身に纏った、人間以上怪物未満の超人たち。
しかし超人レベルでは精霊に太刀打ちなどできない事もまた事実であった。
「――現在確認されているASTの戦力は十名。現在内一名が精霊に対して追撃をかけています」
「映像出して」
少女がそう言えば艦橋の巨大な空間投影モニタに、リアルタイムの映像が映し出された。
繁華街から少し外れた広い幹線道路の上で二人の少女が互いに巨大な剣を振り、交戦している姿が確認できる。
互いの攻撃が交わる度に閃光と衝撃が発生し周囲の物を破壊しながら激しい戦闘を繰り広げる。
「やるじゃない。――ま、精霊相手じゃどうしようもないけどね」
「確かにそのとおりです…が、我々が現時点で何もできない事もまた、事実です」
「……ふんっ」
少女は脚を振り上げれば速度の乗った一撃で横に立つ男の爪先を踏みつぶす。
「ぐぎっ!!」
男は先ほどと同じような幸せそうな表情を浮かべるが、少女はこれを無視し嘆息する。
「言われなくてもわかっているわ。――それに見ているだけにも飽きてきたところよ」
「と、いうことは…」
「ええ。ようやく円卓会議から許可が下ったわ。…作戦を始めるわよ」
その言葉に、艦橋に居たクルー達の息を呑む音が聞こえる。
「神無月」
少女は背もたれに身体を預ければ小さく右手を上げ、煙草を要求するように男に向ける。
「はっ」
神無月と呼ばれた先ほどの男は懐から素早く何かを取り出す、それは小さな棒付きキャンディであった手早く包装を剥がせば、少女の隣に膝をつき「どうぞ」と向けられた手にキャンディの棒を挟み込む。
少女はキャンディを口に入れれば口から突き出た棒をピコピコと動かす。
「……そういえば肝心の秘密兵器は?さっき携帯に電話したのに出なかったのだけれど。ちゃんと避難しているんでしょうね?」
「お待ちください、調べます」
男が手近にあるコンソールを操作しようとするが、目の前の大画面モニタを確認し怪訝そうに首を捻る。
「どうかしたの?」
「いえ、司令あれを」
男が画面を指さす。少女も指さされた場所を確認し「あ」と短い声を上げる。
精霊とAST隊員が激しい戦闘を繰り広げる横で、制服姿の少女が伸びていたのである。
「……ちょうどいいわ。回収しちゃってちょうだい」
「了解しました」
――
――――久しぶり――
頭の中に、どこかで聞いたことのある声が響く。
――――やっと――やっと会えたね――×××――
懐かしみ、そして慈しむような――
――――嬉しいよ――でも―もう少し――もう少し待っていて――
あなたは…一体…誰…?
――もう絶対離さない――もう絶対に間違わないから――だから――
不思議な、しかし懐かしく感じる声は…そこで途切れた。
――
「………ん…」
と私は目を覚ました。
「きゃっ!」
とすぐさま悲鳴を上げる。
何しろ見知らぬ女性が指で私の瞼を開き、ペンライトのようなもので光を当てていたからだった。
「ん……目覚めたね」
眠たげな顔をした女性は、その顔に違わぬぼうっとした声でそう言った。
気絶した私の眼球運動を確認していたようで、妙に顔が近い。シャンプーの香りだろうか、ふわりといい香りがする。
「ど、どなたですか」
「ん……ああ」
女性は身体を起こすと、垂れた前髪をかき上げる。
距離が少し空いたことで女性の全貌が見えた。
歳は…二十歳くらいだろうか、軍服を身に纏い、無造作に纏められた髪、そして分厚い隈が目を引く顔、あとはなぜか胸ポケットから顔を覗かせる継ぎ接ぎだらけのクマのぬいぐるみが特徴的だった。
「……ここで解析官をやっている、村雨令音だ。あいにく医務官が席を外していてね。…あぁ安心してくれ。免許こそないが、簡単な看護くらいはできる」
「え、えっと…」
どうしよう全く安心できない…と私は思ってしまった。何故なら令音さんは身体を不規則に揺らしているからだ、目元の深い隈と合わせて見れば私よりよっぽど重症そうに見える。ふと私は首を振り周囲を見回す、私は簡素な作りのパイプベッドへ寝かされていたようだ、そしてベッドの周囲を囲むように白いカーテンが張られている。ちょうどそう、学校の保健室のような雰囲気だ、だが視線を上へと向けた所で違和感を覚える。
