デート・ア・ガール 士織リリウム   作:才華

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雨の少女Ⅱ

「えっと…ここでいいのかな?」

 

私はインカムに向けてそう問いかけた。

あの後<フラクシナス>船体下部にある転送装置で地上へと送られた私は商店街を過ぎた所にあるデパートの中に居た。

 

『えぇ。精霊も建物内に入ったわ。ファーストコンタクトを間違わないようにね』

 

「うん、分かった」

 

そう言うと私は一度辺りを見回した。

琴里と令音さんによると<ハーミット>は現界数が多いらしく、過去の行動パターンと令音さんの解析を突き合わせれば進路や行動の予想がつく…らしい。

 

「…」

 

ふと一か月前の事を思い出す。

今みたいに<ラタトスク>からアドバイスや指示を貰い、受けつつ十香と会話したときのことを。

けど、まさかひと月程で再び精霊と会話することになるとは思ってもみなかったけど。

 

『士織。<ハーミット>の反応がフロア内に入ったわ」

 

「!」

 

不意にインカムから響いた琴里の言葉に一瞬身体を硬直させる。

――瞬間。

 

『君も、よしのんをいじめにきたのかなぁ…?』

 

「きゃっ!?」

 

そんな言葉と同時に目の前に頭上からにゅっとウサギが現れる。

私が驚きの声を上げ、尻餅をついてしまうのと同時にウサギ、もといパペットを持った<ハーミット>が目の前にスッと降りてくる。

 

『駄目だよー。よしのんが優しいからっておイタし過ぎるのは。…って、んん?』

 

訝し気な声を上げ、パペットが私の顔をまじまじと見てくる。

しばらくすれば、パペットが器用にぽん、と手を打ち、パクパクとパペットの口を動かし言葉を発する。

 

『ぉおやぁ?誰かと思ったら、親切なないすばでーのおねーさんじゃない』

 

「な…」

 

『待ちなさい、士織』

 

私が口を開こうとしたところでインカムから琴里の声が聞こえてきた。

しばらく後、再び琴里の声が聞こえてくる。

 

「ほ…本当にそんなこと言うの…?」

 

私は床にお尻をつけたまま、小さく呟く。

だって琴里の指示があまりにも突飛だったから。

 

『ううん?どったの?』

 

私の呟きに、パペットが器用に首を傾げ疑問の声を上げる。

 

『早くなさい、士織』

 

私は意を決すると、立ち上がり右手を腰に当て、左手で髪を流すようにかき上げ。

 

「ふ…っ、そんな奴のことは知らないわ。私は、通りすがりの風来坊よ…」

 

そう言い切った。

…穴があったら飛び込みたい位に、もの凄く恥ずかしい。

 

『………』

 

案の定、パペットはポカンと口を大きく開けたまま黙ってしまう。

そしてそのまま互いに無言のまま数秒の時が過ぎる。

 

「…ちょ…ちょっと、琴里。どうしよう…」

 

流石にまずいのではないかと思ってそう言った瞬間。

 

『ぷ……っ、はぁ、はははははははっ!』

 

パペットがカラカラと頭を揺らしながら笑い出した。

 

『なぁーにぃ、おねーさん意外とひょうきん物?あっはっは、今どきそれはないわー』

 

「あはははは…」

 

私もパペットに合わせるように苦笑する。

 

『どーよ』

 

「…あー…うん、ごめんね」

 

自慢気に言う琴里に小声で返すと、私は<ハーミット>の方へと向き直り、腰を落とし目線を合わせる。

<ハーミット>も合わせるように私の顔に視線を合わせてきた。

 

「えっと、私は五河士織。あなたは?」

 

そう言うと、パペットが大きく口を開け、しまったっといった動きを見せ言葉を発する。

 

『おおっ、なんてみすていくっ!よしのんとしたことが、自己紹介を忘れるだなんてっ!、よしのんの名前はよしのん!。可愛いっしょ?可愛いっしょ?』

 

「うん、いいお名前だね。…えっと、よしのんはパペットさんの名前であってるのかな?、それともあなたのお名前?」

 

そう言いながらパペットの奥、フードを被った青い目の女の子へと視線を向ける。

 

『……』

 

するとパペットがピタリ、と身体を動かすことを止め、口を真一文字に閉じてしまった。

と、同時にインカムから琴里の声と、後ろから鳴り響く警告音が響いてくる。

 

