デート・ア・ガール 士織リリウム   作:才華

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連休中なんやかんやで忙しく、全然書き物が進みませんでしたorz
そんなこんなで四糸乃編でございます。



四糸乃編
新しい家族


5月

あの衝撃な日々から約一か月。

私の日常は様々な所で変化していた、その最たるものは。

 

「おねーちゃん、おっはよー!」

 

朝、私が朝食を作っていると、中学校の制服に着替えた妹の琴里が元気よくリビングに入ってくる。

 

「おはよう、琴里」

 

琴里はそのままソファーに座ると、テレビのリモコンを手に取り電源スイッチを押す。

テレビの電源が入れば朝の情報番組が画面に映り、コメンテーターの陽気な声が聞こえてくる。

ちょうどその時、リビングの扉が再び開く。

 

「おはようなのだ、シオリ、琴里」

 

そう言いながら夜色の髪を赤いリボンでポニーテールに結い上げ、眠そうに擦る目はまるで水晶を思わせる輝きを放つ少女がリビングに入ってくる。

 

「おはよう、十香」

 

「おっはよー、十香!」

 

そう私たち五河家の新しい家族、十香だ。

十香はふあぁともう一度大きなあくびをすると琴里と同じようにソファーに腰かける。

そして首を回し、キッチンに立つ私の方を見る。

 

「シオリ、朝餉はまだか?」

 

「もうすぐ出来るから、待っててね」

 

「うむ!」

 

十香は元気よく返事をすれば、首を戻し、テレビを見る。

そんな様子を見ながら、私は調理を再開する。

そう丁度三週間程前。

 

 

 

――三週間前――

 

急に降り始めた雨の中、私は一応と持っていた折り畳み傘を差しながら、高校からの帰路に着いていた。

十香が学校に入ってから一週間程。

十香も学校に慣れはじめてきて、私としても随分安心できるようになっていたが。

何かあるたびに鳶一さんと小競り合いを起こしており、その度に私が止めに入るという事もまた日常になりつつあった。

 

「なんとかならないのかなぁ」

 

そんな事を考えながら、丁度神社の前を通りかかった時のことだった。

 

「女の子?」

 

そう雨の降りしきるなか、可愛らしいウサギの耳のような飾りを着けた外套に身を包んだ小柄な少女が神社の境内に傘も差さず、ぴょんぴょんと跳ね回っていたのだ。

そして何度目かのジャンプの後。

 

ずるぺったぁぁぁぁぁぁぁぁん

 

と言う音がしそうなほど綺麗に顔から転んだのだ。

その際になにか白い物も一緒に前の方に飛んでいくのも見えた。

 

「ちょっと…」

 

流石に放ってはおけず、私は小走りで女の子に近づく。

そしてすぐ隣にまで寄れば膝をおり、手を伸ばす。

 

「大丈夫?」

 

私はそっと少女を抱き起こす。

そこでやっと顔を見ることが出来た。

歳は琴里と同じくらいだろうか、軽くウェーブの掛かった空色の髪に可愛らしい顔。

私はお人形さんみたいだと思った。

 

「……!」

 

そんな事を考えていると、少女が目を開く。

開かれた目はサファイアを彷彿とさせる澄んだ青色だった。

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

私はそう声をかけるが少女は顔を真っ青に染め、唇をふるふると震わせ、何かを探すように首を左右に振るだけだった。

 

「えっと…大丈夫だから、ね?」

 

私は震える少女の頭をそっと撫でながらそう言う。

少女は当初こそ酷く怯えていたが、徐々に落ち着いてくれた。

その様子にホッとすると視界の端に白い物が見えた。

私は少女の右手を取り、そっと傘を握らせると、立ち上がりその白いものを取りに行く。

白いものはウサギのパペットだった。

私はパペットを拾い上げれば、再び少女のそばに戻る。

少女は私が戻ってくるとびくっと身体を震わせる。

私はしゃがみ込み、少女と目線を合わせれば、傘を握っていない左手にパペットをはめてあげた。

 

『たっはー、ありがとねおねーさん。たーすかったよー』

 

「えーと…」

 

少女は突然はめてあげたパペットの口をパクパクと動かし始めた。

そして困惑する私を他所に言葉を発する。

 

『いっやー、よしのんとしたことが、ころんじゃうだなんてほんとツイてないねー』

 

パペットはカラカラと身体を揺らしながら笑いを表現する。

私は困惑しながらも、視線を少女の方へ向けようとしたが、パペットが間に入るように動く。

 