天井には大小の配管が張り巡らされそれに這うように無数の配線がむき出しになっていた。
「こ、ここはどこですか」
「……あぁ、ここは<フラクシナス>の医務室だ。気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」
「<フラクシナス>…?それに気絶って……あ」
そうだ私は謎の鎧の少女と鳶一さんとの戦闘に巻き込まれて…。
「そうだ、琴里…琴里は…」
そう私が戦闘に巻き込まれる切っ掛けとなった事、琴里は無事なのか…
「あ、あの!,私の妹が…」
いてもたってもいられず私は令音さんに声を発する、が令音さんはいつの間にか私に背を向けなにかしている様子であった。
「……聞きたいこと、気になることはあると思うが、君に紹介したい人がいる。…私は説明下手でね。その人から詳しい話は聞くといい」
そう令音さんは言うと閉じていたカーテンを開く、カーテンの外は思ったよりも広い空間で同じタイプのベッドが六床並び、奥には医療機器だろうかいくつもの器具が置かれている。
令音さんはそのままふらふらと出入口の方だろうか歩いてゆく、が足をもつれさせ大きな音と共に壁に頭をぶつけた。
「だ、大丈夫ですか?」
私はベッドを抜け出せば令音さんの近くへといく。
転倒などはしなかったが令音さんは壁に寄り掛かるようにしうめく。
「あぁ…すまない。最近寝不足気味でね…」
「こ、こんなになるまで寝てないって…」
「あぁ…かれこれ三十年は…寝ていないかな?」
「えぇ!?」
思わず声をあげる位それは衝撃的であった、口をぱくぱくとする私に対しさもなんとでもないと言う風に令音さんは言う
「…最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だ。どうも不眠症気味でね…と、失礼、薬の時間だ」
そう言うと令音さんは懐から大量の錠剤が入ったピルケースを取り出す、そしてまるで粉薬を飲むかのように大量の錠剤を口の中に放り込んだ。
「な、なにしてるんですか!!」
「ん?薬を飲んだだけだが…」
令音さんは何か可笑しな事でも?という風な口調でそう言う
「薬をそんなに飲んだら危ないですよ!」
「いや…いくら飲んでも効かなくてね…」
「それでもダメですっ!!」
ひとしきり叫んだところで、私はため息をつく、その様子をみた令音さんはピルケースを懐にしまい医務室の扉を開ける。
「…ともかく、こっちだ。ついてきたまえ」
「…はい」
私は気を取り直し令音さんの言葉に返事を返す、琴里のことは心配だが、ここが何処かわからない以上令音さんに付いていくしかないのだ。
令音さんに連れられ淡色に塗装された機械的な廊下を歩いてゆく。
ちょうどテレビで放映していたSF映画に登場する宇宙船の廊下みたいだ…などと思っていると前を歩く令音さんが立ち止まる。
「…ここだ」
令音さんはそう言えば扉の横に設置されたコンソールを操作する、すると軽快な音が鳴り扉が滑らかにスライドする。
「…さぁ、入りたまえ」
令音さんは一言言えば中に入ってゆく、私もそれに続いて中に入った。そこで私は今日何度目かもわからない驚きの声をあげる。
「な、何これ…すごい…」
視界にはそれこそSF映画の宇宙船の艦橋を思わせる場所であった。
全体的に薄暗く、空中に投影された各種モニタの光が存在感を主張する。
「連れてきたよ…」
令音さんがふらふらと身体を揺らしながらそう言う。
「ご苦労様です」
ちょうど私の前の方数メートル先にある椅子の横に立っている細身で長身の男性が令音さんにそう言うとそのまま視線を私に向けてくる。そしてまるで執事やホテルマンを思わせる調子で軽く頭を下げ礼をする。
「初めまして。私はここの副司令を務めています。神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」