『士織、精霊の機嫌数値が一気に下がってるわ。あなた何を言ったの?』

 

「え…、私はただ、パペットの名前なのか聞いて…それになんで腹話術でしか喋らないのかなって…」

 

そう琴里に返すと、パペットが顔を目の前までスッと近づいてきた。

 

『士織ちゃんの言ってることがわからないなぁ…。パペットとか…腹話術って…なんのこと?』

 

さっきまでの陽気な口調から変わって穏やかな口調、それなのに何故かとてつもないプレッシャーのようなものを感じて、私は少し後ずさる。

 

『士織。原因はあとで探りましょう。今はとにかく機嫌を直すのよ』

 

琴里からの指示が聞こえてくる。

 

「そ、そうだよね。よしのんはよしのんだよね。あははは…」

 

と。

 

『ぅうんっ、もう、士織ちゃんたらおちゃめさんなんだから』

 

さっきまでの凄みの様なものがふっと霧散し、陽気な口調でそう言う。

 

「な…何だったんだろう、今の」

 

『でぇ、士織ちゃんは、よしのんになんのよう?』

 

「えっと…」

 

『士織』

 

咄嗟に言葉が出ないで、視線を泳がせていると琴里から通信が入る。

 

『間を空けないで。とにかく、精霊の方から聞いてきたのだからここは一気に進めましょう。』

 

「一気に…って?」

 

『デートよ、デート。せっかくの大型デパートよ、これを生かさない手はないわ。私とデートしましょう、でいいのよ。いい士織?「デートしない?」じゃ駄目よ、相手に選択肢をまた渡さない事が重要よ。』

 

「う、うん…」

 

私は琴里に返事をすれば、『よしのん』に向き直った。

 

「わ、私とデートしましょう」

 

と、琴里が言ったままの台詞を言ってしまう。

 

『…誰がそのまま言えって言ったかしら』

 

琴里の呆れかえった声が聞こえてくる。

けど『よしのん』は気にした様子を見せないで、むしろテンションが上がっているのか、パペットの小さな手を激しく振っている。

 

『ほっほ~!、いいね、いいね!士織ちゃん!かわいい見かけによらず大胆に誘ってくれるじゃないの。もっちろんオーケイよん』

 

「あ、ありがと」

 

『…ま、結果オーライにしといてあげる』

 

『ほらほらぁ、士織ちゃん。はやくぅ』

 

「あ、ま、待ってー」

 

私は琴里のため息交じりの声を聞きながら、既に歩き出している『よしのん』を追いかける。

 

 

―――――――――

 

 

 

『よしのん』と出会ってからどれほどの時間が経っただろう。

私と『よしのん』はデパートの中を『よしのん』の興味の赴くまま歩き回りながら、会話に花を咲かせていた。

時折琴里からの指示も来るのだけれど、『よしのん』は笑いの沸点が低いようで、些細な事にも身体を震わせカラカラと笑っている。

 

『存外いい感じじゃない』

 

琴里のそんな声が聞こえてくる。

この子の精神状態を常時モニタリングしている<フラクシナス>でもいい数値が出ているらしい。

 

『もともと人懐っこい性格なのかしら。好感度も上々。なんだったら今すぐにキスしようとしても、拒まれないんじゃない?』

 

「あ、あはは…」

 

本気か冗談かわからない琴里の言葉に頬をかく。

けど私も驚いてはいる。

それこそ今では普通に会話が出来る十香も、最初に出会ったときは酷い人間不信で、言葉を間違ったらなら死んじゃいそうな目にあったから。

――けど。

 

『いやぁ、やっぱりお喋りするのはたーのしーねー』

 

「そうだね」

 

パペットが言う言葉に返しながら、私は視線をパペットを扱う女の子の方へと向ける。

三週間前に会ったときも、今も。陽気に、雄弁に喋るのはパペットの腹話術だけ。

本人の口はちっとも動いていない。

自分はここに居ないとでもいうように…。

 

『お、おぉ?』

 

「!」

 

不意に響いた声に私は思考を中断した。

 

『すっごぉい!何かねありゃー!』

 