『とっころでさー、おねーさん。これすっごいいいねー、なんなんだいこれ?よしのん初めて見たよー』

 

パペットは先ほど少女に握らせてあげた折り畳み傘を指しながら言う。

困惑も収まった私は、ちょうど琴里を見てあげるような目で少女とパペットを見ながら答える。

 

「これはね、折り畳み傘だよ。よかったらお家に帰るまで使って」

 

『いいの?よしのん返さないかもよ?』

 

「いいよ、けど大事に使ってね?」

 

『もちだよ、おねーさん』

 

パペットがそう言うと、少女は飛び跳ねるように立ち上がる。

 

『ぅんじゃね。おねーさん、これありがとね』

 

そう言いながら少女は踵を返し境内から走り去っていった。

私は手を振って見送れば、私はようやく自分の状態に気づく。

長い髪は雨に濡れ、カーディガンは裾のあたりから水滴を垂らすほどにびしょ濡れだった。

 

「あー……」

 

私はガクッと肩を落とせば、立ち上がり自宅へと歩き出す。

数分後、自宅に着けば鞄の中からキーホルダーに繋がった鍵を取り出し、鍵穴に差し込み、回す。

 

「あれっ?」

 

私は首を傾げた、鍵を回しても開いた音がしなかったからだ、試しにドアノブに手を掛け、ドアを引いてみる。

するとドアは抵抗なく開く。

 

「琴里、ようやく帰ってきたのかな?」

 

私はそんな事を呟きながらドアを開け、玄関に足を踏み入れる。

そうあの日、十香を保護したあとから琴里は事後処理とやらで家に帰ってきていなかった。

私としてはいくら忙しくても家には帰ってきて欲しかったし、なにより。

一週間前のあの非日常的な出来事について聞きたい事が山ほどあった。

 

「琴里―、ただいまー」

 

私はスカートとカーディガンを軽く絞りながら声をかける。

 

「とりあえずシャワー浴びなきゃ…」

 

 

そう呟き。制服を絞り終えると、ローファーと濡れた靴下も脱いで、玄関を上がる。

濡れた足がフローリングに着く度にペタペタと音を立てる、ちょうどリビングのドアの前あたりにくるとテレビの音が聞こえてきた。

その音を聞き、琴里はテレビ見てるのかな、などと考えつつお風呂場に向かい、脱衣所の扉を開けた。

この家には今は私と琴里しか居ない、必然琴里がリビングに居れば他には誰も居ないと思っていた。

だが、そこには思わぬ先客が居た。

膝まで届きそうな夜色の髪に水晶を思わせる瞳を持つ美少女が。

 

「……十香?」

 

「ぬ…、おぉシオリか」

 

そう、脱衣所に十香が居たのだ。

ちょうど十香はワイシャツを脱ぎ、下着に手を掛けていた所だった。

私は驚きで扉を開けたまま固まってしまっていた。

十香はそんな私の様子をみると唇を開く。

 

「どうしたのだシオリ」

 

「え、えっと、その…」

 

言葉が中々出てこない、頭の中にはなんで十香が家に?とか十香の身体ってやっぱり綺麗だなーなどという事で溢れかえっていたからだ。

そうこうしている内に濡れ鼠になっていた私の姿を見て得心がいったとばかりに十香は頷く。

 

「おお、そうかシオリも湯浴みをしにきたのだな、ちょうどいい、一緒に入ろうではないか」

 

そう言いながら十香は扉を開けたまま固まっていた私の手を掴むと脱衣所に引き込む。

 

――数分後

 

湯気が立ち込めるお風呂場の中、私と十香は湯船に向かい合う形で一緒に入浴していた。

十香はご機嫌そうに再放送しているアニメの主題歌を鼻歌で奏でていた。

一方の私はというと、とりあえず落ち着きは取り戻していた。

誰かと一緒にお風呂だなんて中学校の頃に琴里と一緒に入っていた事があるくらいで、同年代の女の子と一緒に入るのは初めてな気がする。

自然と…私の視線は十香に向いていた。

同じ年代とは思えないプロポーション、シミ一つない白磁のような肌、お風呂で上気し赤みがさした頬。

そしてぷっくりとした桜色の唇。

と私はそこまで見てからハッとし頭をブンブンと振っていた。

 

(なんで私こんなに見ているの…)

 

雑念を振り払うようにお湯で顔を洗う

そして落ち着いた所で当初の疑問を思い出す。

 