「は、初めまして…」
戸惑う私を他所に神無月さんは隣の席へと顔を向ける。
「司令、村雨解析官が戻りました」
そう神無月さんが声を掛ければ、背を向けていた椅子が電動モーターの低音を響かせながらゆっくりと回転する。
「――歓迎するわ。ようこそ<ラタトスク>へ」
そう言った人物に私は言葉を失った、真紅の髪をリボンで二つに括った髪、抱きしめたら壊れてしまいそうな小柄な体躯、どんぐりを思わせる丸っこい目、そして口に咥えたチュッパチャプス…私は口を手で押さえながら…その名前を呼ぶ。
「琴…里…?」
そう服装は今朝見たものとは違う身に纏う雰囲気も違うが間違う筈がない…。
私は目に涙を浮かべながらもう一度その大切な人の名前を呼ぶ…。
「琴里…!!」
「何?そんな何回も人の名前を呼んだりして、もしかして呆けちゃったの、士織」
「琴里!!」
私は涙を両目から溢れさせ大切な妹に抱き付いた、令音さんや神無月さんが居るが関係ない、私は琴里を力いっぱい抱きしめ何度も名前を呼ぶ。
「琴里、本当に心配したんだよ、琴里…」
「ちょ、ちょっと、苦しいわよ!士織!!落ち着きなさい!」
「心配で…心配で…」
「あぁ!もうっ…」
そう言うと琴里は抱きしめている私の腰と頭に手を回す、そして頭に回した手でゆっくりと私の頭を撫でる。
「…心配かけてごめんね。」
「琴里が…琴里が…死んじゃうんじゃないかって…私っ…」
「うん…うん…」
私はそのまま妹を抱きしめたまま泣き続けた…。
数分後泣き止んだ私は用意された椅子に腰かけハンカチを使い顔を拭いていた。
「落ち着いたかしら、士織」
私の目の前、椅子に座った私の妹、『五河琴里』がそう言いながらチュッパチャプスを口に含む。
「うん…ごめんね、取り乱しちゃって」
私はポケットにハンカチをしまうと大勢の前で号泣してしまった事を今更ながらに恥ずかしがる。
「全くよ、こんな泣き虫が姉だなんて、こっちが恥ずかしいくらいよ」
目の前の妹は椅子の背もたれに体重を掛け、私に鋭い視線を向けてくる。
おかしい、と私は思った。琴里はもっと素直で、甘えん坊だった筈なのに。
「まぁ良いわ、ちゃっちゃと説明を始めちゃいましょう」
私の思考を寸断するかのように琴里がそう言うと琴里の後方の巨大なモニタに映像が映る。
そこには私が街中で出会った少女が映し出されていた。
「彼女は精霊よ」
琴里が言った言葉に私は疑問の声を上げる
「精霊…?」
「そっ、精霊。彼女は本来この世界には存在しないモノであり、この世界に出現するだけで、己の意思とは関係なく、あたり一帯を吹き飛ばしちゃうの」
琴里が片手を広げ掌でボンっという風なジェスチャーをする。
「え、えっと、それって…」
私は今聞いた説明とこんな事に至る事になった原因からある答えに行き着く。
「理解したようね、そう、空間震は彼女たち精霊がこの世界に出現するときの余波なのよ」
「……!」
私は言葉を失った、世界を、人類を蝕む理不尽極まる現象が…彼女たち精霊が出現する時の現象だったなんて。
「まぁ…規模はまちまちだけどね。小さなものは数メートルから、大きいものになれば…それこそ大陸に大穴が開くくらいまでね」
琴里は口から取り出したチュッパチャプスを使い空中に大きな円を描く、三十年前のユーラシア大空災の事を言っているのだとすぐに理解した。
「運が良かったわね、士織。もう少し今回の空間震の規模が大きかったら、あなた消し飛んでたかもしれないんだから」
私は今更ながら自分が一体どれだけ危険な事をしていたのかを思い知った。
そんな私を見て琴里は半眼でこちらを見てきた。
「だいたい、空間震警報が出てたじゃない。なんで外に出てたの?馬鹿なの?死ぬの?」
「いや…だって」
私はそう言いながらポケットから携帯を取り出し位置特定サービスの画面を琴里に見せる。
「あぁ…そういう事ね」
琴里はそう言うと懐から携帯を取り出す。
「え、あれ…?」
「まぁ、士織の性格からしたら探しにでるわよね。」