パペットは興奮を表すみたいに手をバタつかせ、走り出した。

その先には、お子様用の高さ一メートル程のカラフルなジャングルジムだった。

『よしのん』はスルスルとシャングルジムを上ってゆくと天辺の棒の上に立ち私の方へと向く。

 

『わっはははは、どーよ士織ちゃん。カッコいい?よしのんカッコいい?』

 

「そ、そんなところに立ったら危ないよ」

 

私はジャングルジムの下へ駆け寄りながらジャングルジムの上に立つ『よしのん』へ言う。

けど『よしのん』は不満げにパペットの腕を組む。

その間にも身体はフラフラと揺れて今にも落ちてしまいそうだ。

 

『んもう。カッコいいかどうかって聞いてるのにー…のわっ、わわわっ!?』

 

「あ――っ!」

 

ついにバランスを崩してしまったのか『よしのん』はバタバタと手を振ってからすぐ下に居る私の方へと落ちてきた。

私は為す術もなく『よしのん』に押しつぶされる様に床に倒れ込んでしまう。

 

「っ…いふぁ……」

 

私は仰向けのまま声を出した。背中も痛いけど何故か顔ももの凄く痛い。

そして私は気付く。

目の前、サファイアの様な蒼い瞳と同色の髪、そして端正な顔に。

――唇に触れる柔らかい感触にも。

 

「――!!?」

 

数瞬の間の後、今どういう状況なのかを頭が理解した。

 

『…やるわね、士織』

 

琴里の驚いたような声が、真っ白になっている頭に響く。

 

『…………』

 

数秒後、『よしのん』がすくりと無言のまま身を起こした。

そこでようやく唇が離れた。

キスをしてしまった。

けど…これで『よしのん』の力は封印できたはずだよね

だけど…なんだろう、十香とキスをしたときのような…。

身体に温かいものが流れ込んでくるような感覚が無かったような…。

そんな思考はインカムから鳴り響く警告音によって断ち切られた。

 

「え…っ」

 

この音は精霊の機嫌が悪くなったときに鳴るものだったはず。

私は顔をハッとあげ『よしのん』を見る。

 

『あいたたたぁー…ごめんごめん、士織ちゃん』

 

『よしのん』は先ほどと変わらない口調でそう言う。

 

「あれ…?」

 

『よしのん』に怒った様子は全然見られない。

私が首を少し傾げたとき、インカムから焦ったような口調の琴里の声が聞こえてくる。

 

『士織、緊急事態よ。…たぶん最悪の』

 

その言葉と同時に足音が響く。

その足音に私は首を回し視線を音のした方へと向ける。

そこには――。

 

「と、十香…」

 

そこに立っていたのは紛れもない十香だった。

雨に打たれた全身はびしょ濡れになり、走ってきたのか肩を上下させ荒く息をしている。

けど…なんで、どうして此処に…。

 

「…シオリ」

 

私の思考を遮るように、十香が声を出し、鋭い視線で私を見る。

 

「…今、何をしていた?」

 

「な、何って……」

 

私はその問いに思わず唇に触れた、けどすぐにハッとしてその手を背中に隠すようにしまう。

 

「…あれだけ心配させておいて……女とイチャコラしているとは何事かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ダンッ―!

 

十香がそう叫ぶように言うと同時に足を床に打ち付けた。

瞬間、床が十数センチほど陥没し放射状の無数の亀裂を発生させた。

 

「な…」

 

『あっちゃー、だいぶ精神状態が不安定になってるわね、精霊の力が逆流しちゃってるわよ』

 

琴里がため息交じりに言う。

そういえば令音さんがそんな事を言っていた。

 

「ど、どうしよう…」

 

『どうするもこうするも、なんとかして十香の機嫌を直しなさい』

 

「そんなこと言われても…」

 

私と琴里が会話を交わしている間に十香は私と『よしのん』の場所に着く。

そして射貫くような鋭い視線で私と『よしのん』を交互に見ると、唇を引き結ぶと私に視線を、左手でピシリと『よしのん』を指した。

 

「シオリ!お前の言っていた大事な用とは、この娘と会うことだったのか?」

 

「えと、その…」

 

確かに十香の言う通りではあるんだけど、多分はいって言っても十香には真意は伝わらないと思う。

どうしたら――。

 

『おねーさん?えぇと…』

 