「十香、そういえばなんでうちに居たの?」

 

当然の疑問ではあった、十香は<フラクシナス>で生活していたはずだった。

十香は私の質問に鼻歌を止めれば、首を傾げた。

 

「妹から聞いていないのか?なにやら、私の検査も終わったからこれからはごく普通の生活に慣れるためとやらでしばらくの間ここに住むことになったのだ」

 

「こーとーりー…」

 

十香の言葉に私はため息をつく。

そういう大事な事は早めに言って欲しかった。

十香がウチで生活するなら色々必要なものもあるしお部屋だって用意しないといけないのに、などと困り顔で考えていると十香が不安げな眼差しを送ってきていた。

 

「…シオリ、迷惑だったか…?」

 

その言葉に私は手を伸ばし、十香の頭を撫でながら言う。

 

「もう…迷惑だなんて思うわけないよ、十香」

 

十香は私の言葉に笑顔になれば再び上機嫌で鼻歌を歌いだす。

 

 

――――

 

 

お風呂から上がった私達はお互いに髪を乾かし、部屋着に着替えたあとリビングに向かった。

そしてリビングでくつろいでいた琴里と何故かお母さんの服を着てコーヒーを飲んでいた令音さんを引っ張って自分の部屋へと向かった。

十香はちょうど始まった再放送のアニメを見ているから三十分位は一人で大丈夫だと思う。

自室に着けば琴里と令音さんにクッションを渡して座ってもらい、机を挟んで反対に私も座った。

 

「で、琴里、何か言うことは?」

 

琴里は私の問いに頬を指で持ち上げてから言う。

 

「今日からしばらく十香がうちに住むことになったのだ!」

 

そう言い切るとえっへんと胸を反らし、いつもの無邪気な笑顔を作る。

私は頭を押さえながらため息を一つつく

 

「それは十香から聞いたし、私としても歓迎するんだけど。せめて一言くらい事前に言って欲しかったかな」

 

「…それに関しては、すまなかった」

 

と今の今まで口を開かなかった令音さんが口を開いた。

 

「…今回は十香のアフターケアの為にもなるべく早くしたかったから、このような形になってしまたんだ」

 

「アフターケア…ですか?」

 

「…あぁ、君は先週、口づけによって十香の力を封印したね?」

 

「あ、ぅ…はぃ…」

 

私は消え去りそうな声で返事をしながら首を前に倒す。

そして唇にあのときの感覚が蘇ってきて、顔を赤くする。

 

「おねーちゃん、赤くなってるー。かわいいー」

 

「あうぅ…」

 

琴里の心底楽しそうな声に、私はまた少し顔を赤くする。

 

「…まぁ、そこまではいいのだが、一つ問題があってね。…・今、シアと十香の間には目に見えないパスのようなものが繋がっている状態なんだ」

 

「パスですか…どういうことなんですか?」

 

「…簡単に言うと、十香の精神状態が不安定になると、君の身体に封印してある精霊の力が、十香に逆流してしまう恐れがあるということさ」

 

「そんな…」

 

私は驚きが隠せなかった。

封印した十香の力が、精霊の力が逆流する。

あの大剣の一振りで天を裂き、大地を割る力を再び十香が持ってしまうということだろうか。

やっと普通の女の子として生活している十香が…また。

令音さんは言葉を続ける。

 

「…君も知っての通り、十香は今日まで<フラクシナス>の隔離エリアで生活していた」

 

私は令音さんが言葉を続けた事で考えをやめ、話に耳を傾ける。

 

「…十香の精神状態は常時モニタリングしているのだが…<フラクシナス>にいると、学校にいるときと比べて、ストレス値の蓄積が激しいんだ」

 

「そう、なんですか?」

 

「…ああ、それに一日に二回行っていた定期検査もあまりお気に召さなかったようでね。今はまだ許容範囲内だが、このまま放置しておくのも好手とは言い難い。」

 

そこまで言うと令音さんはあごに指をあてる。

 

「…検査の結果も安定してきたから、そろそろ<フラクシナス>外部に、十香の住居を移そうという事になってね」

 

「そういう事だったんですか」

 

「…ああ、それに君の家になったのも十香の為でもあるんだ。シア、君といるときが一番十香の状態が安定するんだよ」

 

私は令音さんの言葉に、十香の顔を想い浮かべていた。

いつも学校で元気に振る舞っている十香もやっぱり内心では不安だったのではと。

 