私はいまの情報から頭の中で考えを巡らす、琴里は目の前にいるし、携帯も持っている。
GPS電波は地下までは多分届かないから…。
「ここってファミレスの上…?」
私がそう考えた答えを口にすれば琴里はニヤリと笑みを浮かべる。
「ご明察、一回フィルター切って」
琴里が言うと薄暗かった艦橋が一気に明るくなる。
「す、すごい…」
私の視界には一面の蒼空が広がっていた、足元を見れば街並みがまるでミニチュアのように見えた。
「そう、この<フラクシナス>は空中艦よ、そしてここは天宮市上空一万五千メートル。位置はちょうど待ち合わせしていたファミレスのあたりよ」
琴里は腕組みをし鼻を得意げに鳴らす、まるで何かを自慢するような…いやどちらかといえば我が子を自慢する親と言った方が近いかもしれない。
「さて、疑問が一つ解消したところで説明を続けるわ、神無月」
琴里が指を二本立てれば神無月さんが代わりのチュッパチャプスを取り出し、手渡す。
「次はこっち。AST。精霊専門の部隊よ」
スクリーンの映像が切り替わりメカニカルな装備を身に纏った一団の映像になる。
「精霊専門って…どんな事をするの?」
私が問うと琴里はさも当然という風に眉を上げ言い放つ。
「簡単よ。精霊が出現したら、その場に向かって処理するの」
「処…理…?」
「要はぶっ殺すってこと」
「……!?」
琴里の言葉に私は再び言葉を失う…いや予想していなかった訳ではなかった。
だがその予想は思考の隅へと追いやっていたのだ。
そしてあの時の…あの少女のひどく悲しそうな顔と言葉が頭の中に広がる…。
(…だっておまえも、私を殺しに来たんだろう?)
「まぁ、普通に考えれば死んでくれるのが一番でしょうからね」
「な…どうしてっ」
私は胸の前で手をギュッと握りしめながら問う。
「どうして?」
士織の苦しそうで、悲しそうな顔を見た琴里は興味深げにあごに手を当て言葉をつづける。
「何もおかしいことはないでしょう?。あれは怪物よ?この世界に現れるだけで空間震を起こし街を土地を破壊する災厄よ?」
「で、でも空間震は精霊の意思とは関係ないって!」
「ええ。少なくとも現界時の爆発は、本人の意思とは関係ないという事が有力な説よ。…まぁその後のASTとのドンパチも空災被害に数えられるけどね」
「それは、ASTって人たちが攻撃をするからじゃ…」
「そうかもしれないわね。…けどもしかしたら何もしなくても精霊が大喜びで破壊活動を始めるかもしれない」
「あの娘はっ!!」
私は…あの娘の顔が…あの全てを悲しみ、苦しそうな顔が…
「そんな事しない!!」
あんな顔をする娘がそんなことをするはずがない、私は心の底から確信していた。
だがそれは他人を納得させられるだけの根拠ではないとも分かっていた…けど…。
「士織、あなたたった数分程度しか接点もない、しかも自分が殺されかけた相手だっていうのに、随分と精霊の肩をもつじゃない。…もしかして、同性なのに惚れたの?」
「ち、ちがっ!…ただ…もっと他に方法はないのかな…って」
「方法…ね」
士織の絞り出すような言葉に琴里はふうと息を吐く。
「それじゃあ訊くけど、どんな方法があるの?」
「それは……」
私は頭の中では確かに琴里の言う事が理解できてるのだ、出現するだけで世界を殺しかねない――精霊。
そんなものは確かに迅速に殺さねばならないだろう
でもたった一瞬だけれど…私は見てしまった。
少女の…今にも泣きだしてしまいそうな絶望した顔を…。
聞いてしまった…少女の…悲痛な声を……。
あぁそうだ、やっぱり少女は自分と同じなのだ…。
あの頃の…両親に捨てられ、世界に絶望した自分と…。
だから私は少女を放っておくことなんて出来ない。
「私はっ…あの娘とっ…もっとお話ししたい!!」
私の心からの声…その言葉に琴里はニヤリと唇の端を上げた。
その言葉を待っていた…とばかりに。
「そう。……じゃあ、手伝ってあげる」
「えっ……?」
私がぽかんと口を開ける、そんな私を見た琴里は両手を大きくバッと広げる。