今まで十香の登場にキョトンとしていた『よしのん』が十香に向けて声を出す。

気のせいだと思うけど、パペットの顔がもの凄く悪戯っぽいような笑顔になっている。

 

「十香だ」

 

『よしのん』に問われた十香は『よしのん』の方へ身体を向け、腰に両手を当て憮然とした様子で返す。

『よしのん』はそんな十香を悪戯っぽい顔で見ながら口を開いた。

 

『十香ちゃぁん。君には悪いんだけどぉ、士織ちゃんは君に飽きちゃったみたいなんだよねぇ』

 

「「な…っ」」

 

私と十香が同時に驚愕の声を出す、『よしのん』はそのまま言葉を続ける。

 

『話を聞いてると、どうやら十香ちゃんとの約束すっぽかしてよしのんのとこに来ちゃったみたいじゃない?これってもう決定的じゃない?』

 

「…っ」

 

十香が肩をぴくりと揺らす、見れば今にも泣きだしてしまいそうな顔を作っていた。

 

「よ、よしのん、何を言って―」

 

私は抗議の言葉を上げようとしたけど――十香が私の口を手で覆い遮る。

 

「シオリは少し黙っていろ」

 

十香は有無を言わせないようなプレッシャーを向けてくる。

 

「――、――!」

 

私はどうにか手を離してもらおうとするが今の十香の力には敵う筈もなかった。

そんな私たちの様子が愉快で仕方ないように、『よしのん』は言葉を続ける。

 

『やぁー、ごめんねぇ、これもよしのんが魅力的すぎるのがいけないのよねぇ。別に十香ちゃんが悪いって言ってるわけじゃないのよぅ?たーだぁー、だからと言って十香ちゃんを捨ててよしのんの元に走っちゃった士織ちゃんを責めることも出来ないってゆうかぁ』

 

「む、むがーっ!」

 

十香が遂に我慢の限界に達したのか叫び声を上げた。

 

「うるさい!黙れ黙れ黙れぇ!駄目なのだ!そんなのは駄目なのだ!」

 

十香はまるで駄々を捏ねる子供の様に手をバタバタと振りながら声を上げる。

 

『えぇー、駄目って言われてもねぇ。ほらほらぁ、士織ちゃんもはっきり言ってあげなよぅ』

 

そこまで言ってからパペットが私の方を一瞬向いた。

 

『十香ちゃんはもういらない子、って』

 

「っ!」

 

瞬間、十香は素早い動作でパペットの胸ぐらを両の手で掴み持ち上げた。

小さなパペットは、簡単に『よしのん』の手から外れ、高く持ち上げられる。

 

「……!?」

 

瞬間、『よしのん』が崩れ落ちるかのように床に座り込んでしまった。

見ると顔は蒼白になって呼吸もひどく荒くなっている。

一方の十香は両手で掴み上げたパペットに切り裂きそうなほどの鋭い視線を向け詰め寄っている。

 

「私は…っ!私は、いらない子ではない!シオリが…シオリが私に、ここに居ていいと!そう言ってくれたのだ!それ以上の愚弄は許さんぞ!」

 

十香は目元に涙を滲ませ、そう言う。

けどパペットは当然答えることは出来ない。

十香はパペットが喋っていたと思っているようで、ウサギをグラグラと揺すりながら更に問い詰める。

 

「答えろ!何とか言ったらどうだ!」

 

そんな様子を震える瞳で見ていた『よしのん』が被っていたフードを深く被り直し、立ち上がる。

そして恐る恐るといった様子で十香の服の裾を引っ張る。

 

「ぬ…。なんだ?私は今こやつと…」

 

「か…え、して…っ、くださ…っ」

 

十香が掴み上げたパペットを取ろうと両手を伸ばしてぴょんぴょんとジャンプをする。

 

(そういえばあの子のちゃんとした声を聞いたのは初めて…)

 

『何しているの士織。よしのんの精神状態まで揺らぎまくりよ。早く止めなさい!』

 

琴里の声に私は一度唾を飲み込んでから唇を開く。

 

「えっと…ねぇ、十香。その…パペット返してあげてもらえないかな…?」

 

「…!」

 

私の言葉に、十香がかっと目を見開いて、愕然とした様子を見せる。

 

「シオリ…やはり……私よりこの娘の方が…」

 

「っ…ち、ちが…」

 

十香の言葉に私が返そうとした瞬間。

 