「…逆に言えば、君以外の人間は、まだ十香の信頼を得ているとは言い難いのさ。私や琴里は比較的顔を合わせる機会が多いが、それでもね」

 

「わかりました、…けどこれで一件落着なんだね」

 

私はふぅと息を吐き出しながら、ホッとしたように言った。

けど令音さんはゆらゆらと首を横に振った。

 

「…精霊が十香一人だけだなんて、誰が言ったのかな?」

 

「そ、それって…」

 

「…あぁ。空間震を起こす特殊災害指定生物、通称・精霊は十香だけではない。現在彼女の他にも数種が確認されているんだ」

 

「そんな…」

 

私は言葉を失った。

精霊は十香一人だけじゃない…。

緊張とも、戦慄とも分からない感情が心の底をぐるぐると渦を巻く。

私はギュッと膝の上で手を握りしめていた。

令音さんはそんな私に構わず言葉を続ける。

 

「…シア。君には引き続き、精霊との会話役を務めてもらいたい」

 

私は考えた。

精霊が他にも居るということを。

精霊が居るということはまた空間震も発生しつづけるということ。

そして…他の精霊もまた十香のように…望まぬ現界やASTとの戦いを強いられているのではと。

けどそんな精霊を助ける術を私は持っている。

私は…。

 

「…やります、精霊はみんな私が助けてみせます」

 

私は令音さんの目を真っ直ぐ見つめそう言った。

するとパチパチと手を叩く音が聞こえた、目をそっちに向けると琴里がチュッパチャプスを咥え、手を叩いていた。

 

「流石、士織ね。そう言ってくれると思ってたわ」

 

そう言う琴里は<フラクシナス>に居るときに着けている漆黒のリボンで髪を纏めていた。

俗にいう司令官モードというものだ、私は琴里の方へ向き直る。

そう当初の目的だった聞きたいことが山ほどあったのを思い出したからだ。

 

「ねぇ…琴里」

 

「何かしら?」

 

琴里は悠然と返事を返してくる。

 

「その、聞きそびれていたんだけど。結局<ラタトスク>は一体何なの?そして琴里、琴里は一体いつ<ラタトスク>に入ったの?それに…」

 

そう、この質問以上に私が聞きたかったこと。

私は胸を押さえるようにしながら問う。

 

「…私の…あの十香を封印した力は…一体なに?」

 

琴里は舐め終わったチュッパチャプスの棒を口から出せば、新しいチュッパチャプスを取り出し、包装を解き口に咥え話し始める。

 

「…ちょうどいい機会だから簡単に話しておこうかしらね」

 

そして渡したクッションに体重を掛ける。

 

「<ラタトスク>は有志により結成された…言うなれば自然保護団体みたいなものよ。まぁ、存在は公表されていないけれどね」

 

「保護団体…」

 

若干腑に落ちない部分もあったが、まぁ、精霊という存在を保護している訳ではあるからあながちその表現は間違っていないのかな、と考える。

 

「えぇ、そして<ラタトスク>結成の理由にして、最大の目的は精霊を保護して、幸福な生活を送らせることよ。…ま、最高幹部連の中には精霊の力を得てどうこうしようっていう奴もいるようだけれど」

 

「あ、空間震を防ぐことじゃないんだね」

 

「それはあくまで副次的なものよ。そこだけ見るのなら、私たちもASTも変わらないわ」

 

「…それもそっか。…そういう組織があるとして、琴里。琴里はいつ、どんな理由があって司令官になんてなったの?私全然気づかなかった」

 

正直琴里に隠し事をされていたのは少し悲しい、けど隠し事をするなとは言えないけれど。

けどまだ中学生の琴里がこんな重大で、命にも関わるかもしれないことに携わっていたことは姉としてすこし不満でもあり悲しかった。

琴里は表情から私の心境を察してくれたのか、鼻から息をふうと吐く。

 

「私が<ラタトスク>実戦部隊の司令官に着任したのは…大体五年前のことよ」

 

「五年前……五年前!?」

 

私はつい大声を上げてしまった。

けど五年前というと琴里はまだ小学三年生の筈だ。

私の驚愕と困惑を他所に琴里は話を続ける。

 

「ま、数年の間はずっと研修みたいなものよ。実際に部隊の指揮を執りだしたのはここ最近」

 

「そ、そういうことじゃないよ琴里。そんな小さな女の子を――」

 