まるで令音を神無月をクルーを…そしてこの船<フラクシナス>を示すかのように。
「私たちが、それを手伝ってあげるって言ったのよ。<ラタトスク機関>。この総力をもって、士織、貴女をサポートしてあげるって」
「私の…サポート…?」
「ええ」
琴里はそう言うと優雅な所作で膝の上で指を絡ませる。
「いい?精霊に対する対処方法は、大きく分けて二つあるの」
「二つ…?」
私が問えば琴里は大きく頭を振る。
そして人差し指を立て。
「一つは、ASTのやり方。戦力を直接ぶつけてこれを殲滅する方法」
次いで中指を立てる。
「もう一つは……精霊と…対話する方法。――私たちは<ラタトスク>。対話によって精霊を殺さず空間震を解決する為に結成された組織よ」
「……」
私は眉をひそめた、そして考える。その組織は何なのかとか、なぜ琴里がそんなところに所属しているのか、気になる事は沢山ある。だが今は最も気になった事を口に出す。
「…なんで、そんな組織が私をサポートするって話になるの?」
「前提が逆よ、逆。そもそも<ラタトスク>は」
そこまで言うと琴里はビシリっと私を指さす
「士織、貴女の為に作られた組織なんだから」
「え、えぇっ!?」
私は一番盛大に表情を崩せば、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「な、なんで!?、い、意味がわからないよ…私の為?」
「ええ。…士織、貴女を精霊との交渉役に据えて、精霊問題を解決しようって組織と言った方が正しいのかもしれないけど。どちらにせよ士織がいなかったら始まらない組織なのよ」
「ま、待ってよ。どういうこと、この人たちやこの船も全部そんな事の為に集められたの?それになんで、私なの!?」
士織が少し混乱気味に問うと、琴里は腕を組みチュッパチャプスを口の中で転がしながらうなる。
「んー、まぁ、士織は特別なのよ」
「説明になってないよ!」
「理由はそのうち分かるわ。いいじゃない。私たちが全人員、全技術を以て士織の行動を後押しするって言ってるのよ?それとも、また一人で何の用意もなく精霊とASTとの間に割って入るつもり?今度こそ死ぬわよ」
無論私もそれは分かっている現に先刻死にそうな体験をしたのだ、非力な自分にはそんな力はない。
「…その対話っていうのは具体的に何をするの?」
言うと、琴里は再び笑みを浮かべる
「それはね」
あごに手を置き
「精霊に……恋をさせるの」
得意げにそう言い放った。
「………えっ?」
私は琴里の言った言葉が理解出来なかった…いや聞き間違いであって欲しかった。
「だから、恋よ、恋。精霊と仲良くお話してイチャイチャしてデートしてメロメロにさせるの」
「あの娘、女の子だよね?」
「男には見えないわね」
「私も女の子だよ?」
「世の中には同性愛や百合って言葉があるくらいだから問題ないわ」
私は一度考える事をやめた…。
「それで、何で空間震が解決するの?」
琴里はチュッパチャプスを振りながら「んー」と考えるような仕草を見せ。
「武力以外で空間震を解決しようとしたら、要は精霊を説得しなきゃならないわけでしょ?」
「そうだね」
「その為にはまず、精霊に世界を好きになってもらうのが手っ取り早いじゃない。世界はこんなに素晴らしいモノなんだって、ってわかれば精霊だってむやみやたらに暴れたりしないでしょうし」
「確かに…」
「で、よく言うじゃない。恋をすると世界が美しく見えるって。…というわけでデートして、精霊をデレさせなさい」
「うーん…」
私は一通りの話を聞けば再び思案する。
実際なんの力も後ろ盾もない私がもう一度あの娘と話がしたいと願っても、まず不可能だ
しばらく考えを巡らすがそれ以外のやり方は思いつかない。
「わ、わかった、頑張る」
「あら、随分と潔く決めたじゃない」
「他に方法は思いつかないし、私はもう一度あの娘と話してみたいから」
「よろしい。今までのデータから予想するに、精霊が再び現界するのは最低一週間後よ。早速明日から訓練を始めるわ」
「え…? 訓練…?」