「<氷結傀儡(ザドキエル)>…っ!」

 

<よしのん>が右手を振り上げ、そう叫ぶように言いながらその手を床へ向けて振り下ろす。

――瞬間。<よしのん>の背後の床がひび割れ、そこから突き破るように巨大なウサギが現れた。

 

「な…」

 

私と十香が驚きを隠せないでいると、<よしのん>がウサギの背中に飛び乗る。

次の瞬間、ウサギの眼が赤く煌くと同時にグゥオオォォと咆哮を響かせる。

同時にウサギの全身から真っ白い煙が噴出する。

 

「冷た…っ!?」

 

煙の冷たさに思わず身震いする、同時に琴里の叫ぶような声が響く。

 

『このタイミングで天使を顕現!?――まずいわ逃げなさい、士織!』

 

「天使って…」

 

『十香の<鏖殺公(サンダルフォン)>と同じものよ!忘れたの!?』

 

その言葉に私は驚きで眼を見開く。

天使がどんな物か分かった事と、そしてもう一つ。

さっき偶然とはいえ<よしのん>とはキスをしたのに、精霊の力が封印出来ていない事に…。

瞬間、ウサギ…<氷結傀儡(ザドキエル)>が再び咆哮を上げる。

同時にフロアの窓ガラスが甲高い音と共に割れ、砕け散り、フロアに雨粒が入ってきた。

そして雨粒がフロアに漂う煙に触れた瞬間、包丁程の大きさの鋭い氷の刃に姿を変えた。

氷の刃はフロアの商品を切り刻みながら私達の方…いや十香へと向かってきた。

 

「十香!!」

 

私は十香の名前を叫ぶのが早いか、傍らに立つ手を引っ張り、十香の身体を抱きしめるように床に身を伏せた。

その一瞬後に十香の立っていた場所に無数の氷の刃が突き刺さった。

私は十香を抱きしめたまま顔を<よしのん>と<氷結傀儡(ザドキエル)>の方へと向けた。

<氷結傀儡(ザドキエル)>は身を翻すと巨大な体とは裏腹に、身軽な動きでさっきまで十香が居た場所を通り抜け、割れた窓から外へと飛び出していった。

<氷結傀儡(ザドキエル)>が飛び出すと同時に、無数の銃声や爆発音が鳴り響いていたが、それも暫くすると鳴り止んだ。

私は息を吐き、唇を開く。

 

「助かった…のかな…」

 

『ええ…反応は完全に消失したわ。ASTも引き上げるみたいね。にしても…なかなか無茶するわね、士織』

 

私の呟きに琴里がホッしたような、呆れたような声で返してくる。

私はもう一度息を吐いてから、抱きしめたままの十香を見る。

 

「怪我はない、十香?」

 

「いいから早く離さんかっ…!」

 

十香はそう言いながら私の胸を押し、離れた。

十香は頬を赤くさせ、駄々っ子みたいな表情を作りながら立ち上がる。

 

「十香…?」

 

私は十香に向けて手を伸ばす。

けど――。

 

「…っ!触るなっ!」

 

「いた…っ」

 

伸ばした手は十香の振り払うような手で弾かれた。

私が手を引っ込めるのを見た十香は一瞬ハッとして悲しそうな顔を作る。

けどすぐに「むむむ…」とうなり声を上げると顔を背けてしまう。

 

「十香…あの…」

 

「うるさいっ!話しかけるな!どうせシオリは、私よりあの娘の方が大事なのだろう…っ!」

 

「な…っ、何を言って…」

 

私が呆気にとられたような声を出すと、十香は苛立たしそうに地団太を踏んだ。

その度にフロアの床に亀裂が走って、陥没していく。

 

「きゃっ…!?」

 

十香は私を一瞥した後、肩を怒らせながらフロアの出口へと歩いていく。

 

「十香……」

 

私はその後ろ姿を見送る事しか出来なかった。

 




予定を守らないことに定評のある才華さんです。

いや、その、卒業にかかるレポートやら制作やら、内定先に提出するレポートやらなんやらで進まなかったのです…ハイ(電柱に向かって言い訳)

基本的に不定期更新です。
ただまぁ、2~3月はお休みも多いので2話位投稿できるかもみたいな感じではあります(予定は予定)

ではでは
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