「まぁ、なんていうの?<ラタトスク>が私の溢れ出る知性に気付いてしまったのよね」

 

「なななな、納得できないよ!」

 

「納得できないと言われても、事実なんだから仕方ないじゃない。少しは素直に妹の言葉を信じなさいよ、人の言葉を疑えば自分の頭が良く見えるとでも思ってるの?」

 

普段の可愛い琴里とまるで違った挙動、言葉に私は戸惑う。

 

「琴里のその…二重人格みたいなのは…えっと…<ラタトスク>の影響なの?」

 

私の質問に琴里はフンと鼻を鳴らす。

 

「失礼かつ短絡的な発想ね。もう少し頭を使ってものを言いなさい。第一これは…」

 

「これは…?」

 

「……」

 

琴里はまるでしまったといった微妙な表情を浮かべ私を見たあと、ブンブンと首を振る。

 

「…その話はどうでもいいの。今は<ラタトスク>の話でしょ。同じく五年前、組織の転機となった、ある出来事が起こったの」

 

「琴里、はぐらかさ…」

 

その言葉を遮るように琴里は咥えていたチュッパチャプスの棒を指で挟み、私に向けてきた。

 

「キスによって、精霊の力を封印することのできる少女が発見されたのよ。それによって<ラタトスク>は積極的に精霊を保護しようとする方針にシフトしていったわ」

 

「な……」

 

私は驚愕に眉を寄せ、言葉を詰まらせる。

 

「それが…私…?」

 

「ええ」

 

琴里はうなずき、私に向けていたチュッパチャプスを咥えなおす。

私は混乱していたが、あと一つ分からないことがある。

 

「なんで…なんで私にはそんな力があるの?」

 

「さあ?」

 

「ちょ…さあ、て…」

 

「私は本当に知らないだけ。『キスを介して、精霊から力を奪い、安全な状態にし、自身に封印する』。という能力が士織に備わっているのを知っているだけ、なぜ士織にそんな力があるのかは少なくとも私は知らないわ」

 

「じゃ、じゃあなんで私にそんな力があるってわかったの?その五年前に何があったの?」

 

私は机に手をつき身を琴里の方へと乗り出すようにしながら問う。

けど琴里は目線を下に逸らし、少し憂いを帯びた、この司令官の時には見せない表情を浮かべる。

そう、感慨に浸るような…悲しい思い出を思い起こすかのような。

過ちを悔いるような…そんな顔を。

 

「琴里…?」

 

私は流石に心配になり声をかける、すると琴里はハッとしたように肩を震わせ、顔を上げる。

 

「えと…そう、<ラタトスク>の観測器で…調べたの。それでわかったのよ。私も同じ…」

 

琴里は歯切れの悪い調子で言うだけだった。

けどそんな琴里を更に追及することは私には出来なかった。

 

「と、とにかくよ」

 

琴里はバツの悪そうにしたあとコホンと咳払いし、私を指さす。

 

「必要な情報は『士織には精霊をなんとかする力がある』。それだけよ、はい…話はお終い」

 

琴里はそう言って話を終わりにすると立ち上がる。

そしてポカンとする私を無視するようにスタスタと扉に向かい出て行ってしまう。

令音さんもそれに続くように立ち上がると部屋から出て行った。

私はしばらくポカンとしていたが、扉がバタンと閉まると、大きく息を吐きながらベッドに寝ころんだ。

 

「はあ…」

 

そして寝転がり天井を見上げ、考える。

琴里にもやっぱり言えないこと言いたくないことの一つや二つはあるのだろう。

それにしても…あの動揺のしかた…。

などと考えていたが不意に扉が開く音がした、私は上体を起こし、扉の方を見る。

そこには十香は不安げな眼差しを私に送っていた。

 

「…シオリ、琴里と喧嘩してしまったのか?」

 

琴里が部屋から出ていくところを見ていたのか十香がそんなことを言ってきた。

私はベッドから降り立ち上がると十香の方へと向かう。

 

「大丈夫だよ、十香。喧嘩はしてないから」

 

「本当か、シオリ。もし…私のせいだったら…」

 

十香がそこまで言いかけた所で私は十香の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「大丈夫だってば。それより十香。そろそろお腹すいたでしょ?お夕飯作るから下に降りよ」

 

「うむ!」

 

十香は顔を明るくすれば元気よくそう返事した。

 




最長一週間で投稿すると言ったな…あれは嘘だ。

ごめんなさい、忙しかったんです。
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