東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode11:急転

 

「……誰だか知らないけど、邪魔しないでくれます?」

 

 アリサが不機嫌そうに言い放つと、彼女の前で部下たちが隊列を組んだ。

 

 しかし7つの銃口を向けられた喰種は動じることなく、毅然と言い放つ。

 

「それは出来ない」

 

「そうですか……んじゃ、死んでください」

 

 それを合図に男たちが一斉に発砲した次の瞬間、凄まじい爆音と共に地面が激しく震えた。

 

「んな――ッ!」

 

 咄嗟に後退ったアリサの目に飛び込んできたのは、砕け散ったコンテナとよろける護衛たちの姿。驚きと恐怖が入り混じり、混乱が広がっていく。

 

 彼女はここにきて、目の前の喰種が只者でないと悟る。

 

「アリサさん――」

 

 部下の一人が情けない声を出す。目の前の得体の知れない喰種に怯えているのだ。

 

「こっちは20人、敵はたった一人! さっさとヤっちゃって下さい!」

 

 アリサの声に我を取り戻したのか、護衛たちのマシンガンが一斉に火を噴く。激しい弾丸が喰種に浴びせられ、火花を散らす――。

 

 だが、それだけだった。彼らの全弾を投入した攻撃も、傷一つ付けられない。

 

 ありえない――とアリサは思った。

 

(部下の銃には新型Qバレット『ピースメーカー』を装填させてある。たとえSレートの喰種であろうと、『ピースメーカー』の集中砲火を食らえばタダじゃすまないはず……)

 

 アリサたち『喰種解放軍』に所属する喰種は、そのほとんどがAレートにも満たない“並み”の喰種だ。

 

 にもかかわらず『喰種解放軍』が規模を拡大できたのは、その組織力と人員数、資金力もさることながら、「銃」という武器を嚇子に代わる主武装としたことも大きい。「アオギリの樹」といった強力な喰種グループと対抗する上で、こうした武装面での改良は大きな役割を果たした。

 

 生身で勝てないのなら、強力な武器で武装すればいい―――別に珍しくもない、弱者の発想だ。人間でしかない喰種捜査官が、クインケという武器で喰種に対抗するのと同じ理屈である。

 

 その思想の集大成が、アリサのもたらした新型Qバレット『ピースメーカー』だった。

 

 銃はクインケなどよりはるかに取り扱いが簡便で習熟が早く、誰でも一定の力を発揮する。アリサは既存のQバレットをさらに改良することで、Sレート喰種にも対抗できる武器を作り上げた。

 

 

(……だというのに、どうして効かないんですか!? おかしいです!)

 

 想定外の事態に、歯ぎしりするアリサ。

 

 まず最初に考えたのは、敵が強力な甲嚇だという可能性だ。Qバレットは飛び道具である銃を使う特性上、羽嚇を使用している。そして嚇子の相性において、甲嚇とは相性が悪かった。

 

 それなら――。

 

「銃はやめ! 嚇子使って!」

 

 アリサの指示に従い、部下たちは銃を捨てて各々の嚇子を展開する。

 

「死ね!」

 

 喰種の一人が飛びかかるも、次の瞬間にはコンテナに叩きつけられていた。目にも留まらぬ速さで投げられた衝撃で喰種はコンテナにめり込み、赫子は原型が分からないほど圧縮されていた。

 

「ぐあぁ!」

 

 続いて悲鳴と共に、別の部下が体を腹を抑えたまま膝をつく。謎の喰種はあまりにも動きが素早く、まるで瞬間移動でもしているかのようだった。

 

「くそっ、どこだ!出てこい!」

 

「ふざけやがって!野郎、ぶっ殺してやる!」

 

 アリサの部下は右へ左へ嚇子を振り回しながら、口々に叫ぶ。しかし手当たり次第に周囲のものを嚇子で破壊したところで、自分より遥かに格上の相手を捉えることは出来ない。

 

「ぐはぁ――ッ!」

 

 また一人、部下が悲鳴と共に崩れ落ちた。何者かは知らないが、このままでは全滅するのが目に見えている。

 

「目を閉じて!」

 

 アリサはそう叫ぶと、閃光手りゅう弾を取り出し、すぐ目の前に放り投げた。ボンッという破裂音と共に、白い光が広がる。瞼を閉じていても強烈な光が入り込んできて、すぐに目を開けることは出来ない。

 

 だが、アリサにはまだ手札が残っていた。

 

「――狙撃班!」

 

 彼女がインカム越しに叫ぶと同時に、やや離れた場所にいた喰種が対物狙撃ライフルの引き金を引く。

 

「―――っ!」

 

 初めて、謎の喰種からくぐもった声が漏れた。いくら喰種といえども、50口径級の大口径Qバレットを当てられればタダでは済まない。

 

「足を狙って!」

 

 アリサはぼやけた視界のまま、続けざまに指示を飛ばす。

 

 足を撃てば、動きを封じることが出来るはず。後は数の差を利用して押し潰せばいい。

 

 と、次の瞬間、謎の喰種の巨体が宙を舞った。両肩から突き出た嚇子で地面をけり上げるようにして、その反動でジャンプしたのだ。

 

 ――しまった!

 

 アリサがそう思った時には遅かった。謎の喰種の両肩から、嚇子がマシンガンのように放たれる。アリサの部下たちはノーマークだった上空からの斉射によって、為すすべもなく薙ぎ倒されていく。

 

(羽嚇!?)

 

 

 部下たちがあっさりと無力化されるのを、アリサは信じられない思いで眺めていた。

 

(嘘……何なんですか、アイツは!)

 

 部下たちに命令を下した後、アリサ本人はさっさと距離をとっていたが、その判断は正解だったようだ。もしあのまま留まっていたら、間違いなく自分もやられていただろう。

 

 ちらり、と後ろを振り返る。

 

 残っている部下は5人。後は気絶している真戸呉緒と、人質になっている真戸暁、それに喰種の少女だ。

 

「やば……」

 

 アリサの額に汗が浮かぶ。

 

 どうして新型Qバレットが効かないのか、今の戦闘でその理由が分かった。

 

(こいつ、単純にめちゃくちゃ強いじゃないですか……!?)

 

 新型Qバレットで対抗できるのはSレートまで。それ以上の喰種と遭遇することは滅多にないため、ほとんどの場合において「喰種解放軍」は武器の性能と人員数で勝利してきた。

 

 が、目の前にそれを覆す存在がいる。SSレートか、下手をするとSSSレート。正真正銘のバケモノだ。

 

(とにかく、急いで逃げないと……)

 

 アリサが部下を捨て駒にしてどう逃げようか考えていると、背後から声がした。

 

 

「――そこまでだ。部下をこれ以上失うわけにはいかんのでな」

 

 

 そこに現れたのは清水だった。その姿を見て、異形の喰種がわずかに反応する。

 

「久しいな、会うのは10年ぶりくらいか」

 

 自身より遥に強大な相手に向けて、しかし清水は臆することなく堂々と歩を進める。そして、いともあっさりと相手の名を口にした。

 

「芳村店長―――それとも、『梟』とでも呼べばいいか?」

   

 




 弱い喰種は自分の嚇子で戦うより、捜査官には銃を、喰種にはクインケで対抗した方が効率的なんじゃと思ってみたり。

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